直接10連ガチャが主要産業の村

お望月さん

青いタライとスイカとラムネ瓶

玄関を開けると、そこに玄関があった。

4年ぶりに帰省した母の実家は、相変わらずの二重玄関。

風除室の引き戸を引き戸を締めるカラカラとした音が、僕を小学六年生の夏に引き戻していた。


「良く帰ってきたな久志」


「じいちゃん!元気そうだね」


「久志も元気そうでなによりじゃ」


「ばあちゃんは?」


「ああ、裏の畑に出ておる。もうすぐ帰ってくるじゃろう」


夜行バスと3時間の鈍行を乗り継いだ僕を日に焼けたランニング姿のおじいちゃんが出迎えてくれる。中庭の青いタライの中では、スイカとラムネ瓶が夏の日差しを受けて輝いている。リュックサックを客室に置いて居間に戻ると、すでに帰ってきたばあちゃんがスイカを切り分けて僕を待っていてくれた。


「ケ、スイカ、ケ(よく帰ってきたね、スイカを食べなよ)」

「ばあちゃん!」


ばあちゃんの言葉は訛りが強すぎてよく聞き取れないが、なんとなくわかる。

ぼくは扇風機の風を浴びながら、スイカをほおばり、サイダーで流し込んだ。


存在しないスイカの香りカブトムシのにおいが鼻孔をくすぐる。

ぼくは笑顔で元気よく、二枚目の引き戸を開けた。



「ただいま!」


「ナンダオメエ」


「わあ極道(LV50)だ」


ボグッ


「Peッ チンピラ ガヨ」


ぼくは「久志 LV1 所持金 0」になった。

1年前に村の主要産業が直接10連ガチャになってから、ずっとこの調子だ。

作りすぎた極道を処分することもできず、放っておいたら共食いをしてレベルを上げて村を支配してしまった。


「うう~~実家もなくなって一文なしだ~」


「ウウ……ケ、ケ、ケ(こっちへきて、たすけて)」


「あっ ババが鈍行列車の前に縛られている」




たすける 《みすてる》





《たすける》 みすてる





たすける 《みすてる》






《たすける》 みすてる






もちろん《 》!!





「ババ、ダイジョブカ」


「久志チャン、ケ、直接10連ガチャ、ケ(これ、お礼の直接10連ガチャ、もらって)」


「ババを助けたら直接10連ガチャもらった」



★★★★★ラムネ瓶 x500!



★★★★★LV50スイカ!



★★★★★相続税5000万!



★★★★★品川→町役場直通の深夜バス!



★★★★★ランニングシャツ!



★★★★★先祖伝来の青龍刀!




「ウォオーーーー!!じいちゃんのカタキ!!」


「ナンダオメエ!?」


「直接10連ガチャでジジのカタキを討ったぞ!!」


「ケ、ケ、ケ(爆笑)」


「やった、ばあちゃんが笑ってくれた!これで全サーバー1位だ!」


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