第4話 その先にあるもの
「ピー!!」
「……ドスドス」
ホイッスルの音と同時に、この部屋に向かってきている大量の人の足音が聞こえてきた。
あのホイッスルは応援を呼ぶためのものだったのか。
「二人とも! 今からくる奴らをなんとか食い止めてくれ。そのうちに俺は暗号を解く」
「任せろ」
「わ、わかったわ」
ザイは指をコキコキ、と鳴らしながら。マインは服の中に隠してあった魔法の杖をくるくる、と回しながら。俺に背中を向けた。
仲が悪い二人なのに……頼りになる背中だ。
「ここ、だよな」
俺は暗号ようなものが書かれた紙切れがあった、テーブルの前に来た。
引き出しを見てみると、たしかに底の板の下にまた板があり二重構造。これは古い昔、貴族たちがなにかを隠すために作ったとされるもの。
手を突っ込んでみても、特に変わったものはない。
「お、おいリーダー! まだわかんねぇのか!?」
顔に返り血を浴びてるザイは、息を切らしながら聞いてきた。
奥を見てみると、魔法でなんとか応戦しているマインがいる。やはり王城の兵士。ザイとマインが圧倒できない相手。
「すまない。もうちょっと待ってくれ」
「ったく、早くしろ!」
ザイはつばを吐き散らして、戦闘に戻っていった。
もうちょっと、なんて言う嘘をついて心が痛い。
なんとしても隠されし剣の手がかりを探さないと。
「つってもな……」
俺は二人に気づかれないようにため息をついた。
情報としてあるのは暗号っぽい謎の紙切れと、なぜか二重構造になっている引き出し。
「いや待てよ」
俺はもう一度紙切れに目を通す。
『 ヒ カ
カ
カ ヒ』
書いてあるのはどこか意味深けなカタカナ五文字、ヒとタ。これは、意味深けではなく意味があるのだとしたら……。
「まさか……」
謎が解けた気がした。
まず一番左上に書かれている「ヒ」は、引き出しの「ヒ」。そして下がっていくように書かれている「カ」は、階段。一番左下に書かれている「ヒ」は、秘宝の「ヒ」。
「いや、流石に単純すぎか?」
俺はもう一度考え直そうとしたが念の為、二段構造になっている引き出しの中を綿密に調べることにした。
一段目の底の板を奥にスライドして、二段目を使うごく普通の引き出し。
二段目にはなにもない。
あるとしたら一段目……いや、あるいはスライドする板。
「カチッ」
「やっぱりそうだったか」
スライドするために取り付けられている取っ手。
そこを反時計回りに回すと、音がしテーブルで隠されている場所に下へと続く階段が見えた。
「ザイ! マイン! ついてこい!」
俺は一言残して先に、一人が歩ける程度の狭い階段を急いで降りていった。
少しすると追ってくる足音が2つ近づいてきた。
「おいおいおい。こりぁすげぇな! やっぱりあの紙切れ暗号だったのかよ!」
「はぁはぁ……すごいわね」
ザイは真後ろではしゃいでいるが、マインは息を切らしている。
やっぱりというべきか、熟考しすぎて負担がかかっていたらしい。マインの魔法が使えなくなったら、いざというとき逃げられなくなってしまう。
「ザイ。マインと場所を変わってくれ」
「わ、私は大丈夫だから……」
咄嗟にマインは口を出してきた。
声がかすれていて、大丈夫そうではない。
「ったく。ちゃんと戦闘時は自分の体力管理ぐらいしとけよ」
「……おっしゃる通りです」
ザイはマインの言葉を聞いて満足したのかバク宙をして、後ろに行った。
狭い中、しなやかな体がくるくると回るその姿に目を取られてしまった。
「……よし」
俺は一時止まってしまったが、上の方から俺たちを追ってきている耳に入ってきたので足を進めた。
二人も足音が反響して聞こえたのか、無言でついてくる。
数分後。
「おっと」
暗くてわからなかったが、俺の目の前に何やら壁のようなものが立ちふさがった。
小さい電灯で照らしてみると、ボロ臭い木の扉だというのがわかった。
「ここよね?」
「あぁ。まず入る前に、魔法で中を見ることはできるか?」
「流石に体力の問題で全てとまではいかないけど……そんなの、お安い御用よ」
マインが得意気にいうと、俺の前に真っ黒な小さな人が現れた。これは視覚聴覚を連動させた、探索魔法。
小さな人はボロい扉を蹴り破って、先に入っていった。
「んっ……う〜ん……ん?」
マインの謎めいた声を聞いていると、あっという間に小さな人は帰ってきた。
体に蜘蛛の糸や、ホコリがついていて汚い。
しっしっ、と手で振り払っていると小さな人は消えた。
「で、なにがわかった?」
俺は未だ首を傾げているマインに向かって問いかけた。
上から刻一刻と足音が近づいてきているので、俺たちは中の様子次第で最悪の展開になってしまうかもしれない。
「中、になにかある。流石に真っ暗で全部は見えなかったけどものすごく、エネルギーに満ち溢れてるもの。なんか、すごい。すごいわ……」
「それは俺たちに害があるものじゃないんだな?」
「え、えぇ。害なんて……魔法で目の前までいけたの。あるわけないわ」
「よし」
俺はマインの言葉を聞いて中に入った。
扉の中は階段ほど狭くない。ホコリが舞って蜘蛛の糸がいくつか、顔に引っかかった気がする。たしかに真っ暗で、電灯で照らしてもほぼ何も見えない。
「リーダー! 扉んとこに、そこらへんにあった適当なもんを置いといた。これで少しは時間を稼げる……」
ザイはそう言いながら暗闇の中、俺の隣まできた。
俺が電灯で照らしてるのは、細長い箱。というかこれ以外この中にはなにもないので、必然的に電灯を向けていた。
「これ、だよな?」
「うん……。その、気おつけたほうがいいかも。私は中になにかすごいエネルギーのものがあるとしか見えないから、衝撃を与えて何が起きるのか予想できない」
「わかった」
俺はザイに電灯を手渡して、箱に手を向ける。
さわり心地は普通の木の箱。マインは開けないことをすすめているが、見て確認しないとこれが探し求めているものじゃないかもしれない。
「……開かない?」
「それは魔法で施錠させられてるのよ。……あんまり力強くで開けようとすると、大爆発を起こして私たちは一巻の終わりよ」
マインは俺のもとまで来て言ってきた。
大爆発するかもしれないんだったら、もっと早くいってほしかったな。
「じゃあ頼む」
「…………わかったわ。だけどもし、目的のものじゃなかったらすぐ箱の中に戻してね? 本当に何が起こるかわからないし」
「了解」
俺はいつもより慎重なマインを見て、危機感を強める。
「……できたわ」
マインは額に汗を浮かべながら言ってきた。
さっきまで閉まっていた箱が開いている。どうやら一瞬で開けることができたようだ。
箱の中を見る。
「これはすごいな……」
中にある光輝くものを見て思わず、声が漏れてしまった。
あるのは金色の剣。柄部分に、赤い十字架の印が唯一別の色。ほかはすべて純金のような輝きだ。
「ぜってぇこれが、隠されし剣っつうもんだろ」
「まぁこれ以外、なにもないし必然的にそうなるな」
「うっひょー! これを依頼者に渡せば、500億ジュール……。よし、ここは俺がこの剣をもっていくとしよう」
ザイは俺のほうが分け前多くしてもらうんだ、とでも言いたげな顔をしながら剣に触ろうとした。
したのだが……。
「痛っ」
ザイの手は稲妻のようなものに弾かれ、触ることはできなかった。
これは剣のことを守るための魔法かなにかだろうか。
「マイン」
「うん。この剣を囲うように、最上級魔法が施されてる……。これは資格のある人、あるいは術者本人しか剣を触ることができないわ」
「そんなの俺が力強くで破ってやる!!」
ザイは雄叫びを上げながら剣に立ち向かったのだが、ことごとく弾かれてしまった。
魔法は力で押しきれないのはわかりきってるのに、一体こいつはなにをしたいんだ。
「ドスドス……」
俺はザイのことを見て呆れていると、足音がすぐそこにまで近づいてきていることに気がついた。
剣に気を取られすぎた。
「ザイ。とりあえずその剣は取り出さずに、箱ごと俺が背負うことにする。二人は来る敵の足止めをしてくれ」
「「了解」」
二人は木の扉の前で敵を待ち構えた。
その姿を見て俺も準備を始めようとしたその時。
『汝、資格あり』
棒読みの感情がこもっていない謎の言葉が、俺の頭の中に入ってきた。
盗賊は、蛇の道のみ でずな @Dezuna
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