二皿目
目を開ければ、解放の日はいよいよ明日となる
痛み軋む身体にムチを打ちベッドから降りて、窓のすぐ横にかけられた振り子時計を見上げる
時刻は朝の5時
何時もより早く起きてしまった、これも全て昨日血が出るまで吐いたせいで起こる痛みのせいだ
喉が焼けるように痛い
そう言えばメイドの一人が言っていたけど女性のあの月のもの?というのや筋肉痛は二日目が酷いと聞いた事がある
確かにこれは痛い
ここまで痛いのは久しぶりな気がする。
「ッー…───ッッ……」
声は出ない、痛みで尚更音がつっかえてしまう……これ以上は無理に喉を動かさない方が良いだろう
そうだ、痛さで思い出した!早く荷物まとめないと…よし準備しよう
軽くその場で伸びをして、ドアの方に向かい耳をくっつけて廊下の足音や静けさを確認する
私は小さいし、同い年の他のみんなより身長もないし力もない
私を着る服に隠された足と腕は冬の教会へ行く道に見る生命を感じない枯れ枝みたい、鏡を見せて貰えないから私の顔が今どれだけ異常なのかも知らない
いや、きっと私は鏡に映る自分を自分だとは思えないだろう
母様は良く鏡を見るから存在は知っている、けれど私は使わせてもらったことがない
私の視界には、私は枯れた木々様でしか映らない。
私は私を知らない
私の部屋前には何時も誰も来たがらない
何故かは分からないけど前にメイド達が母様に近付いたらお仕置だと脅されたと嘆いていた声が聞こえた。
きっと……いや、十中八九母様のせいだ
………はぁいや駄目だ、母様を悪く言っては
悪いのは母様をあんなにさせてしまった原因を知らず生きている私だ、他の誰かのせいにしていいものじゃない。
………観点がズレた、そうだ私の部屋には見張りがない
いや見張りをつけるまでもないんだ、私は充分な栄養が体に回らないから満足に歩けないし力もないから
抜け出すということが出来ない
母様はそれを見越してドア前に見張りを付けないし、窓外に監視も付けない
唯一の脱走対策として窓に鉄格子があるだけ
だがその鉄格子は名前の意を成さない
私は小さいし限界までと言ってもいいほど細いから、鉄格子の隙間を普通に抜け出せるんだ。
あの年老いた執事長もそれを承知で、抜け出す際窓を介するように提案したんだと思う
そうだ、明日の夜までに準備した荷物を掃除婦に見つけられて不審がられてはいけない
人形のメリーの洋服や私物に見えるように、私の服を挟んで、鞄の中に入れておこう
これならバレない
けど念の為、明日の朝は夜の為に控えて服とか荷物を別の袋に入れて窓のすぐ下にある茂みに隠しておこう。
コンコンッ
「お嬢様、お嬢様起きておられますか?」
「!………?」
珍しく、私の部屋が執事長以外に叩かれた
メイドだ、私の髪をよくセットしてくれるメイドの声、丁度少ない荷物もまとめ終わったから元の場所にバレないように鞄を戻して扉を開ける。
声が出ないから行動しなければメイドは私を見れない。
「!お嬢様、起きられていらしたのですね……それは良かった」
「?」
「寝起きだとは承知の上ですが、お嬢様には今からおめかしを施さなければなりません
お嬢様、今回は決して粗相の無いように普段は嫌がる可愛いお洋服もドレスも拒まぬようお願いします
これから大層な来客様がいらっしゃるのです」
「…………!?」
来客…!?なんでそんな…何で今この時期に来客なんかを受け入れるの?普段は親戚の叔父様だって入れたがらないのに
母様の気まぐれなのか、それとも母様が逆らえない程の地位を持った存在なのか…
いやでも母様にはそんな凄いコネクトは持っていないはず……教会に預けられた時に何か手に入れたのかな?
相手を聞こうとして口を開く、けど焼石が刺さるような痛みが広がって声が出ない
誰だ?誰が来るの?
執事長の脱走計画がバレたわけじゃないよね…!?
「という訳ですのでお嬢様、酷なことを言いますが本日はお客様がお見えの間ずっと大人しく……いえ、奥様の指示通りに行動してくださいまし
これはお嬢様の身のためを思っての忠告です」
………確かに、下手に助けを求めても母様にそれが全て伝わったら水の泡、下手したら殺されかねない
ならここは大人しく母様の言うことを聞くしかないのか。
浅く、小さく頷いた私を見て満足したのかメイドは私を抱えて浴室に向かった
枯れ木のような体を、例えメイドでもあまり見られたくない私からしたらそれはただの羞恥地獄だ
全身何時もより丁寧に洗われて、拭いて乾かしての工程をすませると綺麗に誂えた、普段着れない服を着せられる
口の端に出来た吐きすぎて、指を入れられ過ぎて切れてしまった傷とその跡は肌色と同じ塗り薬を塗られて隠される。
小賢しいお母様
その頭脳を別に活かせば成功待ったナシなのに
最初の晩餐 元薺ミノサト @minosato
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