第16話 帰り道に…


抹白は司の目をじっと見つめて、満面の笑みを浮かべて告げる。


「とっても、おいしいです!!」


と…


その言葉が聞けて安心した司は、安堵の溜め息をつく。

とりあえず口にはあったようだ。


ハンバーガーを食べ終えた日南は、満足そうにお腹を叩く。

「それにしても久しぶり食べましたよ~」

「俺もだな」

【こんなおいしいものなのに久しぶりに食べるんですか?】


抹白は天然なのか、それとも社会知らずなのか、おそらくは両方だろうが恐ろしい発言をする。こんなもの毎日食べていたら大変なことになる。


「こんなのずっと食べてたら太りますよ!!カロリーの爆弾ですよ!」

「健康にもあんまりよくないしな」


二人の意見で自分がどれほど恐ろしい発言をしたのか気づいた抹白は頬を赤く染める。


【そうなんですね…やっぱり私って世間知らずなんですかね?】

【仕方ないだろ、これから覚えていけばいい】

【そ、そうですよね!】


抹白は先ほどよりもさらに頬を赤く染める。まるで熟したリンゴのようだ。

(抹白って赤くなりやすい体質なのかな?)

「この女誑しめ…」

日南は司を貶すようにそう小さな声で呟いた…



昼食を食べると三人は、デパートを回る。

「見てください!このパンダのマグカップ可愛くないですか!?」

「あそこのタピオカ美味しそうです!!」

「このシャーペン書きやすいんですよ!」


終始日南がしゃべり倒していた気がする。

それに司はついていくので精一杯だった。精神的疲労が司の体には蓄積されていた。


司たちはひとたびデパートの中を歩くと周囲から歓声が上がる。

「かっこいい!」「かわいい!」「モデルさんかな!?」などなど…今までそんなことはなかったはずなのに、司までかっこいいと言われていた。

(確かに日南ちゃんと西園寺さんはめちゃくちゃ美少女だけど、なんで俺がかっこいいってなるんだ?俺がかっこよかったら女の子からモテてるはずだろ!?)

周囲からの慣れない反応に、司は困惑していた…



「いや~今日は楽しかったですね!」

「俺も久々にこんなに休みの日に外に出てたよ」

「先輩はもっと外にでてください!」

日南は司の健康が心配なのか、司の日ごろの行いを非難する。


【西園寺さんも今日は楽しめたか?】

司は緊張した様子で抹白に今日の評価を尋ねる。無言になることはあったが、終始笑顔を浮かべていたので、それなりに楽しめていたと思いたい…


【私も今日は楽しかったです!】

【それならよかったよ!また一緒にこうやって遊ぼうな!】

【そ、そうですね!】

(よ、よかったー…)

司は心の中で今日の出来事を思い浮かべながら、ホット息を吐いた。



時間的にちょうどいい時間になったので三人はデパートを出て駅に向かう。

「あ、私やることあったんでした!ここで別れますね!」

すみません!と手を合わせて謝る日南。正直まだ話していたいが、やることがあるなら仕方ないだろう。


「今日は楽しかった、誘ってくれてありがとうな!」

【またね日南さん!今日はありがとう!】

「はい!また遊びましょう!」


そうして駅とは逆の方に走り出した日南。

残ったのは司と抹白の二人。二人の間に沈黙が訪れる。

(なんか今日無言になること多くないか?俺のせいかな?)


司は今日の反省をしようと思案をしようして瞼を閉じようとするが、目の前に現れた男が司の瞼を閉じさせなかった。目の前に現れた金髪のガタイのいい男に司は既視感を覚えた。少女を助けたときの男だった。


「お、あの時の美少女じゃないか!」

「先輩、この女が前言ってた女ですね!確かにめちゃくちゃ可愛いですね」

「横にいるのは…なんだ、この前のガキじゃないのかよ、なら余裕だな」


(ん?この前の美少女?俺この男から女の子助けたことあったよな?)

嫌な予感というか、なんとなくまずい気がする。

しかし幸いなことに、今の司はこの前の陰キャな容姿ではなく、バチバチに整えているため、容姿で司の正体がバレることはないだろう。


いま司たちがいるのは運が悪いことに路地裏。

周りからの助けも得られそうにない。しかし幸運なことにここには日南がいない。抹白だけならどうにか逃げられそうだ。

(ここは逃げるが吉だな)


抹白の手を握り逃げ出そうと考えた司は、抹白がいる後ろを振り返る。

抹白は目に涙をため、足を震わせている。

司は抹白を安心させるため、男達を向きながらも小さな声で語り掛ける。


【大丈夫か?】

【—っ!は、はい…前にこの人たちに絡まれたことがあって】

そうだよな、やはり西園寺さんはあの雨の日に助けた銀髪の美少女だったのだ。さらに確認を取りたかった司は、さらに質問する。


【そのときは大丈夫だったのか?】

【通りすがりの少年が助けてくれました…ほんとにあの人が居なかったら私は…】


そのときの様子を思い出したのか、抹白はさらに体を震わせる。

(この様子だと、逃げられそうにないな…何とか穏便に済ませられるようにするか…)


「おい、お前ら誰に許可もらってこそこそ話してるんだよ?」

「すまなかった、連れが怖がってるから退いてもらえないだろうか?」

「何言ってんだよ、俺の言ってる意味が分かんないのか?」

「あぁ、穏便にすませたいから、退いてくれと言っている。」

「ほざけ!お前になにができるんだよ笑そんなひょろひょろの体で笑」

「そうだ!女の前だからって恰好つけるな!」

男の連れが聞くからに雑魚のそれだった。

(そんなひょろひょろのガキに負けたのはどこのどいつだよ…)


「どうしたら退いてくれる?はやくここから出たいんだ」

「その女を置いていったらお前に用なんかないんだよ、男に興味はないからな!」

そう言って、金髪の男は汚らしく舌なめずりをする。

正直言って気持ち悪かった。本当に気持ち悪かった。こんな奴のせいで抹白が怖がっているのかと思うと、反吐が出そうになる。心の底から溢れ出す怒りを必死に鎮めながらも、もめごとにならないように冷静さを努める。


「それは無理なお願いだ」

改めて抹白の様子を見てみると、震えが先ほどよりもひどくなっていた。

よほどあの男が気持ち悪いし、怖いのだろう。今すぐにでもぶちのめしたいと司は抹白の様子を見て改めて思う。

(このままどうするか…あのセバスってやつを待つか?いいや、たぶん来ないだろうしな…)


司は頭に浮かんだ案をすぐさま忘れさせる。他人に頼るのはやめよう。どうやってこの状況を対処しようかと悩んでいたとき、後ろから抹白の悲鳴が聞こえてきた。


「———キャ!」

後ろを振り返ると、二人とは違うもう一人の男が、抹白に抱き着いていた。

もう我慢ができない。こっちは穏便に済まそうとしているのにあまつさえ抹白に抱き着くとは。

抹白の悲鳴を聞いた司は、

抹白を守るため、あの時の少女のため、

もう一度『ヒーロー』に……

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【祝!1000PV!】子供のころヒーローに憧れた少年は、大切な人のため再びヒーローになると誓う~転校してきた銀髪美少女の言葉は俺しか分からない~ マッソー! @masso0426

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