第9話 檸檬混じる悲しみ
静けさの中に愛があり
沈黙の中に優しさがある。
風の中に君が居て
羊の群れの中に、孤独が居る。
もし、
見上げる空の向こうに
銀河が無ければ
一体、僕達は
どれ程の空想を殺すことになるのだろう。
踏み出した一歩の先に
陽だまりが無ければ
どれ程の寒さを感じながら
明日を生きねばならぬだろうか。
台所から檸檬の香りがする。
それは
誰かが
誰かの為に
繋ぎとめる約束だと分かったのは
あなたと最後の食事をした時。
やがてあなたは去り
残された影が
現実に放り出される。
もし、
見上げる空の向こうに
笑顔が無ければ
一体、僕達は
どれ程の希望を殺すことになるのだろう。
檸檬を人齧り。
身に染みる思いに泣く影を
初めて僕は見た。
人は強くはない。
それだけが
口に広がる檸檬混じる酸味となって
僕に染み渡った。
日南田ウヲ詩集「まほろば」 日南田 ウヲ @hinatauwo
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