攻略レベル??? 新たな従属達

 死神から試練を与えられた夜。俺は各地に散らばる従属達を招集した。目的は勿論果那に迫り来るクソ男から身を守ること。いや駆逐することにある。


「悪いなお前たち。このような夜更けに我が屋敷へ招いたことをまずは詫びさせてほしい」


 俺の力を従属に分け与えることで使用可能となる召喚魔法。それはいかなる場所にいても俺の合図一つで強制集合がかかる相手にとってはこの上なくウザい魔法である。

 ウサギを含めた従属たちにもそれぞれの人生があり家族がいる。不都合な時ほどいくらでもあるはずだがコイツらは俺が召集をかけた瞬間”了承”の思念を伝達させてくる。怖いほどに忠実だ。


「とんでもございませんハデス様。私は既にハデス様へ永遠の忠誠を誓っています。以下ような理由があろうとも貴方様の要請には応えますよ」


 跪きながら最初に忠誠を口に唱えたのは俺が一番最初に力を与えた最も信頼を置いているウサギ。先日も彼女の活躍のおかげで依頼を達成できたと言える。


「そうか迷惑をかけるなウサギ。今回の一件を終えたらお前には一度休みの機会を与えねばならないな」

 

 感謝の意を込めてウサギの頭を撫でると頬を朱色に染め「フヘヘ」と声を出して喜んだ。彼女の可愛らしい声色に笑みを浮かべると、ふんわりとした金木犀の柔和な甘い匂いが鼻をくすぐった。

 きっと寝る前に浴びたシャンプーの匂いだろう。人間離れした異常な身体能力を見て忘れていたが、彼女も俺と同じ高校生、いわばJKだ。こういう一面を見ると少しだけ安心できる。


「イチャイチャしているところ悪いけどさ。さっさと俺たちを呼んだ理由聞かせてくれないか。もう眠くて眠くて。汐ねぇもそうだよね?」


「そうは言わないのタク‥‥トラ。ウサギさんは前回の依頼で活躍したらしいもの。少しくらいのご褒美があっていいじゃない。それにコードネームで呼んでくれるかしら。私にはハデス様より与えられたイヌという名前があるのだから」


 俺とウサギが作り上げていた2人だけの世界に踏み込んできたのはウサギより後に従属となったトラとイヌ。2人はウサギほどハデスに心酔しているわけではないが、強い信頼と忠誠心は俺に預けられている。

 ちなみにトラは男子中学生の最年少従属で、イヌは女子高校生。ウサギと同じ俺より1つ下の高校1年生である。


「すまない。それよりお前達もよく来てくれたな。感謝するぞ」


 玉座————という名の勉強椅子に腰掛けると俺は指を鳴らした。それは闇夜の密会が始まる合図。ウサギと同じようにイヌとトラも片膝を地面につけて頭を下げた。


「よし。それでは死神より与えられた試練をお前達に言い渡す」

 


 今回の試練を噛み砕いて説明していると3人は姿勢を崩すことなく真剣に俺の話へ耳を傾けている。本当は書面化して要約したものを見せたかったのだが、事は早急を要するゆえ口伝えとなってしまった。しかし3人は情報を処理する能力が決して乏しいわけではないため苦することなく情報は伝達された。


「なるほどな。つまりアンタの妹が知らん男に襲われるからそれを未然に防ぐことが今回の依頼ってことね。にしてもお節介な奴なんだな死神って奴も。わざわざ身内にかかる災いを予告してくれるなんてよ」


 イヌが言いたいこともよくわかる。遠回しにこの情報は本当に確かなものなのか疑っているのだ。俺も最初は死神の話を鵜呑みにしていいのか一考したが、万が一に情報が正確で魔の手が既に妹に迫っているのだとしたら黙っているわけにはいかない。 

 と、表面的な理由はこんな感じなのだがあくまで俺が今回の情報が誤りであっても信じてみようと確信した理由は別にある。


「忘れたのイヌ。ハデス様は転生される前は私たちと同じく壮絶な過去を経験されていることを。それを考えたら今回の話は必然的に乗るしかないのよ」


 息と一緒に漏れたようなか細い声をその場で発するとイヌは俺に申し訳なさそうにして唇を噛んだ。

 ハデスの過去は契約したその日に本人自身から明かされている。そして今行われようとしていることも過去への復讐のためだとイヌとトラは理解している。 

 当然そのためハデスが成そうとしていることに対する覚悟はできていた。


「そうだな。俺は過去に妹を目の前で犯されている。それを見て阿鼻叫喚する俺とは反対に恍惚の表情を浮かばせて男のブツを要求する妹の姿をこの目でな」

 

 あの日以来俺は性欲による他人の懐柔ができるということを思い知らされた。純真無垢で誰よりも努力家で真面目なアイツが目の前で喘ぎ声を漏らしながら自分の未来を自ら侮辱し、赤の他人を受け入れる行為を喜んで肯定する姿を見ては確信せずにはいられなかった。

 もう、あの日のような地獄を味わいたくはない。転生した俺ならばそれを未然に防ぎ、妹に明るい未来を見せることだってできるはずだ。


 いややるんだ。身の回りにいるクズを駆逐してな。


 神秘的な夜空の光がカーテンより部屋に差し込むと、復讐に身を滾らせるハデスの姿が3人の目に映り込んだ。

 ここにいる従属全員が唾を飲んでその姿を凝視していると、ウサギが小さく手を挙げてハデスへ進言した。

 

「ハデス様が成されようとしていることはわかりました。妹君であらせられる桐谷果那様を悪き者より護衛すること。それならばその役目私、ウサギに任せてはくれないでしょうか?」


 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る