一億総評論家社会
結騎 了
#365日ショートショート 102
「今や誰もが評論家のように発言できる時代。だからこそ、この機能が必要なのです!」
システム開発部の田之上は、声高々に主張した。
「我が社のSNSサービス・ツイッピピーは、利用者数がすでに4,000万人を超えています。ユーザーそれぞれが好きに発言できますが、その反面、個々のユーザーは物事を全て批評的に受け止め、それすらも自由に発言するようになりました。もちろん、良い批評は大歓迎です。しかし、こういった土壌が誹謗中傷の温床になっていると、私は考えます」
「それで、君の提案を具体的に話しなさい」
専務の落ち着いた声が響く。ここは、部長クラス以上が集まる経営会議の場。田之上の企画案が採用され、晴れてこの場でプレゼンすることを認められたのだ。
「はい、それではお配りした資料をご覧ください。私がご提案するのは、『ユーザー批評システム』です。物事を批評するからには、その発言者も同じように批評されるべきでしょう。ユーザーは他のユーザーに対し、その発言の正確性や妥当性、信ぴょう性を常に採点することができます。これをぜひ、ツイッピピーに実装したいのです」
ぺら、ぺら、と資料をめくる音が行き交う。
専務は続けて質問した。「それで、あるユーザーが他のユーザーに批評され、仮にその点数が低かった時、いったいどうなるんだい」
「点数の低いユーザーの発言には、警告が載るようにしたいです。例えば発言の下に『このユーザーの発言は妥当性に欠けるおそれがあります』といった文章が、赤文字で掲載されるのです。これは、発言者であるユーザーには絶対に消すことができません」
「なるほど……」専務は顎に手をやり、考えにふけった。
田之上の勢いは増す。
「ぜひ、前向きなご検討をお願いします。不特定多数の評価を尊重し、健全なSNSを運営したいと思っています。よろしくお願いします!」
「さて、スコアを教えてくれないか」
田之上が退室した後、専務は人事局長に問いかけた。人事局長は手早くノートパソコンを叩く。
「はい、出ました。社員同士の勤務実績相互評価制度によると、田之上くんのスコアは、偏差値43です」
専務は資料を折り畳み、机に放り投げた。
「ならば、信用ならんな」
一億総評論家社会 結騎 了 @slinky_dog_s11
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