とある魔王の誤算

やすピこ

『あなたにも愛と言う感情が芽生えたらいいのですが』

 私は聖女マリアンヌ。

 聖なる結界に封印されし魔王の復活を阻止する為、勇者様と共に旅をしておりました。

 その過酷で困難な旅もようやく終わりを迎えようとしています。


 いま私達がいるのはその魔王が封印された人外魔境に聳え立つ魔物蠢く闇の大神殿。

 この地下奥深くにある聖なる結界は長い年月を経てその力を失おうとしています。

 私達の目的は今にも消えようとする聖なる力が消失する前に、私が持つ聖女の力で新しい結界を張る事なのです。


 思えばここまで本当に長い旅路でした。

 幼い頃、両親が流行り病により相次いで死んで天涯孤独となった幼い私は、身寄りもなく貧民街で日々の食事もままならないような生活を送る毎日でした。

 そのまるで闇夜のような人生を歩くだけだった私を救い出してくれたのが勇者様です。


 いえ、その頃の勇者様はまだ弱く駆け出しの剣士様でしたね。

 それなのに悪党に騙されて連れ去られようとしている私を、その身を挺し傷付きながらも助けてくれたのです。

 本当に感謝の言葉も有りません。


 私が聖女としての片鱗が芽生えたのはその時でした。

 悪党の追っ手から逃げ切った後、助けてくれた彼にお礼を言おうとしたのです。

 その瞬間私の中に小さな光が生まれました。


 私の為に傷を負った彼。

 その姿を見た私はこの人を癒してあげたいと心から念じたのです。


 するとそんな私のささやかな願いに神様が応えてくれたのでしょう。

 聖なる癒しの力によって彼の傷は瞬く間に癒えたのです。


 こうして私は治癒師として新人冒険者となり、彼のパートナーとして冒険の日々が始まりました。

 本当に楽しい毎日でした。

 私達は互いに助け合いながら様々な困難を乗り越えてここまで来たのです。


 そんな奇跡の様な出会いをした二人が、何故魔王と立ち向かう事となったのか。

 それは王国お抱えの高名な占い師の言葉から始まります。


 ある日占い師は『近い将来、聖なる封印は破れ魔王が復活する。その未来を防ぐには勇者に護られし聖女の力が必要だ』と言う言葉を残し、この世を去りました。

 その恐るべき予言に恐れ戦いた国王は、魔王復活の事は伏せて一つの御触れを出します。


 『この国、いやこの大陸全土から強者を集めよ。試練を与え、それを見事突破した者に勇者の称号を与える』

 それと同時に国王は秘密裏に教会に対し聖女捜索の依頼をしました。

 『聖なる力を持つ純血なる乙女の中から次代の聖女に相応しい者を見付けるのだ』と。



 当時の私達はその様な事情を知らず、ただ彼に時代に名を馳せる人になって欲しいと言う思いで、彼を説得し王都に向かったのです。

 国王が与えた試練は過酷を極めました。

 次々と脱落する集いし強者達。

 それでも私達は力を合わせ乗り越えて行ったのです。


 その最中、私は聖女の力に覚醒し、彼は試練を乗り越えて勇者の称号を賜りました。

 こうして私達は予言が語る勇者と聖女になったのです。


 聖女捜索を行っていた教会は、別の候補者を擁立しようとしていた事も有り、私が聖女だと認めて貰うのに苦労しましたが、それはもう過去のお話。

 

 私達の……そう私の苦労はもうすぐ実を結びます。




「マリアンヌ! 封印の間まであと少しだ。それまで俺が絶対に君を護り抜く」


 とうとう神殿最下層に辿り着いた私達。

 緊張をほぐす為か少し深呼吸した勇者様が、振り向いて私にそう言ってくれた。

 私はその言葉を笑顔で返します。


「えぇ、あと少しです。頼りにしてますよ」


 私の言葉に勇者様は頷き、封印の間に向かって歩き出した。

 あと少し…あと少しで……全てが終わる。

 フフ……フフフフ。







 フッ……フフ、ハーーハッハッハ!



 そうだ! あと少しで終わる……いや違うな。

 始まるのだ! 我の支配による暗黒の時代がな!!


 我は魔王マリオン。

 かつてこの大陸全土を統べていた者だ。

 しかし二千年前の事、当時の聖女だった女の姦計によりこの地に封印された。


 あぁ憎き聖女よ!!

 あの日の事を思い出しただけでも腹が立つ!!

 数々の策略によって封印され眠りにつこうとする我に、あいつはこう言ったのだ。


 『あなたにも愛と言う感情が芽生えたらいいのですが』と。


 ふざけるな!!

 我は魔王だぞ!!

 魔を統べる王なのだ。

 愛などと言う弱小生物共が生き残る為に作り出した戯言など知った事ではない!!


 眠りにつきし後も、その怒りにより我の意識は辛うじて保つ事が出来ていた。

 長い月日の間、ただ朧に闇の中を漂うだけだった我の意識は、ある日一つの事実に気付いたのだ。


 我を捕らえているこの忌々しい封印は完全ではなかった。

 針の先程のほんの少しの小さき綻びを見付けた我は歓喜に沸き立つ。

 ハッハッハッ聖女め! これには流石の奴と言えども誤算であったろう。


 とは言え、その綻びが有ったとしても魔の者として我の唯一の弱点である聖なる力により構築されたこの結界を破るには至らない。

 これを破るには同等の聖なる力が必要なのだ。


 そこで我は来るべく復活の日の為に、ある術を開発した。

 それは我の魂をこの身体から切り離し、人間の身体へと転生する術だ。


 魂だけなら小さな綻びから出る事も出来る。

 更に好都合なのがこの結界。

 魂が綻びを通り過ぎる際に聖女が渾身の力を振り絞り張ったこの結界の聖なる力を取り込み、将来聖女として覚醒する種子を宿す事が出来るのだ。


 そう、聖女であればこの結界を破壊出来るのである。

 しかも、聖なる力を宿した我の魂は、この身体に帰りし後もその力を有する事であろう。

 さすれば聖なる力と言う弱点も無くなり、何者にも邪魔される事無く全知全能なる魔王として我は再び恐怖と言う名の元にこの大陸だけでなく世界を統べる事が出来るのだ。


 かくしてその計画は成功した。

 我は無事人間の少女に転生し、将来我をこの地へと送り届けてくれる力を持つ若者を探し出す事が出来たのである。

 なにせかつては部下だった魔物と言えども、人間である今の我の正体には気付けぬのだからな。

 誰かに護って貰わねば無理というものよ。


 その者こそが今目の前で我に無防備な背中を晒しているこいつだ。


 全ては我の謀。

 出会った経緯も王都行きも我の計画の一部だったのだ。

 正直予言の存在には驚いたが、予言者が死んだお陰で我の正体がバレることも無い。

 予言の先を言い残す事なく死んだ予言者には悪いが、我が変わりに予言してやろう。


 『聖女の力によって魔王は蘇り世界は滅ぶ』のだと。


 ここまで数々の苦労は有ったがそれも過去の話。

 悲願の成就も目前である。


 フッフッフ、先程我を護るだとほざいたマヌケな勇者め。

 我に騙されているとも知らずに……ククク。


 しかし、魔物溢れる神殿を切り抜けて無事にここまで送り届けてくれた事の褒美をせぬと言うのも魔王として狭小であると言えるかもしれぬな。


 どんな褒美が良いだろうか?

 あぁ勿論褒美と言っても言葉通りではなく、絶望と言うなの死ではあるのだがな。


 魔の者として生来性別は持たぬが、遥か昔に闇より生まれ出でてから魔王として雄々しく振る舞ってきた我なのだ。

 聖女となるべく転生により人間の女に身をやつし、あまつさえこいつを騙す為にか弱い女の振りを演じなければなかった。

 その屈辱を晴らす為にも、腕によりをかけ掛けて最高の死を味あわせてくれようぞ。




 さて、我は前を歩く勇者の背中を見ながらこいつに与える最高の死とは何か考える。


 ……ふむ、改めてまじまじと見るとこやつの背中も出会った頃よりだいぶ大きくなったな。


 こやつは我に騙されてるとも知らずいついかなる時も笑顔と共に優しい言葉を掛けてくる。


 貧弱な人間の身体故、我が倒れし時も街に帰るまでずっと我をおぶってくれた。


 ……思えばその頃から既に大きい背中だったかもしれぬ。


 いつの日だったか、不意の魔物の襲撃によりその凶刃の牙に命を落としそうになった時も、初めて出会った時の様に自らが傷付く事を厭わずに、その身を挺して我を護ってくれたのだ。


他にも我を助ける愚かな行為は数を上げれば枚挙に暇がない。

 それだけ我らは長い日々を過ごしてきた。

  いつも一緒だった……。


   本当に、本当に愚かで……。



    ………(好き)。



 …………。

 …………。



 ん? 今我は何を言おうとした?

 何かを言い掛けたが形になる前に消えてしまったので自分でも分からない。

 何かおぞましくも……不思議と心地良いものだった気がするのだが……。


 いかんいかん! 復活の時を前にして少し心が浮き立っているようだ。

 最後の詰めを誤っては今までの苦労も水の泡。

 気を引き締めねばな。


 それにしても勇者よ。

 良い事を思い付いたぞ。

 我が魂が封印されし身体に帰りし後は、新たに得た力によってその命を絶ってやろう。

 我が覇道の最初の犠牲者。

 それこそが最後に送りしそなたへの褒美としようではないか。




       ◇◆◇




「マリアンヌ! 着いたぞ。ここが封印の間だ」


 あれから幾度もの魔物の襲来を退け、我は暫く振りに封印の間に立った。

 目の前には聖なる結界を構築する魔法陣が見える。

 その中には我の身体が復活の時を待ちながら眠っているのだ。


「さぁ! マリアンヌ! 早く封印を!」


 勇者は封印の間に魔物が居ない事を確かめると、入口を警戒しながら我に声を掛ける。

 我はその言葉に素直に従う振りをして部屋の中央に描かれた魔法陣へと近付く。


 あぁ言われずとも分かっておるよ勇者。

 ただその言葉に続くのは『張り直す』ではなく、『破壊する』と言う言葉なのだがな!



「聖なる結界よ!! 今こそその枷を解き放ち給え!!」


 我は身に宿りし聖なる力を言葉に込めて叫ぶ。

 それにより我の身体を捕らえている忌々しい聖なる結界がその輝きを失い消えていった。

 少しの振動と共に地鳴りが辺りに響き渡る。


 さぁ我が復活の時だ!!



「な……! 何を言っているマリアンヌ」


 我の言葉に慌てて振り返った勇者は、不敵に笑う我を見て信じられぬと目を疑っているようだ。


 フフフ、良い表情をするではないか。

 始めて見たぞ、その様に絶望したお前の顔はな。

 

「今までご苦労様でした。勇者様。……いやさ勇者よ!! 我の復活の為に尽力を注いで来たお前の愚かさに礼を言おう」


 その表情に気を良くした我は、絶望によって今にも膝を折り崩れ落ちそうにしている勇者に対して勝利宣言をした。

 その言葉と共に聖なる結界跡から闇が溢れ魔王として巨大な身体が再びこの世に顕現する。

 そして人間である我の身体はその闇に飲まれ形を失い、懐かしきこの身に溶け込んでいった。


 一瞬の暗転後、視覚が元に戻る。

 しかし、そこに広がる景色は先程までの低い視野によるものではなくかつて魔王としてこの地を蹂躙していた頃のモノとなっていた。


 もう一つ朗報だ。

 我の目論見通り、自身の身体の中に聖なる力を感じる。

 それは反発する事無く魔の力と混じり合い我が活力となった。


「ハーーハッハッハ!! 我は再びこの世に舞い戻ったぞ! 我を封じし聖女よ! 自らの術が不完全であった事をあの世で悔いるがいい!!」


 我は吠えた。

 死後の世界に居る憎き聖女の魂に聞こえるように!

 我が封印されし後に卑しくも地に蔓延った人間どもに聞こえるように!!

 我は勝ったのだ!



「魔王!! マリアンヌを返せ!」


 騙された事を認められないのか、我を睨みながら勇者は馬鹿な事を言い出した。

 その様に思わず吹き出しそうになる。

 仕方無い、現実と言う物を教えてやろう。


「返せだと? 何を返すと言うのだ。マリアンヌなどと言う人間など元からどこにも居らぬぞ。全てはこの復活の日の為に我が演じていただけに過ぎぬ」

 

「う、嘘だ!」


 真実を述べてなお、この愚か者は認めたくないらしい。

 これから魔物達を統率し人間共に戦を仕掛ける準備をしなければならない身である為、これ以上この様な小者に時間を掛けてはいられないのだが、まぁいい。

 更なる追い打ちをかけてやろう。


「嘘なものか。全て真実。いつもお前が笑顔を向けていたのはマリアンヌと言う女ではなく、この魔王マリオンだ。愚かな事にお前は我の演技に騙され、甲斐甲斐しくもこの地まで我を護り連れて来たのだ。自分の所為で人間共が死んでいく事を思うのは……どんな気持ちだ?」


「くっ! くそ! そんな事はさせない」


 我の言葉に顔を歪ませ剣を構える勇者。

 どうやら我を倒そうと思っているようだ。


 ズキン


 いかな勇者と言えど、聖なる力を身に宿した今の我に敵う筈もない。


 もういい、お前との関係はこれまでにしよう。


ズキン


 身の程知らずな勇者に向けて魔力を込めた手を突き出した。


「愚か者!!」


 新たな力に目覚めた我は呪文など唱えるまでもなく意思を向けるだけで手の平から衝撃が放たれる。

 人間の身体がそれに耐えられる訳もなく、勇者は成す術無く弾き飛ばされてその背を壁に叩きつけられた。


 ズキン ズキン


 地に伏した勇者はピクリとも動かない。

 どうやら今の一撃で死んだのだろう。

 ……ふん、今までの屈辱を返し切れたとは言えないが、これで全てが終わった。


 ズキン ズキン ズキン ズキン


 さて、これから忙しいぞ。

 人間への戦をするにしても魔王である我が前線に立つ訳にもいかぬだろう。

 まずはこの神殿に巣くいし魔物達を束ねなくてはな。


 ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン


 ええい!! なんなのだ! 先程から絶え間無くこの胸に走る痛みは!!

 忌々しい不快さだ。

 くそ! まだ聖なる力が馴染んでいないとでも言うのか。



「……マ、マリアン……ヌ」


 !! ズキン!!


 我は微かに耳に届いたその言葉に全てを忘れ振り向いた。

 そこには剣を杖代わりに立ち上がろうとする勇者の姿が有った。 (良かった……)


 心の奥底に湧いた身の毛のよだつ言葉を否定する気力も無くただ茫然と勇者が立つさまを見詰める事しか出来なかった。

 立ち上がった勇者は相変わらず剣を杖として足を引き摺って我に近付いてくる。



「そんな馬鹿な! あの攻撃を受けて生きている訳が無い!!」


 暫しの放心状態から正気を取り戻した我は、よろよろ歩み寄る勇者に向かって叫ぶ。


 先程のは本気で放った一撃なのだ。

 どの様な強者だろうと生きている事はおろか、本当は形すら残らない筈だった。

 それなのに勇者はボロボロになりながらも生きている。

 生きて幻の女の名を呼びながら我に歩み寄ってこようとしているのだ。

 やはりこの力がまだ馴染んでいないと言うのか?

 ……それとも知らずの内に手を抜いたと言うのか?

 

 それこそ有り得ぬ!


 そう心で否定しながらも気が付けば数歩後退っていた。

 馬鹿な! 魔王である我があんな死にぞこないに後退るだと。

 違う違う!! 断じてそんな事はあってはならぬ。


 そうだ! 我は今にも勇者に駆け寄りたいのだ!!


 …………。

 …………。


 はぁ? なんだ今のは?

 こんな時に何を考えているのだ?

 くそ! 訳が分からぬぞ! 頭の中がグルグルと回り思考が形を成さない。

 

 ああ! そうか!

 駆け寄りたいのは慣れぬ魔力に寄らずとも、この巨躯にて殴り殺せば良いと頭では分かっていたからなのだな!

 よかろう! 今度こそ全てを終わらせてやる!!


 

「勇者よ!! この拳によって砕け散れ!!」


 我はそう叫ぶと、暴風よりも素早き速度にて勇者に向かって飛び掛かる。

 そして万物を砕く程の力を込めた拳を勇者に向かって振り下ろした。


 これで全てが終わった。

 目を瞑ったままざわざわと騒めく心を無理矢理押し込めそっと息を吐く。

 目を開ければ勇者はただの肉塊になっている事だろう。


「……マリアンヌ?」


 又しても聞こえる筈のない声が耳に届く。

 ば、馬鹿な……なぜ生きている。

 目を開くと振り下ろした筈の我の拳は勇者の寸前で止まっていた。

 もしかして我も知り得ぬ勇者の力か?

 その力は我の拳をも止めると言うのか?



 ……違う。

 この拳は我自身が止めたのだ。


 先程我は勇者に言った。

  マリアンヌと言う女はどこにも居ないと。

 それは間違いない事だ。


 我は魔王マリオン。

 そして、マリアンヌとしてこの男と共にここまで旅をして来た。

 そうだマリアンヌはここに居るのだ我なのだ


 あぁ、とんだ誤算をしたものだ。

 聖女の術は聖女にしか解けぬ。

 だからこそ我は聖女となった。


 しかし、いかに聖女の種子を持っていようとも、元より種など栄養が無けれ育たぬものよ。

 そう……愛と言う名の栄養がな。


 その事に気付いた我の脳裏にふとあの日の聖女の言葉浮かんで来た。


 『あなたにも愛と言う感情が芽生えたらいいのですが』


 その時は怒りのあまり気にも止めなかったが、彼女が言った『あなたにも』と言う言葉。


 そうか、全ては彼女の掌の上だったのだな。

 術の綻びは未熟な故の物ではなく、最初からそう作られてたのだ。

 我が人間に転生し聖女として勇者に護られながら共にこの場所に戻って来る事も承知の上。


 そして……恐らく彼女も魔王だったのだろう。

 我と同じ様に人間の女に転生し勇者と旅して恋に落ち、ついには愛と言う感情を芽吹かせたのだ。


 今の我の様に……。



「勇者様、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 気が付けば我……いや私の身体はいつの間にか人間の姿に戻っていました。

 そして泣きながら勇者様に抱きつき謝っていたのです。


「あぁ良かったマリアンヌ。帰ってきてくれたんだね。で、出来れば早めに回復してくれないかな?」


 勇者様は私を責める事無く、優しく肩を抱き笑いながらそう言いました。

 あぁ、いけない! すぐに治癒魔法を掛けなくちゃ。



 こうして治癒魔法によって傷が癒えた勇者様と共に私はこの封印の間を立ち去ることになりました。

 どうやら予言は正しかったようです。

 だって予言の通り勇者に護られし聖女の力によって魔王の復活は防がれたのですもの。


 封印の間の門を出る際、私は振り返りました。

 私の犯した誤算にあの世で『引っ掛かったなwざまぁww』とほくそ笑んでいるでしょう先代魔王のくそったれ野郎……あら、私とした事がはしたない。

 こほん、私に愛と言う大切な感情を教えてくださいました聖女様に向けて感謝の言葉を言う為です。


「ありがとうございました。あなたのお陰で私は幸せです」




「どうしたマリアンヌ?」


 突然の私の行動に驚いた勇者様が驚いています。

 ダメですね、また心配を掛けちゃいました。


「ごめんなさい勇者様。さぁ行きましょう」


「あ、あぁ、そうだな。行こうか。新たな冒険に!」


 勇者様に駆け寄りながらもう一つ聖女様が残した言葉を思い出しました。


 『次もお願いね』


 この言葉の意味も今なら分かります。

 私達の新たな冒険の果てに別の魔王と出会う機会があるかもしれません。

 その時は私が同じ様に愛を知らぬ魔王に向かって言うのです。


 『あなたにも愛と言う感情が芽生えたらいいのですが』と――、


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