02 相楽 賜杜は空へ征く






「黙想」



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【オリジンアーツ-online-】サービス終了のお知らせ


いつもご愛顧頂き誠にありがとうございます。【オリジンアーツ-online】は本日をもってオンラインでのサービスを終了とさせていただきます。

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 1週間前の話。一つのゲームが終焉を迎えた。

 圧倒的自由度、クオリティの高いグラフィック、最後まで神ゲーとして愛された。

 そのゲームのオンラインサービス初めて9年続き、もう十分過ぎるぐらいに走り切った。


 そんなゲームのガチ勢の1人、相楽アイラク 賜杜シドは拝礼を行う。



「マジでいいゲームだったなぁ、アレ」



 そういう彼の自室は、本棚に囲まれている。無数の分厚いお堅い本がきっちりと並べてあるかと思えば、漫画雑誌の類もしっかりと並んでいる。


 机にはいくつかの知恵の輪、折り畳まれたチャイニーズチェッカーのボード、ルービックキューブ。パズルの箱がいくつか。


 そっちには健康器具とダーツ盤。そしてテレビジョン。その隣には押し入れがありそこにはオセロや将棋、チェスを始めとする沢山のボードゲームが積んである。


 ────そして一際目立つのが専用のVRヘッドギアとゲーミングチェア、そして数百というゲームタイトルを内包したサーバーだ。


 彼の名、相楽 賜杜、改めてシド。この娯楽の全てが詰まったような場所を自室とする、ちょっと変わった、高校三年生である。



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廃人ゲーマーズ (7)

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英雄<オリオン終わって1週間経つけど、なにやってる?




狂戦士<【私立魔王学院高校モンスターズ・ハイスクール

竜騎士<マンドラゴラを栽培して地球侵略するゲームを始めました


聖女<教えない

狙撃手<俺氏は故郷に帰りましたwwwwww

魔術師<やっぱMOBAかなー

軍師<【インセクトコロニー】あとカードゲーム


狂戦士<@英雄 そういうお前はなにしてん?


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「俺がゲームに求めるのは刺激。つまらない日常に色を足して面白くする」



 部屋でミニダーツの矢をいじりながら1人そう呟く。



「ただ、いままで17年ちょっと生きてきたが、生き急ぎすぎた気もする」



 ダーツ盤に向かって矢を投げる。ど真ん中。



「オリオンは娯楽の集合地だった。あれは一個のゲームにあらゆる要素を取り入れてる。食べ物で例えたらファストフード店のハンバーガーを片っ端から集めたようなそんな感じ」



 もう一本矢を投げる。さっき投げたやつのすぐ隣に刺さる。



「でもそのせいかな。娯楽を過食しすぎたかも、後発のものがつまらなく感じてしまうのは実に良くない」



 3本目の矢はさっき投げた矢が邪魔をしてしまい、刺さらず弾かれて地面に落ちる。


 それと同時に彼の持っている携帯の通知音が鳴った。鳥さんマークのSNSの通知であり、それを鳴らしたのは、VRゲームの夏の式典、"バーチャルサマーフェスタ"公式アカウントからだった。

 ちらと見て、ふっと笑う。



「なので今回は、自分の楽しみ方を変えてみる。噛みごたえのある珍味ってやつを食べてみるってこと」



 4本目の矢は真ん中には投げずに、大きく上に逸らして、端の端を狙い、そして突き刺さる。



「面白そうなのみっけたぜ」



 シドの心を射止めてみせたそのゲームは、あまり聞いたことのない会社から発表された。謳い文句はこう。

『死ぬ、キツい、ヤバい』

『ベータテスター全員が敗北宣言した問題児』

『世界で一番難しいMMOが誕生したかもしれない』

『レビューで低評価されるのはもう逆に名誉だ』

『グラフィック良し、テキスト良し、システム良し、なのにバランスで台無し』

『初めてモンスターを倒した時の感動を思い出させてくれる、そんな作品』

『これは開発陣からユーザーへの挑戦状』


 リリース前からとんでもない評が飛び交う怪作。そんな事前情報が廃ゲーマーの琴線に触れる。


 そのタイトルの名は────。



「【-SKYスカイ-】」







◆◆◆◆





【-SKYスカイ-】


 7月29日についにリリースされた。価格は5600円。開発元は"サンゴゲームズ"と呼ばれる無名の会社。ジャンルはMMOに分類される。

 このゲームはどういうゲームなの?と聞かれれば一言で説明するとこうだ。


『空の上の浮島をかき集めて広大な文明大陸を作ろう!』


 ゲームのタイトルにある通り舞台は常に天空のという目を引く世界観がある。

 そして他のMMORPGと明確に違うのは、最終目標が"ダンジョンの踏破"や"ボスモンスターの討伐"などではなく、"文明を作る"こと。とわりかしクリエイティブ方面に比重を置いているところか。


 パッケージは、日差しの照らす黄金の空に、浮遊する孤島、そして中央に飛び上がった人の後ろ姿が描かれている。


 シドは-SKY-を開封する。

 新たな冒険というやつが始まる。



「さあお手並み拝見といこう。まあ、せいぜい楽しませてくれたまえよってね」





◆◆◆◆





[プレイヤー:ソラシドは【-SKY-】にログインしました。]




 真っ暗闇に光が一つ。青く白い光が一つ。

 少し広めの空間で、柔らかい砂の地面と、硬く冷たい黒岩に囲まれる。

 

 ここにプレイヤーが1人。



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PN:ソラシド

LV.1

HP:14/14

SP:6/6

状態:平常

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 名をソラシド。相楽 賜杜のゲームアバター。彼はゲームをする時決まってこの名前を使う。


 そして見た目は、リアル準拠に若干のデフォルメフィルターがかかる。普通の高校生もあら不思議、塩顔イケメンに大変身だ。


 いや、しかし、そんなことはどうでもいい。ソラシドは早速ワケのわからない状況に陥っていた。



「な、なんだここは」



 想像していたような空は見えず、地下空間としか言いようがない場所から、この世界は始まる。

 SKYってタイトル詐欺じゃないか!という叫びは心にしまっておくとして、ソラシドは現在の状況を確認する。



「……まず地下室なのはわかる。そこに上につながるハシゴがあるから」



 目と鼻の先、岩の壁に打ちつけられる鉄のハシゴは上に向かって伸びる。天井より上に突き抜けるように。間違いなく地上に繋がっているに違いない。

 だが問題は……。



「で、この胸から生えてる光はなんだ」



 ソラシドはそう呟くと、自分の心臓あたりを見下ろす。なんとそこから青白い光が一つヒモみたいに伸びているではありませんか。光のヒモは胸から垂れ下がり自分の背後に伸びている。



「何かのコード見たいな……一体何に繋がって」



 そうして背後を振り向く。すると……。



「うぉ、びっくりしたー」



 そこには機械じみた重厚なるオブジェクトが鎮座していた。その巨大機構の中心部は青白い光を心臓の鼓動のように、とくん、とくん、と放ちながら稼働している。鉄の支柱が数本岩に食い込んで、その間には黄金の歯車が廻り、熱を帯びたパイプが蒸気を吹き出す。忙しなく、音を立てて、動き続ける。


 そんな息を呑むような光景を終着点とするように、胸から伸びる光はそこへ繋がって完結していた。


 パチン、パチン、と火花散る。四角平らな図面がノイズ混じりに開かれる。俗に言うウィンドウは次にメッサージを打ち出し、機械音声が読み上げる。

 それはプレイヤーを歓迎する一言共に。


[マスター、おはようございます]


「マスター?」


[文の月、二十九日。天気は快晴。【擬似孤島型永久重力戦艦-SKYエスケーワイ-】今日も平常運行であります]


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【-SKY-】〜空の、彼方で、勇者は死ぬ。死にゲー攻略遊記〜 七草疾風 @nanakusa_8888

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