攻略レベル10 「アイドル」II
一宮彩乃失踪事件が全国に報道されて丸一日が経った。警察が捜査区域を東京全土に広げるも未だに事態は進展する動きをみせず、多くの者が単なる失踪ではなく何者かによる誘拐の可能性を疑い始めていた。
そんな中SNSでは彼女の捜索を自主的に行おうとするファン達が名乗りをあげ、”一宮彩乃捜索隊”なるものが発起していた。
これに興味を示したネット界隈の人間は賛否両論様々な意見を抱え、その討論は社会問題に発展するまで規模が拡大されていた。
“今日も捜索隊が渋谷駅にいたwめっちゃ俺の顔覗いてきたわ”
“それ交差点にもいたで。一宮彩乃を返せ!!って連呼してた”
“マジ超迷惑やん。てか非公式っしょ?警察何してんの。仕事しろよ”
“警察もそれどころやないんやろ。実際警官も朝の登校中見かけたし”
“てかオタクの奴ら下心見え透いてて草。見つけて助けたら好きになってくれるとでも思ってんのかね”
“案外犯人オタク説な!今頃彩乃監禁してパコパコしてんじゃね!?”
“その可能性もあるわな。でもどこにいるんだろうなほんとに。警察フル稼働でなんの手がかりも得られんとか完全犯罪すぎんか”
こうした様々な憶測が飛び交うのは何もネットの中だけではない。一宮彩乃が通う玉川高校においても彼女の所在を気にする者は多かった。
学校内にて結成されていた一宮親衛隊の姿は見る影もなく、確実に捜索隊の一員となって彼女を探していることが明らかだった。
教員連中も記者の対応やメディアからの問い合わせに追われているのか、昨日今日はI限から6限まで永遠自習。むしろこれなら登校停止にした方がいいのではないかと思う。
「てかマジ減ったよな生徒数。親衛隊がいなくなるだけでこんなに静かになるのかよこの学校」
共に数学の自習を進めていた森田が計算問題を解きながらそんな言葉を呟いた。
「聞けば400人いる男子生徒のうち100人以上がそれらしい。男子が極端に減って見えるわけだな」
先ほど女子が廊下で話していた内容を耳にしたものをそのままリピートして彼に伝えると俺は黙々と目の前の課題に没頭した。
「お前はいいのかよ桐谷。追っかけ中なんだろ?」
追っかけか。ん?そういえば一宮が行方不明になる直前に俺は気持ち悪いストーカーとして噂になったんだっけ。
‥‥おい待て、いやな予感しかしないな。
そんな不穏な予感を頭に過らせていると、自習の静寂を切り裂くように突然教室の扉が開かれた。
「桐谷京太。いるか?」
入ってきたのは担任の若山だった。事件による疲労なのか目の下には真っ黒いクマをつけて何故か俺の座る席へ向けて視線を飛ばしていた。当然名指ししているのだからこっちを見ていて当たり前なのだが、果たして何の用だろうか?一旦嫌な予感を頭から掻き消すと先生の方へ向き直った。
「はい先生。何の用でしょうか?」
「お前に聞きたいことがある。自習はいいから私についてきなさい」
有無を言わさない物言い。圧迫感すら与える言い方に周囲にいたクラスの連中がざわつくも、俺は言われた通りに席を立ち教室から出ていく若山の後を追った。
/
授業が行われていないためかいつも騒がしかった廊下はまるで別世界のように静まり返っている。聞こえるのは俺たちが鳴らす靴音のみだった。
少し前を歩く若山は振り返ることなく、俺に話しかけてくる。
「邪魔したようだが、森田とは仲がいいのか?」
「え?あぁ、はい」
不意的に飛び出た質問は意外に呆気ないもので警戒していた俺を拍子抜けさせた。
連れてこられた理由も思ったより重いものではないのかと安堵していたその時、ここからが本題と言わんばかりに若山は声のトーンを下げる。
「2人は共通の趣味で仲を深めたという感じかな。例えばアイドルとか」
あぁなるほど。そう来たか。
「彼と仲良くなった理由は単に気が合うというだけでそれ以外の理由はありません」
詮索を仕掛けてきているのが丸見えだ。もう少し違う聞き方があっただろうに。
軽くあしらうように彼女が求めている言葉を避けながら返事を返すと若山は続けて質問する。
「だがアイドルに関して興味がないわけではないだろう?少し前まで校内でちょっとした噂が流れていたはずだ」
「噂ですか。聞いても?」
「もちろん。桐谷京太は一宮彩乃に恋愛感情を抱いておりストーカー紛いのような行動を取っている。単独直入に聞くが彼女の失踪と何か関係はあるかな」
嫌な予感は的中したようだ。どうやら学校は俺を彼女行方不明事件に深く関わっている重要人物として認識しているらしい。
まぁ不審な行動を取った俺の自業自得だが、どうやって誤解を解こうか。
「そんな噂が流れてるんですね。知りませんでした」
「あくまでしらを切ると?」
「学校で一宮を女性として見ない男子生徒はいないでしょうし僕もその1人です。可愛い女子がいたら無意識に目で追ってしまうのは男の性なんですよ」
「つまり邪な考えがあって彼女を見ていたのではなく、あくまで整理現象であると言うのか」
邪な考えがなかったわけじゃない。ぶっちゃけ一刻も早く仲良くなりたいと思っていたわけだしな。ただ今回のような強引な作戦を考えていたわけじゃない。
どんな考えがあったとしても監禁や束縛による女性の支配はあっていいはずがない。
それよりも学校が俺に目星をつけた件。やはり学校内部の男子生徒による犯行が高いと判断したのか。どうやらこの攻略は彼女を探すよりも先に犯人を探した方が手っ取り早いようだ。
とりあえず厄介な相手じゃないことを祈ろう。
初めての彼女を目の前で寝取られたので◯殺したら死神と契約したので間男共をこの世から駆逐します タルタルハムスター @kiiita
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