攻略レベル??? 3名の被害者

 死神より試練を与えられたから3日が経過した。その日の夜に従属を集めて作戦会議を決行した俺たちはそれぞれに分担した役割を遂行すべく既に動き始めている。

 今回餌食となる対象は俺の周りにいる女性で、妹を含めて全員の顔を俺は知っている。死神から渡されたリストには3名の女性が記載されていた。順に整理していきたいと思う。


 まず1人目。名前は杉咲さより、年齢は32歳。家がうちの隣でよく母親と井戸端会議を開いている。結婚もしていて8歳離れた旦那と6歳の息子が1人。

 こちらから見ても仲のいい家族という印象だが死神のリストには無慈悲にもその名前が刻まれている。当然誰が彼女を誘惑し堕とすのか検討皆目つかないため本来なら手放したい案件だがそれでは旦那の方が報われない。

 何より死神に想像を超える結果を見せてやると大見栄を切ったのだ。リストにいる全員の女性を守るくらいしなければ奴に鼻で笑われるだろう。


 この件はイヌとトラの2人体制で監視と調査を行ってもらい俺は静観したいと思う。期間は約1ヶ月だ。悠長にもしてられないが後の2つに比べればだいぶ難易度自体は低い。リストにも攻略レベル2と桜坂綾乃の一件に比べて1つしか変わらない。ウサギに比べれば劣るが喧嘩沙汰になってもあの2人なら心配ないだろう。


 再びリストへと視線を向けるも俺は舌を打たずにはいられなかった。


「問題はこの2人だな」


 杉咲ひよりの下に記載された寝取られ対象の人物。それは俺と同じくして玉川高校2年3組に在籍している生徒、一宮彩乃だ。ただの女子生徒であるのなら話は簡単なのだが、そうじゃないから攻略レベルが跳ね上がる。

 

 攻略レベル10 「アイドル」 


 俺の妹が攻略レベル5に対してのこの難易度。どう考えても死神の嫌がらせとしか考えられない。攻略レベルの高さはそのまま与えられるdpのポイント量に比例する。レベルが1つ上がることに対してその差は約2倍。死神はおそらく大量のdpと妹の純潔を天秤にかけて悩む俺の姿を期待しているのだろうが冗談じゃない。

 妹を助けずして俺がそんなエサに食いつくとでも思ったかよ。


 だが実際レベル5でさえ未知数の俺にとって3人を同時進行して助けるのは不安がある。だからこそ俺はあの日、作戦会議の日に俺は妹にワンツーマンでつかせてくれと皆んなに言うつもりだった。

 

 ウサギがあんなことを言わなければな。


 ‥‥いや思い出していても仕方がない。不安ではあるが一度ウサギを信用すると決めたんだ。俺は俺の役目を全うしよう。

 あいつの言う通りレベル10を1人で担当して攻略できるのはうちの中では俺しかいない。気合い入れていこうか。


「よし!」


 今が早朝の満員電車であると言うことを忘れ、思いっきり声を張り上げてしまう。当然通勤で苛立ちMAXのサラリーマンたちにとってはこれ以上ないストレス。

 スーツで赤いネクタイを締めた黒縁眼鏡の男にグシャリと足を踏まれると、俺はその痛みに顔を歪ませた。




 うちの学校は朝のホームルームが遅い。今時9時半に始まるところは少ないのではないだろうか。そのため当然昼ごはんの時間も13時半からと遅くなるので朝ごはんを食べてこない勢にとっては地獄だろう。

 それが理由なのかわからないがうちの購買は昼食になった瞬間、そこは戦場と化す。


 焼きそばパンやカレーパン、ホットドッグなど惣菜系のカテゴリーはあらかた買い占められ、残るのは大抵税込98円の塩パンである。いくら安いからとはいえお昼に塩パンはどうかと思うのだが、この戦場に立つ覚悟がないものはそれをしゃぶるしかないのだ。俺もその1人で、今日も300円を片手に購買へと向かい塩パンを3個購入した。朝忙しくて母さんが弁当を作れなかった日はこれが俺のルーティンとなる。

 

「仕方ない。いつもの場所でさっさと平らげるとするか」


 いつもの場所。それは誰にも昼食のひとときを邪魔されず1人の時間を優雅に過ごせることができる場所。

 学校という公共施設においてそんな場所は限られている。


 そう、それは!


「This is 屋上!!」


 屋上へと通じる扉を開けるとそこに待っていたのは俺の全身を吹き抜ける爽やかなそよ風。4階建ての景色から見える絶景の前では塩パンも銀座の名店のパン屋のものではないかと疑うほどに味が向上する。

 あとは片手に牛乳‥‥いやコーヒーがあれば最高なんだが文句は言うまい。現状でも十分満足さ。


 皆が外でガヤガヤと騒ぎ立てる中、塩パン最後の一欠片を口へと放り込むと、俺は早速この先の方針を立てることにした。

 人妻の攻略はイヌとトラに、妹の攻略はウサギに一任したからには俺も着実にアイドルの攻略を進めていきたい。まず1番の課題は彼女への接触方法だ。一宮彩乃は確かうちの学校に滅多に登校しない。それはもちろん不登校といった問題ではなくアイドルの活動を優先しているからだ。俺独自の調べでは恐らく3日に1回、多くて1週間に1回くらいの頻度。

 それに合わしていたら期限の1ヶ月なんてあっという間だ。それどころか彼女を狙う犯人を見つけられずしてバッドエンドなんていうシナリオも現段階では十分可能性がある。


 どうにかできないものかと悩んでいると先ほどからガヤガヤと校門近くが騒がしいことに気がついた。先ほどから賑わっていたのは気がついていたが何をそんなに集まっているんだ?駅前のたこ焼き屋でもキッチンカーで来たのだろうか。   

 俺がこの人だかりの原因を見つけようと呑気にあくびをしながら視点をあちらこちらに移動させていると1つ黒塗りされた通常の乗用車の2倍はある大きさの車が校門前に停車した。


 その瞬間、頭に過ったのは僅かだが期待せずにはいられない可能性。スーツの男が運転席から降りて後部座席のドアを開けると俺の鼓動は徐々に速くなるにつれてついには頬を緩ませた。

 周りを取り囲む女子高生とはかけ離れた別格のスタイルに、芸能人特有の人を惹きつけるオーラ。一歩一歩、歩くたびに起こる歓声を浴びながら彼女は手を振って彼らに応えている。こんな芸当ができるのはこの学校で1人しかいない。


 無意識に漏れ出す闇をその場で全身に纏うと、その赤い瞳に彼女を映し出した。


「一宮彩乃。まさかこんなに早く会えるとはな。これまた必然な運命というやつか」


 

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