異世界転生の被害者
中川葉子
トラック乗り
「夜の国道でガキを轢いちまったんだよ。俺はよ。睡眠不足でもない。酒も飲んでない。幻覚が見える状況じゃねえんだよ」
会社の喫煙所で、仲間に俺は言う。仲間たちは口々に「俺はピンクの象が走ってた」とか、「戦国武将がタップダンスしてた」だとか、「僕は五メートルの蟻いましたよ」とか、遊び始める。
「ちげえんだよ。あれは確かにいた。血もついてた。ちょっと凹んでたよ。でもよ、ガキがいねえんだよ」
先輩に手を合わせ、セブンスターを一本貰い、吸う。
「目撃者もいるんだよ。なのに轢いた後に、ガキが消えてんだ。あれはよ、狐か? 狸か? 俺は化かされたのか? 人がいる国道沿いに狸とか狐はいるのかよ」
手を合わせ、後輩のマイルドセブンを一本抜き取る。動揺しすぎているのか、俺の煙草は二箱吸い切ってしまっていた。
「なんでガキってわかんの? ガン見しながら轢いた?」
先輩が少し怒鳴るように俺に問う。俺は、身体を震わせながら、答える。
「轢いたやつが。光って、空飛んで、俺を見て笑いながら、何か口をパクパク動かしてから、消えたんで。あいつはガキです」
「お前、一回休め。言ってることがおかしいんだよ」
「ちょっと係長のところに頼んできます」
哀れむような顔で、係長は有休を認めてくれた。家に帰り、暗い部屋で酒を何本も連続で一気に飲んだ。いつのまにか意識が飛んでいた。
「トラックに轢かれなければ、世界が救われないのです」
神々しさを感じる女性の声を聞き、俺は飛び起きた。何が起こっているかわからないが、あのガキがさっきの女と話していたのかもしれないと思った。が、意味のないことだ。わからないことを考えても仕方がない。発泡酒をまた一本煽った。
異世界転生の被害者 中川葉子 @tyusensiva
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