【-SKY-】〜空の、彼方で、勇者は死ぬ。死にゲー攻略遊記〜

七草疾風

第1節 【-SKY-】ソラの貴方とカラだった私

01 かつて伝説を率いた英雄




【オリジンアーツ-online-】


 全世界4900万ダウンロードを突破した、神ゲー。


 圧倒的な自由度を誇るゲーム性、壮大かつ作り込まれた世界観、当時としては破格のグラフィック技術を持っていた神ゲー中の神ゲ────。


 まあ、あと数分でサービス終了するのだが。


 




ーーーーー

【オリジンアーツ-online-】サービス終了のお知らせ


いつもご愛顧頂き誠にありがとうございます。【オリジンアーツ-online】は本日をもってonlineでのサービスを終了とさせていただきます。

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「いいゲーム。最高だぜ」



 1人の少年がぽつんと呟く。片手に剣を携えて。それを軽く回しながら。


 運営ら新しいゲーム開発に取り掛かる為、この世界を終わらせると言った。

 どちらかというと任期満了、この世界を愛していたプレイヤーも納得はしていたし、この少年もまた納得する。


 そして、最後に、運営から叩きつけられた挑戦状。



ーーーーー

運営より、最後のお知らせ


【オリジンアーツ-online-】に関わるすべての者たちへ、ありがとう。


9年と5ヶ月、ここまで共に歩んだ同志諸君。これは最後のクエストである。心して挑み、有終の美を飾って欲しい。


ラストダンジョン【未来へ永劫を願い】実装

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「この俺に攻略できなかったゲームはない」



 少年はそう言って、戦果に燃ゆる大地を駆け巡る。















「────くそ、なんやこれ、無理ゲーか」

「これは、キツいですね」

「クソみてえな最後っ屁ですな。相変わらず酷いでござる」

「そうね。ところで回復ポーションはあるかしら?」

「悪いけどもう底を尽きたぞ。それにあたし、もうMP無いから」

「これは、無理なんじゃないかな?」



ーーーーー

運営より、最後のお知らせ


【オリジンアーツ-online-】に関わるすべての者たちへ、ありがとう。


9年と5ヶ月、ここまで共に歩んだ同志諸君。これは最後のクエストである。心して挑み、有終の美を飾って欲しい。


ラストダンジョン【未来へ永劫を願い】実装

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 最後に用意された運営のプレゼントは、まさしく憤死するくらいの高難易度で集大成に相応しい。


 が、少し難しすぎたかもしれない。


 9年、走り続けた精鋭トッププレイヤーたちは、化け物みたいに強いラスボスを目の前にして、絶望に打ちひしがれる。


 【最強と称された竜騎士】は膝から崩れた。

 【不死身の狂戦士】も心が折れた。

 【神殺しの狙撃手】も殺せないと語り。

 【絶世の大聖女】は祈りをやめ。

 【破滅を導く魔術師】さえ杖を投げ。

 【常勝無敗の軍師】は敗北を宣言した。


 全員、全員諦めた。仲間は全員死んだロストした。生き残りも死を待つのみか。


 否、断じて否である!



「────情けないぞ、お前ら」



 虚空を跨ぎ、闇を裁き、少年は1人闊歩する。その者はギルドや仲間を作ることない一匹狼。

 ただこの最終局面に燦然と現れ、ラスボス相手に肉薄していた。



 MMORPG【オリジンアーツ-online-】にて。討伐モンスター総数:52億6552万3739体。世界ランキング1位。


 プレイヤーランクはカンスト。これは世界で12人のみ。その中でも世界4位、日本1位のスピードで到達。


 無限ダンジョンイベントでは1万5288エリアを踏破しこの記録が破られたことはない。


 最高難易度と名高いレイドダンジョン【月蝕】唯一のソロ制覇者。


 ラストダンジョン【未来の永劫を願い】を踏破した。


 倉庫の中に眠る、サーバーの中には彼の輝かしい栄光があった。

 名実ともに世界最強と言っていい、そのプレイヤーの名は────。








「ソラシドっ!?」

「ソラシドさん!」

「シド!?」

「ソラシド……!」

「ソラ氏!!」

「シド君っ!?」


「うるせえ!何回も呼ぶな!前を向け!戦場へ迎え!敵と戦え!諦めるなっ!!バカぁ!!」



 向け、迎え、戦え、彼はただ1人諦めていなかった。



「敵のヘイトは俺が一手に引き受けるッ!!その間に奴を叩け!!」



 1人、諦めなければ。彼らもまた立ち上がる。普段はイキリ散らしてばっかりのソロプレイヤーだけにカッコつけさせてたまるかと。

 笑いながら立ち上がる。



「「「「「「ラストボスを倒せ!!」」」」」」










 ────全ては終わった。サービス終了は抗えない。それは電子の中の幻想でしかなかった。

 それでも、当時の人々の記憶には残っている。過ごした時間はリアルで、本当で、伝説なのだ。


 これは、【かつて伝説を率いた英雄】として名を馳せたプレイヤー:ソラシドの。




 もとい、生粋の遊び人。相楽アイラク 賜杜シドの物語である。

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