攻略レベル??? 死神の気まぐれ

 伊藤宏樹を殲滅せんめつしてから2週間という日々が経過した。死神から権能を得たとは言ったものの「並行世界」や「死生回帰」といった特殊能力を除いたら俺はただの人間だ。単純なフィジカルは一般的な高校生以下だし、それこそ前回遭遇したあの男と比較すれば何倍も劣っているだろう。サッカー部キャプテンの肩書きは伊達ではなかったということか。


 もしこの先俺の特殊能力が封じられ、単純な格闘勝負の場に持ち込まれたらかなりあやうい。前にルナから教えてもらった奥の手も体への負担が大きすぎるしな。ぶっちゃっけ繁華街での一件で思い知ったし。


 なんにせよ課題はフィジカルだ。復讐屋の稼業を平行しながらそっちも解決していこう。明日の授業に必要な教科書や筆箱を鞄に詰め込み終えると今後の方針を確定。明日に備え布団を一枚被ると深い眠りの世界へと意識が沈んでいった。




 だが。死神と契約した俺にとって睡眠は心身の疲労回復とは別に違う意味で存在意味を果たしていた。

 それは死神との邂逅かいこうだ。



 ————随分と順調そうじゃないか。


 闇に覆われた暗黒の世界で、そいつは俺の意識の中へと堂々と入り込んできた。


「そうだな。アンタのくれた力のおかげで何とかやっているよ。そんなことを聞くためにわざわざ介入してきたのか?」


 ————フハハ!まさか!もちろん用があるからこうして貴重な眠りの時間を邪魔しているのだろう!


「それは怖いな。用があるイコールそれは俺にとっての試練なんだろ?ルナに聞いたことがある。死神の使徒になった人間は最初、万能の力に酔いしれるが最後大きすぎる力に身を滅ぼすという。そしてそれは毎度限ってお前の気まぐれが原因だとな」


 ————気まぐれとは手厳しいな。私は自分の力をつまらないことに利用されるのが耐えられないだけだ。君のように見てて楽しませてくれるうちは別だがね。


「了解だボス。それで?俺は何をすればいい?」


 ————話が早くて助かるよ。ならば君に頼みたいことがある。攻略レベル5以上の事件を次の新月までに解決したまえ。リストならここに。


 渡されたのはこれから寝取られる女性の名前が記載された古紙。年齢や身長、住所や趣味まであらゆる個人情報が丸裸となっていた。


「‥‥どうやって調べ上げたんだよこんな情報」


 ————悪いが秘匿ひとくゆえ口外はできない。だが対象となっている人間たちの選別方法は教えてやろう。


「いやいい」


 そうして死神が饒舌に語り明かそうとしているところを、俺は右手を出して制止した。


「見ればわかる。俺の周辺にいる人間がまとめられているなこれ。クラスメイトから同じ地区に住む大学生。そして‥‥果那」


 死神の顔を見なくともニヤついているのがよくわかる。どうやら死神の性分は腐っても曲げることはないらしい。他人の不幸を蜜どころか主食としている奴らだ俺の不幸もその対象に入るってことか。


 ————情報に誤りはない。桐谷京太の妹こと桐谷果那はこれより悪き男により純潔を散らされる。君のご両親も、君も彼女のことは大切にしているんだってね。私としても自身の使徒が不幸になるのは耐えられない。是非とも無事解決することを応援している。


「よく言うぜ。わかっていて妹を対象に入れたんだろうが」


 ————だが同時に感謝してほしい。君の言う寝取られというやつは大体、事が起きてしまってから気づく例が多い。一般的な犯罪のように未然に防ぐことは極めて難しいだろう。これは本当に君へ気づかせてあげたかったささやかな温情さ。


 確かに起きてしまったからでは根本的に解決したとはいえない寝取られを未然に防げるとなればこの上なく最高な未来を迎えられる。

 何せ今回は自分の肉身。性別は違えど俺と同じ運命をあいつには辿って欲しくない。


「わかった。素直に感謝する。それで今回は何か制約はあるのか?前回はアンタのせいで俺の部下がウサギしか使えなかったからな」


 ————ふーむ。そうだね。君の12人の部下は私の想定を上回るレベルで成長を遂げている。よって全員出動となれば僅か1週間足らずで解決してしまうだろう。よって今回は前回より難易度が高いことも考慮して3人で手を討とうか。


「十分だ。それでいい。ならこっちもアンタに要求がある」


 ————ほぅ?それは?


「今回アンタが想定するより上回った成果を上げた場合。俺に通常より与える倍のdp を用意しろ。俺も自分1人でできることを増やしておきたいからな」


 ————私の想定を上回るだと?面白い。本当に君は楽しいな。是非とも用意させてもらうとも。


「決まりだ。それじゃあ俺は今すぐ準備に取り掛かるから睡眠から目覚めさせてもらうよ。アンタならそれができるだろ?」


 ————いいだろう。それでは私はここから君の活躍を拝見させてもらおう。期待しているぞ我が使徒よ。



 死神の力より意識が覚醒すると、壁にかかった時計を寝ぼけた眼で確認する。現在の時刻は午前3時。いつもの起床より2時間ほど早いがまぁいい。

 それよりも今は、任務遂行に向けて動き出すとしよう。


 充電専用のアダプターが刺さったスマホを取り出すと、1人の部下に電話をよこした。そしてそいつは思った通り、たった3コールで出ると俺の耳へ声を発した。


「遅くにすまないな。お前に任せたい仕事がある。頼めるか?イヌ

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