第77話 月の鳴く声
「夢を見た」
部屋の対角の位置で鏡台の前に座り、髪を
「どのような夢をご覧になったのですか」
両目を閉じ、宋十郎は半月ほど前の記憶を辿った。
それは一瞬のことだったのに、夢は随分と長く思えた。
夢の中で、彼は獣になって暗い山中で兄を探していた。
やがて兄を見つけ、兄に彼が持っていた左目を渡すと、彼らの前に
鳳は彼に、最後には全て失うこととなっても人として生きたいかと問うた。
彼はあれほど人になることを望んでいたのに、不思議なことに、そこで迷いを感じた。
夢の中の彼は、自分が獣であることを何かとても貴重で誇らしいことであるかのように感じていた。しかも一度人に成り変わってしまえば、永遠に、二度と獣に戻ることはできない。
獣のままでありたいとすら彼は思ったが、彼が守りたいと思っている者たちのことを想った時、彼の意志は定まった。
人になりたいと彼は答えた。そして人として生きることはただ失うことではなく、変わりゆくものの一部となることだとも答えた。
すると鳳は彼を人に変え、京の寺本邸にいる十馬と孔蔵の姿を見せた。
その先に起きることも、鳳は続けて彼に見せたような気がするが、おぼろげにしか憶えていない。
「そして、目覚めて水から出ると、私は
他に手も思いつかず、
長々と語った彼の顔を、今は彼の正面に座った伊奈が見ている。
「それは、不思議な夢でございましたね」
単調に答えた伊奈を見つめ返し、宋十郎は自分の眉間が硬くなるのを感じた。
「……それだけか」
伊奈の黒い瞳は、彼を見つめている。
「他に、わたくしは何と言えばよろしいでしょうか」
そう問われ、宋十郎は迷った。確かに、彼は何を妻に言ってほしかったのだろうか。
迷った挙句、問い返した。
「……色々、話したが、伊奈は構わないのか」
「ああ、あなたさまが、山犬であったという話ですか」
とうとう宋十郎は、眉を寄せた。
「山犬なのか……とにかく、獣だ」
彼の妻は小さく首を傾げた。
「あなたさまは、人ではありませんか」
「今は、そうだ」
「では、獣に変じてみてください」
「今はもうできない。泉を出たら人の言葉を話せるようになっていたが、あれ以来獣に変じることもできなくなってしまった」
伊奈は、ますます首を傾げた。
「そうなると、あなたさまが本当に獣に変じることができていたのか、私には
返答に窮し、宋十郎は妻の顔を見た。何と言ったら信じてもらえるのだろうか。
「しかし、兄上に鬼が憑いていたという話は信じるだろう」
「ええ、その話は、最初からお聞きしていましたから。だから京へ行かれたのでしょう」
「兄上は、黒く巨大な鬼を呼び出すことができたのだ」
「それも今はもう出せないのでしょう」
またも、宋十郎は閉口した。しかし何とか思いついたことを口にする。
「豊松も鬼を見ている。私たちが京へ旅立つ前だ。私が、犬が出たと言った晩があっただろう。兄上の目を傷つけたのは、犬ではなく鬼だった」
すると伊奈は、表情豊かに眉を上げた。
「そのお話なら、わたくし、もう豊松から聞きました。野良犬が屋敷へ入ってきて
そんなことがあったのかと、宋十郎は妻に悟られぬよう密かに息を呑んだ。
「……豊松は、何と」
「義兄上が狂ったように暴れられて、駆け付けた豊松の刀を奪い、しかもその刀で自ら左目を傷付けたのだと聞きました。豊松は鬼が出たなどと、一言も申しませんでしたよ」
「それは、私が口止めしたからだ」
「では、もう一度豊松に聞けば、今度は鬼が出たのだと教えてくれますか?」
「そのはずだが。それに、私が獣であったという話は、
「本当ですか? わたくしから藤柾に訊ねてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ」
「そんな話は知りませんと言われそうです」
「なぜ、そう思う」
「だって、義兄上がそう仰っていましたから。義兄上以外の者たちも揃って皆、わたくしに嘘をついているか、お忘れになってはいまいかと」
伊奈は淡々と言った。妻のその言葉がどこまで本気でどこまで冗談なのか、彼には読み取れない。
しかし、事実はいくらか、伊奈の言う通りだった。
少なくとも十馬は、忘れてしまっていた。
京の寺本邸から抜け出してきた
宿に着いた時には、十馬の左半身を中心に広がっていた黒い痣が消え去っていた。そして翌日になって目覚めた十馬は、色々なことを忘れ去っていた。
色々なことというのは、過去の記憶の大半である。
辛うじて自分の名は憶えていたし、子供の頃の出来事や、自分が誰かとどこかを旅していたらしいというようなごく最近のことも断片的に憶えていた。しかしなぜ旅に出たのかや、病にかかっていたこと、自分が何歳であるかといったようなことは思い出すことができなかった。
兄は彼を見て、弟が急に老けたと驚いていた。父や母が既に死んだことも忘れており、弟に妻がいることにも驚いていた。
「兄上は、物忘れの病だ。藤柾は、憶えているだろう」
彼がそう言うと、伊奈は考えるように少し間を空け、瞳を伏せた。
「……義兄上の記憶の中に、鬼が棲んでいたのでしょうか」
妻の目元に、柔らかい影がかかった。
伊奈の言うことは、あるいは正しいのかもしれない。鬼を落としたら、十馬の記憶も落ちてしまった。
しかし、記憶の中に棲んでいたのは鬼だけではなかったような気も、宋十郎はしている。
「実を言うと、私も、何かを忘れてしまったような気がしている」
そう口にした刹那、彼の頭の中を何かが過ぎった。
兄が京で目覚める前まで、名乗っていた名は何といったろうか。
たしか兄は、自分を鳥だと言っていた。鳥になって、人に戻ったのである。
「私も、そんな気がしているのです。私たちの記憶の中にも、何か棲んでいたのかもしれません」
そう言った伊奈が、彼の顔を見つめていた。
彼の妻の瞳は、冬の太陽のようである。
真っ直ぐ見つめ返そうとすればするほど、目を眩ませるばかりで、その姿を見ることはかなわない。
彼は目を細めると、慎重に手を伸ばし、妻の手に触れた。
記憶は残るものだが、これから作ってゆくものでもある。
良い記憶の中には、良いものが棲むだろうか。
伊奈の手が、彼の手を柔らかく握り返した。
*
孔蔵は歩いていた。
季節は雪解けの春である。
森を通る街道を抜け、谷間に敷かれたような田畑の間を抜け、彼は
たずね人は、門前で彼を待っていた。
十馬は彼の顔を見ると、顔いっぱいに笑った。
宋十郎と共に京から戻った孔蔵は、一度兄弟が故郷へ帰り着くのを見届けてから、鎌倉へ戻った。
師である
彼が戻った時、和尚はまだ床についてはいたものの、快復に向かっていた。
孔蔵は師に、旅の間に見たものと感じたことを語った。
そしてそこで語るうちに彼が悟ったのは、彼は坊主であり続けたいということだった。
「俺は、自分のこともよくわからねえし、どうやったら自分を救えるのか、見当もつきません。ですから
ただ、俺は人さまのお節介を焼いてたいんだって、わかったんです。なんでか知りませんけど、人が元気に笑ってるのを見るのが、嬉しいんです。俺は堪え性もないし座学もさっぱりです。でも旅をしてる間、俺は人の役に立てたんです。
俺は人に説法なんてできませんけど、坊主の格好をしてりゃ、それが人助けをする理由になるでしょう。侍が旅の路銀が尽きたからって物乞いはできねえでしょうけど、坊主なら托鉢すればいいんですから。必要な助けは人さまから借りて、俺の助けが役に立つ場所では惜しみなく働きてえって、そう思うんです。
その孔蔵の言葉を聞いた時の師匠の笑顔を、孔蔵は忘れることができない。
藍叡和尚は何かを懐かしむように目を細め、彼の手を取って笑った。
「御仏の言葉は、お前自身が聞けばよい。だが、草臥れて迷った時は、いつでも帰ってきてくれよ。この寺はいつでもお前を待っておるし、おまえにはこの先、他にいくつも帰る場所ができるだろう」
その和尚の怪我が完治したので、孔蔵は旅に出た。
手始めに向かう場所が、籠原の屋敷である。
和尚の無事を確かめたら会いに行くと、彼は十馬に約束していた。
十馬は京の旅籠で目覚めた時に、孔蔵の顔も名前も忘れてしまっていた。しかし京からの道中で、十馬と彼は親しくなった。
京で色々忘れた十馬は、色々忘れる前より少し大人しくなった。しかし以前よりよく笑うようになったし、何より触れるようになったので、彼は帰りの道中でよく十馬に話し掛け、青年の肩を叩いて励ました。
そして、彼が和尚の回復を確かめたらまた旅に出たいと言ったところ、十馬はそれに同行したいと言った。
本当に十馬が彼の旅に同行するかは会ってみなければわからないが、ひとまず会いに行くという約束を果たすため、孔蔵は籠原に立ち寄ったのである。
門前で待っていた十馬に案内され、孔蔵は屋敷の中に入った。
座敷へ通され、十馬と並んで庭を望む縁側に座った。
「出迎え、どうして俺が今日来るってわかったんだ」
孔蔵が訊ねると、十馬は首を傾げて答えた。
「今日来るのは、知らなかったよ。孔蔵さんそろそろ来ないかなって、最近昼くらいになると、門のところに出てたんだよ」
「待っててくれたってなら嬉しいな。しかし、そんなぶらぶらしてて宋どのに怒られねえのか」
冗談交じりに彼が笑うと、奥の座敷に座っている宋十郎がこちらを向いた。しかし宋十郎より先に、上機嫌の十馬が答えた。
「昼以外は、豊松と勉強したり、宋の手伝いもしてるよ。色々思い出せないから、あまり役に立てないけど」
「まあ、もし旅に出ちまうんなら、色々お役目もらってもなあ。あ、そうだよ、あんたが旅に出る話、どうなったんだ」
彼が問うと、十馬は答えた。
「うん。行きたいって言ったら、みんないいよって言ってくれた。おれ、孔蔵さんと一緒にどこにでも行けるよ」
それはいい。旅は一人でもできるが、連れがいれば孔蔵には楽しい。
おうと頷いた孔蔵の背後で、今度こそ、宋十郎が言った。
「このような世情ゆえ旅には危険も伴うが、深渓にいても戦がある。……孔蔵どのがご一緒ならば、私には安心だ」
十馬が、歯を見せて笑った。
「おれ、孔蔵さんを守って、孔蔵さんの手伝いをするよ。托鉢も手伝うよ」
「そりゃ助かるなあ。しかしな、托鉢したいならあんたも坊主になんなきゃなんねえぜ。 経典も読まにゃなんねえけど、まずは剃髪して袈裟を着ねえとな」
孔蔵が笑うと、十馬は大きく首を振った。
「じゃあ、やめとく」
「なにい? なんでだよ」
すると十馬は、自分の癖毛の先を掴んだ。
「禿げ頭は嫌だもん」
それを聞いて、彼は思い切り眉を歪めた。
「おい、俺のは禿げじゃねえよ。坊主頭っつうんだ」
その時、くすくすと笑う声が聞こえた。
振り返ると、伊奈が部屋に入ってくるところだった。伊奈の背後には、茶の盆を持った豊松が続いてくる。
十馬が立ち上がり、豊松に歩み寄って盆を手に取った。
伊奈が言う。
「朗らかなお声が聞こえました。戦続きの世だなどと、今ばかりは信じられません」
蕾が開くような伊奈の声が、ふと孔蔵の目を庭の梅へ向けさせた。
宋十郎も庭を見渡し、目を細めた。
「……戦続きの世も、いずれ終わりを迎える。変わらぬものがないのなら、それは乱世とて同じだろうか」
それは朗報だ。
孔蔵は言葉を継いで言った。
「夜が明ければ、朝が来ますからね」
*
孔蔵は十馬と峠道を歩いている。
宋十郎や伊奈、豊松などに見送られて深渓を出たのは、少し前のことだった。
先ほどまで孔蔵は、冬の間に読んだ書物の話や、寺で養っている孤児の話をしていた。色々と話しているうちにふと思いつき、口を閉じると十馬に訊ねた。
「なあ、ちょいと前から気になってんだけどな。あんたが俺と会った時、なんて名前だったっけ?」
前を歩いていた十馬が彼の方を向く。
「おれが、自分を鳥だって言ってたって話?」
「そうそう。そん時あんた、何か別の名前を名乗ってただろ。度忘れっつか、すこんと抜け落ちちまったんだけど、なんて名前だっけ」
「それ、みんな忘れちゃったって言うね」
孔蔵は首を捻る。
「そうなんだよなあ。確かに二十日足らずのことだったけど、一応その名前であんたを呼んでたんだが」
十馬の声が軽やかに喋る。
「思い出せないなら、それでもいいんじゃないかな。忘れちゃえば、なかったのと同じだよ」
むむむと孔蔵は唸った。
「なかったことにはならねえだろ。けど、まるでそんなふうになっちまうな」
すると、十馬は柔らかく笑い、歩きながら言った。
「孔蔵さん。おれ、思い出せなくても平気だよ。なかったことにはならないけど、今この時がすごく幸せだから」
その言葉を聞いた孔蔵は、一度黙って考え込んだが、ふと顔を上げた。
「……ちょっと待てよ。あんた今、あんた自身も忘れちまったとは、一言も言ってねえな」
えへへへと、十馬は悪戯を見つかった子供のように笑った。
孔蔵は眉を上げた。
「あんた、憶えてんじゃねえか」
「憶えてるっていうかね、今思い出したんだよ。最近、色々、少しずつだけど思い出すことがあるんだ」
「何で黙ってるんだよ」
責めるわけではなく、孔蔵は単純に疑問を口にしたが、十馬はどこかばつが悪そうに答えた。
「言うと、もっと思い出しちゃいそうだから」
つまりそれは、思い出したくないということだ。
確かに十馬は鬼になりかけていたのだから、その頃の記憶など思い出したくもないだろう。思い出すということは、頭の中でもう一度体験するようなものだ。
「……なるほどな。余計なこと聞いて、悪かったな」
素直に、孔蔵は謝った。
「ううん。おれも話せなくて、ごめんね。でもきっとそのうち話せるようになると思う。忘れたくないこともたくさんあるし、これから楽しいこともいっぱい増やしていくから」
「ん。そうだな」
彼が頷くと、十馬はにこりと笑った。
「孔蔵さんは、やさしいね」
そんな言葉を誰かに面と向かって言われたのは、恐らく初めてだった。孔蔵は全身がむず痒くなるように感じ、ぶるりと首を振った。
「んなこたねえよ。普通だ普通。それにな、しばらく一緒に歩いてるうち、この糞坊主って思う時が嫌でも来るだろうからな。いい顔ばっかしてらんねえぜ。路銀の心配もしなきゃなんねえし」
あははと、十馬が笑う。
「孔蔵さん、おでこが赤くなったよ」
冬を越している間に、十馬は生意気を言うようになったようだ。
「うるせえ。それよか金の話は本気だからな。行き倒れたら元も子もねえぞ」
「行き倒れそうになったら、農家に行って畑で働かせてもらえないかな」
「あのな、農作業ってな重労働だぜ。やらせてもらえても旅費を稼ぐとこまでいかねえだろうし」
「そっかぁ……孔蔵さんは、旅先でどんな人を助けるんだっけ? お金は貰える?」
孔蔵は言葉に迷った。彼は、自分が役に立ちそうなことなら何でもする気だ。しかし、金を貰えるかどうかはわからない。
すると、十馬が続きを喋った。
「やっぱり、孔蔵さんなら鬼退治かなぁ」
それを言われて、孔蔵はつい十馬の足元を見た。今そこには、何の変哲もない影がある。
ところで、十馬は京で目覚めた時から影を見なくなっていた。それが、宋十郎と彼が十馬から鬼が落ちたと断じた理由のひとつでもあった。
しかし一方で、孔蔵は京での宵を境に、以前より色々なものを見るようになっていた。
それまで彼は呪文で悪鬼を散じることはあっても、影のように曖昧なものを見ることは稀だったが、あの日以来、鬼でなくともこの世ならぬものを見ることが増えていた。
そして、その孔蔵の視界をちらつくものがある。
再会した昨日から時々、十馬の足元に何かが見える気がするのである。
しかし、はっきり何がと見えるわけではなく、確証もない。明確に言えることは何もない。
「ま、鬼が出りゃあやるしかねえよな。まあ結局、金の話は後回しだな」
彼が言うと、十馬は微笑んだ。
「おれの鬼も、落としてくれたもんね」
そう、もしまた憑いたら、落とせばいいのである。
孔蔵はつい寺の子供たちにするように、斜め前にある十馬の頭を手の平でかき回した。
「おう、任せとけ」
髪を乱された十馬が、楽しそうに笑った。
*
十馬と孔蔵が発つ前の晩のことだった。
宋十郎は、兄と連れだって宵の深渓を歩いていた。
村の人々が、行き過ぎる彼らにお辞儀や会釈を送る。それを返しながら、彼は兄と小道を歩いた。
少し歩こうと声を掛けたのは彼である。
何を話すわけでもなく、まだ稲のない田や芽吹く前の畑、その間に転々としている民家などを眺めながら、彼らは歩いた。
彼は十馬に、旅の間も深渓を憶えていてほしかった。それだから、旅立つ兄に故郷を見せようと思ったのかもしれない。
ふと、宋十郎は沈黙を破った。
「旅に出られたら、次はいつ、戻られますか」
十馬が彼を振り返った。考えるように天を見上げ、また彼の顔へ目を戻す。
「どうだろう、よくわからないよ。旅先での都合もあるかもしれないし。でも、冬に寒くなって困った時は、深渓に帰ってくるかも」
そう言った兄が微笑んだ。その控えめな笑顔を、宋十郎は見つめた。
「季節に従って空を渡る鳥も、翌年に同じ巣へ帰るといいます。どうか行き先が見つかっていたとしても、時折深渓を訪ねてください」
頷いた兄が、目を細めて笑う。
その向こうで、藍色に染まりつつある空に、薄く白い月が映えていた。
彼は、兄と月を眺めながら訊ねた。
「兄上――月は、どのように鳴くのですか」
すると、十馬は黒い瞳を瞬きさせ、振り返って月を仰いだ。
兄の顔が、彼から背けられ、そしてまた彼の方を向く。
十馬は可笑しそうに笑った。
「月は、鳴かないよ。宋は時々、面白いこと言うね」
そして兄は、変わらぬ足取りで歩き始めた。
宋十郎が呆気に取られたのは、一瞬のことだった。
軽やかに、十馬は進んでゆく。
その後ろ姿が、空を見上げながら喋った。
「ねえ宋、これは夢だから、きっとずっとは続かないだろうけど、いつかこんな穏やかな日が、ずっと続くような世の中になったらいいのにね。誰も殺し合わずに、妬み合わず憎み合わずに、許すことで幸せになれる、そんな人間と、そんな世界になったらいいのにね。
でも世の中は複雑だし、人間は簡単に痛みを忘れられないし、そんな世界が来るのはずっと先だろうから、おれは起きている間、できるだけ何かを愛して生きたいよ。いつ終わるかもわからないしその間にまた辛い思いをするかもしれないけど、今のおれが終わって眠る時まで、生き続けるよ。
宋はその間、宋の好きなものを守ってね。お前がお前でいてくれることがおれには嬉しいし、お前の勇気が、おれや、他の人の勇気にもなると思うから」
<終>
とても長い物語を最後までお読み下さり、本当にありがとうございます。
あまりに長いので色々な所を削り落とし、説明不足になってしまった点が多々あります…申し訳ありません。描ききれなかった部分をいつか書けたら嬉しいです。
また、もし一瞬でも楽しんで頂けていたら、♡や☆などを残していただけると大変ありがたいです。ご感想など頂ければ、泣いて喜びます(T_T)
ですが、読んで下さっただけでも、改めて本当にありがとうございましたm(_ _)m
真田
月の啼く聲 真田 @kazuhiko_sanada
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