第2話 初恋の味なんかじゃない

◇サンプル◇



 好きな人がいる。

 物腰穏やかで、優しくて、きちんと対等に接してくれて、笑顔がくしゃっとしているのが印象的な、私より背が10センチぐらい高い先輩。

 たまたま友達の委員会活動を代わりに請け負った時、一緒に活動したのが先輩だった。

 最初は、見知らぬ先輩と一緒にするって言わなかった友達を恨んだりした。だって私はすっごく人見知りだし。いきなり知らない人と行動するなんて、苦行でしかない。でも30分一緒にいただけで、すぐに打ち解けることができた。


「尚先輩、尚先輩。もう大学は決められたんですか?」

 先輩と出会ってから二ヶ月が過ぎて、季節は冬を迎えていた。

 一緒に委員会の活動をして以降、週に2、3回、空き教室で一緒に勉強したりおしゃべりをしたりを楽しんでいる。

 先輩にとっては高校2年生の冬。本格的に受験を意識し始める頃合いだろう。進学するとは聞いていたけれど、具体的にどこを目指すのか聞いたことがなくて、気になっていたのだ。

「東京の大学に進学するつもり」

 到底私なんかじゃ入れない大学で、同じところに行けたらな、なんていう淡い期待は儚く消えた。まぁ最初からそんな気なんてなかったから、ショックはないけれど、先輩との差が明らかになって、釣り合わない自分が嫌になった。

 少しでも尚先輩に追いつきたくて、釣り合うようになりたくて、とりあえず勉強を頑張ることにした。

 授業の合間の休み時間もお昼休みも、いつもなら友達と喋ったりダラダラと過ごしているが、今は勉強に充てている。

「ねぇ旭。最近変じゃない? 休み時間に勉強なんて、らしくないじゃん」

「馬鹿なままだと先輩に釣り合わないからね。私、数学の偏差値とか最悪だし」

 不満げな友達の声が降ってくるが気にしない。

「旭が仲良くしてる人だし、こんなこと言うのも悪いと思うけどさ、あの人変じゃん。男のくせになよなよしててさ。なんかファンシーなもの持ってるし。あんまり関わんない方がいいんじゃない?」

「やめて、先輩のこと悪くいうの」

 カッと頭に血が昇って、机を叩きつけてしまった。ヒリヒリと痛む手のひらが落ち着けと言ってくる。

「そんなマジになんなくてもいいでしょ」

 冷めた視線が痛くて、でも好きな人を悪く言われるのも嫌で、心臓がキュッと音を鳴らした。

 悪口なんて言う方が悪いのに、怒ることもダメなの。笑って流せた方がいいって言うの。そんなことないはずなのに、ごめんねとへらりと笑った。



◇続く◇

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甘くて、苦くて、 水原緋色 @hiro_mizuhara

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