転生しちゃった!

マサユキ・K

******

世の中には、いろんな異世界転生があります。

勇者として生まれ変わるパターン――

魔法使いとして生まれ変わるパターン――

魔王やモンスターになる場合もあります。

かく言う私も、どうやらその恩恵に預かったようです。

駅の階段を踏み外し、転げ落ちたまでの記憶はあるのですが……

次に目が覚めたら、なんか見知らぬ世界に来てました。


「ううん……ここは……異世界?」


なんで目覚めていきなり、異世界と分かったのか……

私の目線の先――天井に『異世界の城』と書かれた垂れ幕があったからです。


「なんて、分かりやすいんだ」


感心しながら周りを見ようとしましたが、なぜか体が動きません。


「おや?」


まさか……死後硬直か!?


あせりましたが、意識はあるので死んだ訳では無さそうです。

さてどうしたものかと思案していると、人の気配がしました。


「勇者様、それではこれを」


甲高かんだかい声がして、誰かが私の背中に手を入れました。

そしてそのまま、抱き上げられました。


こ、これは……!?


世に言う『お姫様抱っこ』か!


思わずポッと頬が赤くなりましたが、よく考えると私は男でした。


それにしても……


意外に軽々と持ち上げたな。

これでも転生前は、八〇キロあったんだが……


「承知しました。お受けいたします」


やはり甲高い声がして、誰かが私を覗き込みました。


あっ!?


その顔を見て、私は思わず心の中で叫びました。

勇者様と呼ばれたその人物は、ニヤリと笑うと私を高く抱き上げました。

おかげで、やっと周りが見渡せました。


私のすぐ下に、両手を差し上げた人物が立っています。

きらびやかな衣装に、派手な装飾のかんむり──

ゲームで見た異世界の神官そっくりです。

そしてその顔を見て、私は再びあっと驚いたのです。


「聖なる力を感じます。神官様」


勇者が興奮した口調で囁きました。


うやうやしく頷く神官の後ろにも、数名の人影がありました。

皆白い布をまとい、澄んだつぶらな瞳で私を見つめています。


ふと、壁に掛かった鏡に気付き、目を向けました。


そして、びっくらポン!


「ええーっ!私のか、からだ……ええーっ!」


素っ頓狂な声を上げ、私は何度も鏡を見直しました。

そこに映っていたのは、燃えるような真っ赤な――

ゲームの中で勇者が所持している必須アイテム──


そうです……


どうやら、私はようです。


勇者でも無く、魔法使いでも無く、魔王でも無く、モンスターでも無く……


単なる一振りの剣──


今日から私は、一つのアイテムとして生きねばならぬみたいです。


一体この先……どうなるのでしょう……



************



勇者との旅は過酷でした。

道中、当たり前のように色々なモンスターが襲ってきました。

ゼリーみたいにブヨブヨしたのやら、手足のいっぱい生えた蜘蛛みたいのやら……

その都度、私と勇者は相手をせねばなりません。


が、しかし……


二人のコンビネーションは、そりゃもう最悪でした。


たとえば、ある日など──


「ファイヤーボール!!」

「ふ、ふぁい……なんすか、それ!?」

「ファイヤーボールだ!ファイヤーボール」

「フォークダンス踊るやつ……?」

「そりゃ、キャンプファイヤーだ!違う、必殺技だ!」

「必殺技って……どんな……」

「火の玉が飛び出すんだよ!剣から……知らんのか」

「はあ……」

「はあじゃない。お前、聖剣だろ!」

「そうみたいっす」

「何、他人事みたいな反応してんだ」

「生まれたてなんすよ……だから、優しくしてね」

「気持ち悪いな!やられちまうだろ。早く出せ!」

「出せって言われても……どうするんすか?」

「知らん!なんで俺に聴くんだ?」

「な、なにぶん初めてなもんで……」

「とにかく、なんか出せ!ほ、ほら、襲ってきたぞ!」

「い、一体何を!?」

「早くっ!」

「アチョー!!」

「バカやろ!声だけ出してどうする。技だ、ワーザっ!」

「む、ムリっす……」

「バカ!なにや……うわぁっ!」


――GAME OVER――



……てな感じです。


おかげで私担当の勇者は、何度も入れ替わりました。


でも、誰が勇者になっても結果は同じ……


すっかり自信喪失した私は、もうどうでも良くなりました。

どうせ前世でも、役立たずと散々ののしられていた身です。

小学校の教諭をしていた私は、要領の悪さからいつも誰かに叱られていました。


授業が遅いと、教頭から注意され

生徒がうるさいと、同僚から怒鳴られ

対応が悪いと、保護者から文句を言われました。


それでも、子供らがかわいいので我慢しました。

この仕事が好きなので、必死に頑張りました。


しかしそれも、もう過去の事です。


生まれ変わっても、結局運命は変わりませんでした。

世間は、そんなに甘く無いのです。


もう……テキトーに生きていこう……


そう思っていたある日──


いつものように、勇者がやられてしまいました。

相手のモンスターの毒針が刺さったのです。


「ぐうっ!」

「だ、大丈夫っすか!?」

「いや……私はもうダメだ」

「……す、すみません。何もできなくて……」


苦しむ勇者に、私は何度も謝りました。

それしか、今の私にはできなかったからです。


「気にするな……君も突然……そんな姿になって……さぞ大変だったろう……ぐっ」


呻きながらも、勇者は微かに笑みを浮かべました。

これまでと違い、心根の優しい人でした。


「だが、この世界にも……君にしかできない事が……必ずあるはずだ……信じるんだ……」

「そ、そんな……うう」


勇者の優しい言葉に、私は声を詰まらせました。

涙は流せませんが、悲しみが全身を満たします。


「う……どうやら、ここまでのようだ……がんばれ……よ……ぐうっ!」


その苦悶の表情を見ながら、私は必死に考えました。


本当にもうダメなのか……

救う手立ては無いのか……

魔法も使えない……

技も使えない……

今の私にできることは……

何か無いか?

何か……?


私の脳裏に、これまで勇者らと交わした会話が蘇りました。


会話……声……!?


そうだ!


唐突に、一つの考えがひらめきました。

、思いついたのです。


私は勇者に向かって、ある旋律をかなでました。


歌です──


今の私が、です。

それは、私の前世の記憶にある歌でした。

決してうまくはありませんが、それでも一生懸命歌いました。

単調ですが、優しい調べがあたりに木霊こだまします。


「うう……こ、これは……!?」


たった今まで苦しみにゆがんでいた勇者の顔が、おだやかなものへと変わりました。


「……不思議だ?君の歌を聴いた途端、故郷の母親の顔が目に浮かんだんだ。そしたら、痛みがスーッと消えて……」

「……よ……良かった……!」


ゆっくりと身を起こす勇者を見て、私は心底安堵しました。

どうやら、助かったみたいです。

彼は私を拾い上げると、再び両手に構えました。

その顔には満面の笑みが浮かんでいました。


「おかげで助かったよ……ありがとう」




その後私は、勇者を救った聖剣として称賛を浴びました。

私の歌にはがあったようです。


「今後、あなたの歌はスキル『ヒーリングボイス』と呼ぶことにいたします」


で、神官が私に告げます。

その後ろで、沢山の人が歓声を上げました。


小さな体に、を持った人々──


私の前世では、それらの人々は【】と呼ばれています。

この世界の人の容姿は、どう見ても五〜六才にしか見えないのです。

私が彼らを見て驚いたのは、このためでした。


そうです。


この世界には、【】がいないのです。

これが元【大人】だった私が、剣に転生した理由かもしれません。

前職での経験を、この世界で活かすために呼ばれたのでしょう。


この世界の小さき人々──


……


え?


私の「ヒーリングボイス」が聴きたいって?


では、一曲だけ……


ぞぉ〜さん ぞぉ〜さん おぉ〜はなが ながいのね〜 そ〜よ〜 かあさんも〜 な〜がいの よ〜♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生しちゃった! マサユキ・K @gfqyp999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ