第23話 (最終話)新たな思い出。

ミチトは面白そうに「じゃあイイーヨさん達は邪魔みたいだから」「お疲れ様でした〜」とイブと言いながら戦闘不能にして場外に蹴り出す。


「イブ?危なそうだけどどうする?」

「やだ。ずっとミチトさんと居たいよぉ」


「了解、じゃあ一撃もらったとしてもイブは守るね」

「貰ってあげるなんて優しいですねー」


そう話しながら見ていると訓練場の端から元気良く走ってくる3人。

先頭のイイヒートは「後に続けぇぇっ!突貫!!!」と言っている。


ミチトは「おお!速い!面白そうだからアースボール」と言って豪速球という勢いで放たれる岩のようなアースボールをイイヒートは「小賢しい!」と言って回避することなく打ち落としながらミチトに斬り込む。


その剣筋はとても鋭くミチトも本気で回避を行う。

抱かされたイブが「おお、速いですね」と言って褒めると「まあ問題はこの殺気を男や魔物にしか放てないことだよね。男女平等じゃないからイブが相手だと甘々になる」と評価するミチトにイブはやれやれと「残念ですねー」と言って笑った。


「くあっ!?談笑!?」

「マスター、ずるいけど左側を狙うね」

「お兄さん!もう一度だ!」


しばらく続く斬り合い。

このメンバーについて行けるナハトが凄いがミチトもイブを軽々と抱きかかえながら全部を相手する。


観客の第三騎士団や貴族達は瞬きが勿体無いと訓練に見入る中、「父上…僕も強くなれますか?」とアルマ・カラーガが言い、その言葉にサンクタが「火がついてくれたか…。ああ、努力を重ねるぞ」と言う。


エーライとリッパーも「彼らを活かすも殺すも我々次第だ」「わかりました父上」と会話をする。


ここでアメジストがわざと「飽きたー。もう、今すぐ一撃入れないと地下喫茶行ってあげなーい」と口を挟むとメロとナノカはクスクスと笑う。離れた場所でシーシーだけは呆れてアメジストを見る。アメジストは正直見ていたいがイイヒートに無茶振りをしたいだけなのは一目瞭然だった。


聞き捨てならないイイヒートは「何!?更に速度を引き上げる!」と言うと更に一歩前に出る。


「シヤ!訓練していた二人剣術だ!」

「試すか?」


イイヒートはシヤとタイミングを合わせるが何も知らないナハトは「…イイヒートさん?シヤさん?」と聞く。


「レイカー!お前は隙あらば撃ち込めばいい!」

「了解です!」



「ミチトさん、二人剣術って…」

「連斬を二人で同時に打ち込むんだろうけど…あんまり意味ないよね」


ミチトとイブの見立ては間違ってなかったが、間違いはシヤはともかくイイヒートが放つと言うことだった。

身体強化さえすれば三十を放てるミチトに左右から放つイイヒートとシヤ。


だがイイヒートは拍子をずらしてミチトに先にシヤの相手をさせる。


「同時だから意味があるのに甘い!」

ミチトがシヤの剣を弾いて後に続いたイイヒートの剣を弾くとそのまま連斬でイイヒートを攻撃したが甘かった。


攻撃の全てを受け止めながら前に出たイイヒートはミチトの剣を掴むと「撃て!レイカー!シヤ!」と言った。


シヤは蹴りで迎撃できたが、どうしてもナハトの剣はミチトをかする。

かすっていても一撃は一撃、観覧席からは「おお」と言う声が聞こえてくる。

イブが褒めるように「おお、ナハト君やりました!」と言うと、ブチギレたミチトが「ちっ!ナハトぉっ!」と言いながら剣を手放してナハトを殴り飛ばしてその勢いで「耐えてみましょうか?イイヒートさん?」と言ってタコ殴りにしてしまう。


残ったシヤは「んー…援軍にメロ呼んでいい?」と聞いてきてダメ出しされると「勝負アリだね」と言って剣を置いた。


「もう、ミチトさんは手を抜いてあげたのに怒るとか無茶苦茶」

イブは甘える声で言うとミチトの頬にキスをする。


「あんな止められ方をするとは思わなくてカッとなってやってしまった」

そう言ってシヤ達3人だから出来た事だと評価をした。


訓練の終わりは皆が肌で感じていて、ミチトはイブを降ろすと子供達が近づいてきて「訓練ありがとう」とお礼を言う。



タコ殴りにされて倒れたイイヒートの横でしゃがみこんだアメジストはニコニコ笑顔で「血だらけ〜、怪我が酷いなら私トウテに帰るね。治ったら地下喫茶に行ってあげるよ」と言う。

イイヒートは「いえ!余裕です!このままで平気ですから今から行きましょう!」と言って飛び起きる。


「ボコボコの血だらけだよ?何回食らったの?」

「剣撃は六、打撃は八です!」


「痛くないの?」

「アメジストさんの前では平気です!家に帰ってヒーヒー言います!」


この返事が嬉しいアメジストが「もう、ヒールしてあげる」と言いながら「メロ、地下喫茶行っていいよね?」と聞くと、メロは楽しそうに「うん!ナノカもナハトと行こうよ!」と言った。


「え?でも高いって…」

「平気だよぉ、エーライ様の書状あるもん」


「その前にナハトを治して貰えれば…」

「ああ、絶賛気絶中だよね。待っててね」


メロはナハトを治療すると「お疲れ様」と優しく声をかける。


「ハンデ貰ってやっとだった」

「まだまだ訓練頑張ってねナハト。でもご褒美の地下喫茶だよ!ナノカと行っておいで!」


エーライが締めの言葉を言ってナハトのお祝い訓練が終わり解散となる。

ライブはミトレとエスカを村まで送り、スティエット家は別荘で過ごすことになる。

ヤァホィは宿を取ってもらってシヤとシーシーと家族をする事になり、これがシヤがミチトに一撃を入れたご褒美になった。



そして地下喫茶。

アメジストは、オススメされたフィッシュ&チップスの旨さに蕩けるとメイドが「イイヒート様といつでもいらしてくださいね」と言う。


「イイヒートさんと来るだけで食べられるなら来ます!美味しいよイイヒートさん!」

「どうぞ召し上がってくださいアメジストさん!」

イイヒートは苦労の末、念願叶った事で泣きそうになっていた。


そしてナハトとナノカはメニュー表を見ただけで顔色が悪くなる。

「ナノカ…紅茶ってこんなに高いの?」

「ナハト…クッキーが私達のお給料より高いよ」


「うふふ。闘神…いえ、お兄様からお金を気にせず2人で最低5品は頼むようにとの事でしたよ」

「ひぃぃぃぃっ!?」

「ええぇぇぇぇぇぇっ…」

庶民派の2人には拷問のようだった。



「あ、ナハトの悲鳴が聞こえた」

そう言ったのはメロでメロはナハト達はメロの群勢、メロの勝ちと言う無茶苦茶な理屈でミチトを地下喫茶に連れてきていた。


「ご無沙汰しております」

そう言って玄関で出迎えたオーナーに「誰がだれだかわかる?」とミチトが聞く。


「はい。全員存じ上げております」

「なら紹介はいらないな」


「はい。弟君とパートナー様には金額ありのメニュー表、副団長様には金額ありでパートナー様には金額なしを、お嬢様は闘神様とですね。お嬢様はかれこれ13年振りでしょうか?お美しくなられましたね」


このやり取りの後で貴賓室に通されたメロはニコニコと「やっぱりパパが格好いいから彼氏とかいらないよぉ」と言ってお勧めのケーキセットを頼む。


先に出てきた紅茶を飲みながら「あ、ライブお姉ちゃんが言ってたけど後腐れない部屋ってどうする?」とメロが聞き、この言葉にミチトは紅茶を吹き出して「メロ!?」と言う。


「あはは、冗談だよぉ」

ミチト達は健全な時間で切り上げて別荘に帰ると9人の子供達がミチトを待っていて皆口々に強くなりたい!」と言った。


「ええぇぇぇ…、戦う力って必要?」

「パパ、トウテに帰ったら訓練してあげようよ」


メロの言葉に「うんうん」と頷く子供達。

この視線に「…んー…仕方ない」とミチトは言う。

こうしてメロは新たな思い出を手に入れて、ナハトはミチトの弟としての新たな日々が始まった。

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メロの誕生日。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~ さんまぐ @sanma_to_magro

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