攻略レベル10 「アイドル」I
学校という学生たちにより築き上げられた社会には明確なカースト制度が存在している。強豪校の野球部のように一軍二軍三軍と名付け出す者も少なくない。
カーストが一体何によって決定されるのか色々と議論の余地があると思うが、容姿や顔そしてコミュニケーション能力に秀でている者は満遍なく上位に位置している断言していいだろう。
さて、何故俺がいきなりこんな話をしたのかというとそれは今回のターゲット攻略においてカーストの存在は深く関わってくるからだ。今や学園だけでなく全国的にも知名度が高いアイドルグループセンターの彼女は当然カーストはトップクラス。他を寄せ付けない顔やスタイルを持っていても驕らず、誰にでも分け隔てなく接する彼女のことを学校内で嫌う者などいない。それどころかアイドルという禁断の垣根を超えて恋愛感情を抱いて近づく輩も多いはずだ。故に彼女と親しい友人にでもならない限り近付くことなど現状許されない。
聞けば一宮親衛隊などという彼女を不埒なものから守る防衛組織すら出来上がっているらしく、校内において彼女の守りは鉄壁と言えるだろう。
到底、カーストが上位でもなければ恵まれた顔や容姿を持っていない俺にどうこうできる問題ではない。まさにレベル10。難攻不落のクエストが発生したもんだ。
それでもリストに載っている以上危険が迫っているのは確か。今すぐ何かアクションを起こせるわけではないが彼女の動きには注目しておくとしよう。
そうして俺は教室の片隅から図書館で借りた本を机に開き、読書をしているフリをしながら彼女のことを観察していると1つの問題が発生した。
「桐谷。一宮さんから不審がられてるぜ?いつも遠くからお前の視線を感じるから怖いってよ」
太陽が沈み空の色が褐色に染まった放課後。俺にそう告げ口してきたのは同じクラスの森田だった。彼は学校にいる数少ない友人の1人で、俺とは違いテニス部に入っているからかよく学校内で広まっている情報を提供してくれる。
まぁ、こんなショッキングな情報は今日が初めてなんだけどな。
「‥‥その情報源はどこからかな森田君。詳しい説明を求めたい」
「いや普通に学校中で広まってるやつだからこれ。てか否定しないのな。まさかとは思ったけどお前って」
「変態じゃないから!!」
「いや100%変態よ。話したことない男子から見られるって女子からしたらこれ以上ない恐怖だろうが」
俺の否定も筋が通った彼の反論により看破された。どうやら俺はこの学校においてカースト最下位の変態の称号を与えられたらしい。
「まぁあの子に恋愛感情を抱くのはわかるけどよ。下手は言わないから辞めとけって。ただの一般生徒ならまだしもアレは国民中から愛されてるアイドル様だ。今はまだ校内で留めているからいいが、これが全国に広まってみろよ。一宮の熱狂的なファンから刺されるぞガチで」
ぐうの音が出ないほどのど正論。もし俺が彼女に恋愛感情をを抱いていたとしたら確かに森田の言うよな破滅の未来が待っているだろう。
だが近い将来、破滅するのは俺ではなく彼女なのだ。それを口で言ったところで森田には信用されないし、一宮に言えばより不審がられてこの変態風潮を加速させるだけだ。
「本当にどうすればいいんだろうな。いつも情報収集をアイツらに任せてたツケがここに回ってきたか」
と、森田には当然理解できない独り言を呟くとその場で机に突っ伏した。
「何考えてんのかしらねぇけどまぁ頑張れよ。もし死んだら花ぐらい手向けてやらぁ」
そう言って彼は頭を抱えて悩む俺を教室に残して手を振りながら去って行った。
「はぁ。本当にどうするか」
寝取られ完了まで残り25日程度。猶予があるように感じる日数だが彼女と接点が作れていなければ、関係を迫ろうとしている男を把握していない今の現状は非常に不味い。
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そんな京太を悩ませていく状況の中、バッドエンドへ近づかんとする死の針は刻一刻とタイムリミットへ向けて刻まれていた。
場所は変わって東京都港区赤坂。一宮彩乃が所属するアイドルグループ”CITRUS”の事務所が所在している。そこではアイドルの卵から一流アイドルを抱え、全国各地からこのシトラスに所属しようと毎年8万人以上が集まってくる。
そしてシトラスはアイドルを目指す者なら誰しもが憧れる実力派グループ。総勢100名によって構成され、ステージに立つことができるのは僅か11名。その狭き門を潜り抜け、レギュラーを掴み取ることすら栄誉と言われるメンバーの中で他を寄せ付けない絶対的エースの存在がいた。
「はーい!彩乃さんおっけーでーす!これでドラマのクランクアップとなります!みなさんお疲れ様でした!」
スタジオ内で溢れ返った拍手を浴びながら、彼女は額に漏れた汗をタオルで拭うと監督の元へと歩み寄った。
「鈴木監督お疲れ様でした。おかげでお芝居の勉強もできましたし女優業の方も益々頑張っていけそうです。本当にありがとうございました!」
「いやいやいや。一宮ちゃんのおかげで今回もいいのが撮れたよ。視聴率も今んとこいい感じらしいし。また映画作る時あったら是非来てちょうだいね?」
差し出された手汗で塗れの監督の右手を躊躇なく握りしめると、一宮は笑って「喜んで!」と答えてみせた。
撮影の仕事は終わり、更衣室でドラマの共演者たちがそれぞれ帰り支度を済ましていると隣のロッカーを使っていた同じアイドルグループの佐伯が話しかけてきた。
「彩乃よく監督の手握れたね。私だったらそれとなーく断っちゃうな」
「それでもあの監督さんは他の候補が沢山いる中私を起用してくれた人だよ。期待を込められたのなら精一杯の誠意を持ってお返ししなきゃね」
「うげーっ」と舌を出して彩乃の発言を軽く否定する。その態度に彩乃は佐伯らしいなと思い苦笑いを浮かべた。
シトラスは全員が全員同じ方向性を持って活動しているわけではないため、メンバーの性格や価値観は多種多様なことが多い。
「そういえばさ彩乃。なんかストーカーされてんだって?マネに相談してたじゃん。あれなに」
紫色の下着の上にTシャツを被ると、不意打ちざまにそんな質問を投げかけた。
「えーっとね。クラスの男の子が授業中の時も、下校する時もいつも私のところ見てくるんだよね。ただ私の自意識過剰かなって思ったけどそういうわけでもないらしくて」
「は?なにそれ、きっしょ。いるよねーそういう男。絶対そいつ童貞だわ。ろくに女子と絡んだことないからついつい可愛い子を目で追っちゃうやつ。まぁ彩乃Fあるしそれも原因なんだろうけど?」
ニヤニヤと一宮の胸に視線を送ると、普段温厚な彼女からは想像つかない平手が佐伯の後頭部を直撃した。
「痛ったた‥‥ごめんって!」
「もうっ!!——————って、あれ?」
不機嫌そうに鞄の中からとある物を取り出そうと手を突っ込むもそれがないことに気づく。
「どしたん?」
「おっかしいな。スタジオに置いてきちゃったかな。ごめん瑞樹先帰ってて!」
佐伯の返事を待つことなく更衣室を飛び出した一宮はエレベーターを使わずして階段を登り、8階にあるスタジオへと向けて走り出した。
「‥‥‥‥」
その日の翌日。とあるニュースが新聞の一面を占めて日本全国を駆け巡った。
大人気アイドルグループ”一宮彩乃、行方不明”
事務所は現在も尚、彼女が居る場所を特定することができず警察は現在捜査を続けているとのこと。
寝取られ完了まであと”25日”
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