第8話 大きなボビン糸

愛があるのなら

また

憎しみもある。


そんなことわかっている二人なのに

諦めきれない蟠りがあるのか

離れられない。


何故に人は生まれて

消えて行くのだろう。


普段はそんな哲学的な問いかけをすることもなく

生きているだろうに

死に直面すれば

黙して哭いて

不条理とも言える律に呆然と立ち竦んでしまう。


人間とは、何て、かくもおかしくて不思議な生き物なんだろう。


だけど

今はこの二人にはなにも言えない。


長年連れ添った人をなくし

その亡骸を見つめるあなたの背に

僕はなにも言えない。


愛があるのなら

また

憎しみもある。


だからそれがなんだと言うのだろう。


今は唯

互いに皺になった細い手を撫でる人へ

何が言えるというのだろう。


愛も越えて

憎しみも越えて

その先にたどり着いた二人だけの終着駅


長い旅路の果てに辿り着いた二人の姿に

僕は夫婦と言う本当の形を見た気がした。


それは

時代を絡めとる糸が巻き付いた

優しさと慈しみが繰り返し巻き付いた

大きなボビン糸だった。







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