魔眼の勇者は復讐を遂げる~異世界で復讐に生きる、たった一つの冴えたやり方~

あずま悠紀

第1話


「さてさて。

それでは始めようか」

**

『――汝らよ。我が問いに答えよ』

暗闇が揺らめく水面の如く揺らめき波打った。その瞬間に全ての意識を失っていた人間たちの瞳から、意思なき意志たる光が消え去る。同時にそれは全ての人間たちが目を覚ますことを意味する。

だがそれは、ただ目を開けるだけではなかった。瞼を開いた先に待っていたもの――そこは今までいたはずの場所ではないことを一瞬で理解させるには十分な光景だったのだ。

(なんだここは?)

(あれっ? 俺は何やってたんだっけ)

(なんだいこれは一体?)

(えっ! どこここ!?)

(うわぁぁ!)

困惑する者や慌てる者が殆どの中。ただ一人だけ違う反応を見せた少年がいた。

それはこの世界における異端児と呼ばれる存在だ。その異端な力ゆえに疎まれ蔑まれる。

彼はその力によって、この世界に落とされたのだから。そしてそんな彼だけが気付いていたことがあった。自分が今置かれた状況が何なのかを。何故こんなことになってしまったのかを。そしてこれからどうすればいいかを。だからこそ彼の行動は極めて早い。迷いも躊躇いもなく動いたのだ。己が為すべき事を果たす為に。

(そうだ俺はここにいるみんなを殺さないといけなかったんだったな。俺の為に。そうしなければきっと俺が救われないから)

ただ殺すだけではダメだと思った。もっと絶望感を与えなければいけないと感じた。

そして考えた結果辿り着いたのが――死すら超越する程の恐怖を与えるということだった。ならばやるしかないだろう。もう後には戻れないのだ。

そう思った途端に自分の身体が勝手に動き始めたことに驚いたのもつかの間。次の瞬間には自分の口から発せられる聞き慣れてしまった自分とは違う声色を聞いてさらに驚かされてしまう。それも仕方がないことだろう。なんといっても先程までは普通のどこにでもいそうな少年だった筈なのだ。

なのに今は、この世界を創造したと言われる神々にも負けず劣らずと言ってもいい程の威厳ある美形へと変わり果てているのだから驚きも倍増してしまうというもの。それにこの体になってから不思議と思考までも別人のような気分になってしまっているのだ。

(まさかとは思うけどこれも神様のせいとか言っちゃってたりしてねー?)

内心そんな事を考えている間にも自分の体は勝手に動いていく。まるで自分が自分でなくなってしまったような感覚。だけどそれでも構わないと思えてしまうぐらい、目の前に広がる地獄絵図を見てしまえば、こう思っていても仕方のないことだったろう。むしろそれで良いのかもしれない。だってこの世界の人々は、自分達を苦しめた張本人でもある神の手によって殺されたという事に間違いは無いのだから。

(ふぅむ、やっぱり神様がやったことになっちまってるみたいだなーまあでも別にいっか!それよりも早く終わらせてあの人のところに行かないと!そしたらまた褒めてくれるかもだし!!よし頑張りまっすよ~!!!!)

その言葉を最後に少年の動きが完全に停止すると同時に周囲の風景は元通りになっていた。先程まで見ていた光景が全て幻のように思えるほどの変貌ぶりである。そしてそこに残っていたのは何も変わらない日常の姿だけだった。ただいつもと同じ日々を過ごしていく。それだけでよかった筈の世界――

それが今この一瞬で崩壊していく。そしてそれは誰に予測出来たであろうか? *

* * *

――――――

「なっ!?」

僕はその少女の言葉に驚愕させられた。

だってそれは僕にとっては到底信じ難いものだったからだ。

しかしそれは同時に希望にも繋げられる。この世界に来たことによって初めて得たチャンスとも言える。そして何よりもその言葉の内容自体が嘘じゃないならその事実を受け入れざるをえなかったんだ。なぜなら彼女が言っていることが仮に真実だとするならば、この異世界に飛んできた理由は恐らく僕の願望によるものだと思うから。だから、その言葉をそのままの意味で受け取っても良いということなのだ。

そう。彼女との出会いはこの異世界に飛ばされてきた時と同じ状況なのだから――


* * *


* * *


* * *

*

『な、何を馬鹿なことをおっしゃいます!?』

彼女は動揺を隠すことさえ忘れてしまっていた。それほどまでにこの男の言った内容が理解出来なかったからである。だが、その発言がどれだけとんでもないことであるかを彼女自身も分かっていた為、思わず聞き返してしまったのだった。

そんな彼女を気に止める様子もないのか。男はニヤッと笑みを浮かべると、さらに続けてこんな言葉を吐く。

『お前達は勘違いしているようだから教えてやるが、俺はな。別にこの国の民全てを救おうなんて微塵も考えちゃいない。俺はあくまで己の為に行動するだけだ。だからこそこの国はどうなってもいいんだよ!』

そして男がそう口にした瞬間だった。男の背後にある建物から凄まじい衝撃音と共に大きな振動が発生したのである。その光景を目にし誰もが絶句することになってしまったのだ。

何しろそこには――。つい数分前までは確かに存在しなかった筈の塔が出現していたのだから。そしてそれは同時に、今この瞬間において塔を一瞬で生み出せる存在など一人しかいないということを示している。つまりこの男が神の加護を持っている者だということ。それ故にこの国の人々にとっての脅威となってしまっていたのだ。

それは何としても防がなければならない事態だと言えるだろう。しかし、それを成そうと考えることすら許されなかった。何故ならば既に男の身体が宙へと舞い上がっており、今まさに建物の屋根に向かって自由落下中なのを目の当たりにしてしまえば――

もう諦めること以外何も出来ることはなかったからだ。

(なぁっ!?まさかこれは神の力なのか?)

しかしいくら何でもありえないだろうと男は内心呟いてしまう。というのもその光景を見れば普通は誰もが同じような反応を示すはずであり。その証拠に他の人間たちも驚きすぎて声すら出せなくなっていたのだから。

それでもまだなんとかなりそうだと思ったのも束の間のことだった。

何故なら今度は背後から聞こえてきた音がその原因を証明して見せたからだった。

それは――ズドンという轟音を鳴らしながら何かが上空から地面に落ちたことを表すものだ。

一体何故なのか? そう思って振り返った瞬間に男は見てしまったのだ。空に浮かんでいる一人の人物の顔を。その者の顔を見た瞬間に、まるで全身が凍りついたかのように身動きが取れなくなってしまっていた。

(な、なぜアイツがここにいるのだ?)

そう思った瞬間にはもう遅かったのかもしれない。

目の前に現れた者はゆっくりと手を差し出してきたかと思うと。そのままこちらに向けて指を差す。

それと同時に放たれた攻撃魔法により周囲の人々は無残にも消し炭になってしまったのである。

「ふむ、流石にこれぐらいで全滅とはいかないだろうね。何せ君達の中に勇者がいるのだから――まあ、それも関係ないか」

そんな事を平然と言ってのけた後。すぐに視線を移したかと思えば、今度はその矛先を向けたのはなんと自分の方だったのである。そう気づいた時には既に目の前まで近づいてきてた相手によって首を絞められてしまっていたのだ。

『ぐぅ! 貴様ぁ!! はっ離さんか!!』

「いやだねぇ。俺は別に君の事なんかどうでもよかったんだけどさ。一応この国がどういうものかを確認しておきたかったんだよねーまあ確認したところでよく分からなかったわけなんですけどね」

(やはりコイツの目的が分からないな)

*

* * *

*

* * *

この世界にやってきた理由は間違いなく僕の願いによるものである筈だと思っていた。そしてその為には神からの祝福を得る必要があって。でもその方法がいまいち分からないということもあって色々と試しながら探していたところ。ようやくこの異世界にて見つけ出すことができるようになったのである。

だけどそんな矢先にいきなりの出来事が起きたのだった。突然目の前に見たこともない巨大な建物が突如として現れたと思った途端。その建物を囲うようにして存在していた塀の内側に人が大勢集まっていることに気づいた。そしてそこから感じられた気配。それが今までに体験したことのない異様なものであったことから、この場から早く立ち去らないと大変な事が起きるのではないかと直感的に思ったんだ。だからこそ僕は即座に移動を始めたのだった。

*

――しかしそれがいけなかった。そのお陰で気づいてしまったのだ。今現在自分が誰に捕まっているかということ。しかも首元を強く掴まれていることによる息苦しさを感じてしまっているのだから。そんなことを思いつつ抵抗してみたのはいいのだが。それがさらに良くなかった。相手の力が強いせいで思うように動けずに、結局振りほどくことが出来ずにいたのだ。

(このままじゃ不味いな。それになんだかヤバい雰囲気だし)

何とか逃げないとと思い必死に思考を走らせた。

(とりあえず落ち着かないと。それには情報が必要だよな)

まずは自分の状況をしっかりと把握することが大事だと判断した僕。だから自分の置かれている状況を把握するために、少しでも多くの情報を欲していたのだった。そしてその結論に至ったのとほぼ同時に僕は目を閉じると意識だけを別の場所に移動させたのである。するとそこで僕が真っ先に行ったのが、自分自身の状態の確認だ。

(よし!ちゃんと体はあるよな!それに服装も変わっていないみたいだし!あとは周りの様子だな)

まず自分の体を一通りチェックしてから周囲を確認すると、そこは先程まで自分がいた場所にそっくりの場所で間違いはないみたいだ。ただ決定的に違う点があった。それは先程まで周囲に沢山いた筈の人達の姿が見えなかったことである。その代わりそこに居たのはたったの一人の人物だけであり。その姿を見てしまえば、この状況から推測できるのは唯一つだけだった。

(まさかここはあの塔の内部ってことだよな)

そうと分かれば、後は行動に移るだけである。(さっきから何を話しているのかが聞こえればよかったんだが)

さすがにこれだけ距離が離れていると聞き取ることが出来ない。だからこそもっと近くへ移動しようと考えたところで――

「あっ、おい!」

という男の驚いた声が耳に入ったところで僕の身体は再び動いていた。そしてすぐさま男の懐に飛び込んでいくと、そのまま背負い投げを仕掛けたのである。

『がはっ!?』

その結果、男の口から苦悶の声が上がったと同時に、勢いよく背中から床に叩きつけられることになる。そしてすかさずその男の上に馬乗りになった。そして男の身体の自由を奪うと、素早く男の口を押さえつけ。これ以上叫ばれないよう黙らせることに成功する。しかしそれだけでは安心出来ないので僕はその手を外さないよう力を込め続けることにしたのだった。

――そして数秒が経過した後のことである。

男は僕の手を振り払おうともがくように暴れ出したのだ。

(どうも様子がおかしいな?やっぱり僕の考えていることが事実なのか?)

そう考えた瞬間だった。男に僕の動きを止めるためであろう。突然身体を抱きしめられてしまい。それと同時に男の体全体から熱を感じたのである。

(しまった!これはもしかして!? とにかくなんとかしないと!!)

僕は咄嵯の判断で魔法を放つことを決める。しかしその時、男が急に顔を上げ、こちらに向けて何かをしようと試みてきたのだった。それを見た瞬間から反射的に逃れる為に男の身体から身を剥がし、後ろに飛んだところだった。

しかし次の瞬間、僕の目にとんでもない光景が映り込むことになってしまう。なんと目の前に存在していたはずの建物が忽然と消え去ったのだ。そして代わりとして、そこには塔が建っていたのだった。

(な、何が起きているんだ一体!?)

余りのことに困惑してしまう。そして更に追い打ちをかけるかのように、目の前にいる男から放たれていた圧力が徐々に強まっていき、最後には爆発するような形で解き放たれる。その威力は凄まじいもので。その余波を受けて周囲の建物が大きく吹き飛んでしまっていた。当然その影響を直に受けてしまった人間達は皆死んでしまっていただろう。その事に思わず顔を歪めてしまった。そして同時にその光景を見たことにより確信したのである。

(この人はもしかしなくても加護持ちのようだ。だとしたらこの力はおそらく加護の力の一部でしかない筈!ということは他にもまだ隠している加護があるかもしれないな。というかこの男の加護の能力について全然分かってないんだよな。今の段階で何が出来そうかだけでも確認したいところなんだけど、そう簡単にはさせてくれないかな?)

目の前の男は加護を使って僕に対して攻撃をしてきたのかもしれない。しかしそう思った途端にまた新たな問題が発生することとなる。何故ならこちらの攻撃は当たらなかったからだ。

(どうして!?まさか攻撃を避けたわけじゃないよね?)

そう思ってすぐに目の前の男を鑑定魔法を発動したところ。その理由が分かるのである。

(そういえば加護の説明に回避スキルっていうのが確かにあったっけ!てことはあれか!そのお陰でこっちの攻撃を回避出来たのか!)

どうやら男はこちらの行動を読み取って避けて見せたようである。しかしこちらが攻撃を当てられなかった理由はもう一つあった。そう。こちらの手の内がバレているということだ。

(もしかして最初からこの男はこうなると予想していて対策を立てていたというわけなのか?そうだとしたらかなり頭がキレるというわけになるな)

だが、それでもやることは変わらないだろうと思ったのだ。相手がどれだけ頭の切れる相手であろうと、その能力さえ見破ることができれば対処出来ると思ったからである。だから僕は再び男に向かって動き出そうとしたところで、目の前にいた男が突然姿を消してしまったのだ。これには驚かされたのだが。その直後の出来事を目の当たりにすることになる。

そう思った矢先の事で。僕の目の前には巨大な火柱が立ち昇っているのを目にしたのであった。

そのあまりの大きさに一瞬にして僕の視界を覆ってしまう。

それでも何とか確認しようとするが――

(うーん、駄目だ見えないか。とりあえず一旦引いて相手の出方を窺うことにしようか?)

そう思った瞬間。僕の頭上に影が現れたと思った瞬間。目の前に炎が迫ってきていたのである。それを認識した後の事は早かった。即座に魔法を使い水属性の障壁を展開したのだった。

(危なかったぁぁぁぁぁ!もう少し判断が遅れてたらやられてたかもしんないし!!)

冷や汗を流しながら安堵のため息を吐く。そしてその後。僕は改めて相手の能力を確かめようと集中力を高めると。相手のステータスを確認する。

(うん、流石にここまで来ると相手の強さも大体は理解できるようになってきたぞ。それにしても相手のレベルは100越えてるんじゃないかこれ。しかも称号の中に【魔王殺し】とか書いてあるし)

【名前】神坂 零斗(かみさか れと)【年齢】16【職業】勇者(*1)【体力】4500【気力】3400(↑1000up! ←New!)【魔力量】6800

※固有スキル発動時は+5700

※最大魔素量は神の器の所持効果により変動しない。


* * *


* * *


* * *


* * *

【主人公】名前:なし

加護:????

称号:?????

* * *


* * *


* * *


* * *

これが今の自分のステータスだ。

ちなみにこの世界での平均数値というのは聞いた話によると、冒険者ギルドに依頼されている魔物討伐をした場合。平均で15レベルの敵と戦ってようやく倒せるかどうかというくらいらしい。その事から考えると今対峙している男の力がどれほど異常なのかがよくわかるというものなのだ。それにしてもある意味これはチート過ぎないかと思ってしまう。なんせこの世界にやってきたことによって得られる恩恵の中で一番高いと言われているレベルが30前後だ。なのにこの世界の最高値に近いレベルに到達できているうえに、その上限である100の壁すらも超えているのだから。それに他の職業にしても軒並み50~60辺りまで上昇しているのだ。しかもその状態でまだ成長している最中なのでどこまで強くなるのか全く分からないのである。

だからと言って、そんな力を手に入れているにもかかわらず油断できるかと言われたらそれは無理だろうと思っている。なにせ目の前の相手は自分の力を試す為だけにこんなことをしているのだから。だから決して手を抜いて戦って良いわけではない筈なんだ。そんな事を考えつつもとりあえず、目の前に迫ってきている炎に対して風の結界を展開すると、それを防御することにする。すると先程までは防ぐことすらままならなかった一撃を防ぐことに成功したのだった。だけど、それも一時凌ぎにしかならず。このままではいつか突破されてしまうのだろう。だから何とかしないといけなかったのである。

僕はそこで一つの作戦を実行することを決めた。

それは先程のように僕の持っている固有技能を有効に使うことで、何とか相手を封じ込められないかというものだ。

(よし、やってみるか)

そう思いつつまず最初に実行に移したのは雷を自分の体中に帯電させることだ。そして次に自分の体の中を駆け巡る電流を操作し始めると自分の体に雷の力を宿らせたのである。

その結果、全身をバチバチと音を鳴らして電撃に包まれることとなる。それによって僕は肉体の機能を強化させていった。

その行動に目の前にいる相手から警戒心を向けられているような気がしたが、構わずに次の行動に移った。

今度は両手からそれぞれ電気を放出し始めたのである。そのおかげで両肩から両腕までを放電させている姿となる。これで準備万端であるとばかりに笑みを浮かべて、次の行動に移ることにする。

目の前に存在している相手を見据えると、その男に向けて右手を向けたのだった。それと同時にその手の中には小さな稲妻を発生させて見せていく。

しかしそれではまだ終わらない。そこから僕は体内で圧縮していた風を解放することにした。その結果。手のひらから勢いよく放たれた真空の刃によって男の体が刻まれることになったのだった。

――その結果。その男から苦悶の声が漏れたと同時に鮮血が舞うことになったのである。

「――がっ!?」

それと同時に男の表情から苦悶の色が見えたことから、間違いなく痛みを感じていた筈である。

僕はそれを好機と捉えることにした。

なぜなら僕の攻撃が当たった場所がちょうど首の付け根であり、そこに切り傷を作った結果、男の首から大量の出血が見えたからだ。それに加えてその男が着ていた鎧も破壊されており。更にはその男の肌までもが大きく切り裂かれている。

これだけの状況を見て、この勝負に勝つためのチャンスは十分にあると判断したのである。そしてそれと同時に一気に攻め込むことに決めた。その為にも僕は目の前にいる相手に手を向けると、そのまま魔法を放つことにしたのだった。

そう思ってからすぐの事で僕は相手の体に対して雷を放つことに集中する。そしてその雷撃が命中した直後。

「ぐあああああああ!!」

と男が叫び声を上げた。しかしそれでもなお魔法を行使し続け、僕が魔法を放つことを止めなかった。

するとどうしたことだろうか、次第に男の方から発せられる悲鳴の感覚が短くなり始めていたのである。しかしそれでもまだ止めるわけにはいかなかった。そう思った瞬間。僕は咄嵯にその男に纏わりついている雷撃に、更に別の雷撃を重ね合わせる。

そして二つの魔法を同時に発動したのだった。そうすることで僕の目の前には男の身体から発せられていた火花と、更に激しく飛び散っている稲光とが見えることになる。更にそれだけに留まらずに。僕の放った魔法のせいだろう、男の周りに発生している雷球が次々にその身体へと吸い込まれるように引き寄せられるのも目にすることになった。そして最終的に僕の目に映った光景は。無数の稲光が男に襲い掛かっている光景である。その光景はまるで男が稲妻の柱に呑み込まれてしまっているかのように映っていた。(うーん、少しやり過ぎたかもしれないな。でもこれ以上の手加減は難しいしな。まあ、死んではいないと思うんだけどな)

そんな事を思っていた矢先のこと。男の体を覆うようにして存在していた火花が収まったと思った矢先。目の前に居た男は意識を失い地面に倒れ込んでしまったのであった。しかしそれでも魔法を止めることなく行使し続けた結果。とうとう限界が来たらしく、遂に魔法は途切れてしまうのである。その瞬間に僕の体は元の姿に戻ることになったのだが。その時だった――。突然男の姿が僕の目の前から消えることになる。しかしそれが当然の結果だと知っていたので驚きこそしなかったが、それでもまさかこんな展開になるなんて予想できなかった僕は目を丸くしてしまうのであった。

その出来事を目の当たりにした僕は驚愕のあまり言葉を失うしかなかったのだから。何しろ目の前にいた男が僕の視界から外れたかと思えば、いつの間にか空中に出現し、その男を蹴り飛ばしたであろう人物がいたのだ。その事に気付いて僕は目を大きく見開くこととなる。

その男は僕の目に前に突如出現したのである。そう思った矢先の事。突然のことで対応出来なかった僕はその攻撃を貰ってしまう。

その一撃を受けた途端。僕は衝撃と共に吹き飛ばされることになるのだが。その際に僕は背中を壁に強打してしまったのである。

そうして僕は一瞬息が止まりそうな程の激痛を味わいながらもすぐに体勢を立て直すと目の前の人影を睨みつける。

そしてその人物が誰なのかを理解するためにステータスを確認しようとしたところで――

(え?なんでこの人がこの世界に来ていることに気が付かなかったんだ?!しかも、レベルは70を超えてる?それにこのステータス。この世界の人間のものじゃないぞ?!どういうことだ?!)

その事が僕の頭に浮かび上がってくると、その人物はこちらを向いたかと思えば。いきなりその手を僕に向かって伸ばしてきた。

しかしそれは明らかに不味いと直感的に思ったためすぐさまその場から離れようと試みるも、相手の動きの方が遥かに早く、僕はその腕を掴み上げられてしまう。

それでも何とか振りほどこうと必死に抵抗するも虚しく、逆に相手の力に圧倒されてしまい地面に向かって押さえつけられてしまう。

しかしそれでも何とか抜け出そうとする僕は相手の腹に渾身の蹴りをお見舞いする事にした。

すると相手は顔を歪めつつ苦しんでいる様子だったので、これは好機だと考え、相手の顔面を思いっきり殴りつけたのである。

それによりその相手の顔に赤い線が走ったことで鼻血が出ていることに気がつき、相手は怯んでくれたお陰でなんとか逃げ出すことに成功したのだった。

それからどうにか相手を振り切ることに成功すると、その隙にステータスを確認すると、レベル120を超えていたことに驚いた僕は思わず唖然とすることになる。

(なんだよ、こいつ本当にレベル100越えの化け物じゃねえのかよ。しかもレベルだけ見たら俺と同じ100越えしてやがんじゃねェのか?!ふざけんな!!こんな奴がゴロゴロいたら世界のバランスが完全に崩壊しているって!それにこのレベルのステータス値なら普通に国を一人で壊滅させることも出来るんじゃないか?しかもあの時見せた固有スキルって、確かあれ、雷を身に纏って身体能力を向上させる効果を持っていたよな?それなのに雷を身に纏ったら肉体強化どころか超高速で動くことが出来てしかも攻撃力まで向上していたって事は、もしかするとこの世界に来たことによって与えられた【勇者】という称号の恩恵なのか?)

と、心の中で思いつつも、僕はこの状況をどうやって打破しようかと考えていたのだ。というのも先程までの僕は相手が弱かった事もあり、何とか魔法だけで押しきれていたのでそこまで苦労していなかったのである。だけど今回の相手は明らかに異常な数値をその能力として保有しており、それに今の僕では対処するのが困難な程に強過ぎる相手だったのだ。

そう考えているとそこで僕の頭に閃くことがあった。なので僕は即座にそれを試してみることにしたのである。

そしてその考えとは――。

自分の持っている加護の力を使えばどうなるのかと言うことであった。そこで早速僕は自分の持っている神様に与えられた加護の一つ。神獣の召喚を使ってみることにする。

そう考えた後、僕は右手を空に掲げて念じることにする。

そうしてその行動をとった瞬間。

目の前の空間が波紋が浮かぶように揺らぎ始めていく。そしてその直後。僕は目の前の光景が先程とは違っていることに気がついたのである。そしてそこには先程までは存在しなかったはずの存在が存在したのだ。その存在こそがこの場に現れた目的である。そしてそれはその姿を現したと同時に、先程僕の目の前に現れていた相手に向けて牙を向けていく。そして次の瞬間には、僕の目の前から先程の男が姿を消してしまっていた。

それはつまり、僕の目には映らなかったものの、確実にその相手は殺されてしまったことを指しているのである。

僕は目の前の出来事を呆然としながら見ていることしか出来なかった。何故ならその相手の姿を見た時に、その正体に気がついていたからである。そして僕はその相手の名を口にしたのだった。

「麒麟だったのですか?」

「ああそうだ」

そう、その生物の名は麒麟であり、本来ならば地上に姿を現すことはまず無いとされる神聖なる生き物なのだ。

その麒麟が現れた理由、それは――。

「お前さんを救いに来てやったんだ」

「僕の事をですか?でも一体なぜ――」

そう疑問を抱くも、直ぐに僕の頭の中に浮かんできた答えが一つあった。それ即ち、僕を助けてくれたと思われる存在の正体は、この国の人間たちに疎まれてしまっていて。それ故にこの国に存在している人々によって苦しめられている存在であるからだ。それを証明するかのように目の前の麒麟は全身が傷だらけであり、そして何よりもその目には光が宿っていなかった。

その目を見ていれば分かることなのである。

だからこそその答えが間違いないと分かった。そう、その人物は――。「もしかしてあなた様が、あの方から聞いていた『白虎』なのですね」

「そうだ、私の名前は玄武、これからは貴方に仕えようと思うのです。しかし主殿は、私の事をただの使用人としては扱わないと言っていた筈です。それでも宜しいのでしょうか?」

その言葉を聞いて、僕はその質問の意図するところを理解していた。

確かに彼女の言う通り、使用人として扱うつもりなど僕には無かったのである。そしてそれは今現在も変わることは無いのである。

なぜなら彼女は僕の友達の一人になる予定の存在だ。だからこそ僕としては対等の関係を築くつもりでいるのだった。だから彼女にはその事を伝えた。

しかし、それでも彼女の中では納得がいかなかったようで。少し悩んだ表情をしていた。

それからしばらくして彼女が決心したかのような瞳を見せるとこう口にしたのである。

そう、この時から僕にとってとても不思議な生活が始まることになる。それは僕の人生における最大の転機とも言えたかもしれないものだった。しかし、その先に待っているのは希望ではなく絶望だということを知るのはこの少し後のことになる。

ただ今は、目の前で起こっている事態に目を奪われていてそんな事は考える暇も無かったのだけれど。そう、目の前に居る存在が僕の目に飛び込んできた光景を見て唖然となり、暫く言葉を発することすら出来ずに固まってしまっていたのである。

その光景というのが何を示しているかと言えば。僕の前では何故か僕の加護の一つである、雷を操ることができるという固有スキルが勝手に発動していたのだ。そのお陰で僕の目には見えなかったものがはっきりと映し出されており、そして理解させられた。目の前に存在していたのは紛れもなく僕が先ほど殺しかけた人物で。

しかしそれでもまだ意識を失っていない様子で、身体中に電気のようなものが流れているような気がするけど、意識がある状態ではまともに動くことは出来ないだろうと思うほどに疲弊しきっていたのである。

そしてそれとは別に、目の前の人型の存在がその手の中に魔法で作り出したと思われる杖を手にし立っていた。その人物の外見はまるで人形のように綺麗で可愛らしい容姿をしている。その見た目だけでいえば僕より年下にしか見えないので、恐らく10歳ぐらいの少女だと予測できた。その証拠に少女の頭の上には金色の王冠を頭に乗せた天使のような白い翼を持っている女性の姿を象ったアクセサリーが付いているティアラが載せられていたのだ。

それだけを目にすればこの人物が王侯貴族であることは想像するのは簡単だったのである。だけど僕はその人物が王族であることを一目見て確信してしまったのであった。というのもその理由として挙げられるのは目の前にいる少女の顔にある装飾品であった。それが僕の記憶の中にあるとある王家の者達と瓜二つだったということもある。それに何より、僕はあるスキルでこの目の前に存在する女の子が誰か分かってしまったから。

それは神眼と呼ばれるスキルである。その名前が示すとおりに相手のステータスや所持している称号などを覗くことが出来るスキルなのであるが、その能力のお陰もあり僕が今目の前にしている少女が誰なのかを理解することが出来たのだ。だからこそ僕はその人物の名を無意識のうちに呟いてしまっていたのである。

「聖女王アリアハート?」

しかし、僕の声に反応した人物は僕の顔を見るなり目を大きく開いて驚きを見せていた。だけど、それと同時に僕に対して恐怖を覚えたらしく、悲鳴を上げ始めると、その場に座り込んでしまったのだ。

(え?一体どういうことだ?)

どうしてこの人がこんな怯えてしまっているのか分からなくて困惑させられてしまっていた。そこで僕の脳内に神様の声が届くのだった。

《お主に恐れをなしたからのようだぞ》

「恐れをなすって、まさか僕のせいなのか?」

その言葉を聞いた時、思わず愕然としてしまうのだった。だけどそこで僕の耳に再び神の言葉が入ってくる。

《うむ。その女は自分のステータスを見られたのが原因だと思うのだが。おそらくはレベル99という限界を超えた数値を目の当たりにしたことでお主の力を実感させてしまったのであろう》 そこでようやく自分がしたことを思い出したのである。そこで慌てて謝罪することにしたのだ。すると彼女は涙を浮かべながら首を横に振ってくれてどうにか泣き止んでくれたのだった。

そしてそのお陰で僕は落ち着いて話をすることができた。その話の内容は――。

「貴方は何者なんですか?先程私が倒した相手を倒してしまうなんて凄すぎますよ!本当に助かりました!本当に感謝してもしきれないくらいですよ!」

その言葉でどうにか落ち着いた。しかし先程の戦いについて思い返していた僕は、相手の男を圧倒する強さを持っていた相手を倒すことができたのだから。僕はこの国の人達を助ける事が出来たのではないかと感じていた。そしてその思いを彼女に話すことに決める。そしてその事を正直に話すと、

「それでは貴方はこの国の人々を救いに来たというのですね。分かりました、私はこの国の第一王女として出来ることをしたいと思っています」

そう言って貰えて良かったと安堵すると、改めて自己紹介を行うことにした。そうして僕の方も名乗ることにしたのだ。すると目の前に居る女の子が急に顔を真っ赤にして俯き始めたのである。どうしたのかと思い尋ねると。

「そのお名前はもしかすると神様が私に遣わしてくださった使者なのですか?それとも私の前に現れた救世主様なのでしょうか?」

その言葉の意味を理解したのは、彼女の口から『神様』という言葉が出た直後だった。僕はそこで自分の名前を名乗ったときに彼女が驚いていた理由を知ることになったのだ。それは僕の本名と僕の持っている加護の力を知ったからだったのだ。そして彼女は僕の事を知っているみたいだったので、そのことについて聞くと彼女は僕の予想通りの答えをしてくれたのである。

「はい、私の祖母が先程まで貴女様に助けて頂いた姫でして。そしてその方に聞いていました。異世界からこの地にやって来た方は神に選ばれた存在であると」

そして彼女は、先程とはまた違う笑みを見せる。僕はその微笑んだ顔に見惚れて、しばらく動けなくなってしまいそうになるのだったが。ここで本来の目的を忘れてはならないと思ったのだ。そう、先程までの僕は目の前の彼女とは戦いたくなかったので。戦わずに済むように話し合いをしようと考えていたのだから。だから目の前に居る彼女に向かって、今この国の中で起きている問題について尋ねることにした。

「実は私達もこの国に居る人々に苦しめられていました。でも先程私達はその問題を解消してきまして、その事でこの国は救えるのだとそう信じていたのですが。私達がここに来る前に、この国が他国によって侵略されようとしていたのです。それを私達の仲間と共に止めてきたのですが、その際に多くの国民たちが死んでしまって。私の仲間達の中にも亡くなってしまった者も居ます」

「それでその亡くなられた人々はどうなったんですか?」

「残念なことに亡くなった者達は生き返ることも出来ませんでした。そしてその事によってこの国は完全に滅ぶ運命にあったのですが。そこで現れたのが神様でした」

「そう言えば神様のことを何か言っていたような気がしますね」

僕は彼女が話してくれた内容を聞いて、確かにそのような事を言っていた気がしたのでそのことを彼女に告げると。彼女は目を輝かせ始めて。

「やはりそうだったのですか!でも何故貴方はここに来ていただける事になったのですか?」

「その事なんだけど」

そして僕は彼女から色々と話を聞いた上で僕がここに訪れた本当の理由についても彼女に話し出すのだった。

「僕はこの世界を救うために来たんだ。そのためにまずはこの国に訪れている闇を払っていこうと思う」

僕が彼女にそう宣言したところで。目の前の美少女が目を大きく開けて僕の方を見てくる。まるで何を言っているんだこいつはという感じの目で僕を見てきて。そして口を開いたかと思うとその口調が一気に砕けていったのである。そして彼女の表情からは信じられないというような驚愕の顔が伺えたのであった。

それから数分後、僕は彼女と話をしていたのだが。その中で分かったことがある。それは、目の前の女の子が見た目通りの子供ではないということである。その事は僕が最初に彼女の姿を視認した際に思ったことが正しかったことの証明となったわけだ。その理由としては彼女の頭の上に付いているティアラだ。あれこそ僕達の世界で最も有名な王国の象徴であり。その国の名は『グランタニア』。

この世界はグランタニアと呼ばれる名前の世界らしい。僕が元の世界にいた頃に暮らしていた世界によく似た世界なのだと知った時は嬉しさを感じたものだった。ただ、僕の場合は神様にこちらに来る時にこの世界を創世した人物の名前を尋ねて教えてもらったから知っていただけで。他の人間は誰もこの事を知らないのだけれども。そう考えてみるとこの少女の正体が誰であるかが分かってくる。つまりは、僕の前に現れたこの子は――。「まさか君って、創造神の関係者だったりするのかな?」

そう言うと目の前に居る彼女は少し戸惑う様子を見せたが、すぐに僕に微笑みかけながらこう答えるのであった。

「やっぱり分かりますよね。貴方には隠し通せないようです。はい、私がお仕えしているお方がこの世界をお造りになさった存在様であらせられます」

その言葉を聞けた時点で僕は心の中でガッツポーズを決めるのであった。これでこの子の態度がいきなり変化した理由が分かったのだ。僕が現れたことで創造神に認められた存在だと分かり。僕に尊敬に近い感情を抱いた結果だろうと考えたのである。しかしそうなれば気になることもあった。その疑問を口にすると少女は首を傾げながらも。その質問に回答してくれるのだった。

「はい。私は確かに神様より命じられてこの世界の人間たちの様子を見るようにと言われましたが。どうしてその事を知っているのですか?」

そんな事は決まっているじゃないかと僕は思う。だって僕は神眼と呼ばれる固有スキルを持っているのだから。神が関わっている事柄は例外を除いて、全て分かるようになっているのである。だから目の前に居る少女の正体は、この子が神の使者であるのと同時にこの子自身が神であると言うことを認識してしまったのだ。

そこで少女が何かを考え始めると。僕の顔を見て急に驚いたような表情を見せながら頬を染め始めるのだった。僕が何があったのかを尋ねたところ、なんでも無いから気にしないでくれと言ってきたのである。

「それよりこれからどうするのですか?私としては、もうすぐこの国にやって来るはずの隣国の方たちと合流して対処するつもりでした。貴方に力があるなら是非ともお手伝いして貰いたいと思っていたところでしたが。そのお身体の状態を見る限りだとまだ休まれた方がいいかもしれませんね」

僕はそう言われたが正直この状態では何もできやしないと諦めていたのだ。しかし少女の言葉にはまだ続きがあって。

「その事について心配いりません。今から貴方に新しい力を授けましょう」

そして彼女は僕に向かって指を突き出して来たかと思えば僕の額に突き当ててくる。

そこで僕の意識は途絶えたのだった。

《ふむ。やはりこの世界に存在する勇者の器の所有者のようだの。しかし、まさかこれほど早くに神の使者に出会うことになるとは》

「そうだよ。神様に聞いてはいたけどまさか僕のところに使者が訪れるとは思わなかったよ。それも神様からの直々に使命を授かる事になるなんて思いもしなかった。それにしてもあの人はどうして僕のことを助けたのだろうか?もしかすると神様は今回の出来事を予測していたってことは考えられないのかな?」

《おそらくはその可能性はないじゃろう。わしとあやつの間に縁のようなものはあるのだが。奴はそういった事に一切興味が無いタイプなんじゃよ。その事もあってかこの世界を管理している神々の1人として君臨しておるのが現状での。そもそもお主を呼んだことも、たまたま暇潰しをしようとしたらお主がいたのでついでに連れてきちゃったとかそういう理由じゃろ。本当にお主に対してはいい加減というかなんというかのう」

その説明を僕は納得する。確かにあの神様の性格を考慮すればありえなくもない。そう思いつつ先程から自分の事を神様と呼び続ける少女の姿を確認する。

そして僕はあることに気づいた。それは彼女が身に付けている服はなんの刺繍も施されてはいなかったのである。しかし僕は、彼女が纏っている白い衣服が普通の衣類ではなく。特殊な効果が施されている物だという事が一目で理解出来たのだ。

「うん、その服装についてだけども。それは特別な素材で作られた衣装だね。それは神域と呼ばれる場所でしか入手することができない特殊な鉱石が使われているはずだ」

「まあ凄いわ。よくこの装備が只の繊維じゃない事がわかりましたね!このお方はもしかすると、とても凄い方なのでは?」

そこで目の前の女の子がそう口にした。

「いえ、そんな大層なものではございません。それよりもそのお召し物をどこで手に入れたのかお聞きしても良いでしょうか?」

「それは構わぬが、これについてはとある遺跡から偶然見つけたものなんだよ。それを着ることで力が増幅されたからそれ以来ずっと使っているだけだからの」

その言葉を聞いて僕は内心驚く。

(これはどう考えても普通はあり得ないほどの高純度の鉱石だよな。それがこの世界に存在するということは。やはりこの世界が僕の前いた世界に似ているというのは事実なんだな)

そして僕は先程の少女にお願いをした。その願いは、僕のステータスを見させて欲しいというものであった。僕自身の力の確認を今のうちにしたいという気持ちがあり、そして神が与えてくれた力を確かめる為でもあった。だから少女に向かって僕はそう言ったのである。そうすると少女は少し考えた後に承諾してくれて。

それから数分間の間。目の前の女の子に色々と鑑定してもらうことになったのだった。

◆ 僕達は王都にある冒険者ギルドに向かっている。理由は簡単で先程僕達を助けてくれた人物との約束を果たすためである。僕達は彼女の案内に従って、その場所に向かう事にしたのだ。ただその際は彼女と一緒に居る所を見た人たちの目が、まるで幽霊でも見ているかのような目を向けられていたことに驚きつつも。僕は特に気にせずに彼女と目的地へと向かうのであった。

僕達は今、王城を出て街の中心部に向かって歩いている。その途中でも色々な店が立ち並んでいる光景が見えていて、そこがこの国の活気の良さを感じ取れるようになっていた。

そしてその途中である人に声をかけられたので僕は振り返った。その人物の姿を見て僕はその人物が何者かを理解する。そうその人物はこの国で僕がお世話になっている屋敷の主人のお父さんなのであった。僕はその人から挨拶を受けると。僕達がどこに行こうとしているのかと聞かれたので僕はこれからこの国で発生している問題について話し始めようとした。しかしその前に目の前の人物に僕は呼び止められる。そして、この国から逃げてはどうかと言われるのだった。僕はその申し出を受けてもいいと思ったのだが、この国には大事な人が居るためそう簡単には逃げるわけにもいかないと僕は伝えると。それを聞いた相手は、仕方ないと言った表情を浮かべながらこう告げてきたのである。

「そう言うだろうと思ってたよ。ただ、君もその子もこのままこの国に居ると命の危険が及ぶのは確かだ。もし良ければ私の知人がいる町へと来ないか?そこに行けばきっと君は平穏に暮らしていくことが出来るようになる筈だ。それにその町に行けば君の助けになれるかもしれない人間もいるから安心できると思うぞ」

その話を聞いた僕はすぐに了承することにする。ただその際にその知り合いの方がどういう人物なのかを僕は尋ねた。

するとその人は僕に対して答えてくれる。

その人物の名前はリスタさんと言う名前で。年齢は40代の男性なのだが見た目はかなり若くて30歳くらいに見えるらしい。ただ、この国の貴族の中ではそれなりに有名な人物であるらしく。この町の領主を務めているとの事である。

そしてこの国で起こっている異変についてもこの男性は知っていた。だからこそ僕がその事に関して質問をすると、この国で起ころうとしている出来事とは何のことかを詳しく説明してくれる。僕には、その人の話を聞きながら頭の中で想像してしまうと、何が起こっているのかを推測できてしまう。

僕が聞いた話はこうである。この国は近いうちに他国と戦争をする気でいること、その狙いが僕達の暮らす国であること、この国が戦おうと考えている隣国とは。この国に古くから根付く宗教団体の総本山がある『アーディウス帝国』のことだそうだ。

この世界で宗教というものは非常に重要になってくる存在となっている。その理由はこの世界を創世したとされる神は6柱存在し、その神の恩恵によってこの世界に生きる人々は生活を豊かに出来ている。

しかし全ての人間が神様から恩恵を得られるわけではない。そのため多くの人間は教会などに行き祈りを捧げることによって信仰心を育むことによって加護と呼ばれる力を得ることができるとされているのだ。

ただ、この国の人間はその事を知っている者は少ないとのことだった。

僕としてはそんな事をわざわざ話す意味がないと思っているので何も口出ししないことにした。それにこの世界が僕が住んでいた世界と似たようなものである以上。この国の王族と貴族たちの考えが変わらない限り、どうせ同じような結果になってしまうことが予想されたのである。そう考えていると僕はその考えを振り払うように首を横に振った。

(さすがに今はこの世界の人達の問題だから深く関わるべきではないか。僕としてもそこまで干渉するつもりはないんだけど。この国の王族たちのせいで巻き込まれるのは面倒だし、下手に目立つようなことはしたくないしな。でもそうなるとこの世界が僕にとって危険な場所だとしたら早々にこの国から出て行く必要が出てくるのかな?)

そして僕の予想ではおそらくその戦いは回避される可能性が低い。

その証拠にこの国の貴族の人達の中には、自分達は神様に認められた選ばれた存在であるとか、この世界の主役は自分たちだとか、他の世界の住民よりも優れているんだといった発言をしていたりする。そんな馬鹿げた話をこの国に住む者達が真に受けているのかどうかは不明だが、そういった思想に染まることで、自分だけは特別な存在だと思い込みやすい傾向にあったのだ。その結果、貴族の中でも選民意識の強い者が多いのは確かで。今回の問題もそんな一部の人間の暴走による事件だと思われる。しかしそれでもその事が原因で多くの人が被害を受けることになるのは間違いなかった。僕はそのことをこの場で口にするつもりはないが、それでも出来る限り関わりたくはないとそう思っているのだ。

しかしそこでふと僕は考えるのだった。もしかするとその問題を解決する為に、この国から僕を脱出させる必要があるのではないだろうか? その事を思い至った瞬間、僕としてはその事をやれるだけやってみようと決める。この世界に来る前の僕は無力だったが。今の僕にはこの神器である聖魔武具という神が僕に与えてくれた神具があるためだ。それにこの神器には隠された能力があることを既に把握していたのだ。だからその能力を上手く利用してこの問題を解決出来ないだろうかと考え始めるのであった。

そんな事を考えつつ歩いていると目的地に到着する。そこで僕はこの国の状況について色々と確認することにした。まずこの国の王様については現在行方不明であり。その息子達もまた同じで。今この国のトップに立つべき人物が居ないという状態である。その為、国王代理を名乗る者がこの国の実権を握っていたのであるが。先程の話を聞いて僕はこの人物が今回の件の黒幕なのではと考えた。

そんな疑問を抱きつつその人物がどのような人物かと聞いてみる。その人は名前をアロンと言い、年齢は35歳で髪は黒色をしており瞳は綺麗な赤色をしているらしい。しかし性格は悪いらしく平民の人達からは恐れられているとか。そして、僕に先程の話が事実かどうかを確認してくるのである。それに対して僕は肯定する。そして何故そのような情報を持っているのかと聞いてきたので、僕もこの国で起きた事件については知っていますよと口にすると、目の前にいる人物は驚く様子を見せる。

どうやら目の前の人物は知らなかったみたいだ。僕も事前に調査をしていたからこそ分かったことだったのだけど、そう言えばあの時も僕の身分を証明できなかったんだよな。それで結局、この人の名前すら聞くことも出来なかったんだよ。今更だけどあの時のことが思い出されるとちょっと腹立ってきた。

そして僕は目の前の人物に対して名前を聞くと、この国で冒険者をやっているというので僕はこの人に頼みたいことを頼んでみることにした。

「お願いします!僕達を王都の外に出して欲しいんです!」

僕は頭を下げながら必死になって頼む。そんな僕の態度に相手は戸惑いながらも。どうして外に出る必要性が有るのかと尋ねられた。僕達はまだ子供なうえに、二人共女性な上に一人は怪我もしている。それなのに一体何をしたいのかを僕が答える前に少女が声を上げる。その顔には強い意思を感じる。そして少女の言葉に嘘は無いと僕にはそう感じられた。だから僕もそれに乗ることにする。そして僕は少女に便乗する形で理由を説明したのだった。

すると目の前の人物はしばらく悩んだ末に、ある条件を付けることを条件に僕達のことを外まで連れて行ってくれると返事をした。僕達が了承したことで、この人は自分の友人である人物を紹介してくれると言う。ただその人が住んでいる町というのは、ここから離れた場所にある町のため。そこに向かうのに最低でも2週間程度掛かるということだ。それだけの時間を掛けても本当に大丈夫かという不安はあるのだが、その人物に会いに行かないという選択肢はなかった。

「分かりました。その方のお住まいを教えていただく事は可能でしょうか?」

「その件については心配いらないわ。貴方たちが会いに行くことになる場所はここの王都の隣街にあたる所だもの。そしてそこにいるその方こそが私を助けてくれた人物であり、今回貴方たちを外に連れ出す為に必要な協力者となってくれた人でもあるの」

それなら僕達が行く必要もないんじゃないかなと思ったけど。一応その人も事情をある程度知っている人物だということなので。詳しい説明を受けるために、僕達はその人と会うことに決める。そうすれば僕達が知りたがっていた事についても教えて貰える可能性があるからだ。

そして僕は、これから自分が行く予定の町までの移動手段をこの人に依頼する事にした。そして、その際に僕が出した要望は、僕と女の子の二人だけで向かうというものだった。その事でこの人からは文句を言われたが僕は絶対に譲らなかった。それは、僕のこの行動によって、この国がどう動くかを少しでも探りたかったというのが本音である。そうでなければ僕もここまで危険を犯しながら行動する必要はないと思っていたので、これは必要な行為だと考えたのだった。

それから少し時間が経って、僕の要求が聞き入れられたため。僕はその人が紹介してくれる人物との顔合わせをする為にその人が居るとされる家に向かって移動する。ちなみに僕と一緒に居るのはこの屋敷の主人の娘さんと使用人である。二人は何故かとても楽しそうな表情を浮かべていて。この国の事に関して質問してきたので僕が知っている範囲の事を質問してくると。今度は自分の父親に対して質問を始める。娘さんの質問に最初は答えていた主人の子供さんだったんだけど、次第に表情が険しくなっていき。最後にはとても嫌そうな表情で口を開く。

どうやらその人は、この国の貴族の中では有名人らしく。かなり評判が悪いとのことだった。そんな相手とこの子は知り合いらしい。そんな相手の所に僕みたいな子供を会わせるってこの子の父親は何を考えてるんだろうか?僕はそんな疑問を抱きつつ、彼女の案内でとある部屋へと到着する。すると中から話し声が聞こえてきたので、中にその人物がいるということなのだろう。僕は覚悟を決めて部屋の扉をノックして入るとその部屋に入るのであった。

僕達の前には一人の女性が座っている。見た目はかなり美人の女性で。長い銀色の髪を持ち、その身に纏う服装はどこか高級感があるような雰囲気を出していた。彼女は僕を見るなり、一瞬驚いたような表情を見せ。その後、すぐに警戒した目つきになる。ただ僕の後ろに居た女性を目にした後。急にその女性は安心しきった顔をする。そしてこの国で何が起こっているのかを簡単に説明する。すると彼女は僕に何か用があったようで、話の内容から僕がここに来る事を予想していたようだ。僕としては彼女が僕とどういう繋がりを持つのかが気になったが、この場ではあえてそれを尋ねることはしなかった。すると僕がこの世界に来た目的についてこの人は興味を抱いたようだったので僕はその話を彼女に詳しく話す。

僕が異世界から来た人間であることや。神の恩恵を得られた事などを包み隠さずに全て打ち明ける。そして神から授かった神器の事も伝えると。彼女もその事が気になったらしく。神の力を手に入れたいと申し出て来たのである。僕はこの人の目的が神の力で何を成そうとしているのかわかったために、敢えてその事には一切触れるようなことはしないで黙ったまま、僕の願いを叶えて欲しいと告げるのであった。

「神器か。なるほどそういうことか。まさか貴様が噂の神の使いなのか?だとしたら私の力など、この程度のものでしかない。それにお前もそうとう苦労をして来たんだな。私はもう疲れ果てて、生きる希望を失ってしまったというのに」

「あはははははっ!面白いねーこの子。この子もあたしと同じで神様に祝福されたみたいだね。うん。気に入ったかも!いいでしょう貴方のことを助けましょう!その代価として私と一つだけ契約を交わす。その契約を違えれば、その時点で貴方は死ぬ。まぁ私が望まない事が起きてしまった時、あるいはそれが叶わない場合に限るんだけど。そうなった時のみ発動するようにするよ」

僕としては神様から受けた命令をこの場で果たすつもりは無かったのだ。だってそうでしょ?僕はそんなに暇じゃないんだよ。だから今回の旅の目的はこの国を出るという事を最優先にしている。しかし目の前にいる人物の話を信じるなら、僕はこの人と協力する事になるわけだ。しかも、今回の騒動を収めるための切り札的な存在にもなるかもしれないと僕は考えたのだった。そう考えつつも、まずは僕の望みについてを先に済ませる必要があるので話を続けてみることにした。

僕としては今回の出来事を引き起こした元凶を探し出して。神の力で殺せるのであれば殺したいと思っている。でもこの人は神の存在についてはそこまで信じていないのだろうか? その点を聞いてみると、その人物は神の存在は認識していると返答してきた。ただし神の力については全くもって信用していないようである。だからこそ神が作り出したという神器にも価値を感じておらず、そのせいもあって僕の力にすらあまり興味を示していなかったのである。

僕にはその理由が分からなかったが、僕自身も神という存在を信じきれてはいない。だからそんな人がいたとしても別におかしくないと思い。そんな風に思いながら、この人に神と契約を交わした経緯を伝えることにした。僕が神様と出会った時に、神に願いを叶えるためには、自分の血を与える必要があって。その事を伝えた上でこの人に相談する。その事を聞いたその人は目を輝かせて話に乗り込んできた。どうやら僕に興味が湧いたらしくて話だけでも聞かせてくれないかと頼まれたので僕は素直に応じるのである。

それから僕は自分の持つ能力をこの人に伝えたのだが。その瞬間、この人は信じられないとばかりに大きく目を見開くことになる。そしてこの世界の真実や神という者がどのような者かをこの人から聞かされるのであった。そうして僕達の間に信頼が生まれた後。この人と僕は契約を交わして僕は自分の役目を果たしに外に出ることになる。

僕と少女の二人は目の前にいる人物と共に王都を後にすることにした。その移動の際に少女が乗っている馬に乗る事になったのだけど。その背中の上で僕達はお互いの自己紹介を始めたのだった。

「私の名前はアスタと申します。これからお世話になります。そして貴方のお名前を是非とも教えてください」

「えっと僕はリクと言います。こちらこそこれから宜しくお願いします。それで、僕の後ろに乗っているのが――」

僕は少女の名前を少女に告げようとするが、少女の方は僕の腕の中にいるので僕が紹介するのに一々名前を呼ぶ必要があり。名前を教えることができないでいると、僕の言いたいことを理解したのかその人は少し呆れた表情を浮かべると僕に忠告をする。

「あのさぁ、一応君は女の子なんだし、その子に対して男口調はまずいんじゃないのかな?君たち二人が付き合っているとかじゃなければもう少し女性らしく振る舞うべきだと思うんだけど?」

「あっ!す、すみません。僕、いつもこんな感じの喋り方で育ってきていて、つい」

「ふむ、まあいいだろう。それよりも君の事を色々と聞いておきたいところだが。それはこの子が帰ってからゆっくり聞かせてもらうとするかね」

その人が言った言葉が本当なら僕は暫くはこの子の家に厄介になることになりそうである。ただ僕がこの世界に迷い込んだ原因について説明しても大丈夫なのかどうか分からないため。とりあえずその事に関しては今は言わずにおこうと考えたのだった。するとそこで僕とこの人と会話をしていると、何故か僕の腕の中で眠っている女の子の顔が険しくなる。まるで寝たふりをしていただけで実は起きていて僕とこの人の話をずっと聞いていたような表情である。そしてその瞳から感じられる気配が僕に向けられたものと違うのは何故だろうか?そう思った直後。

女の子が突然僕から離れたかと思ったらその手にナイフを握ってこの人に襲い掛かったのである。その事に僕は驚いてしまい、女の子の行動に対して制止の声を上げられなかった。女の子は勢いよく飛びかかったが、その人物の回避の方が早くて攻撃を外してしまう。するとその人は自分の服に引っ掛けられた女の子の手を振り払うと女の子の体を掴んで地面に投げ飛ばした。

僕は女の子に怪我がないことを祈ったが、どうやら問題はなかったようで僕に向かって笑顔を見せる。しかしその直後、僕達の方を見て少し驚くような顔を見せていた。それはそうだろう。その人が先程までの優しい雰囲気が消えていたからである。

「おいこら、小娘!いきなり襲いかかって来るとは一体どういうつもりだ!」

「それはこちらの台詞だ、下郎めが。我が主に向かって刃を向けるとは死にたいのか」

僕も今のこの状況に対して頭が追いついていけなかった。だって、今まで僕に対して友好的だったはずのその人が豹変してこの子の命を奪おうとしていたからだ。その行動に僕も反応できないままでいたが、僕の横から手が伸びてきて、僕とこの人との間に割り込んでくると、いつ抜いたのかという程の速さで剣を振るった。しかしその攻撃もまた相手側に見切られてしまい。逆に蹴り返されて吹き飛んでしまう。その事で僕の意識がはっきりと覚醒すると、その人は僕の前に立って庇うようにして立つのであった。

「このガキィ!貴様も敵だというわけか!?くそ!何で私の邪魔ばかり入るんだ」

そう言って彼女は懐に手を入れるとその中に隠していた短刀を取りだすとそれで目の前の人物を襲うために接近する。それを迎撃するために彼女も同じ武器を取り出したのだったが、次の瞬間。彼女が手に持っていた武器がバラバラに砕け散る。何が起こったか分からない様子で彼女は慌てて距離を取るが。それと同時にその人も同じようにその場から離れていく。

「何が起きたんだ」

「貴様、私の得物を壊すとは随分なご挨拶だな」

彼女がそんな事を口にすると。僕達の方に振り向いた彼女が話しかけてくる。

「少年、この場は引く。この子を連れて私についてこい。いいな」

その言葉が意味するところを瞬時に判断できた僕は彼女の言う通りにしてこの場から離脱する。そうするとその人物は何かを呟きながら両手に黒いオーラのような何かを生み出すと、その二つを重ね合わせる。それに合わせて眩い光が発せられると。そこには大きな穴が生まれていた。その事からその人物の使った技の正体を予想する事ができたのである。

(あれが恐らく時空魔法の一種か。でもあんな威力で使えるものなのか?)

僕の疑問を余所に、その人物は僕の方を一度見て笑みを浮かべると、僕の隣に居た少女の手を掴んで引きずるように一緒に空間の中へ姿を消してしまう。その際に僕の腕の中から小さな声が上がる。どうやら目を覚ましたらしいのだが、僕は気にする余裕もなく彼女に連れられて逃げることしかできなかった。しかし、僕には一つ気になることがあったため。この子には悪いけど少しだけ速度を緩めて貰うことにして彼女に尋ねることにした。

「待って下さい。貴方に一つ質問があるんですが」

「なんだい、命乞いなら聞くよ。それに答えたらこの子のことも離してくれよ。頼むから」

僕はそんな事を考えていなかったのだけれど、一応話を聞いてくれたみたいだから。僕はその問いを彼女にぶつけてみることにする。この子は一体何者なんだと?するとそれに対してはその人は意外にも素直に応じてくれて、自分と僕達について語り始めたのだった。それによると、その人は本来であれば既に死んでいるはずだったのだという。

「君達が出会った時。私は自分の血を使って自分の肉体を再生しようとしていたんだよ。だけどね、この世界に来てから、神器に宿っている力の影響で私の力は制限されていた。それでも血さえあれば自分の体はある程度元に戻せる。だけど、その血を手に入れる為にはこの国の王が持つ血の涙が必要なんだ」

僕はその人の話しを聞いてこの人の目的がなんとなくだけど分かってしまった。どうやらこの人も僕と同じ目的で動いているらしく。神器によって制限されたその力でも出来る範囲での復讐を果たそうとしているようだった。そう考えるとこの人の目的は僕が考えているものと似通っていて親近感を覚えた。だからこそこの人と協力できるのではないかと考えていたのだった。そして僕の考えが正しければこの人にとってもメリットがあることを僕は知っている。それは神器の力を使えば僕自身が神になれる可能性を秘めているからなのだ。

「僕にも協力してもらえることはできますか?」

「うん?そうだな。君が私の協力者として力を貸してくれるのならば。君にも神の力を扱える資格が与えられる。つまりは、君の願いが叶うか、それともこの世界で生き抜くという望みが叶えられるかどうかは私次第ということになる訳だが。君は私に協力するつもりはないのか?」

「僕は神様が嫌いですから。僕はこの国で生きていきたいと思っています。なので神様の力で僕自身の力で得たわけではない能力を使うのに嫌悪感を抱くんですよ」

僕の言葉を聞いたこの人は何ともいえない表情で僕の方を見ていたが、やがて小さくため息を吐いてからこう告げたのである。

「そうかい、分かった。君は私が思うに、まだ何も分かっていない愚か者のようだな。その気持ちは分からないでもない。私だって同じ境遇に陥った時は、神の存在など信じずにただただこの世界に絶望したことだろう。だけどね、君が私と一緒に神に挑む覚悟を決めてくれない限り。神殺しなんて到底不可能だよ」

この人にそこまで言われて僕はようやく自分がまだまだ未熟な存在だと自覚する。そういえば僕はまだ自分自身の本当の姿をしっかりと把握していなかったな。そう考えた僕は今こそこの姿での初めての変身を行うことにする。

僕の全身が白い光に覆われていく。そして、次第に僕の体に新たなパーツが装着されていくのが分かる。

そして僕の姿が変わり始める。頭からは狼を思わせる獣の耳が生えると同時にその形が変化していき、臀部からはふさふさとした尾が生えていく。そして瞳は赤く染まっていった。その姿はまさしく白狼と呼ばれるに相応しい姿であったと思う。そう思わせるのが理由があってのこと。その容姿は先ほどまでの人間の姿とは違って、完全なる狼へと変化したのであった。そう、これが本来のこの体の姿であり、僕自身に与えられた加護そのものの姿でもあったのである。

「ほう、どうやら君はかなりの大物を引き当ててしまったらしいな」

僕の変化を見たその人がそんな事を言った。それからその人は少し驚いたような顔を見せると口元に手を当てて少し考え込むような表情になる。それはどうやら僕が本当に神に近い能力を使うことができる存在になってしまったと実感したせいでもある。僕もまさかこのような形で僕自身も神の領域に近づいていくとは想像も出来なかった事だ。ただ、今は僕も目の前の人も同じ目的を持つ者同士で、お互いに協力関係を築きたいという事を伝えなければならないのである。

そう考えて僕が口を開こうとする前に先にこの人が僕に対して提案を投げかけてきたのである。

「とりあえず私の事はリリスと呼ぶがいい。君の名前も聞いておく必要がある」

「僕の名前はリクです。これからよろしくお願いします」

こうして僕は目の前の女性――もといリリスさんと共に行動することになった。そしてリリスさんの話では、彼女もまた僕のように神に復讐をする為の準備をしているとのこと。その為には彼女の持っている神剣の力が必要不可欠だということ。そしてその力を取り戻すのにどうしても必要なものがあるのだという。それこそが血だというのだ。

彼女はこの世界の王様の血を手に入れたかったみたいなんだけど。僕達が訪れたタイミングで丁度王が不在だったというわけでどうやら手に入れることが出来なかった。そのため、彼女はこの国で起こっている騒動の原因は間違いなく自分だと言っていたのであった。それはどういう意味なのか僕には分からなかったけど。きっと色々と複雑な事情が絡んでいるのだろうと考えたので深く追求するのを止めることにする。

僕がこの子に対して疑問を抱いたのは、どうしてこの子だけが助かったのかという点にあった。この子があの場に居た人達の中で最も年上だったことは間違いないのだが。何故その年齢で僕を守れたのかが理解できなかったからである。その理由についてもこの子も分からない様子だったので結局その事については聞けずじまいだったのだった。

「この国の中じゃあ一番安全なのは王都にある王宮だからね。君も王都内に家があるんだろう?そこでこの子の面倒を見ていて貰うといいよ。さぁ、そろそろ戻らないと流石にこの子を一人にしておくのは不味いことになるんじゃないかい?」

僕はそう言って僕の服を掴んでいた少女に話しかける。すると彼女は少しだけ残念そうな表情を見せながら、また会おうという言葉を口にして僕達に背中を向けるのであった。

僕達が塔から出てすぐに彼女は僕達の前から姿を消す。恐らく彼女は空間移動が出来るらしく、僕達がこの場所に訪れた時、一瞬でこの場に現れたのだと思っていた。しかしその実態は違っていたらしく。彼女が転移してきた先は別の場所だったのだと言うのだ。

その場所というのがこの城の上空であり。そこに突然姿を現したものだから。この国に住む人々は皆大慌てになったという事。

それに加えて彼女が纏っていたドレスが消えていた事で騒ぎは大きくなっていくばかりであった。そしてその事で更に問題が大きくなっていき。最終的には国王自らが直接この場までやってきたのだという。

「我が城の中に突如として出現した穴。そしてそれが消えると同時にお前達が現れたことで状況が呑み込めていないが。何か説明してくれるんだな?」

僕はその言葉を受けて正直に話すことにした。僕はその言葉を聞いた王は怒りの余り僕に向かって剣を振るおうとする。僕は咄嵯に自分の腕を差し出して王の攻撃を防ぐが、それでも尚。王の追撃が僕を襲う。それをなんとか防いでいると、隣に居る少女からこんな声が上がった。そしてそれはどうやらこの国に暮らす者達にとってとても重要な意味を持つものだったのかもしれない。

「この人。勇者だよ」

「何をバカなことを言っている。この男が英雄になどなれるはずがない」

そんな事を言い放った王は僕の首に目掛けて再び攻撃をしてくるが、僕は咄嵯にその場から回避すると距離をあけて攻撃を避けることに成功する。

そして僕が距離を置いた瞬間、その隙を突いて王が動き出すと、今度は僕の胸を目掛けて攻撃を仕掛けて来たのだ。だけどそんなことは予測済みだった。だから僕はあえて避けることもせずに攻撃を受ける事を選んだのだった。その選択をしたことによって僕は王の持つ聖槍に刺されることになったのだが。不思議と痛みはなかったのである。

だけど、何故か意識が薄れていき、体が動かなくなり始めた。そんな状態で僕は何も考えられなくなってしまっていたのである。そして僕の傍で誰かの声が聞こえた気がするが、それも直ぐに僕の耳には届かなくなる。そうして僕は完全に気を失ってしまったのだった。

僕は目を覚ますと、自分の置かれている現状を把握する為に辺りを確認する。

だけどそこは見たことのない場所で。何より驚いたのが僕は知らない部屋に寝かされていたことだった。しかも部屋の中には僕の家族以外に二人の人物が居たのである。そう、その人物の一人というのは――僕に攻撃をしてきていたあの王その人だった。

その姿を見て僕は驚きのあまり固まってしまっていた。

「目を覚ましたみたいですね」

僕の顔を覗き込むようにしている少年。僕は彼のことを知っているわけではない。そもそも初めて見る顔だし、見覚えのない人物である。だけどその彼が僕に向けて優しい笑顔を浮かべてこう言う。

「あなたを救ってくれたのはこの方ですよ」

僕を救ったと?どういう意味だと思っていると彼は僕が目覚めるまでの間の出来事を話し始める。

僕は王に殺されそうになって、そして彼に救われたということ。そうして今僕がこの部屋で安静にしていられている理由は彼にあったのだという事が分かり納得した。僕はこの人が誰なのだろうかと、疑問を素直に投げかけることにする。そして僕の言葉を受けた少年は微笑むと口を開いたのだった。

「私はこの国、アルヴィンの王族が住まう場所。王都に住んでいるものになります。私の名はセド。セドリカ王国の第一王子であり。今は王位継承者でもあります」

第13話「新たなる戦い」完

――――――

お待たせしました。次話から本格的に物語が動き始めます。更新日は不定期ですがなるべく毎日更新したいと思っております。よろしくお願いしますm(_ _)mでは本編です! ==>

(*- - *)。oO(この回で少しだけですが、新キャラが登場しましたので紹介していきますね~♪ちなみに今回はかなり短めになっております><ですのでいつも通り次回の更新も頑張りたいと思います^ω^ 僕は自分がどうしてこの部屋で寝かせられていたのかを知ることが出来た。その情報を教えてくれたのは他でもない僕の目の前に居る人物、セド様だったのだ。そしてセド様の説明によれば。僕はリリスという女の子と一緒に、先ほど訪れた場所に転移させられて。そこから逃げようとしたところリリスが姿を消してしまった。そのリリスを僕一人で探そうとしたところで急にリリスが現れて僕の前に現れたという事である。そう、つまり僕は彼女によって助けられたのだ。

僕が彼女の事を思い出した途端。その彼女は僕達の会話に割り込んで来た。それはまるでこの話を邪魔するかのような態度でもあったのだ。そういえば彼女はリリスという名前だとセド様に言っていたが、それは僕を助けに来てくれた少女が口にしていた名前で、確かその名前はセドが口に出したものであったと思う。

「リク、君とはまたどこかで会いそうだ。その時にでもゆっくりと話をしようじゃないか」

それだけを言うと、リリスと名乗る女性は姿を消した。僕はまだ彼女と話をしてみたかったのにと残念に思っている。

そう考えていると部屋の扉がノックされて開くと一人の兵士が中に入ってきたのである。

兵士はその手に食事の入った器を持っていたのだが。どうやら僕の体調を心配してくれていたらしい。食事を届けに来ながら兵士は僕の容態を聞いてきた。僕自身、体を動かしたりしながら問題ない事を伝える。その行動に安心した様子を見せた兵士達は僕の様子を見に来た事。それにもうすぐ夜を迎えるということでそのまま去って行くことになった。

ただ去り際に一つだけ伝えておく事があると言って、この国の王について忠告をされたのである。それは王の事を絶対に信用してはならないということだ。その理由はこの国の人間なら子供ですら知っていなければおかしい程常識となっていることらしい。その理由というのも王が勇者だからだという事。ただその事を知っていても王は勇者だという認識を持っていなければ殺されることもあるという話だったのだ。そして勇者は人を殺す事が出来るのだという。ただ、その力は強大すぎる故に使うことが許されていないのだと教えてくれるのだった。僕達はそれを聞いていたが。その理由までは知らなかったのだ。

そしてその理由に関しては、過去にこの世界に現れた勇者の一人が国に対して反逆を起こしたのだという。その結果、その国の民は全て殺処分されることが決まったのだった。しかし王は民を救う為にとある秘薬を作りだしたのである。それは人を不老不死にする効果があり。どんな怪我であろうと、たとえ心臓が止まろうともその薬を飲むことが出来れば生き続ける事ができるというものだったのだ。

それを知った王は歓喜に打ち震えていたという。しかしその表情を見た他の者の意見に耳を傾けることも無く王は国中の者に同じことをするようにと指示を出すことになる。

その言葉に多くの者が従ったことから国は繁栄を極めていくことになるが。同時に王に対する恐怖心を皆が持つようになり始める。王は国の王であるがそれと同時に勇者でもあるのだから。逆らうことは許されない存在になっていた。だから誰もが従うようになっていったのである。そうやって皆が王の言いなりになっている内に次第に民たちは王の行いに疑問を抱く者はいなくなった。

そして、ある時事件が起きる。それはある日のこと、一人の冒険者の少女が自分の意思で王都を抜け出すことになる。少女の名前はユメと言う名だったらしい。そして彼女が何故王都から抜け出すことにしたのかという理由、それは自分の恋人に会うためであったというのだ。そうして少女は無事恋人と再会する。しかし再会を果たしたものの、二人はその先で悲劇に見舞われた。なんと少女の恋人が魔物に襲われてしまう場面に遭遇したのだ。少女はそれを目撃しても逃げることが出来ず、恋人を助けるために戦ったのであった。そして結果としては恋人の男は助かった。だけどその時に少女は致命傷を負ってしまい死んでしまったのだった。

だけど奇跡が起きた。少女の死体が消えたのである。そしてその後直ぐに死体が見つかった場所は、王城がある場所だったのだ。王はそれを利用してある実験をすることを決めた。それは死んでいるはずの娘が生きているのではないか?その可能性を調べる為の実験である。王はそうして自分の子の一人が本当に死んだかどうか確かめるために王城内にいる者達を使って殺し合うことを命令したというのだ。勿論、その実験に使われたのは自分の子供達。そしてそれは成功した。王は勇者としての力で死者を蘇らせることが出来るのではないかと。それを証明してしまった。

王は少女が死んだ時と同様に少女をもう一度呼び出して、そこで自分が勇者であることを少女に伝えたのだった。すると少女はその言葉に涙して王に感謝の気持ちを述べたのだという。そしてその日から王と少女の生活が始まったのだ。だが、王はすぐに後悔することになった。その少女は見た目は確かに自分と似てなくもない少女ではあったが、それは他人には見せることの無い姿。その正体は少女が魔獣の核を埋め込まれたことで姿を変えた化け物。少女は少女ではなく人型の怪物になってしまったのだった。そして、そのことを知らない王は愛しい人の変わり果てた姿を受け入れられずに、結局最後にはその事実を知られる前にその愛する人を殺してしまったのだった。そしてそれが元凶となったのだ。そう、その王を勇者だと信じていた民たちこそが本当の被害者だったというわけである。そして今も王に逆らう人間は全員殺すことで、自分達に危害を加えようとしない者を守れると本気で思い込んでいた。そうしなければ民は死んでしまう。そういう考えにいつの間にか変わってしまった王。だけどそれも全ては無駄に終わることとなる。なぜならこの王は既に――死んでいたのである。それは王自らが口にしたことだったようだ。

そして現在、この国の中で一番偉い人は王様では無い。王妃であるとのことだったのだが。今となっては完全に形だけのものになっているようだった。だからこそ誰も王に近寄らないどころか逆に王に近づいてくる者さえいないのだという話を耳にしたのだから。しかも今の王は殆ど姿を見せないという事で僕は不思議でならなかった。そのことについて聞いてみたけれど、やはり分からないというのが答えであった。でも僕は何故か納得できたのだった。

(あの人も、リリスと同じ雰囲気を持っている気がする。あの目で見られた時に僕は何も考える事が出来なかったし、それにあの人とリリスは顔が似ている。あの人に会ってみたい)

そんなことを考えていたからだろうか。気付けば僕はベッドの上で寝ていて。夢の中にあの人が居たような気がした。だけどそこにリリスが居たことだけは間違いないと思ったのだ。だから僕は彼女のことを必死に探してみることにしたのである。

そうして翌日、僕の体調は大分良くなったということで、外に出てもいい許可をもらったのだ。ただ、一人で行動することは禁じられる。なので一緒に行動してくれる相手を探してみたが、誰一人見つけることが出来なかった。仕方が無いのでセド様に頼むしかないと思い声を掛けようとしたところで彼が現れたのである。セド様と一緒にやって来た少女。リリスは相変わらず無表情で僕達と一緒に行動することを決めてくれているようである。リリスは何かあればいつでも言ってきていいと言い残して部屋を出て行ってしまったのだった。僕とセド様は部屋を出ると廊下の方に歩いて行き。そこからは外に出る為に移動することになったのである。

==>

※この回で登場させたキャラクターについては。このページにて名前だけ掲載していきたいと思います!

==> 【名前】ユグドラ(偽名:ユーシア)

性別/年齢

女性 /18歳 容姿 身長:156cm 髪の色 銀色 瞳色 黒(通常時は赤色)

装備 武器 聖剣(神域より持ち帰られたもの。あらゆる攻撃を反射させる力を有する)

鎧 なし(動きやすさを重視した服。ただし防御力は非常に高い)

スキル 火属性魔法 風属性魔法 土属性魔法 水属性魔法 回復 転移 鑑定眼 気配遮断隠密術式 気配察知 魔力操作 肉体強度強化 剣術 武術の心得 +格闘術 体術の心得 称号 魔王 神の祝福 加護 女神フォルティアの加護 【名前】リリス 性別/年齢 不明 /外見年齢は12歳ほど 特徴 リリアーナの妹 白金色の長い髪を二つに分けてツインテール 銀狼族の長の娘にして アルヴィン王国の第一王女でもある 現在は王城で暮らしており、姉を探すために外の世界に出ようとしている 【名前】リリアナ 性別/年齢 女/外見上は14歳程度に見える 詳細 ユグドラの義妹 黒銀の髪の毛を長く伸ばし 肩口まで伸びている 背中で結んでおり、ユグルと同じように腰に巻き付ける形で布を巻きつけ 短刀を装備している リリアスの姉であるリリスと 瓜二つの見た目を持つが。こちらは大人しく、おっとりとしている 【名前】リリィ 種族 猫又族 年齢 見た目では13歳程度 特徴 金髪をショートカットにしている 服装は薄緑色のシャツに、青色のロングスカートを着用している リリアナの従者をしている女の子 猫耳が頭に生えているのが特徴的であり、ユグルやリーシアとは仲が良くなっている様子 【名前】レイス 年齢 15歳程?/男?/容姿 身長170 細身の男性 茶色のコートのような上着を身に付けており その中は白い服を着用している(ズボンも白色)

首からはカメラのようなものを身につけている。また、手には革製のグローブをしており。両手とも同じように黒色の革で覆われている。

性格は基本的に冷静沈着な男性だが。

少し子供っぽいところがある。趣味は写真撮影らしく。旅の途中にある風景写真などを撮影しており、それをよく眺めているという癖がある。その為か被写体になる事を進んで申し出たりしており。その姿はまるでカメラマンそのもののように写す事に集中しているらしい。

その日、僕達が外へ出る前に城の兵士達の訓練所へと向かうことになった。なんでも兵士になるためにはその適性試験を受ける必要があるとのことなのだ。その話を聞いた後に僕は自分の実力を見てもらおうと思ったのだが。まずは自分の能力を知ることから始めるようにと言われてしまったのである。そしてその適正試験の結果が後日わかるらしいのであった。そうして訓練所での試験が行われると聞いて、早速僕は準備をして向かった。そうやって向かった先にいた人達の中には昨日の晩餐会で話をした騎士の方々がそこにはいる。そのことに気がついた僕は挨拶をするためにそちらへと向かったのである。しかしそこで問題が発生する。どう見ても目の前にいる人物が普通の人間では無かったからだ。なんとその人は頭の上に耳が付いており、さらには臀部付近には毛むくじゃらの尾がついているというのだ。しかもその人の見た目はかなり若そうな見た目で二十代後半ぐらいにしか見えないのである。そうして僕が困惑していると向こうから話しかけてきたのであった。

その人物は名前をライルと名乗り、どうみても人間ではないですよね?というような疑問を口にしたのである。

僕はその問いに対して素直にそうだと答えたら。それを聞いた彼女は僕が異世界人であることを理解したうえでこう口にする。その異世界人である僕なら僕の持つスキルについて知る権利があるだろうということ。それから僕と模擬戦をして欲しいと言ってきたのだ。そしてその理由が――

この国の王は人の姿をしていない異形の化け物だと言う話。そうしてそれは事実であり。その王の言う事は絶対だという事も教えてくれたのだった。

そして僕は、その話が事実なのかを確認するためにそのライラと名乗る人物と、実際に戦って見極める必要があると判断したのである。そしてその判断は正しいものだと直ぐに証明される事になる。その模擬戦は本当に凄まじいものであったのだ。僕自身もまさかここまで強いのかと思ってしまい、その攻撃を防ぐだけで精一杯だった。そしてなんとか隙をついて攻撃を仕掛けてみる。その行動に意味は無いのだが、それでも試さずにはいられなかったのである。

その一撃によって相手はバランスを崩して倒れ込むことになる。僕はその瞬間に止めを刺そうと聖剣を構えようとした時。相手が地面に膝をつくと同時にその場から姿を消す事になったのである。僕は驚きつつも、相手の姿がどこに居るのか探し始めた。そしてそれは直ぐに見つかり、なんとライラさんは地面にうつ伏せになって眠っていたのだ。そして僕の対戦相手は寝ながらにして意識を失い。僕の方へと倒れ掛かってきたのである。

そうして、そんな出来事があってからは、この国の王に会う機会が訪れた時に僕の力がどの位通じるか試すことにして。今日はその時に必要となる物を用意して貰ったのだった。そうして必要な物を準備して貰っていると。今度はリーシアに声を掛けられた。彼女は僕と同じ部屋で過ごして居たのだが、今更思い出したことがあるのだという。それは、リーシアを奴隷として買い取った男が王城の地下牢に閉じ込められているという事。この国では奴隷制度が存在している。ただ、それは禁止されている筈なのに、この国には存在しないはずの制度。つまり裏社会の者の仕業だということである。僕はこの国の王がその者を従えている可能性が高いと考えて。僕なりの考えを話したのである。すると彼女もその考えに賛成してくれ。すぐに助けに向かう事にした。そのついでで地下から逃げようとする者の捕縛にも力を貸す。

そうしてから僕たちは地下へ繋がる場所に向かい。そこの扉を開ける。そこには確かに奴隷と思われる人が閉じ込められていた。僕はその人に近づき話し掛けると、やはり男の人がそこにいて、怯えていた。だから安心してもらう為に優しく接してみると、男は泣いて謝りだして。僕はどうしてそんなに怖がるのか理由を聞くと。なんでも自分が売った娘に酷いことをしていたとか言われて、更に詳しく聞きたいことがあったのだけど、結局聞けないまま。とりあえず、ここに来るまでに捕まえておいた連中の引き渡しをする為にリーシアに頼み込んで、全員に鎖をつけさせて連れて行くことになった。そしてその最中で僕の目に留まったのが。一人だけ明らかにおかしい動きをみせる少女が居たのだ。

その子の名前はメイといい、この子だけが僕の方を全く見てこないのだ。しかも視線は常に僕達とは別の方向に向かっていて。それで僕は彼女のことが気にかかってしまったのである。でもその気持ちは誰にも言えず。僕は彼女に声を掛けようと思ったのだった。

==>

※今回の回は文字数が多くなっています! 【名前】ユーリア 性別/年齢 女性/20歳程度/外見 髪の色 黒色(背中までの長さ)

瞳色 茶色(普通)

装備 武器 短刀 鎧 軽装(黒色)

腕輪 無し スキル 気配遮断隠密術式 鑑定眼 剣術 武術の心得 魔力操作 体術 隠密行動 罠解除技術 アイテムボックス(異空間倉庫)

【名前】アイ 種族 人狼族年齢 不明(10歳以上)

容姿 茶髪をショートヘアにしており、獣耳と尻尾がついている(狼耳)

肌の色は少し青みを帯びており、身長165cm体重は秘密♪ 性格 真面目でクールな性格だが実はドジなところがあり、ユグドの事が好きすぎる残念狼 【名前】ミリアナ 年齢 16歳程度/女/身長160cm程度/容姿 長い黒髪を後ろで結っており、顔立ちは幼く見えるが美人系(ロリ巨女)/胸の大きさFカップ以上/装備 鉄扇 【名前】サヤ 年齢 14歳程度/女/容姿 銀色に輝く髪の毛を腰近くまで伸ばしている 白金色の綺麗な瞳が特徴 小柄でスレンダー(ただし胸が大きい)

【名前】サーナ 性別/年齢 女/外見年齢15歳程度/身長155cm 特徴 猫又族の中でも珍しい金色の猫耳を持つ女の子 リリアナと見た目が似ているため、姉妹のように見られる 【名前】ライラ 性別 男 種族 人族 年齢 不明/男 詳細 アルヴィン王国の王であり、元騎士団の隊長 現在は王の座を降りており、アルディアードに全てを託した アルヴィン王国の現王様である。

見た目はまだ若く見えており その実力は相当なもので、人外の強さを誇る。

しかし戦闘狂という訳ではなく。

むしろ平和を望む心優しい王であり民のことをよく考えて行動する賢王でもある。

ユグドラ達が王城に戻ってきた時には。丁度訓練所での適正試験が行われている最中であった。しかし既に訓練所に居る人間は殆どおらず。残っている人間でまだ戦う気があるような者はいない様子だった。ユグルはその様子を見てから、少し残念に思いながらも。今は自分の目的の為にも試験を受けなければならないと考えていた。

その為にはこの場に居残るか。あるいはこの場から出て別の場所へ行く必要がある。だがユグルはここでしかやらないことがある為。この場所から離れる事ができない。そこで彼は仕方なく、その場で試験を受けている人物に話し掛けた。それは先ほど戦ったライラと名乗る男だったのだ。その男に話があると言うと。彼も自分の試験が終わったのだとわかり。一緒に外に出る事にしたのであった。そして彼が試験を受けた時の話をしてくれるのであったが。その話を聞きながら歩いていると。その途中にリリィが話しかけてきた。リリアナは何か言いかけたが。直ぐに口を閉ざして黙ってしまったのである。その事に不思議に思うが今は先にすることがある。そうして、その男が言うには。自分を倒した相手がその適正試験を受ける相手だと言っているのだが、それを本当かどうかを確かめたいと口にしたのである。その言葉にユグルは興味を抱いたのだ。

そうしてライラと名乗った男の案内により城にある訓練所に連れて来られた。そこはまるでコロシアムを思わせる様な造りをしており、観客席まで用意されている。そんな場所に僕と男は二人だけで向かい合う形でその場に立っていた。そしてお互い準備が出来ている事を確認できた後。僕達は戦いを始める事になる。

ライラが手に持つ大剣を構えると同時に僕の方へと駆け出してきた。その勢いのまま、こちらへと切りかかるが。僕にその攻撃が通じるはずもなく、簡単に避けられてしまう。

それから僕はその攻撃をわざと食らうことにした。そうすることでこの剣の力を知りたかったのだ。そしてその判断は間違っていなかったと直ぐに分かる事となる。なんと、僕の体に受けたはずの傷は全て無くなり。体力だけが回復するのである。その不思議な感覚を体験した直後。再び攻撃を仕掛けてきたライラに対し反撃を試みると、僕の放った蹴りの衝撃に耐え切れずに吹き飛ばされてしまったのだった。その一連の出来事を見て居た他の人達は僕の戦いぶりを驚愕の目で見ている。そんな中、ライラの様子が明らかにおかしいことに気づく。どうやらライアは、あの時の様に僕に斬りかからず。僕が避けやすい様に攻撃を放っていたようだ。僕はそれに気づいた瞬間。ある考えに至る事になる。そして直ぐにこの場で戦う相手について確信する事ができた。それは、目の前のこの人は敵じゃないということ。だからこそ僕は直ぐにその場から飛びのいて、ライザから離れようとしたのである。

ライラの振り下ろしの攻撃によって僕は、その場所に倒れ込み意識を失った。

そうして意識を失っている最中に。誰かが僕に触れてきている感触が感じられ目を覚ます。すると、なんと目の前にいたのはリーシアだったのである。彼女は僕の顔を覗き込むようにして見ていたので。僕の視線に気づくと。慌てて手を放して謝ってくる。彼女はその時に周りを見渡していたので何をしていたのか尋ねると僕の容態を心配していたらしい。そのことに申し訳なく思ったのだが。僕に対してそこまで心配してくれていることを嬉しく思えた。その後に起きた事は覚えていない。きっと僕は気絶してしまったみたいだ。

気が付けば僕は部屋の中で寝かされていた。起き上がろうとしたのだが何故か体が重く感じる。どうしてこんな事になっているんだろうかと思っていると部屋のドアが開く音が聞こえたのでそちらの方へ首を向けるとその部屋に居たのはリリィとアイだったのだ。その二人は入ってくるなり僕に近づいてきて僕が起きていた事を確認すると凄く驚いており。どうして僕が起きるまで側に居てくれなかったのかと文句を言うと二人はごめんなさいと頭を下げてくれた。でも本当に寂しかったので次からは傍を離れないようにお願いすると彼女達は約束してくれたのである。それから二人が僕のために食事を持ってきてくれると。僕はゆっくりと食べ始めたんだ。そして暫くしてから僕は再び眠りにつく。そのお陰で体を動かすのに支障がないくらい元気になっていたのである。

そして翌日になり僕は王との話し合いに向かうことになった。そこにはライアと呼ばれる男と一緒に行くことになり。彼に案内されるまま城の中にある応接室へと向かうことになる。その道すがらに色々と話をしたんだけど、彼は僕が想像していた通りこの国を守る騎士団の長をしているようで。しかも団長という立場らしく。かなりの実力者であることが分かる。僕は彼の話を聞くためにその歩みを止めた。何故なら彼がこの国に滞在できる期間は短いからである。だから僕は、その前に聞きたいことがあったので質問をした。それは僕が魔王だということを隠してこの国の騎士団に入団したいということを。その願いを叶えられるのかどうかを聞いてみると。僕の正体を知っても入団する意思があるのならば可能だと言ってくれたのだ。その返答に僕は、ありがとうございますと答えて。その後は雑談をしながら歩いていくのだった。

それから応接室にたどり着くと。そこでは王が一人で待っていた。そして、僕達の方を視界に入れるなり。立ち上がって席を勧めてくる。それに応じて座る事になったけど、まさか王様自らお茶を入れてくるなんて思いもしなかった。

「さてと、自己紹介がまだだったね私は、アルディアードと言うものだよろしく頼むよ」

そう言って握手を求めてきたので応じることにすると。突然笑い出した。

【名前】アルディアード 性別/年齢 男/39歳/外見 白髪を短髪にしており顎鬚が少し長く伸びている/体格は良く。身長180センチ程/瞳色 真紅(鋭い)/服装 鎧(赤)/装備 大槍 【名前】サーナ 種族 人狼族年齢 14歳程度/女/容姿 猫耳を生やし髪は黒色の腰まで届く長さ/肌の色は少し青みを帯びている/瞳色真紅色/装備 鉄扇/スキル 気配遮断隠密術式 鑑定眼 武術の心得 魔力操作 気配察知 罠解除技術 アイテムボックス(異空間倉庫)

『では君がこの王国騎士団に入隊してくれるということでいいのかな?』

【名前】ユーリア 性別/年齢 男性/16歳/外観 黒髪を背中にかかるぐらいの長さに伸ばしている 肌色は普通/瞳の色黒 装備 鉄剣(黒)

【名前】ミリアナ 性別/年齢 女性/20歳程度/外見 黒髪を後ろで結んでおり顔立ちは幼く見えるが美人系/身長160cm/スリーサイズB84/H82/W58/胸の大きさFカップ/所持金 500G 【名前】ライラ 性別/年齢 男/外見年齢15歳程度/外見身長170cm/特徴 猫又族の中でも珍しい金色の猫耳を持つ/特徴 銀髪を腰近くまで伸ばしている/容姿端麗/装備 双刃刀

(二本持ち)

【職業】剣士 魔法戦士 侍 暗殺者 勇者(*1 【ステータス値&能力数値】

*体力 10万 /魔力 4千 ←UP! ←UP! 気力3万2百 →4万5百

※その他詳細は本編に記載

――――

―――

次回:神坂編第二話『新たな任務~騎士団に入団します!』

第10話

――

sideレイヤ――――――――

僕は現在リリィと一緒にとある場所にやって来ていた。その目的というのが。新しく仲間に出来たユグルという男に武器の扱い方を教えるためであった。

ユグルはライラとの戦いで。大剣を振り回して攻撃をしていたが。その動きは素人そのものだったので、見ていられない状態なのだ。そこで僕達が教えようと思い至った。だけど最初はユグル本人が断っていたのであるのだが。リリィのお願いと僕の言葉を受けてから引き受けてくれたのである。ただ、ユグルに訓練をつけてあげる条件としてある事を要求してきた。それが今度開かれる御前試合で僕と戦うことだったのである。その要求を受け入れないと訓練には付き合わないと言っていたので仕方が無く了承したのである。ちなみに訓練場所は城の中庭で行うことになっていて、今は訓練中なのである。訓練用の木刀を手に持つ僕達に対し相手となるのは同じ武器のはずなのに。全く勝てる気がしないほど実力差があった。

まずは僕の攻撃を避け続ける訓練から始まり、そして今度は逆に僕から攻撃をさせてもらったが簡単に避けられてしまったのである。

そんな訓練を行っている中で、僕はふと思う。なんでユグルはこの様な実力しかない相手に負けてしまったのだろうと。確かにあの戦いでは。この男は相手の攻撃を見極めてから受けていたのだと思っていた。だがそれは間違いである事をこの後に僕は知ったのだ。そう、実は相手の方が上手だったのである。この男は攻撃を受け流す事が上手であり。僕の攻撃を完全に見切ってから攻撃をしてきたのだ。だからこそ、この男に対して僕は手加減する事をやめたのである。

そして暫くの間、打ち合いが続いた結果。遂に僕の一撃を食らって。地面に転がる事になる。しかし、直ぐに起き上がると僕に対して向かって来たのである。僕はそのことに驚愕しながらも、次の攻撃を繰り出す。だがそれでも僕には全く当たる事はなく、そのまま押し倒されてしまった。

そして勝負は引き分けとなり、その瞬間に審判役をしていた騎士が勝敗の判定を下してしまう。

僕は納得できずに抗議を行うと、この男の本当の力がこの程度であるはずがないと伝えようとしたのである。すると、どうやらこの相手はその事に気が付いていたみたいで僕に向かって、こう言ってきた。

【あの時はお前の力に合わせて戦っていたからな。それで俺の力の一端を見せることが出来たわけだ。それと、まだ俺の真価を見せてないだけだから気にする必要は無い】

この一言が信じられなかった僕は、本気で戦った時の力をもう一度見せて欲しいと言うと、相手はそれを承諾して。僕との戦いで使った本気を出して見せたのである。その結果僕は自分の考えが甘かったのだと自覚する事になった。それは目の前にいるこの男。この男が今まで使っていた武器こそが真なる意味で、この男の全力を引き出す事が出来るものなのではと悟る事に。その事実を知ってしまった僕は思わず冷や汗をかくことになってしまったのである。何故なら目の前に立っている相手が本当に化け物だということが分かったからだ。だからこそ僕は、これからの戦いに向けて心を引き締めなければならない。この男とまともに戦うことが出来るのは魔王であるライア様だけだと思うので、僕はこの国の為にこの男が少しでも長くいられるようにする努力をするのだった。

◆ ユグドラシル大陸の東に位置する国家。その国は軍事大国として有名でもある。そしてその軍事大国で国王の座に就いている男こそ。

【名前】ゼストリッヒ=グラスターク(本名不明 男性)

性別/年齢 男/40代後半 外見 白髪を後ろに流しており。顔には幾つもの傷跡がある。そしてその鋭い瞳の色は血のような赤色で威圧感を感じさせる

装備 漆黒のフルプレートメイル(黒曜鋼)+魔鉱石の籠手を両腕と両足にそれぞれ着用 装備 大槍×2 所持しているスキル 武術スキル:『剣術』レベル7

『槍術』『弓術』等など多数。そして特殊スキルとして。『身体強化』という常時発動型能力 所持魔法 無属性の極大魔法

『闇雷光』(*1)

闇の上級魔法『ダークライトニング』

中級の雷魔法の上位互換である雷の最上級魔法『サンダーバースト(*2)』

同じく光の上級魔法

『聖光線』(*3)光の聖級魔法『シャイニーレーザー(*4)』

*1 威力は桁違いで一国を吹き飛ばす程に強力 使用魔力量は初級魔術師100人で1日程度消費 *2 上空に出現させるタイプの魔法 その直径は約20メートルに及ぶ *3 巨大なドーム型の魔法障壁を展開 その中に閉じ込める その効果は1分続く *4 1度に10個の小型の『ダークネスボール』を射出し、その10倍の規模の範囲を殲滅する

――

【名前】ミリアリア 性別/年齢 女/見た目15歳程度/外見 腰まで伸びる美しい銀の髪と白い肌/目の色は黒に近い藍色 特徴 真紅の宝石を埋め込んだかのような瞳(緋)

身長165cm B87 W55 H83 Fカップ(*)/装備 黒竜鱗を張り付けた双剣

(黒剣×1 黒剣×2)

スキル 剣術 火属性 土属性 氷結属性 雷鳴操作 重力制御(固有技能レア※)

所持アイテム 収納指輪(レア希少異空間倉庫レア)

※ レア 通常の魔法や特殊能力は使用者が意識して行わない限り発動させる事が出来ないのが常識なのだが。彼女の持つユニークスキルは無意識下でさえも自由に使えるという能力を持っている。また、これは彼女にしか使うことが出来ない。

「ユーフェミアさんがこの王国騎士団に入隊してくれるというのは大変喜ばしく思っていますよ。しかしですね、まさか入団当日に王である私自身が出迎えに行く訳にもいきませんから。今回は私が代わりに貴方を迎えにやって来たというわけです」

【名前】

ユーフェミア 性別/年齢 女性/外見 髪色は銀色に輝き肩までの長さ 肌色は普通/瞳の色は真紅(鋭い)

装備 鉄扇/アイテムボックス(黒)

【職業】

暗殺者 侍 勇者(*レア)

【ステータス値&能力数値】

体力 100 魔力 5500 気力 7600 体力と気力は同一表記ではないので、説明としては 気力とは体力の根源で、精神力と肉体力を合わせた数値である 体力はその名の通り体力の値を示す。つまりHP値のこと 気力はその両方を併せ持つ値であり、どちらかといえば魔力よりも重要な値 数値の例として言えばMPが魔力値ならば、魔力気力の合計値は5千前後となる *ただし、例外として勇者の場合はその上限が無いため、全ての能力を合算したとしても。その合計値は通常の数値となる

* * *

【能力数値】

剣術:レベル7

体術:レベル5

暗殺術:レベル8

隠密:レベル10

気配遮断:レベル10

気配察知:レベル9

気力隠蔽:レベル10

索敵:レベル10

鑑定:レベル10

投擲:レベル10

格闘術:レベル10

忍術:レベル10

結界:レベル10

魔法付与:レベル10

罠作成:レベル10

裁縫 錬金:レベル10

錬金術 鍛冶:レベル10

大工仕事 細工師:レベル10

薬師 :レベル10

調理技術 その他:レベル10

魔法具生成 :レベル5

武器系スキル: 双刀使い

長刀使い 薙刀士 刀使い 大剣使い 短剣使い 二刀流剣技 細剣使い 杖剣 刀杖 刀槍 剣盾斧 槌棍棒剣 刺剣 爪剣剣 小太刀 剣銃刀剣弓 拳甲脚輪腕足首 飛針投擲毒霧暗器煙幕薬玉爆弾矢符術呪術封印 投擲武器作成補助 投石術 手裏剣投擲 忍び足歩行 跳躍移動走法術 幻惑魔法 影縫い術 縄縛術式 水魔法 風魔法 土魔法:基礎五種:火球爆砕斬撃嵐陣壁氷雪竜巻 氷獄烈凍波雷撃炎弾岩石落下衝撃地脈乱激雷光柱暴風嵐牙刃旋風裂岩津波地震超振動大轟音落雷暗黒の波動闇に沈み闇に溶け込め死霊傀儡死者の群れ召喚闇への導き 闇へ誘う魂の手数を増やす 夜目視力上昇暗闇での視界を確保身体能力をアップ身体を軽くする闇夜に潜む 無属性魔術の行使 魔力の消費量を軽減する無属性強化無詠唱化無効果無威力無効力 魔術耐性無効魔術吸収無抵抗 無属性魔術による状態異常 呪縛の瞳相手の目を強制的に向けさせ、相手の思考と行動を操ることが可能 無属性魔法 魔力感知(レア)生命探知(レア)

精霊視(レア)

*この能力は勇者のみが持っている特別なものである。

ユニーク技能 暗殺の極意(固有スキル)

武術の極意(固有スキル)

ユニークスキル(特殊スキル)

暗殺(スキル固有スキルスキル*レア)

隠密(固有スキルスキルレア)

身体強化(レア**)

気配察知(*)

(レア**)

アイテム鑑定(レア)

アイテムストレージ(レア)

鑑定眼(コモン***レア)

解析(コモン***レア)

無属性の極大魔法

『闇雷光』

無属性の超級魔法

『無の終焉』

無属性の奥義魔法

『闇の世界』

『雷神』

『魔を断つ光』

*魔を断つ光とは闇属性の魔を滅することが出来る光である。このスキルを発動するためには、このスキルを使うと決めた時のみ、魔力を消費し続ける必要がある 魔法具創造 魔法袋(レア希少異空間倉庫)

*魔法道具を作成する事が出来る 魔法付与(オリジナル)

『魔法自動付与』

*自分が知っている魔法の武具などに好きな時に任意のタイミングで付与する事が可能になる 【ユニーク技能】

スキルコピー*自分の覚えている技能の熟練度を全て0にして、自分を対象に相手の使ったスキルをコピー出来る。

*相手が使っていると知らない場合と相手から見えていないと効果が出ない。(例 スキル発動中→相手が見ている前で使って、相手から認識されないで解除すると効果はなくなる)

*ただし同じスキルは同時に2個まで使用可能。(例えば火の魔法の初級魔法を2回使用した場合、その効果は1回ずつで2つではない。)

称号 *異世界からの転生者*加護 女神アルティエールの寵愛(ユニーク)

破壊神の憤怒(ユニーク)

魔王の恐怖(ユニーク)

魔族キラー(ユニーク)

エルフ族との友情の絆(*レア)

*レア

『妖精王オーフィア』

*オーフィア(本名オフィーリア)

*性別 女 *外見 身長30センチ程/容姿端麗な金髪ロングの幼女

種族: 人間 *ユニーク 無の守護天使(ユニーク)

*無の守護天使とは『ユーフェミア=ルクル(ユーフェミア)』の事である。

*

* * *


* * *

*

「え?!」

僕の前に現れた男はそう言って驚きの声を上げたのだ。それも無理もない事かもしれないが、僕は目の前に現れた男に対して見知った感覚を感じていた。それは懐かしさにも近いものだ。そして、その懐かしさが一体どこから来ているのかもすぐに分かったのだ。

(そうだ!こいつと会った時の事は良く覚えてるよ!!まさかこんな所でまた出会うなんて思ってなかったから驚いてしまったけど、よく考えたらこれは必然的な出会いだったんだろうなぁ)

僕のそんな気持ちとは別に。彼は言葉を続ける

「なぜ君のような存在をあの場に残して行ったのですか!?彼女はもうすぐで殺される所だったのでしょう?!」

そうなのだ。彼の言う通り、実は先ほど、この王国の姫は殺されようとしていた。それを間一髪救うことに成功したのである。しかし、それでも彼女を助けられた訳ではないのは事実だ。その理由は単純に、助けてそのまま一緒に逃げようとしたのだけど。それだと彼女がこの国のお荷物になってしまう可能性があると考えたからだ。そこで彼女には自分の意思でここに戻ってきてもらうためにあえてその場に置いたまま立ち去ったというわけである。だから当然、彼女には何も告げずに、何も事情を説明しないままに別れたわけだ。しかし、この男の反応を見るとどうやら彼女のことは既に把握しているようである。しかも名前さえも分かっているようであった。そうなると少しだけ気になる部分が出てくる。何故に彼が彼女のことを知っているかと言うことだ。だがその前に確認したいことがいくつもあった。

「なんで初対面のあんたがそこまで詳しいんだ?」

「それは私にも分からないのですが」

「ん~?どういう意味なんだ」

「いえ、私のスキルが貴方のスキルが発動した際に勝手に情報が開示されるんです」

その話を聞いて、ようやく得心が行った。恐らくはこいつのスキルのお陰でこの国の連中に捕まったのだろう。そうじゃなければ今頃はとっくに逃げ出せていたはず。なのに未だにこの国に留まってるってのはやはり何か理由がある筈だ。そもそもコイツはどうしてこの場所まで来ることが出来たんだ? まあいい。それよりも重要なのは俺のスキルの方だ。スキルが発動した途端に勝手に情報が分かると言っていた。おそらくはユニークスキルの効果で、この男の称号が見えたように、この男の固有技能である鑑定のスキルが自動的に働いたのだろうが、問題はそこじゃない。つまりこの男は最初から最後までずっと俺のことを見続けていたということになる。その上で情報を掴んでいたことになる。ならば逆に考えてみればこの男がここまでやって来た理由はたった一つだけだ。

(こいつは敵としてここにいるってことだ。それも多分レベルが200オーバーしているであろう程の強者だってことだ)

だからこそ警戒を解くことが出来ない。むしろここで始末してしまうべきなのかと迷っていた。なぜならこの王国の中でこれほどの強さを持っている者は今まで見たことも聞いたこともないし、まずあり得ないからである。

もしこれが本当ならばとんでもない事態に発展する可能性が十分にあるのは目に見えている。

そう。この国はこれから戦争に巻き込まれる危険性を孕んでいる。それが何を意味するかというのは考えれば直ぐに思いつくはずだ。それだけでも放置しておく訳にはいかないのだが、一番の問題はこの国が他国に攻め込まれようとしているという事だった。しかも攻め込む予定の場所というのが『魔王領』であるという事も、さらに悪い事に。『魔王軍幹部クラスの軍勢』がいるという事実もすでに掴んでしまっている為、もはや時間が無いことは明白。もしもこの男がこの国に入り込んでいるのが知れ渡ってしまったとしたなら間違いなく。『魔王領』側から宣戦布告を受けてしまうのは確実であると言えた。

だからこそ、この場で確実に倒すべきと判断したのだけれど その判断は早計であるということはすぐに理解することになったのだ スキル名 暗殺術(オリジナルスキル)

剣術(レア)

*この剣技を極めたものは達人になれる 槍術(レア)

*突きに特化した槍術を極めるものが現れる 大剣使い(レア)*斬撃に特化し大剣を扱うことが出来る 短剣使い(レア)*短剣の扱いに長けることが可能になる 刀術(レア)*刀術を修めることができる 二刀流剣技(レア)*剣の2刀を扱うことができる 長剣使い(レア)*斬撃を得意として長い剣を扱う事ができる 薙刀士(レア)*棒を使いこなし、あらゆる武器を扱える 杖剣(レア)

刀盾斧槌棍棒弓 拳甲脚輪腕足首 飛針投擲毒霧暗器煙幕薬玉爆弾矢符術呪術封印投擲武器作成補助投石戦手裏剣投げ 忍び足歩行跳躍移動走法 闇への導き 闇への誘い闇の世界に沈み闇夜と共に生き抜け死角を生かせ 気配遮断 魔力操作 身体強化(レア)

アイテムストレージ アイテム鑑定(レア)

スキルコピー *自分の覚えている技能の熟練度を全て0にして、自分を対象に相手の使ったスキルをコピー出来る 魔法具創造 *魔法道具を作成する事が出来る

* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

*

* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

僕は『魔』の力を身に宿していた。それは、僕が生まれた時から持っていたものだったらしい。ただ僕はそのことを知らなった。生まれた時はまだ子供だったこともあり、そんな事を気にする必要もなかった。だからその時の僕は何も知らなかったのだと思う。

しかし物心がついてきたころには周りの環境が変わっていたこともあり。自分を取り巻く周囲の状況も変わり始めていた。僕の家族は元々、僕の住んでいる街では有力な冒険者の家柄であり、両親共にAランク冒険者として名高い人たちでもあったのでそれなりに有名であった。特に父は母と結婚するまで、この街で1番の冒険者であった。そのため父に教えを受けた人は皆強くなると言われるほどだ。実際に父の教えを受けていた兄さんたちも今では、B+の階級ではあるのだけどその実力はSSに近いと言われていたのである。

ただ僕だけは違っていたのだ。

確かに僕は幼い頃から魔法の素質を持ってはいたのかもしれないけど。その才能を開花させることは出来なかったのである。それは仕方がないと誰もが思った。何故ならまだ赤ん坊だった頃に。魔法の練習をしていた父が放った初級魔法でさえ防ぐことが出来なかったのである。そんなこともあって、父と母は僕のことを可愛がってくれてはいたが、同時に将来は厳しく育てようと思っていたみたいで、他の兄弟たちに負けないぐらいの努力を強いられていた。だけど、僕はそれでも一向に上手くなることが出来ずにいたのである。

そうして、いつの頃からだろうか?周りの目が変わるようになったのは?僕自身に非があったのかも知れないが。しかしいくら考えてみても、自分に原因が見つかるようなことは無かった。

それからというもの。周りから疎まれるようになり、いじめの対象にもなってしまっていたのである。もちろん僕としては好きでそうされていたわけではない。それに、こんなに幼い子供がそんなことをされても、それに対してどう対処したらいいのかも分からなかったのだ。

だから次第に人との付き合いを避け始めるようになる。しかし両親は僕が孤立することを望んでいなかったようで、何かあったら相談しろとは言っていたが。その両親の想いとは裏腹に、誰にも話す事が出来なかったのである。そして僕が5歳を迎える頃になった時に事件は起きた。

「おい!!お前なんかこの家に相応しくねーんだよ!早く出ていけよ」

「ほんとだよね!お前のせいでパパとママが恥かいたじゃんかよ!!」

「さっさとこの家から出ていきなさい!この疫病神が!!!」

「そ、そんな、そんなつもりは僕は!」

「うるせえ!!お前の顔なんてもう見たくもねぇよ」

「うん。さっさといなくなって欲しい」

そう言って彼らは僕のことを家から放り出してしまったのである。それが原因で僕は行く当てもなく彷徨うことになってしまうのだが、この時の僕はそんなことよりも、彼らが僕に向かって最後に言った言葉を心の底から信じてしまったのだ。

『君が悪いんだ』

このたった4文字の言葉で。僕は生きることに絶望を覚えてしまい、生きる意味すら失うほどにまで陥った。だけどそこで出会ったのがあの人だったのである。

そう。僕を助けてくれたのは、今目の前にいる人なのだ。あの日、あのまま死んでしまったほうが楽だとさえ思えるほどの辛い出来事を経験した後に。僕は偶然にも、目の前で人が死ぬ場面を目撃してしまっていた。それも目の前でその人を殺そうとした人間がいたにも関わらず。

それを目撃した直後。気がつけば体が動き、相手を拘束するとその場から逃れようとしていた。

しかし、相手も相手が必死だったため、逃げ切ることは叶わなかったわけだ。

しかも、その相手は貴族であり、護衛を連れていたせいもあって中々に逃げ切ることが不可能になっていた。だからこそ、ここで相手に攻撃を加えたとしても正当防衛にはならないと分かっているのにもかかわらず。その男は剣を振りかざすとそのまま躊躇することなく僕に向けて振り下ろして来たのだった。

(殺される!?嫌だ、死にたくない、まだ何も出来ていないのに)

「―――やめてください!!!」

咄嵯の出来事ではあったが、僕の体はその声を聞いて無意識のうちに動くことを止めたのである。その行動のおかげで命を救えたのであるが、それが逆に僕の心に傷を残していく結果となった。それはなぜかと言うと、結果的にその男を殺してしまうところだったからだ。いや、殺してもよかったと思えてきてしまう。だがそう思うとすぐに、助けてくれようとした女の子に申し訳なさを感じるようになり、結果としてその男にトドメを刺すことはせずに、気絶させた後はそのまま放置したのである。その後に、その貴族の男を捕縛しようとした騎士たちの姿が見えたが、その瞬間に僕は逃げることにしたのだ。これ以上この場に残る事の危険性を感じたからである。だから僕は一目散で逃げ出したのだ。後ろの方で僕を呼ぶ声が聞こえた気もしたが、振り返ることもなく、僕は逃げたのである。

こうして何とか生き延びることに成功した僕だったが、この時からすでに自分の居場所が無いと悟っていたために、どこか別の街へ移動することを決意すると。その場所を探すための準備をする事にしたのであった。

そうして、旅の支度を整えた後。僕は誰もいない場所を探し求める為に旅立つことに決めた。

(これで良い。そう、これでいいんだ)

心の中でそう思いながらも。本当は誰からも愛されたいという願望を抱き続けていた。しかし現実問題として、それを望めるはずもなかったのだが、そんな気持ちを抱いていたからこそ、僕はある事件に遭遇することになったのだった。その事件については後に語る事にしよう。

とりあえずこの日から僕の人生は大きく変わる事になる。それが一体何を意味しているのかはこの時点では分かるはずもないことだったのだけれど。ただ確実に言える事はこれから起こるだろう波乱の幕開けに過ぎなかったということだ。

※最大魔素量は神の器の所持効果により変動しない。

その言葉の意味はなんなのかと考え始めたところで、すぐにその答えは分かったのである。なぜなら目の前の人物の全身から溢れ出ている魔の力に意識を向けることによって、瞬時に理解できたからだった。しかも、その魔力量が膨大であることには、それだけでも驚きを隠すことが出来ない。

そんなことを思いながら相手のステータスを確認する事によって、さらに衝撃の事実を知ってしまう。それは相手のレベルが800以上もあり、さらにはスキルも非常に厄介な能力を所持していることが発覚したのであった。

「そんな馬鹿な!いったいなぜ、それほどまでにまで強いんだ!?お前のような者が、この国に存在しているなどありえない」

「ほう、我のことを知っておるか。なるほど、貴様もまた『勇者』であるということか?」

はて、勇者とはなんだ?と思いつつも その男の放つ圧倒的なまでの威圧感に思わず気圧されてしまうことになる。ただその男は何故か急に興味を無くすと、僕の事を一蹴し始め、立ち去って行ったのである。正直言えば、その時にはほっとしたのと同時に恐怖を抱いたのだ。なぜなら僕の実力では敵うことのない相手だったのが明白だと判断したためである。だから僕自身も早々にここから去ることにしたのだ。そして次に考えたことは、やはり僕のことを快く迎え入れてくれる場所を見つけることが困難だという事が分かってしまい。どうしたものかと途方に暮れていた時のことだった。僕の目の前に現れたのがこの王国最強を誇る騎士団の副団長でもある、アスター殿だったのだ。僕は彼が通り過ぎる時に少しだけ会話を交わして、自分の身分を明かすと。そのまま彼は僕のことに興味を持って話かけてきたのである。そしてその後に言われた言葉で僕も驚くこととなったのだ。まさか僕が、王都へと招待される立場になっているなど夢にも思ってはいなかった。

ただそれでも僕が抱いた感情はこの国に来て初めて感じる喜びの感情である。というのも、僕の生まれ故郷の村は非常に貧しい場所で。僕の両親は、そんな村に暮らす人達の希望となるべく日夜頑張っていたのだ。その結果が実ってようやくの思いでこの土地を手に入れることが出来たのであった。ただそれも僕が生まれた時に、僕に才能が無かったという理由で諦めざる負えなかったのだ。ただ幸いにして、父も母もその才能に関しては悲観的ではなかったようで、僕の可能性を潰すまいと必死になって鍛えてくれていたのである。

ただ結局は、その両親を裏切るような結果になってしまった。そして僕はそんな自分を許すことが出来なくて、半ば逃げるようにしてこの都市にやって来たのだが。それでも自分を責めるのをやめることは出来なかった。

だから僕のことを必要としているこの場所へやってきたことに意味があるのではないかと。そんな風に思ったりもしている。しかし今は目の前の事に集中しよう。まずは目の前のこの方との対面に全力を注ぐことにする。

しかし、僕もここまで強くなったんだという思いも抱いてはいるけど。しかし実際に目の前の男に挑んでも絶対に勝てないということは理解できているので、ここは慎重に行動することにしたのである。だから目の前の相手にどう接するのかを考えていたのだけど、相手からの誘いの言葉は意外なものだった。

『私の直属の配下になるつもりはないかい?』

そう言われると僕は、この人が何のためにそんなことを言っているのかさっぱり分からず、困惑したのだ。だって僕は、こんな場所に居ても仕方がないと思ったのでこの都市を離れようとしただけだったのである。それなのにこんな展開になってしまうとは、誰が想像できていたというのだ。しかもその理由というのが、

『この国を、変えたい』

そう言い出したのである。

それを聞いた僕は当然の如く断るつもりでいた。だってこんな力を持った人物が、どうしてそのような思想を抱くのかが全く分からないのである。しかし、僕が断りの返事を口にしようとすると。それよりも先に、僕に問いかけて来た。そして僕はその言葉を聞いて絶句してしまう。なぜなら彼の言う『国を変える方法』というものがあまりにもぶっ飛んでいたことと、そんな方法を思いついたという事実に対してだ。そんなことが可能だとは到底信じられなかったのである。しかし、目の前の人物は真剣に僕にそんなことを言ってきたのだ。だからこそ、目の前の相手が冗談などを言ってきていないことが分かった。それに僕自身に嘘を言う必要が感じられないことも理解してしまったのである。だからといってその意見に賛成するかと言われればそれは否だったのだけど。しかしそんな僕を追い詰めるような発言をしてきたのである。それが『この国が腐敗している』という言葉だった。僕はその言葉を聞くなり、心の底から憤りを感じた。そして目の前の男が何を企んでいるのかも知らないままに、その提案を受け入れることに決めたのである。そうしなければ、僕は自分の意思を伝えることが出来なかったからなのだ。そうして僕は、この国の真実を知ることになる。そのことを知った瞬間、僕は目の前の人間のことを心のどこかで信じるようになった。それと共に僕自身が今まで培ってきたものが無に帰するような出来事に絶望を感じてしまうのだが、同時に、この人ならこの腐り切った世界を改革してくれるのではないかと言う想いが芽生え始めていたのである。それに加えて僕自身もこの人に付いて行きたいと、本気でそう思うようになるのに時間はかからなかったのだ。それからというもの。僕はその人の元で働くことになるのだが、最初はこの人の為になることがしたくて必死に努力をすることになる。しかしある時からこの人が変わってしまったことで。次第に不信感を募らせるようになった。

僕はこの人の為に頑張り続けたのに。

この人は、自分の欲望の為に、民を苦しめたのだ。

それは自分の欲を満たすためだけの悪辣な行為であり、許せるはずもなかった。しかし、そんな思いを抱きながらも。なぜかこの人から離れようとしなかった理由はただ1つ。

僕のことを認めて欲しいという気持ちと、自分の居場所を無くさないためだったのかもしれない。ただそれはもう既に手遅れだったことに後から気づいたのだ。

僕が気付いたときにはこの人との仲はすでに亀裂が生じており。僕の言葉なんて届いてもいなかった。いや、最初から聞く気など無いということだった。だから、僕は最後の最後でその人物のことを信用することを止める。そして、その男を倒すために全力を尽くすことに決めたのだ。その男を倒せばきっと全てが終わるはずなのだと信じながら、ひたすら戦いに明け暮れることになるのだった。

「ふむ、なるほどね。貴女は私達が思っている以上に強かったんだ。それでこそ、貴女のことが気になった理由なんだけど、でもそんな理由で私達に敵対するのはどうかと思うんだけど」

「そうだぜ、俺達と敵対しても良いことは何もねえよ。大人しく捕まってくれると助かるんだがな」

そんな事を僕に向かって告げてくる男女だが。二人の表情から察するにそんなに悪い奴ではないんじゃないかと思い始めるようになっていたのだ。まあそれも全てはこの二人の持つ魔力量に原因があるのだが。

(なんなんですか?この異常なほどの膨大な魔力量って!この魔力だけで僕を圧倒できるんじゃ?)

正直そんな考えに至ってしまうくらいに、目の前の二人がとんでもない存在であることは明白だったのだ。そもそも魔素というものがある世界だからなのか、この世界には魔力量が常軌を逸している者達が多く存在していたのであった。その筆頭格ともいえる存在こそ僕の目の前に立っている二人組ということになるのだけど。それでもそんな彼らよりもこの目の前の二人の方が圧倒的に高い魔力量を誇っていたのである。そんな事実を知ったうえで、さらに言えば先程から僕の身体がピリピりするかのような嫌な気配を感じていた。

そんなこともあって、彼らの言葉には従いつつも、警戒心だけは怠らずにいたのであった。そしてその判断が正しかったのかすぐに知ることになる。僕の事を拘束していた縄を切り落とすとともに、僕のお腹に強烈な衝撃が加えられたからである。そのおかげで僕は地面の上に倒れこんでしまい、そこで痛みによって悶絶しそうになったが。その前に相手の追撃が入る。僕の顔を思いっきり蹴られたせいか、そのまま吹き飛ばされて壁にぶつかってしまったのだ。しかしすぐに立ち上がり相手の方を向きなおすが、相手は既に攻撃動作に入っており。僕が反撃に出る余裕はなかったのである。

「さて、これで貴女を拘束するものは無くなって自由に動けるだろう。でもその状態で私達の事を撃退することが出来るか、是非試させて貰うとしようか!」

その発言と共に再び襲いかかってくる女性。その女性は、僕と同じように拳を主体とした戦闘スタイルらしく、僕のことを殴り飛ばしまくっていたのであった。しかし、そんな彼女も何かに感づく。そしてその視線は僕の頭上に向いていたのであった。すると彼女は慌てて後ろに飛び退き僕のことを警戒しだしたのである。僕も一体何が起こっているのかさっぱり分からないが、彼女の行動を目にすれば一目瞭然だった。何故なら僕の目の前に巨大な岩が出現してそれが僕目掛けて降ってきたからだ。僕は間一髪のところでそれをなんとか回避することに成功したのである。そして目の前の人物は僕の方を見ると。不敵な笑みを浮かべてきたのだ。そしてそんな彼女が口にした言葉は僕に対する問いかけだった。

「へぇ~私の攻撃をそんなもので防いだのね。それならば遠慮は要らないわよね?」

「ちょっと、それだと話が変って来るじゃない。私達は彼女に話を聞こうとしていたんだから。そんな一方的に攻撃を仕掛けちゃだめだよ」

「大丈夫よ、殺してはいないんだから問題はないでしょ?それともこの子の事を殺すつもりなの!?そうなったらこの子は間違いなく殺されるでしょうけど」

僕のことを勝手に殺す話を進めるのを止めてくれると、本当に嬉しいんですけど!!と言いたかったけど。この人達相手に口を開くと危険なことになりそうだったので黙ることにしたのだ。ただその前に一つだけ言わせて欲しい事があるのだ。

「あのぉー、僕って一応生きているのですけど!!」と大きな声で反論をする事にしたのだ。その声を聞いた瞬間に、相手は僕に意識を向けてくれて、僕の方に近づきだしてくれたのである。そしてそのタイミングで今度は男性が僕に対して質問をぶつけてきたのだ。その問いかけは僕に取ってみればとても不思議なものだったのである。なぜならそれは『お前は何者なんだ?』といった内容だったから。だから僕は困惑しつつも、とりあえずは自分の本名を口に出して答えようとする。しかし僕の名前を告げた瞬間。二人は顔色を変えたのである。どうも目の前の二人は僕が誰であるか分かったみたいだ。そして彼らはお互いにアイコンタクトをとると、僕の元に駆け寄ってきて、急に抱きついて来たのだ。しかも頬擦りしてくるような勢いだったために、僕は慌てる羽目になる。

しかしそんな僕の反応を全く気にすることなく更に密着するように僕を抱きしめ続ける彼女たちに戸惑いを覚える。

(どうしてこんな展開になってしまったんでしょうか?それに僕はこれからどうなってしまうのだろうか?)

ただ疑問だけが募っていく中で、僕は自分の身に何が起こるのかが全く分からなかったのである。

それから少し時間が経ち、ようやく落ち着きを取り戻した目の前の女性は自己紹介を始めてくれたのだ。しかし僕は未だに警戒を解くことが出来なくて困り果てていたわけなのだけど。しかしそんな中で最初に話しかけてきくれた女性の行動に僕は思わず驚きの声をあげてしまうことになる。というのも彼女は、いきなり土下座してきたのだ。

『お願いです、私たちに協力して頂けませんか』

そんな言葉を掛けられるが、正直なところ何が何だかさっぱり分からない。だから困惑してしまうのだが、次に女性が発した言葉が僕を更なる混乱に陥れることになったのである。

「まずは貴方の事情は後回しにして謝罪をさせて下さい。私たちは自分たちの都合のためにあなたを拉致してしまったことを心の底から謝らせて欲しいと思います。そしてそんな卑劣な手段を使った我々に怒りを覚えていることでしょう。そのことは重々承知しておりますが、しかし我々の望みの為にも、どうしてもあなたの協力が必要だった。それだけを分かってくれればいいんです。どうか私達に協力してくれないですか?必ず役に立てる自信があります。だからお願いいたします、私達に協力して、この国を変えましょう!」

そんなことを目の前の人物が言うが、僕は全く理解が出来ないままで、その発言から分かるように、やはり僕はこの国の王たちの手中に収まっていたようだ。そして僕の身柄を盾として使って僕の意思に反してこの国に不利益になることを行わせようとしているに違いない。僕はそう考えた上でこの申し出を断ったのである。当然この人たちの言葉が本当なのかはわからない。だって僕にとってはこの人こそが信用出来ない人物なのだから。だからその誘いには応じることは出来ないと伝えた瞬間。その女性の様子が豹変するのである。

「なんでそんな酷いことを言うのよ!こっちは貴女のことを心配して言ってあげているっていうのに」

その言動を見た僕は、やっぱり嘘だったと分かり、僕はため息を吐きながら呆れ返るのであった。しかし僕の対応を見ても、この人たちはめげずに何度も僕に協力をしてくれるよう説得を続けて来たのであった。正直この人達がどんな目的を持っているのかは気になったが、それよりも気になったのは目の前の女性が僕の事を見る眼差しに何かしら違和感を抱いたからである。それは僕がずっと求めていたものと同じものだったのだから。

僕は今までこの瞳を持つ人に出会っていなかったためその事に気が付けていなかった。しかし今こうして僕の前に立って協力を要請してくれている女性は、この僕を見つめている瞳の持ち主であり。そんな彼女を目にしている内に僕は自分の意思で彼女について行こうと思ったのである。

その気持ちに偽りがないことを伝える為に、僕はその女性に向けて右手を伸ばすと、僕はある提案を行う。すると、僕の言葉に驚いた表情を浮かべるが、次の瞬間に笑顔になり、僕の手に自身の左手を添えるようにして触れたのである。

「これからよろしく頼むよ。僕の名前は、そうだね。僕の場合は『ライト』と名乗らせて貰うかな。君は?まあ名前は言わなくても良いんだけど、でももし教えてくれるなら僕としてはありがたいけど、それでどうだい?」

僕の問いに対して彼女は微笑みながら。僕の事を抱きしめて来て、その言葉を伝えてくる。

「私の名前を教えてあげる。だからその代わり私の事を守ってね」

彼女のそんな一言に、何故か心が高鳴ったのである。その理由は分からない。だがきっと僕の心はこの人を信用出来る人物だと告げてくれていたのであった。

この世界に来てからの初めての仲間を得た僕。その仲間たちとはこれからの人生をともに歩んで行くことになるのだが、まさかあんなにも過酷な日々が訪れるなんて想像できるはずもなかった。

そしてこの時僕達は知らなかったのである。この後僕達を待ちうけている悲劇の存在を。この先に待つ運命に翻弄され、仲間を無くし。僕が狂ってしまうまで、もうそんなに長い時間は残されていなかったことを―――。

この世界では奴隷制度というものがある。これは、この世界において決して珍しいものではないのだけど。僕が住んでいた世界のように人間扱いされている訳ではないのである。それはなぜかと言うとその対象が奴隷にされてしまった者達のほとんどが、獣人の者達に限定されていたからである。そしてその中でも一番多いのが狼族の獣人で。次が犬の獣人と続き。さらに猫の獣人や、虎の獣人がそれに次ぐといった形になっているのであった。ただそれでも全体の総数に比べれば少数派の方だったりする。

ちなみにだけど僕が最初に出会った少女は、その狼族だったのだけど。彼女が奴隷になっていた理由に関しては色々と複雑すぎて僕には到底理解できない出来事ばかりだったのである。簡単に言えば、その少女の父親と母親は、自分達の息子を売り払って借金を返すために娘を差し出したと、そういうことだったらしい。その事実を知ったとき僕はとても憤った。なぜ親が子供をそんな形で売り渡さないといけないのか。そしてそれがこの世界の価値観なら何故僕はそれを許容できなかったのだろうと考えてしまうのである。しかしそんな疑問を解決する方法はないわけで。だからこそ僕は、その現実を受け入れなければならないと思い。なんとか受け入れたふりをしてその場を凌いだのである。そして僕が助けてあげた彼女からは感謝の言葉を貰ったが。内心は彼女に対して強い感情を抱いていた。

何故なら僕は、その両親を殺してやりたくなるほどの怒りを覚えてしまっていたからだ。それは、彼女を買った男が、彼女にした行為を目にしていたからだ。そんな行為を目の当たりにしたとき僕は怒りを抑えることができなかった。しかし僕一人では絶対にそんなことは不可能なので仕方なく僕は諦める事にしたのだ。しかしそれすらも無駄な抵抗に過ぎなかったことを思い知らされることになるのだった。

そう、あの日から数日が経過したときに、僕達が暮らしている町に大きな嵐が訪れ、町の至る所で建物が壊れてしまい。多くの住民が犠牲になる事態が起きてしまったのである。そして僕はそこで初めて知ることになったのだ。その事件の背後に、この国の王が絡んでいることに。

僕がこの町に来てまだ数カ月しか経過していないにもかかわらず。僕が知っている人達は次々と亡くなっていくことになったのである。しかもそのどれもこれもが僕が関わりを持った人達ばかりだったのだ。僕は目の前で起こっている惨劇に、ただ立ち尽くすことだけが出来れば良かったのに、結局のところ何もできず。無力感を噛み締めることしかできなくて歯痒い思いをしてしまうのである。しかしそんな中で唯一生き残った女の子が居たのだ。その子のことが僕は気に掛かり、そして彼女と話をする為に会うことにした。しかし僕はここで後悔をすることになってしまう。僕は彼女の過去を知ってしまったことで、彼女を深く傷つけてしまう事になるのであった。

「ねえ、君の名前を聞いても良いかい?」

僕がそう問いかけると彼女は涙を流し始めるが。その瞳には強い意志が感じられたのだ。そんな瞳を目にしてしまった僕に逃げる選択は選べない状況に陥ってしまう。しかし僕だってこんな事は望んじゃいない。僕はそんな彼女を落ち着かせるために抱きしめようとしたら、逆に強く抱きしめられてしまう。しかもそのまま僕に抱きついてきて離れようとしなかったのである。

(こんな小さな子にまで、辛い目にあわせたくないんだ。だから僕は何があっても彼女たちを助け出す!!)

そう思った僕は、僕のことを力強く抱きしめてくる少女を優しく抱きしめ返してやるのだった。しかしその直後だった。急に強い衝撃が走ったかと思うと。僕の視界は大きく揺らぎ。意識を失う結果となってしまったのである。

ただ、この時の僕の体は異常と言っていい状態にまで至っていたのだ。

僕の体がまるで別の生き物のように激しく脈動を繰り返していて。痛みと共に僕の体の中に存在する力が徐々に増大していくような不思議な感覚に襲われ続けていたのである。

「ははっ、なんだよこの力は!僕の体に一体何が起こったっていうんだよ!!」

僕の口は僕の体なのに僕ではない誰かに勝手に動かされていくようで気持ち悪く、更にはその言葉に答えるように僕の体を侵食してくるように僕の中の異物が膨れ上がっていく。そのお陰もあってなのか僕の思考回路は完全に停止してしまい。自分の置かれている状況を冷静に見極めることが出来なくなってしまったのである。

僕の身にいったいなにが起きているのか。それにこの僕の状態は何を意味しているのか。全く理解出来なくなった僕は恐怖から逃げようとするも。僕の体は既に僕のものではなくなっていて。そしてそんな僕の耳元で声が聞こえてくる。

『大丈夫、貴方は何も怖がる必要なんて無いのよ。だってこれから先は全て貴方の意思に委ねられ、そして私は貴女の意志を尊重するのだから。私に任せていれば安心よ。さあ行きましょう』

はぁ?どういう意味だ?とそんな事を考える前に、その言葉を発した存在によって僕の頭は一瞬にして書き換えられるようにしてその意思に従ってしまう。そしてその言葉を呟くと、僕の中に入り込んできた何かが僕の体内を巡り。僕の体を駆け巡っていったのだ。

すると僕の肉体の変貌が始まったのである。まずは僕の全身が激しく震えたかと思えばその次の瞬間には皮膚の表面から鱗が生えてきていたのである。さらに背中から何かが伸びていきそれが僕の腕に絡みつきながら変化していき。やがてその正体が見えてきたところで僕の口から叫びが漏れた。

「嘘だろう!?」

僕のその驚きの言葉に答えたのはその生物の声である。

『あら、そんなに驚かなくても良いわよ。これはね私の使い魔のようなものなんだから』

「そんな、じゃあ僕はこの魔物を僕の体に入れたっていうのか?」

『うふふ、ご名答よ、その通りです。これで貴女は私の仲間になったのです。私の事を信用してくれて嬉しいわ。でもそんなに驚くほど凄い事でも無いのよ。だって私が貴女を選んだ理由はそれだけじゃないもの』

「どういうことだ?他にも僕がお前を信用できる理由があるという事なのか?なら聞かせてくれよ。僕はなんとしても彼女を助けたいし、そのためにどんな手段を使ってでも彼女を助けると心に決めているんだ!」

『う~ん、でもねそれは無理だと思うのよね』

「はあ?なんだよそれは。僕は諦めたりしないぞ?例えそれで僕の存在が消え去ってしまっても必ず彼女だけは助けてみせる。その為なら僕は何でもやって見せる。僕の全てを犠牲にしてもかまわない」

僕が必死に訴えてもその言葉に返答はなく、僕の言葉が相手に届いたのかどうかさえ分からない。だがそんな僕に対して彼女は笑みを見せてくるのである。しかしその笑顔を見て僕はゾッとする。

彼女の笑顔は僕に向けられたものでは無く。僕の事を観察して楽しもうとしている表情に他ならなかったからだ。そんな彼女に嫌悪感を覚えた僕はどうにか出来ないものかと考え続けるが。その方法は全く見当がつかず。そんな僕に向かって彼女が話しかけてきた。

『まあまあその怒りを抑えてください。これから楽しい時間を過ごすために少しだけお話しをしたいのですよ』

そんな事を言う彼女だったが、既に僕の中に存在していた怒りは爆発しそうになっていて。今にもこの目の前の相手を消し去りたい気分に陥っていたのである。そんな状態では彼女に何を言っても聞いて貰えないと判断した僕は。とりあえず彼女からの質問を聞くことにし、怒りを何とか鎮めようとするのだった。

そして僕は、彼女の質問に対して素直に応える。

僕は彼女の言う通りに、僕が僕で無くなりそうな危機感を感じていたのだけど。そんな僕に対して、彼女の話してくれた話は実に興味深い内容ばかりだった。それは彼女の僕への願いでもある、この世界の人間達の救いたいという強い想いが込められたものだったのだから――。

彼女は、自分の仕えていた人間たちを救うために様々な実験を行っていて。その結果として生み出された一つの種族が存在していたらしいのだ。しかしそれは決して表舞台に立つことはない。その存在こそが僕たちが獣人として認識している者の正体だったらしく。しかし僕達は知らないだけでこの世界のどこかにはその種が存在するのは確かだったらしい。そして彼女が行ってきたことは。その者達を生み出すために、僕達人間を実験動物のように扱っていたということなのだ。彼女は自分が作り出す事が出来るその種族を誕生させるのと同時に、その者達の親となるべき存在を作り上げようとしていて。それが僕の事だったのである。

ただ僕は、この世界で獣人として認識される獣の特徴を持つ人間たちの親にされる為だけに生を受けさせられ。僕達人間がどのような目的で作られているのか。その理由を僕は知ってしまったのである。そしてそれと同時にその行為に対する嫌悪感を覚えてしまうが。同時に疑問を抱くことになる。その行為に疑問を抱いて当然の事なのに、僕はそれを不思議だとは思わず、疑問に感じることが無かったのだ。しかしそれも仕方がないかもしれない。だって僕はすでに一度、この世界に生を受けたことがある存在で。この世界のルールに従わなければいけない身なのである。そしてこの世界の人間たちは僕の存在に気がついていないので、そんな僕達が彼らの目的を知った所で、彼らがその事実を受け入れるとは到底考えられず。そもそも僕はこの世界のルールに従った上での行動しかできない。だからこそ僕は諦めるしかなかった。

そして彼女は僕が彼女に従うと決めるとその表情が一気に明るくなった。それは彼女にとって僕が自分の意のままになっていると実感できたからに違いないのだ。そう、つまり僕はすでに彼女の手の平の上で転がされてしまっているのである。

しかし僕はそれでも構わなかったのだ。僕の目的はこの世界を平和な場所にすることであり。それ以外のことに興味は無かったからである。なのでこの先どうなるかは分からないけれど。僕は彼女と約束を交わしたのだ。

そして彼女と契約を結んだ直後。急に意識を失ってしまい、そして目を覚ました時には町が滅んでしまったあの日の惨劇が脳裏に浮かんできたのである。そう彼女は、この国の住民たちを虐殺するために動き出したのだ。しかしそんな彼女を止める方法はいくらでもあったはずである。

僕は彼女の手駒にされてるとはいえ、自分の命が危険にさらされている以上、彼女の行動を阻止するのが正しい選択だといえるはずなのに。僕は彼女の行動が正しかったと思い、僕は彼女の言葉に従い続けたのである。それはなぜかと言うと。彼女は僕の体の中に宿った彼女の魂のようなモノを分離させてくれると言ってくれたのだ。彼女の言葉を簡単にまとめれば。僕をその体から解き放ち自由に動けるようにするということだったのである。僕はその言葉を信じ、彼女の指示通りに動いていたのであった。そして彼女はそんな僕に感謝を告げてくるが。そんな彼女に僕はどうしても伝えなければならないことがあったのである。僕に体を返すときがくるまでの間で良いので、どうか僕を彼女の傍に置いて欲しいと。僕は彼女の力になる事を伝え。彼女もまた、僕に協力を仰ぐことで僕が僕の意思に従ってくれると喜んでくれ。僕の望みを聞き入れてくれたのである。しかし僕には分かっていなかったのだ。これが大きな間違いだったという事を。なぜなら僕はこの時点で既に僕の人格は完全に失われてしまい。僕は僕ではない何者かに意識を奪われていたからなのである。その僕の体は僕のものではないと分かった途端。僕に僕の体に居座っている奴を排除する為に行動するのは、僕の体を返してもらうためには必要だと判断し。まずはその僕の体を探そうと試みることにした。そのお陰でようやく僕を見つけ出すことが出来たのだが。そこで僕は信じられない出来事を目の当たりにしてしまったのである。

なんと僕を取り込んだ少女は僕と同じ顔をしており、さらに僕は彼女の体の中で、その少女の心を感じ取ってしまうことになったのである。その心に触れた僕は少女がどれだけ苦しんでいたかをその少女を通して知る事になってしまった。そして僕はその少女に謝ることになってしまう。なぜならその少女は、僕の知っている少女ではなかったからだ。そして僕の記憶にも無い女の子の体の中に入り込んでしまっており。さらに僕の体を支配しているこの体の主は、その少女のことを酷く憎んでいることが分かり、僕は僕の体の中に入り込んだこの体から解放されることを望んでしまったのである。だからなのか、僕はこの僕の体の中に取り込まれた瞬間に気を失ったのは、恐らくは僕を取り込もうとしていた僕の中の別の誰かが僕の存在の消滅を防ぐために僕を一時的に拘束して、僕を逃がさないようにしていたという可能性が高いと僕は思う。そして僕が僕の中に存在している少女と接触を果たすことができたのも、僕の中のもう一人の僕の力が、少女の精神が僕の中にいる間も僕の力を増幅し続けていなければ無理なことだろうと思うし、そんな状況下におかれてもなお僕は僕の体から出ることはできなかっただろうし、もし僕の方も体から出ようと思っていれば僕の体が壊れて、僕の体ごと僕の魂が消滅した可能性さえもあったのだ。だが僕を取り込み続けていたこの少女の体の持ち主は、そんな僕に救いの手を差し伸べてくれようとしていたのである。この世界は残酷なのかも知れないけど優しい部分もあるんだなと思った。僕にとってはどちらも大切な事なのだが。どちらにも良い部分がたくさんあると思えるのだ。

そう考えると僕は彼女の事を悪く言うことは出来ないと思えたので。彼女に従うことにした。その事が彼女の機嫌を損なう結果になってもかまわない。僕は僕の目的のために彼女の手伝いをするだけなのだから。ただ、彼女が僕に対して危害を加えてくるようならその限りではないが、少なくとも今はそんなつもりが無いようだし。僕としてもその方が良いと思っている。それに僕はこの国を滅ぼしたこの世界の人間が許せない。だからこそ僕は彼女を手伝ってやろうと考えたのだ。まあもっとも、彼女がどんな手段を用いてこの国を滅ぼすのかは正直いってかなり興味があるので見てみたいというのも本音である。そう僕は僕をこの体に取り込むきっかけを作ってしまった少女に対して少なからず責任を感じているのだ。それは、僕の中に存在するこの子の存在も関係している。だからこそこの子は僕の命に変えてでも守り抜いて見せないといけないと強く感じているのだ。

僕が僕を取り戻すためにはこの体の主と話すしかないと、そう考えた僕はどうにかして僕の体を奪い取ろうとしたのだけれど。そんな事をしても僕自身の精神力で負けてしまってはすぐにこの子の体の支配から解放されるだけだったのである。そして、その事は、僕に僕の体がどういうものであるのかを教えることになってしまっていた。僕の体の本来の持ち主なのだけど。この体の中には僕の記憶を覗いたであろう彼女の魂が存在しているのだ。そして彼女はこの世界の人間の事を嫌いになっていて。彼女も僕のことを恨んでいて当然の立場にある。そんな僕の中に存在するこの子なら僕に協力してもらえると僕は判断した。しかし僕のこの予想は甘かったのかもしれない。彼女はそんな僕を快く受け入れてはくれないのだから――。

「えっ!?ちょっと、そんなまさか!!」

そんな叫び声をあげた後で僕の姿を見ると、急に立ち上がってこちらに向かってくると。いきなり僕に向かって殴りかかってきたのである。そして彼女のパンチを顔面で受け止める事になった僕なんだけど。彼女はすぐに後ろへと下がって距離をとったかとおもいきや、また再び拳を振るってきたのだった。だけど、今の彼女の動きを見て、彼女の力の全てを引き出せてはいないと判断した僕は、そんな彼女の攻撃を軽々と避けると。彼女はその場で足を滑らせながら倒れそうになりつつも踏みとどまったのである。

そして彼女は何があったのか分からず困惑している様子だったが。その気持ちはよく分かるのだ。自分の知らないところで勝手に話が進んでいた挙句。しかも、自分には知らされなかった事が原因で国が滅ぼされようとしているという事に。僕は少しだけ同情してしまった。ただ僕は僕の事を大切に想ってくれる人の為に。自分の意志で行動したいのだ。だから僕はこの世界で僕を助けてくれた人に協力する事を決めているのである。

しかし、その事を伝えただけで彼女が僕に攻撃をやめてくれるはずもなく。何度も執拗に殴ってきた。それどころか彼女は僕の頬を思いっきり引っ掻いたりもしてくるのだ。その度に僕は痛いと悲鳴を上げていたのだ。だって僕の肉体の防御力はゼロに近い状態で殴られているわけで。そのダメージが彼女の痛みに繋がっているはずなので僕は、これ以上の攻撃を喰らう訳には行かないと思い、彼女を抱き寄せるようにして捕まえる事にしたのだ。そしてその行動は正しかった。

僕は彼女の体に触れていると徐々に彼女の記憶が流れ込んできてしまうのだが。それは僕の中に存在した彼女の魂の影響なのかは定かではないのだが。僕に抱き締められる形となってしまった彼女は。急に大声で泣き始めて。そんな彼女は僕から離れようとしたのである。だけどそんな彼女の体は、既に力尽きる寸前で。そんな彼女の力の源が僕の魂であることは既に確認済みだったので。ここで彼女から逃げるなんて出来るはずがなかったのだ。だから僕は逃げられないと理解させるために彼女を押さえつけようとしたのである。そしてその結果、この部屋の天井に穴を空けてしまったことは反省するべきだろうと思う。しかしそれも仕方のないことだ。そうしないと僕が彼女を抑え込めなくなってしまうのだから。そして僕がそんなことを考えながらも彼女に優しく声を掛け続けていると。彼女は大人しくなってくれると。僕の顔を見るなり涙を流し始めるのである。

「わたくしに貴方のような弟がいただなんて知らなかったんです」

その彼女の発言は、どうにも嘘には聞こえなかったので。おそらくは僕と似たような存在が彼女の中にも居るのだと思われるのだ。それはつまり。彼女は、この体の元々の主とは兄弟であるということになる。

そして彼女の口から、僕がこの体の元持ち主だと伝えられ、その事を知った僕は納得したのである。この少女は僕と同じように、他の人間とは違う何かを感じ取っていたのだろうと僕は確信していたので。僕は僕の魂にこの少女は僕と同じ存在であるのだということが分かり。僕は僕が僕の体の中に入ったままでも良いのではないかと考えるようになっていったのである。

僕は僕がこの体の主を乗っとってしまった事を申し訳ないと思いつつ。その事で僕は彼女に謝罪したのだが、彼女は特に怒った様子を見せず僕を受け入れてくれて。むしろ僕が彼女の中に存在していても構わないといってくれたのである。僕は彼女にそう言って貰えて本当に嬉しく思い、これから僕は彼女と二人で生きていこうと思ったのだ。それがたとえ僕の中の少女に迷惑をかける事になるとしても、それでも僕は彼女の傍で彼女の事を守ってやりたいと思ったのである。しかし僕にはまだ不安がある。僕には彼女がこの世界をどのようにして支配しようとしているのかが全く分からないので彼女がどのような方法で世界に復讐を果たそうとしていたのかは僕には想像が付かないのだ。ただ僕に分かる事は一つだけだと言えるだろう。

それはこの国の王として生まれてしまったこの子がこの国を滅ぼそうと決めた時点で既に手遅れなのだと。その考えに至るほどに、彼女の怒りと悲しみは相当なものだったに違いないと僕は思うのである。それだけに彼女がどんな方法を考えて実行しようとしてきたのか僕にはまったく予想できない。ただ、僕と同じような事をしようとしているのではないかとは思ったのだ。なぜなら僕の時は、僕の体を取り込んだ相手がこの体を支配していた時に、僕の存在を消滅させてしまっていたからだ。そしてその事が理由で僕は僕を消滅させる原因を作ってしまった人物を憎んでいる。だから彼女の目的もこの世界への報復でしかないと思ったのである。

そんな僕の思考を見透かすかのように。彼女が話しかけてきたのであった。

そうすると僕は彼女の体に僕が僕の中に取り込まれてから、今までに経験したことを全て話したのである。そうして僕は僕の中にある僕の人格の事も含めて。僕がどんな存在なのかを包み隠さず説明していったのである。そしてその途中で僕は、彼女がどんな方法を用いて僕達を滅ぼしたのかを理解したのである。しかし僕は僕と彼女の関係性についての説明をしたときにはもう驚かなかったのである。だってそれは僕の方から提案するつもりであったことなのだから――。

僕はこの世界で目覚めた直後に、僕の中に存在する別の人格のことを告げられた時も、この子の言葉は信じられなかったが、今ならば受け入れられると確信したのだ。なぜならこの子の言葉は間違いなく真実だったのだろうと思うのである。そう思う根拠はこの子は、僕を取り込んでいる少女とは違い。とても優しい性格をしているように感じたからである。それに、僕に攻撃を仕掛けた時の表情が演技であるとは思えなかったし、なにより僕の中の彼女の意識は僕を乗っ取ることに失敗している。だからこそ僕はこの子を信じることが出来るのだと思ったのだ。そしてそんな僕の反応に満足してくれたのか。この子はようやく僕の事を解放してくれると言ったので。僕はとても安堵することができたのである。ただ僕の中に存在した僕のもう一つの人格も消滅しているらしく。その事を伝えられた僕は少しばかり残念だと思うとともに。僕の中に存在した彼女が僕に対して友好的な関係を結んでくれて良かったと思った。

ただこの子は僕からこの国をどうやって滅ぼしたのかと問われたので。僕はその経緯を話すと。この子の表情が段々と変わっていくのがはっきりと見えて。最後には僕の言葉を信じてくれたのか僕の話を聞く気になってくれると、僕のことを信用してくれるようになるのである。

「貴方もわたくしも結局はわたくしがこの手で作り出したという事になるのかしら?」

そう言った彼女の言葉を耳にした瞬間。僕の中に存在していたもう一人の人格の女の子の存在が消えてしまい。僕の意識が一瞬にして真っ暗になってしまうと僕はそのまま意識を失ってしまうのだった。そうして僕は意識を取り戻したときには全てが終わった後だったのである。

彼女は、この国の人達を全員殺して、この国に住まう人全員が奴隷となる契約魔法を発動させた。それからこの国の支配者となったこの子が最初に行ったことと言えば、自分が国王になるのではなく、女王になることを宣言したのである。そして彼女はその言葉通りに自分のことを女王と名乗り始めたのだった。その事を疑問に思いつつも、僕はその事を誰にも伝えることができなかったのだ。というのも僕はその宣言を耳にしたとき。僕の体は完全に自由を奪われてしまっていて口を開くことが出来なかったのである。しかし、そんな僕でもどうにか抵抗を試みた。だけども僕にはそんな力など残っていなかった。

彼女はそのことに直ぐに気づくと。そんな僕にこう語りかけてくるのである。

「貴女のおかげで、わたくしの憎しみは晴れましたよ」

彼女の顔は笑顔だったが、何故かその目は笑っているような気がしなかった。そして僕はそこでやっと気が付いたのだ。目の前にいる女性が、本当の意味では笑うことがないのだという事に――。

僕達がこの世界で目を覚ましてから二か月程経過しただろうか?その間は僕は、僕の肉体の持ち主に体を貸すことしか出来なかったけれど。僕と彼女の間では、この体の主導権は基本的には彼女の方が持つということになって、彼女は彼女の肉体を持つ少女に、僕に肉体の主導権を握らせるかどうかの選択権を委ねるといった行動をとったのである。その結果。僕の方はこの体の本来の肉体の持ち主に体の所有権を渡すと決めて。彼女もそれを認めてくれて。そうすることで、彼女は僕の中に存在した少女の人格とも折り合いをつける事に成功したのだ。

ただ僕達は僕の中に存在するもう一人の僕の存在についても受け入れるという決断を下し。僕の中には三人の人格が存在することになったが。彼女達の話し合いの結果、お互いを尊重し合い、協力する事を誓ったのだ。そして、彼女から僕の魂に肉体の支配権を譲り渡されると、僕は肉体の支配権を手に入れたことで僕の中の僕の魂との繋がりがより強固になっていき。それと同時に僕の魂の波動が変質していく。そのおかげで僕と僕の中の彼女の魂はお互いに干渉することができるようになった。そして彼女からの一方的ではあるが、彼女に対する僕への感謝の意思を受け取ったのである。だから僕の心の中では、彼女が喜んでくれていて、それが何よりも嬉しかったのである。僕は僕自身に感謝してくれている人が居るのなら。僕もその人を全力で守りたいという想いに駆られていった。それはきっと僕の中の僕の魂の影響もあったのだろう。だって彼女は僕に命を与えてくれた存在なのだから。僕にとって彼女は特別な存在である。だから彼女の望みを叶える手伝いが出来ることは僕にとっても幸せに思えるのだ。そして僕がこの世界で何をするべきなのか。それはこの世界で僕が僕だけの人生を謳歌することだと彼女は教えてくれていたのだ。だから僕は何も悩むことなく彼女の言葉に従い行動すると決めたのである。

僕がこの世界で生きていく為には何が必要かと考えた時。僕はまずこの世界を知る必要があった。この世界がどのような歴史を歩んできたのかは僕にとってはどうでもいいことであった。しかし彼女達が目指している最終目的がなんであるのか。それだけは知っておかなければならないと思っていたのだ。

そしてそれはこの世界に生きる全ての人間の悲願でもあり。彼女がこの世界に対してやろうとしていることを考えると。僕にも出来ることがあるかもしれないとそう思ったのだ。だからこそ僕はこの世界の全てを知らなければいけなかった。そうしないと僕が彼女の力になりたいと考えても、それすら出来ない可能性の方が高いのだと僕は考えていたのだ。

「お父様、どうかなさいましたか?」

「いいえなんでもありませんわ」

「お母さまも体調が優れないようですが大丈夫でしょうか?」

「ふふ、心配してくれるのは嬉しいのですが。わたくしは問題ないのですわ」

「わかります!私もいつもお母さんに迷惑をかけちゃうんですよね」

私はそんな娘達の声を聞いていると思わず微笑んでしまいそうになるが。その感情を抑えて表情に出さないようにするのである。何故私が表情を出さずに済むのか。その理由はこの部屋にある鏡が答えを示してくれており。私の表情を映さないように隠してしまっているのだ。

そう。それは私が身につけさせられてしまったものの一つ。それはまるで魔導士が好んで身に着ける仮面のようなものだと言えるだろう。これは魔法の力で装着者に仮初めの顔を見せることができる道具で、これを使えば素顔を隠すことが出来るが。逆にこのマスクを着けていない状態の時にはその効果がないばかりか。常にこのマスクが邪魔をしてしまう為、この状態での表情を隠してしまう事になるのだ。しかもこの状態のままで表情を変えることは難しくなる。ただこの魔法具には便利な点が一つだけあって。このアイテムは装着者自身の表情だけでなく声までも変化させることが出来るというものだ。その為この魔法の効果は他人からは分からないし、またこちら側から見ると。その効果が本物に見えるため違和感を感じさせずに過ごす事が出来るようになっているのである。しかしこんなものでは意味が無いと思うのが普通であろう。

だがこれには実は隠された機能が備わっていて、これを装着している者の心の動きに応じて、その心の奥に秘めているものを外に見せることができるらしい。例えば喜怒哀楽などの心の変化があった際にその感情に合わせてその人物の本当の表情が見えるようになるそうだ。そしてそれを目にしてしまった者達はその本当の顔を脳裏に焼き付けられて忘れることができなくなり。その人物がその人物であることに疑いを持てなくなるのだと言う。つまりそれは、その者が普段見せているその人の本性を、見抜く能力を得ることが出来るということなのである。

ただそれは本来であれば相手の嘘が分かるという程度の物なのだが。この魔法の効果を最大限に利用した場合。それは相手に、自分自身がどんな存在であるかを誤認させてしまい、相手を完全に自分の思い通りに従わせる事が可能となるらしい。そしてこの魔法の発動中は他の魔法の一切を使用できず。他の人間に認識されなくなったとしても。この魔法を常時使用し続ける事は可能であり。相手がどんなに離れていようともこの魔法は効力を発揮して。その人物から情報を引き出そうとした時点で自動的に発動されるのだと言う。だからこそ、この仮面の力を過信してはならないと言われているのであった。この力が万能でないということを、常に自覚しておくようにと言われ。その上でもしそのようなことが起きた場合には、直ぐにこの国から脱出することを考えろと言われるのである。

ただこの国で生活をしていく上では、この力は大変に重宝するものなのも確かで、だからこそ国も簡単にはこの国の王女であるわたし達にこの国を滅ぼそうとしていた罪人の存在を許しているのである。なぜならこの国を滅ぼすのがこの国の住人だったとしたならば。その罪人は、その国が滅びた後に別の国に移住することが出来るのであるが。その国の国民が滅んだとあらば話は違ってくるのだ。だからこの国の人間は、この国に害をなす存在には寛容であると聞いており。この仮面の力を使いこなさなくてもある程度は対処ができるのだと思われるのである。

この国の人々はこの世界の創造神を信じて生きている人たちが多く。そのためか皆が善人であるというわけではなくて、この仮面を使って悪人の心を探ると、悪の心をむき出しにした人々が見つかることもある。

そういう時は直ぐにその場から離れるように言われている。なぜならもしもその場に踏みとどまり続けた場合はこの仮面の力に引き寄せられてきた魔物に襲われる危険性があるからだ。なのでそういった危険な場所には近づかない様に気を付けていれば大抵の場合は安全に暮らせるということだった。しかし、そんな風に暮らしていて本当に良いのだろうかと疑問に思っている。だからといってわたし達は何かをしたいわけでもないのだ。ただ今は静かに暮らしたいと考えているだけであるのだけれど。しかしそんなことをしていても良いのだろうかと悩んでいる部分もあり、どうにかしなければと考えさせられることがあるのだ。だからと言ってわたしはどうすることもできないのだが。それでもなんとかできるかもしれない手段を持っている存在のことを考えるとその人物に頼るほかないのだと思っているのである。

そんな考えをしながら日々を暮らしていたときのことだった。

『ねえ、お姉ちゃん、最近暇じゃない?たまには二人で外に出かけない?』

この世界にやってきたもう一人の女の子である少女の言葉を聞いた瞬間。何故か心の底から嬉しさが込み上げてきて、つい涙が出そうになってしまう。でも必死に気持ちを堪えると、私は笑顔を浮かべながら答えるのだった。

「いいですよ、あなたと一緒に遊びに行く約束をしていましたもんね」

そう言うとわたしは彼女と手を繋ぐ。彼女はそんなわたしの姿を見て嬉しそうにしているようであった。それから彼女に連れられて街へと出かける。彼女はこの街に来て以来。ずっとわたしの部屋で暮らしているため外に出かけるのも随分久しぶりなのだと、そう口にして。彼女は街の中を歩いていくのである。

そして彼女が足を止めた場所は。この街で二番目に広いとされる図書館で。彼女によるとここに居るだけで楽しいのだと口にする。そしてわたしの手を引いて中へ入っていくのである。そう言えばこの子の事をあまり詳しく知らないけれど。この子は何を考えているのだろうか? この子とは何度か会っているけど、その殆どがわたしがこの部屋に居るときに、彼女が部屋の中に勝手に入り込んできて。そして話しかけられるということがほとんどで。それ以外の時間はこの部屋で大人しくしているのがこの子であるのだ。しかし最近ではわたしが部屋を離れている時を狙ってなのか。部屋に入り込んでいる事があり、そのたびに部屋を漁られて少し困る事もあるのだ。ただその行為がなんなのかよく分からず。特に実害が出ていないためそのまま放っておいているが。一体この子はわたしになんの用があって会いに来るのか未だに謎なままである。だから彼女がなんの目的を持っていてなんのために動いているのかはいまいち理解できなかったのである。

(そもそも彼女はいつまでこの国にいるつもりなんだろう?)

そう考えた途端。わたしは自分の思考に驚いてしまった。それは今まで気にしたことが無かったことである。どうして今頃になってわたしはこの子にそんな興味を持つことになったのだろうと。そしてこの子は何の為にここにいるのだろうと考えた時に。彼女について何も知らずにこの子を迎え入れていることを思い出し。慌てて彼女のことについて知ろうと決意するのである。そしてその日を境にして、この子が何者なのかを調べ始めた。そしてこの子のことを色々と知れば知るほど。この子が何故この国にやってきているのか、この国を乗っ取ろうとしていたのか。その動機がだんだん見えてくるのである。そしてその真相を探った上でわたしはこの子を殺すべきなのではないかと真剣に悩み始める。それはこの子の本当の目的を知り、それがどれだけ危険であるかを知ったからである。しかしいくら調べてもこの子はこの国に何を求めているのか。何をしたくて行動を起こしているのかがさっぱり分からない。そこでこの子をよく観察することを始めることにした。するとこの子は普段何をしているかと言えば、基本的にはわたしの部屋でごろごろしているのである。しかもそれは本を読んでいたかと思うとお絵かきを始めたりするのであった。この子は普段はお人形で遊んでいたり。絵本を読んだりと子供らしい行動をすることが多い。だがふっと我に返ったかのように、急に大人の目線で周りを見渡し始めたかと思えば、今度は子供の声で大騒ぎをする。その姿は一見すれば普通の少女のようで、どこにでもいそうな普通の娘にしか見えないのだ。しかしその正体はとんでもないもので、彼女の目的は世界を征服する事にあるのだというのである。その言葉が本当かどうかはまだ判断することはできないけれど。それでも、この国が滅びるきっかけを作った人物で有ることだけは間違いがない。その事実を知ってからは。彼女に気付かれないようにして監視を続ける事を決意する。だけどその時は既に遅すぎたみたいであり。わたしは気が付けばあの仮面をつけさせられていたのだ。その事に焦りを感じたが。仮面を外すことはどうしてもできなくて。仕方なくその状態のまま過ごしていく。しかしそんな状態のままでは満足な生活をおくることなどできず。常に周囲に誰かがいなければ恐怖を感じてしまい。まともに眠ることすらできなくなったのだ。その事が分かってから、何とか仮面の力を誤魔化す方法を探すために必死で努力をしてみることにする。そしてそれに成功したことでやっとわたしが望んでいた平穏を手に入れられるようになった。

ただその時には既に、わたしには時間が無くなっていたようである。どうやらこのままではわたしの命は残り数日程度だと思われるのだ。それはなぜかといえば、わたしは日に日に衰弱してきているからであり。どうにも仮面をつけた状態で生活を続けていると命を落としやすいらしい。そしてそんな状態になった理由はわたし自身の心が乱れて、その心の変化に伴って魔法を無意識で使用してしまった結果のようであった。だからこの魔法が解けた時は死を迎える時であるらしいのだ。つまり残された時間は後わずかしかなくて、もうわたしは諦めて、その最後を受け入れようとしていた。その時にあの人からの提案を受け。そして最後の願いを口にしたのである。その言葉を目の前に居る女性に伝えようとしたのだが。それをする前に意識を失ってしまう。だがそんな状況になっても仮面の効果が残っていたのは、仮面の呪いの力によるものらしく。それで仮面の効果によって意識を失う前の出来事がわたしの記憶として残ったままにしてくれたのである。だからこそわたしはもう一度立ち上がれた。まだ死ぬ訳にはいかないと思い、この国の姫である立場を利用してこの国の問題を解決するために動き出す。しかしそれと同時に。自分の犯していた過ちを改めて確認することになったのであった。

僕はこの国の王族からの依頼を果たすべくして動くことにした。その前にまずは神器の所有者になっている人に会いにいく。その人物に会うために、この国にやって来てから世話になった宿に顔を出し。そこで神からの試練を受けて無事にクリアしたという証となる証明書をもらった後に、目的の人物が住んでいるという城へと足を運んだのであった。ちなみに神器は、神から力を与えられた時に渡された袋の中にしまい込んでいるのである。この国の人たちが使うには強力すぎるため封印されているらしく。もしも持ち歩いているのを他の人間に見られてしまった場合。どんな反応をされるか分からないという事が原因であると教えてくれた。だからなるべく人目に触れる場所に出歩かないように言われている。

そんなこんなで僕がやってきた場所はこの国で一番大きな城の中である。しかし、そんな城に足を踏み入れた瞬間から妙な雰囲気を感じる。この城の中で生活している人たちは、みんな仮面を身につけているような印象があった。それもそのはずで、この仮面を被らないということはこの世界に存在することが出来ない。そのため人々は仮面をつけるのだと、そう説明を受けていたのである。そしてその話を聞いた時点で、神から授けられた加護をこの人達に見せびらかすわけにもいかなくなり。だから僕自身も、この国の住人のように素顔を隠すことにした。そうして城内に案内された僕の事を出迎えてくれる人は一人もいない。

その理由については、どうも先程この城の中に入ってきた時にすれ違った、一人の若い男性の所為だったようだ。その男性はこちらに向かって、何かぶつくさ文句を言っているように思える。その内容はどう考えても歓迎しているとは思えない感じだった。

だからその男性には聞こえない振りをして通り過ぎようと考えると、その男はいきなり僕の肩に手を置いてきたのである。しかしそれには僕は驚かない。その男がどうせろくでもない存在であろうことを予想していたためだ。だから相手にしないつもりでいると、案の定その人物は口汚く悪態をついてきたのである。

「この薄汚い獣人が!お前なんかを誰が招き入れるものかよ!」

(ああ、こいつはあれかな?典型的な嫌な奴キャラって事か)そう思って相手をすることにする。

「あなたが誰なのか分かりませんが。僕はこの国の王子様に呼ばれているのです。あなたに指図されることではありません」

「貴様ぁ!この俺様に対して無礼な物言いをしたな?ただの庶民の分際で」

そんな風に偉そうにしてくる相手を見て思ったのは、やはりこういった性格の人物が仮面をつけていても。その仮面を脱ぎ捨てたら、醜い表情を見せてくれるのだろうということだ。まあ、この人の気持ちなんて正直どうでもいいんだけどね。それよりも、そろそろ鬱陶しくなってきたからさっさと退散することにしたんだよね。だって、さっきからその人に触られるたびに不快感が襲ってくるし。その度に気分が悪くなるんだよ。そんな訳でこれ以上関わり合いになるのは時間の無駄だと思い。早々にその部屋を出て行ったのである。

その後すぐに、例の男性の声が聞こえる。だけどその声は明らかに狼少年的な事を言っていて、自分はそんな人ではないと言い訳している。しかし残念ながら誰もその言葉を信じてはいないようだった。そんな時である。あの男性が急に態度を変え始めたのだ。それはどういうことかと言えば、どうやら彼は権力を盾にしてやりたい放題をしていたらしい。しかし今の状況ではそれを証明する手段がなく、このまま放っておけば彼の地位が危うくなりそうな状況になってしまったのである。そこで彼はとある提案をしてきた。それはこの城の姫と婚姻を結ぶと言う事であり。それが無理なら王位継承権を寄越すと言ってきたのである。だがそんな申し出にこの国はあっさり応じることを決めたのであった。その事に関して、その場にいた人たちからは反対意見が多く出たのだけれど。最終的にはこの国のために犠牲となって欲しいと言われ。彼らはこの城を去っていったのである。そして残された男とその部下達は、その話を持ちかけてきた男に怒りをぶつけるのであった。だけど、結局はその人も追い出されることになる。そんな彼らの会話を聞き流しながら僕はこれからのことを考えるのであった。

(確か城の中にはこの城のお姫様が住んでいたはず。でもどこにいるかまでは知らないしな。仕方がないから探すしかないか)そう思い至った僕は、取り敢えずお姫様が住んでいる場所に向かうことにした。そこでようやくあの男性の名前を知ったのである。

「あの、すいません。あなたが姫なんですよね?」そう話しかけると彼女は首を傾げながらも返事をする。そして彼女の方からも、僕に用件があるのかを聞いてきたのであった。それに対して、彼女の目的について尋ねることにした。すると彼女曰く、僕の目的は達成できたとのことで、それならばここから去るという話になり、そのまま城から出て行こうとする。しかしここで僕は気が付いたのだ。彼女がどうやってここに来たのかをである。なぜなら彼女は空を飛んできたのだ。それもかなりの速度で。そしてそれを可能としたのがこの神器の力であることは明らかであった。しかし彼女の力はこれだけでは終わらなかった。なんと、その力を応用することで。城全体を包み込む結界を張ることに成功したのである。その事を聞いた瞬間に驚き、そして同時にこの国の危機が去ったことを知った。だから後は、この城の人間たちが何とかしてくれるだろうと安心して、この場所を去る事にしたのであった。

ただその時のやり取りが問題であり。あの男性が僕のことを邪魔に思っていることは確実であり。どうにかして排除できないものかと考えていたようである。そんな時に僕と出会った事で、彼が企んでいる計画を思い付いたらしい。その計画は、僕のことを始末することだそうだ。しかもその方法については。彼一人で実行するのではなく。大勢の部下と共に行うことだという。しかもその中には仮面をつけた者も含まれているのだとか。だからもし仮に仮面をつけた人物を見かけた場合は。注意して欲しいということを教えてくれたのである。しかし、その人物については全く身に覚えがないから。その忠告に関しては忘れないようにして。それから彼女と別れることにしたのであった。

そういえば、その途中でこの城に居た兵士さんたちとすれ違いになった。その際、僕の方を警戒する様子で見ているような気がする。その理由について考えてみたのだけれども。恐らく僕自身が、あの仮面をつけて素顔を隠しているから怪しまれているのではないかと考えた。だからその対策として、仮面を外すことに決めて。兵士達に自分の顔を見せてあげることにする。その行動は予想以上に効果があり。仮面を着けたままよりも兵士たちの視線は好意的なものに変わっていく。それで少しだけ気持ちが楽になると。今度は自分が城に呼ばれた理由を聞くことにしたのである。しかし残念なことに。その理由はこの国の王と、王子しか知らず。またその二人とも面会は出来ないと断られたのだ。だからその情報は手に入らずじまいとなってしまった。

ただこの時に思い出したのが、この国の王子様から依頼されている内容だった。その内容は、神器の所有者たちと接触して、力を借りるように頼んで来て欲しいという内容だった。なので早速その話を進める為に、この国の王子であるアルスランという人と会おうとしたのである。

ところが肝心のアルスランという名前の人物は見当たらなくて、その代わりとして現れたのは。僕をここまで案内してくれたメイドさんであった。しかしその人は僕を見る目が、なんだかとても冷たい感じがして。僕にはどうしても苦手な人だと思ってしまったのである。ただそう感じたのは一瞬の事であり。直ぐに笑顔を浮かべて自己紹介をしてくれた。それで僕は、この人は仮面を身につけていないから。素顔で生活しているということが分かったのであった。

ちなみに名前はアリンといい、この国の王族直属の執事をしている女性だった。その話を聞いた後、僕はその人に、神器所有者の居場所についての心当たりが無いかどうか尋ねてみる。だがその答えは、そもそも城には神器が保管されているという場所には近づけさせてもらえないという事であった。どうもその事が理由で神器の所有者たちとの接触を禁止されているのかもしれない。もしくは神器の所有者たちに接触する行為自体が不敬とされているとか。そのどちらにせよ。僕にとっては面倒な出来事であることには変わりない。だからこそこの国に滞在しているうちに、神器所有者の方々に顔合わせをしておかなければならない。

僕は、この国にいる内に神器の所有者に会いに行きたいと思っているのである。そのために今、何処に行けばいいのか。それをメイドの方に聞いてみると。今は外出中で城の中にはいないとのことだった。だから僕も仕方なく、その場から離れることにしたのである。その去り際にも、僕は彼女に、どうして仮面を被っているのかを聞いてみた。

その問いかけに対して、彼女はこう答えたのである。

「あなたのように素顔を隠すためではありませんよ。この仮面を外せば私は普通の女の子と同じ外見になってしまいますから。それが恥ずかしくてこんな物を常に着けていないといけないのです」と。

僕はそんな事を言われてしまうと、何も返すことが出来ないでいる。しかし彼女は僕のその反応が意外だったようで。

そのことについては詳しく説明してくれた。それによるとどうやら彼女は呪いをかけられているらしく。それは異性と関わることが出来ないというものなのだと。その呪いを解くためには、その異性と子作りをしなければならないのだというのだから。何とも難儀な性格である。

「でも私だってこんな呪いなんてなければと何度も考えたことはありますけど。それでもこの見た目を好きな人もいると分かったので。それに私のこの姿を綺麗だって言ってくれましたし。だからそんなに気にする必要もないのかなと思い始めたところなんです」

そんな彼女の話を聞けば、この国の王子である、アックスが惚れるのも無理はないのかもと思っていたのだ。確かに彼女は、その見た目が幼い少女のように見えるのに。実際はもうすぐ十六歳にもなるらしい。だけど彼女はそれを認めようとしないのだ。

「私はまだ子供でいたいんですよ」そう口にするのも納得出来る気がしていた。そう思えば、この国にも仮面をつけていた人が一人いたことを思い出したのだ。それはあの時に出会ったあの男であり。どうやらその人の名前は仮面の戦士と呼ばれているらしい。そんな名前を持っているのであれば当然、その名前に似合った仮面をつけていても不思議じゃない。だけど僕は彼に会ってみたくなっていた。だからすぐにその場所へと向かってみる事にしたのであった。

僕が向かったのは、塔の中に隠されていた地下牢の中だ。そこなら仮面の人が囚われていてもおかしくないだろう。そう思っていた。だが実際にそこに訪れた時には既に手遅れだった。そこは死体だらけになっており、仮面をつけたまま息絶えてしまっているのが確認できるのだ。

だけどそこで気になったのはその仮面の人物が、この城で僕をここまで連れてきた、メイドの格好をしていた人物であったことだろう。まさかそんな事は無いと思うのだが、その人の身体を隅から確認したところ、首の部分が切り取られているように切断され。頭部が行方不明になっていたのだ。そんな現場を見てしまえば嫌でもその事を考えてしまい。その人の身に一体なにが起こったのか想像してしまう。しかしそんな時、後ろから急に声が聞こえてきて振り返った。そこには仮面をした男性が立っており。僕のことをジッと見つめてきているのである。

その事に驚いていると、彼はいきなり僕の方に向かって襲いかかってきたのであった。だから咄嵯にその攻撃を避けようとするが間に合わずに、彼の剣の一撃が腹部に直撃したのだ。その瞬間僕は、激痛を感じながら壁に吹き飛ばされてしまった。

しかし痛みに悶えている暇もなく、その人は再びこちらに迫ってくる。その表情には殺気が宿っているように見えて、このままだと殺されかねないと思った。だけどこの場を逃れる為の方法を考えていた僕は、不意打ちに近い攻撃をしかけられながらもどうにか回避することに成功したのであった。

そしてどうにかして逃げ出すことが出来た僕だった。でもその後の出来事を思い出すだけで頭が混乱してくるような事態になってしまうのであった。なぜならその人は突然仮面を外したのである。そうするとそこから出てきた素顔は、僕が知っているあの人だったからだ。それを見た時に僕は動揺してしまったのだ。しかしその動揺は直ぐに消え去った。何故ならば、彼が襲い掛かってきていたからである。僕は逃げることに必死であり、どうにかその攻撃を受けないようにして避け続けているのが精一杯だったのだ。しかしそれでもどうにか隙を突いて彼から距離をとることに成功する。

ただそのおかげで彼が誰なのかを理解した僕は。彼がどういう目的で僕を襲うのかを知ることになる。その目的とは僕の命ではなく、この神器を奪うことだったようだ。その事実を理解できた瞬間に僕は絶望することになる。そして目の前の男の目的が達成されてしまうと感じた。それだけは絶対にさせないと覚悟を決めた僕は、最後の力を振り絞ることにして神器を発動させることにしたのだ。その結果、どうにかして仮面の男性を倒すことに成功した。その男性は倒れ込むと動かなくなる。そしてその男性が倒れた直後だっただろうか、この国を守ってくれた英雄と呼ばれる存在の一人。あの姫が姿を見せてくれたのである。

彼女は何故かこの場所に現れた。しかもその隣には先程まで一緒だったはずのメイドの姿もあり。僕に対して敵意ある視線をぶつけてきていたのである。だから僕は、彼女がなぜこの場所に来たのか疑問に思った。ただその理由については、彼女から僕が聞き出そうとしている内容を彼女が逆に聞いてきたことによって知る事になる。

そうして彼女は、自分の口から僕の敵が誰かという事を僕に伝えるのであった。ただその話を聞く限りでは僕をこの国から追い出すために。僕の事を騙していたことだけは間違いないようであり。僕は少しだけ腹が立っていたのだ。だがその怒りもすぐに収まってしまう。その事についてもちゃんと理由があっての行動だったようであり。この国の王子であるアルスランという人物と、王女が結婚した理由を聞かされたからだ。

どうも二人の関係には問題があったらしく。この国を守るにはどうしても強い力が要り、そのためには手段を選んではいられないと、そういう理由から無理やりアルスランと、姫を結婚させたそうだ。しかしその行為が二人には苦痛であったようで、二人は別々の道を歩もうと決意する。その為に姫はこの国を離れることを決めたのだ。そしてその前にこの城に訪れた僕を利用して神器の力を手に入れようとした。それが真実であったのだと言う。

ただここで問題が発生する。その話を聞いていた僕だったのだが。僕も一緒に付いて行くことになったのである。それは僕自身が決めた事でもあり。アルスランは、この国に残ってくれないかと言ったのだが、それを僕は断る事にする。この国に残る意味がないからという事と、この国には仮面の人がまだいるのだから、もしものことがあった時の対処は、この僕に任せて欲しいとお願いしたからでもあった。それにアルスランと二人でこの国の平和を取り戻せるとも限らないから、僕はどうしてもこの国から旅立つことを決意していたのである。だからこそ、神器の力で、僕と一緒に戦えるという人に力を貰うつもりだった。その相手こそ神器の所有者なのだ。

その神器所有者の名前は、仮面の神器所有者である、リザードという人物であり。その人物を探し出さなければ、今後どのような展開が訪れるのかも分からず不安で仕方がなかったのだ。だからこそ一刻も早くこの問題を解決するべく、この王都から出ることを決めていたのである。

「それにしても貴方のこの国での功績は素晴らしく。本来であればその報酬を与えるのが当たり前なのですが。神器の所有者様との約束により、神器を渡す事は出来ないのですよ。本当に申し訳ありません」

その事を口にするメイドさんの言葉を聞いた後、僕は神器の所有者にお礼を伝えたい気持ちを抑え込み、城から出ていくことにする。神器を所持していなくても僕自身が強くなれるように特訓する必要があると考えていたのだ。そうでなければこれからの旅の途中で何かがあった時に困るのは僕であり。だからこそ自分自身を鍛え上げることを考えたのである。だけどそんな考えをしている中で、一つ思うこともあった。それはあのアックスのことだ。

彼は一体何を考えているのだろうかと思ってしまうのである。まさかあんなに綺麗で可愛らしい女性が側にいるのにも関わらず、どうして僕なんかに好意を抱いたのか未だに理解できずにいる。それどころか、彼女は、僕と会う度に睨んできていて、そんな状態で、旅を共にする仲間になって欲しいなんて言えるはずもなかったのだ。そんな彼女の態度に僕は困惑しながらもどうにかしたいとずっと考えていたのである。でもどうして良いのか全く思いつかずに今に至る。だから今は、彼女と話すことが出来る時間が出来るまで待とうと考えている最中だったのであった。

---

私は今、塔の上から街を見下ろしているところだ。そしてそこに映っていた光景を目にした瞬間、全身を悪寒が走り抜けたのである。そのせいで身体が震え始める。だが、それと同時に興奮を覚えてしまった私は。自分がこの世界の異物なのだと実感させられてしまう。しかし今はそれに恐怖心を覚える暇はないと思い直すと、塔の上から急いで降りる事に決める。

「この世界に私よりも強い奴がいるのね」と。思わず口に出た独り言は、嬉しさを隠しきれないといった感じで声が漏れてしまっていた。

しかし私の頭の中にはあの男の事がよぎる。あの男、仮面の騎士。あれほどまでの力の持ち主が存在していることが何より驚きで、もしかしたら、私と同じように異世界からやって来た人間ではないかと考えてしまい、つい興味がわいてしまったのだ。その正体が何者であれ一度接触してみようと思えば、すぐに行動を移せていた。しかしそこで足を止めることになる。

理由は目の前に突然現れた少女にあったからだ。彼女は私を見るなり、まるで獲物を見つけたかのような目つきに変わり。その瞬間、私の中に浮かんだ嫌な予感は的中してしまい、彼女の手に武器が出現する。そして次の瞬間にその少女の振るった剣は私の右腕を切断してしまったのである。そして切られたと同時に激痛に襲われると共に。自分の腕が宙を舞っていく様子が目に入ってくるのだ。だがそこで終わらず少女は容赦なく攻撃してきたのであった。だが私は咄嵯の事に動けずに、その攻撃を受け続けてしまっている状況に陥ってしまったのだ。

だけどそこで終わりではなかった。どうやら私が攻撃されていることに気がついて、塔の上にいたメイドの女の子が駆けつけてくれたのだ。しかし駆けつけた時には既に手遅れであり。私の腕は完全に切り落とされて、胴体部分も切り刻まれてしまっている。その痛みに耐えきれずに声をあげてしまいそうになるのだが。ここで気絶してしまった方が楽だと理解してしまうと、私はどうにか意識を保つように頑張ることにした。

そしてどうにか意識を保ち続けていると、不意にあの男が姿を現してくれる。そして彼は、この現状を見て動揺したような表情を浮かべた後、その少年が、剣を振るい襲いかかるのであった。その剣捌きは見事であり、恐らく彼が持つ神器の効果なのだろうけど、攻撃の威力を増幅させて、それでいて相手の動きを鈍らせているという効果があるように見えたのだ。

だけどそんな攻撃を仮面の男は全て避けて見せている。しかも避けながらカウンターを決めているのだ。その光景を目の当たりにしてしまった私は驚いてしまうのであった。

そして戦いが終わったのか分からないけれど。二人の会話が耳に届いてくることになる。その内容は余りいいものではなく。どうもこの場にいた少年の方はこの国から出ていくことを決意したようで。仮面の人はこの場に留まることを選択したようだ。そして二人はその場から去って行ったのであった。

二人がいなくなったことで安心しても良いと思ったが、直ぐにこの場から離れる事を決意する。というのもあのメイドの少女は、あの少年を殺すつもりで行動していたからだ。だからその邪魔をした仮面の男は、私にとって危険な存在であり。直ぐにでも排除すべき対象となったのである。

ただその判断が間違いだった。そのことに気がつかされたのは、あの二人の戦いが終わった後にメイドが私に近づいてきて。その刃を突き付けて来たからである。そうして私は何も抵抗できないまま、命を奪われることになるのであった。

------

(作者:ここからはまた本編とは別の物語となります)

――仮面の男を目の前にして僕は困惑することになった。何故なら彼が仮面を取る前に見せた表情が、どこか見覚えのある人物のような雰囲気を放っているよう見えたのだからである。ただ、それも一瞬の事でしかなかった為。すぐにその記憶も忘れることになるのだが、そんな僕の反応に気がついたのか。その女性は笑みを見せてから、その顔を晒す。すると、そこにはやはり予想通りの顔が存在したのであった。

そう、僕の前に現れたのはこの国の王女であるサーラさんだったのだ。彼女はどうして僕の目の前に現れたのか疑問に思ったのだが。それよりも先に彼女は僕の方へ歩いて来る。僕はそれを避けることが出来ず。そのまま押し倒されてしまったのである。

そんな僕の事を、サーラさんはじっと見つめると微笑んでくれたのであった。そうして僕に覆いかぶさっている状態から立ち上がってくれる。

「初めまして、私はこの国の王女を務めている者です。今回は私のお願いを叶えるために、この場所を訪れて下さって、本当にありがとうございます。まずは感謝の言葉を言わせて下さい」

「えっと。どういうことでしょうか?」

僕はその言葉に疑問を感じてしまったのだ。なぜなら僕は神器の力でこの世界に来ることが出来たが、この国を訪れたことはないはずだから。そう考えた僕は何の事を指しているのか全くわからなかったのである。だけどそれでもこの国が僕の訪れた場所だということを彼女が口にしたことだけは事実であった。だからこそ僕は不思議に思い、彼女に向かって問い掛けたのである。

「ふふっ、まぁ貴方にとっては当然の反応でしょうね。だって、私がここに来た理由、それを説明するためには色々と話さないいけないことがありますから」

彼女は僕を見降ろしてから説明を始めるのだった。

どうやら僕はあの時の、仮面を付けた状態で王都に入った時から彼女につけられていたようで、その時から彼女は僕の目的が神器である事を突き止めて僕を監視下においたというのだ。それに気が付いたのも偶然のようで。この塔には結界石が設置されていて、それを利用して僕を監視していたという。そう考えると、どうして僕にそこまで執着したのか分からなくなる。だけどその答えを彼女は教えてくれて、なんとその時に使ったのが、あの仮面の力であると口にするのである。彼女はこの国を守る騎士である。そしてそんな彼女の仕事の一つにはこの国に訪れた人の監視というものがあった。だからその力を欲した彼女は神器所有者の僕に接触しようとしたのだと言う。その結果として仮面の力を手に入れることに成功したと口にしてくれたのである。

でもその話を聞いた僕はある違和感を覚えたのである。その力は間違いなく本物なのだけど。その能力について、もっと深く知っておかなければ危険かもしれないと感じたのだ。そしてこの場で質問する事にした。その質問に対して、彼女から得られた情報によると、どうやらこの力は、神器の所有者である僕の命令に絶対服従する人形を創り出す事が可能らしい。その証拠に彼女は僕の言葉に従い、仮面を外すと僕に襲いかかってきた。それこそ躊躇いなく、その武器を振り下ろしたのである。その光景を見て思わず息を飲み込む僕だったが。

「ごめんなさい、まさか、私と同じ仮面の力が目の前に現れるなんて思いませんでしたので。それに仮面の能力は、本来の持ち主が望まない使い方はできないようになっているのですが。そのせいで少しだけ、混乱してしまいました」と謝罪を口にしてくれる。

その言葉を聞けば、どうしてあの様な状況に陥ったか理解できたのである。しかしそれでもその事に驚きを覚えずにはいられなかった。というのも彼女の持っている神器はあの時使用した物と、もうひとつ別の種類の物を所持していて、それは僕が王城に侵入しようと決めた際に使用していた物だという。それは僕の知らない間に使用しており。それで僕はその効果によりこの塔に強制移動させられたそうだ。

「それと私達の国、いえ。正確にはこの塔に存在していた全ての人間は、仮面の力と相性が悪いみたいなのですよ。ですので一番最初にこの塔にやって来た仮面の能力者によって全て殺されてしまいましたが、他の場所には生存者がいるかもしれませんね。ただ私は運良く塔の中に閉じ込められてしまったお陰で助かったのでこうして生きていられる訳なのですが。もしも閉じ込められていなかったらどうなっていたか、正直わかりませんよ」

どうやら僕の知っているあの塔では仮面の能力者の手によって皆殺しになっていたようだ。その事は知らなかったのだが。この国に訪れれば何かしらの方法で殺されていただろうと予測は出来た。そして今回も仮面の力を持つ人が現れて僕を殺しにきたのだと、そういう認識になるのだが。そうなるとある考えに行きつくことになる。その人物は一体何を思ってこの世界に訪れているのだろうか?

「ところで貴方はこれから何処へ向かう予定なのですか?」

「一応はこの国に存在するダンジョンを攻略したいと思っています。神器の能力を確かめながら、ですね」

「あら、そうですか。でしたら私と一緒に行きましょう。実はこの国はダンジョンを一つ保有しているんですよ。そこならば私の持つもう一つの力を使用すれば問題無く、貴方と共に戦うことが可能になりますから」

彼女の言っている意味が分からなかった。その為に、彼女の口から語られた話を頭の中で整理しながら聞いてみると。彼女はその身に宿している神具を使い、ダンジョン攻略の助けとなることができるというのだ。それだけでなく、彼女自身もかなりの実力者であり。この国の中では、五本の指に入ると、自信満々に宣言してきたのである。

確かに彼女の実力は相当なものだと理解できるし、その強さは本物なのだろう。だからこそ僕は彼女を同行者として選ぶことにしたのだ。

それからは、この世界のダンジョンについての情報を、彼女と話し合うことになったのである。どうやらその世界には3つの階層が存在していて。それぞれ一階から三階まで存在している。そしてそれぞれの階にはボスと呼ばれる強力な魔獣が存在するのだという。その魔獣を倒すことで、次の階層へと続く道が開かれるらしい。ちなみに現在確認されている最高到達点は、六階の最深部でそこで止まっているらしく。それ以上先は確認されていないとのことだ。ただダンジョンには常に大量のモンスターが出現する為。この世界の冒険者たちが必死になって、そこに存在する素材を取ろうとしても、余りにも数が多い為に取りきれないのだそうだ。

だからなのか、あまり探索が進まず、現状ではこれ以上上の階層を目指そうとしている者は居ないと口にするのである。その話を聞き終えた僕は、神器を発動させて、アイテムボックスの中に保管してある剣を取り出すのであった。その光景をサーラさんが目を大きく開けながら見つめてきた。それもそのはず。いきなり目の前に僕の手元に剣が出現してしまったのだから。その光景を目の当たりにしてしまった彼女は唖然としながらも問いかけてくるのであった。

「な、なんです。これは、い、今のは、いったい、どういう、事、なの、ですか?」

「えっと、これの説明をするとかなり面倒なことになってしまいそうですが。まぁ簡単に説明しますと。僕はこうやって異空間に繋がる穴を作り出してその中に収納してあるものを取り出せる事が出来る力を手に入れたんです。だから今の場合はこの場にアイテム箱の魔法を発動させています。それを使えば僕は無限に、色々な道具を扱えることになります。ただ、欠点もあるので使い所を考えなければなりませんが」

僕の話を聞いたからといって信じてくれるとは思えないのだけど。この場で嘘を言っていても、仕方が無いと思ったのである。だから本当のことをそのまま伝えておくことにする。

ただその説明を受けた彼女は暫くの間呆けた顔をしていたのだけど。直ぐに我に返ると、僕の方をじっと見つてきてから。突然僕に抱きついて来たのである。それも、その勢いが強すぎた為に押し倒されてしまう始末だったのだ。そういえば僕を押し倒した状態で、彼女は泣き出してしまったのである。僕はどうしたら良いのか困り果てていた。そう思っていた矢先の出来事だったのだ。急に強い光が辺りを包み込み始めた。それに驚いた僕はサーラさんの事を抱きしめて庇うように動くのだった。その光景を僕は目に焼き付けることになってしまう。サーラさんはその光に包まれて姿を隠したのだった。

そして僕は気を失ってしまう事になり。気がついた時にはベッドの上に横たわっていたのである。何が起こったのか分からない僕だったが。ふと窓の方へ視線を向けてみるとそこには見慣れない景色が存在していた。それはこの国の上空に存在する浮遊島の姿があったのである。そのことに驚きつつ。何故こんな状況になってしまったのだろうと頭を悩ませることしかできなかったのであった。

(さっきまで僕は王城の屋上にいたはずだった。だけど今は空に浮かぶ巨大な島の上に居る。何が起きたんだろう?)

そう思った直後。僕が目覚めた事が分かったのか誰かが扉をノックして部屋の中に入ってくると、その人はサーラ王女であった。そんな彼女に向かって慌てて挨拶をしようとしたんだけど。その前に僕は王女に詰め寄られてしまうのである。その様子に少しだけ恐怖を感じた僕は後退してしまうのだけど。それでも構わず王女は近づいてくると、両手で僕の顔を掴むと至近距離から見つめてくる。その表情はかなり怖いものであったけど、瞳からは何故か涙を流しており。その事に気付いた僕は戸惑うことしかしなかったのである。そんな状態の僕に彼女は告げてくれたのだ。

どうしてこの国に訪れたのか、その理由を話してくれて、その後に自分がこの塔に召喚された理由も話してくれたのである。その内容はとても信じられないことだった。彼女は元々平民の人間だったが、ある日の事、その能力の高さを認められて貴族に召し抱えられた存在だという。しかし彼女はこの国が保有している特殊な事情により。王城から抜け出すことが出来ない身となったのだと口にする。

「私の家族はこの国に住む者達の幸せを守る仕事を担っていました。ですがそのお陰もあり。この国は非常に裕福で幸せな生活を送ることが出来ているのです。しかしその代償として私達の仕事には危険が付きまとうものとなってしまったのです。その仕事内容と言うのが、国を脅かす危険な魔獣達の討伐でした。私達は日々、命をかけてこの国に生きる人々の笑顔を守り続けていたのです。そんな私達を、神は見てくださっていのでしょう。ある時を境に、私の元に不思議な手紙が届くようになりました。その内容というのは。私が願えばその願いを聞き届ける。その代わりにお前には仮面の力を授けてやるというものでした。最初私は半信半疑でしたが、その手紙に書かれた内容を試したところ。実際にその力が私のもとに現れたのです。しかしそれは神の御技というよりも、悪魔的な何かのように思えてきました。だって私達が戦ってきた敵が皆化け物ばかりになったのですからね」

そう言うと悲しそうな顔を浮かべながら微笑むサーラ王女。そして僕の方を見つめてきたかと思うと。真剣な眼差しを向ける。そして僕に、仮面の能力を使用する上での条件について説明してくれたのである。彼女の口から出てきた条件は2つあるらしく。仮面の力を発動するにはまず第一条件として。仮面が壊れないようにしなければいけなかったのだそうだ。その理由として仮面が破壊されることによって仮面に宿った魂が解放されてしまい。その衝撃に耐えられなかった場合は仮面の使用者の命が失われてしまうのだという。

そしてもうひとつが。この仮面の能力を使う為には仮面との同調率が80%以上でなければいけないというのだ。その為、仮面の能力を使用するには。まず最初に、仮面が割れるまでは絶対に仮面を外すことは出来ないという事だ。つまり仮面が破壊された時点で、使用は不可能になる。それどころか、下手をすれば命すら失うことになるのだと、その言葉を聞かされることになった。

確かにこの仮面の力を使い続けるとなると、それだけでも大変かもしれない。ただそうなってくると。神が与えたと言われている、この力を使える機会というのが少なくなってしまうことになる。だからその事は出来る限り考慮した上で。慎重に使わなければならないのだろう。

この国では仮面の力を持つ者は特別な力を与えられる代わりに、この世界では戦うことが許されないらしい。それは、この国の決まりによって決められていることなのだとか。そしてそのルールを破るようなことをした場合は、死をもって罪を償わなくてはいけないのだそうだ。

その話を聞いた時、サーラさんの言葉に僕は思わず苦笑いするしかなかった。だって神具を持っているにも関わらず、その神に認められているにも関わらず。僕を殺せるという発言をしてきたからだ。

その発言の意味を理解してしまった僕は、彼女が本心からその事を言っている訳ではないのだと思うのだが。その考えが間違っている可能性も捨てきれず。サーラさんの発言を聞いてしまった後だから尚更警戒感を抱いてしまい彼女のことを見てみると、何故か、顔を赤らめてしまったのである。その姿を僕は可愛らしく思いながらも疑問を覚えてしまったのだ。

彼女の態度に僕は一体どんな意味が含まれているのかと、考えるしかない。しかし彼女の性格を考えるにその答えを導き出すのは難しく感じる。そもそも僕の前に現れた時に、僕が仮面の持ち主であることを知っているかのような反応を見せていたし。そして先程の言葉を吐いたのだ。

(いやいやいや、ちょっと待ってくれよ。もしかしてサーラさんのあの言動は僕に好意を抱いているということなのか? いやまさか。それは無いよな)

そんな事を思いながら僕は頭を抱え込んで悩み始めたのである。ただそんな中でも、これからどうするかを悩んでいたのである。このままここに居座っているのもなんだし、どうにかしたいところだ。そう思っていた僕なんだけど。そこで部屋の外からノック音が聞こえてきたため、僕は直ぐに意識を引き戻されてしまった。サーラさんの返事を受けて扉が開かれていく。そこには白衣姿の女性の姿があった為。僕は誰だろうと疑問を抱くことになったのである。するとその女性は何の迷いも無く僕に向かって抱きついて来たのだ。

それに驚いてしまう。その女性は僕の耳元まで唇を持ってくると、そこで甘えるように囁くのであった。そこでサーラさんが慌てて僕から離れると。僕のことを奪い取るかのように抱きついてきたのだ。その様子を見た女性が僕から離れてくれる様子はなく、寧ろ楽しげに笑う。そしてそのままの勢いで僕を押し倒すと。僕の顔の上に乗っかってきたのだ。

「えへっ、やっと見つけたわぁ~貴方は私の旦那様よね。ねぇそうなんでしょう?」

「えっと、ど、どういうことでしょうか?」

「ふふふ、そうね。今すぐ説明するのは難しいわね。だから取り敢えず一緒にお風呂に入っちゃいましょ。そうすればお互いの気持ちも分かるはずだものね?」

その瞬間だった。目の前にいた女性の身体に異変が起きる。いきなり苦しみだしたかと思うとその肌が黒く染まり始め。背中からコウモリを思わせる翼と悪魔の角が生え始めたのである。その変化に僕は驚愕してしまったのであった。

(これはいったいどういうことだ!? サーラさんの話ではこの国にいる人々は神に守られていると言っていた。それがこの人の身に何が起きてこのような異形の存在へと姿を変えてしまっているんだ?)

僕が目の前で起こった出来事に戸惑いを隠せないで居ると、彼女は自分の胸を押しつけてきて。更に顔を近付けてきたのである。そうされたせいで、彼女の着ている衣服に乱れが生じて、僕にはとても刺激が強い光景が広がっていくのであった。

そんな状況の中、突然誰かが部屋の中に入ってきたかと思えばサーラさんが僕の方に飛んできて助け出してくれたのだ。その事に感謝しつつ僕はその人の正体を確かめるべく視線を移す。その人物は全身黒ずくめの服装を身に纏っていたのである。その人はフード付きのローブを羽織っており、性別が判断できなかった。

(もしかしてこの人がさっきまで話していたサーラさんの恋人なのか?)

ただサーラさんの方は少し恥ずかしそうな表情を浮かべると。その人から逃げるように僕の後ろに隠れたのであった。僕は二人の関係性を理解できずにいたのだけど。そんな僕の様子を気にすることなく、その人物はそのまま部屋の中に入ってくると僕の前で止まる。

その人物がサーラさんの方を見ている事に気づいた僕はサーラさんと謎の人物との間に割って入るとサーラさんの身を守るようにして、相手を威嚇する目つきをしながら睨みつける。だけどそんな事をしていると僕の背後に隠れていた筈のサーラさんの気配がなくなっていることに気づく。

僕としたことがサーラさんのことを見失ってしまったのかと焦り始めると、そのタイミングで、背後に人の体温を感じると同時に、何者かが僕を抱きしめてくれたのだ。サーラさんだと思って僕は振り返ろうとする。しかしその前に相手が話しかけてくるのだった。

「安心してください勇者殿。彼女は大丈夫ですよ」

その声音に僕は違和感を覚える。サーラさんとはまた違う声でしかも男の声であるからだ。僕が不思議に思っているとそこで相手の姿を確認しようと振り向いてみる。するとそこには先程まで見当たらなかった男性の姿が存在したのである。しかしそこに立っていた男性は顔を隠すためのマスクをつけており、正体が分からない状態になっていた。

この人は誰なんだろうかと僕が困惑している間にも、彼は僕を抱きしめながらサーラさんの事を見つめていたのだ。その様子から、二人の間には親密な関係があることが伺えた。そしてそれは当然のことだと思った僕はこの人と話をするために、一度離れて貰うことにした。そして改めて彼の方を見つめ直すと。そこで相手の方から話しかけられる。

「お初にお目に掛かります勇者さま。私の名前はルーグ。この国の研究部門を担当している者です。今日から私が貴女をサポートさせていただきますのでよろしくお願いします。それと言い忘れていたのですが、私に対して敬語はいらないですから気軽に話しかけてもらって結構です。私としては普段通りに話してもらいたいですね」

この国の研究者というだけあってこの人には色々と聞きたいことがある。まず最初にどうしてこの場所に来ることが出来たのかについて質問するべきだろうと思い僕は彼に尋ねる。

【名前】ルーグ(*1)

【年齢】29歳 【職業】研究者 ←New! しかしそれについては何も語ってくれることは無かった。まあこの塔に来た理由は僕と一緒だということなのでそれ以上問い詰めるつもりはなかったのである。

しかし僕はある事が気になってしまい。どうしても我慢できなくなり、そのことを聞かずにはいられなかったのだ。何故なら僕のステータスが軒並み上昇してしまっていたからである。その理由を聞きたくなってしまうのは仕方のない事だと僕は思うのだった。そしてこの世界の常識を僕が知らないという事もあり、その辺りの説明を受ける為にも、まずは自己紹介をした方が良いのではないかと考え。お互いに挨拶をする事になった。


* * *

勇者は俺の言葉を聞いている途中で固まってしまったようだ。

どうやら目の前で起きていたことに動揺してしまっているようだった。

俺はそんな彼女に笑みを向けると、勇者の事を安心させるかのように、出来る限り優しく語り掛ける。しかしそれでも彼女はまだ緊張しているようで、その言葉を聞いた途端、まるで壊れた機械人形のようにぎこちない動きをしていた。

そんな反応を見せられたことで。思わず俺は笑いそうになってしまったのだが。ここで変な行動をとってしまわない方がいいと判断して、どうにか耐え抜くと彼女の様子を見守り続けることにする。すると、彼女は暫くして落ち着きを取り戻したらしく。真剣な表情でこちらを見る。

俺はそんな彼女の瞳を見て確信する。彼女の瞳に宿った光の強さは今までのどんな人間とも比べ物にならないぐらいに強いものだったのだ。それに加えて、彼女の心の中にある決意のような意思を感じたのだ。

だからこそ俺は彼女に興味を持ったのだ。

そしてそれと同時に俺は、彼女の心を救い出してやりたいと思っていたのである。その為にはまず彼女をこの城の外の世界に出さなければならないだろう。

それにしても。彼女が口に出した神という単語。それを耳にしただけで思わず背筋が凍るような感覚に襲われるのである。ただ彼女がそのことについて口を開くことはなかったので。俺の勘違いかもしれない。

そう思ってはいるものの。彼女の発言は俺にとって、あまりにも重すぎる内容であり。もしも彼女の話が本当であるならば。彼女は本当にあの魔王を倒せる可能性があるということだ。そして同時にそれは彼女の人生を大きく狂わせてしまうかもしれない。だからといってその事を隠したままにしていれば彼女はこれからの人生で辛い思いをし続けることになってしまう。

それに彼女が神から力を貰ったという言葉についても、本心かどうかは定かではない。しかし仮にその言葉を信じるとしたのであれば。今後彼女は神の寵愛を受けることによって。どんどんその能力を上げていくことになるはずだ。そうなればもう既に人ではない領域に達しているはずの魔族など赤子を相手にするようなものである。だからもし仮に彼女が自分の力の限界に気が付きそのことに不満を抱いたのであれば、きっと彼女はそれ相応の報いを受けて死を選ぶのだろうと予想することが出来るのである。

だがそうならない可能性もある。それは彼女の持つ性格上、自分が神に認められていない存在だと思い込み、自ら命を絶つ可能性が極めて高いということだ。そうならない為にも。俺は彼女が神に選ばれたということをはっきりと伝えなければならないと思っている。

それに神からもらったスキルの件についても聞いておきたい所ではあったのだ。しかし先ずはその前段階として、お互いの事を知り合うことから始めなくてはならないだろう。

そこで俺は目の前にいる女性の名前を呼ぶことにする。そうしなければいつまでもお互いの名前が分からないままで、不便でしかなかったのだ。

その事で彼女の方も何かしら思うところがあったのだろう。彼女は戸惑いを見せると何故か頬を朱に染めて視線を逸らす。そこで俺の方からも、自分の存在を明かすために名乗る事にした。するとそこで、彼女は驚いたような声を上げて。その事に驚いていたのである。そしてすぐに冷静になった彼女は慌てて謝罪をしてくる。しかし別に気にする必要は無いことを告げたのだ。ただそこで彼女は俺が仮面の持ち主なのではないかという疑いを抱くことになる。

それもそうだ。何せその人物は、突如この城に現れたらしいから。そう思いつつ、俺も自分の身に起きたことを包み隠さず話した。その上で改めて俺は彼女に対して名乗りをあげると。自分の素性を話し始める。

それからしばらくして、お互いがある程度の信頼関係を築けた所で、まずは自己紹介することにしたのだ。しかしそこで、俺が思った以上に時間がかかってしまい。その間に食事の用意が出来ていたようだ。そこで、一旦話を保留にすると食事をすることにしたのである。

するとその時、部屋の外から誰かの声が聞こえてくる。その瞬間に目の前にいる女性の身体に変化が起きる。肌が黒く染まり、背中から悪魔の翼と悪魔を思わせる角を生やすと。全身が震えだすと同時に彼女は苦しみだしたのである。そんな姿を目にしたことで、直ぐにでも彼女を落ち着かせてあげたいと、俺は無意識のうちにそう思っていたのだ。

しかしそう思っている間に、彼女は俺の後ろへ隠れると、怯えた様子を見せていた。恐らく、目の前にいる黒衣の人物の正体が分かっているからこその反応なのだろう。しかしそれとは対照的に彼女は、黒衣の人の姿を見ると。先程までの怯えが嘘だったかのようにその人から視線をそらさずに見続けていたのである。その目つきはとても鋭いもので。それでいてとても美しいものだ。

(なるほどね。そういうことだったのか。確かにこんな目をされたのなら。この人の正体を知ってしまうのが怖いと思ってしまった気持ちも理解できる。まあ、俺の場合、サーラさんから事前にこの人の情報を聞いていたというのもあるのだけど)「サーラ。その人から離れろ!」

「大丈夫です。私はサーラ様の味方です」

「お前は黙っていろ」

「しかし!私の話をちゃんと――」

そこでルーグは、突然部屋に入って来るなり、サーラさんに対して攻撃を行おうとする。しかし次の瞬間、その光景を見た俺は咄嵯に、サーラさんの盾になるようにルーグの前に立つと、サーラさんに害をなす者を睨みつけたのであった。するとそんな状況で、目の前に居たルーグが話しかけてくる。

「安心してください勇者殿。サーラさんには傷一つ付ける気はありませんよ」

その声は優しいものであり、サーラさんの事を大事に思っているのがよく分かる口調であった。そんな声を聞きながらも僕はルーグのことを見つめている。すると僕の視線に気づいたのか彼は少しだけ照れた仕草を見せて、微笑を浮かべると、その場を離れて行く。

僕はそのことに安心すると、未だに僕の背後に隠れていたサーラさんの事を安心させるように声を出す。

「大丈夫ですか?サーラさん」

その言葉で僕は我に帰ると。ルーグがこちらの様子をうかがっていた事を思い出す。

(私を心配してくれていたみたいですね)

その事を理解すると共にサーラは嬉しく感じていたのだ。それと同時にこの人がルーグであることを認識すると、この人を警戒する必要があるのだろうかと考える。この国の研究部門の責任者であるというルーグは、リシアの父親でもあるからだ。

それに加えて目の前に居るのは間違いなくルーグであり。彼がどうしてこの場所に存在しているかという理由が知りたかったのである。

「はい、大丈夫です」その言葉と共にルーグに対して返事をした時のことである。

「サーラ」

私の名前を呼ばれたので振り返る。するとそこにはいつの間にかルーグがいた。ルーグは自分の娘を見るなり笑みを向ける。

そんなルーグの笑顔を見てしまった瞬間。サーラの鼓動は激しく高鳴ったのである。それに伴って顔が熱くなり、胸が締め付けられる。この気持ちは一体何なのだろうと疑問を感じながら。サーラはルーグの事を見るのだった。そして同時に理解した。自分の想いに気が付いたのだ。そしてそれはどうやら間違いないことだったようである。

なぜならこの気持ちは。恋をしているときのような感覚だからである。

そう認識した瞬間。先程の感覚が消え去るとともに、激しい羞恥心にさいなまれるのである。それと同時にルーグに対する感情を抑えられないのは。私が彼の事が好きなんだと思い知る。そしてそんな自分自身の変化に困惑してしまうことになるのである。そんな時だった、

「あの人は、私のお母さんのお兄さんにあたるんです」

唐突に、隣にいたはずの彼女がそんな言葉を紡ぐ。その事に驚きながらも彼女の方を見ると、彼女は何故か頬を朱色に染めて俯いていたのである。

そんな姿を見た時に、彼女の表情を見て、思わず笑みをこぼす。すると、こちらを見て不思議そうな表情で見上げてきたので、思わず頭を撫でてやる。そうすると彼女は恥ずかしそうな表情になり。更に顔を赤くするとこちらの顔を下から見上げる形で上目遣いでこちらを見てくるのである。その行為に愛おしさを感じた僕は彼女のことを強く抱きしめることにした。そして同時にこの子のことが好きだという想いを再確認することになる。

そしてそのタイミングを見計らうかのように、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。そちらの方へ振り向くとそこにはサーラの父であるルーグが立っており、俺は彼と目が合ったことで反射的に頭を下げていた。それからしばらくしてから、目の前に居るルーグの方に視線を戻すと、俺はこの部屋にいる全員の紹介をするのである。

そうする事で俺は、ルーグの娘である、サーラ、俺の補佐として働いているリシアを紹介すると、俺はルーグに話しかける。しかしここで問題が発生する。

俺の隣に居たサーラさんがいきなり抱き着いて来たのだ。それも勢い余って押し倒されるような形で、しかも両手でしっかり抱き着きついてきており。その事もあってか俺も一緒に倒れてしまうことになる。

そんな状況を目にして俺は、サーラに対して苦笑いを向けた後、彼女のことを優しく受け止めてあげる。それからしばらくしてサーラが謝り離れていくと、サーラがこの部屋に入ってきた時からずっと俺の事を見ていた少女のことを見る。そこで俺の目線に気づくことになると、慌てた様子を見せるのである。俺はそこでサーラに彼女のことを聞くことにした。

その問いかけに答えるかのようにサーラが名前を口にした瞬間に俺は、彼女がサーラの妹であるということを理解し、そこで、彼女が俺の方を見ているのに気がつく。

その視線につられて俺は彼女を見返す。

その瞬間に俺は、彼女に見惚れていたことを悟られるのを恐れると、彼女の瞳から視線を外すのである。

俺はそのことで自分の心臓の音がうるさく鳴り響いているのを意識せざるを得なくなる。

そのせいで自分がどのような状況に陥っているのか分からなくなってしまうのだった。そしてそれがいけなかったのだろう。その状況の中で俺は自分の心の内を彼女に読み取られてしまい。その結果、彼女の顔が真っ赤に染まってしまうのを目にすると、今度は俺の方も、頬が紅潮し始めてしまう。そしてそんな俺たちを目にしていたルーグが突然声を上げると、サーラとリシアの二人のことを指さすと。そのまま彼女たちに向かって話し始める。

「お前たちは、勇者殿に対して何か思うことはないのか?」

「特にないですよね。ね?お姉ちゃん」

その問いかけに対して間髪を入れずに、リシアが答えてしまう。それに対してサーラが戸惑っていると、サーラの代わりに俺の方が反応を示してしまう。しかしそれを聞いたルーグは納得したような表情になると、すぐに話題を変えるように話し出す。それからしばらくしてから俺達は自己紹介を行うことになった。それから俺は、自分の生い立ちについて語ることになる。

そして話が終わると。

サーラは俺の話を信じてくれており、真剣に俺の話を受け止めてくれたのだ。そこで俺の過去についての話が一段落するとルーグが本題に入ろうとする。そこでルーグからサーラの母親であるアイーダさんの話を聞こうとしたが、彼女は何も知らないようで、ルーグに聞くが、やはりわからないという事であった。

そこで俺は、サーラの母の手がかりを得るため、城から出ようとした。そんな時である。俺はサーラから声をかけられる。

「あ、あの!その前にちょっといいですか」

サーラはそう言うと同時に俺の手を取ると、そのまま走りだしたのである。

そんなサーラの後ろ姿を見て俺は、まるで子供のようだなと感じると、その事で少し笑みを漏らしてしまったのだった。

その日私は初めて、一人の男性の人とデートすることになったのである。そうして二人で街を歩いている中で私達の横を馬車が通り過ぎる。すると私の視線は無意識のうちに、その後ろ姿を目で追っていたのである。そのことに彼は気がついたらしく、私の手を握ると、突然立ち止まって、私と目を合わせる。

「どうしましたかサーラさん。急に立ち止まったりなんかして」

その問いにどう返せば良いのか私は迷ってしまった。それは、彼のことが好きになってしまったからだ。

しかしそれを本人に伝えるわけにはいかないと思った私は。

「ごめんなさい」

私は彼に一言だけ伝えると、彼の前から去ろうと歩きだす。しかしその時の事である。彼は私の手を握り、引き止めるのである。そこで再び、私と彼は目が合う。その時に、私がどんな行動を取っていたかと言うと、顔を下に伏せることしか出来なかったのである。その行動に彼は疑問に感じたのか、首を傾げてこちらを見るので私は慌てて彼から離れる。

そんな行動をしている間にも。先程までの私の態度が不自然であったことは自覚していたので、彼に変に思われないようにその場から逃げ出した。

(なんであんな事をしてしまったんでしょうか)

私は自分の中にある疑問を感じていた。

その理由は単純である。今まで男の人に話しかけられることがなくて、その男性に慣れていないというのが大きな理由なんだけど、それを差し引いたとしても、どうしてあのような事をしたのかと、自分自身の行動に驚いてしまう。そんな考え事をしながら歩いていたのがまずかったらしい。気が付けば見知らぬ場所に来てしまっていたのである。

そして辺りに人がおらず閑散としている事に気づくと、私は少し焦りを感じるようになる。その時だった。私の耳に男達の声が届く。その内容は私の事を探していたらしく。その事に驚いた私が急いで帰ろうとした時のことである。私の目の前に男が三人現れて、その中の一番年長と思われる人物に声を掛けられる。その人物は、ルーグさんの部下だと自称しており、私を探しに来たようだった。

(えっと、どうしたら良いんだろう)

そんな事を考えている間にも私を捕まえようとする人たちの手が私へと近づいてくるのを目で見てわかるようになると私は逃げ出そうとするが、背後からも別の人間が現れる。そしてとうとう捕まってしまいそうになる。

だけどそんな状況の中で、私の事を誰かが守ってくれたのである。

そしてそのおかげで私は何とか無事に済んでいたのだった。

そんな事があった日の夜のこと。俺は王城の廊下でサーラに出会うと俺はサーラのことを部屋まで送っていった。その時に俺は彼女の母であり。ルーグの妻でもある人の名前を尋ねてみると。サーラはその人のことを知らないと言い切ったのだ。それで、サーラは一体誰に似ているのだろうかと考えると、俺がこの世界にやってきた日にルーグと一緒にいた女性にそっくりだったことを思い出す。そこでルーグとあの女性は夫婦なのだからサーラが似ていて当たり前だと思い直すことにした。そうしてから俺は自分の部屋に戻るために廊下を引き返すことにする。

それからしばらく経っての事だった。俺の部屋の扉がノックされる。

そして扉が開けられた瞬間のことだった。俺は自分の部屋に突如として入ってきた少女を見て固まってしまうのである。なぜならその女の子が、サーラと似ていたからである。俺が困惑しているのを見て彼女は微笑む。

そんな時であった。彼女が突然抱き着いてきたのである。

「もう離さないです!」と言って強く抱きしめてくる。そこで彼女は自分がサーラの姉であることを告白してきた。俺はその言葉を聞きながらも混乱した頭のままだったがなんとか理解しようとする。しかしそれでも状況に追いついていけないでいたのだが、彼女の胸に顔を埋める形になった俺の視界に、ある文字が映り込んだ瞬間。俺は我を取り戻すことになる。そこには彼女の胸元で輝いている銀色の首飾りとそれに付けられたネームプレートに書かれた、『L』と刻まれた文字の形が見えたから。そこで俺は、彼女のことを確認すると。やはりその容姿はサーラにとても似ていることに気づく。そこで俺が自分のことを話すとサーラの妹であるということが判明する。しかし俺が気になったのはそこではなく名前だった。そこで彼女の方を見つめる俺に、サーラが不思議そうな表情をして見つめ返してくるので、そのことを指摘すると、彼女は慌てたように目をそらす。そんなサーラの反応に、可愛らしさを感じた俺は思わず彼女の頭を撫でていたのだった。そしてそれからしばらくして俺は、彼女に名前を尋ねるとサーラの妹の名前は『リーザ』という名前だと告げるのだった。その事実を知り俺は心の中で呟くことになる。

(あれ?でも確か、サーラが俺と出会う前に、妹は死んでいるって言っていなかったっけ?その事が引っかかった俺は、確認する意味でもサーラに聞いてみると。その事を聞いていないという返事が来ると。どういう意味かとサーラが聞くので俺は、サーラの母アイーダが殺されたこと。そして犯人は未だに分かっていないことを話してくれたのである。

それを知った俺がどうなったかと言えば。俺はサーラに抱き着かれた状態で固まることしか出来ずにいた。

しかしそんな状態がずっと続くはずもなく。サーラはすぐに離れると恥ずかしさで頬を紅潮させた表情を見せながら謝ってくる。それから俺はサーラと別れると自分の部屋の中に戻り、ベッドに横になるのだった。

そんな出来事から一夜明けた次の日の朝、俺は朝起きてから食堂へと向かうと、そこにはすでに他の面々が座っていた。そしてサーラは、すでに席についており、朝食の準備を始めようとしていた。その手伝いをしようとした時だ。サーラの口から衝撃的な発言を聞かされることになる。

それは俺にとって聞き捨てならない話の内容であった。それは俺の加護についての事であった。彼女は昨日の時点で、俺の固有スキル【勇者】の恩恵が受けられているということを知らされており。さらに、勇者である俺の力を封印しておかなければいずれ魔王軍の手先に利用されてしまいかねないということも説明を受けた。そしてそれを防ぐためにも俺の加護の恩恵を解除する必要があるというのであった。そんなサーラの説明が終わると同時にルーグが姿を現すと俺に話しかけてくる。

「おはようございます勇者殿」

「あ、はい。おはようございます」

「それで早速なんですけど。これからあなたはどうされますか?」

「どうするっていうと?」

「今から勇者殿がお持ちになっている、力を解放するのです。そしてそれを開放すれば、すぐにあなたの力が覚醒し、その力でこの世界を混沌に陥れようとする魔族の手下共を打ち払うことが出来るでしょう」

「そうなのか?」「はい。そういうものなので」

ルーグはそう言うとそのまま去って行ってしまう。しかし俺の心の中ではルーグの言葉を信用できない気持ちがあり。俺は本当に解放しなくてもいいのかと考え込んでしまった。そしてそのことが気になってか、ルーグの姿が見えなくなった後。サーラが俺の側に近寄ると耳打ちするように小声で囁いて来る。

「ルーグは、嘘を言っているかもしれませんよ」

「なぜですかサーラさん」

「だって、今までの話を聞いたら、あのルーグがそんなことを言うなんて信じられないですもん」

「確かにそれもそうですね。ではルーグ様が本当の事を仰っているとします。その場合、どうして、ルーグ様はわざわざ俺の力を解放するように勧めて来たのでしょうか。その事についても気になりますよね。その事で、もし、何か裏があったとしたらと思うと。どう思いますか」

「えーっとそれは。ルーグに何か企みがあっての事でしたら。私達を利用しようとしているとかですかね」

「そうですね。俺も同じ考えですよ」

俺達が二人で話をしているとそこに食事の支度を手伝ってくれていた使用人達の一人が現れて、ルーグが呼んでいると告げられる。そしてその事にサーラと一緒に向かうことにした。

「サーラさん行きましょうか」「はい!」

それから二人で一緒に歩き出すとルーグの書斎までやってきて中に入っていくと。中ではルーグとメイドのメアリさんがお茶を飲みながらのんびりと過ごしていたのであった。そしてルーグは立ち上がるとこちらに向かって歩いてくる。

そして彼は俺の前で足を止めると、真剣な表情で口を開いた。

「それで、準備はよろしいでしょうか?」

その問いに対して俺が答えるよりも先に、サーラが反応した。

そのことにルーグは少し驚きを見せたが、すぐに平静な様子を取り戻す。

ルーグは一度サーラのことを見つめてから。改めて俺のことを見ると言ったのである。

ルーグはサーラに視線を向けると。

「ところで姫はどこでこの少年と出会ったのでしたっけ」

そう聞かれたサーラがルーグに話しかける。

「それはもちろん王城から逃げ出す前に出会いました」

そのサーラの回答にルーグは何も返さず黙りこむと俺に向き直る。

そしてルーグは再び俺に話しかけてくる。

「ではそろそろ参りましょうか」

その言葉の意味を俺は測りかねているとルーグが続けて言葉を発す。

「実は先程から外で待っているのですよ。もうこれ以上待つことは出来ないと急かす者も居てね。私としてもいつまでもこんな所で時間を浪費していたくはないんですよ」

そんな言葉を口にした直後。扉が開かれる。そしてそこには全身を黒いローブで身を包み。顔を白い仮面で隠し隠した集団が現れる。

そんな彼らのことを俺は知っていた。

「黒き翼団だと!」

その瞬間に俺は悟る。目の前にいる奴らが誰なのか。ルーグが何故こんなことをしたのかを理解したのだった。

(こいつはサーラと、その妹のリーザを利用して俺の持っている能力を解除しようと画策したんだ。おそらくだが、この場に現れる者達はルーグによって洗脳されているんだろうな。だとするとこの部屋の中にいる人間全員に攻撃するのは悪手でしかない)

俺にはルーグが何を考えているのかが理解できていた。

この場でルーグを倒せばこの場の人間全員が死ぬ。そうなれば当然。この城の守りは消え失せる。つまり、俺の目的を達成する為に必要な道具を手に入れる機会が無くなるということだった。そして俺はこの部屋に居る人間が死んでも問題のない状況を作り出して俺に攻撃を仕掛けてきているということだ。そしてそれが分かったからこそ俺はあえて、サーラを守るように立つことにした。

その行動が意味するものを俺は理解していないが。しかしなぜかサーラを守りたいと本能が俺の体を勝手に動かせてしまったのである。

(一体俺はどうしてしまったんだ?)

俺が戸惑う中。黒装束の連中の中にいた一人がサーラに向けてナイフを投げつけてくる。しかしその一撃は俺に止められてしまう。俺がサーラの体に刺さるはずのナイフを掴み取る。それと同時にルーグは俺の行動を見て微笑んでいた。

(やはりな。俺の動きを見て確信したぞ。この男。私の狙いを完全に分かっているな。その上でこの女を守ろうと動いたと言うことは、自分の目的がこの女だと言っていることと同じではないか。ならばこいつを生かして捕らえる必要性は無いな。確実に殺しに行こう)

そこで俺はあることを思い出すと、その事に気づくと俺の意識の中で、サーラの声が響いてきたのであった。それはまるで俺の思考を読み取ったかのように。

――私はルーグの考えを知っている。だからお願い。あの人を助けてあげて! サーラはそう言うと泣き出しそうになるのを堪えて必死に我慢して耐えていた。その姿を見た時。俺の心は決まったのだった。

(ルーグはきっと最初から分かっていた。サーラを利用するつもりだったと。しかしそれでも俺はルーグを許すことが出来ない。たとえサーラにどんな理由があれ、サーラを傷つけたことに変わりないからだ。だけどサーラは俺を信じてくれたのだ。だったら俺もその信頼に応えなくてはならない。俺がサーラを守るためにルーグを倒すことを覚悟しなければならないのだった。だからこそ俺はルーグに問いかけることにする。

「一つだけ聞いておきたい。なぜ俺を狙う?お前にとって何の利益がある」

俺のその質問にルーグは笑みを浮かべながら答え始める。

「それは君が一番知っているのではないか? 勇者として召喚されたにもかかわらず、加護の力を使うことなく。そして勇者としての資格を失った君にとってこの世界は退屈で窮屈な物になってしまったのだろう?そんな君はこの世界に復讐したいと望んでいるのではなかったのかい?」

そのルーグの発言に俺は全てを思い出した。俺の加護が封印されてしまったことで、今までに経験したことが全て無に帰し。そして、勇者として戦うことも出来なくなった今の自分がどれだけ弱い存在になったのか。それを痛感した時に抱いていたのは絶望ではなく、憎しみ。この世界で自分より強い者がいなかったために忘れてしまっていたが、勇者としての加護を失うというのはそういうことなんだと気づかされてしまう。そんな俺を救ってくれたのは間違いなくサーラであった。

そしてサーラの側にいて。サーラのために生きていく中で俺は少しずつではあるが、以前の自分を取り戻せていたのかもしれない。

そして俺はルーグの言葉を耳にして考えると決めたのであった。俺にはまだルーグが言うような感情が残っていたことに自分自身で驚くと同時に納得した。

(そうだよな。確かに俺はサーラのおかげで変われた気がするよ。サーラと一緒にいるうちに色々と楽しいことが一杯ありすぎてすっかり忘れてたけど。やっぱりまだ完全に捨て去れてはいなかったようだな。だったら俺はルーグを倒してでも前に進まなければならないよな。だってこのままサーラと一緒にいれば、俺はいずれまた同じような気持ちを抱く日が来ると思う。そしてサーラを巻き込んでしまうことになると思うんだよな。サーラに迷惑はかけたくない。それにここでルーグと決着をつけなければ。今後も似たような場面が出てくるのであれば俺は絶対に勝たないといけなくなってしまうしな)

ルーグに対して俺は剣を構えなおす。

「俺はもう迷わない」

俺がそう言うと、ルーグは小さくため息を吐く。

「ふむ。少しはやる気が出たようですね。ではそろそろ始めましょうか」

その言葉と共にルーグは懐に手を伸ばす。

「では、こちらの準備が整いましたので、そちらもいつでも動けるように構えていてください」

「ああ。いいぜ」

「では」

ルーグは手にしていた杖を振り下ろす。その次の瞬間に黒装束の奴らは一斉にこちらに襲いかかってくる。それに対して俺は腰に差してある鞘の中から聖刀を取り出していた。それはルーグが持っていた魔法を封じることができる神装と呼ばれる特殊な武器である。そして俺の持っているスキルの解放と聖剣による力により、その力が解放されていた。

「魔を祓い全てを滅しろ」

そう呟くと同時。俺の手にしている鞘から眩い光が放たれて周囲に存在する全ての敵を薙ぎ払っていく。それにより周囲の人間は光に包まれて、俺の眼前には黒き翼団の姿しか残っていないのであった。

その光景をルーグは驚きながら見ていた。そして俺はルーグに向かって一気に走り出すとそのまま彼の心臓を貫くべく刃を突き出すが、寸前のところで避けられてしまう。

(俺の攻撃を避けるか)

だが俺の目的はルーグを殺すことにはなかった。俺の持っている刀は相手を斬り殺すことに特化しているために殺傷能力は抜群だが、相手の体に触れていない状態では相手の持つ能力を封じることや、呪いをかけることができないという欠点を持っている。その為に俺はあえて距離を取って攻撃を行うように心がけていた。だが今は少し違う。

今の聖剣はルーグの所持していた物とは違い。使用者が俺に設定されているので俺の意思次第で力を行使出来るのだ。

ルーグは先程と同じように黒い影を生み出すと、それが無数の腕となり俺の体を掴んでくる。それによって動きが鈍くなるとルーグが俺の視界外から現れて、黒い炎で俺のことを攻撃してこようとするが、それすらも俺には通じなかった。俺には既にルーグの魔力の性質を察知することが出来るので、それがどんな能力であろうと防ぐことが出来るのである。俺は黒い炎を防ぐとルーグに近づいて行き今度は彼が生み出した黒い霧のようなものが、一瞬のうちに俺のことを飲み込もうとする。それは明らかに異常な速度であり、普通の人間が反応することなど不可能なほどのものだったはずだ。

だが俺にその霧は通用しない。既にルーグの動きの癖を把握している為に俺はそれに対抗することが出来たのだ。

そして黒い煙に紛れてルーグが攻撃を仕掛けてくるがそれも事前に予想が出来たので難なく回避できた。

「まさかこれほどまでに能力が効かないとは思いませんでしたね」

その発言を聞きながら俺は笑みをこぼしていた。

「それはどうかな? ルーグ、俺はお前の事を理解できていると言ったらどう思う」

「理解ですって?」

俺が告げた言葉を聞いた瞬間にルーグが動揺するのがわかった。俺自身にもはっきりと理由はわからないが、何故か相手が何を考えているのか理解できるようになっているのだった。ルーグに問いかける。

「お前にはこの世界に俺の知らないことがある。お前はその事実が許せないのだろう?だからこの世界の全てを支配しようと躍起になっているんじゃないのか?そしてお前にはそれだけの力があり、それを行使する権利を有していると思っているのではないのか?」

俺がそう言うと、ルーグの顔に苛立ちの色が現れる。

「黙れ! この私に逆らうというのならまずはお前から殺してやる!そのあとにこの女を殺しにいくとするか。どうだ面白いだろ!」

そう叫ぶと、ルーグはサーラに向けて再びナイフを投げつける。俺はそれを受け止めるとそれを地面へと落とす。

「残念だったなルーグ」

「どういう意味ですかな」

ルーグが眉間にしわを寄せながら俺の事を睨んでいた。

「お前に殺されるほど俺は弱くはないぞ。なぜなら俺はすでにルーグを超える力を持ち合わせているんだ」

俺はそう言い放つと同時に右手に持った鞘を振るとそこから風が巻き起こる。そしてそれと同時に鞘の中に納まっていた刀が飛び出して宙に浮いていた。俺はそれをしっかりと握り締めるとルーグに向けて投げつけたのである。

その攻撃をルーグはギリギリの所で避けると舌打ちをしていた。しかしルーグはすぐに冷静になると、俺に問いかけてくる。

「その程度の力でどうにかできると思っていたのかな?確かに君は私の加護が使えなくなってしまったかもしれないが、君の戦闘能力そのものが低下したわけではないのです。それに君は私のことを理解したと言っていたよね。ならばわかるはずじゃないのか。君に勝ち目なんて存在しないと」

その問いかけに対して俺は答えることが出来なかった。何故ならば俺もそう思っていたからである。俺にはまだこの世界でルーグが持っていない力が残されていたからだ。しかし俺はそれをすぐに使おうとはしなかった。その理由としては、まだルーグの能力の仕組みを把握できていないからだ。下手に使ってしまえばルーグよりも強い敵に俺の存在が知れ渡る危険性があったからだ。

(それにしても一体ルーグはどのような力で俺を操っていたんだろうか。いやそれよりも俺が気になったのはどうしてルーグはここまで余裕があるんだ?)

そこで俺はルーグの表情を伺った時に、彼はまるで何かを期待しているかのようなそんな笑みを浮かべていたのだ。

俺の考えはこうだ。もしルーグがまだ自分の持っている力を完全に制御出来ていなかったとしたらどうだろうか?もしもルーグが自分の力を使いこなせるようになる前に誰かの手を借りて倒してもらうことを期待していたのだとしたら?そうなれば自分よりも上の実力を持つ敵を倒すことができるだろう。そう考えての行動なのではないかと俺は考え付いた。

(だけどそれはありえないだろうな)

そう俺は結論付けてしまう。ルーグの持っている知識はこの世界で最強と言っていいレベルのものであり、それを完全に使いこなすことはルーグにとっても困難を極めるようなことだと思われた。つまりルーグはそこまで追い詰められた状態で行動を起こすことはないはずである。それにそもそもとして自分よりも弱い者の下につこうとすることは無いはずだ。その程度の相手ではルーグの目的を達成することなど出来ないだろうと俺は考えていた。だからこそ今のルーグは、まだまだ力を使えるのだと考えておくべきだ。そのように考えた時に、俺はあることを思い出すと鞘に仕舞われていた刀を再び鞘の中に納めていた。

そして俺はルーグを睨むと一言だけ口にする。

「さてとルーグ、俺はまだ切り札を残してあったんだけどな」

俺がそういうとルーグが驚いた顔を見せる。

「なんですって?」

ルーグの発言からして俺の言葉を信じていない様子であった。そんな彼を見ながら俺は不敵な笑みをこぼすと。聖剣を天に掲げる。すると剣身に眩いばかりの光が灯りだすと、その輝きが俺とルーグの間に存在する全てのものの存在を消し去ってしまう。

「これはまさか神装!?」

ルーグは信じられないとばかりに俺のことを見つめていたが、すでに彼の体は光に包まれている状態になっており、徐々にその姿が見えなくなっていく。

(俺の持っている聖剣は俺以外の生物を消滅させることができるらしい。これで俺を縛る力は消えた。もう遠慮する必要はないだろう)

「待ってくれ」

「何を待つっていうんだよルーグ」

「私が間違ていたのだ、私は貴方を甘くみていた。だからお願いだ私と一緒に――」

俺はルーグの発言を最後まで聞かずに聖剣の力を開放するとそのままルーグを消してしまう。そして聖刀の方にも視線を向けるとそちらも同じように聖剣と同じように能力を使用すると、ルーグを聖刀と同じようにこの世から消滅させたのである。

こうしてこの場で生き残れるのは俺だけの状況になったのであった。

俺はそうして聖剣の力を使用した後、ゆっくりと息を吐き出す。

(やっと邪魔者を始末することが出来たか。でもまだ終わったわけじゃないよな)

俺はそう思いながら地面に転がっている鞘を手に取ると腰に差しなおす。そしてルーグが作り出したであろう結界を解いた後にその場から離れることにした。ルーグを倒せたとしても、その後に控えているはずの黒装束たちが残っているからだ。

それから俺は周囲を確認しつつ森の中を走り抜けると、そのまま王都へと向かっていく。その際に森の中で黒装束の集団を見かけたので、それを聖刀で次々と切り捨てていき、さらにそのまま森を進んでいく。

(よし。何とかこのまま行けば、日が落ちる前に着くことができそうだな)

だが、しばらく走り続けた時、前方にある光景を目にしていた。

(あれは馬車だよな)

そう俺の視界には一台の豪華な装飾が施された大型の馬が何台かの荷物を載せていたのだった。

(あぁ~これは面倒なことになるパターンだよな。というかあの格好って貴族様の馬車だよな?ということは、やっぱりあれか?俺が乗っていた貴族のお嬢様と護衛たちが乗っていたのか?もしかして)

そこで思い出したのは先程までの俺と彼女たちの状況。ルーグとの戦いでお互いの素性を隠していたことや俺がこの世界の住人でないという事を誤魔化していたことを、彼女たちが覚えていなければ問題はなかったのである。しかしもし覚えていれば最悪、俺は彼女達に攻撃されることも考えられた。

「うぅ~、本当にどうするかな」

そうして悩んでいるうちにも、目の前にいる御者たちがこちらに気づくと俺に向かって手を振ってきたのである。俺はその手の動きを見て、どうするべきかを考え始めたのだ。そして最終的に出た結論が、とりあえず近づいて様子を見ようという考えだった。だが俺が動き出す前に、その考えは無駄になるのだった。

「おい貴様! 今そこで何をしているのだ!」

「へぇ?」

突然後ろの方から聞こえてきた大声に反応して振り返るとそこには一人の騎士がいた。俺はそいつに話しかけられた理由が分からずに戸惑っていたが、向こうはその事について特に気にすることなく近づいてきた。

「もう一度聞くぞ。お前そこで何をしていた?」

「いや何って、俺の方になんか御用ですか?」

俺がそのように答えると騎士の人は何故か怪しむような表情を見せた。

「その反応、お前が何かやましい事をしていたに違いないな。この辺りはお前のような人間が歩いていてもいい場所ではない。即刻ここから立ち去るんだ」

そう言って彼は手に持った槍を構えると、その先端を俺に向ける。その行動に流石に俺は我慢できなくなって文句を言い出した。

「いきなり武器を構えてきてどういうつもりなんでしょうか?」

「お前の素姓がわかればこのような事はしないのだが残念だね」

どうやらこっちは話をしても無理っぽいと判断した。なのでこれ以上会話をしても仕方がないと思ってしまい、俺はすぐに逃げ出すことにする事にしたのだ。しかしここで運悪く俺の目には先程の荷馬車とその周囲を囲んでいる人たちの姿が見えるようになったのだった。それで彼らがどのような目的で集まっているかを確認できた俺はどうしようか迷ってしまった。もしこのまま逃げ出せば確実に厄介なことに巻き込まれるのが分かったからだ。

(というかこいつもしかして俺を捕まえる為に待ち構えてたんじゃないだろうな)

俺はそこまで考えると大きく溜息をつくと、聖刀を構えたのである。すると俺が戦う意志をみせたことに気が付き、相手が驚いてしまうのだった。

そしてそのタイミングと同時に背後から複数の人が走ってくる音が俺の耳に届いてくる。おそらくは騎士達が追いかけてきているんだろうなと考えた俺は、逃げることに決めてから彼らに向かって聖刀を振る。すると衝撃波が発生したことによって、その場に存在していたすべてのものが吹き飛ばされていった。そのおかげで騎士達はまともに動くことが出来ずにいた。その間に俺は聖剣と聖刀をそれぞれ鞘に納めた後に全速力で逃げ出していく。その後ろからは追っ手が駆け寄ってくるのを感じることができたが俺はそのまま走り抜けていく。

そうしてどうにかやり過ごすことに成功した俺であったが、結局はこの後、この国の王城へと向かう羽目になってしまうのであった。そのせいなのか俺はこれから起きる出来事を思い浮かべて大きな溜息を吐く。

(どうしてこうなってしまったんだろうか?)

俺は王城に辿り着くと、そのまま応接室みたいな場所に案内される。

「えっと、これは一体」

俺の疑問に対して向かい側に座っていた金髪の男性は、爽やかな笑顔を浮かべながらこう答える。

「まずは君が何故この場所に連れてこられているかということから説明するよ。君は自分がどうやってここまで来たか分かるよね」

俺はその言葉に対して少し考えてから、ここ最近で自分の身に起きていた事柄から考えてみる。すると俺の頭にとある人物の名前が出てきた。

「もしかしなくてもルーグさんのことですかね」「うん、正解だよ。彼が君の命を狙っていたということが、彼の上司に当たる僕達にも報告されたんだ。そうなれば僕らが対処する必要があるわけで、こうして彼を送り込んだ組織を調べたところ君に行き着いたんだよ」

(俺を殺しに来ましたって? そんな馬鹿な)

そう思った俺は慌てて口を開く。

「ちょっと待ってください。確かにルーグさんには俺の命を狙われていました。でも俺は彼と話し合いをしただけです。その途中で彼の加護によって俺は動けなくなり、その後は気絶してしまい気がついたら王城の敷地内の小屋の中に寝ていたんですよ。つまり、俺を殺すことが出来るのはルーグだけだと思っていたのですけど、貴方方はそう思ってなかったということですよね」

その説明に相手の男性は笑みを深めていた。しかし隣にいる女性だけは鋭い視線を俺に向けてくる。その視線を受けて俺は、やはり俺の勘違いではなかったのかと思い始めてしまったのだ。

そうすると、俺がそんな風に考えている間にも男性が話を続ける。

「いやまあ、ルーグ君の加護の力を知っていれば、普通なら君を簡単に倒すことはできないというのは理解しているよ。ただ、今回の相手はそれに加えてもう一つ厄介な力を持っていると報告があった。それこそ君を瞬殺できるぐらいの力を持ってる相手だよ」

男性のその発言に俺は冷や汗を流す。なぜなら、その相手は間違いなく俺が殺したはずのルーグのことだと思ったからだ。だがルーグは俺が聖剣の力を解放することによって消滅させたはずだった。だから俺が嘘を言っているのではないかと考えたのだと思われる。

それから俺の表情から俺の考えを察したらしい彼らは苦笑いを漏らしていた。だが俺が聖刀と聖剣の能力を使えたのならば、ルーグを消せたのも事実である。しかし俺には聖剣を抜くことができないため、その事を口に出すことが出来なかったのである。そして、そうやって悩んでいる俺を見ながら目の前に座っていた男性がさらに続ける。

「まぁ~君がどんな存在であろうと関係ないんだ。だって君は既にこちらの言うことを聞いてくれればいいのだから」

「俺にいったい何をさせるつもりなんですか」

俺がそう質問すると、彼は再び笑みを見せる。そして隣の女性に向かって合図を送った後、女性は部屋の中にある水晶を取り出すとそれを起動させ始める。その行為に嫌な予感がする俺はその場から逃げ出したくなる気持ちを押さえつけたのである。だが俺が動こうとするよりも早く目の前の二人は動き出し、その手に持っていた杖を振り下ろしてきたのだ。その結果として俺は地面に拘束されて身動きが取れなくなってしまう。

「くぅ、なんだよこいつらは!」

「すまないね~君を逃がしたら駄目だと言われているんでさ」

そう言った男性に対して俺は何も出来ずにいる。だが俺の心の中は完全に焦燥感に支配されてしまいそうになるのを必死に押さえつけて落ち着けようとした。そうしないとこの場から逃げ出すために聖剣を使おうとしていたからだ。

(このままだと本当にヤバイ)

それからしばらくして俺は拘束を解かれる。そして改めて状況を確認した。どうやら俺が連れてこられた場所は、王城内の別の場所のようだった。

(どうすればここから逃げ出せるか)

俺がそう考えた時、突然扉が開く。するとそこには数人の男達が入ってきた。

(やばい! もう見つかったのか!)

俺はそう思い、聖剣に手を伸ばすが既に手遅れであり。そのまま男たちに取り囲まれてしまうのだった。そうして俺の目の前まで歩いてきた一人の男は、俺の顔を見るなり嬉しそうに話しかけてくる。

「ようやく会えた。まさか生きていたとは嬉しいよ」

その言葉に聞き覚えのある俺は驚きながら顔を上げたのである。すると、その男は予想通りの人物だった。

そうして目の前に現れた人物を俺は睨みつける。

俺が覚えている姿と比べてもそこまで変わっていないが、明らかに変わった部分が一つあった。

それは奴の目だ。俺を殺そうとしていたあの時の目とは違って、俺を歓迎しているように感じられた。それが俺にとっては逆に恐怖を覚えるのに十分な要素だ。

「貴様! 何者だ!」

「おぉ怖い怖い」

そう言って男は大げさに肩を抱いて見せた。その姿は余裕がありありと感じられるほどに自然体で俺の事を見ていた。その様子に俺は違和感を抱くが、今すぐにどうにかする事は出来ないと悟る。なのでとりあえず、今のこの状況から抜け出すことだけに集中することにしたのだった。

そして俺が考え始めたタイミングと同時に男が口を開く。

「とりあえずお前の名前はなんていうんだ?」

「人に名前を尋ねるときは、先に自分が名乗れと親に習わなかったか」

俺がそう言い放つと彼は少し困ったような表情をして頬をかいた。

「確かにそうだな。俺の名前はアルン。そう呼べばいい」

「じゃあアルンは、何故俺が生き返っていることを知っていたんだ」

その質問に彼は不敵に微笑むだけだった。

「答えるつもりはないみたいだな」

「まあそう怒るな。それでだお前はこれからどうしたい?」

いきなりそのような問いかけに俺は困惑した。そしてどうしてそんな問いをしてきたのかを考えた時に、一つの結論に至った。俺はまだ自分の命を狙っている相手が他にもいるということだ。

俺はそのことをすぐに確認するためにある事を思い浮かべると口に出した。

「聖刀と聖刀が欲しい」

するとアルンの目つきが変わる。どうやらこいつは俺が聖刀を持っていることは知らないようである。

「なぜその武器を求める」

聖刀のことを知らなさそうなその発言から、俺はまだ自分が生きているという事を確信した。

(やっぱり俺がここにいることを知っている人間は、かなり限られるってことだよな)

だからこそ俺は慎重に行動することに決めた。しかし俺の言葉に他の者達はざわめき始める。特に先程俺を捕まえようとしていた女は驚いた顔をしていた。そしてそんな中、アルンは静かに口を開く。

「お前にそれを扱う事ができると思うのか」

その言葉を聞いた俺は内心ほくそ笑んでいた。というのも、おそらくは聖刀の能力について何も知らなかったということだろう。俺の持つこの二振りの聖剣については、この国でも限られた一部の人にしか伝わっていないはずである。だから目の前の男の反応でこの国のトップが聖刀についての情報を知らないことが分かってしまった。それにこの男がどういう存在なのか分からないが、俺を殺すことが出来ない理由もあると踏んでいる。そのおかげで俺はまだ逃げるチャンスがあると判断したのだ。そのためには目の前にいる相手と交渉をする必要があったのだが、俺はそれをするために口を開きかけ―――。

「無理だと思うぞ、絶対に」「どうしてそう思うんですか!」

俺の背後から急に女性の声が響いてきた。

振り返るとそこに立っていたのは、長い金髪の女性で年齢は二十代半ばぐらいだろうか。彼女はまるで獲物を見つけた獣のような鋭い目をこちらに向けていたのである。

(こいつもまたとんでもない気配の持ち主だな)

「なぁ~その女は何者だ」

俺の疑問に対して男はニヤリと笑うだけで、女性の正体は分からなかった。

(一体何が起きてるっていうんだよ。さっきまではただ話しているだけだったはずなのに、俺が聖剣の名前を言おうとすると何故か邪魔が入る。それこそ俺の考えを先読みされているみたいな動きでな。だけどここで弱音を吐いてもしょうがないよな)

俺は覚悟を決める。この人達に何をされようと俺は生き残るんだ。そう決意を新たにして、自分の中に浮かんできた疑問を解消するために、まずは彼女達に俺の目的を告げることにする。その言葉を受けた彼女たちは、なぜか納得するような表情を浮かべていた。

(この二人、なにもんだ? なんにしてもこの場から逃げ出さない限りは聖刀を手に入れることはできないはずだ)

俺はそんな事を考えながらも女性から視線を外すことはない。しかしそんな風に俺が思案に耽っていた隙に、目の前にいたはずの男と女性は俺の横をすり抜けていた。しかも女性に至ってはその勢いを利用して俺の腹を蹴り飛ばしてきやがったのだ。その衝撃に意識を持っていかれそうになるもなんとか耐え切る。そして女性が放ったであろう魔法を防御しようとするが、それを見た瞬間に俺は慌ててその場から飛び退く。

なぜなら俺の予想以上にその威力が高く、直撃を食らえば俺といえども無事では済まないと思ったからだ。

そして俺はすぐさまその場から離れると聖刀を手に取る。「へぇ~あれを避けるなんて、やるじゃない。私はあなたの力を見てあげてたんだけど、まさか聖剣を持ってる人間がいるなんてびっくりよ」

「あんたはいったい何が目的なんだ」

「んー別にあなたを倒せるとは全く思ってないけど。ただ聖剣が本物かどうか気になったから試したかっただけだから、その剣が偽物だったらどうせすぐ死んじゃうわけだしね」

俺はその言葉で目の前の女を敵だと認定する。

(この人が味方なら話は別だが、どうやらそういうわけじゃなさそうだ)

俺はそう考えるも油断だけはしないつもりで聖剣を構える。そしてそのまま目の前の相手に突っ込もうとするが、横からの衝撃によって止められてしまう。それは目の前にいる女の攻撃ではなく別の人間が攻撃を仕掛けて来たのだ。

(この男、さっきまで部屋の中にいなかったのにいつの間にか現れやがった)

目の前の男の事を全く認識できなかった俺は、一瞬だけだが驚いてしまうも、すぐに思考が切り替わると俺は目の前にいる女性を無視して、こちらに向かってくる男性の方に注意を向けることにしたのである。そして次の瞬間に男から放たれた拳を何とか受け流そうとするが、俺の手からは嫌な音が聞こえてきて手に痛みを感じてしまったのだ。

だが俺が攻撃を受け流し切れなかったため、男性は後ろに下がってしまう。すると女性は残念そうな声を上げる。

「え~もう終わっちゃうの~」

だが俺は気にせず、目の前にいる男性の事に集中しようとした。だが俺はすぐに違和感を抱くことになる。なぜなら男性の姿が変わったように見えたからだ。そこで俺は咄嵯に聖剣を手の中で回転させると横に一閃する。

だがその攻撃は空を切ってしまう。

(これは幻影だったってことか! やばい!)

俺がそう思った直後、腹部に衝撃が走り、そして地面を転がっていく。その勢いを止めることができず壁に激突する俺だったが、すぐに態勢を整えると前を見据える。

(やっぱりこいつ普通の存在じゃない)

俺が見つめるその先、そこには俺の一撃を受け切った男性が悠然と佇んでいたのだった。

(こいつ強いな)

目の前の相手をそう評価すると俺は警戒を高める。目の前の男性の気配はかなり異質なものであった。それは明らかに今まで戦ってきた連中のレベルを凌駕するほどの強さを感じたのである。

その事から俺は目の前の人物の力を測るために観察することにした。

すると俺が見ていることに気づいたようでその人物が俺の方に近づいてきたのである。俺が相手の接近を許してしまうとそのまま男は俺に手を向けてくる。その動作に危機感を抱いた俺は急いで後ろへと飛ぶと、それと同時に爆発が起きたのだった。その光景に俺は驚きつつも再び距離を取ると、男は俺の行動をみて小さく舌打ちをした。

「くっ、今ので死んでくれれば良かったんだが、本当にしぶといな」

俺はそんな事を言い出した相手に冷や汗を流すと、すぐに相手の様子を窺った。すると俺と目が合った瞬間、その目が大きく開かれた気がしたのだった。

俺はその事に違和感を覚えるが、その理由はわからなかった。

(あの反応、もしかしたら何かを知っているのか)

俺はすぐに相手との距離を詰めようとする。しかしそれをさせまいとするかのごとく先程の女が割り込んできて、俺が持っている聖刀を掴んで奪い取ろうとしてきた。

俺はそれに対して抵抗するように女の腕を振り払うが、そのタイミングに合わせて今度は俺が反撃しようとした時に、横合いから先程俺が戦った相手が攻撃を仕掛けてきたのである。

それを避けるために一度後方に飛んで離れることにしたのだが、それすら計算していたかのように先ほどとは別の女性が俺の前に出てくると、俺の動きを止めてきたのだ。

(こりゃまずいな。一人だけならまだしも二人に同時に来られると、かなりきついかもしれないな)

俺の直感が全力で逃げろと言っており、そして今この状況で俺にできることは何も無いという事も分かっているため、とにかく今はこの状況から抜け出すことを優先しようと決めて行動を起こす事にしたのであった。

*

* * *

<side アリア>

「ねぇお父様。あれでよかったんですか?」

私の娘であるレミアさんが、突然私に声をかけてこられたのです。なので私は彼女が指し示している方を見るとその表情は驚愕に染まっていた。そしてその気持ちは、彼女の言葉を聞いた途端に私にも理解することができた。何故ならばそこにいた人物は、私たちが探し求めていた人物と同じ顔をしていたからです。その人物の名はセイと言い、私の息子でもある人物でした。

彼は私の子供であり長男という事になるのです。そして今回の旅には彼を含めた三人の家族と一緒に同行しています。しかしここに来る前に彼が、家族を置いて先に行ってしまったため、慌てて後を追っているという状況だったりするわけで。だからこそ彼の身に起きた変化に困惑しているわけなんですよ。だってそうでしょう?さっきまでの少年の姿はどこに行ったんだと、思わず叫んでしまいそうになる程に、目の前に現れた彼は別人になっていました。だからなのか、私の口からは彼の名前を呼ぶことが出来なかった。そんな風に私が固まっている中、レミアさんが話しかけてきた。

「まさかこんな所で出会えるなんて、嬉しい誤算でした。それにしてもあの顔つきからして、どこかの国に仕えているのかもしれませんね」

その言葉に私は同意していいものなのか分からずに悩んでいると、レミアさんはこちらに向き直ってきてこう告げたのだった。

「お母様。とりあえずは彼に話をして、それから考えましょう。もし敵対するようであればその時は戦うしかありませんが、出来れば穏便に解決できるといいんですけど」

その言葉を聞いた時、何故か私にはその方法が既に思いついているように感じてしまい、そしてそれが実現可能な方法だとも分かってしまったのである。そのせいで少し怖くなったものの、娘の言うとおりにするしかないと思い直し、私は改めてセイの姿を目に焼き付け、その場から離れていくことにしたのであった。

僕が意識を集中すると僕の目の前には二つの魔法陣が展開されており、そこから水龍が出現していた。僕は水魔法を使った事で魔石が残り一つになってしまったが、この場に長く滞在するつもりもないので問題はない。

(それよりもこの水魔法の威力は、凄いんじゃないかな?)

そんな事を思いながら自分の力を確認した後に振り返るとすでに二人の男は消えてしまっていた。

(転移とかいう奴かな?でもあんな高度な術式を使うとなると高位の存在のはずなのに、気配が殆どなかった。まるで最初から存在していなかったかのような、そんな不思議な感覚だった)

そこまで考えた僕は気になっていたことを聞く為に女性の元へと向かって行く。

女性はどうやら倒れている女性の手当をしているようだ。

そして女性から声をかけられた俺は聖刀を手にしたまま彼女に近づいたのである。

俺は女性に近づき聖刀を見せると、彼女から聖刀を奪い取ろうとする。しかし俺はそれを避けようとすると俺の横から男が現れ、こちらに手を伸ばしてくるのである。俺はそれを防ごうとするもその腕はすり抜けてしまうだけで、何もできなかった。俺はそれでも攻撃が効かなかったことに驚いていると腹部に強い衝撃を受け、そのまま意識が途切れる。しかし次の瞬間に俺の意識は戻るとまた別の場所に移動していたのだった。

「うぅ、なんなんだ。俺はいったい」

俺が目を覚ますとそこは薄暗い部屋の中だった。しかも周囲には俺の体を取り囲むように女性がいて、しかも俺が目覚めたことに気づくと口元がニヤけだしたのである。

(なんなんだこいつは。この状況は一体なんだっていうんだよ!)

俺は訳がわからなくなってしまい、どうにかしようと必死になっているとその女性が話かけてきたのだ。

「ふーん。この子、結構鍛えてるみたいだし、もしかしたら使えるかもね」

その言葉を俺は聞いた途端、体が強張る。だが俺もただやられているわけにはいかないと思ったのだ。そしてどうしようかと悩んでいた俺に彼女はあることを提案してくる。それは俺にこの女の護衛をしてくれないかという事だった。

そして護衛といってもただ側にいるだけで良いとまで言われたのである。俺はそれだけかと思って油断してしまったがすぐにその考えが甘いことを痛感させられることになる。その女性の言葉の後にすぐに現れた男性の姿を見てしまったからである。

(くそ、これなら逃げるのもありだけど、逃げ切れるかどうかわからないな。だったらここで戦う方が無難だろう)

そう判断した俺は即座に構えるがその男は俺の事を見て驚いている様子だった。そして何かを呟いているがその男が何と言っているのかは聞こえない。

「お前はいったい何者なのだ。私もそれなりに修羅場はくぐってきたつもりだったんだがな、こんな化け物のような力を持つ人間など知らないぞ。そもそもお前が使ったのは魔法だよな? なぜ剣を持っているんだ。それとどうして剣と肉体に傷がついていないんだ」

そう言って近づいてきた男の剣の切っ先が俺に向けられたのだった。その事に俺は驚くがその動きに対して対応ができず、あっさりと腹を貫かれてしまう。

(やっぱりだ、こいつの力は尋常じゃない。このままだと殺される)

(俺はこんな所で死ぬのか?せっかくあいつを見つけたというのに。俺はあいつを見つけないといけないんだよ。まだ俺が弱いってことがよくわかったよ。俺はもっと強くなってやる)

俺はそんなことを考えていたが目の前の男から攻撃が来るとそんな事は頭の隅に追いやる事にしたのだった。

****

『おめでとうございます。スキル〈死に戻り〉を取得しました』

そのシステムメッセージに驚き、俺が目を開けるとそこには見覚えのある天井があった。俺はそこでやっと自分の状況を理解する。そしてすぐに俺はステータスを開くがそこにはちゃんと表示されていたのである。

俺が今いるのは宿の自室だった。つまりは戻って来たということだ。

(くっそ、もう少しだったんだけどな。結局はあの時死んだままだったか。というかあれが俺の限界だったというのもあるんだろうけど)

俺がそう思っていると扉が叩かれる。そして部屋の中には一人の少女が入ってくる。その少女の名前はレミアと言い、俺の婚約者であり妻になる予定の娘でもあった。そんなレミアは先程の事もあってかかなり機嫌が悪くなっており俺がベッドから起き上がると文句を言い始めたのであった。「お兄様。今日という今日はお話があります!」

「ごめん、今回は本当に反省してるから許してくれないか?」

そう言ったのだがそれでもレミアは不満げな表情をするばかりなので俺はどうすればいいのか悩んでしまう。

(はぁ、仕方がない。ここはレミアに協力して貰うか)

そして俺の予想ではおそらくだがレミアの方から今回の件について説明してくると思っている。というのも今回起きた出来事に関して一番詳しい可能性がある人物がレミアだと思うからだ。それに俺自身も今回の一件がどうなるのかという不安はある。だからこそ今の段階でレミアと情報共有するのは重要だった。だからこそ俺は今回の件に関しては全面的に俺が悪いため謝り続けているという状態だったのである。

レミアは俺が何を言おうとしているのが分かったらしくため息をつくとこちらに歩み寄ってくる。その際に彼女の服装を見ると先程までの私服ではなく、ドレス姿であった。そして俺に抱きつくとそのまま耳打ちしてきたのである。

「別に怒ってはいないんです。ただちょっと寂しかっただけで。だからそんなに拗ねているわけではありませんからね」

「うん、分かっているから心配しないでいいからね」

俺はその言葉を聞きながら頭を撫でてあげるが、それが気に食わなかったのか今度は体を離されてしまう。俺はその事に少し悲しく感じたがこれ以上は嫌われたくないので我慢する事にする。すると彼女は頬を膨らませるとそのまま言葉を続けたのである。

「今回の件は、お母様から聞けば解決できると思うので私は席を外しますね。それとも一緒に聞きたいですか?」

俺はそんな事を言われてしまい少し悩むがやはり一人で聞くべきだと判断した。何故ならばもし万が一の場合を考えて、レミアを巻き込みたくはなかったから。

「ありがとう。でも今回の件は、俺の問題でもあるし、これは俺自身の力で何とかするよ。だから俺の為に動いてくれようとしただけでも嬉しいからさ。レミアはこれからの時間に気を配ってくれると嬉しいな」

俺が笑顔で答えると彼女もまた嬉しげな顔をしてくれた。そんな彼女を安心させるためなのか、無意識のうちに抱きしめてしまったのだった。レミアも最初は戸惑っていたがすぐに落ち着き、そしてお互いに視線を交わす。

「愛してます、貴方」

「俺も君を愛している」

そして二人は自然に顔を近づけると口付けをしたのだった。その後、俺はレミアの唇の感触を感じつつ、彼女が満足するまでキスをしつづけたのだった。

*

***

私の名前はアリス。この国の第二王女です。私の父は王である為、次期女王として日々精進しております。しかしそんな中私は最近困った事が起きており、悩んでおりました。それは私の兄上であるセイさんと婚約者であるレイラ様の仲が非常に良くなっていたからです。

本来でしたらこのようなことは許されないことなのです。確かに貴族同士で婚約する場合、互いの意思が尊重されなければいけませんがそれは建前のようなものです。実際の所は家の繋がりを作る為に政略結婚というものが大多数を占めていたのが現実だったのです。

その為、兄上は家を出て行き今では平民扱いになっているのです。それに加えてその婚約者であるレイラ様も兄上に着いていくかのように、家を出られました。

元々、レイラ様に好意を抱いていた私は、彼女に対して複雑な気持ちを抱いておりましたがそれは恋慕というよりは、親近感の方が強かったのだと思います。それなのに彼女は突然現れたと思ったら兄上と親しくなり始めましたからね。そんな二人を見ていると胸の中がモヤッとしてしまい嫌になってしまうほどなんですよね。しかしそれでも私は諦めきれませんでした。なぜなら、彼女となら私がこの国を引っ張っていくための良きパートナーになれそうだから。

そして現在、父上から呼び出しを受けたのでその足取りはとても重かった。恐らくこのタイミングで呼ばれるのは兄上の件だろうと思っていたからです。

(はあ、面倒ですね)

正直なところ今はあまり会いたいと思えるような相手ではない。なんせ兄上のことで頭が一杯だったせいで最近は勉学などにも身が入らないほどだったのです。それも全てレイラ様のせいで。

私が部屋に着くとそこには父と姉が既に待っており、何故かいつもよりも雰囲気が重くなってしまったように感じられる。この空気が苦手な私は早く終わらせて欲しいと思っていましたが中々に話をしようとせず時間だけが経ってしまうばかりでした。そしてやっと父が話を始めてくれる。しかしその内容は予想外のものであったのです。

(まさかあんな事が起こっているとは思いませんでした)

この国の王子であるはずの男が他国の女に惚れてしまう。しかもその女は王族だった。普通に考えた場合、こんな馬鹿げた話はありませんよね。だってこの国に利益をもたらす存在の筈なのですが、しかしそれでも男には関係がなかったみたいですね。

しかしそんな事になっているにも関わらず、王は頭を抱えていた。というのもその男の妻になるであろう人がこの国からいなくなったらしいから。その事でこの国は揺れに揺らいでいるようでした。

(というかどうしてこうなったんでしょうか?)

そう思わずにはいられない状況でした。その女と兄上がどういう関わりを持っていたのかはわかりませんが、その女は突如消えてしまい行方がわからなくなっているという情報もあります。そうなってくると今回の騒動の発端はこの国にいるということが濃厚になってしまいます。

そして何より今回の件に関して王が私に相談してきたという事は私にもその責務が問われる事になるという事です。まあその前にまずはその問題の女の素性を調べてからなのかもしれませんが。それにしても、こんな面倒な事に巻き込まれたくはないので出来る限り関わりたくないというのが本音です。

それから数日後、事態は急変しました。今までは行方不明だったその女の居場所が分かったというのだから。その事に父は非常に喜び、その件は早急な対応が必要となった。

しかしその報告によると女は既に死亡していた。そう聞かされた時は心底ホッとしたと同時に怒りを覚えたのは言うまでもないだろうけど。

その報告を受けしばらく経ったある日、私のもとに一つの報せが届くことになる。内容は我が国の第一皇子のセイがその女性の元に行ったというものだった。その時私は特に気にしなかったけど。でも後になって考えてみるとあの時の行動は正しかったと今でも思う。だってもしあのまま行かせていたら最悪の展開になっていたかもしれないからね。

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

*

***

私はある女性の元に足を運んでいた。それは亡くなったと言われていた人に会うためだ。そしてそこで出会った人物は記憶にないものでした。その方は、私が知るはずもない情報を知っていたのである。その女性はレイアと名乗り、レイリアの母親だということがわかった。

そして、そこで知った情報に私は驚いたのである。というかそんな事を言われたら信じられなかった。レイラの母親が、この国に嫁いでいたなんてね。そしてレイラの母は私の事を知らないらしく名前を教えてくれと頼まれたので教えるとなぜか彼女は涙を浮かべながら喜んでくれた。その様子に疑問を感じたものの直ぐにレイリアに会いたいと言われた為。私は案内をすることにした。

(それにしても一体どうなっているの?レイラの母が生きているという事に、何故彼女はそのことを黙っていたのかわからない。でもそれを言ってはならない何かがあったのかな?)

私はそう思っていると彼女が突然立ち止まりこちらを見てくる。私に用事があるのだろうか。すると彼女は真剣な顔をしながら言葉を発する。その瞳からは、ただならぬ気配を感じるので少しだけ警戒していると彼女の口から驚くべき言葉が飛び出た。

(彼女は、本当にレイラなの?)

一瞬思考が停止するが、すぐに否定の言葉が脳内に浮かび上がってくる。そもそも容姿からして違っている。あの子は、そんなに綺麗でもなかったし、ましてや大人でもなかったのだから。そして次にレイラが生きていたという事実が頭に浮かぶがそれもまた違う。レイラの遺体は確認されているからね。だからこそあり得ない。じゃあ誰なのという疑問が出てきてしまったのだ。そしてそんなことを考えているといつの間にかに城に戻っていて気づけば部屋に戻ってきてベッドの上に寝転んでいたのである。

それから数日後、兄上の捜索をどうするか話し合われたのである。しかし結論から言わせてもらうと捜索は不可能と判断されたのである。なんでも、この国から出るための門は全て封鎖されているらしくてね。それこそどんな手段を用いても突破できないようになっていると聞く。そのせいでこの国の民たちはかなり不安を募らせていた。その事を王から告げられた私は納得するしかないと思いながらも不安を胸に抱きつつ、これからの事に頭を悩ませる。

すると突然私を呼びに来た侍女がいたので彼女の後に付いていく。するとそこには兄上の姿が見えて驚いてしまう。

(えっ、あれって本当にセイなの!?)

正直見違える程に変わった彼に私は驚愕してしまう。なんせ別人のような見た目をしているんだから。しかしそれは当然なのかもしれない。なんせ兄上は死んだと思われていてそれが実は生きていおり、しかもこの国の王妃になったというのだ。しかもそれは兄上の幼馴染みであり恋人でもあったレミアのおかげだと聞いている。

そのレミアと二人で仲良く暮らしているという話を聞いたときは、なんだかいらないお節介をしていた気分になったけど。

しかし兄上の姿を久しぶりに見て思ったことがある。今の彼は昔の兄上とは全然違っていた。それは外見だけではなく中身もである。まるで別の人物を見ているようであった。

そして、兄上に話しかけようと近づくが、しかし何故か兄上から声をかけてくれたのである。しかし、それはあまりにも意外な一言であった。なんと彼は私達の関係を知らなかったのだ。これには驚く他ないよね。

そして私は彼の態度を見て彼が兄上では無いことを確信する。というか兄上にしては不自然なほど落ち着いているからだ。その証拠が表情から読み取れてしまうからね。兄上は基本的に表情に出やすい性格だったから。それに比べて目の前の人物はどこか無感情なのだ。そして極めつけは彼の体付き。筋肉のつき方が全くと言っていいほどに異なっているので別人であると断言出来たのである。

ただ、それでも兄上との類似点は多くあったから、私達姉妹が間違えた事も仕方が無いと思うんだよ。それにレイラとレイアはそっくりだったから余計にね。そして私はこの場では彼に従うことに決める。そうすれば兄上の情報が聞けそうだと思ったからである。

その後兄上はレイラと一緒に旅をすると言った。正直な話それを聞いて心配になってしまうが、この二人ならばきっと大丈夫だろうとも思える。だから私はその事を止めはしない。

兄上は旅に出る前に私にある物を手渡してくれた。それは剣の形をしたアクセサリーだった。このアクセサリーは魔法が付与されており持ち主を守る力があると教えてくれる。しかもそれは兄上が自らの手で作り出したものらしい。兄上がこの国に戻ってきた時に私が困らないように作ってくれていたようだ。

(本当にこの兄上様は変わっていませんね。相変わらず妹に甘いんですから)

私はそう思い、笑みが溢れてしまうのを抑えきれない。こんなに優しくされてしまってはもう我慢できる訳がなかった。私は今すぐに抱きしめたいという衝動に襲われてしまう。

(あっ、そうだわ)

そして私はそのアクセサリーの効果を使ってみる。すると突然体が光り始めその効果を発動させたことがわかる。この指輪を身に付ける事によって自分の姿を好きな様に変身させる事が可能なのだとわかる。そうして私は兄上の事を愛しいと思っている自分へと変身する。

私はレイリアとしての記憶を持った状態でセイの妹レイラになる事が出来るみたいだ。これは非常に都合が良かった。何故ならこれがあれば、堂々と兄上とイチャイチャ出来るわけだから。

そして私は、この能力を使って早速兄上に会いにいった。しかしそこには予想外な出来事が待っていたのである。なんとそこにはセイと見知らぬ女の子の姿が合ったのだから。私は咄嵯に姿を隠しその光景を見守る。しかし次の瞬間とんでもない衝撃的な事が目の前で起こったのである。なんとそのセイがキスをした相手が、なんとあのレイアだったのだから! 私はあまりの出来事に呆然と立ち尽くしてしまう。そんな私をよそに二人のラブシーンは続き、とうとう一線を超えてしまったようである。

(うぇえー!!ちょっ、ちょっと待ちなさいよぉ!!!まだ結婚して数日じゃないですかぁああ!!何してんのあんたら!?)

私は心の中だけで叫ぶ。というか何やってんのよこの兄貴達は、いやまあ確かに兄妹が結ばれちゃ駄目なんて事はないのだろうけれどさ。いやでも早すぎないかしら?普通に考えればもっと段階を踏んだ方が良いでしょうに。私はそんな風に思ってしまう。まあさすがに今回は私の落ち度もあるので強くは言わないけど。

それにしても、この二人を見る限りどうも私の出番は無くなったような気がする。というか私の存在が忘れられてるかもしれない。うんそうに違いないわ。なんか、この先の展開は読める。おそらくセイの婚約者がこの国にやって来るはず。そうなったら私はその女に邪魔をされかねない。というより絶対にそうなると私は断言するね。

(あぁ〜やっぱりレイリアさんには頑張ってもらわないとな)

だって私はレイリアさんの気持ちが分かるもん。そりゃあこんなの見たら悔しくなるに決まってんじゃないのよ。私の方が先に好きになっていたはずなのに。どうしてこの二人が一緒になるの?っていうのが素直な意見だ。でもレイラに成りきれている以上私はそんな事を口に出すことは出来ないし。もしそんな事を言ったら兄上のことだから、自分が悪かったのかもしれないと言い始めるのだからね。

そんなの言われたら何も言えないし。それに私はレイリアの事を認めつつあるし。この人は凄く優しい人だと思う。だからこそレイラが幸せになって欲しい。そんな風に思ってもいるのでレイリアを応援することに決めた。

(よしっ!レイリアさん頑張ろうね!!応援してるからね)

私はレイリアにそう念を送りながらその場を後にしたのであった。

僕は、レミアが部屋から居なくなったのを確認すると再びレイリアと対面する事にする。レイリアも僕のことを確認し終えたようでこちらを見つめてきた。そしてお互いに沈黙が生まれる。

僕は何も言葉を発することが出来ず、レイリアは何を考えているのかわからない無表情で、お互いが黙っているという状況が生まれていたのである。そして、暫くの静寂が訪れた後。

レイティアはその重たい口を開いた。

「その格好はどういう事なの?」

彼女はそう口にするが、正直それは僕の方も同じである。なぜ彼女はレイラに姿を変えているのかわからない。その事に首を傾げつつ質問に答えようとするが、しかしその前に彼女がまた言葉を紡ぎ始めたのである。

そして彼女の言葉を聞きレイラが生きている可能性を考えるが、しかし彼女がそんな嘘をつく理由がないので違うと断定。だけど彼女も何か思うところがあってそんな質問をぶつけてきているような感じを受けるのも確かである。だからこそ僕は彼女の意図を探るためにあえてレイラがレイラであるという事を肯定することにしたのだ。

(しかし本当に綺麗になったね。それに昔よりも大人っぽくなったというかなんだかかっこよくなったよね?)

僕は改めてそんな感想を抱く。というか前世の頃のレイナは可愛くて愛おしい少女だったのだが、今はどちらかというと綺麗なお姉様という雰囲気が出ているのだ。それは外見だけじゃなくて仕草も大人っぽくなっているという部分から来るものだ。なんとなくお姫様オーラというのを感じるんだよ。

すると今度は突然レミアが抱きついてきて押し倒されてしまう。その際に彼女の豊満な胸に顔を埋める事になったが特に気にせずその状態のまま話を進める事に。

「あなたが兄上では無いという事は理解しているつもりだよ。でも私達の為に戦って来てくれたのだけはわかっていたから、どうしてもその事が嬉しくて、我慢出来なくなって、抱き着いた」

「そういうことなのですね。私としても兄上で無いのに兄上と呼び続けるというのは少し恥ずかしかったのです。だから、ありがとうございますねレイナ様」

(えっ、えっえっ!?)

僕は混乱してしまう。だってこの人が本当にレイラなのではないかと思うくらいに、口調が似ているのだもの。だからレイアの言葉に困惑して反応が遅れてしまったが、慌てて僕は聞き返した。

するとレイナは驚いたように声を上げる。そしてその後、自分の体を見渡しながら僕に問いかけてくる。その姿はまるで鏡を見ているかのようにそっくりであると感じる。やはりこの二人は似ているのだ。しかし今の姿は完全に別人にしか見えない。

しかし今の反応を見るに、彼女は今の自分に戸惑っていて、それで僕の所に訪ねて来たという事が分かったのである。そしてその事実を知って安心したと同時に、僕はあることに気づく。それは彼女が僕のことをセイと呼んでいるのだ。それに気づいてからは彼女にそのことを注意しておくことにする。流石にそれは間違えすぎていたからね。しかしその時である。部屋の外から物音が聞こえたのでその方向を振り向くとそこにはレミアの姿があったのであった。

(やばい)

その瞬間、この場がかなり危ない場所になっていることを再確認して、どうにかこの状況を打開するために頭をフル回転させる。しかしいい案は思い浮かばず、僕は焦燥感を募らせていくのだった。

そんな時にふとレイラとレイリアが同時に立ち上がり、そして僕の腕を取り引っ張ってくる。どうやらここから移動するつもりらしいが一体どこに連れて行こうとするのだろうか?まさかとは思いつつも僕は嫌な予感しかしていなかったのである。

そうして到着した場所はレイリアとレイラの部屋。レイラの私室であり、ここならば多少騒いでも問題がないからである。それに二人共王族である為その私室の警備はかなりのものとなる。

「兄上様。今日はこの私とお楽しみ頂けると嬉しいですわ。それに先程の続きをしましょうね。私、まだ兄上様の唇が欲しかったんですから。もちろんレイラの身体はもう堪能しましたから大丈夫ですよ?私達のことは気にせずに続けてくださいませね。あっ!あとその服は兄上様の魔法が掛かっているみたいですので、ご自身の力でも破れるみたいですわよ?では頑張ってくださいまし。あっ、そうだ!一応この魔法には解毒の効果が付与されていますので、兄上様に毒なんてものは通用しませんので安心してくださいね!」

そんな事を言って彼女は笑顔を見せる。ただ、目が笑っていないことからおそらく本気なのはわかる。というかさっきまでのは冗談だったようだが。今回のこれはガチでヤバイと感じ取ることが出来たので本気で止めに入ろうとするが、しかしそれよりも早くに行動していた人物が居るようだ。

(あれっ、なんか急に眠気が襲ってきたんだけど)

僕の意識は徐々に薄れていってしまい、そこで目の前に居たはずの二人の姿を見逃してしまうことになるのである。

目を覚ますとそこはベッドの上でレイシアが隣に座っており優しく僕の髪を撫でていた。なんだかいつにも増してもの凄くドキドキしてしまい胸の鼓動が鳴り止まない。しかも僕の寝間着を何故か彼女は着ていたので、よりそれが顕著に現れてしまっているのかもしれない。というより何が起きたんだっけ?僕は記憶を遡り、何が起こったのか思い出そうとする。確か昨日は色々ありすぎて、それからレイリア達に部屋を案内されレイティアがやってきて、そしてそのまま流れに任せてしまうように致してしまった事を思い出す。

(うわぁー、やっちゃったな。これ、怒られるかな?というよりレイリアにはレイティアとの関係について知られてるわけだし。まあでもキスを見られた時点で終わりか)

そう考えて諦めるしかないかなと思ったところで、レイリアから渡された神器の存在を思い出し、早速起動させることに。僕はまずレイティアとの事を無かったことにしようと思いそれを実行してみる。するとレイリアの表情が見るからに変わっていく。その変わりようは思わず息を呑んでしまうほどに恐ろしいものであり。

「えっと、あのぉ、どうされたのですかレイリアさん?」

恐ろしさに気圧されて敬語になりながらも、そう尋ねてみるとレイリアはこちらを見て微笑みを浮かべる。その様子はいつものレイリアと全く同じもので、僕は戸惑いを隠せなかったのである。

すると彼女は、僕の方に歩み寄ってきて頬に手を当ててきた。そして僕の顔をまじまじと見つめながら何かを呟いている。しかしその言葉を聞き取れないまま、今度はレイリアに強引に引き寄せられて彼女の唇を奪われてしまった。

最初は触れるような口づけだったが次第に激しくなっていき舌が絡み合う。レイティアの時とは違い、僕も積極的にレイティアを求めていった。そうすることで彼女の気分を高めることが出来るのであれば、僕はいくらでも求めに応じるつもりだったのだ。

(さすがに朝だからなのか少し元気ないけど。レイリアの時は本当に凄かったもんな。でもこの状態なら何とかなりそうかな?とりあえず機嫌を取らないと後が怖いし)

そうしてレイリアの機嫌が直ったのでホッとしながらレイリアと軽い会話をしていくが、彼女は時折、レイリアについて話してきたのだ。僕はそれを上手く交わすように心掛けるがなかなか手強い相手であった。

「ねぇセイ。本当にレイリアちゃんの気持ちには応えられないのかな?あんなに可愛い女の子から好意を向けられながら断るって本当に勿体ないことだよ」

そんな言葉を掛けられてしまうが僕はそれを否定することは出来なかった。というか実際そうなんだし否定する必要も無いだろうと考えていたからだ。しかしそれでもレイリアの事は大切な存在であると思っている。

レイリアはレイティアの次に僕に近づいて来た人間でもあるのだ。そう考えれば確かに特別な人だと思う。だけど、レイラに対する想いも変わらない。僕が彼女を愛し続けている以上その関係が崩れる事は無い。それにレイラもレイティアのことを好きだと言っているのだ。

しかしここで僕はふとある事に気づいてしまう。それは、どうして僕はそんなにレイティアにこだわるのかということである。確かに彼女が妹として可愛かったこともあるのだが、別にそこまで執着している訳じゃないのだ。むしろ今では彼女に対して悪いことをしたとも思っているくらいである。なのに僕は、未だに彼女の事を諦めていないのだ。

(本当におかしいな。なんでこんな風に考えているんだろう。レイラと付き合っていればレイナと別れて幸せになれるはずなんだけど。でもどうしても、僕はレイラの事が好きで、レイナも好き。だから、僕にとってはレイティアが必要なんだ。きっと、僕はこれからもこの事をずっと悩み続けると思う。だけど後悔はしていない。だってそれが僕の答えなのだから)

僕のその答えを聞いてレイリアも少し考えるように黙ってしまうが、その後に彼女は笑顔を見せて僕に話しかけてくれる。

「わかったよセイ。じゃあその考えが揺らがないうちは私が頑張ることにするね」

「えぇと、そのお世話かけます」

そんなやりとりをして、この日は終わったのである。ちなみにこの後、レミアも部屋にやってきたので二人を相手にする事になったのだが、どうやらレミアはこの姿のレイリアに懐かれているようでとても喜んでいた。どうやらレミアの方でも色々とあったみたいだが詳しくは聞かないことにした。

それから数日が経ち今日も学園の授業を受ける事になる。レイラに手を繋がれながら歩いていくとそこには既にレイリアの姿があり、彼女と目が合ったのである。しかしすぐに視線を外すとレイリアが僕の方に向かって来てくれたのだ。

「おはようございます兄上様!今日もいい天気ですわね」

そうして僕と挨拶を交わした後にレイリアはすぐに立ち去って行った。その様子を見て少し複雑な心境になってしまう。なぜなら彼女はこの前の一件以降、レイラを避けるようになったからである。その理由はおそらく僕がレイナのことを大切に想っていたことがバレてしまったこと。そのせいで彼女は自分の恋心を否定されてしまったかのように感じているに違いない。だからこそ今はこうして避けているのではないかと思っていた。

(というか完全に避けられてるよな。やっぱり嫌われちゃったかな?)

そのことを考えると不安になるのは仕方がない。しかしレイラの前ではなるべく平静を取り繕いながら一日を過ごすことにするのだった。そうしないとまた彼女が心配してくるからね。

(まあそんなことより授業の方が問題だ。今日は何されるか分かんないし)

僕は気を引き締め直すとレイラと一緒に席に着いた。レイリアがこの前みたいな行動に出なければいいんだけどと思いながらその日の朝の授業が始まったのである。

(この感覚、やっぱ懐かしいな。もう随分と昔のことに感じるな。というかこの魔法陣での移動の仕方って結構慣れないと辛いんだよな。転移魔法で移動するよりも距離的には遠いわけだし魔力消費もかなりあるわけだし)

移動方法については魔法を使う為の精神統一がかなり大変な作業になってくるためかなり集中力を消耗してしまうので疲れてくる。そのため移動だけで体力を消耗するという悪循環が生まれてしまい効率が悪いのだ。というよりこの方法での移動はかなり時間が掛かる上に一度の転移魔法の方が圧倒的に楽なので使う必要性がないというのが事実かもしれない。それに僕自身、他の生徒達と違ってあまり時間があるとは言えない。何故ならレイティアに頼まれていた研究課題がようやく完成したので今はそれを彼女に渡すために部屋に向かおうとしていた最中なだけなのである。

というわけでレイリアから逃げ切る為にさっさと渡してしまおうと考えつつ、まずレイティアの部屋へと向かった。そうして扉を開けるとそこに居たのは一人の侍女と何故かメイド服を着たレイティアの姿があったのである。そのレイティアの姿をみた僕はつい言葉を無くしてしまった。

「ん?どうかしたのセイ?」

彼女はそう言って不思議そうにこちらを見ていたが、しかしその姿はとても可愛らしく、それでいて魅力的であり僕は見惚れてしまう。しかしそれをなんとか抑え込むと慌てて目を背けながら、レイティアに声を掛けることにした。

「えっと、いやぁ、あのですね。これは、いったいどうしたんですか?その、何と言うか、その、似合ってます」

僕がそう言って褒めると彼女は嬉しそうにする。ただやはり恥ずかしさが勝ったのか、僕の目を見てくれない。その様子が愛おしくて抱きしめたいと思ってしまったがそこは何とか耐えることができた。

「うぅー、やっぱりこういう服苦手かも。私ってそういう柄じゃないっていうのは自分で分かってるつもりだし、なんかちょっと落ち着かないのよね。まあいいわ、とりあえずこれが例の魔導人形の研究資料だから後よろしく頼むわよ」

そんな風に言われたので僕達はその場で話を済ませる。そして用事も終えたのでそのまま部屋を出ようとしたところでレイティアに引き止められてしまう。

「待ちなさい、貴女にこれを預ける前にやって貰いたい事があるからついてきなさい。まずはその制服を脱いでから私のところに来るのよ。分かった?それじゃあ待ってるから急いでね?」

レイティアの言葉に首を傾げながら従うと僕はそのまま彼女についていく。そうして到着した場所は浴室で、何故か彼女は僕の体を洗えと言ってきたのだ。その事に戸惑いながら理由を聞くとどうやら彼女は僕の背中を流すのをご所望らしい。僕は仕方なくそれに応じて彼女の体に石鹸を塗っていくと、彼女も自分の体にも泡をつけ始める。そして彼女は僕の背中を洗い始めると僕は、彼女の柔らかさを背中に受けて興奮してしまいそうになるが、必死にその気持ちを抑えるのに苦労した。

ただ彼女の手つきは意外に上手いので心地よく感じてしまい油断すると眠ってしまいそうである。僕はその快感に耐えようとしながら彼女の方を向き話しかける事にした。

「あ、そうだ。さっきのレイティアの格好なんですけど、本当に良くお似合いでしたよ。でも出来れば、もっと違う場所で見せて欲しかったかなと。あれだと周りの人に勘違いされかねないと思うので。レイティアさんは魅力的な女性ですし、もし僕以外の男性に見られると変な噂が立って困ることになるんじゃないかなと」

そんなことを言ってしまったせいなのかレイティアが僕の背中を思いっきり叩いてくる。その痛みに思わず声が出そうになったがそれをどうにか我慢して耐え抜いた。しかし彼女の怒りは治まらない様子だったので今度は素直に従うことにする。

「ふふふ、それじゃあさっそく背中流してもらうから座って」

そんな事を言いながら僕の手を引くレイティアの事を見ていると先程までの怒りはどこへやら、彼女はとても楽しそうにしていたのであった。

その後、僕は彼女との入浴を終える。それからすぐにレイティアが用意したであろう服を着せられた後にレイリアのいる教室へと向かう。そうしているとレイリアもちょうどやって来たようなので早速、その日最後の授業を受けることになった。その授業の内容だがどうやら魔法の練習ではなく武術の訓練である。それも剣術だけでなく弓術なども交えた実践形式のものとなっていたのだ。そんな訓練の最中レイティアの様子を見ていると少し疑問に思う事があったので質問をすることにする。

しかしそれは彼女がレイリアに何かを伝えてから行われたものだったのだ。

「では始めましょう。今日の相手役は、レイリア、あなたがやりなさい」

「はいお母様。分かりましたわ」

レイリアの方もやる気十分といった感じだ。レイリアの表情を見ると昨日の事はすっかり気にしてないように見える。

(もしかするとレイティアは僕が思っている以上に気にかけてくれたのかもしれないな)

僕はそんなことを考えつつも二人の戦いを見届けることになった。最初はレイリアの猛攻が繰り出されるがそれをレイティアが難なく対処していき逆に反撃に移ろうとするが、そこでレイリアが魔法を使ってレイティアの行動を妨害してきた。

(あの魔法、まさか氷属性魔法!?なんで彼女が使えるんだ?)

そんな驚きが隠せない中、二人は戦闘を続行するのだがどうやら魔法戦になるとレイリアはレイティアには勝てなかったようだ。その実力の違いを見せ付けるかのように、レイリアは勝利を掴み取った。しかしレイリアが勝つとは思ってもいなかったのかレイティアがレイリアのことを抱き寄せると優しくその頭を撫でるのである。そんな二人の様子を見ていたらどうも羨ましくなってつい僕もレイラの頭を抱き寄せてしまった。レイラの柔らかい体が気持ちよかったのもあってしばらく堪能させてもらうとレイリアの鋭い視線に気づいたのである。

(う、まずいな。調子に乗り過ぎた。でも、レイラの髪を触る機会もなかなかないしもう少しぐらいなら大丈夫だろ。でもさすがにそろそろ止めないとまずいかも)

「せ、先輩。私、まだお昼ご飯を食べてないので食堂に行きませんか?ほ、ほら。せっかくだし一緒に食べようかなと思いまして、だ、ダメですか?」

そんな感じで誘ってくるレイラのことを愛らしく思いながらもこれ以上は危険な気がして断ることに。するとレイリアは残念そうな顔をしたが僕達を二人きりにしてくれたのだった。そうしてレイリアと二人で食事をしてから寮に戻ることに。それから部屋に戻ると僕は彼女に頼まれていたものを渡して部屋から出ようとした時にレイラに引き留められてしまう。しかし彼女はなぜか僕を部屋の中に引き入れた後に自分の部屋に連れて行き、いきなりベッドの上に押し倒してきたのである。

(ん?え?どういう状況なんだこれ?というかこの光景どこかで見たことがあるぞ)

そう考えて思い出した僕はつい顔が赤くなってしまうと彼女はそれを面白がりながら抱きついてきて、そのまま僕の唇を奪い、そしてそのまま深い口づけを交わしたのであった。そしてしばらくしてレイラの満足がいったらしく解放された時には僕の顔が火照っており息が荒くなっているのを見て彼女はクスリと笑うのである。

「ふふ、どうしたんですか先輩。まるで私がキスをした時のような顔になってますよ」

そんな言葉に何も言い返せなかった僕は悔しくて仕方がない。すると突然、レイアの部屋に来客がやって来た。しかもその人物は学園長で、僕達に用があると言ってきたのである。僕達はすぐに身支度を整えると学園長について行くのであった。

*

* * *

次回のお話の前にお願いがあります!是非評価をよろしくお願いします!!

「えっと、それで話と言うのはなんでしょうか?」

学園長が連れてきた場所はとても広い会議室の様な所でそこには複数の人が待機していて僕達が入ってきた途端に席から立ちあがり一斉に礼をされたのである。そしてその事に戸惑っていると、僕達の方に向かって一人の男性が近寄ってきた。しかしその人物を見た瞬間、僕とレイラはその人の名前を思い出すことが出来なかったが、レイティアだけはすぐにその名前を思い出したようで声を漏らしたのである。そうしてその人物がレイティアに声をかけてきたのだ。

「久しぶりだねレイティア姫、こうして君にまた会うことができ嬉しく思うよ。それと私の事はもう覚えていないだろうけど一応紹介させて貰うよ。私の名前はレイスという者だ。君のお母さんの友達でもある。だからどうか仲良くして欲しい」

その挨拶を受けて、レイリアは彼に見覚えがあったのだろう。

「あ、貴方、あの時の?」

「そうだよ。私はずっとレイティア姫を探していたのだけど、ようやく会えたよ。あの時はありがとう。君のおかげで助かったよ」

レイティアがレイスと名乗る人物に感謝される理由がわからず、僕は不思議そうにしているとその疑問に気付いたのであろう。レイスは僕に対して簡単に説明してくれる。

「君はレイティアが何故、魔獣に襲われている時に魔素遮断の仮面を身に着けていたか分かるかい?」

僕はレイティアが魔素遮断のマスクをしていた理由はレイリアの素顔を誰にも見られたくないと思ったからだと思っていたのだが。しかしレイティアの話によるとそうではないらしい。

「あれはある意味間違ってはいないけどね。本当は、あの子が自分の魔力を抑える為のアイテムだからなのよ。そのせいで周りからの注目を浴びてしまうから普段はあれを被らないんだけど、今日だけは特別よ。だからその事を責めたりはしないであげて欲しいわね」

そんな事を聞いてしまうと僕としては少し複雑な気分になってしまうので困ったものである。それから話を戻して本題に入ると、彼は僕にレイティアを助けてくれと言ったのだ。

「あの時は本当に助かりましたよ。レイティアは私に取っては娘も同然の存在ですから、彼女には幸せになって貰いたい。ですが、今のレイティアの状況を考えるとそれは難しく。もし貴方がレイティアを守ってくださるのであれば私は協力するつもりです」

そんな風に言われてしまえば、いくら僕だって断りにくい。しかし、レイティアが僕のことを利用する為に近づいてきたのだとしても僕は彼女の側に居るつもりなのだ。それに、彼女の過去を知った今となっては、彼女のことを無碍に扱うこともできないのである。なので断ろうとしていると、レイティアが僕を説得するように言葉を告げて来たのだ。

「ねぇライラック、これはチャンスだと思うわ。ここで彼の信頼を得ておけば、きっと将来役に立つわよ。それにもし仮に、彼が貴方の事を道具としか見てなくて利用するつもりだったのだとしてもそれはそれでしょうがないことだわ。むしろ都合が良いじゃない」

確かに、その通りなのかもしれないけど、それでも彼女のことを騙していたことは変わりないわけで、そんな彼女からそんな事を聞くことになるとは思ってもみなかった僕は思わず驚いてしまった。ただレイティアの言葉には続きがあり。彼女の表情はどこか暗いものだった。

「それに、もしもこの国を出た時に私の事を裏切るような事があればその時は容赦はしなくても良いから」

彼女のその言葉に僕は戸惑いながらレイラの方を向き目線を合わせる。すると彼女は微笑を浮かべたまま何も言ってこなかったのであった。そんな様子の僕達にレイティアがため息をつく。どうやらレイティアは呆れていたみたいで、それから彼女は再び口を開く。しかしその内容は意外なものであった。どうやら彼女が僕をこの学園に入れてくれた本当の目的というのがこの事らしい。それは彼女が昔世話になっていた人に恩返しをしたいという思いがあるようだがそれは建前で本当の目的は別の所にあると言っていたのだ。

「まぁとりあえずそんなところね。で、さっきも言ったけどこれからはもっと積極的に行かせてもらうわ。貴方は今まで私を利用しようともしてないし今のところは合格ってところね。それにレイラとも仲良さげだったみたいだし。そこは評価しても良いわ。だから今後は少しばかり私の言う通りに行動してちょうだい」

(なんだ、つまりそういう訳か)

その話を聞いた僕はついついそんな感想を抱いてしまう。するとそんな考えをしている僕に対して彼女はニヤリと笑って来た。その笑みはなんだか悪巧みをする子供のような表情にも見えてしまい僕は何も言えずにいた。しかしそこで、レイティアからとんでもない一言を言われることになる。なんとレイティアは僕達二人を同時に恋人として扱おうと言い出したのであった。これには驚いた僕はどうしてそのような話になったのかレイティアに尋ねてみるとどうやら僕達の関係が気になるらしく、さらに、二人が互いに恋をしていないなら、この先絶対に上手く行くことがないので諦めるようにと言ってきたのである。そんな彼女の発言は僕の心を的確に射抜いてきたので否定できなかった。そしてそんなやり取りを終えてレイリアが不満そうな顔をしていたのであった。

それから僕達は寮に戻るとそれぞれの部屋に戻った後で僕は自分のベッドの上で寝転びながらあることを考えていた。

「それにしてもレイティアの目的が、僕達が一緒に居ても怪しまれない関係になることだったなんて意外だよな。てっきり僕の事を利用しているとか考えていたのに」

レイティアの目的はレイリアと仲良くなる事であって、その為に自分の力を貸してくれる人間が必要なのだとレイティアは僕に伝えてきた。その事からもわかるのだが。もしかしたらレイティアは自分の力で何かを成そうと思わなかったのかも知れないと、ふと疑問に思ったのである。

「うーん、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。でも僕一人じゃ解決できない問題でも他の誰かの力を借りる事が出来ればなんとか出来るかもしれんよなってことは確かか」

(それに、あいつらはもう手遅れだが、この国は確実に危険だな)


* * *


* * *


* * *


* * *

次回のお話の前にお願いがあります!是非評価をよろしくお願いします!!

* * *


* * *


* * *


* * *

僕は学園長との話し合いを終え、それからすぐに部屋に戻ってくるなりベットの上に寝転ぶとその事についてレイリアに相談する事にした。ちなみにレイラの方は既に帰ってきており。僕は学園での一件についてレイリアに伝えると、彼女は特に何も聞かずに了承してくれた。どうやら僕達が学園に入学するまでの出来事に関してはレイラもある程度知っているらしいのである。そしてその情報を教えてくれたのはどうやらレイリアだったらしく。僕達はその事に関して感謝の意を伝えるのであった。

そうして、レイリアに学園での事情を説明した後にレイティアに何をすれば良いのか尋ねた。するとレイティアからはレイリアと二人で学園長に会いに行くように言われた。なんでも僕達の今後について相談しておいて欲しいと言うので早速僕達は学園長の元に向かうことに。そうして学園長の部屋を訪れるとそこには学園長だけではなくレイリアのお父さんであるオルクの姿があった。

レイティアに案内されて部屋の中に入るとそこには学園長以外にレイリアの父であるレイオスが立っており、僕達が入ってきたことに気づくと笑顔を向けてきた。僕は慌てて挨拶を返すと、学園長は突然僕にレイリアとレイラが同時に付き合ってるという事実に間違いないか尋ねてきた。その問いに僕とレイリアは正直に答えると、その事実があまりにも予想外すぎたのであろう。

その瞬間に、二人の顔に驚きの色が現れたのであった。しかしすぐにその表情を元に戻した学園長は真剣な顔つきになると僕達のことについて話を聞かせて欲しいと頼まれたので。レイティアと一緒に説明を行った。その説明を終えると学園長が僕達の関係を応援したいと言ってきた。その事に僕達は素直に感謝し、それからレイティアに言われた通りに今後のことを色々と決めるのであった。

そうして決まった内容は、僕達が王都に来たばかりの頃に行っていた情報収集を再開することと、あともう一つはレイリアの父親であり。僕達の仲間でもあった。レギアの居場所を探し出す事に決めたのであった。

それからレイティアとの話を終えた僕達はレイリアの家に帰る事になったのだが。その際にレイリアが僕に耳打ちをして来たのである。その内容は今回の作戦をレイティアから聞いた僕とレイリアが二人っきりになれるよう取り計らってくれるというものであり。それを素直に感謝しながら僕は彼女の家に帰宅することになった。そしてレイリアの家に着くなり彼女は少しだけ疲れたからと言って、レイリアの部屋に行ってしまった。僕も彼女の家に入りたいと思ったのだが、彼女の部屋に入る許可がまだ降りておらず。僕は一人でレイリアの自室で待とうとした。

そうして僕はしばらく時間が経つのを待つのだが一向に戻ってこない。その事を不思議に思い、彼女の部屋の扉の前で立ち止まっていると、急に背中から抱きしめられた感触を覚えると、そのまま強引に引き寄せられる。その事に驚いた僕は振り向こうとすると、僕の背後では頬を赤く染め上げたレイティアが僕を後ろから抱き寄せたまま僕の事を強く求めてくるのであった。

そんな状況の中、彼女の口から発せられた声はとても小さく僕の耳元でそっと呟くように話しかけて来たのだ。その囁かれた言葉を聞いた途端に僕は背筋にぞくりとしたものを感じたが、そんな僕の様子に気づいたのか彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら僕の耳を食むのであった。その行動は少しばかりやり過ぎだったようで、僕の体にはレイティアにつけられた跡がくっきり残っていたのである。それを見たレイティアは満足げにしていたが。その行為が少し恥ずかしかった僕はレイリアに助けを求めるのであった。しかしその時、既にレイリアの瞳の色は普段のものとは違っており。その事に対して困惑しながらもレイリアのされるがままになってしまうのだった。その後レイリアはようやく落ち着きを取り戻すと、今度は普通に接することが出来たので。僕とレイリアはそのままレイリアの自室に向かい、今日起きた出来事についてお互いの事を話し合うのである。すると、そこで僕は彼女の身に異変が生じていることに気づき。その事が気になって彼女の方を見ると。レイティアから受け取った指輪をじっと見つめていた。その光景は僕が彼女の体に憑依してからずっと見ていた姿だったので僕はレイリアに声をかけると彼女は我に帰ったような顔をした後、いつものように微笑みながら話し始めた。しかしその会話の中でレイティアと恋人同士になったことを伝えると、彼女は寂しいそうな表情を見せる。

そんなレイティアの様子を見た僕は彼女に近づき彼女を優しく抱擁する。するとレイティアは僕を抱き返してくると涙を流し始めた。その姿に僕は戸惑いながらも。泣き止んでくれるまで彼女のことをしっかりと抱き締めていた。

そして、僕がレイティアを慰め終わった頃、レイティアが僕にある事を伝えてくれた。その言葉は、僕達が学園に入学を果たした際にレイティアと共に行動をして欲しいというものだったのだ。その提案の内容には流石に僕も戸惑ってしまうと。彼女はそんな僕の反応に対して、その理由を説明してくれる。どうやらレイティアはその女性の正体に勘付いているらしく。彼女がレイティアを狙っている可能性があるらしいのだ。その事からレイティアのボディーガードを任せたいというのが本音なのだが。その女性は相当に強い相手らしくレイラですら勝てるかどうか怪しいというほどの実力を有しているらしい。

そんな事を聞いてしまった以上、断ることもできず。その件に関しては了解すると、その事で僕は気になっていた事を尋ねる。何故、そこまでレイティアは彼女に対して警戒しているのかを尋ねると、彼女は昔お世話になった人に迷惑をかけたく無いからだという。

その言葉の意味を理解してしまった僕はその女性がどれだけ危険で厄介なのかを実感すると、その女性のことを探ることにした。しかしレイティアは自分から調べようとしない。その行動に対して疑問を抱いた僕はどういう意味なのかわ聞くと、その行動こそが相手にバレてしまい。こちらから接触を図る前に気付かれてしまうからだと言っていた。

その話を聞きながら、僕がもしその相手が敵に回るとしたらどういった存在なのだろうかと考えるが。すぐに考えをやめる。考えてみてもその相手の人物像がまったく掴めなかった為だ。ただ、それだけ強いということは確かなようだが、一体何を目的にしているのかは不明だったのである。

そうして話し終えた僕達はお互いに明日は頑張ろうと誓いあうと、それぞれ別々の寝室に戻ることにする。その際、僕の事を心配してくれるのか、レイリアの方からもレイティアによろしく言っておいて欲しいとお願いをされた。その事に僕は何も返さず黙って首を縦に振る。するとその様子だけでレイリアも何かを察したように何も聞いて来なかったので助かった。そうして僕が部屋に戻っていくと。ベッドの上には既に眠っているセドリックの姿があった。

「あいつ寝るのはっえぇよ」

彼の寝付きの早さに驚いてしまい、ついつい呆れた顔をしてしまう。そしてこのまま眠るのはなんだか勿体ないと思い、彼には悪いとは思うのだが。僕は少しの間彼を観察することに決める。

(しかし、よく見るとこいつは整った顔してるな。てか女顔だし)

そう思いながら、彼が寝息を立てている姿をじっくり観察するのであった。そのせいで寝不足気味になるのはまた別のお話で。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

*

* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

次の日。目が覚めた僕は昨日の疲れがまだ取れていなかったようで体がだるかったが。それでも自分の意思を振り絞るようにして体を起き上がらせる。それから身支度を整えてから部屋の扉を開けるとそのタイミングに合わせて、メイド服を着こなした女性が姿を現すと、彼女は深々と頭を下げてきた。

その事に驚くも慌てて僕も頭を下げられたので慌ててしまう。その行動について、もしかすると僕達よりも先にこの城に住んでいる人間がいるのかと思ったが、すぐにそれはないと結論を出し。目の前の女性に挨拶を行う事にした。

その言葉を受けて女性は再び深くお辞儀をすると。僕は彼女と自己紹介を済ませる。名前はミレーネと言い、この家の執事長を務めているとのことで、その証拠として腕章のようなものを見せて来る。僕はその光景を見て感心するが、同時に違和感を覚えた。それはこの屋敷の大きさに比べて、明らかに人の数が足りないのだ。僕はそのことを不思議そうにしているのに気づいたミレーネは少し考える素振りを見せた後に。僕を別室に連れて行って説明してくれることになったのである。

その移動の最中、僕は部屋にあった鏡を眺めていたが、改めて見た僕は思ったより成長していた。そのことに驚きながら歩いていると。ふいに、僕達がこれから会う人物がどれほどの力を持った人物なのだろうと考えていると自然と緊張してきた。それからしばらく歩くと大きな部屋に案内され、僕達は中に入ると。一人の男性がいたのであった。

「君達が新しい冒険者かな?僕の名前はレイオスだよ。宜しくね」

その人はレイティアと同じくらいに身長が高く体格もそれなりにいい男で。髪の色が白くなっていることから恐らく年齢は僕達よりも上だろうと予想出来る。そんなレイオスは僕達に挨拶を行ってくると、そのままレイリアの部屋に向かって歩いて行ってしまった。その行動について理解が追いつかない僕達であったが。とりあえずついて行こうと思った時にミレーネから声をかけられ。レイティアを起こしにいかなければならない事を伝えられると僕だけがその場に残る。そして僕はゆっくりとした足取りで歩き出し。やがて彼女の部屋にたどり着く。僕は彼女の名前を何度も呼ぶが一向に出てくる気配がなく。どうしようもないと判断した僕は彼女の自室の前まで行くとノックをする。

その瞬間。僕は何故か悪寒に襲われ。すぐさま扉から離れようとするが扉の方が早く開き、扉に寄りかかるような形で立っていた僕の事を、まるで扉が僕を引き寄せるかのように吸い込む。扉に引っ張られるようにして中に引きずり込まれると、そのまま部屋の壁に激突しそうになった時、突然僕の身体が光り出した。僕は何が起こったのか確認しようと目を開けたら視界の隅でレイティアの姿が見え。その事に驚いた僕は彼女の名を叫ぼうとしたが口を開くことが出来ず。

僕の意識は途切れていくのであった。

*

* * *


***

***

『お前が俺を呼んだ奴かい?』

その声は聞こえたが声の主を探そうとはしなかった。だって今僕はとても疲れていたんだ。それに僕はこんな場所に呼ばれたくなんてなかった。でもそんな願いが届くわけもなく。僕の身体に誰かの指が触れた途端。僕の全身は熱くなり始める。それが嫌になり抵抗しようとするが僕の力は弱く。次第に意識を失い始めてしまったのだった。

「んっ、あれここは?」

次に目覚めた僕は真っ暗な空間の中にいた。そんな状況に戸惑うも、とにかくこの場所から抜け出したいと思い動き回ろうとすると急に目の前に人が現れる。その事にも驚いてしまったが、現れた人間の姿を見てさらに驚かされてしまう。

その者はレイティアの仮面をつけており。僕の方を見ると嬉しそうに微笑みながら僕の方を見つめてきたのだ。

その姿はレイティアそのものであり、一瞬だけレイティアが助けに来てくれたのだと勘違いしてしまうほどだった。

だがそんな期待はすぐに裏切られることになる。レイティアの姿をした人物は僕に話しかけてくると、僕の耳元に近づくと、こう囁きかけて来た。

その言葉の内容はとても信じられないものだった。何故ならその人物の言葉は僕の耳にははっきりと聞こえなかったのだ。その言葉が何だったのかが分からず混乱していると、レイティアは楽しげに笑いながら姿を消す。それと同時に僕は夢から目覚めると。そこは自室で。しかも外はまだ薄暗く、時計を確認すると時刻は夜中の三時頃であった。その時間を確認したことで自分が先程までの出来事は全て夢だと分かり。ほっと胸を撫で下ろす。

(良かったぁ~まさか、本当にあんな内容を見る羽目になるとは思わなかったけど。しかし、どうして僕をあんな所に呼び出したんだろう?)

僕は疑問に思うがその事を考えるのも止め。再び眠りに就こうとすると、部屋の扉が静かに開く。そしてそこにはメイド服を纏った女性がおり、その女性はベッドの上で倒れ込んでいる僕を発見する。

その事に対して女性は心配そうな顔をする。僕は大丈夫だと彼女に言うと、彼女は急いで僕の傍に近寄ってくると、脈などを確かめ始める。

「お体は大丈夫ですか?」

「あ、うん」

僕はそんな質問に答えると彼女は安心してくれたのか笑みを見せてくれた。そして彼女は何かしらの作業を終えると、その仕事を終えようとしたのか部屋から出て行こうとするも。その寸前で彼女はこちらの方を振り向くと、こちらの方をじっと見つめて来た。

(なんだろう、まだ眠くて頭がぼんやりとしているからだろうか。なんか彼女がこちらに向けてくる視線の意味がまったくわからないんだけど。僕の顔がそんなに見たいのだろうか)

その事を考えてしまうほど今の僕は眠く。正直何を言われても反応できないくらいの状態だった。するとその考えを読まれたのか彼女は僕の元に歩み寄ると、そっと抱きしめて来てくれ。その際に僕は心地よさを感じながら。再度意識を失う。

(そう言えば、レイティアは無事なのかな)

そんな疑問を抱いたまま。僕は夢の世界に落ちるのであった。


* * *


* * *


* * *


* * *


***


***

朝起きると既に僕が眠る前にいた場所には誰もいなかった。しかし、その代わりに僕が起きたことに気が付いたミリアナがすぐに駆けつけて来てくれると、僕の様子を伺ってきた。どうやらかなり僕の事を気にしているらしく。顔色をずっと見ていたが。やがてその行為に飽きてしまったのか、彼女は僕の事を起こさないようにしながら部屋を出ると、どこかに行ってしまった。僕はそんな彼女を見送りながらベッドの上に寝転ぶと。大きく欠伸をしてしまう。

どうも寝過ぎたせいかまだ完全に寝足りなかった僕はもう少しだけ寝ようと思ってしまう。それから暫く時間が経った頃。ようやく僕は体を起こすもやはり睡魔がまだ残っているせいか目が閉じかけるが、その瞬間。勢いよく部屋の扉が開かれたかと思うとそこから一人の人物が入ってくる。そして入ってきた人物とはミリアナであった。

「もう起きておられたんですね、てっきり今日は起きて来られないと思っていたので驚きました」

ミリアナはそう言いながら手に持っている料理がのっているお盆をテーブルに置く。それからミリアナは朝食の準備を始めるのだが。僕が起き上がっている事に気が付いていないような感じで作業をし始めた為、僕はその事を指摘せずにいると、彼女の背後に近づいたところでやっとその存在に気付いたようで、少し慌てるような表情を浮かべる。それから彼女は僕に向かって謝ると恥ずかしさを誤魔化す為に早口になり。すぐに部屋の外に出ようとする。

「あの、食事の準備が出来ているんでしたら、食堂まで運びます」

「え?あ、ありがとうございます」

いきなりの言葉に驚くがミリアリアはそのまま出て行くと慌てて後を追いかけるが。どうせなら一緒に食べようと提案をしてみる。

僕が提案したその言葉を聞いた瞬間に彼女は嬉しそうにして僕に駆け寄って来るとそのまま抱きついてくる。その様子に驚いたものの。とりあえず僕は彼女を連れて行き、自分の分を持って来てから二人で食事を摂る事にする。

そして二人でご飯を食べた後、部屋に戻って一休みをしている間に今後のことを少し話し始めることにした。といってもまずは現状を把握しないと何も出来ないので情報収集をする事に決めてから行動に移す事にしたのだった。

僕はまずミレーネさんを呼び出す事にすると。昨日の出来事について詳しく聞くために呼び出すことにすると、それからしばらくして彼女は部屋にやって来ると、深々と頭を下げた。

その光景に僕は申し訳なさを覚えながら、僕達のこれからについて話し合うとミレーネはその話し合いに参加してくれて、そのおかげで僕達は今現在、何が必要なのかという事がはっきりし。僕はそれを確かめるべく城へと向かうことになった。ちなみにその際、ミレーネは僕に同行することを申し出てきた。その事を僕も受け入れた事で僕はミレーネと行動を共にすることにした。

そうして僕達は城へと向かい、城の門の前に着くと、そこでは兵士が待ち構えており、その人物を見たミレーネはすぐに膝をつく。その兵士の格好を改めて見てみると鎧を身に纏い剣も装備しており。僕にはその姿がまるで物語に出てきそうな騎士にしか見えなかった。そんな人物を目の前に僕も一応は挨拶をしなくてはと思い自己紹介を済ませると。彼はそんな僕を見てから軽く会釈をしてくれる。

僕はそのことにほっとするとミレーネと別れてから城内に入り。そのまま謁見の間へ通されるのを待つ間暇だったので僕は周囲の人間を観察することにする。そこで目にしたのは先程の兵士だけではなく。他にもメイドや使用人の人達が忙しく動き回っている姿だった。そんな中で、一人だけ異彩を放つ人がいた。それはまるで僕が知るRPGに出てくる神官の服を着ている男性だったのだ。

(もしかしたらこの人もこの国の偉い人なのかもしれないな)

そう思ってから僕はその人の近くに歩いていくとその人は笑顔でこちらに近づいてくる。

「これはレイ様、私めのことは覚えていますでしょうか?」

突然そんな言葉を投げかけられて戸惑いを覚えるが直ぐに答えは浮かんできたので、僕の事を知っている人物なのだと判断してその男性の方に振り向くと小さく首を縦に振った。男性はそれに満足げな表情を浮かべながらこちらの手を取って握手を交わしてきたのだ。その行動に疑問を覚えたものの、特に嫌ではなかったので僕はその手を握り返す。

「私の名はラスターと申すもので。貴殿に是非とも御逢いしたいと願い続けていた身でありまして。まさかこのような場所で貴方様にお目通り出来ようとは光栄でございます。私は貴方の御母上に命を救われた男の一人です」

僕は彼から出たその一言を聞いて驚いた。

(僕の母親を知ってるという事はこの人がもしかして。でも確か母親の知り合いがいると言っていたが、その相手がまさか目の前にいる人だとは思わなかったな)

僕はそんな事を思いながら目の前のラスターと名乗る男性がどんな人なのかを確認してみようと思った。

(さて、どうすればいいかな。正直あまり関わりたくはないんだよね。ただこの人から感じる力は凄まじいし、恐らくかなりの力の持ち主なのだろうと推測できる。それに見た目だけで判断するのは危険だと言うのも知っているけど。だけど、なんだろうこの人を敵に回してはいけないと本能が警告しているんだ)

僕の中の何かが彼に関わらないことは絶対に得策じゃないと言ってきているのだ。なので僕はとりあえず彼が一体どのような人物なのかを知ることから始めようと心に決めると僕は質問をしてみた。

「その節は、僕の為に尽力してくださったとか」

僕がそう告げるとラスターの笑みが一層深いものに変わり。

その表情を見ていたら背筋に冷や汗が出てきて。そして僕は悟ってしまった。もしかしてこの人に下手なことを聞いたのは不味かったのではないかと、そしてそれを口にしてしまったのは間違いなく僕が焦っていたからだと断言出来るだろう。何故なら先程までのラスターの顔は僕に優しく語り掛けて来ていたのに対し。今の彼の顔からは笑みが全くといって良いほど消え失せてしまっていたのだから。そしてその顔を見た途端。体が硬直してしまい、その顔が僕に向けられたまま動く気配がなく。僕自身もその場から動けず、僕はどうすることも出来なかった。そして数秒後にようやくラスターの笑みが復活したことで、どうにか体の自由が戻ってきた僕は思わずため息を漏らしていた。

(やばいやばすぎる、この人の前だとどうしても萎縮してしまう。そして、今の一瞬で確信を持ててしまった。僕じゃ絶対勝てない)

その事を心の中で呟いていると再びラスターがこちらの方を振り向いてくる。

「レイティア王女が貴女のことを褒め称えてましたよ。本当に優秀な方だと、そして貴女の事を自慢の息子だと言っておりましたからね。そしてそんな方が我が国を救い、こうして我々を助けてくれているのですからね、レイティア姫が貴女の事を高く評価しているのは当然でしょうね」

そう言われた時僕はある事を思い出す。それは僕の事をレイティアが自分の子供であると言ったという事に。つまり僕が彼女との約束を果たした以上、僕は彼女の義理の息子という立場になってしまった事になる。その事を今更になって実感すると僕は急に気恥しさが襲ってきて。思わず顔を伏せてしまう。しかしそれを気にする様子はなくラスターは再び僕に向かって話しかけて来た。

「貴公のような若者を娘の婿に選べればよかったのだが、残念ながらその役目を任せる事が出来た男はみな亡くなってしまったから。今度こそ我が娘が結婚相手を探そうと意気込んでいたのに結局その相手を見つける事は出来ず。貴殿は運が良かったようだ」

その言葉に僕はどういうことなのかが気になり。顔を上げようとした瞬間。いきなり誰かが走って来るような足音が聞こえたので僕とラスターの視線はその音の発生源へと自然に向かっていた。その先にいた人物とはなんと僕も良く知る人物。ミリアナであった。彼女はラスターを見るなり深々と頭を下げる。それからミリアナはすぐに僕の元へと駆け寄って来るとラスターの事を凝視し始めて、その事にラスターも疑問を抱いたのかミリアナの事を観察している。僕はその様子を見つめながらも。二人の関係がどうなっているのかを考えていた。

(ラスターという人物とミリアナが面識があるとは思えないし。でもミリアナがあそこまで深く頭を下げたということは、少なくともミリアナにとって大事な人物であることは間違いなさそうだね。それと、二人の間には妙な雰囲気が漂っている。何でこんな空気になったんだろうか?それにミリアリアも僕と同じように困惑した表情を浮かべてるし。どうしてなんだろうか?)

僕はそう考えてミリアリアに聞いてみようとしたが、彼女は僕の腕を掴んで引っ張る。そして何故かミリアリアはその状態でミリアスの元に向かっていき。二人はお互いに睨み合いを始めた。

※ レアとミリアリアの会話を盗み聞きしたミレーネは一人、城の庭にて木の枝を拾いながら考えていた。自分が今まで過ごしてきた人生は決して順風満帆ではなかったことを。むしろ常に不幸の連続だったのかもしれないと、そして自分の運命に絶望すら抱いていた時期もあったが。そんな自分を支えてくれた人達がいなければ自分はきっと生きる希望さえ持てずに。ただ朽ち果てるように生きてきた事であろう。ミレーネは今でもその時のことを覚えている。だからこそ、自分の目の前に突如として現れた少年がとても愛おしく思え、そしてその事に気付かさせてくれたあの子に感謝の言葉しか思いつかなかった。ミレーネがあの時出会った一人の男の子に。そうしてしばらく物思いに耽っていたがミレーネはある事を思いつくとすぐに行動に移した。その事が後になってレアにどんな影響が出るかなどこの時のミレーネは微塵も考えていなかったのだった。

僕達がそうして話を続けている最中にミレーネが突然走り出してきたと思った次の瞬間、ミレーネは深々とラスターさんに対して頭を下げていた。しかもその態度はとても畏まったものであり。その事から察したのだ、もしかしたらラスターさんは僕よりも上の立場にある人なのではないかと。そんな人が一体僕にどのような用件なのかと思いつつも、僕は黙り込みその様子を伺うことにした。そんな時ラスターがこちらの方へ振り返ると、その目線はミレーネの方へ向いていることに気づき。僕はそこでミレーネの方に目を向けてみるとミレーネはなぜか少しだけ怒っているように見えるのだ。

そしてそんな状況が続く中で、僕の方に視線を向けたミリアリアが近づき、僕の手を掴むと、そのまま引っ張ってくるので僕はミリアの後をついて行き、その後ろ姿を僕は見送っているとそこでようやくラスターは口を開いた。

「どうやらそちらのお嬢さんの誤解を解く必要があるみたいですね。しかし私はそんなに警戒するような人物ではありませんよ。これでも私はただの平民でしかなく、ただの商人の息子に過ぎないんですよ」

ラスターは苦笑いをしながらミリアの前に歩いてきてから、ゆっくりとその場に腰を落としてからそう言うとミリアの事を落ち着かせるように微笑みかける。そのことに安堵したのだろうか、緊張がほぐれていくかのように胸を撫で下ろすと。ラスターは立ち上がるとこちらに向き直ると笑顔で僕の方を見ていたので僕は一体何かと思う。

(ラスターさん、一体僕を見て何を思ったんだろう。なんだがこちらの内面を覗き込んでいるような。それでいて何かを探るような眼差し。それにさっきから笑顔なのに目の奥が笑っていないように思えるんだよね。なんでだろ)

僕がラスターのことを観察するように見ていると。彼は僕の方を見ながら何かを考えこんでいる様子だったので。とりあえずここは下手なことはしない方がいいと判断して何も聞かないことにする。するとここでミリアナがこちらの方にやって来て。

「ラスター殿」

「ミリアナ殿も居られたのですか。私にはこの国に貴殿ほどのお知り合いはいなかったはずですが」

「いえ、ラスター殿、私の名は今はレイティアではなく。この国の姫であり、そしてあなたが娘と呼んでいたレイナの母。つまりはレイティアの母親でもあります。そして私の名を知っているという事はかなりの情報網を持っているとお見受けいたしますが」

ラスターの顔色が変わるのが分かった。しかしそれでもラスターの表情は一切変わらずにいた。そしてミリアナの顔はどこか真剣な顔になっており。僕が感じた違和感はこの事が原因なのだと僕は気が付いたのだ。つまりこの人は見た目通りの人ではないという事で。もしかしたらミリアリアが僕の方に向かって走ってきた理由が。ラスターとミリアナの二人に関係していたからなのかと僕は悟った。

「さてさて、レイティア様の義理の母上であられるミリア様の事は知っていますが、貴女が一体どの様な立場の方なのかが知りたいものですな」

「やはりラスター殿も、私と同じ疑問を抱いておりましたか。しかし残念ながら、今はその事は重要ではございません。私が貴公に伝えたいことは、今一度貴公の身分を明らかにしてもらいたいと言う事ですよ」

「ほう、その言葉の意味は?」

「簡単なこと、ラスター殿、貴公のその力、そして貴公の本当の素性を教えて欲しいというだけのこと」

その発言と同時にラスターは先程までの柔和な雰囲気が一気に吹き飛んでしまい、まるで猛獣のように鋭い眼光を向けていた。その豹変ぶりは本当に同一人物なのかと思ってしまうほどで。だけど僕はラスターのその変わりようを目にしながらある事を確信してしまった。それはこのラスターという人物が本当に凄腕で。それこそ僕が勝てないぐらいに強い人物であるということが理解出来たのである。

僕の中でラスターという人物はあくまでもレイティアさんの護衛であって、そして護衛対象を危険な場所に近づけさせないような、そのような印象しかなかったが。ミリアナの言葉を聞く限りではその真逆であると、そして今の彼女からの質問がラスターという人物の正体がどういう人間であるのかを問うものだというのが分かる。(ラスターさんの本性を知りたいと、つまり今のミリアリアの発言はそれを明らかにしてくれと言っているようなものだね)

僕はそんなことを考えている間にも二人は睨み合う状態になっていたのだが。その睨み合いが突然に途切れることになる。何故なら突然、城の門が開いたかと思えば一人の人物が飛び出してきて。僕達の目の前まで走って来たからだ。その人物は僕の事を確認するなりこちらに勢いよく抱き着こうとしたけど。僕はミリアリアに首根っこを掴まれてしまい。その女性は空回りをしてしまう結果になったのだった。

「レイル~!!会いたかった!!」

僕はミリアリアに引きずられながらも、飛び込んできた人物を見ると、その姿に見覚えがあった。それもそうだ、彼女は僕の実の姉にあたる人なので当然だろう。

そういえば僕は彼女に名前しか告げていなかったっけ。でもまさか彼女がここまでのスピードを持って城の中に侵入してくるとは予想出来なかった。その事実に驚きながら僕は呆れ返りながら彼女のことを引き離す。

「久し振りだねオフィア、でもそんな風に僕に会えた事を喜ぶよりもまずすることがあるんじゃないのかい?それにその服装も少し派手すぎるよ。そんな恰好をしてるから城の警備に見つかってしまってたんじゃないのかな?僕に会いにきた事については素直に嬉しかったよ。だって君と再会できたんだから。それは僕も同じ気持ちだよ」

「そ、そうなの!?私にもう一度会うことが出来て、嬉しいと感じてくれているの!ありがとう!!やっぱり私は、あなたの事が好き!」

そう言って、また僕に飛びつこうとするので、今度はラスターが間に割って入り。オフィアのことを押しのけると、それから僕を抱きかかえるようにしてその場から離れて行ってしまった。僕はその様子を見守っていたが。ミリアリアも一緒に来てくれるようで、そのままラスターの後を追うように移動していった。そして僕達がその場から離れていったのを眺める一人の人物がいた。

※ ミレーネはレアが去ったのを確認した後、ラスターの背中を見つめるとラスターが自分に対して何かを伝えようとしているのを、その雰囲気で察したミレーネは彼に視線を向けるとミレーネは小さく呟くのだった。

「私の名前は、ミレーネ。あなたは一体誰なんですか?」

その声を聞いた瞬間、ミレーネの体中が凍てつくような感覚に襲われる。ミレーネの言葉を聞きとる事が出来たラスターはミレーネの方を振り返る。しかしそこにはラスターの姿は存在しなかったのだ。

そして、いつの間にかミレーネの後ろに立っていたミレーネは自分のお腹に刺さっていたラスターの手を見て。ラスターが自分のお腹を殴りつけたのだとミレーネは判断する。しかし次の瞬間にその痛みが嘘であったかのように。ミレーネの腹部に穴が開いていき、そこから鮮血が溢れ出てくるのだった。

ミレーネは自分が死ぬ間際になってようやく自分のお腹を貫通しているのはラスターの手によって作られた刃であると気づく。その事に気が付いた瞬間ミレーネの頭は真っ白になり、思考が完全に停止したが。自分の命はもうじき尽きることに気が付きミレーネは死を悟ったのだった。

「ラスター、一体なぜ、こんなことをしたんですか」

そうしてミレーネは最後にそう問い掛けた後、意識を失ってしまう。その言葉を受けたラスターはミレーネの顔を見下ろしてから答えるのだった。

「さようなら」

そしてラスターはそのままミレーネの前から姿を消してしまった。

※※※※※※ 僕はラスターさんと共に城の敷地内へと入ることが出来たが。それでもまだ警戒を解くわけにはいかないと考えていた。何故ならばこの場にはあの人がいるからである。

(僕の考えが間違ってなければこの敷地内にはまだいるはずだよね)

ただ、僕達はラスターさんの後ろについて行く形で移動をしているのだけど。ラスターさんは特に周囲を気にしていない様子だったが。僕の方から言わせてもらうと物陰に人の気配を感じ取っており警戒を怠らないように心がけた。

(もしかしたら誰かにつけられてる可能性もあるよね)

僕は背後から誰かの足音が聞こえてきたのを確認して振り返り。そこで目に入ってきたのは僕達を見張るように隠れていた人物だったので僕は内心でため息をつく。その人物が何のためにここにいるのかというのはなんとなく予想がついていたので別に驚きもしなかったが。一応ラスターさんには伝えておかなければならないと思った僕はその人影を指さしてから。

「あの人は僕の知り合いです」

「知り合い?それはどう言う意味でしょう」

「この城内にいるはずのない人物、という事でです」

僕は苦笑いを浮かべながらその言葉を口にすると、ラスターはその発言に疑問を持ったのはラスターは眉を寄せてこちらを見るが。僕はラスターの方をちらと見ると。ラスターは納得するようにうなずく。そして僕は目の前に現れたその人物に向かって話しかける。

「やっぱり君はここで待ってたんだね。それにしても、この城に来るまでに随分と苦労したんだろ。その苦労の代償として僕を捕まえられたとか考えてたりしないよね」

僕がそこまで話を進めると、相手もようやく僕が何を言っているのが理解出来た様子で僕の方に向かってゆっくりと歩いて来ると、僕の前に立つと僕の顔を見上げて笑顔を見せてくる。

「やっぱり、私のこと分かってくれてたんだね、私のことが分からないかもしれないと思ってたけど、心配はいらなかったみたい」

「うん。だからさ、どうしてここに来たのか教えて欲しいんだよ。それに僕は君のことを覚えていたけど、どうして僕と会った時のように、姿を変えないの?それとも出来ない事情があるの?」「えっとね、私の本来の姿を見られちゃうとちょっと不味い事になるから、本当はもっと別の方法で君に会う予定だったんだけど。予定外のことが起きちゃったんだよね。まぁ君に会えた事は嬉しいんだけどね。君もそう思ってくれてたのなら嬉しいよ」

その言葉は確かに僕の事を喜ばせるものであったが。今の僕にその言葉は正直いって邪魔なだけであると思い僕は表情を崩さずに彼女の名前を呼ぶことにする。

「久し振りだねルーナ、それで君は今どんな姿なの?」

※ 私が今、どんな姿をしていたとしても彼は特に動揺することは無いだろうと思うが。それでも私は彼にだけは本当の姿を見せたくなかった。私が初めて彼と出逢ったのは私が子供の頃に一度だけ参加したお茶会でのことだ。

私がその時に出会った男性。それが彼の名前でレイルト=ラスターと言うらしい。私は彼と出会うことで初めて異性に対して興味を抱いたのだが。その出会いが運命的なものになるのをこの時は誰も知らなかった。そう、私自身でさえね。だけど運命的なのはここからなのだと後に思い知らされることになる。

それは私の父である、ラスター伯爵とレイルト公爵が話をする機会が訪れた時。父上が突然私を呼び出したのが切っ掛けとなる出来事。

※ その日は父上の呼び出しを受けて。私は王都の屋敷からラスター家まで足を運んでいた。その時には既にラスター家の屋敷に到着しており、門の前で執事が私のことを待っていたのだが。私の姿を見ると突然慌てふためいて門の中へ飛び込んでいった。そんな光景を目の当たりにして首を傾げてしまう。私は普段から身なりに気を付けているのでそんなに珍しい事でもないのだと思うのだが、執事があの様に慌ててしまう理由は何かあるのだろうか。

そんな事を考えながら待っているとその扉が開かれ中から一人の青年が姿を現して、こちらを見ると一瞬だけ硬直した後。私に声をかけて来たのである。

『失礼、レイティア様でよろしいでしょうか』

私はその人物をまじまじと見詰めていると、どこかで見たことがある様な、そう思ったが思い出すことが出来ない。ただ彼が身につけている装飾品はどれも高級なものばかりで。私をここまで呼び出すような立場の人間であるのだろうと判断できるものだった。

『その質問をする前に。私に挨拶をするべきではないのかしら?』

その態度に対して少々不満に思ってはいたが。私も貴族令嬢としての誇りがあるのでそれを我慢しつつそう口にする。

しかし彼は困り顔を見せると頭を下げて謝罪の言葉を述べた後。

『大変申し訳ございません。お嬢様にお見せしたいものがありますので、是非一度私に付いて来て頂けないでしょうか』

私はその提案に違和感を感じたが、私に用があってこの場所に来ているのは間違いなく。私はその男に言われるがまま、彼の案内の元移動することになった。

※ 私はそんな風に自分の身の回りの世話をしてくれるメイドを連れて。その男の後をついて行っている。この男は先ほどから何も喋ろうとせず無口でいるが。しかし道中に飾ってあった花々や庭の植物が手入れを行き届いていることは一目見てわかった。

それだけでは無く、使用人たちの動きに無駄がない。

おそらく彼らは、このラスター家の専属の使用人であろう。だからこそ余計に気になった。

『あなたは、ラスター家の関係者なのですか?』

その言葉を口にした時に、目の前を歩くその人物は歩みを止めずに私の方を振り向いてくると少し微笑むと。

『いえ、私はあくまでラスター家から派遣されている者でございます。それ以上詳しいことは言えませんが。一つ忠告しておきましょう。もし私に対しての疑問を抱くようであれば、私と関わらないことです。貴方の命に関わりますのでね』

そしてその一言を最後にまた歩き始める。

やはりこの者は怪しい、そう思うのだが、何故か悪い印象が沸かなかったのは事実であった。

そしてラスター家の当主に呼び出されているという場所に辿り着いたのだと気づく。そこは城の近くにあるラスター家が所有して居る建物の一つ。その建物の中に私を先導するその男が入っていくのを確認してから。その後に続くようにして建物の中に入るのだった。※ ラスター家の所有している建物を目にするのも初めてのことであり。その建物は私の想像よりも遥かに大きかったのは間違いないが、しかし城に比べると規模的には小さいものだとは判断できた。その建物の中に入るとそこには数名の人間が居たのが確認でき。その中の一人に視線を向けたときに、そこに立っている人物をみて驚きの声を上げそうになったが、寸前のところでどうにか飲み込んだのである。

なぜなら、ラスター家当主である父がそこで立っていたからである。

(一体どういう状況なの!?)

ラスター家の当主がここに一人でいることだけでも異常なのだ。だが更に異常だったのはその場にいる他の人達がラスター家の執事長のオーガさん、そして父の秘書をしているミレアナさん、そしてラスター家に仕えてくれている女性の使用人が数人ほど集まっていた。

(これは一体何が起こってるの?)

そう思っていたときだった。私と一緒に行動してくれていたはずの、あの無愛想な態度を見せていた人物が突然私の前に姿を現すと。私に対して膝をつき、深々と頭を下げるので。

「どう言うことですか?」

「この場において私と、当主以外の者が会話をする事を禁じさせていただきました」

私の問いかけにそう答えた後。彼は私を部屋の奥まで連れて行く。するとその先には椅子が用意してあることに気が付き。私は座れと言うことなのかと勝手に解釈をして、その場所へ向かう事にした。

その途中でラスター家の当主と、秘書の二人とすれ違いざま、目線だけで挨拶を済ませておくと、二人はその場で待機の姿勢を見せたのである。その二人がどうしてそこで立ち止まったのかと疑問にも思ったが。しかしそれもすぐに忘れることにした。何故なら私の目の前にはラスター家の当代当主と思しき男性が私を出迎えるように待ち構えていたので、それを忘れさせるほどの衝撃を受ける事になった。

そう、それはラスター家当主、つまりはラスター伯爵の姿を見て驚いたわけだ。その理由はこの国でも一二を争う名門貴族の、その当主の外見が全く別人に見えていたからである。ラスター家の家紋が入ったローブを身につけており。その紋章を見てみれば間違いなく本物のラスター家で有ると理解させられる。その紋章は本物で、その人物が本物のラスター家であることを証明してくれたが。

しかし、私はこのラスター家に養子として迎え入れられたが。その前は一度もラスター家と縁もゆかりも無い人物のはずだが、ラスター家は私に対してなんの疑いも持たなかったのだろうか?それにその服装についても理解が出来ないが、今はそれは置いておいてもいい。問題はなぜ私の前に現れたこの男性、この人物こそが私の実父であるというのである。

その事を改めて考えて見ると、本当に不思議なことだと思う。私がラスター家に養子に行く際に。父上からラスター家について聞かされたことが一度だけある。それは私の父は平民の出身であるが。その才能を認められラスター家に引き取られたという事。その際にラスター家の紋章を与えられたという話しである。

しかしその話を聞いた時、私の中で引っかかるものがあったが、深く考えることも無かったのだ。

それが私の父だというラスター家現当主が私の元に近づいてくるとその腕を伸ばしてくるので、私を抱き寄せると、私をまるで壊れやすいものに触れるかのように抱きしめる。

「レイティア、よく来てくれたね。私は君に謝らなくてはならない事がいくつもある」

そう言って泣き出しそうな声でそう語りかけて来るのである。私はそれを理解することは出来なかった。しかし私にそんな感情を抱いている相手は目の前の男性以外にいないだろう。そう考えた時。私はある一つの結論に至るのである。

「もしかして貴方がレイルトなの?」

その言葉に目の前の男性は驚いたような顔を浮かべたが。私はその男性の顔を見つめながら。私はその男の名前を思い出した。

そう、私の名前はレイルト=ラスターであり、私と同じ名前の男性がいるということは知っていたが、私はその存在を気にすることも無く今まで過ごしていたのである。それは私がラスター家の養女になった際、私がラスター家を乗っ取ろうとしていると疑う者が現れるのを防ぐため。私はラスター家の次期当主の娘と偽ったのでそのせいだと思う。その所為で私の身内になる者達にすら本当の名を伝えることが出来なかったのが理由となる。そのおかげで今迄過ごして来た私なのだが。今になってその事実が判明すると同時に。

目の前の人物こそ、私の本当の父親なのだということに気付かされるのであった。※

「その通りだよ、私の名前は、そうだね。ルーナと呼ぶ事を許してあげよう」

その名前を聞いてようやく、私の目の前に現れた人物、この男性の事を思い出す事ができた。この人こそがラスター家の先代、私からして言えば祖父にあたる人物であり、その人は、かつて勇者パーティーのメンバーの一人だった人物。そう、私の祖先、ラスター家の当主である人物。レイルト=ラスター、その人だった。

そしてその人の言葉を聞けば納得が出来ることもあったのだ。

その昔、ラスター家がここまで栄えるようになったきっかけは、この人にある。その人も勇者の仲間だった人物で。しかし魔王との最終決戦で命を落とす事になるのだが。その時の魔王はあまりにも強く。勇者たちは全滅してしまったのである。

そうして世界を救う存在を失ったことで人々は絶望したのだが。そこに現れたのが当時ラスター家で働いていた一人の男で、彼はその身に呪いを受けてはいたが、しかしそれでもなお戦い続けるその姿に人々は希望を取り戻していった。そして彼は見事、世界を救ってくれて、その後は隠居生活に入るはずだったのだが。その彼が残した子孫の一人にその力が発現したのである。その者は歴代最強の力を受け継ぎ。更にはその男は英雄の力を受け継ぐことができた。しかしそんな力を扱える者は一人もおらず、その力は闇に飲まれてしまったと思われていた。しかしラスター家はその血筋を守り続けていたのだった。しかしそんなラスター家に突如、悲劇が襲い掛かる。それが私というラスター家の直系の人間でありながらラスター家を名乗ることを許されない立場の存在であるのである。それはラスター家の当主がその能力に覚醒しなかったことと関係があるのだと私は聞いていたが――。

私はその話を聞かされたときにその話しを詳しく聞こうと思ったが。しかしその話はそれ以上聞くことができなかった。なぜなら、私が目の前にいる実の父親の姿を見るまでは、私自身も自分がラスター家の直系の子孫であるとは信じきれなかったが。しかしこの姿を目の当たりにしたときに、もう何も言い訳できないと悟ってしまう。その人が着ている服の胸元、そこに存在する紋章を見てみれば、その人物は紛れもなくラスター家の血を引いた人物であったからだ。その胸にラスター家の紋章が存在していたからである。

(そうだったんだ)

その真実に気が付くと同時に。私の中に眠っていた何かのスイッチが入ると。私の身体の中から溢れ出すように魔力が湧き出してくるのを感じる。そしてそれと同時に私の中にある、その膨大な力に意識を向けることが出来た。私は、この力を使うことができると理解したとき。私の中の、本来の力が目を覚ますことになる。

その瞬間に、私は、自分の中で何かが変わるのを感じた。その感覚は間違いではないとすぐに理解できるほどの変化が訪れたのである。そして私の瞳は紫色に変化する。この変化が起きた理由はただ一つでしかない。私の体に流れるその魔族の因子が反応したのだと言うことがすぐに分かる。

だが私はそれに対しても冷静に対応することができる。私は既に、自分の体の中に存在するもう一つの人格を受け入れているのだ。だから私はもう一人の私、ダークサイドに対しての疑問を持つことは無かったのである。その事はもう一人の私も同じだったらしく、その事を確認するために私はその事を問うことにした。

「私の中に入っているあなたは、ラスター家当主であるあなたの意思を、受け継いでいるのですよね?」

そう、ラスター家当主が私の前に立ち、その手を伸ばした時、ラスター家の当主である彼の手には確かに、あの時私を助けてくれようとした時に、あの女性が握らせていたあの杖を握っていることが分かったので。

「そうですね、私はあなたのお父様、ラスター家の現当主の意志を、受け継いだのかもしれません。そうです、私はあの時、ラスター家に保管されていたあの剣に触れたことによってこの世界に転生しました」

そう答えてくれたことに私は納得することができた。そう、その人物もまた、私と同じく、前世の記憶を持った存在、この世界で生まれたわけではない別の世界の記憶を持ち合わせている存在であったと知り、そしてその答えに私は確信を抱くことが出来たのである。その人物こそが、私の前世であり、私が前世から引き継ぐことになってしまった魂の持ち主であり、この世界で私と同じ境遇にあった女性である。つまりは前世の私の、親友と言っていい人であったのだと―――。その事に気が付いた時。

私は自然と涙がこぼれ落ちたのである。それは嬉しかったから。

私は、彼女の生まれ変わりとして。ラスター家の現当主の娘である私にこの世界の理不尽さが牙を剥いたのは運命かもしれないが。しかし私は今、幸せだ。

そう思うことができて良かったと思えるのだ。

※ ラスター家の当主としてこの世界に君臨していたルーナは、今目の前に立つ娘の姿を見て驚きを隠せなかった。

彼女はラスター家の現当主として、レイルトと言う偽名を使っていた娘と会う機会は無かったが。彼女がラスター家の養子に入った際。一度面会をしたときに見たときから一目見て惹かれた存在で有り、その後ラスター家の後継者問題に関して色々と面倒ごとに巻き込まれると覚悟を決めていた。しかしそんな思いは見事に外れてしまい。後継者問題で悩まされることはなく、むしろその逆だったのである。

ラスター家の当主となった自分は、ラスター家を守る為ならば、例えこの身を差し出すことも躊躇しないつもりだった。そう思っていた。その気持ちが伝わったのかはわからないが、しかし、彼女に対してその意思を見せると、レイルトはすぐに理解してくれたのか、この家に婿を取ると宣言してくれたのだ。そうするとレイルトも、ラスター家の養子であると周囲に認めさせることに成功したわけで。

そうしてラスター家の未来は守られたわけで有るが。その反面で、ラスター家の中で争いが起こることになったのは、言うまでもない。それもレイルトに対しての不満の声が噴出したわけである。レイルトは優秀な人間であったが、その優秀さゆえに、他者からの嫉妬を集めてしまったのが、その原因であった。ラスター家でも当主の座を巡って、内部分裂を起こす寸前まで追い込まれていた。しかしそれはある出来事がきっかけで、収まる事になるのである。

その出来事というのはレイルトが突然行方不明になり、ラスター家の現当主の座を降りて行方知れずになる事件が有った事から始まる。そうなった原因は今でも不明である。ラスター家の当主であるはずの人物が亡くなった以上、残された者達はその座を巡り、またも争うことになりそうだったのだが。それを止めたのがレイルトの妻であった。元々レイルトは、妻以外を愛していたわけではなく、あくまでもラスター家の当主としての役目を果たす為にレイルトと結婚し、レイルトもその事を了承し。そして結婚した後は互いに仮面夫婦を演じ続けていたのだが。そんな関係を続けていたのにも関わらずレイルトが姿を消した事を知り。その事で妻の心に大きな変化が生じたらしいのである。

そしてその事が切っ掛けで、レイルトの妻はラスター家の内部抗争を終わらせるための生贄に選ばれ、その身に封印されていた悪魔を解き放ち、そして自らの命を断つことで、自らの存在を世界そのものの消滅させようとしたのだが。それは失敗したのだ。その女性は死んではいなかったのである。しかしその肉体は、その命と引き換えに消滅したことは間違いないのであるが。それでもまだ生きている。それがラスター家の内部に残っていた、僅かな生き残り達によって確認され、その情報を聞いたレイルトの嫁は、自ら命を絶ったことで、その命を失ってしまう。その情報を耳に入れたレイルトはその事を知るとすぐさま行動を起こそうとした。それはラスター家の最後の一人を救う為だったのだと思われる。

しかし、それを止めるものが現れることになる。その者はラスター家の末裔の一人だったのである。ラスター家の末裔達はその存在を世間には隠し続けていたため。その一族の存在は、その時代では誰も知ることはなかったはずなのに。その存在が現れたという事はレイルトの妻はその存在について、その家族に話をしていた可能性があるということだ。何故ならレイルトのその動きを止めようとした者の存在というのがそのレイルトの奥さんの弟なのだということが判明したのである。そして奥さんの弟がそのラスター家の直系の子孫の一人であったことから。彼は自分の妹とその孫を守るために動いたのだろうと考えられるのであった。そしてその二人は今も無事なはずだが。もしも彼らが命を落としてしまうとラスター家は滅んでしまうのである。そのラスター家を滅亡させないようにと願うその一族の人達の考えが、結果として、この国の滅びを食い止める結果となったのだった。そしてその行動が結果的に、ラスター家がこの国の中で一番力のある組織に成長できたという要因に繋がっているのである。ラスター家は、この国のトップの組織の一つにまで成長したのだった。しかしラスター家の勢力が大きくなると、今度はそれに反発する者が必ず現れる事になる。それは仕方のないことだったのであろう。だからと言って、この国のトップに位置する組織の人間たちが。表立って敵対できるほどの力を有しているわけではなかったのだ。その組織は表向きはラスター家に逆らうことは無い。それは絶対的な権力を持っているがゆえのことだったが。しかしその組織も決して一枚岩ではなく、裏側ではラスター家に反感を持つ者が密かに集まり始めていた。そう言った存在は、次第に大きくなり、その影響力を大きくすることに成功して、遂にはこの国が誇る最強部隊である、騎士団にその対抗意識を持つまでに成長することになる。

その結果、ラスター家と騎士国家は対立することになった。そうしてその争いは次第にエスカレートしていき、ついには大きな戦争に発展してしまったのである。ラスター家の現当主の娘が殺されたことによって。その恨みを晴らすためにと騎士団の団長がそのラスター家の跡取りを暗殺しようとしたことにより。両者の衝突が避けられない状況になったのだった。そして両陣営の衝突が始まったのである。その戦いに勝利することが出来たラスター家は勢いを増していくことになる。しかし騎士団の暴走によりラスター家は敗北した。そしてラスター家はその領地の大半を失い。この国にその勢力を取り戻すこともできず。事実上壊滅状態に追い込まれることになった。そうすることでラスター家は弱体化したが、それと同時に他国に対する牽制の力を得ることが出来たのである。そしてその後。残ったわずかな勢力が集結することによって一つの勢力が生まれることになる。その勢力をラスター家残党軍と呼ぶようになる。その力を持ってすれば再びラスター家の領地を取り返すことが出来るのではないかと考えるようになり。ラスター家の血を継ぐ子孫達が力を蓄え始めたのである。その力をさらに高める為に、この世界に転生した私ともう一人の私の力を取り込んだ。そしてその私達の力が強大だったこともあって。その私ともう一人の私が協力をしてくれたおかげでこの国は立ち直り始めることに成功するのだった。

「レイルト殿、貴方には感謝しています」

そう言いながら目の前に現れた男性に対してお礼を言うことにしたのである。すると彼は驚いた顔をしながらも微笑んでくれていた。私は彼の事を信用していた。だからこそ彼にだけは全てを明かしておこうと思ったのである。

「あなたなら信じてもらえそうですね。私は、あなたのお父様がお亡くなりになってから。あなたのお母様の魂をその体に封じ込めた張本人なのです」

そう私は自分の口から真実を告げることにして、その話を聞かせることにしたのであった。そう、彼が本当に信頼できる相手なのかを見極めるために。私にとってこの世界の人間は皆同じに見えるので有る。なぜなら私自身がそういう風に見えているから。だけど彼は違うのだと感じ取っていた。

その証拠に私を見る目付きが違っている。私の姿を映しても何も変化しないから。だから私は彼を信じることができたのだ。だけど私の言葉を聞いたレイルトがどういった表情を私に向けてくるのかはわからないので少しだけ怖いと思ってしまっていた。しかしそんな心配はいらなかったみたいで。彼は私が思っている以上に大人な人物で。

「そうか、君はやっぱりこの国の生まれじゃなかったんだね」

私に対して優しく語り掛けてくれた。私はその事に心が暖かくなっていく。それは久しく感じることの無かった人の温もりを思い出させてくれたような感覚を味わい。思わず私は涙を流してしまったのだ。そう、私の目の前にいる人は私がこの世界で初めて出会うことができた本当の人間であり。その人と出会えただけで幸せを感じることが出来ていたのである。その幸せがいつまでも続けば良いのにと私は願いたい気持ちになっていた。でもその幸せが壊れるときが来るのもわかっていて。それはもう間もなく訪れるのである。

その前になんとかしたいと私は考えていた。しかし今の私は、前世のように戦うことはできない体になっていて。レイルトにこの世界が今危機的状況に追い詰められていることを話すことにする。しかしレイルトが今すぐに動けば。最悪の結果は免れることは可能だと思う。だがそれも、その代償としてこの世界そのものの崩壊を引き起こしかねない行為だと思っているので、それをお願いする事はできないのであった。そうして、その事を話終えると。

レイルトが私に協力してくれることを約束してくれたのだ。その事で私はとても安心した気持ちになると同時に。レイルトに甘えてはいけないと思うようになっていた。

レイルトが居なければ間違いなく、この世界は滅びることになるからだ。そのレイルトは自分が犠牲になっても良いと考えている様子だったので、そんなの駄目だと考えるようにしたのだった。

そんなことを考えていると急に眠気が襲ってきたのだった。それは今まで忘れていた疲労感が再び襲いかかってきていたせいでもあったが。それ以上にもしかしたらこれがレイルトとの別れになるかも知れないと感じたのだ。レイルトと一緒に過ごすことができなくなると考えたら悲しさに襲われてしまうのであった。それでも私は最後まで抗おうと思い、レイルトに迷惑を掛けない為の方法を考え出すことに成功したのである。

まずは私の存在を隠す為に、一時的に記憶を操作する能力を使う事にする。それを使えば、ラスター家の当主である私がレイルトの屋敷にいたと言う痕跡を全て消し去ってしまう事ができるはずだった。そうやってラスター家の当主を別の場所に住まわせれば、ラスター家の生き残り達の動きは沈静化するはずである。後はこの世界の未来の為に出来る事を考える。

それはレイルトとレイルトが守りたかったもの。そして、この世界を守りたいと考えてくれている人たちが協力して世界を平和にしていくように努力してもらう必要があった。そのために私は自分が出来る最善の事を行うつもりなのだが。その途中で邪魔が入りそうだと、その時の直感で感じ取れていたので、事前に手を回しておく必要があると思っていたのである。だからそれをレイルトに伝えることにすると、レイルトは快く了承してくれたのだった。

ただそれだけだとレイルトに迷惑がかかるかもしれないので、他にも手を打つ必要もあると考えていた。そこで思い付いたのが、私の中に存在している別の人格の私をレイルトに憑依させる方法だった。これはこの体が元々レイルトのもので有った時。つまり私が初めて目覚めたときに行っていた事でもあり。それが成功したのであればレイルトの体を乗っ取る事が出来るはず。そう考えると、その計画を実行する為の準備に入ることにしたのである。ただそのためには時間が必要だったのだ。

だからその準備ができるまではレイルトと一緒に行動することが必要になって来ると。私は判断していたのである。それに、この体はレイルトのものだと言う事は変わらないのだけれども。レイルトの精神を私の精神と同調させる事ができれば。それは私の体を操っている状態に近くなるはずなのだが、その方法が思い付かなかったのである。それならいっそ、私の中にレイルトが封印しているもう一人のレイルトを呼び出してしまえば良いのではないかと考えるに至った。そして私はそれを試みることにする。

そしてその方法は見事に成功し。そのレイルトは、私が求めていた通りの力を持ったレイルトであったので。彼を仲間に加えることができたことは良かった。そしてそのもう一人のレイルの力は想像以上で、私の体の中の魔力量がかなり増えてしまっていた。これで私の目的は達成できたと言えるが。しかしそうなってもまだまだやるべきことが残っていると。

「これから私は何をすればいい?」

そう尋ねてきたのだった。私はその問いかけに。

「貴方には貴方の目的に従って行動して欲しい」

「俺が求めるものはなんだろう」

「貴方のその力で、ラスター家が残してきたものを蘇らせることです」

そう言うと、もう一人の私の顔が嬉しそうになった。それで私は、もう一人の私が、この世界に残したラスター家の再興を心から望んでいるのだという事がわかる。それはもう一人の私の悲願なので有る。

「貴方の力が必要なのです」

「俺は君のために生き続けるよ」

そう言ってもう一人の私は私の中へと戻っていくことになったのである。私はそのもう一人の私に感謝をしてから、ラスター家の再興を果たすための戦いに身を投じる決意をした。

レイルトはラスター家の復興を目指して行動を始めたのだが。そう簡単にはいかなかったのである。なぜならラスター家は国で一番大きな組織で有り、それに反旗を翻そうとする勢力がそう簡単に出てくるわけがない。そしてその勢力が、騎士団に対抗意識を持っているという時点でラスター家を滅ぼすことが出来るだけの力を蓄えてしまっている可能性だって考えられるのである。だから私は騎士団に対抗する戦力を集める必要があり、その力を持ってすれば騎士団を倒す事も不可能ではないと考えていたのであった。

その目的を遂行するために、私は自分の力を使い。ラスター家を裏切った人間を探すことにしたのだった。それは、仮面の力で自分の姿を変えることができ、なおかつラスター家から逃げ出せるような存在を見つける為に、色々な場所を回り、そしてようやく見つけ出すことに成功していた。そうして見つけたのがその男性であり名前はルーグと名乗ったのだ。彼は私の顔を見ても何の変化も無いようだったので、私の事を受け入れてくれるような存在であると思ったからこそ。彼に話しかけることにしたのである。その結果、彼が信用できそうであるということと彼の目的は私と同じで有ることがわかって安堵する事ができていたのであった。

そんなこんなでルーグと共に行動することになることになったが。ここで一つの問題が浮上していた。

「どうして、僕の名前を呼んでくれないんだい?僕は君の事をずっと前から知っているんだよ?」

(そう言われても、私はこの体の所有者であって、今の私とは別人だし。この世界で生きることを決めたから名前も変えることにしちゃいましたからね。今更昔の名前を呼ばれるなんて気恥ずかしいんですよ)

私はもう一人の自分にそう告げられた時に、確かにその名前を呼ぶことはかなり難しいと感じ取っていたのだ。なぜならレイールの名前を口に出すのはとても恥ずかしいと思ってしまうのは事実なのである。だからこそ私は別人の名前で通そうと決めたのだけれど、それを伝えると納得してくれていたようである。そしてもう一つの問題は、やはり彼の持つ神具だったのである。

レイルの持つ力によって、彼は私達の敵として認識されたようで、突然現れたレイールは私達の前に現れると攻撃を仕掛けてくる。そしてその力は強大だった。その攻撃をレイレルの結界を使ってどうにか凌ぎきるが、その攻撃のせいでレイルトの命が失われてしまいそうになる。だけど彼は諦めなかった。そして、私にこの体を渡してほしいと願ってきた。私はそんな事をしても無駄だと思いながらも、彼が望むのならば叶えたいと思って、レイルを憑依させたのだった。しかし、それは私を更に苦しめてしまう事になるとは、この時は全く思わなかったのである。

それから私は、この世界を守ることに専念しなければと心に決めると。まずはこの国に存在するダンジョンと呼ばれる魔獣を生み出す塔を破壊する事に決めていた。そうすればこの国に大量のモンスターが溢れる事態は防ぐことができるはずだと考えたからである。そしてレイルトが私についてきてくれたことも幸いしていたのかもしれない。私達が二人で協力してダンジョンを破壊していくことにより、この国は平和を手に入れることが出来たからだ。

だがそれは同時に私とレイルトの関係を大きく変えていくことになる出来事に他ならなかった。それはレイルトが自分の本当の正体を私に明かす事であり。私がラスター家の人間だという事実が明かされることになるのであった。

私は、この世界を守るためにダンジョンを破壊した後はこの世界を守るためにある決断をすることにした。それは私の中にある神剣の力を使うことで、私と私の仲間達だけでこの世界を守ることをである。

そう、私は世界を救う為に、私自身が生贄になることを決意したのだ。そのために、私達は世界中を巡ることになるが。それもその世界が崩壊の危機に追い詰められていなければ不可能な話である。

そして私達が世界中を巡っている間にレイルトは仮面をかぶった人物に襲われることになった。

だがそれは仮面の人物が仕組んだ事で有ったらしく。私の正体を知る前に、私が倒されてしまう事を期待しての策略であった。だが私はその策略を打ち破ることに成功している。それはこの仮面の神器に秘められている隠された機能を発動させてみた結果、私の本来の実力を引き出すことができたのだ。そのせいなのか私は今までにない程に強大な力を発揮し、もう一人の私を召喚することが出来てしまった。それによってレイルトの体を乗っ取った仮面の男を倒していると、そこでもう一人の私を宿したレイルトが現れたのだ。レイルトが来てくれた事に安心すると、もう一人の私から私の記憶を取り戻させてもらうと。私の事を全て思い出したのか私に礼を言うのである。それを見て私はほっとしたのであった。

そう、もう一人の私は、私の目的を知って協力してくれると、共に戦うと言ってくれたのである。そのお陰でレイルトを仲間にすることに成功しただけではなく。もう一人のレイルの持っていた力が使えたので。私はこの世界を平和にすることを目指すことが簡単になっていたのであった。そして私はもう一人の私の事をレイルと呼ぶようにし、私自身はラスター家の当主である自分を思い出すことにしたのである。そうしないと私の中に存在している、もう一人の私の存在を消すことができなかったので仕方がないことでもあった。しかし私はもうこの体に居続けることはできないだろうと思っていたが。その予想は大きく外れることになったのである。

その理由は、レイルに憑依している私と同調することによってレイルの能力を引き出したレイルトの力の影響が大きい。そのレイルトの力の使い方を覚えた私は、この国の国王であるレイルトの兄であるラスタークをこの世界の創造神の信者にすることに成功して、私の目的は達成されていた。その目的を達成することができた私は、ラスター家当主の座に戻ることにすると、そこでレイルと一緒になって、この世界の未来を考えることにしたのだった。

ただそこで問題が起きてしまう。それはラスター家に恨みを持っていた者達の存在だったのだ。それは私ともう一人のレイルトを恨んでいた連中で有り。私はその人達がレイルトを亡き者にするために動くと考えていたので、それを阻止しようとしたのである。

その事がきっかけで私ともう一人の私は対立してしまうが。それでもレイルスを救いたかった。だから私は自分の持っている力の全てを使い、もう一人の私を倒すことを決意したのである。そしてその力を使ったおかげで、もう一人の私を倒すことに成功するが、代償にレイルが犠牲になってしまった。レイルを犠牲にすることしかできない自分に憤りを感じるも、それでも私はもう一人の私を倒したことに喜びを感じていたのであった。

そして私はラスター家の次期当主としてレイルの代わりに王となることを決めたのだが。そこで私は思いがけないことに遭遇する。そう仮面の神様が私の前に現れたのである。

仮面の神々は私がラスター家の当主になることを望んだのだが。それを聞いて仮面の男が黙っているわけがなく、私を殺そうと襲いかかってきたので私はその男をどうにか倒すことに成功した。ただ、その時の戦いで私は意識を失い、そのまま気を失ったままになってしまっていたが。そこに現れた仮面の男をもう一人の私から聞いていたルーグが止めようとしてくれていたようであり、その行動のおかげで、もう一人の私は私の事を助けるために力を使い、もう一人の私自身にも負担がかかる形になってしまい、私は助かったのだけれども。結局私の事を乗っ取ろうとした仮面の男は逃げられてしまい。もう一人の私は、この世界から姿を消してしまっていたのである。

それから私はラスター家を継ぐことになる。

だけど私はレイルトの事も大切にしたいと思っているので、このラスター家の再興という目的を果たすためだけじゃなく。もう一人の私の夢であった、この世界の平穏を取り戻す為だけに行動していくと、私は決めたのであった。

「それであなた達はどうすればいいと思う?」

そう聞かれても答えに困ってしまった。何せその話をされた時には既に私はレイルトから体を返すようにお願いされていて。しかもそのレイルトはもうこの世界にいないのだ。つまり、私はレイレルに取り憑いている仮面の神を倒さない限りここから抜け出すことはできなくなってしまったということである。そしてそれは非常に難しいことだと思うので有った。仮面を被られた状態でその神に会っても私に出来る事は限られているからだ。

だから仮面の神の力を使って何かを成すということは恐らく無理だと思ったのだ。そしてこの国に存在する神具を集めればどうにかなるかもしれないとレイレルに伝えると。彼女は嬉しそうな顔をしていたので。この方法を取ることに決めたのである。

レイルを死なせることはしたくなかったが、レイルがレイル自身の目的の為に死ぬ道を選ぶなら、私はレイルトを見送るしかないと悟って私は涙を浮かべたが。彼は自分のやりたいことをやってくると言い残してどこかへと消えていくのであった。

私は今の状況が理解できなかったが、まずは私を取り込もうとした奴から距離を取ることを優先するべきと判断して転移魔法を使用し。仮面の人物から離れた。そして次に行うことを考えると。この近くに居るはずなので探すことにし、しばらくすると目的の人物は見つかり、すぐにでも戦える態勢をとる。そうして相手が私に気づいていないうちに先制攻撃を仕掛けることにした。だが攻撃する前に相手の姿が見えなくなってしまう。そして次の瞬間には私の背後で気配を感じた。だが振り返るとそこには何もおらず。私は嫌な予感がしたのだ。なぜならば先ほど攻撃を仕掛けようとした時に、私は仮面を被った相手の顔が少し見えていた。だが今のは確実に見えたと思ったのに、また姿が見当たらなくなっていたのである。

「どういうことですかこれは?まさかあの人が私よりも速いとか」

ありえないと思いながらも私は仮面の相手に視線を向けていると仮面の奥にある瞳を捉えた気がしたのでそちらの方に注意を向ける。するとその仮面に隠されてある口元の動きが気になった私はよく見るとその動きを読むことが出来ることに気づくのである。

(どうしてこうなったのか教えてほしいんですけど。この子なんなんですか?)

そう言っているように見えたのだ。だけどそれは私だって知りたい事だったので、その声について尋ねることにしたのだ。すると私の言葉に反応した仮面の人物がこちらを振り向くと私を睨みつける。

だが仮面越しに感じ取れた殺気に一瞬怯えてしまいそうになったが、直ぐに気持ちを落ち着かせることに成功し、私達は対峙することになるのであった。そしてその人物と戦う為に構えると。私の体から力が溢れてきたのだ。それは私の中で眠るレイルが私に力を渡してくれたからである。

私はレイルに感謝しながらも戦いを開始することにする。

私からしたら敵であるはずのその存在から、私達を助けて欲しいと言われ、最初は信じられないと断ろうとしたら、仮面の神は、その神が作り出した神具は私の想像を絶するような能力を持っている事を教えてくれたのである。

それは私にとってかなり有益な情報であったので私は神からの依頼を受ける事を決めたのである。

だがそんな事を仮面の神が素直に信じるのかが心配だったが、それは仮面の神も私の話を信じてくれることになり、私は仮面の神と協力する関係になることが決まったのである。

仮面の神はこの世界で起きている異変に気づくことができており。それは私と同じで、仮面の神自身がこの世界へ降り立っていないからだと教えてくれていた。

私はその事に驚きはしたが、その事と仮面の神の言うことが真実かどうかは、まだ判断することができないと思っていたのだ。何故ならば仮面の神の話が嘘ではない証拠を私は見つけることができていなかったから。それに仮面の神様の本当の正体が本当に私の味方であるという証明をすることもできてはいなかった。

それ故に私はこの依頼を受けるべきか迷っていたのである。しかし、ここで悩んでいても意味がないと思った私は、この依頼を受けることを決める。その事が正しかったのか分からなかったけれど、とりあえず今は仮面の神の言葉を信用するほかなかったので、その依頼を承諾することにする。しかし仮面の神の願いはそれだけでは済まなくて、私に、この仮面を貸し与えてくる。そうすることで、私の身体能力が大幅に上がることにもなったのだ。それにより私は更に強くなってしまう。それに加えて仮面の力まで使えてしまうようになると私は仮面の力を使うことにしたのである。

「これがその神器の力なのですね。すごいです。まるで自分の腕が伸びているような気分になりますね。だけどそれぐらいの力を扱えるのはほんの一握りの者だけでしょうが、それでも凄すぎます。これならあの人を追い込むことができるかもしれません。ただ、これだけの力を使えば消耗が激しくなるから注意しないといけませんが、この力は、この私にぴったりと適合してくれています。これほどまでにこの力が私に適した物だという事は奇跡的と言ってもいいでしょう。それに仮面の神様のお陰なのか、この体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じます。これは仮面の力だけじゃないみたいで、もっと強い力が働いているみたいですし、私の中にある、もう一人の私が目覚めようとしている感覚もあります。この調子なら、この力で、仮面の神様の目的を達成できそうだからよかった。あとはこの神の力であの人に私の思いを伝えることにします」

それから私は仮面を身に着けると、私は自分の中のレイルと入れ替わることになる。そして私は自分が持っていた剣を手に取ると、目の前に現れた仮面の人物に向かって駆け出して行くのであった。

仮面を纏う神によって生み出された神具が放つ、力の余波を受けた私はその場に立ち尽くしてしまった。

その衝撃は、今まで私と戦ってきた者たちとは比較にならないほどの威力があったのである。そしてこの攻撃を防ぐ手段を持っていない以上。このままでいるのは不味いと思ってしまい、すぐに私は行動に移したのだ。その攻撃を放ったであろう存在に目を向けるとそいつは既に私に視線を向けていたので慌てて回避しようとする。しかしその時にはすでに手遅れであり。その攻撃をもろに受けてしまう。私は自分の攻撃が通じないことに驚くと同時に。私の放った一撃を相殺できるだけの力を持つ仮面を、私が相手にしていることに恐怖を抱く。そして私も仮面を被ると、即座に仮面を嵌めた相手との戦闘を開始しようとするのだが。私には相手の力を測る余裕がなかったのだ。そして仮面を外した相手を見て驚いた。なぜなら仮面を剥ぎ取ったその相手の姿は、私達の良く知るレイルであったからだ。

私はレイルの姿をしていた仮面の存在の事を、私達の仲間を騙していた偽物のレイルだと勘違いしてしまい、本気で斬りかかるが。私の攻撃を受け止めたその人物は私の斬撃を容易く弾き飛ばしてしまった。

「おい。俺の事を仲間と間違えるなんて酷いじゃないか」

私の攻撃を受けたその人は確かにそう口にしていたのである。だけどその人の声がレイルの声と全く違っていて違和感を覚え、私は戸惑ってしまった。そしてそれと同時に疑問が頭をよぎり。私は一体誰と話しているんだろうと思うようになった。

だがその時の私は何も考えてはいられなかったので、仮面の存在が私を攻撃してきたからだった。仮面の存在は私に向かって何度も攻撃を放ってきて、私の意識はどんどん遠のいていき、気を失う直前になっていたのだ。だが気を失いかけていた私の意識が、誰かが私の事を呼び戻すことで戻ってくるのを感じる。その事に安堵した私は気を失ったふりをしていた。

それからどれくらい経っただろうか。気を失っていた私は目を覚まして起き上がり、周りを確認すると、そこに居たのは仮面の神の本体では無く、レイレルの姿であり。そして彼女は私の姿を見て嬉しそうな表情をしながら話しかけてきたのである。

「大丈夫?」

「はい。なんとか」

「それでどうする?戦う?」

そう聞かれた私は何も考えず反射的に答えた。

「お願いしても良いですか?」

私はレイレルに頼むことにしたのだ。レイレルの力を借りればきっとこの状況を切り抜けることが出来るかもしれないと考えたのである。

レイレルはその言葉を聞いて微笑むと仮面の方に振り返り。私と同じように攻撃を仕掛けた。

その攻撃を防げないと悟った仮面の人物はレイルトに助けを求めたが。私達が戦っている間に神域の外に移動して待機して貰ったため、この部屋に居る人間は私達二人しかいなかったのである。そのため、私達を止めるものはもういないので、レイレが遠慮なく仮面の神に襲いかかったのだ。その光景を見ていた私は彼女が戦えているという事実に喜びを覚えるが、それは次の瞬間に吹き飛ぶことになる。

レイレの攻撃を受けて仮面の人物が苦しんでいたのだ。それもそうだろう。何せレイレットの攻撃は私達の中でもっとも攻撃力が高く、それを喰らえばいくら仮面の神であろうと無事で済むはずが無いと思えたからである。

だから仮面の人物は必死に攻撃を回避して何とかして攻撃に転じようとする。

しかしレイレの攻撃は苛烈を極めていた。私ではレイレがどれだけの力があるのか分からないが。おそらくレイレが本気で暴れていたら、この部屋など一瞬にして崩壊してしまうだろうというほど凄まじかったのである。それほどの力を、彼女は私を守るために見せつけてくれていた。だからこそ私は安心して仮面の神と戦えるのだと心の中で思うと仮面の神に対して、私は自分の持っている最大の力を込めて剣を振り下ろした。その一太刀が仮面の神の体を切り裂き。彼は地面に倒れることになったのである。そして倒れた彼の体からは血が流れ出て床一面に広がっいき。彼が死にかけていく姿がはっきりと見えていた。だけどそこで私は仮面の神が死ぬことを許さない。

この男はまだ生きていると私の本能が告げているのである。なのでこの男の心臓に私は魔法を使ってとどめを刺す。その行為は私にとっても辛いものだった。何故なら私はこれから彼を、その体から引き裂かなければいけないから。だがここで躊躇したら彼に何をされるか分かったものでは無い。そう思った私は剣を抜くとその胸に剣を突き立てるのであった。その時に仮面を貫いてしまって、顔から血が溢れ出てくる。

だがここで手を緩めることは出来ないと思い、更に奥へと突き刺さるまで私は剣を進ませて、最後にその人物の胸を貫き。そこから私は強引にその人を引っ張って外に連れ出した。すると外に出たところで、私達を追いかけて来た仮面の神に止めを差して、それから仮面の神の体に纏わりついていた鎧を、力づくで破り取り、その後仮面の神の肉体と融合させないように私は分離させることに成功する。だがそれは一時的な処置に過ぎないと仮面の神の体が訴えてきていて。仮面の体は今すぐ私の体を乗っ取ろうとしているので私は仮面の体の首筋に、持っていた神剣で攻撃する。その一撃は神格の高い神が作った神具でも耐える事が出来ないほどの切れ味を誇っていた。そのおかげで仮面の首が跳ね飛んだのだ。

私はその仮面に纏わっていた仮面の神を始末することには成功したが。私自身の体の方で問題が起きているのを感じ取ってしまう。それは私の中にあるもう一つの人格が表に出てきそうな感覚があったのである。このまま放っておいたらいつの日か私の体が完全に私の意思で制御できなくなるかもしれない。

それに私の体の中に入り込んだ、この仮面の存在を殺すことができないことも分かっていた。もし殺せたとしたならば、既に私がこの仮面の神の魂を自分のものにすることが出来て、こんな状況に陥ってはいないはずだ。しかし現実ではそうはならなかったのである。それ故に私は、自分の体の事を気にしつつも。神界に戻って仮面の神から聞き出せたことを報告しなければならないと思った。しかしその時。仮面を纏う神によって、私が生み出した神器の力の一部が暴走してしまったようで、私の意識は闇に呑まれてしまう。そして意識を取り戻すと、私は自分の身に何が起きたのか分からなかったが、すぐに自分の体の変化を感じ取ることができた。何故か仮面の力の一部を完全に扱うことができるようになっており。しかも私の中にはもう一人いるのだ。もう一人の存在と入れ替わると私は私と入れ替わることになった。だが入れ替わる前の私はその事を覚えていなかった。

私はもう一人の自分との入れ替わることで、自分が神になったことを知るのである。

神になった私を目の前で見ている人間たちは驚きのあまり固まっており、私も目の前で起きてしまった事実を受け入れられずに呆然としていたが。私は自分がやるべきことがあるのを思い出したので、私は私を取り込んでいた神を殺し。そして神域を破壊してから、私は自分の国に帰っていったのであった。

私が元の姿に戻る頃には。私が仮面の神の身体を奪い取る前よりも。私が仮面の力を使うことが出来るようになっていたのである。その為。仮面の力で作り出せる神の領域の大きさは以前とは比べ物にならないほどの大きなものになっていて、私が神になってから、新たに生み出すことが可能になった神域の数は十個まで増えている。だがその力は以前の私よりは遥かに弱くなってしまったようだ。

私は神となったことで、力を得ることが出来たが。その代わり人としての感情を失ってしまい、私が抱いていた憎しみさえも薄れてしまい。私が抱いている憎悪は全て仮面を身に着けた仮面の神が代わりに抱いてくれたのだ。そのため私は仮面の力を使いたいと思ってもその力を引き出すことができずにいた。

私の目的はこの世界を滅ぼし。この世界の人間の心を私の手で破壊する事だったのだ。だから私の中にいる仮面の神が私の代わりに復讐を果たしてくれる。その事については嬉しいと感じているのだが。私は自分でも気が付かないうちに、心のどこかに寂しさを感じていたのである。その理由はわからないが。きっと私が一人で抱え込んでしまった悲しみが原因だと思っていたのだ。だけどその気持ちがなんなのか、私は未だに理解できてはいなかったのである。

仮面の神の力が解放されたことにより。私は仮面を被らずとも本来の力を発揮できるようになって、その力を振るえば。私の力を知っている者は皆私に逆らうことは出来なくなっていたのである。私は私に牙を剥こうとしていた者全てを力でねじ伏せ。恐怖と言う名の鎖を繋いで行ったのであった。そのおかげで私の国は豊かになり、私の元に多くの人間がやってきたのだ。しかしその中には仮面の神が送り込んだスパイがいる可能性も考えなければならなかったのである。

仮面の神の力と私の力を取り込んだ神を相手では流石に神殺しの刃を持ってしても殺すことは出来なかったらしく。あの仮面の神の気配が一切感じることが無くなったので私は少し安堵していた。

私は神になってからもずっとこの国の王として君臨し続けていたのだ。だけどそのせいで私の国が私の支配下から逃げ出してしまったのだ。しかし私の事をよく思っていない人間はまだまだ大勢存在している。それこそ私に歯向かおうとする馬鹿もいるので、そういう連中の首は容赦なく跳ね飛ばしていたのだった。

そして私の傍に控えるようになった私の奴隷でもある女性に話しかけた。彼女は私が作り出した神器の中でも最高峰の性能を誇る魔剣の持ち主であるからだ。彼女の実力なら私に反逆しようとする者を狩る仕事を頼んだとしても、彼女は簡単にそれをやってのける事が出来るだろう。

「あなたに新しい仕事を与えよう」

「はい」

彼女はそう返事をするのだった。

「まず最初に言っておくけれど、私の敵になる愚か者がまだ残っている可能性があるの」

「それはどのような?」

「仮面の神の力を取り込み、力を得てこの世界を我が物にしようと目論んでいる愚者たちよ」

「つまり、その方たちを皆殺しにしてこいと?」

「いいえ、そこまでする必要はなさそうね」私はこの世界に存在する全ての人間が憎かったが。別にすべての人を殺したいとまでは思っていなかった。そんな事をしたところで何の意味も無いと思っているからである。私は私の作った世界で平和に過ごしていれば良いのだ。だけど仮面の神と手を組んだ仮面の神に敵対する人間は別。私はその者達だけは例外で、必ず排除していかなければいけないのだ。そうしなければいずれ仮面の神と敵対している仮面の勢力に取り込まれることになる。そうならないようにするために、私は私の敵を全て潰していくつもりなのだ。その方が効率よく、私の願いを叶えられる。

「仮面の神の魂の回収を命じます。その命に従いなさい」

「畏まりました」

その言葉と同時に女性は姿を消していった。

私は自分の部屋に戻ろうとしたが、その時扉の向こう側から声が聞こえてきた。

その声の主はどうやら仮面の神が言っていた。仮面の力を持つ者の配下のようである。私は部屋に戻りたいのを我慢しながら、部屋の入り口のところに居座り続け、この城の警備をしている兵たちの対応をしていたのだ。そしてこの城の中には私の力を快く思わない人間も多いため。私の配下が密かに監視を行っており。何かあれば直ぐに知らせるように命令してあったのだ。だが今になってみると、それは失敗だと私は感じていた。

仮面の力を扱う事ができる存在が現れた以上。そいつから情報を得なければならない。何故ならそいつも恐らく仮面の神の配下であり、その目的は仮面の神と同じはずなのだから。それにこの世界に危機が迫っているのならば尚更である。その事が私には分かっていたが。私の体は私の意志に反して動いてくれない。まるで自分の意思とは無関係のように体が動き出し、私ではない誰かが自分の意志を表に出そうとしているような感覚がある。そして仮面の力が私の中に入って来た時。私の頭の中に私とは別の人物の意識が流れ込んできた。

そして私の体を支配しているのは私ではなく、仮面の神である。私は何とか仮面の神の支配から抗おうとしているのに仮面の神はそれを許そうとはしない。このままでは仮面の神に支配されてしまうと感じた私は。急いでこの仮面の力を消し去る必要があった。だけどその方法は一つだけしか思い浮かばない。それは自分の中に入っている仮面の神の魂を取り出すことだ。私は自分の魂を引き抜くための手段を思いつき。実行に移したのであった。すると私の体に異変が起き始める。それは私の体が変化していき、人の形を失おうとしていたのだ。しかしそれでもまだ間に合うと思い、私は必死に抵抗するが、仮面の力を完全に使いこなすことができる仮面の神にはかなわず。私に残されていた意識がどんどんと仮面に吸い取られて、意識が保てなくなり、私は仮面の力を制御できずに仮面の神によって操られていくのであった。

それから私は仮面を身に着けると、仮面の神によって、自分が何をすべきなのかを告げられた。それは仮面の神の言う通り、この世界を滅ぼし、この世界の人間の心を壊すことである。その方法を教えて貰えた私は自分の国にある研究所へと行き。そこで仮面を被りながら私はその方法を試すことにした。その方法でこの世界の人間の心を壊して、私の支配下に置くことでこの世界を掌握することができる。ただその為に必要なものが三つ存在していたのである。その必要なものの内の一つ目が。先程手に入れたばかりの神界への門を開く鍵である。

神の世界に繋がる道を開くために必要不可欠な物であるその道具は。神の領域を作り出す為の鍵でもあり、その力を最大限引き出すためには。その神の領域の管理者の魂が必要となっているのだそうだ。しかし私がそれを手に入れようとした時に邪魔をする者が現れてしまうことになる。それこそが、私の目の前に現れた、あの忌々しい存在。かつて私をこの姿に変えてしまった張本人でもある、あの男の存在があったからだ。奴はこの私に向かって刃を向けるだけでなく、私にこの世界の人間を滅ぼすように指示をしたのである。

当然私はそれを拒絶した。だが私が拒めば私が作り出した神の力で生み出した人間たちを盾にされてしまって、私に逆らう事はできなくなってしまったのだ。その事を知った仮面の神が。私と入れ替わっている仮面の人格を利用して、私とこの男の因縁を断ち斬った上で私を救い出してくれたのである。私は神域の力を使って仮面の神を殺すつもりだったのだが。その力も封じ込まれてしまい。私がどれだけ抵抗しても仮面の神の力から逃れることが出来なくなってしまうのであった。

仮面の神の力から逃れようとする度に私の体は徐々に別の形に作り替えられていって、遂には自分の力さえも自由に扱えないほどになってしまったのだが。そんな状態なのに仮面の神は私の事を優しく包み込んでくれたのだ。それにより私の心を覆っている憎悪の心が浄化されていくようで。とても気持ちが良くなるのであった。そんな状況で私の中の仮面の力が目覚めるのを感じることが出来たのである。

その後仮面の力は目覚めたようだが私の力は失われるどころか以前より増していて。そのおかげか私の肉体はより美しい女性の姿に変わっていくのだった。だけどその姿にはまだ問題があった。どうやら私の中の神の力は神としての存在を取り戻そうとすると女の姿になるらしいのである。私はこの姿になったことに特に問題はないと思う。だが問題は仮面の力を使った時にあった。私の中の憎悪の感情が仮面の力と一緒に仮面の中に消えてしまい。私はその事に対して怒りを覚えている。しかし同時に憎しみを抱くことはもうないだろうと感じているのだ。

何故なら私はあの仮面の男のお陰で。私にとって憎い存在だった仮面の神の事が愛しく思えて仕方がないのだ。私の中に芽生えたその気持ちに偽りは無いと確信している。

そしてその日から私の人生は大きく変わり始めたのである。私はこれからずっと仮面を被った男の妻となる為に生きていくことになるのだから。でも仮面を身に着けた私の姿を見ても、夫は仮面を外して素顔を見せてくれることは無かった。だけど私達は互いに同じ想いを抱いていたのだ。仮面越しであっても。仮面を被っていないときよりも仮面を被り続けている時間の方が遥かに長いという事に。私は夫のことを想っているだけで胸が高鳴り幸せな気分になることができたのであった。そう私は幸せになったのである。だから私の心は満たされていて仮面の力に身を任せることにしたのだ。

「私はあの人が好き。だからあの人ともっと一緒に過ごしたい」

「いいだろう。君の望むがままにすればいい」

仮面の神はそう答えると私の体を自分の方に引き寄せてくれた。私はその事を素直に受け入れて、仮面の神に抱きしめられていたのだった。

私は今自分の国で仮面の王と呼ばれる人物と対面して話をしている最中だ。この人は私の夫である仮面の神と同一人物であると私は思っているが。仮面の神とは違って優しい雰囲気を持っている人物であるため。仮面の王に危害を加えようというつもりは毛頭ない。寧ろ私に好意を抱いている節があるのだ。その理由も仮面の神と同じように仮面が理由だろう。

私は初めて見た時から仮面の神に一目惚れをしたのだ。その気持ちは今でも変わらないが、今の私は仮面の神の妻なのだ。

私は仮面の神と過ごすようになってからは、以前のように自分から何かしたいといった意欲的な欲求が無くなり、今はこうして、ずっと彼の腕に抱き着いている。そんな生活に満足していたのだ。それに仮面の神が私の中に入っている仮面の力を少しずつ取り除いていってくれているため。私は元の体を取り戻すことができていたのである。そして私はこの世界に蔓延る仮面の神の信者たちを一人残らず殺し尽くしていくように命令を下す。

すると仮面の力は私の命令に従順に従うようになった。これでこの国の人間たちは私の奴隷と同じような状態になったはずだ。そうなれば、後は仮面の力を使わずとも、自分の意志で自分の好きな事を出来るのである。私はその日、仮面の神の妻となれた喜びを胸に抱いていたのだった。そして自分の夫が仮面の王の魂を取り込んだことにより更に強くなっていくのを感じていたのである。その事が嬉しかったのか。その日から私は仮面の神の側に居続けることに固執するようになるのであった。それがこの世界で生きている私達二人の本当の姿なのだから。

*****

「それで? どうしてお前達がここにいるんだ?」

俺の目の前には、魔王とリリアナがいた。しかも何故か仮面まで装着済み。

「私もこの塔の調査をする事になったからです。そしてこの塔の中で一番危険な場所は恐らく地下だと推測しています。そのためにも私は貴方の協力が必要なのです」

「何だと!?」俺は突然現れた二人を見て戸惑っていたのだったが。リディアの言葉を聞いたことで、少し落ち着きを取り戻した。確かにこの場所が危険だという話は聞いていたのだし。仮面の神の力の影響が強すぎて地上にいるだけでは分からなかった情報を知ることができるかもしれない。しかしそれはつまり、この塔には何かあるという事なのだが。しかし今更何を言っても、リディアとサーラには伝わらないので、俺は仕方なく彼女の話に耳を傾けることにしてみたのである。

「分かりました。私も協力させていただきますね。それにこの仮面があれば大丈夫だと思うのですよ。この仮面の力はとても強力ですし。これのおかげで仮面の力を持つ人達に対抗できるようになりましたし。私一人でも何とか対処できたので。今回も同じようになると思いますよ」

リディヤの表情がいつもと違って真剣だったために、俺は彼女が本気で言っているということを理解するのであった。そしてサーシャさんは、そんな彼女を心配するように見ていたのである。そして俺は仮面を取り外して、サーシアの顔を覗かせている。しかし彼女は何も反応する様子はなかったのだ。しかし仮面を装着していない時の彼女を見たことがないサーティアンは仮面を装着した時のみに現れるサーシャの顔を見て、動揺した様子を見せる。そんな彼女にサーシアは仮面を付けたままの状態で笑顔を見せてあげている。その事によって、仮面の効果が凄まじく効き過ぎているサーティアンがどういう態度を取ればいいのかという悩みを抱える結果となり。その結果、混乱状態におちいることになるのであった。

俺の予想通りに地下には下に向かう道が存在していて、俺達は仮面の力を使い、下の階層を目指すことにした。この階段の先に一体どんな光景が広がっているかと考えるだけでもゾッとするのだが。仮面の力を使えば、ある程度安全に進むことが可能になるので。その事は不幸中の幸いだと考えるようにしているのである。

この塔の地下に存在する施設は全部で六階あり。一階から四階の探索を終えた段階で分かったことが一つあった。その建物の中には仮面の力を纏う人間が大勢いたのだ。彼らは皆仮面を被り。俺達のことを殺そうとしてきたのである。しかしそんな連中に後れを取るわけもなく。仮面の力で圧倒してしまえば簡単に倒すことができた。この事から考えられることは仮面の力は神域に繋がっている可能性があるということである。神の領域とは仮面の神がいる神域のことであるので。仮面の力さえ手に入れておけば神域に行くことは容易だと思われる。ただ問題としては仮面の力を身に着ける条件に仮面を被らないと効果を発揮しないことがあげられる。それを考えると仮面の神の加護を授けられているサーティス達にこの塔を攻略してもらう方が楽かもしれない。仮面の力を得る方法は神の領域に直接行くしか方法はないみたいだから。

ただ仮面を着けていても仮面の能力を使うことはできないらしく、俺や、この世界の人々が持つ、能力が使えない状態だったのだ。

その為俺達は慎重に進み続けることになる。もし仮に敵に遭遇したら、すぐに逃げ出すことを優先するしかないからだ。それでも一応この世界の人々に通用する程度の強さはあるはずなので、どうにかなると思うが、念のため気を付ける必要があるのである。

五階には巨大な施設があったのだ。そしてそこに大量の仮面の人物たちが存在していたのである。俺はすぐにその場から離れるために走り出したのだが間に合わず。仮面の人物に見つかってしまうのであった。仮面の人物は全員武装しており、明らかに戦うことを生業としている人間だということはすぐに理解する事ができたのである。そして彼らの武器が、こちらに向けられるのを感じた瞬間に仮面の力で強化される前の俺ではどうすることもできないと判断し、逃げることを決断したのである。しかし彼らが仮面の力を身に着ける前に攻撃をしかけてくることはなかった。その事が俺にとって幸運だった。もしも攻撃をされた場合仮面の力と仮面の人格が発動してしまうと大変な事になるからな。

仮面の力は俺にとって制御が出来ないのだ。それを利用すれば、この世界を滅ぼせてしまうほどの力があるから、そんな事態は引き起こしたくないのである。そんな訳で逃げている途中でも、仮面の力で身体能力が強化された状態のままで行動することが可能になっていた為か。この階に存在している者達は全て、瞬殺することができたのだった。だがその事で更なる問題が発生した。なんと、この建物の最上階には今まで存在していなかった大きな空間が広がっていたのである。その空間の周囲にはこの建物の天井が見えないほどの高さがあり。どうやらこの塔は地下だけではなくて地上にも存在していようだ。

そしてこの広大な土地を囲むようにして、沢山の建物が存在しており。この広い場所を人々が自由に歩き回っているのである。まるで街のようなものが存在しているのだ。

その人々はこの塔の存在を知らないのか。それとも知っているが興味が無いだけなのか分からないが。平然と暮らしているように見えたのであった。そしてこの土地の中央には天を貫く程の巨大の塔が存在し。塔の中に繋がる入り口があるのだ。この都市の人々はそんな塔の内部に入ろうとしている人たちに、許可を出すような仕草を見せないのであった。それどころか。彼らの存在を認識しているのかさえ疑わしいのだ。この世界に存在してはいけない存在であるかのように、誰もが無関心な態度をとっているように思える。そしてこの世界に迷い込んできたのだろう仮面の所有者である人物に話しかけると。あっさりと案内して貰えた。この塔を探索して一番驚いた点は仮面の力が殆ど通用しないという点にあった。この世界でも俺と同じような力を持っている者が存在しているということが分かったからである。しかしそれも仕方がないことかもしれない。何故なら、俺のような能力を持つ者がこの国に召喚されて、王城に暮らし始めたのだから、他の国の国王たちが、同じ事をしていても何ら不思議ではないからな。

ただ、そうは言っても、仮面が効かないということは。その国の人々が仮面の信者であるという可能性が極めて高いということになるのだ。

俺は塔の内部に侵入を果たしたことで仮面の力を解除する。それと同時に、サーシアの体に入っているリディアの方の仮面を外す。そしてサーシアがサーラとしての行動を始めてくれたのだ。するとサーティアンの意識も仮面の力が解けたことにより元に戻っていたようで。困惑した顔をしながら、周囲をキョロキョロと見渡している。サーティアンもやはりサーシアと同様に仮面の能力を受け付けないらしいな。俺はそんな二人の様子を確認しながら。この世界で仮面の力を使っていない時に何ができるかを考えているのだった。

俺とサーシアとリディアは三人一緒に行動することにする。仮面の力を持つ者たちを倒せるのはこの場にいる中では仮面の王の力を受け継いだ俺達しかいないので。仮面の王が何処に眠っているのかは未だに分かっていないが。それでもこの国の王城に存在する可能性は極めて高いと考えている。それにもしかしたら神の領域で眠りについている可能性も有るのだ。ただ神域に辿り着くためには、サーシャが言った通り仮面の力が必要になるはずだ。

俺達は仮面の力で気配を消すことができるが、完全に消せたわけではなく。少し違和感を感じる程度の存在になるだけで、何かの方法で俺達を見つけることができるかもしれないのだ。そして仮面の信者と呼ばれる集団から命を狙われている以上、少しでも生存率を高めるために出来る限りのことをする必要があるのであった。

サーティアはサーシアのように素直になってくれればいいのだけどなぁーと思いながらサーティアンの方をチラッと見る。すると、彼女は仮面を付けていない状態のサーティアンが物珍しかったらしく。俺の体に抱き着いて、仮面の上からでも彼女の鼓動を感じられるくらい強く胸に顔を埋めてくるのであった。サーティアンはサーシアより年上なのに甘えん坊なんだと思わずにはいられなかったが。彼女は見た目通りの子供にしか見えなかったので、俺としては別に嫌な気持ちにはならなかったのである。しかし俺は彼女を引きはがそうとすると、今度はサーティアナがサーラの手を掴み、引き離さないようにするのである。そのため俺はこの場で争うのも良くないかと考え、そのままにしておく事に決めたのである。

俺達は塔の中の建物の一つを寝泊まりするための拠点にすることを決める。しかし、塔の中に存在していたこの国は、とても広く、俺が把握できる限界をはるかに超えるほどの大きさだったので。どこで眠るのかは迷ったのだが。結局最初に発見した部屋を利用することにしたのであった。そして部屋の中に入ると、サーティシアとサーシアは疲れた表情をしてベッドに腰掛ける。サーティアンはまだ眠気が襲ってきていなかったみたいで。ソファーの上で座り込んでボーッとし始めたのだ。そんな彼女に声をかけてあげたいと思ったが。俺は何を話せばいいか分からず、沈黙したまま時間が過ぎることになる。しかしそんな中で、俺の前に仮面が出現したのである。この仮面の出現は仮面の神の力を発動する時と同じ現象だ。しかし仮面を身に着ける前に現れるなんてことは珍しいことなので、一瞬戸惑ってしまったが。それでもこの部屋にいる者達の中で。俺が所持する仮面の人格が使える者は、俺以外にいないはずだ。なので、この仮面の持ち主は俺に違いないのだが。

仮面を身に着けようとしたところで、この仮面の本当の所有者を思い出し。俺は仮面を装着する前に、リディアの方を見てしまう。そして俺は彼女が持っている仮面の本当の名前を知っているので。仮面の名前を変更しようと思ったのだが。既に遅いことを思い出してしまったのだ。もう今の状態でこの仮面に名前を変更しても無駄だと思うので。この世界に来た時点で決まっていた仮面の名を使うことにしたのである。俺が自分の意思を反映させることのできなかった仮面の名前は。『アビスシリーズ』という名前だった。

(どうしてだか知らないけど、サーラさんのあの態度は明らかに好意を寄せてくれているという証拠ですよね? だから、私としても嬉しいし。このまま彼と仲良くしたいと思っています)

仮面を着けたことでサーティースになったサーリアは自分の中の気持ちを再確認すると、サーティヤの姿に戻ろうとしたが。ふとその時にサーティラのことが気になってしまったのである。そこで彼女は自分の中にある人格に語りかけることにしてみたのだ。

「サーティヤさんは、サーラさんのことを異性として好きなんですか?」

「私はサーラの事が大好きだわ。だからサーラと一緒にいたいし、彼を守ってあげたいと思っているのよ」

自分の中で思い描いていた質問に対して返ってきた答えを聞いた瞬間。この世界のどこかにいるもう一人の自分に殺意を抱くのである。この女のせいで、自分はサーラとの仲が上手くいかないのだと考えてしまうからだ。

サーリアが仮面を装着した途端に、リディアがサーラトの体の中から抜け出し、本来の人格であるはずのリディアの人格が表に出てくる。

サーラの方も自分が作り出した仮人格であるサーラの方に話しかけようとはしなかったのは。自分の作った仮面の力によって、別人になりきっている状態で。仮面の力を使用しても意味がないと考えたからであろう。

リディアは俺が手に持った仮面を見ると、少し寂しそうな顔をして俺に近づいてくる。しかし、俺の腕を掴むと強引に引っ張っていこうとするので、慌ててしまう。俺も彼女に腕を引っ張られるまま移動していくことになった。その途中で、仮面を外そうとしてくるが。その手を避けることに成功すると、俺はリディアと二人でサーティヤの後を追いかけることにしたのだ。

リディアが仮面を取りたい理由は恐らくだが。仮面の所有者がサーシアになっているため。その所有権を奪い取りたいという事だろう。しかし、それは不可能に近いことだと言えるだろうな。仮面が俺達の言う事を素直に従うはずもないのだ。だからリディアが仮面の所有者になりたいならば、まずは仮面の信者と呼ばれている連中に接触することが先決であると思う。その目的は、彼等の信仰している神の居場所を探るという理由の他に、神器を手に入れるという意味も込められている。

しかし仮面の信者たちは、基本的に、神の領域に入る事を禁止されており。この国の中でも、その存在を知る人間はとても少ないらしい。ただ、神が作り出し管理しているとされる施設や、神殿のようなものが存在しているという噂はあるので。そこに辿り着きさえすれば、この国の王城を簡単に抜け出すことが可能だろうと予測していたのだ。

ただ、その方法には問題がある。仮面の力で姿をくらますのも問題なのだが。サーティアンが俺と手を繋いだままだったせいで。俺はリディアやサーティアンの気配を感じ取ることができなかったのである。サーティアンはリディアと違って。あまりサーティアンとしての自覚が薄いようなのだ。そんな彼女には仮面の力を使ってもらっても、効果が無いのである。しかしそれでも一応、俺はサーティティアをサーティラと呼ぶことで。俺にだけサーティラが仮面の能力を使うことができたのだ。しかしそれでは俺が一人だけ仲間外れになってしまうので。結局仮面の力で気配を消すことができないと分かり、俺達は仕方なく。自分達の足で、サーティアンから俺の手を引いて離れない彼女の手を振りほどくしかなかったのだ。

ただその時に、仮面が自動的に発動したおかげで、俺達は周囲の人々に不審に思われずに済んだのだが。それは俺にとっては嬉しい誤算ではなかったのであった。何故なら仮面を強制的に使用させられたのは、サーラであり。仮面の力を使用している最中の俺の姿を見られたら、確実に怪しまれてしまうと思ったからだ。しかも俺はサーラではない別の人物の仮面を装着していることになっているので余計である。もし仮に俺の素顔を晒してしまった場合は、正体が暴かれてしまう可能性が高いだろうと考えていた。そうならないためにも俺がこの国の人達に見つかるのはまずかったので。俺達はすぐにその場から離れることになったのだ。

サーティティアはサーサのことを見て驚いていたが、直ぐに嬉しそうな顔をしながら、彼女の体を抱きしめて頬擦りをしていたのだ。そんな二人の様子を見ると、俺達はもう完全に部外者となってしまったことを痛感するのである。

「サーシャはやっぱり、あの子の妹だったのですね。まさかこの世界に来ても会えるとは思ってませんでしたが。またこうして会えたことは本当に良かったです。それに、こんなに可愛くて優しい子に育つことができていて。私は姉として誇りに思いましたよ」

サーリアはそう言いながら、サーティヤの顔を見つめるのである。ただ俺としてはサーティリアの言っている言葉は嘘だと思えてならなかったのだ。サーティティアとサーティヤの姉妹の関係を知っているのは俺だけであり。それ以外の者達はこの二人の間に血の繋がりはないと思っているはずだからである。そもそも姉妹関係がバレたのがサーティティアの存在があったおかげだしな。だからこそサーティティに関しては特に気にする必要も無いと思っていたのだが。それでもサーティティアは俺の予想を上回る行動を起こす事になる。何を考えたのか、サーティティアがサーティリアに対してキスをしようとして迫っていったのである。

「お姉ちゃん! 会いたかったんだよ!」

サーティティアの突然の行動を見たサーティアンは慌ててサーティニアを後ろから拘束し、そのまま抱き上げると。サーティシアとサーシアがこちらに視線を向けてくる。そして何故かサーティアンが、サーシアとサーティアンを睨みつける。サーティアンの表情を見ていたサーティリアは何かに気づいたようにハッとした顔つきになった後にサーティリアに向かって話しかける。

「どうしたんですか? サーリア」

サーティアンに抱っこされた状態のサーティアナはそんな疑問を投げかけるのだが。サーティシアとサーティシアはお互いの顔をじっと見合ったあとに無言になるのであった。

私はこの塔の中にいる人々について考えていました。私達のことを殺そうとしてきた兵士は、おそらくは城の兵士達なのでしょうが。サーラさんの知り合いらしきあの二人は誰なのでしょう? サーラさん達の様子からして、あの人達の正体が分からなければ、サーラさんは警戒を解くことが出来ないみたいですね。そしてそんな彼の様子を感じたサーリアが声をかけるのですが。彼は仮面を着けて姿を消してしまう。その姿を見ていた私は驚きを隠せませんでした。なんでサーラさんは急に消えてしまったんですか!?

「リディア、今のサーラの姿が見えた?」

サーティーシアがサーリアに声をかけたので、彼女の様子を確認すると、サーラがいた方角を見据えるように見ており、サーティヤにも同じ質問をしたのでしょうが、やはり同じ場所に目を向けた状態で動こうとしないので。サーラが消えたことが本当だということは間違いなかった。ただ私も気になったことがあるので、サーティシアとサーティーに話しかけることにしてみることにしました。

「えぇ、でもどうしてあの人の姿だけが見えなくなってしまったんでしょうね?」

「分からないわ。ただ言えることは一つだけでしょ? きっとリディアが持っているその力のお陰だと思うけど。それでさっきまで一緒だったはずのサーラの気配は感じられる?」

サーティシアの言葉を聞いた瞬間、先程感じ取れなくなった彼の気配を再び感じ取ることに成功していた。だけどそれが分かったときには、もう彼も姿を消してしまった後でしたが、私はあることに気づきます。それは今の状況においてサーーラという少年は非常に危険であるという事でした。なぜなら彼は、自分が今どういう状況に置かれているかをしっかりと理解しており。自分がサーラという人物の皮を被った別人であることをしっかり自覚していたはずなんです。だから彼が仮面の力を使用したとしても不思議ではありません。しかし、それなら尚更おかしいと思うのが、仮面を外した途端に私の視界から姿を消すという事なんです。だってそうじゃないですか。もしも仮面を外すことが、サーラが仮面を着けていない状態を意味するならば。この場で私が彼を探し当てることができなくなるのに。なぜ仮面を付け続けているんでしょうか? 仮面の信者と呼ばれる連中が仮面を所有している理由は。その力を悪用されることを防ぐ為であると噂されている。そのことから考えるに仮面の力は強すぎるのだと考える。つまりは、仮面の力によって姿を隠そうとも、仮面の所有者であるサーラがその場にいさえすれば仮面は効力を発揮できないのではないかと考えた。

その可能性に気がついた俺は、急いで自分の仮面に手をかけて、仮面を脱ごうとするが。その前に、自分の仮面をサーティティに取り上げられてしまい、俺は仮面を取り損ねてしまうのである。その事に焦った俺は、すぐに取り返そうと手を伸ばすが。サーティティはその手をひらりと避けると、今度は俺の腕を掴んできたのである。俺はそれを強引に振り払うと。リディア達のところに駆け寄ろうとしたのだが。しかしそれはサーティティアとサーティシアによる妨害を受けてしまい。結局はサーティティア達に拘束されてしまったのである。それから暫くするとサーティティアは俺の方を見るなり。少し寂しそうな顔をしてから。ゆっくりと俺の方に近づくと。いきなり口づけをしようとして迫ってくるので慌ててしまう。そのせいで俺は仮面の力を発動してしまうと、サーティティアが目の前で俺の腕を拘束していた腕が勝手に動くのを目にして、驚いてしまい。その隙になんとか彼女から逃れることに成功したのだ。その事に驚いたサーティティは少しの間だけ俺のことを呆然と見ていたが。彼女は慌てて振り返り、サーリアの姿を捉えるとそちらに向かっていったのである。

俺が仮面の能力でサーティリアをサーティラと呼んでしまったので、仮面の能力を使用する事が出来なくなり。俺達は自分達でこの城から脱出する方法を探らなくてはいけなくなってしまったのである。サーティリアのほうを見ると俺の視線に気がついてくれたのか。こっちに来いとジェスチャーを送ってくれたので、彼女の近くに行ってみる。

「とりあえず、サーティアに会えて良かった。もしかしたらリディアは貴方に会いに行くのを渋っていたんじゃないかって思っていたの。それにしてもサーティはどうしてここに来たの? もしかしてリディアもここに来ていたりするのかしら?」

「いえ、サーティティアは一人でこの場所に来たようです」

「そうなの。まぁリディのことだし、私と顔を合わせると色々と聞かれちゃうと思ったから、あえて私をサーティと会わせようとしなかった可能性もあるかもしれないから仕方がないわよね」

俺達はサーティティアと合流できたことで安心していたが。その時、ふとある事を思い出したサーティティアが俺とサーティリアに尋ねてきたのである。

それは彼女が持っていた武器の件であった。その話を聞いたサーティティアは少し難しい顔をした後で、俺に話しかける。

「それについては大丈夫ですよ。実は私が持っていた聖剣が、その武器だったんですよ。サーティラ様のご先祖にあたる方が所有していた物だと聞かされてはいたのですが。その事はずっと昔から伝えられていて、私達は、サーティラ様に代々受け継がれていくものだと思っていたので」

「確かにそうかもしれません。その聖刀も元は私の御父上の形見でありましたから。ただ私のお母さまから受け継いだものでもあったので。そのおかげもあって、私は、あの武器を使いこなすことができたんです。あの時のサーティはまだ小さかったですから、覚えてないでしょうが。私は一度だけあの子と出会っているんです」

サーティティアの言葉を聞いたサーティティアは嬉しそうな顔をしながら、サーティティアの話を聞いていたのである。ただそんな二人の様子を見ていたサーティリアは何とも言えないような顔をしていた。

(やっぱり姉妹だと思ってたんだけどな。見た目的にはサーリアの方がサーティティアよりも歳上に見えるし)

そんな事を考えていた時だった。突然、サーティティアの持っている魔石から通信が入ったのである。

『どうも皆さん。私は現在、魔王軍の一員となりました』

「お姉ちゃん。今の声ってもしかして?」

サーティティアはそう言いながら。魔石の事をサーティティアに向けて見せる。

「えぇ、サーティ。この声の主こそ。お兄ちゃんと敵対している魔王軍の幹部の一人よ。それでこの人の目的はお姉ちゃんの命と、サーラさんの体にあるの。だからこの人から絶対に離れないようにして欲しいんだ。でもサーティ。この人はあなたに危害を加えたりすることはないから安心してくれていいわよ」

サーティリアの説明を受けたサーティティは素直にこくんとうなずくと。サーティシアの後ろに隠れたのである。そのことに安堵したサーティリアだったが。その直後の出来事に驚く。サーティリアの目の前にはサーティリアの顔があり、サーティティアの頬に触れようとしていたのである。

サーティリアのその行動を目にしたサーティは、サーティリアの手を掴みサーティティに話しかける。

「ちょっとおねえたん! ダメだよ! そにゃのサーティにゃんが嫌がっでるじゃん! そういうのをセクハラっていうんだよ!」

サーティティはそう言い放つが。サーティニアはそれを聞くやいな。急に押し黙ると無言でサーティティアを抱き寄せて、サーティの頭を優しく撫ではじめたのである。その様子を見てから。サーティティアが、何が起きたのかをサーティに伝えようとした時に、再びサーティリアはサーティの耳に口を寄せて。小さな声で呟いたのである。

「いい? 今の言葉は決してサーティの前で言っちゃだめよ。もしおねぇちゃんがあの言葉を言われたりしたとしたら、あの子の心は傷ついて二度と立ち直れなくなるでしょうから。それだけじゃなくて。下手したら、お姉ちゃんはあそこに居る子達の誰かに殺されてしまうかもしれないわ」

サーティティアの言葉を聞いたサーティは青ざめた顔になると同時に。何かを思いつめるような顔になった。それからしばらくの間、その場が沈黙してしまうのだが。それを破ろうとする人物が現れる。サーティティとリディアは互いに目を合わせた後で。俺の方を見る。そしてその視線を感じた俺はリディア達に近づいて話しかけることにしたのだ。

サーティシアは、リディアとサーティに抱きつくと泣き始めてしまった。そしてリディア達もそれを止める事はなく。サーティもサーティシアを慰めるように抱きしめたのであった。しかしそんな中でも、俺は一人考えごとをしていた。そのことについて考えているのがサーティの両親についてなのだが。そのことについてサーティシアとサーティに質問してみることにする。するとリディアは答えてくれず。代わりにサーティシアが話してくれる。

「サーティのお母さまはね。とても厳しい人なの。それこそ私なんかが近づけばすぐに怒鳴られてしまうほどに。それに、私が今こうして生きている理由というのも、サーティの両親の命を助けたからというのがあるの。サーティの両親は、ある任務を受けていてね? それを成功させるためにサーティのお母さまに協力を頼んで。それで協力をした見返りとしてサーティの母親を貰ったの。だからサーティのお祖母さんが生き残っているというのは。実は嘘なんだよね。だってお母さまの旦那は死んでいるのだから」

「そうなのかい。それはサーティの父親が不慮の事故にあったとかなのかい?」

「それがよく分からないのよね。一応、事故にあって死んでしまったのは事実らしいけど。死因が何なのかも分かっていないのよね。もしかすると、私の両親がその辺りの調査を秘密裏にしていたのかもしれないけれど。結局は何も分からなかったみたい。ただサーティの本当の母親が死んだことに関しては、それが関係していそうだよね。サーティの本当の母親が死ぬ直前、彼女の子供を出産していて。その子供が女の子なら、そのまま産むつもりだったみたいなんだけど。残念なことに産まれてきた子は男の子だったらしくて。しかもその子を生んで間もなく亡くなったと聞いているわ」

俺はサーティシアの言葉を聞いて。少しだけ違和感を覚える。

(サーティの母親はサーティを産んだ直後亡くなっているはずなのに。サーティと、俺と一緒で記憶を失っていないということか?)

しかしそこで俺は考えるのを止めて、先程からサーティティに対して少し警戒心を向けていたサーティラの方を見る。彼女はサーティーのことを気にしているようであり。少しばかり寂しそうな顔をして、こちらに近づいてくる。

俺とサーティティがサーティに近づこうとするが。そんな俺達の前に立ちふさがった人物が二人居たのだ。それは、いつの間にか仮面を付けている仮面の人達で、俺とサーティに武器を向けたままで立ちはだかったのである。それを見たサーティが怯えてしまいそうになったので慌てて彼女のもとに駆けつけようとしたが。その時、俺達の周囲に結界が発動する。

その結界のせいで俺とサーティは動けなくなってしまうと、その隙にサーティティが、魔石を使ってどこかに連絡を入れたのである。俺とサーティはその事に気づくことが出来ず。サーティティアがサーティティと話している様子を見守っていた。サーティラの魔石を耳に当てたサーティティの表情が変わったことで、俺達は彼女が何を伝えたのかを知ることになる。それは彼女が魔王軍のスパイだという情報を伝えてきたのである。しかしそんな情報を簡単に信じられるわけもなく。サーティティの話が本当だとすれば。サーティティアの事を、魔王軍の仲間だと認識していなくてはならない。しかし俺にとってその認識が間違っていた場合、非常に面倒くさい事態となるのでサーティティアを拘束しなくてはならないと考えたのである。ただ問題はサーティティは武器を所持していない上にサーティを抱きしめて守る体制をとっている。そこでまずはサーティティアの動きを止めてから、その後で、サーティティに事情を説明してもらうために。彼女を眠らせようとした。

その時である、俺達を取り囲むように、突然大量の剣が降ってきたのであった。それと同時に、サーティラとサーティが地面に倒れたのだ。一体何が起きたのか分からずにいたが。その答えはサーティラからもたらされた。

「まさか貴方にこのような手を使われるなんて思ってもみませんでした。私は貴方の敵なんですよ? それを忘れないでください」

「サーティ、お前のその力は、確かに魔王の力だろう。しかしその力では魔王は倒せない」

そう口にした後で。俺は魔王に攻撃を仕掛けようとするが。その攻撃はあっさり防がれてしまう。

それからサーティティは、魔王に攻撃をされそうになりながらも。何とか抵抗をしている。俺はサーティティアを助け出す為に、サーティティアのもとへ行こうとしたが、そんなことを魔王は許さなかった。そしてサーティティアに剣を突きつけ、人質にする。そのせいでサーティティアが動かせなくなってしまった。

(くそっ! 俺がこんな事じゃなければ、あいつらを蹴散らす事も出来たんだが)

そう思っていたが、その前に、魔王はサーティティを人質に取るのを諦めると、今度はサーティティアを庇う姿勢を見せるサーティティに狙いを定めた。

その行動を見て。サーティティアは、自分の命を盾にしてまでサーティを守る姿勢をとった。その行為によって、サーティは動きが止まってしまう。

「やめろおおお! やめてぇぇぇ!」

そう叫ぶサーティの声は。魔王には届かない。何故なら彼の意識は既に別の場所にあり、サーティティアに危害を加えることに集中しているからである。

「さて、これで貴様らは身動きがとれなくなった。これからどうなるか分かっているよな?」

「私はそれでも構いませんよ? この場で死ねばいいだけの話なので」

サーティティアの覚悟が込められた言葉を聞き。魔王は一瞬戸惑った様子を見せるが。その動揺を振り払い。改めてサーティに問いかけをする。

「ならば望み通り殺してやる!」

その言葉を口にした瞬間に、魔王は魔法を発動させる。

「炎獄砲」

そしてその言葉が放たれた直後、巨大な炎の柱が、俺とサーティティに向かって襲いかかってくるのである。その一撃を受けたサーティは、サーティティアの腕の中で気を失いそうになる。俺は、その光景を見ながら。咄嵯の判断でサーティティを安全な場所に移動させ、その場所にサーティティアを置くことにして、魔王からサーティを取り戻すために。再び攻撃を仕掛けることにする。その攻撃も簡単にかわされてしまったが、サーティティアは、俺の行動を見てからすぐに理解してくれたのか、その場から移動し。サーティティの無事を確認することができた。

「ふん、やはりお前には。何も見えてはおらんな。今のは警告を兼ねたものだったというのに。それに気が付かなかった時点で、貴様に未来はないぞ。それにあの女を手駒に使えなくなるのも痛いしな」

サーティティのことを、まだ利用するつもりのようで。それなら話は変わってくる。どうにかして彼女だけは守り通したい。しかし、この状況は、かなり不味いものであった。サーティが目覚めないことと、サーティが操られてしまっている状況。さらに、俺の体力が尽きかけており、次の一撃を受ければ俺は負けるというのもあり、その事が更に俺に焦りを感じさせていた。

その事から俺は冷静さを失ってしまい。ただ目の前の男に突っ込むような真似をして、返り討ちにあったのだ。そして俺はその攻撃を受け止めきれずに地面を転がっていくのだが。サーティが、そんな俺のことを守ろうとしてサーティティアが立ち上がり、俺の元に駆け寄る。

「ごめんねサーティ。私じゃ助けになれなくて」

そしてサーティは、魔王に向けて話しかけ始める。

「どうしてそこまでするんですか。貴方の目的は私の体にあるはずなのに」

「ああそうだな。だから俺はそれを回収するために、ここまできたんだよ」

その話の内容を聞いて、サーティの体は震え始めた。その事に、魔王はすぐに反応すると、彼女に近づいて、サーティの頬に手を当てる。それを受けてサーティはビクッとした様子を見せたが。それ以上は何もしなかったのである。

サーティのそんな様子を見ていたサーティは、必死になって声を絞り出そうとしているが、上手く喋れないでいるようだ。

「まあそんなに怖がることは無いだろ? 別に俺は何もしないっての。それよりも俺と話をしようぜ?」

その言葉で、ようやくサーティの口から、声が出たのだ。

「貴方は一体何者なんですか?」

「俺はただの人間だよ。だが、この国の王族の血を引き、かつ特殊な力を受け継ぐものだ」

「もしかしてそれが勇者と呼ばれる存在なの?」

そのサーティの質問を聞いた途端に、魔王は少し驚いた表情をしたが。その後に笑いながら彼女のことを見つめる。それはまるで新しい玩具を見つけたかのような視線だったのである。その目を見ただけで、サーティは、魔王の事を、恐ろしい人だと思い、恐怖してしまう。その瞳を見た瞬間に体が動かなくなってしまう。しかしそんなサーティに対して魔王は何一つ害を加える事なく、ただ微笑み続けている。(あれは、本当に怖いわよね。だってあの人が笑う時は、必ず相手を追い詰めている最中だし)

サーティラの思考を読み取ったわけではないが、そんな感じの事を考えてしまった。すると俺達のそんなやり取りを見て、サーティの様子がおかしくなったと感じたサーティラが心配そうな声で話しかけてきたのである。

《ねえサーティラ。これどういうことだと思う? サーティに何かしらの影響があると思うんだけど》 サーティラは、俺と同じように、頭の中に直接響くような感覚を覚えているようであった。そこで彼女は俺にそのことを伝えてきて。それを確認した俺が、念話で、俺の考えを話すことにしたのだ。サーティラが、自分の力を使えばいいのではないかと提案したからだ。

俺も正直なところ、そうすべきではないかと思っていたので早速試すことにすると案外あっさりと成功してしまったのである。その結果をサーティに伝えると安心していたので。おそらく、これが、魔王に狙われることになった原因だろうと判断したのである。それから俺はサーティティアに事情を説明した。

「実は今サーティの中には魔王がいるんですよ。魔王というのは人の負の感情が集まってできたものなんですよ」

「それでサーティに憑依したということですね」

「はい。その事が原因となって今回の出来事が起こったんだと思います。ちなみに俺達は魔王を倒して、サーラを助けますので、もう大丈夫ですよ。サーティティのことは俺に任せてください」

サーティティアが俺の言葉を聞くなり真剣な顔でこちらを見てきた。その事にサーティラは驚きの声を上げるが。魔王はサーティの体を使いながら、サーティティと話す事にしたので俺はサーティティアを気絶させてサーティの体を乗っ取らせることに成功した。その行動に、サーティティアが俺の方を向いていたので、俺はサーティの方に振り返り。サーティの事を頼むと言ってサーティティアを任せたのだ。

「任せろなんて言っていますけど。サーティティアの意識は、私がしっかり管理しているからね」

サーティの口を借りてサーティティがそう口にするが。俺の意識はサーティの中ではなくサーティラの中にあるのだから問題ないと言い返すと納得してくれたのであった。その事で魔王に警戒されてしまうと面倒だったので、魔王に攻撃して気を失わせようとしたのだ。

ただその時に予想外のことが起きてしまう。魔王の攻撃を受けた際に俺は体勢を崩してしまい地面に倒れ込んでしまったので魔王の追撃をもろに食らってしまう。それを受けたことで完全に動きが封じられてしまうが。それでもどうにかしようとして、足掻き続けていたのである。そして魔王は俺のことを睨みつけると、その手を振り上げる。その動作を見る限りだと攻撃されそうになったその時にはすでに攻撃は終わっており。

魔王の攻撃は見事に俺に命中してしまいそのまま俺とサーティティは地面に倒れた。

その直後俺は痛みを感じ始めていく。その事に疑問を持ちながらも俺は、サーティティアが無事なのかを確認してみると。魔王が攻撃をする前よりかはマシではあるが、まだ気を失っていたので俺は自分の身に起こったことについて調べることにしたのであった。

(一体俺に何をした? 明らかに俺だけダメージを受けているような気がするんだが。これは魔王の固有スキルなのだろうか?)

疑問が絶え間なく生まれてくるが。今は気にするよりも先にする事がたくさんあったので、サーティティアが意識を取り戻したらすぐに行動できるように準備を始めることにする。その行動は無駄な時間を使うこともなく。すぐに実行に移したのでサーティティアが目を覚ました直後に行動することが出来た。サーティティアは自分が動けなかった事実に戸惑いを見せるが、すぐに気持ちを切り替えて。俺と会話を行うことにする。

まずは、サーティが意識を失ってからの事を、俺がサーティティから聞き出して、その情報を整理したうえで。サーティティアに魔王がどのような行動をしていたのかを伝えたのである。俺が魔王と戦った経緯についてはあえて詳しく語らずに。サーティに何があったのかを尋ねたのだが。サーティティはその話をする前に魔王のことを、ある人物に似ていると感じていて。それが原因で話を切り出せずにいるようだった。それを知った俺は魔王がどんな姿なのかと尋ねてみると。どうやら少女の姿をしていて、髪はピンク色をしていることからサーティが思い出した人物が、魔王の正体ではないのかとサーティティアに確認を行ったのだが。どうやら違うようで、魔王の正体について、サーティティアは答えることはなかったのである。そして、その事に俺はサーティティアが、魔王の正体を知っていると確信したのであった。

俺のその考えを証明するため俺は魔王の姿を確認する必要があると考えたのである。

そこでサーティが気を失う前に言っていた。魔王は自分と同じぐらいの少女の容姿をしているという話からサーティティの外見に、似ているかもしれないという可能性を思いつき。その事を確認するためにもサーティティには、サーティティアと同じような服を着て貰うように頼み込み。

俺自身もサーティティと同じように着替えをしてから魔王のところに行くことに。その途中にある部屋のクローゼットにあった鏡を使って俺はサーティティが本当に俺の予想通りの人物かどうかを確かめる。すると俺の予想が当たったのは良かったのだが、その姿は想像以上に似ていた。サーティティアと瓜二つと言ってもいいほどの姿でサーティティが言った特徴にピッタリな姿をして、なおかつサーティティがサーティティのことを見下しているような言動を取るとサーティティの口調もかなりそっくりなのでサーティティアとサーティティの口調が似ていることも判明したのである。

そうこう考えているうちに俺は目的の場所に到着するが、その部屋の中にサーティティは入るなり、魔王に怯えるように、その場に立ち尽くしてしまう。

そしてサーティティはすぐに俺に近寄ってきて魔王から離れろと言うのである。しかし、俺の体は既に拘束されており、逃げる事すら出来なかったのだ。その事を俺が伝えるとサーティティは、それなら自分の命を犠牲にしてまで守ってくれたことに感謝をすると同時に、自分の事は良いから早くこの場を離れるように指示を出した。

その言葉を受けて俺はサーティティアの傍から離れるが。サーティティの方に近づく。するとサーティティアは俺に魔王のことを倒すようお願いをしてきたのである。その話を聞き終えた後で、俺は自分の持っている剣で攻撃を仕掛けようとしたが、それを魔王に止められる結果になる。それどころか、その一撃を受けて俺が大ダメージを負ったのだ。それを理解した後で俺は魔王を殴り飛ばして距離を取った。それを見たサーティティが悲しそうな表情をするので心配させないように俺は大丈夫だという旨をサーティティに伝えてから俺は魔王を倒そうと攻撃に移るが、それは失敗に終わる。それは魔王が自分の体に魔力を流し込むようにして傷を回復させてしまったからだ。その光景を見てサーティは絶望に打ちひしがれていたが。俺は魔王に対して強い怒りを感じていた。それは何故かというとその行為を見た瞬間。俺の体は自然と魔王を殺そうと動いていたからだ。

それには理由があって、それは勇者の力を手に入れるために必要だと言われているアイテムを集めるためのヒントとなる物を持っていたのが魔王だったから。

《貴方は一体どこまで強くなるつもりなのよ》 《えっと。そこまで強くなりたいわけではないんだけど》 《まぁいいわ。でもね魔王の力を舐めない方が良いわよ。いくら強くなってもそれでは意味がないから。それよりも私達の目的を果たす為に、サーティを助け出す方法を考えないとね》 サーティラの言っていることは間違っていないと思う。確かにサーティティアを救う為の手がかりを得るためにも俺も本気で戦う必要があるだろうと思っているので。そのためにも、サーティティが俺の目の前で殺されたりしないよう注意しながら魔王の相手を行い。その間にサーティラがサーティティアが気がついた場合にすぐ行動出来るようにする。その準備をしっかりと行うのであった。

だが魔王にその準備の時間を与えてもらうほど甘くはなかった。それというのも魔王がいきなり姿を消して背後から襲い掛かってきたからである。魔王の奇襲はなんとか避けることに成功すると、そのまま反撃に移り。どうにかその行動を阻止することができたのだ。その後俺は再び魔王の懐に飛び込み。そのまま攻撃をしようとしたところで、今度は逆に魔王に俺が殺されそうになる。俺は魔王の行動が読めたので魔王の攻撃を避けるとカウンターの要領で、俺の全力の拳を叩きこむが。それも魔王によって阻まれてしまう。

それから魔王との激しい攻防が始まり。最終的には、俺の放った最後の渾身の一撃が見事に魔王の腹部を貫きそのまま壁を突き破ると、俺と魔王は勢い良く外に出る事に成功するが。それでも俺の攻撃を止めることは出来なかったようで魔王は地面に倒れこんだまま動かないので。俺はとどめをさすべく、その行動に移る事にしたのだった。俺のその動きに合わせて魔王の頭上に移動するとそのまま魔王に向けて急降下を行うと、そのまま落下の速度を利用して俺は魔王に向かって拳を振り下ろした。するとその攻撃を受けた事で、完全に魔王は死んだと思ったが。俺は何か違和感を覚えていたのであった。そこで俺はもう一度魔王の事を確認すると魔王の体が少しだけ光を放っていたので慌ててその場を離れようとするが間に合わず。俺は魔王に腕を掴まれてしまい投げ飛ばされる事になる。

その出来事で俺はかなりのダメージを受けるが魔王を確実に倒すために必要な行動だと思う事にしたのだ。ただ、俺はそこで魔王に攻撃される前に魔王の動きを止めればよかったのではないかという後悔をすることになる。何故なら俺の目の前に魔王がいたのだから。そして俺のその思考が行動に変わるよりも先に、魔王は行動を開始し。

俺が手にしている魔王を殺すための最後の手段を奪おうとしたのだ。その結果として俺の手から魔王が愛用している武器である槍が離れていき。魔王は俺の持っていた武器を奪い取ると魔王は笑みを浮かべながら俺を見ていた。

俺もその光景を見ながら魔王の狙いが俺の使っている武器であることはわかっていたので魔王の攻撃を必死に防ぐことに。

「まさか私の攻撃を受けきるとは思いませんでしたね。それでいて、私相手によくもあそこまで善戦できましたね」

その言葉を聞いた後に俺は魔王の攻撃を避けながら魔王のことを睨みつけると魔王は俺を嘲笑うかのような目つきをしてから話を続けてきたのである。

「そんなに怖い顔で睨まないで下さいよ。それにしてもどうして私と戦うんですか? 貴方は別に勇者ではないでしょう? なのにどうして?」

その問いを受けたことで俺は一瞬躊躇してしまった。その理由というのは魔王の言葉が本当であれば俺が、この世界に来て勇者である事を忘れているのがばれてしまい。その事が知られれば面倒なことになると感じたからだ。

しかし俺はその事を隠そうと考えるのはやめにしたのだ。その理由としては俺の正体を知っている人物を増やせば、それだけ、俺にとって有利に動く事が可能な情報を手にする事が出来ると考えたので。

「その前にお前に言っておくことがある。俺はサーティの体を乗っ取っている人物に用があるからサーティティを助けた。それについては嘘偽りない。だから俺はサーティを元の世界に戻すためにも俺はサーティを取り戻す。だから悪いが俺に協力して貰うぞ。もし断るようなら容赦しないがどうする?」俺がそういうと、それに対して魔王が反応する。

《私はサーティを助けるために協力はするけど。サーティティに憑依している人って誰なのよ?》

「それを教える必要はない」俺がサーティラの発言を拒否するとサーティラもすぐに納得したのかそれ以上の追及をしなかったのである。

ただ俺はここで魔王に一つの提案を持ちかけることにする。それはサーティの体の中に入った奴と戦えば良いのかという問いかけをした時に、サーティラに魔王を倒せと言われたのは俺ではなくサーティティの方なのだが、どうやら魔王が俺の持っている勇者の力を手に入れるとサーティの体に負担をかけすぎてしまいサーティの意識が完全に消滅してしまいかねないらしいのだ。

それならば俺が魔王を倒した後で俺がサーティティの中にいるやつを倒して、それから俺が代わりにサーティの中に入っても良いのだが。それでは勇者の力を俺も使うことが出来なくなるし。俺がサーティティを救える可能性が減ってしまう。

俺はその問題を考えた結果、俺がサーティの中に入ろうと提案した。すると俺の考えを理解してくれたサーティティも賛成してくれた。

それから俺は勇者の力が欲しいと言った。そして俺はサーティティアの中から魔王が出てくると予想していたが。実際は違っており魔王は自分の体に魔王の力と魔力を入れるようにしてから魔王が出てきたのだった。それを見た後で、魔王の表情には余裕のようなものはなく。

焦っているのがよくわかるほどだった。俺はその様子を観察してから魔王が魔王である証拠を見つける為に観察を開始すると。あることに気づいたのでそれを試すことにしたのだ。

それはサーティティアが言っていた、この世界の勇者の装備である指輪は魔王の力を宿した者の力を抑えることが出来ると言っていたことを思い出す。

そして俺はそれを信じて行動すると魔王が俺の持っている剣に触れて攻撃しようとしてきたが、その行動は俺にとっては予想外のものだった。

魔王は自分が持っている剣に触れるなり、そこから魔法を使って俺に攻撃してきたのである。俺はその事に驚いていたがどうにか攻撃を防ぐことに成功してから反撃に転じようとしたが、それよりも早く魔王が攻撃を仕掛けてくるので。俺は魔王に対して何もできなかったのである。しかし、どうにかその魔王の行動を見て俺は理解すると魔王を倒すための準備を開始した。

魔王はその行動に警戒をしている様子でこちらの様子を窺いながら、俺の出方を待っているようにも思えた。

それを確認した後で俺は自分の中に眠る力を解放してサーティティの中にある魔王の力を抑え込みにかかる。俺がサーティティの体内に存在していると思われる、魔王に対して抵抗を始めたのはいいが、サーティティアの体内にある魔王の力を何とかしないといけない状況になった時。サーティティからサーティラに魔王について尋ねられる。

俺は正直に話すべきか悩んでいると、その答えが気になっているサーティティは何度も質問を繰り返した。なので俺は仕方なく、魔王の正体が勇者のなれの果てである可能性が高いと言うと。その話を聞いたサーティティナはすぐに行動を開始しようとするが。

俺はまだ話さなければならないことがあり。そのことについてサーティティに伝えると。サーティティは今すぐ助けに行きたいのに。どうしてこんなにも邪魔をするのかというような感じの表情をしながら、それでも、俺の言葉を聞いてくれた。

それから魔王の力を抑えるために集中していたので。しばらくの間、俺の行動を邪魔する事はできなくなったようだ。

《それにしても凄い力ね。でもサーティを助けてくれるのなら貴方の事は信用出来るわ》 《そうなんだ。まぁ俺としてもお前の協力が必要なんだ。それと、俺は勇者の力をある程度は扱えるようになっているはずだから》 《そう言えばサーティから聞いたんだけど、貴方、本当はサーティの中で一番の使い手だってサーティティから聞いたわよ》 《それはどうかな。それよりも魔王をどうやって倒すかをまずは考えないと》 《でもね、貴方が使った力は勇者の中でもトップクラスの力を持つと言われているものなのよ。それなら、いくら魔王といえども。簡単に倒せるはずがないのだけど。魔王は魔王の力で対抗すれば、勝てると思うけどね。ただね、勇者の力と魔王の力だと少し違うのよね。

だから貴方にお願いしたいの。魔王に勝つ為の手助けとして、私の体を魔王の体に差し出すから。その代わりといっては何なのだけね。私が貴方にしてあげられる事があるの。それはね、私の血をあげること。それができれば私の持つ知識の一部を、貴方に譲渡することが出来るの。

《なるほどね。じゃあその申し出を受けることにするよ。俺はお前達と違って魔王を倒すつもりはないんだよ。そもそも俺の目的が達成されるまでは。この世界は、平和じゃないほうが、都合が良いからね》 《えっと? よくわからないんだけど?》 《今は知らなくて良いさ。とりあえず魔王に勝って。それから俺が魔王の代わりに、こっちの世界に来た理由を探すだけだから》 《よく分からないけど。とにかく貴方が言う通りにすれば。魔王は倒せるんでしょう? なら貴方の指示に従おうと思うの。ただ、サーティの事をお願いできるかな?》 その言葉を最後にサーティティとの通信は途切れるのだった。それからしばらくして、魔王の動きを封じていた俺の力を振り払われてしまうと。俺は急いでその場を離れようとしたところで魔王は何かをしようとしたので攻撃が来ると思って防御体制に入ると攻撃は飛んで来ずにそのまま何かをしようとしていた。

ただ、その行動が魔王に隙を与えたのは事実だったようで。俺の体に攻撃が命中した。その結果として俺の意識が薄れ始めたので、俺はここで意識を失うのはまずいと本能的に察することが出来たのだ。だからこそ魔王が攻撃の構えを解いて何かをしようとしたときに、俺は魔王に向けて飛び掛かる。

そしてそのまま魔王に向かって、勇者の力と魔導王の力が合わさった攻撃を繰り出すと。俺の攻撃によって魔王の体を半分近く削ることができたので、俺はそこにすかさず攻撃を繰り出そうとする。しかし、その攻撃は、俺の攻撃を耐えきってみせた魔王が繰り出した一撃で阻止されたのである。

俺は、そんな光景を目にした直後、俺の視界は暗転して俺はその場で気絶したのであった。

魔王との戦いに敗北した俺はその場に倒れこむことになる。

そんな姿を俺はどこか冷静に眺めていたが俺の心の中では焦燥感があった。その理由としては魔王との戦いで俺は勇者の剣を破壊されてしまった。それに加えて勇者の力を上手く扱えなかったので、魔王には敵わなかった。つまり俺は魔王に殺されても文句が言えない状態なわけだ。

そのことを考えた上で俺はどうしてこの状況になったのかという疑問が頭の中にあった。そのせいか、どうしてこのような結末になったかがどうしても知りたくて、俺は必死になって記憶を呼び覚ますことに意識を向ける。

俺はその途中で魔王と初めて会った時のことを思い出しながらそのことに疑問を抱いた。

《おい、サーティラ、俺の記憶が正しいのならば、魔王って、確か人間だったんじゃなかったっけ。俺の知識の中にそんな情報があるから間違いないはずだ。それに、俺は勇者なのにどうして勇者がこの世界を救うはずの存在なのにこの世界に俺が呼ばれた理由は魔王を殺すためか?》 《そうだね、でも魔王を倒すための鍵は君の中に眠ってある勇者の魂と、勇者が元々持つ特殊な力が鍵を握っているのは間違いないだろうけど。それを引き出すためには、勇者であるサーティが覚醒する必要があるんだよ。でもそのサーティは、今の状況では勇者の力は引き出せないみたいだし。それこそサーティの中にいるサーティラの加護を受けた者、貴方にサーティの体を返せば、話は変わるだろうけど》 《その言い方だとサーティティの体を返した時点で俺の体は、俺がサーティティになるのか? まぁ別にいいけどな、俺は元いた世界でもそうだったけど女になりたいなんて願望はないんだよ。それともサーティティが俺の姿に変わるのか? それで、サーティティの中に魔王が憑依しているんだろ。だったらその魔王を倒してやればいいんだろ》 サーティラの話を聞いているうちに俺は勇者について考えることにした。その時にふと俺の中にいるという魔王に俺は話しかける。

「お前、俺が勇者の力と、もう一つ、魔族の王が持つような魔力を持っていなかったか?」

《確かに我は持っていたが貴様には使えんはずだが。そもそも何故そのことを知っている。我はお主に勇者の力と魔導の力が宿っているとしか言っていないのだがな。それとも我が与えた力は勇者の力と魔力のみだと勘違いをしたか。しかし勇者の力とはどういう事だ。そもそも勇者の力は、勇者の血を受け継ぐ者に継承されていく力であり、勇者の血筋に力を継承するために魔王は勇者を殺しているのだぞ。それを貴様には渡していないのに、どうして勇者の力を使えるようになった》 魔王が言っていることが正しいとするのであれば俺はサーティティの中の魔王を倒した後に手に入れた力を使って倒したということらしいが。しかし魔王が俺の力を使えないと断言したのはおかしい話だ。

「俺もお前と同じで魔王に殺されたはずなのに何故か俺の体内にお前の力の一部が入り込んだんだよ。そのせいで俺はこの世界の勇者であるサーティティになってしまったってことだ」

《それならばその勇者の力で魔王を殺せるのではないのか?》

「魔王は勇者の力は扱えるが。俺の力は扱うことが出来ないとさっき言ってただろ。それよりも俺を元の体に戻す方法は無いのかよ。今のサーティティナはどうなっている。あいつの体の中には魔王が入っているんだろうが。あいつを助ける方法は無いのかよ!」

俺は、サーティティに魔王が入ったことを思い出してすぐに魔王をどうにかする方法がないかと魔王に対して尋ねてみた。すると魔王から帰ってきた言葉は意外なものだった。

《それは出来ぬ。そもそも勇者であるサーティが魔王であるサーティに負けなければ、あの者は死んではいなかったはずだ。それに、貴様と魔王であるサーティティの力は相容れぬ。サーティティの体を魔王から取り戻すことは出来ぬ。サーティティはサーティティのまま死を受け入れよ。

《それは俺のセリフだ。なんせお前とサーティティの力は互いに干渉できない。だからこそお前の言う通りサーティティはこのまま生き続けなければならないのだから》 《ふん!その程度は分かっていら。しかし、お前がそこまでサーティティの事が大事だというなら、お前に一つ選択肢をやる。魔王を倒す手伝いをしてみないか? そうすればお前が本来持っている力を取り戻すことも不可能ではないが。ただしその場合、勇者の力を扱えるのはお前だけだが、それでも構わんのだろうな?》 《構わない》 《それならばお前はもう、元の世界に帰ることは出来ないぞ。それでも良いと言うんだな?》 俺はその言葉を聞いて考える。確かにこの世界でサーティティナの代わりとして生きていくとしても、元の世界に帰れないのは困るし。

《分かった。俺は魔王と戦う為に、協力をしよう。それに魔王が勇者の力と魔導王の力と相性が悪いのなら。俺の持つもう一つの勇者の力を使えばなんとかなるかもしれない》 俺はそんなことを考えてから魔王に協力をするのを決めた。そのことで俺は目の前にいる少女から、サーティの身体を返すように言う。ただ、彼女はサーティティから魔王に乗っ取られた事でサーティラに戻せないと言い出した。ただ、それは少し違う。魔王から、体を取り戻してサーティティを開放することを考えるのではなく。魔王の意識だけを消す手段を考えたほうが早いと考えた。そしてそのことを伝えようとしたときだった。

サーティラの身体を魔王が乗っ取ったことを伝えた瞬間。俺の中にいた勇者の力と、魔導王の力を持つ者が同時に動き出し。俺は自分の中の魔王と戦っていくのだった。俺はその時、自分が今どんな姿をしているのかということが分からない状態で戦いを続けていた。そんな時、俺は俺自身の体の感覚をようやく得ることができたのだった。そのタイミングで魔王の気配を感じたので。俺はすぐに魔王がいる場所に向かっていった。

その途中で俺は勇者の力が魔王に対して効果が無かったのは。勇者と魔王がお互いにお互いの事を嫌っている関係から、魔王は勇者の力を使うことが無理だったのだろうと察する。それからしばらくした後。俺はサーティラの姿に化けていた魔王の前に姿を現すことに成功した。そこで俺はサーティラの体を返してもらうための戦いを開始することにしたのだった。

《サーティラの姿をしたお前を、サーティラの体を返してもらうぞ。そして俺はお前を殺す。俺とサーティティが生きる為に必要なことの為にお前は邪魔なんだ。消えてもらう。それが嫌だっていうのなら。俺と戦え。そして俺を納得させることが出来たら、サーティティの中から出て行って貰うぞ》 《ふん、いいだろう。貴様が我を殺すことが出来ると思うな。貴様には我の力を使うことはできない。貴様にはその程度の実力しかないのだ》 魔王は余裕な態度を取りながら言うと俺は、この勇者の力と、魔王の力が合わさった力がどれだけ強いのかを確かめることにする。

《俺には勇者の力があって。魔王の力もある。だったら、勇者と魔王の力を重ね合わせればどうだろうか。そんなことができるかは、分からんけどな》 俺は、そんな事を呟きながら勇者の力と、魔王の力を融合させていく。

すると徐々に俺の体は変化していき俺は俺で無くなっていくのだった。俺はその現象を止めることはせずにそのまま俺の変化を見届けることにした。

その結果。俺は完全に別の生物に変化してしまったようだ。

《な、馬鹿な!どうして貴様なんだ!サーティティナの姿と声をしていたのにどうして、どうして、どうして、貴様の姿に変わってしまうんだ!!》 《悪いな、お前とサーティラが合体するよりも前に俺は勇者の力を使いこなせるようになっていたんだよ。お前がいくら、俺に攻撃を仕掛けても無駄なことだと思えば》 《ふ、ふざけるな、貴様だけは、絶対に許さん》

「そんな事を言う前に。お前はこの俺の攻撃を受けられるかな」

俺が、そう言った直後。魔王の動きを目で捉えることが出来なくなり、俺はいつの間にか意識を失っていることに気づくと俺の視界がブラックアウトしてしまう。その後、しばらくして意識を取り戻した後。俺が見たのは、この世のものとは思わない光景であった。

そこには、血まみれになり、ボロボロになった魔王の死体があるだけで、魔王が死んだという事実しか分からなかった。

「これで良かったのか?勇者の力と、魔導の力とが合わさると。こんなに凄まじい威力を持つとは思いもしなかったぞ。この力は、封印した方が良いのか?まぁ、とりあえず魔王を殺したから。もう、勇者の力が発動されることはなくなっただろうけど。それにしても俺は、サーティティの中に入った魔王をどうやって倒せばよかったのだろう?まぁいいか、俺がこの力を扱えるようになれば。サーティティを助けることもできるだろう。

でもこの力は、俺が使えるような代物なのか?勇者の力で、魔道王の力で、魔王の力とが合わさっているなんて。この力は強力過ぎるだろ。それとも勇者の力や、魔族が使う魔法やスキルは俺にとって相性の悪い存在なのかもしれないな。

それにこの世界にある、勇者や魔族の武器だって、魔王にダメージを与えられない可能性が高いだろ。でも勇者の力や魔族の技は使えそうだな。俺の持つ魔導の力で強化してやれば何とかなるかも。

それにしてもこれからどうしようか、勇者の力が使えない状態になってるのに勇者を名乗ってもしょうがないからな。

俺はどうするか迷っていると、俺が勇者である事を知っているレミア達が近づいてくる。

《貴方様、大丈夫ですか》 《あーうん。心配してくれてありがとう》 《いえ、当然のことをしましたまでです。ところで、魔王に憑依されたサーティティは、一体何処に居るのでしょうか》

「サーティは俺の加護を受けていてさ。そのお陰であいつの中に魔王は入れないんだよね。だから俺はあいつの体の中にある魔王を消滅させた。ただ、あいつの身体の中には魔王がまだ残っていて、そいつもいずれ復活してくるだろうね。

《それではやはり。サーティティはこのまま死を受け入れるしかなかったのですね》

「残念だけどそうなっちゃうだろうな。それとサーティが、魔王の力を使えるようになったのは、魔王が自分の体に取り込まれたからだ」

《サーティが魔王の魔力を扱えた理由が分かったわ。それで魔王が消えたのならサーティの体が元に戻ったりすることはないのかな》 俺はそう言われたので俺は自分の持っている力を発動させるとサーティティナの身体は光り輝いていた。そのことで俺はサーティティの身体が元に戻っていくことが分かる。しかしここで俺の身体から再び勇者の力が無くなっていることに気づいた。その事に驚いていると、サーティティが俺の体に倒れ込んできた。

《サーティ!?》 《サーティティナ様》 《サーティちゃん、まだ息はありますが、もう、手遅れかもしれません》 サーティティナに呼びかけたが、反応がなく、その事に気づいた皆が、悲痛な表情を浮かべて泣き出していた。俺もその事に気づくが。俺の胸の中で苦しんでいる彼女に対して、何も出来ないのだった。そして俺の中にサーティティが、完全に溶け込み。そのことに気がついた俺に対してサーティティナは、笑みをこぼすと意識を失う。

《私は死んだはずじゃ、どうして生きているのか分からない。あれから何日たった?私としたことが意識を失っていたせいで何も思い出せない。そもそも私の身体は元に戻っている。まさか私が意識を失わなかったら。サーティティに体を乗っ取られることは無く。魔王をどうにかすることが出来ていたというのかしら》 俺は彼女が何を言っているのかという事が分からない。しかし彼女は自分が意識を失いさえしなければと嘆いているようで、涙を流していた。そんな彼女の様子から俺は俺に話しかけてきた少女こそがサーティラなのだと思った。

それからしばらくして彼女は冷静さを取り戻すと、俺の方に視線を向けてくる。

《まずは、貴様に謝罪をする。すまなかった》 彼女はそう言うと深々と頭を下げてきた。

《気にしないでくれよ。サーティティナの身体を使ってサーティラとして俺に接してきてたのは俺のためだったんだろう。

俺が勇者の力が使えなくなるようにしたのは。魔王と戦う為に必要だったのならそれは良いんだよ。

俺だって、勇者の力が使えなくなっていたのに俺は魔王を、倒すことができたんだし。お互い様ってことにしておくか》 《本当に貴様という人間は、変わった男なんだな》

「はははっ、まあな」

そんな風に会話をしているとルーグがこちらに向かって歩いてきて、俺に声をかけてくれる。

《勇者、お前はどうするのだ。勇者の称号を返上するのか》

「いいや、返上なんかはしねえよ。俺は、勇者であり続けることを選ぼうと思っている。ただな。俺が勇者の力を持っている限り。サーティラのように魔王に取り憑かれちまう人が生まれ続けるはずだ。そういう人達を助けるためには俺は勇者の力を、持っておく必要がある。

それに俺はサーティティナを助けるためにも。勇者の力を使いこなしていく覚悟を決めないといけない。そのために魔王を殺すことが重要だったんだと思う」

《なるほど、お前が魔王を殺すことによって。勇者が本来持っていた勇者の力を魔王にぶつけ合う事で相打ちになるように仕組んでいたわけか》 《まぁそんな感じかな。あの時にサーティティに俺の魂の一部を移したから。それが、サーティンの記憶と人格がサーティティナの中に宿っているんじゃないかな。多分》 《そうか。貴様も大変だったという事なんだな》

「そうかもな。それよりもだ。魔王を倒す為とはいえ。俺と魔王が合体してしまったことについては何か思う所はないのか?」

《あるといえばあり。だがそれを言ったら俺達も、他の魔人族が人間を取り込むことを黙認している以上。勇者と魔王の力を合わせた奴と、魔王の力を扱える者がぶつかってしまったとしても、文句を言うことはできまい。だから俺はそんな事を言ってこなかったのだ》

「そうか、お前達はそれで納得できるのか?お前達が俺の事を殺そうとしたことは事実だ。そしてお前達の同族の魔人を俺は殺している。それでも俺の事を見逃すっていうつもりなのか? もしそんな考えでいやがるんだったら俺は許さないぞ」

俺はルーグの言葉を聞きながらも、こいつが何を考えているのかが分からずに警戒する。そして、もしも、魔王を俺と融合したのを許しているというのであれば、この男は俺が思っていたよりも遥かに甘い人間だと思わされてしまう。しかし、そんなことは無いと俺には分かっていた。何故なら俺は魔王に殺されたはずの魔人のことを聞いていたのだから。

「ふっ、お前と融合してしまったのは完全に事故だ。俺は、お前と、勇者の力を持つ魔導士が合体すれば魔王と勇者の両方を潰せると思っていたんだよ。実際。お前が俺を倒せたのは予想外で、お前の勇者としての力は侮れないと理解したからこそ俺は今こうして話をすることが出来る」

「どういうことだ」

「魔王の力は勇者の力よりは弱いということだよ。勇者の力だけならまだ何とかできただろうが。魔導王の力は強大過ぎた。魔族が持つ魔導の王である、魔導王は勇者であるサーティティでは倒せないほどの強さを誇っていた。そのおかげで俺は一度死ぬ事になったのだがな。ただ魔王も倒せてはいなかったが。俺は自分の体の中に入るはずだった魔王を勇者の身体の中に移動させて、自分の身体の中に閉じ込めて。勇者の力を使うときにその魔王の力を上乗せして使おうと考えていたのさ。しかし結果は俺の考えていたものとは少し違っていた」

《つまりだ。勇者の力は確かに魔族が扱うようなスキルや魔法の力を跳ね除ける。しかしその力が合わさった魔族の力まで無効化するわけではなかったと言う訳だな》 ルーグは、俺に魔王を体内に取り込んだ状態で魔王の力が発動したら。その力で俺の力が上回ってしまい、勇者の力ごと吹き飛ばしてしまうのではないか。そんな不安を感じていたのだという。だからこそ。俺と勇者の力が混ざる前に魔王を殺したかったのだという事を聞かされる。

それを聞いていると俺の中で、この魔王を殺した後、俺の勇者の力が使えない状態になっていることに気づいた。そのことから俺の力だけが魔族に通用していたわけではないことに気づく。

しかし魔王の力は勇者の力よりも強力で、勇者の力が使えなくなった状態であっても、魔族の攻撃に耐えれる可能性はかなり高い。しかし、俺は勇者の力と、魔導王の力が混じり合った状態で戦うことができるようになるまでは、魔族との戦いを控えることを決意したのであった。しかし勇者の力を使わなければサーティティナのような犠牲者が出てしまうかもしれないので、その辺はどうするか悩んでいるのだった。

俺はサーティティナの身体を魔王に取り込まれたことで。彼女の中に魔王が居るのが分かる。そのことに俺とルーグ以外の面々は驚いていたが、サーティラの身体の中に入っていた魔王の力が抜けきるまで、サーティティナの身体は魔王の力で守られることになる。それを聞いたレミアは安心していた。

そしてサーティティナの身体が魔王の魔力に包まれてからしばらくすると、サーティティナの中から魔王が出てきてしまう。それと同時に魔王は自分の体に意識を集中させていくと魔王の体が大きく膨れ上がり、元のサイズに戻ると、俺と魔王の姿に変化が訪れる。俺は全身から黒いオーラを放ち始めていて、髪の色が変化していき黒色に染まっていく。さらに俺は髪の毛を伸ばしてポニーテールにする。そんな様子を見ていたレミアと、ルーグと、サーティティア、ミーヤの四人は驚きを隠せずにいる。

俺の瞳孔が横に広がっていき、犬歯が伸び始めると同時に爪が長くなっていく姿を見つめているのだった。それからしばらくの間俺の体は変化し続けるとそこで止まった。俺の顔つきの変化に、みんなが驚く。特に女性陣は目を丸くしていた。

「おい勇者。一体何が起こっているんだよ!」

俺は、目の前にいるサーティティナを見ていて。俺の中にある魔王の存在が無くなったのに気づいた。俺の中の魔王は消え去って、俺の肉体から勇者の加護が失われるのを感じたのだった。

『ようやく私に、体を返してくれるんだね』

《やっと自由に行動できるようになったんだ。お前ももう、俺の中に閉じこもってなくて良いんだぜ》 俺は、魔王の声を聞くとそう言う。

『それは嬉しいんだけど。僕は君の体に憑依していない時はずっと君の中にいたんだよ。君は僕の中で眠り続けていたんだ。それに今の僕の意識の大半は、サーティティの身体の中にあって、彼女の思考と記憶はサーティティの身体を通してしか分からないんだ。まあ、それも当然だけど。魔王の力は強力過ぎてさ。僕と一体化している間は意識が途切れた状態だったから、その間は彼女の身体が勝手に動いていたけど。

彼女が寝てしまった時に、彼女が見た物、体験した事の記憶が夢という形で流れ込んで来ていたみたいだったから。まぁそれでもある程度の知識はあるんだけど、実際にこの目で見たり、経験したわけじゃないんだよね』

《なに?俺は眠っていて魔王を乗っ取ってしまったのか。それは申し訳ない事をしたな》 俺はそう言いながら頭を下げた。

《いいよ別に》

「お前も気を悪くしないのかよ」

俺は俺に魔王が憑依している時の事は魔王から聞いた。俺が眠ってしまう時以外はほとんど俺の体を使っていたらしい。そんな状況の中でも俺に魔王の体を乗っ取られた事に文句を言わずに受け入れてくれることに驚いたのである。

《いいよ。君と魔王の力は混ざり合って、そのおかげで勇者の力は失われちゃって。でもその代わりと言ってはなんだけど。勇者の力を持ったまま、魔王の力を持つことが出来てるじゃないか》

「そうか、魔王の力があれば。魔人族はどうにかできるか」

《そうだねぇ。まあ、僕が表に出ることが出来る時間は限られていると思う。それに僕が表に出ていてもこの子達は付いてこれないだろうから。魔王の力は使わず、サーティティの勇者の力を全力で使う方向でいくしかないかな。それにしてもサーティティが、あの女を生き返らせようとしていてくれたとは思ってもいなかった。まさか自分が勇者の力を持っていて、勇者の力に守られていたなんて、彼女にとってみれば思いもしなかったんじゃないかな》 《だろうな。あいつは自分のせいで、お前が死ぬところだったのが心苦しかったみたいだからな。そのことで責任を感じていたみたいなのも、勇者の加護で感じられたしな》 《そうだったのか》 俺はそんな会話をしていると、魔王が自分の体の外に出てきた事で、魔王の力が無くなって、俺と勇者の力がぶつかり合ってしまい、俺は気絶してしまう。

それから俺は三日の間眠ることになり。その間にサーティティナの体から出て来た、魔王の力はどんどん大きくなっていたのだ。その大きさは既に人のサイズではなく。竜やドラゴンに近いサイズのものになって行く。

そして魔王の体が大きくなり続けていった結果。俺は目を覚ました時には既に、巨大な龍の体の中に居たのである。

「な、なんじゃこりゃー!!!?」

俺は自分の声が妙な高さになっていることに気づき、思わず叫びをあげてしまう。しかし、魔王の力を手に入れてもその力の大きさに飲み込まれることなく。逆に制御できるようになっていてくれたおかげで、なんとか自我を失う事は無かったのである。

「うぉ、これは、凄い、こんなにも簡単に操ることができるようになっているのか」

「当たり前だろ。俺と融合したことによって、俺の持つ力を手に入れただけでなく。俺の人格が反映されるようになって。更に言えば、魔王がお前に力を渡す為に色々と手助けをしてくれたのもあるだろうな」

俺は魔王にそんな事を言われて。この力を魔王から受け取ったのだという事を知るのだった。俺は試に魔法を使ってみようとする。ただ、魔王の力が使えるようにはなったものの。俺自身のレベルが低くて魔王の力は扱いきれないということが分かった。

そして俺は魔王に、魔王の力で何をしようとしているかを問いかけると。俺は俺の体で、勇者の力を使った状態でないとできない事が沢山あるからと説明を受ける。しかし俺はそれを聞かないことにする。なぜなら勇者の力が消えた今。俺自身が勇者として戦えなくなってしまうと思ったからだ。

俺自身で戦いたいという気持ちも確かにあったけれど、勇者の力が無い状態で、魔人とやりあうには俺はまだ未熟だったのである。なので俺は勇者の力は使わない方針を固める。

《お、ようやく目覚めたようだな。それでは我もそなたが勇者の力を使うための、手伝いをしようではないか。まずは魔力の扱いを覚えなければならないぞ。ただ勇者の力で戦うには勇者の力と魔王の力を融合させる必要がある。勇者の力の使い方を覚えるまでは我が、魔王の力を上手く扱えるようサポートしてやろう。だが、それが出来るのはこの城だけだ。ここなら、魔族や魔獣と戦う為の力を得られるはずだ》 《そうなんだな》

「俺の力が扱えなかったとしても。ここに居る限りは大丈夫だと思うから安心してくれ。勇者と魔導王の力の融合を成し遂げるまでここで特訓をして行こうじゃないか」

俺達はそんな話をした後、これから俺の肉体の鍛錬を行う事になった。その修行の内容を聞いているだけで俺は憂鬱になるのであった。

俺はルーグとサーティティナから、俺の肉体の強化をするように指示を受けた。その方法を聞いた俺はあまり乗り気ではなかったのだが、二人の勢いに押されてしまい仕方なく訓練を行うことにしたのである。そして俺の訓練が始まって数日が経ち、俺達のいる場所には毎日大量の人間が運ばれてくるようになっていた。

その人間の殆どは魔族の攻撃を受けて負傷してしまった冒険者や兵士などの戦闘系職業の人間だったのである。彼等の傷を癒やすために俺が魔王の治癒の魔法を発動させた。その魔法によって魔族の攻撃で負った傷は回復していったが、魔族の攻撃を受けなかった部位に負っていた傷については完治させる事が出来なかったのである。俺はその事実にショックを受けていた。

《勇者の加護を持つ者の治療に時間がかかってしまっている。どうすれば良いだろうか?》 俺はサーティティナに相談を持ちかける。

「それならば仕方がないね。魔王の加護の力で治せる範囲まで広げてみるかい?」

俺はそう言われるがままに俺は自分の身体から加護を溢れ出す。そして魔王の加護の力で俺は、サーティティナの治療を行っていると、俺とサーティティナから光が溢れだしてきて俺達を中心に広がっていき周囲にいた怪我を負った兵士達が俺達の事を見ていたのである。すると突然、目の前にいた兵士達の身体から傷が全て消え去り元通りになっていたのだった。俺はその事に驚きながらルーグとサーティティナの顔を見ると信じられないといった表情で固まっている。するとすぐに兵士達の方に向かって行き確認を始める。すると全ての兵士が元の健康な状態に戻っていたようなのだった。俺は二人にそのことを話すと俺も驚いたのである。まさかここまでの回復効果を持っていたとは思わなかったからである。

それからしばらくの間は勇者の力は使わず魔王の力で治療を行っていた。魔王の力は、勇者の力を使えなくなった代わりに使うようになったものだった。魔王の力は勇者と違って、俺の想像する範囲内であれば何でもできてしまうようで。どんなに重傷でも俺の意思次第で一瞬で回復することが出来るようになっていた。その為に多くの人間を魔王の力を使い一気に直すことが出来てしまったのでかなり時間短縮できたのである。

「これでしばらくは時間を稼げるな」

「そうね」

俺の言葉に、サーティラが答えてくれた。俺とサーティティーナ以外の人達は、この場所の警備をしていたのである。そして今日もまた大量の負傷した人間が運ばれてきていて。俺は魔王の加護の能力である回復の光を放ち、人々を癒していた。そんな時である、一人の老人が俺の前に現れたのである。

《おお!あなたが魔王様なのですか》

「ああそうだ。そういう君は誰なんだい」

《私めは、この国の王の相談役を務めているものでございます》

「それで、俺に何か用があるんだな。まあなんとなく分かるが」

《はい。その通りでございます。私めの願いは、勇者様に魔王討伐をして欲しいということです。ですがそれは、魔王に貴方様の存在を悟られないようにする為でもありまして》

「魔王が俺の存在を知っているだと?どういうことだ!」

俺は王様から魔王のことを告げられて、驚くと共に怒りを覚えた。俺が勇者だという事を知っていながら、魔王はそのことに気づいていなかったからだ。その事に俺は憤りを感じていた。

《勇者殿が魔王を倒した後。勇者の力を受け継ぐものは勇者の血を引いた者しかいないのですが、その中に、貴方様に瓜二つの人物が居られたのです》

「それが、魔王が知っていた俺の正体か」

《その通りでございます。私は、魔王を倒すために現れたという事は勇者殿に伝えたのですが。魔王に勘づかれてしまいました。魔王の狙いは貴方なんです》 俺はその話を聞き、少し冷静になって考える。そして一つの仮説を立てる。勇者の力は魔王を滅ぼす事に特化しているが他のスキルは、魔王に対してダメージを与える事が出来る。つまり勇者の力が効かない魔王でも勇者の加護を受けている魔王なら倒せないわけではないのではないかと思い始めたのである。その事から勇者の力を持っている俺の存在は、この国にとって大きな意味を持っており。勇者の力が無くなった以上。俺を手放したくはなかったのだと思ったのである。だから俺はその提案を受けることにした。

そして俺は勇者の力でも、俺が魔王にダメージを与えれるかどうかの実験をすることにしたのだった。しかし、俺は俺の中にいるサーティティナにも手伝ってもらいながら魔王の力をコントロールすることに集中するのであった。

俺達はサーティティナの協力もあって魔王の力を完全に操ることが出来るようになっていた。そして勇者の力を使うことにより魔王の攻撃に耐えきる事も出来た。そして魔王の力は俺の予想通りに魔王に対する攻撃を無効化するだけではなく。俺自身に宿っている勇者の力による能力を全て打ち消してしまう力があった。そしてそのおかげなのか、俺の持っている剣が聖剣の輝きを取り戻せるようになっていた。

それから俺は魔王の力を使ったまま、魔人を討伐しに行っていたのである。魔人の中には強い力を持つ奴もいるらしく。そんなやつらを相手していると流石に無傷というわけにはいかなくて、魔王の力の消耗が激しかったので俺は一旦城に戻ることにし。そのついでに俺は魔王の力が回復するまで魔獣を相手にする事に決めたのである。俺はそんな事をしながらも、勇者の加護を失った影響が出ているのでないかと考えていたのだ。そのことからも、やはり魔王の力を使うためには勇者の力は必須であり。俺が今の状態で、魔人との実戦に出るのは無謀だと思い。今は魔王の力を使う練習に専念しようと思ったのである。

ただ、魔王の力が回復したら、魔王の加護の力を借りて魔人に攻撃を仕掛けるつもりだったのである。

俺とサーティティナの二人はサーティティナの師匠から魔法を教えてもらうことになった。というのも俺達の力はまだ魔王の力が馴染んでおらず完全には使いこなせていないからだ。ただその力を使えば確かに魔人に対して有効だったが、それでも魔人と互角に戦うにはまだまだ実力が足らなかった。

そして、俺達が魔法の特訓をしている時に事件が起きた。それは、魔王の力を手に入れてから数ヶ月が経ったある日のことだった。俺は魔人の気配を感じた為に魔人の所に向かうと、そこには魔王の配下と思われる人物が複数名おり、その全員が瀕死の状態になっているところを発見する。俺がその状況を確認して戸惑っていると、一人の男が意識を取り戻す。しかし彼は、自分の命よりも先に俺に問いかけてくる。

《貴様は本当に勇者ではないのか。勇者でなければ、どうして我々の同胞がこんな姿にされると思う。我々が魔族であることは理解して貰えますよね》

「ああそうだ。ただ残念なことにお前らの種族名は知らないんだよな」

俺は自分が魔人であると偽るつもりはない。魔族だと言った方が魔人も納得してくれると思ったからそう言っただけだ。

《な、なぜ、我らは魔人であり。魔王の手下だと分かったんだ》 俺は魔人から魔王の加護の力を感じ取り、魔王の加護の力で彼等が何者であるかを察知することが出来た。それに彼等を追い詰めたのは魔王の加護の効果でもある。魔王の力は使い方次第で相手に自分の正体を隠すことも可能なのだという事が今回でわかったのだ。

俺は魔王の力を使えるようになってから、その力に溺れてしまっていたのかもしれないと感じるようになっていた。魔王の力が強大すぎるせいでその事を実感出来なかったのだと思うが、これからは慢心しないようにしようと誓う。

「その話は後で良いんじゃないか。まずは目の前にいる魔人が問題なんだから」

「そうね。彼等が何者か気になるけど、まずは、この状況をどうにかしないと。このままでは彼等が危険ね」

「ああそうだな。だけど魔王の力で回復させても意味ないよな」

俺は魔人に回復の力を使っても魔人を殺すことは出来なくなるだけで。回復させることには意味がある。だが今の魔王の力では完全に回復させてしまうと、魔人達が俺達の仲間になるという誤解を生みかねないと俺とサーティティナは考えたのである。俺はその事を魔王に尋ねるが《君達の考えている通りで良いですよ。私の眷属になれば、私の力を行使できるようになるのは当たり前の事ですから》そう言われてしまい。俺は複雑な気持ちになった。その言葉の意味はつまり、仲間として一緒にいることは出来ないということだったからだ。

「そういえば、この国の王は何者なんだい?俺は会った事がないからどんな奴かも知らないんだけどさ」

俺は魔王の言葉を聞いてから疑問になっていたことを魔王に尋ねた。

《それならば会わせてあげましょう》 魔王はそう言って、魔法を発動させる。

すると、目の前に大きな空間が現れる。そして、その中へと入っていくと俺の目の前にはこの国の王の顔が見える。どうやら映像を見せられているらしい。

『私は魔王。貴方が勇者ですね。初めまして勇者さん。それと貴方はサーティティーナと申していましたね』

《はい。私の名前はサーティティーナと言います。貴方が魔王なのでしょうか》

「俺もサーティティナと同じ質問をしたい。あんたが魔王だというのなら、俺に一体何をして欲しいんだ?俺は勇者としての使命を果たせなくなったんだぞ」

俺の口から思わず不満が漏れ出す。

俺は今までの日々を勇者の使命を果たす為に行動してきた。そしてそれが俺の生きがいだった。それが、勇者の力を失ってしまえばその目的が達成できないとわかり、苛立っていたのである。

『そんな事は関係ありません。私が望むのは貴方とサーティティーナが私と契約を結ぶ事だけなのです。サーティティーナの事は貴方の事は良く知っています。貴方の力がサーティティーナに受け継がれていた時から私はずっと見守ってきましたから。だからこそ私にとって勇者とは特別な存在なので。私は貴方に私の持つ全てを継承することで。勇者の力を受け継いだ者が勇者に成り代わるという事を防ぐつもりでした。ですがそれも叶いませんでした。貴方が魔王の力を手に入れる事で勇者が魔王の力に目覚めたようですから。私は勇者をこの世界に召喚することを止めた方が良いと考えています。ですが、それは不可能でしょうね。勇者というシステムに異常が生じない限り勇者は召喚され続けると思います。だから私は考えを変えました。勇者に勇者の役目を背負わせるのを辞めることにしたのです。だから、私はサーティティーナの願いを受け入れ。サーティティーナと契約を交わしました。その契約のおかげで彼女は、勇者の力が宿っていた時と同じように魔王の力と勇者の力が使えたのです。これで勇者が魔王の力を使いこなし、勇者の責務を放棄した場合には、私は勇者の力が使えないようにするつもりだったのです。しかし勇者は、魔王の力を制御出来るようになるどころか。自らの力で魔王の加護の能力を発現してしまいました。勇者の力を失うという事は、魔王の力は勇者の力と同等という事になってしまい。勇者の力はもう必要なくなってしまったので勇者の力は返してもらう事にしました。貴方は勇者の力を手放さないでくださいね。そして魔王の力に頼り切らないようにお願いします』

俺はその話を聞き愕然とする。俺は勇者の力を失い、魔王の力に頼るようになった。そのせいで俺は、自分がこの世界の魔王になりかけたのだという事に。魔王が言っていた勇者の力の消失をさせないための契約というのはこういうことだったのだ。俺がこの世界に来た時の話を聞く限り、魔王の力で勇者の加護の力を封印する事が出来るならその逆もまた可能なのだと思ったのである。

だから、俺はサーティティナとの契約をすることで魔王の力を完全に扱えるようになり。俺とサーティティナの二人が勇者の力を引き継いだ状態で勇者の資格を失わず。尚且つ勇者が勇者の責務を放棄しても魔王の力が完全に俺の力になることは無いと分かりほっとする。しかし俺が勇者の力を失ったのにも関わらず、魔王が俺に魔王の力を譲渡することが出来た理由を知りたかった。俺はそのことを尋ねようとしたのだが。魔王は既に姿を消しており。そのことについて聞きだすことはできなかった。

(俺は、あの人に感謝をしなければいけないな。魔王の力を使わなかったおかげで俺は、自分の意思で勇者の力を返すことが出来るし。それに俺には魔族の知り合いが増えたからな)

それからしばらくしてから、俺は魔人と話し合いをした。それは今後について話し合う為である。そこで俺達はお互いに協力することに決めたのだ。それから魔族にも事情があることが分かったのである。

《勇者殿に頼みたいことがある》 俺は今現在魔人達から頼まれごとをされていた。その内容は魔人の国に囚われている魔獣を助けて欲しいというもので。なんでも俺が聖剣を持っていた時に戦ってくれた狼の魔獣であるフェンリウルがいたらしく、俺は彼にもお礼を言いたくて、助けに行ってもいいと思った。

それにしても何故こんな依頼を受けたのかといえば、それは、魔人が俺に対して友好的だったからに他ならないだろう。魔人は勇者を崇めていて崇拝しているらしいのだ。そんな彼等にとって魔王の命令よりも大切なことがあって、その為に俺は彼等に協力しているというのもあった。それに俺にとってもメリットがありそうだと感じたからである。その話をしてから数日後のこと。俺はサーティティナと一緒に魔人に捕まっているであろうフェンリウルの救出に向かうことになった。そして彼等の拠点の場所を突き止めてからサーティティナとともにそこに向かうことにして。その場所に向かうことになったのだ。その途中で俺達二人は出会った。そこには魔人ではなく普通の人間と思われる者達が倒れており。彼等は何故か、魔人に殺されないように防御障壁を展開していたので、おそらく結界術の一種だろうと予想できたが念の為に警戒だけはしておいたほうがいいと思い、二人を守るような形で移動をしていた。しかし俺が彼等を助けたことで命拾いをすることになる。というのも彼等が命乞いを始めたのである。その結果彼等に色々と質問することができたのだった。それで俺は彼等がなぜこのような場所に居たか理解出来た。なぜならここはどうやら魔人達によって作り出された魔人の街で。そこに捕らわれてしまった人間の村人達の脱出ルートとしてこの場所が使われることがあったようだ。だが今回たまたま通り掛かった人間がこの村の出身者で。運悪く捕らえられてしまうという事が今回起きてしまったらしい。俺はその話を聞いて少し複雑な気分になってしまう。だがそんなことを考えている場合ではないなと自分に言い聞かせて意識を切り換える。

そして彼等から色々な情報を得ることに成功した俺とサーティティーナはフェンリウルを探すついでに魔人の国の中心部を目指すことにしたのである。俺はその時に、ふいに気になった事があり、魔人がなぜここまで強い力を持ちながら。自分達の領土を拡大しようとしないのかを不思議に思った。そして、俺は彼等から話を聞き出したのであった。その答えはとても簡単なものだった。どうやらこの村がこの世界の中心に近い場所に位置しており、そして、その位置で魔王が守っているというのが一番大きな理由で。そして次に大きい理由は、魔王は力を求めるものならば種族を選ばずに受け入れてくれるという話から。この村に集うものは力を求めて集まってくるものが多く、そして魔王はその者達を鍛え上げ、魔人に変えていくのだという。魔人にされた魔人には、必ず魔王の加護が与えられて。この世界での居場所を与えてもらえた上にその能力の向上が見込めるということで人気なのだという。しかも定期的に行われる武闘会では上位入賞者は幹部になることも可能であり。魔王直々の褒美まで与えられることから。皆必死になって訓練を行う。その光景を見た他の者もこの村は魔王に見初められやすいという噂を聞きつけて来るらしい。ちなみに俺も最初は魔人から勧誘を受けていたらしい。ただその時にはすでに俺は勇者の加護の力を得ていたのでその誘いを断ったのだと聞かされる。俺はその話を聞きながらこの村に入る前に倒した敵達のことを思い出していた。あれは魔王の眷属だったというのであれば辻納得ができるからだ。

その話が終わってからもしばらく探索を続けて行くうちに、遂に目的の人物が見つかり、無事に合流を果たすことができたのである。

『まさか貴方様が来るとは思ってもみませんでしたよ。勇者殿』

「あぁ。久しぶりだね。それと俺は勇者じゃなくて今は魔王になったからね」

俺の言葉を聞いたサーティティーナは驚きを隠せておらず。サーティティーナが動揺していることから。彼女にとっては俺の言葉は衝撃的なものであったことが分かる。

『魔王の配下になられたということですか?一体どうして?』

「まぁ、成り行きってところかな。俺としても、もう勇者の力を失ってしまったわけだし。勇者なんて名乗れないと思ってさ」

俺はそう言って肩をすくめる。すると魔人も何か思うことがあったのだろうか。

《魔王の力を手に入れたという事は。貴女は勇者の力を手放したわけではないと思いますが》 その言葉を聞き俺は首を傾げる。

「えっ?」

『確かに貴方の力は、まだ貴方の中にあるでしょう』

俺の疑問に答えるかのようにサーティティーナはそう口にする。俺はそんな彼女の発言に驚いてしまう。なぜなら、魔王が言っていたように勇者の力が俺の身体から消えると思っていたのに、消えなかったのである。俺はそれを知って驚いたものの直ぐにある事に思い至りその理由を考えることにする。

まず考えられる可能性としては、俺が勇者の力を失ったのと同時に勇者の力の一部も消えたという事がある。それなら説明がつくかもしれないが、しかし俺がサーティティナに勇者の力を継承した際の記憶を思い出しても勇者の力は残っていた気がした。だからこそ俺はサーティティナの言っていたことが信じられなかったのだ。俺のそんな考えを見透かすようにしてサーティティーナは言葉をつづけたのである。

『私は魔王から聞いた話をそのまま伝えているだけです。それに私が伝えたところで貴方が信じなければ意味が無いのです。貴方には魔王の力は使えない。貴方が使えるのは魔王の力ではなく勇者の力のみなのです。ですがその力が私と魔王の力を引き継いでいる状態だと考えれば良いでしょう。だから私はその力を引き継げば貴方は再び勇者の力を使うことが出来ると考えました。ですが、私との契約で私の力が混ざってしまったせいで勇者の力を使えなくなったのでしょう。そのせいで貴方の中に残った力が勇者の力と魔王の力に分かれたのだと思われます』

俺はその話を黙って聞き続けた。その話の内容から考える限り俺は、自分の勇者の力を取り戻したいのにそれができない状態にあるのだと分かった。しかし勇者の力を取り戻す為に俺にはどうすればいいのかという具体的な案が見つからず。俺は困ったように頭を掻き。その様子を見かねたのかサーティティーナは提案をしてくれた。それは勇者の力の分離方法だった。俺はその内容がどういうものなのか分からないが。その方法は恐らくサーティティナと契約することなのではと考えるが。俺は彼女に勇者の力を渡すという行為がどういう結果をもたらすのかわからなかったので躊躇してしまう。しかしサーティティーナはそれでも構わないと言ってきたのである。その様子からは彼女が絶対に後悔しないと思わせるほどに真剣な表情だったので信用することにした。

だから俺は彼女と契約を結び。その力をサーティティナに譲渡したのである。彼女はその力を上手く制御する事に成功したらしく。自分の中で力を使いこなし始めていた。俺はそれを見ていたら自分の中に新しい魔力が流れ込んできたことに気付き困惑する。それから、なんとなくだけど自分の中に残っている勇者としての自分が覚醒していくのを感じ取り驚くのであった。それからサーティティーナには感謝を伝えることにしたのだが。何故かそこで俺は自分の記憶の一部が戻ったことに気付いたのである。それから俺はサーティティナと一緒にフェンリウルと話をする為に、魔人の街の奥地にある城に案内してもらったのだが、そこではフェンリウルだけではなく、もう一人の魔人の姿があり。どうやら彼等二人は仲が良いようで会話をしている所だった。

そして俺はフェンリウルとの話し合いを終えた後にサーティーティーナと共に彼等に別れを告げてから帰路についた。その後俺は一度王都に戻り国王に会いにいった後で屋敷に戻ったあと。兄上の部屋にいき事情を話すと俺の話を聞いてくれて喜んでくれる姿を見ると。この人がこの国の王太子で良かったなと思うことが出来た。俺は、兄上から頼まれた仕事をやり遂げた達成感に満ち溢れながら眠りにつくことが出来た。

そして翌日、俺は学園に行き。授業を受けてから放課後に魔人との約束があるという事で、俺と魔人は魔人の城に向かうのだった。俺はその道中でサーティティナから魔王としての俺についての事を聞くことにして。俺はサーティティナから話を聞いていた。

それによるとどうやら俺の中には魔族としての能力が残っているらしく、しかも、俺の体に宿る精霊の加護も魔王と同じ能力だという事が分かってしまう。俺はそのことを知って驚愕するが、よく考えてみれば俺の体に勇者の加護を纏わせたのはサーティティナなので俺の体に何が起きているのか知っているはずなんだが。どうやら、俺の意識がなかった時に起きた出来事に関しては知らないようだ。

《レイティア。君には俺から渡しておきたいものがある。これを受け取って欲しい》 僕はレイティアに向けて。魔王の力の結晶である宝石のようなものを手渡した。これは、魔獣の素材を手に入れるときに、手に入れた魔王石に僕の力を込めて作り出したものだ。これを使えばいつでも魔王としての力を扱えるようになり、魔王の加護がなくとも魔人と同じように戦う事ができるようになるはずだ。そして僕はその宝石のような魔石を彼女の胸に押し付けると、突然その宝石のような物が激しく光り輝きだすと彼女の全身が包み込まれていった。すると、彼女の容姿に変化が起き始める。その姿形は変化しておらず。彼女の見た目自体は特に変わってはいないが。彼女を中心に黒い波動が広がりはじめ、やがて彼女の姿が見えなくなってしまう程に広がってしまうと。今度は逆に彼女を中心としてその黒き闇は縮小を始め。そして、最後には、そこには一人の少女だけが佇んでいた。

俺はその少女の外見を見て目を大きく開くと思わず息を呑んでしまう。そして、その美しさに心を打たれてしまうが。俺はどうにか平静を保ちつつ声をかけたのである。

『サーティティーナ?』

「お待ちしておりましたよ。勇者様」

サーティティーナが、そう言い終えた途端に俺達の足元から光の輪が出現する。

俺は咄嵯に飛び退いたために、なんとか無事だったが。サーティティーナの方は俺の行動を読めていなかったのか、その光の円から飛び出そうとしていたために逃げ遅れて捕まってしまっていた。そんな彼女を見ているうちに、次第に視界が真っ白に染まっていき俺達は気を失ったのである。

俺は目が覚めると目の前で俺のことを見ながら微笑む美しい銀髪の少女がいた。

俺はそんな彼女を見た瞬間に。まるで電撃でも走ったかのように痺れてしまい、俺は呆然としながらそんなサーティティーナの顔を見つめ続けることになる。

サーティティーナの整った顔立ち。綺麗に手入れされた銀の髪の毛。俺はそのどれもに魅了されたかのように動けずにいたのだった。だがすぐに、この世界では、こういう時は相手の許可なしに異性に触れてはならないという常識を思い出した。その為に俺は直ぐに行動を起こしたのである。

「えっとごめん。その。サーティティナ?」

「どうかしましたか? そんな慌てふためいていて」

サーティティーナは不思議そうな顔をしてから、クスッと笑ったのだ。それを見た俺は自分の心が高鳴っているのを自覚すると同時に頬が紅潮し。胸の中が熱くなっていくのを感じた。しかしサーティティーナはそんな状態の俺に対してさらに追い打ちをかけるような一言を口にしたのだ。

「私の名前を呼んだのですから。もっと気軽に接してくれても良いのですよ」

その言葉で、俺は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じる。サーティティーナの俺に話しかけてくる言葉一つ一つに耳を塞ぎたくなったのだ。俺は彼女の発する色香にあてられそうになるのを必死に耐えながらも言葉を絞り出すようにして口を開くことにする。そんな俺はどうにかこうにかいま見たばかりのサーティティーナという少女のことを思い出そうとした。しかし、俺の記憶の中に彼女は存在していなかったのである。俺の記憶が確かなら彼女は俺の記憶に存在しないはずの女の子なのだが、俺の中にある勇者の記憶にしっかりと存在していた。そして彼女は勇者の記憶の中で一番初めに仲間になった人物であり。彼女は聖女と呼ばれ、皆からは慕われているという設定の美少女である。そして俺はサーティティーナという名前を聞き覚えがあることに気付いた。俺は勇者として転生する前に読んでいる本のタイトルを思い出すとその名前と一致することを確認する。俺はサーティティーナに名前を聞かれたときに、前世で呼ばれていた名を名乗ったのである。その事に彼女がどんな反応をするのかが怖かったのもあるが。自分の事を知られるのは得策じゃないと考えたのだ。そして俺の名前は勇也だと自己紹介を行うと、俺は改めてサーティティーナの姿を見てみることにした。その外見はまさしく、勇者の記憶の中の聖女と呼ばれる美少女そのものだったので俺は動揺を隠すことができなかった。俺はそのサーティティナが身に着けていた服をまじまじと見つめてから俺は思ったのだ。

(確か。この子、ゲームの中では最初に攻略したヒロインの幼馴染じゃなかったけ?)

そう考えると同時にサーティティーナから俺に抱きついてきた。そのことで彼女の温もりを感じ取ると俺は自分の顔が一気に熱くなり思考が停止するのだった。そしてそんな状況になって初めてサーティティーナからいい匂いがしていることに気づくと、頭がおかしくなりそうになるが。ここで取り乱すわけにはいかないと自分に言い聞かせてから俺は冷静さを保つように頑張ったのだ。だがそれでも、自分の中に芽生えたサーティティーナに対する恋慕の感情だけは抑えられなかったのである。俺はサーティティーナを離そうと手に力を入れようとすると。彼女はそれに対抗できるのか腕力にものを言わせて更に力強く抱きしめる力を強めたのだ。そして俺を見上げながら微笑んだ。その瞳は潤んでおり。その表情はまさに愛しい男に向けるような眼差しをしていた。俺はその視線を受けて何もできなくなってしまう。そして俺に出来る事はサーティティーナの体温と、体を通して伝わって来る女性特有の柔らかさと温かさを堪能し、その香りに酔いしれることだけであった。そして俺の頭の中は混乱状態になりつつも、このままの状態だとサーティティーナが危ないと判断し。彼女に問いかけたのだった。

《サーティティーナ。少し離れてくれないかな。このままだと俺は理性を抑えられない》 俺は真剣な表情で彼女にそういうのだが、サーティティナは全く気にせずにそのままの状態でいると俺は我慢できずに押し倒したいという欲求が膨れ上がる。それを必死に抑え込んだ。サーティティーナの体に密着しているために、サーティティーナの心音がはっきりと聞こえ。その事が俺をより一層興奮させてしまった。

「勇者様にだったら私は何をされてもいいと思っています。だから今はもう少しこのままで居させて下さい」

その言葉が俺の頭の中で何度も繰り返され。サーティティーナの言葉を聞くたびに俺はその誘惑に耐えるのに必死だったのである。そしてしばらく俺が押し倒したい欲望と闘っていると。突然扉が開かれたのだった。そこから現れた人物を見て。俺は大きく目を開き固まってしまうのである。そこにいたのはサーティーティーナの父親でこの国で公爵の地位に就いている人。この城に住んでいる人で言えば宰相と呼ばれている人でもある人だ。そしてその人物は何故か俺の事を親の仇のように睨んでいたのである。

俺はそんな公爵が近づいてくると、俺に詰め寄ってきて俺のことを殴り飛ばしてくる。そしてサーティティーナのことも同じように蹴り飛ばしたのだ。そして俺はサーティティナから手を放してしまうとその隙に、俺が今まで座っていた椅子の上に座り込み俺の事を見ながら嫌味な笑みを浮かべたのだった。

それから俺はサーティティーナの父親がどうして俺のことを攻撃したのかわからず。そして、サーティティナは俺のことを見ていないで床の上で痛みに耐えるように苦しんでいる様子から何かの魔法によって操られていると推測して。俺はサーティティナが父親にされた事に対して怒りを抱き。その元凶をどうにかしないといけなくなる。そして俺は、俺の事が憎らしく見えている公爵に質問することにした。

「どういうつもりですか。俺はサーティティーナを襲おうとしたんじゃなくて話をしていただけなのに」

俺がそういうと公爵は俺に聞こえるような舌打ちをしてから、まるでゴミでも見るかのような冷たい目を向けてくる。

「それは、私がサーティに言い聞かしていたからだ。お前は、サーティに手を出すのはやめなさい。と」

俺はそんなことを言われて唖然としてしまうが、俺の予想が当たっていればこの人はサーティティーナの父親のはずだが、どう見ても別人にしか見えないほどに俺に対する対応が違うのだ。俺はその事で、目の前にいる男は、もしかしたら偽者ではないのかと思い始めていた。そこで俺がその疑問をぶつけると公爵が、サーティティーナの父親であることをあっさりと認めた上で、この城の人間全員を操る力を持っていると口にしたのである。

そしてサーティティーナに何が起こったのかという説明をしてきたのだった。俺はその事実を聞いて驚いたものの。サーティティーナの父親であるその男が、そんな力を持っているとなれば納得せざるを得ない。だが、そうなってくるとますます俺はこいつのことが嫌いになる。サーティティーナに対してあんな扱いをしたのなら許せない。

俺はサーティティーナに優しく接してから彼女を落ち着かせるとサーティティーナが俺を頼ったということもあって、サーティティーナの事を何とかしようと決めたのである。だがそんな時、この城に侵入者が現われたという報告が入ってくるのであった。

僕は学園の校舎に向かって移動をしながら先程の出来事を思い返す。あのサーティティーナと名乗った女の子に出会ってからというもの、僕の心の中に渦巻いていたモヤモヤとしたものが晴れた気がしたのだ。まるで長い間感じていた重りが外されたかのように気分が良くなり、気持ちに余裕ができたことで周りの景色をゆっくりと見ることが出来るようになったのである。そしてその時の僕はそんなことを考えながらサーティティーナの綺麗な銀の髪と、透き通るような肌、そして宝石のような瞳がとても綺麗に思えた。そんな彼女と触れ合った感触を思い出しながら歩いていくとあっという間に目的の場所に辿り着く。そして教室に入ると、既に大半の生徒が集まっていて、その中に僕が助けようとしたレイラと。もう一人、レイリアと呼ばれていた子がいたのである。そしてその二人の顔はどこか似通っていた。

そんな二人が席に着くとすぐに担任の教師がやって来て挨拶を始めた。そして教師はいつもと違う授業の内容について話す。

「皆さんに今日から新しい授業を行います。その名も聖刀使いの授業です」

そう宣言すると、先生は僕達が持っていた木刀を没収し代わりに一振りの刀を手渡したのだ。そしてそれを皆に配った後に教師が聖刀の使い方を説明し始めたのである。

聖刀は使用者の能力次第で性能が変わる特殊な武器であり。その聖剣には、それぞれ名前がつけられているらしい。例えば今渡されたのは、聖刀:光華という名前なのだそうだ。聖刀には聖刀技と呼ばれる固有の能力があり、それは所有者によって異なるのだとか。だけど、基本的に所有者の魔力と、それに対応した属性の力が込められた刀でしかないということだ。

その聖刀技の説明を終えると聖刀の簡単な特性についても話し終えたところで。最後に実践をして見せて欲しいと言われ、教師の指示に従いながらクラスメイト達は聖刀を使いこなす為に頑張って練習を開始したのである。だがその中で一人だけはぐれるようにして他の生徒たちから離れたのだ。僕は、はなれたところにいた一人の少女を見つけるとその少女のところまで行くと話しかける。彼女は僕の顔を見ると顔を背けたが。僕が話しかけると、無視することが出来ずに答えてくれるのだった。

彼女はリリアーナと言う名の伯爵家のご令嬢だそうだ。聖刀を上手く扱えないで、聖刀の扱いを苦手としているそうで、聖刀を没収されても仕方ないと言っていた。だが僕は彼女に、聖刀が聖刀の力を引き出し切れていないだけで。聖刀の力を完全に引き出せさえすれば問題ないのではないかと言ってみる。すると彼女は、確かにその通りだと肯定してくれた。そのおかげで彼女が僕に興味を持ってくれたようだ。そして彼女がどうして聖刀を上手く使えなくなってしまったのか理由を聞くことにしたのである。

彼女はこの学園に入学した際に聖具を使って戦う訓練を受けていたのだそうだ。しかしある時、その教官の一人が彼女のことを気に入り。自分だけの物にしたくなって強引にキスを迫ったのだという。そして彼女が拒絶しても無理やりに口づけを交わしたのだそうで。それから数日後にその訓練所では行方不明事件が起きる。彼女の他にも数人、その教官に連れ去られた生徒もいたので彼女は自分の身に起きた事を話す。そして、それ以来。聖刀を持つとなぜか頭が痛くなり。思うように聖刀を使うことが出来なくなり、その結果として聖刀は取り上げられてしまったということだった。

(これはまさかあれだよな。ゲームでいう所のバッドエンドの一つだよね?確か。確か、ヒロインは聖刀の力で教官を撃退しちゃうんだけど、その事がバレたヒロインは国に拘束されて酷い仕打ちを受けるんだっけ?)

そんなことを思い出しているとその話を横で聞いていた、同じグループの子が近づいてきたのだ。彼女はリゼと言い僕に気軽な口調で話しかけてくる。彼女曰く。その話が本当なのか知りたいと言ったのである。その言葉を聞いた僕は、リゼさんにどうしてそのようなことを聞くのか尋ねると、なんでも、この話はよくある話だから真偽を確認しておきたかったと言われた。だがその話はすぐに終わってしまい、結局真相がわかることはなかった。

「じゃあ俺が試してあげるよ。その女を、俺のものにしてやる。抵抗するならお前を痛めつけてでも言う事を聞かせるだけだ。安心しろ殺しはしないさ。それにそいつらはもう手放したりはしない。お前は、これから一生、俺のために尽くせばいい」

男はそういうと下品に笑う。俺は、この男をこのまま放置しておくと何をされるかわからないと判断し。すぐに行動を開始する。まず俺はサーティティーナの肩に触れてそこから俺の思い通りに動けるよう暗示をかけると、そのままサーティティーナを連れて、サーティティーナの父親がいると思われる部屋の中に入ったのだ。その部屋の中にはサーティティーナの母親と父親である公爵がいたがそんなことはどうでも良かった。俺にとって、今重要なのはこの部屋にいる全員を無力化することだったのだから。

俺はその部屋にいた人たちに向けて、とりあえず気絶するようにと命令を出して全員眠らせる。その作業が終わると次にサーティティーナに、ここから出て行けと指示を出すとサーティティーナはその言葉を俺に言われるまま実行したのだ。サーティティーナが部屋を出ていったのを確認した後で俺の事を見ていた二人に俺は目を向けた。その瞬間、二人は悲鳴を上げて床に倒れた。そしてその二人の意識を強制的に失わせると、サーティティーナの父親と母親が起き上がる前に二人の体を操り人形にするのである。俺はこの二人の事を操って俺の事を襲うように指示を出させる。だが、その事にサーティティーナの両親は反対するが、この国で一番偉い人の二人が、そんな事を言うなんて滑稽だと思い。その二人に、俺はサーティティーナに危害を加えようとする奴は容赦なく処分する事を伝えたのである。

俺はそれから自分の事を攻撃してきた男たちに反撃したのだ。サーティティーナに襲おうとしていた男は、そのサーティティーナの父親であり、俺が今まで話をしていた人物だったが。彼は、俺に殴られた後でサーティティーナの父親が持っていたはずの短剣で斬りつけられるが。その攻撃を難なく避ける。そして、その攻撃を避けたことで、サーティティーナの父親は動揺したが。それも俺にとっては想定内だった為に対応出来る。そこで、俺は、自分が着ていたローブを脱ぐとそれを相手に投げつけ。それが視界を隠している間に相手に接近し腹を思いっきり殴った。すると相手の口から血を吐いたあとに動かなくなるのがわかったのである。

これで全員終わったと俺は判断してからサーティティナを呼び戻すために再び部屋の中に戻ってきた。するとちょうどよく部屋に入ってきたサーティティナと視線があってしまうと彼女は驚いたような表情を見せるのだが。すぐに何かを察したのか真剣な眼差しになったのだ。俺は、俺がここへ来た本当の目的を彼女に説明することにする。

俺がこの場所に来た理由は二つあった。一つは、このサーティティーナという娘の父親にこの娘の事で話をするためだった。そしてもう一つの目的は。彼女が俺のことを好きだという感情を封印する為でもあったのだ。だがそれはあくまで表向きの目的であり、実は、その裏には、この少女の父親をこちら側に引きずり込む必要があったのである。その方が色々と都合が良いからだ。なのでサーティティーナに事情を説明しながら、その父親の方を見るとサーティティーナの父親は何故か固まったまま動かない。

もしかしたら目の前で起こったことが衝撃すぎて反応できなかったのかもしれないなと俺が考えていると。そんなサーティティーナは俺の話を聞いてもいまいち状況がつかめていない様子だった。それを見た俺がこの国の国王であるレイティアの事を話してから俺の仲間になるかどうか確認をする。その質問を受けたサーティティーナは自分の母親が殺されたという話を聞いて驚くと同時にその犯人である公爵に対して憎悪を抱くが、それと同時にサーティティーナは自分自身に対して怒りを覚えたのだ。そのせいもあってか彼女はサーティティーナに対しての憎しみも強く抱くことになった。そして彼女はサーティティーナを殺すように仕向けた、俺の言葉を聞き入れたのである。

(よしっ!ここまで計画通りに行くとは正直思わなかったな)

そして彼女は俺に命乞いをしたのだ。彼女は、まだ幼いのにも関わらず。自分の意思と関係なしに両親を殺されるという悲惨な経験をしてしまっており。これ以上は誰かに利用されたくないと思っていて、自分を助けてくれた俺の言うことを聞くことに決めたのだそうだ。だがその事は予想以上に簡単にうまく行ったのである。その証拠として。先程までこの場にいた公爵が突然姿を消してしまい。サーティティーナの母親が俺達の方を恐怖の目つきで睨んでいたのだった。だが彼女はそんなことを気にすることもなく。ただひたすらにサーティティーナが自分に逆らえない存在になったことに歓喜し喜んでいる。

そしてその事を確認したところで俺は、改めて、サーティティーナに聖刀使いの訓練を受けて貰うことを伝える。だが彼女はいきなり聖刀を使う事が出来るようになるとは全く思っておらず。訓練所に通うことも拒否してしまったのだ。それなら仕方ないと諦めようとした時、ある人物が助け舟を出してくれる。

「大丈夫です。あなたにはすでに聖刀を使える素質があります。私と一緒に、特訓をしましょう」

そうして俺はリリアーナと共に学園の地下にある施設へと向かいそこで聖刀を使った戦闘訓練を行ったのだ。

私は今とても混乱していた。何故ならば目の前にいる男が、私の憧れていた人物で、なおかつ私の恋人だと思っていた女性を騙していて、さらに私がこの学園で大切に想っていた少女にひどいことを行おうとしていたという事が判明したからだった。だけどそんな事実を知ったというのに。それでも私は、彼に幻滅することが出来ずにいたのである。

その理由の一つに。彼が、自分の仲間を自分の手で殺してしまうという行為に及んでしまったのだ。その事がショックだったというのもあるのだろう。だがそれだけではないのだ。それは彼によって洗脳され操られてしまっていたとはいえ、自分の父親を殺してしまっという事が大きな要因となっているのだと思う。だが一番の問題はその事を自覚していても尚、その事が許せなくて受け入れられない自分の気持ちなのだと思う。

その事を考えるだけで頭が痛くなる。だからなのかは知らないが、私は、頭が痛くて仕方なかったのだ。その事に不安を覚えてはいるものの、今はその痛みに意識を割いている場合じゃないと思ったのである。だからこそ、気を引き締め直したのだ。するとその時である。急に頭に鋭い痛みが走ると私はその場にうずくまった。するとその事に気がついた男性が、慌てて私の事を心配してくれたのだ。そして、男性は私の事を落ち着かせるために自分の事を信じて欲しいと言い聞かせてきたのである。

私はその事に関して何も言い返すことが出来ないまま彼の言葉に従って黙り込んでしまった。すると彼は、私を抱き寄せて優しくしてくれる。そしてその後に彼は私に何かの薬を飲ませてくれたのだ。そうしてしばらくして頭痛は嘘のように治まり、体調もよくなったことで私はようやく冷静な判断が出来るようになる。

「お身体はもうよろしいのですか?」

彼は、まるで優しい兄のような態度で話しかけてくれているのだけれど。今の私にはまだ警戒心が強く残っている。それに今さっき、その女性の事を騙すだけでなく、無理やり唇を奪ってキスをしていた光景を見てしまったので余計な疑いをかけてしまっているのも確かだった。だが、だからといってここでこの人を責めてもどうしようもないのは確かで。まずはこの人の話を聞かないとと思い、この人がなぜこんなところにやってきたのかを確認する。その話を詳しく聞いてみると。どうやら、この学園では定期的に生徒達の強化合宿みたいなものが開かれているのだという。しかも今回はこの国のトップクラスに位置する実力を持っている人たちを招待しているという話で、その人達の実力を底上げするために呼ばれたという。しかし、その人たちの事を信用しきれていない一部の人たちは、この学園を抜け出してどこかへ行ってる人も何人かいたのである。

その事について私は不思議に思ったので、その事をこの男性に伝えると彼は苦笑いをしながら、その事に納得がいったらしく、少しだけ説明をしてくれたのである。どうも彼らはここに来るまでの道のりの中で魔物と戦ってきており疲れていたので部屋で休んでいられると聞いた瞬間安心したという。だからこの国の最高権力者たちがいなくても大丈夫だという事で、この人は何も言わずにこの国から逃げ出したらしい。

「あのっ、じゃあ貴女は一体何のためにこの国に来て。それになんで、私を助けてくれたのですか?だって貴方はこの国の敵だったのですよ」

そう考えると私はどうしてもその行動に不信感しか抱けず。どうして自分が助けてもらったのか分からずに。それを問い詰める事にしたのだ。

その事を聞かれると男性は頭をかきながら何かを考えているようだったが、しばらくした後で口を開いたのである。

俺は自分の過去をサーティティーナに打ち明けることにした。別に隠すことでもない。むしろ、自分の過去の話を知らないサーティティーナに教えるべき事だと俺は考えたのだ。だが俺はサーティティーナに嫌われないようにするため、彼女だけには自分の本音を打ち明けたのである。だが、やはりというべきかサーティティーナは自分の母親をその手にかけたという話を聞いた瞬間俺に対して嫌悪感を示すようになっていたのだ。

そして俺はそんな彼女の反応を見ながら自分の考えを口にすることにしたのである。確かに俺は今まで沢山の罪のない人間を殺してきたのだ。その事は許されるものではないと思っている。だが、それに関しては、俺なりの正義があった。それは悪人を成敗するという事であり、決して殺人を犯したわけではない。ただ、俺は悪が嫌いでそういうものを見つければ問答無用で叩き潰してきたのだ。

その結果、この国の治安が一気に良くなった事は俺にとっては喜ばしいことだった。だがそんなことをすれば当然、周りからは疎まれる。だから、俺は周りの人々に対して、自分は勇者であって、自分がやったことは全て正しいと主張し続けてきた。しかしその主張も虚しく俺に対する反発は日に日に強くなっていったのだ。

そんなある時である。この国は戦争を始めた。その戦いは激しく、多くの命が失われたのだった。だがその時、一人の少年がその戦争に参加していたのである。彼は、当時16歳くらいだったのだが。圧倒的な戦闘能力を誇りその戦争で英雄と呼ばれるようになり、その功績を評価され今では騎士団の副団長を務めるほどにまで成長したのだ。

そして、ある日、俺の所属していた部隊の部隊が壊滅寸前に追い込まれたのである。その戦場には、数多くの強力な魔物が出現していた。俺は、部隊の仲間を救うために、その化け物たちと戦い、そいつらを全員倒すことは出来た。だが、俺もかなり傷を負ってしまい、これ以上は戦えない状態まで追い込まれてしまっていたのだ。そんな時だった。俺はその少年が俺の部隊の部下を守るために戦っているのを目撃してしまう。その時に、その少年の背中が俺にとってすごく眩しかったのだ。俺も、あんな風になりたいと、初めて本気で思い願ったのだ。

だからこそ、俺も力を貸したいと志願し俺自身も戦ったのである。そうして何とか部隊を立て直した俺達はなんとか、無事にその土地を脱することができたのであった。

その後、俺と仲間達の部隊は王都に帰還してから国王と王妃に今回の事件の報告を行ったのだ。そこで国王はある人物に対して褒美を与えようと俺達に提案したのである。それがその少年だった。そして俺達の部隊は彼に付いていくことを決めてその旅に同行することになったのだ。

そこで問題が起こった。彼が、俺達が追ってきた男に命を狙われることになったのである。彼はその事を知っている様子はなかったから、恐らくは偶然だったのかもしれない。その事が俺達の中では気がかりだったのだ。その件に関して俺達の中でも意見が割れて結局彼をこのまま行かせていいのか議論になったのである。その時に一人の女性が自分の身を犠牲にしようとしたのだ。

「わたくしの身が危なくなるようなことが今後起こるのであれば。いっそのことこの場で死んでしまいたいですわ。それであなた方のご主人様をお守りできるのなら」

彼女はその一言で自分の死を選んだのだった。だけど俺はそんな事はさせたくなくて。彼女が死んだあとに後悔しないように俺は自分の意思を押し通した。そのせいか分からないが、結果的に、彼女は今も生き続けているのだから。

そしてその数日後である。ある噂が流れてきた。それはこの国に魔王軍が襲来してくるという噂だった。俺は最初信じなかったが仲間の一人である青年がそんな噂が流れているのを目にしたと聞き、すぐに真偽を確かめるべく動いたのだ。そして実際にその話が嘘ではなく本当のことであると確認することが出来たのである。俺はその情報を得た時点で、自分の仲間を数人集めて、その話を信じていなかった者たちを連れてその場所へ向かったのだ。

その場所は山奥にある大きな建物であり、そこが何かは分かっていた。そこは学園だったのだ。そこで、俺たちはその学園に潜入してその魔王軍の軍団と思わしき奴らの情報を仕入れることを計画したのだった。しかしそこに、その情報が漏れているとの情報を入手したので。その事を知った他の部下たちはその計画を実行する事をためらっていたのだ。だがそれでも、この計画を決行することをやめられなかったのだ。

そうしてその学園に侵入すると予想通りに、敵と遭遇する事が分かったのである。そして俺はその戦闘に参加し、その場を仕切る事になった。すると敵の大将と副将を倒すことに成功した。そして、後は幹部と思われる二人をどうにか出来ればいいと思ったのだ。そして、俺が倒した一人がどうにもおかしいと感じてその者の体を詳しく調べたところ、なんとその男は人間の死体と自分の魔力を組み合わせて作られた人間である事を知る。そして、もう一人の男がそれを見て動揺しているのを確認した後で。その男の隙をついて攻撃したのである。

すると俺は相手の体に刀を刺し込んだのだが、その刀は相手に触れる前になぜか弾き飛ばされてしまった。すると次の瞬間に自分の腹部に痛みを覚えたのである。それはまるで刃物を突き立てられた様な鋭い痛みで、俺はその場に膝をついてしまった。

しかしその時である。俺は突然頭に強い衝撃を受け意識を失ってしまったのである。だがその時の記憶は途切れていて思い出せない。ただ、その時俺はその女の事を睨みつけた記憶だけがあった。しかし気がついた時にはその女は俺に謝っていて、しかも俺のことを心配してくれているという態度をとっていたのである。そんな彼女の態度を見たらとても怒る気になれずに俺は黙って許すことにしたのである。

※ 私は彼の口から聞かされた話の内容に驚きしかなかった。なぜなら自分の母親が殺されていたというのだ。それも私の実の母親だというのである。その言葉を聞いたとき、思わず泣き出しそうになったが必死に我慢をして、涙を見せないように耐え抜いた。そして自分の父親が、まさかの魔王だったと言う事実を聞いて余計に頭の中が混乱していたのだ。

(一体どういう事なの?確かに、私が聞いたことがある話では、その人の父親は人間のはずよ。だけどそれが魔王だって言うのはあまりにも信じられない話よね)

私は自分の父親である存在について考えを巡らせることに精一杯になり、彼への質問ができなかったのである。その事を私は悔やんでいた。だから、彼が自分の母親のことについて語ってくれたのは、正直助かった。そして彼は私と似たような立場であったことも分かり。その事に少し共感を抱いたのだ。その事から私は彼ともう少しだけ話をしたいと思い声をかけた。しかし、そこで予想外の事が起きた。なんと彼は、自分と会話をするのに違和感があると言い出してきたのだ。しかもその内容が意味不明なものであった。だがしかし、彼は本当に不思議そうな表情をしていた。つまり、彼は今目の前にいる人物が誰なのかわかっていないということになる。

私はそんな彼の様子に、もしかするとこの人は私と同じ状況下におかれており、私のように何かしらの力で人格が変わったという可能性が高いと予測したのだ。そして彼は私に対して自分の事を伝えてきたのである。それを受けて私は彼が、レイル君であることを改めて確信したのだった。だがそこで彼はとんでもない事を口走ったのである。彼はなんで自分の名前を知っているんだと言い出したのだ。そして、私の方もその事で困惑してしまい、結局のところその日は、それ以上の進展がなく終わってしまうことになるのであった。

それから一週間が経過したのだが俺は相変わらずサーティティーナに話しかけられないでいた。その理由は簡単である。まず、サーティティーナの方から避けようとしている節が見て取れたからだ。彼女はあの日の俺の発言に対して思うことがあったらしく、あまり俺と関わらないようにしているようだが。しかし、それでも俺は彼女に声をかけ続けたのである。

「サーティティーナ様。あのっ」

「あっ。すいませんラスター先輩。用があるので失礼しますね」

俺はサーティティーナを呼び止めるために彼女の元に駆け寄ろうとする。しかし、俺が近づくのが見えた途端、サーティティーナは俺に対して逃げるように走り去ってしまったのである。その様子を見ていた周りの人々は彼女のその行動が不自然に映ったようで俺に対して疑問をぶつけてくる者がいたのだ。

「お前、いったい彼女に何をしたんだよ」

「いやいやいや、特に何もしてないんだけど。ただ俺は普通に彼女に話しかけていただけだし。それに彼女の方に近づこうとしただけで逃げられる始末だぜ?」

俺のそんな発言を耳にして周りの者達は首を傾げていたのである。そのせいで、さらに周りから不審者扱いされてしまう。そんな日々が続いたことで俺はとうとう周りに人がいなくなった時にサーシャに相談することにした。そして相談を持ち掛けた結果。彼女はその事を解決する方法を提案してくれたのである。

その方法というのが、まず俺の見た目を、サーティーそっくりに変えてから。彼女に接触するというものだった。それを実践したら俺は見事にその方法でサーティナに近づいたのだ。そうすると彼女はその事を喜び始め、最終的には俺に笑顔を向けるようになった。俺はその姿をみた時俺は嬉しさを感じてしまう。その笑みはとても愛おしく感じたのだった。そんなこんながありつつ、彼女と俺は少しずつだが、距離を縮めることができた。

そんな時に俺達は王都に戻ることになった。理由は単純で、そろそろ魔王軍との戦いが迫ってきているとの情報が入ってきたからである。そんな理由から、王都に戻った俺達には毎日訓練の時間が用意されていたのである。

俺達が戻ってきたときにはもう既に学園の人達もある程度レベル上げが出来上がっていたみたいで、王都に戻ってきてからの俺達の訓練に付き合えるほどまでに成長してくれたのである。そこで俺達が教えていたのは剣術の型などが中心だった。これは俺達と一緒に戦う人たちのためでもあり、今後の戦いに備える為でもあったのだ。

そうして俺達が戻ってきてから三か月が過ぎた頃、ついに魔王軍の軍団の進軍が開始されようとしていた。しかし、こちら側としては戦力差もあり、なんとかなりそうだったので俺達が前に出る必要はないだろうという話になったのだ。だが、それでも万が一に備えて俺達勇者パーティの出番はあるだろうということだった。俺はその事を聞いてホッとする。

「さすがに今回に関しては俺たちが出るほどの事にはならないかもしれないな」

俺はサーシャにそういうと彼女は俺の顔を見上げて微笑んでくれた。

「でもラスターさんの剣の腕はこの世界で右に出れるものは居ないでしょう?なら安心ですよ。だって私の見込んだ人ですもん」

彼女は自信満々でそう言い切ると、俺に近づいて頭を撫でてくれて、俺は恥ずかしくなったので照れ隠しでサーティアの頭も同じようにしてあげるのであった。

そんな風にじゃれ合っていると俺達に呼び出しがかかる。その内容は学園の生徒が一人行方不明になっているらしいのだ。俺はそれを聞いたときすぐに、嫌な予感を覚えた。それは、今回の騒動に魔王軍が関わっているのではないかということだった。その事を学園の人に尋ねてみると。どうやら学園の生徒で間違いないとの返答を得ることが出来たのである。

その言葉を聞いた瞬間に俺の中で一つの答えが出た。その生徒というのはサーティナであると。俺はサーシアと共にサーティの捜索を始めることにした。学園内の建物内を探してみても見つからないので、おそらく外にいるのだろうとあたりをつけ外に出てみる。そしてその予想通り、サーティは学園から出て行く姿が目撃された。その事を確認しながら追いかけている途中で一人の男性と出会う事になる。

俺は彼と出会った時。一瞬だけ警戒をしてしまう。しかしその男が着る服装を見て俺は警戒を解くことになる。なぜならその男の格好は騎士だったのだ。だから俺は彼にサーティの事を知らないか尋ねたのである。しかし彼はその事について何も知らないような態度をとっていたのだ。だが俺はその時、なぜか嘘だと直感的にそう思ってしまう。だが、その事を指摘する暇もなく、俺は突然何者かに襲われたのだ。そして俺はそのまま地面に倒れ伏すのであった。

(くっ、体が動かない!俺はこのまま死んでしまうのか?せっかく魔王軍と戦おうとしていたのに。まだ何も成果を残せていないのに)

俺が死を悟ったその瞬間である。サーティが俺の元に駆けつけて来てその人物と戦闘を開始する。俺はそれを見た後で意識を失うのであった。しかし俺はこの時に不思議な体験をする。まるで誰かに憑依されているかのように、自分の意志に反して体を操られていた感覚に陥るのであった。その現象がしばらく続いた後で俺は意識を取り戻す。

そして俺の目に最初に飛び込んできた光景は。サーティの後ろ姿を眺めているという、不可解なものであったのだ。

俺はその時になって自分がどうなったのかというのをなんとなくだが理解できたのである。

※ 私は自分の目の前にいる人物がラスター先輩だという事を確認する。しかしその時の先輩の容姿が私の記憶の中のものと大きく変わっていたため私は思わず声をかけてしまったのだ。だがそんな私の言葉を遮るように先輩は自分の体に向かって話し掛け始める。

そして私はその事に驚いてしまい固まってしまっていた。なぜならその人物は先輩が今まで使っていたものとは違って、かなり強靭そうな肉体になっていたのだ。しかも私の知るラスター先輩よりもずっと強い。

(どういうこと!?まさかこの人って、別人なのかな?)

私がその考えに至った時である。突如として私と入れ替わった人物が、その正体を現したのである。

「久しぶりだな。我が息子よ。しかし残念だ。我の力を使ってもこの程度の実力しかないとは」

私はその言葉を聞いた途端に私は全身を硬直させてしまう程の恐怖を味わう事になったのである。そしてこの時私は悟ってしまった。今自分の目の前に現れた相手こそ、魔王軍幹部の一人だということに。しかし、そんな私の事を無視して彼は自分の話を続けるのである。

「まあ良い。それよりも今はこの状況を何とかしないとだな。貴様も見ただろう。今の現状では、我が娘が負けることはほぼありえない。そうなると必然的に、貴様に待っているのは死だ。そこで提案なのだが、もしこの先お前の命が惜しければ。お前の知っている情報を全て渡してくれないか?」

その発言を聞いて私は迷うこと無く首を横に振ったのである。私のその反応に対して男は苛立ちを覚える。

「おい、貴様なにふざけたことを言っているんだ?死にたいと言うなら別に構わんぞ。それにもうじきここは戦場になるからな」

彼は私が拒否したことに腹を立てたようであった。だが、それも仕方のないことだと思った。なにしろ自分にとっては何の関係もない赤の他人に対して命乞いなんてしたくないのである。だけど、それがわかっているからといって、簡単に命を預けられる程お気楽な性格をしているわけではないのだ。そんな事を考えていた時に先輩の方で動きが合ったのだ。

それは先輩が男に飛び掛るというもの。それに対して男の反応はかなり早かった。しかし先輩はそのスピードに対応しきれずに地面へと転がされてしまうのである。その様子を見ていて私が感じたのは、やはり勝てるわけが無いという諦めであった。そうして絶望に打ちひしがれていたその時、その隙を突いて男は魔法を放ったのである。

だが先輩はその攻撃を見事に受け流したのだ。そうして再び先輩は立ち上がり攻撃を仕掛けていく。そんな様子をみた男は何かを考える仕草をした直後で、いきなりその場から姿を消して先輩の攻撃を回避したのだった。

「はぁ、はぁ、なんだあの速度は!」

ラスターさんは肩で息をしながら呼吸を整えるためにその場で一旦休憩に入ることにする。だがその間も男に攻撃されるので、休む暇はないのだが、どうにか回避しながら戦いを続けている。

そんな彼の行動を見て、私の中に一つの可能性が生まれ始めていた。

(もしかしたらラスター先輩ならあの化け物に勝てるんじゃないかな?)

そんな希望的観測が生まれ始めてはいたが、しかし、それでも圧倒的に力が足りないのだ。

しかしその時。先輩がこちらを振り向いたのだ。私は彼が何を考えているのかわからずに黙り込んでいると、彼はそんなこちらの状況を把握してくれたらしく、すぐに助けに来てくれるようだ。しかしその時である。男がその姿を現すと。そのままの速度でラスターさんに突っ込んでいく。その速度はもはや人のものではないと思えるほどでその拳を受ければ確実に死ぬと確信できるほどの強さがあった。しかし、ラスターさんのその表情を見ると、余裕があるように見える。なぜだろうか?そう思った次の瞬間。

ラスターさんの右腕が一瞬光に包まれたかと思うと。そこから凄まじい速さで腕を振ると。その拳に光が宿っていたのだった。

そして、その光の筋のような物が一直線に男に向けて飛んで行くと、男は咄嵯に身を屈めて避けたかに見えたが、次の瞬間にはその場には姿がなく消え去ってしまっていたのである。しかし次の瞬間には、男の体が空中に浮かび上がっていたのである。

そしてそれを見た私は思わず唖然としてしまう。

だがその出来事も終わりを告げるように、地面に男の体が落下するのだった。

そうやって戦闘が終わったのを見て、私の中で一つの答えが出た。

(きっと、これが魔王の言っていた勇者の力っていうものなんだね)

「くっ、一体なにが」

俺が目を覚ますと、そこにはサーティーの姿が見える。しかし彼女の目元は泣きはらしたかのように赤くなっており、俺は心配になってしまう。だが彼女は笑顔を俺に見せてくると俺に優しく抱き着いて来てくれるのだった。そして彼女は俺を抱きしめたままで口を開くと俺に謝ってくる。どうやらサーティは自分の力を過信していたようで、自分の判断ミスによって俺を巻き込み怪我を負わせてしまった事がとても悔しく申し訳ないと思っているようである。

その話を聞いた俺は、サーティに俺のことを庇おうと思ってやったのだろうと聞いてみると彼女は素直にそうですと答えてくれて。それなら問題ないと俺は言った後にサーティの顔を見ながら言うのであった。俺の言葉を聞いたサーティは嬉しかったのであろう。涙をこぼし始めたかと思うと今度は笑い始めたのだ。そしてそんなサーティの顔を見つめているうちに俺は彼女への想いを強くしていくのであった。

(俺は彼女を愛している)

ただひたすらに自分の思いをぶつけたいという感情が高まってきた俺は、サーティを自分の部屋に連れて行く事にしたのである。

部屋に入った俺はすぐにサーティを押し倒そうとした。しかしその前に俺は彼女に確認を取らなければならない事を思い出したのである。それはサーティの正体の事である。

しかしサーティが魔王の娘であるという事実を知った俺は特に驚く事もなく受け入れていたのだ。

その事実をサーティナに伝えてから俺は彼女を抱き寄せるようにしてベットの上に押し倒すと、俺とサーティは一つになり。その後の時間を彼女と過ごすのだった。だがそんな時間はすぐに過ぎ去り、俺は眠りにつく事になるのである。そして翌朝になった時俺は目が覚めるなり昨日の事を思い出すことになる。そして俺はそんなサーティナの姿を見て微笑ましくなると同時に、これから先。俺は彼女がずっと一緒に居てくれない事に不安を覚え始める。

サーティナとの一夜を共にした日からしばらくの時間が経った頃、学園内で一人の男子生徒が殺されたという報告が学園内へと伝わる事になる。その事件に関しては犯人はまだわかっていないのである。その事件が起きた場所は人通りが少ない道であり、しかも深夜に起こった事件なので目撃者はいなかったのだ。そのため捜査は非常に難航している。しかし、そんな事件を気にすることなく学園生活を送っていく生徒達はいるのである。その一人である俺もその一人だ。

(まさかこんな形でレイティアさんと一緒になれるとは思わなかったな)

そんな事を考えて俺の隣にいる人物に視線を向けると、そこに立っているのはサーティではない別の人物である。その人は、サーティに擬態化していた魔王軍の魔族であり、名前はミレノネと言った。その名前については、本人から聞いたのではなく。俺の目の前にいたサーティことレイティが教えてくれたのだ。

俺はこのミレノネと初めて出会った時は驚きを隠せなかったが、しかし彼女は自分の事を隠す事もなく、自分が魔族であることや。どうして自分の元にいるのかなどを話してくれたのである。だがその時に、自分はある組織に所属をしているという話をして、そこで任務をこなしているという事も言ってきたのだ。

そしてその時の話によれば。どうやら今回の事件に関して調査するように上から指示が出ているらしく。それを解決すればかなりの報奨金が得られると言うのであった。しかしそれは同時に危険な依頼でもあったのだ。

なぜなら相手は正体がわからない以上は敵かどうかを判断する事ができないからである。そんな状況で下手に動いて相手の罠に引っかかるような事になったとしたなら命を落とす可能性の方が大きい。

だからこそ俺はミレノネの提案に対して慎重に検討をすることにしたのである。だがここで問題が一つ発生した。というのも俺がミレノネの頼みを断った時の反応だ。なんと断られた事がかなりショックであったらしくて。それ以降彼女は元気をなくしてしまっていたのである。それから数日が過ぎたある日の事である。サーティの方から話がしたいと言われたので俺は人気のない場所まで移動する。そこでサーティは真剣な顔で話しかけて来たので何か大事な事なのかと思っていたが。その内容は、魔王軍の一員に入らないかという誘いであった。正直驚いたのだが、魔王軍に所属している事で報酬を得られるという事を聞いてしまうと断るに断れなくなってしまう。だがそんな時にも問題があるのである。それは俺には今、好きな女性がいる事だ。もちろんこの事はミレノナも知っている。

「私はあなたが好きです。だけどこの好きって気持ちに負けないように頑張りたいんです」

「私は魔王軍に加わればそれなりの権力を得る事ができます。その権限を使って私がラスター先輩に告白しますから」

その話をした日の夜から。俺はサーティーからしつこくアプローチされるようになるのであった。

※ 私には、どうしてもやりたいことがある。それは、ラスター先輩のことが好きだってことを他の人たちにもわからせるということ。でもそれだけじゃなくて。もっと私のことを好きになって欲しいとも思うのだ。

そのために私が考えたことはまず最初に私がラスター先輩と婚約をするという作戦である。しかし、その作戦を行うためにはいくつかの条件が必要になるのであった。その一つ目は、先輩が学園を卒業した後というのが必須なのである。これは先輩に婚約者がいない状態でプロポーズしてもらわないと意味がないからだ。二つ目に重要なのは。私がその婚約者になれる可能性があるということを証明しなければならないのである。そうしないといくら頑張ったところで無駄に終わってしまいかねない。

そして私はこの二つの問題を解決する為に。ラスター先輩と仲良くなっていく事にしたのだ。そして、その結果は成功である。私もラスター先輩と話す機会を増やすように行動してみた。そうして過ごしていく中で先輩のことを知ることが出来たのだ。そして、その中でわかったことがいくつかあった。例えば、先輩は今まで付き合ったことがないのだという。さらに言えば異性として意識した相手すらいないみたいである。それを聞いた私は内心でガッツポーズをとる。だが先輩に婚約者がいない事を知っているのになぜ私自身がアピールしなかったのだろうかと思われるかもしれない。

だが、そんな先輩が誰に気があるのかという情報を私は手にすることができたのだ。

それは先輩の親友であるラスターさんからである。ラスターさんは普段の会話からよく先輩の話題を出しては嬉しそうな顔をしていたのだ。私はそれを見るたびに羨ましいと思えるほどラスターさんが先輩に惚れていることを私は知ってしまったのである。

だから私はその情報を元に、先輩に自分の気持ちを伝える事に成功した。そうするとラスターさんが私達の間に入ってくるようになって。私は少し困ってしまう。だけどラスターさんが邪魔をすることはないと言ってくれて、その言葉を信じることにした。ラスターさんの想いを受け止めた上での勝負なのだ。もしラスターさんの気持ちを受け入れられないのであれば。その時には仕方がないと諦めようと思っている。そしてついに、待ちに待ったラスターさんの卒業式を迎えるのであった。

(さあ、とうとうラスターさんの卒業の日がやってきました。これから、私はラスターさんに想いを伝えに行きます)

そんな風に考えているサーティナであったが、しかし。彼女の思いとは裏腹に。彼女は、サーティとサーティナの両方に振られてしまうことになる。

その事をサーティナは知る由もなかったのだった。

私達が卒業をしてから一か月後。

俺は今年も開催される事になった闘技大会に参加していた。ちなみに、去年の大会の成績は俺の中では二位となっており、三位に負けた結果になったのである。

(俺より強い相手がこの大会にはいない)

しかしそんなことを考えていた俺はふとある事を思い出す。そういえばサーティのやつはもう卒業したんだったなと。その考えに至ると同時に。俺の中に一つの疑問が生まれたのだ。俺よりも弱いはずのあいつのどこに勝算があったというのだろうと思ってしまったのである。そう考えた俺だがすぐに頭を左右に振り払うことにした。だって考えてどうこうなるような話ではないからだ。そして俺は再び試合に目を向け直すと。対戦相手と戦うのであった。

試合は順調に進み。あっという間に準決勝になってしまった。そしてここまでの試合を見ていてわかる事が一つだけあったのでそれを口に出していく事にするのであった。それはもちろんこの試合を仕切っている学園の教師。名前は、なんとセバスという名前の男である。どう見ても普通のおっさんにしか見えないのだが、その見た目に反してなかなかの強さを持っているのだ。

俺の中でこの教師の評価は高かった。なぜならこの男は学生の時からの俺と仲が良い友人の一人なのである。そんな奴の実力は高いはずで。俺が学生時代の時にも何度か世話になっており、今回もその恩を返そうと。そんな思いを込めて全力を出すことにする。そして試合が始まった瞬間に、俺が剣を振るおうとした時である。なぜか相手の方が動き出すのが早いことに俺は気づく。そんな状況では俺の動き出しが遅かったこともあり、俺はあっさりと攻撃を避けられてカウンターを食らう。そして俺の首は胴体と離れてしまい絶命してしまうのだった。

その瞬間に俺と相手の首が切り離されたことで俺が負けてしまったという結果だけが残り。観客は盛り上がっていたが。当の本人の俺は何が起きたのかわからず混乱をしていたのである。その事を考えると俺は、すぐに観客席に戻り。自分の身に一体何が起こったのかを確認するのであった。しかし、そんなことばかりしている時間もなく、すぐに表彰式の準備が始まるためにその場から追い出されることになる。そんな状況に納得できないと思ったが。どうせまたどこかで戦えるはずだと考えて我慢することにした。それからしばらく経った頃である。

学園にサーティナが戻ってきたという話を聞いて俺は彼女に会いに学園内を歩く事にした。しかし、歩いている途中、俺はサーティナの居場所を聞くことになるのであった。その相手というのはミレーネであり。彼女が言うにはまだ会えないとの事だ。その事から考えるに俺は、学園の図書館に行ってみる事にする。なぜなら、そこには学園の卒業生たちの書いた本が多く保管されており。その中にサーティナのことについて書かれたものが見つかるはずだから。それに期待して俺は学園にある図書館へと足を運ぼうとしていた。そんな俺の前に現れたのはレイティであり。彼女はサーティナに俺が会わせてくれるようにと懇願してきた。だがそんな事を言われても無理なもんはやっぱり無理である。

俺はそのことをはっきりと伝えて断った。そして、俺は、図書館へ向かおうとしていたが、しかし、その時にサーティナのいる場所に連れて行かれることになってしまう。そこでサーティナからある頼みごとを聞いて引き受ける事にした。そんな感じで話が決まったので早速行動を開始するのであった。

まずはミレーネと一緒にサーティンのところへ向かうことになった。どうやらミレノナにお願いをされていたらしいのだ。ミレノナは俺のところに頼みに来ていなかったし、サーティの方からも俺のことをよろしくと言われたくらいである。その事を考えるとミレノナにはサーティと何かしらの繋がりがあるのでは? と、思うのだが。その事について聞くような時間はないようだ。とりあえず今は、サーティーに会うのが優先なので。そこで思考をやめて歩き続ける。それから少し経つとサーティーとサーティナが二人で話し合っている姿が見えたので俺は話しかけようとした。だが、その時である。いきなりサーティがサーティナの手を引っ張りながら走り始めたのだ。その事に関して何か理由があったのかと思う前に。サーティスは突然振り返り。そしてこちらを見てきたのである。

そしてその時の俺の反応は、まさかと思いつつ驚きの表情を浮かべていると。彼女は不敵にも微笑んで見せる。その様子から俺に対して何か企んでいることが理解できて。そしてその予想はすぐに的中した。

サーティは何を思ったのだろうか。サーティナの手を引っ張って逃げだしたのだ。それを追いかけようとするミレノナだったが。しかし、その必要は無かったようである。なぜなら彼女は立ち止まるとその場に留まり、俺たちがサーティーを追い掛けるまでじっと待っているつもりのようで、俺はそれを見るとミレノナに合図を送り、先にサーティーを捕まえに行く事を伝えた。そして、ミレノナを置いていくような形で駆け出したのである。

「サーティ。止まってくれ」

サーティーに追いついた俺はそう言い放ちながらも手を伸ばしていく。

「どうして私を止めるんですか?」

「そんな事を聞かないでもわかるだろ。お前の行動があまりにも突飛すぎたんだ。だからこそ追いかけた。ただそれだけだよ」俺がそう言ったらサーティーンは笑いながら、しかし目からは笑みを感じられずにこう言ってきたのである。

「ラスター先輩は、私に気がありましたよね。それなのになぜ、そんなに焦るのですかね。私はそんなに魅力的な女性でしょうか。私は、貴女が欲しかった。だからこんなことをしてしまったというのに。本当に、私は罪深い人間ですね」

サーティーンの言葉は悲しく、俺に訴えかけてきているような気がしたのだ。だがそれでもここで引き下がるわけにはいかなかった。俺は自分の欲望のために他人を巻き込む行為を認めるわけにはいかない。それがたとえ好きな人だったとしてもだ。しかし俺はそんな風に思っても、やはり心の奥底ではサーティが欲しいと思ってしまうのである。

サーティと付き合うのが幸せだとわかっていても、サーティを諦めることができないでいた。

※ 私が、ラスター先輩との会話を終えようと決心したのはいいものの。私は先輩に想いを伝える勇気がなかった。それは私が臆病者だからだろうか。そう考えて自分を責めようとしたが。しかしそれはできなかったのだ。それはラスター先輩が私のことを求めてくれているという自信が何故か私の中から溢れ出してくるからだった。そんな風に私は思ってしまうのである。しかし、ラスター先輩と恋人になることができたとしても。私に待っていないかもしれない。ラスター先輩は、あの仮面の神から、その神を崇めている宗教から狙われていた人物だから。もしその宗教と敵対した場合、ラスター先輩の命がどうなるのかは私にすら想像ができないほど危険なものになっていた。その事はラスター先輩自身も自覚をしているはずである。しかし、ラスター先輩がそうやって覚悟を決めているにも関わらず私は不安を覚えていた。

私はそんなことを考えているうちにいつの間にかラスターさんと二人きりになっていることに気づく。すると急にラスターさんに抱きしめられてしまった。私は、心臓が張り裂けそうなほどに高鳴っていく。しかしそれと同時に私は自分の中に秘めていたラスターさんへの想いが爆発してしまい。そのまま想いを言葉にして伝えてしまうのだった。

(好き! 大好きです! 愛しています!!)

そう伝えた瞬間に私は後悔をした。なぜなら私達は、お互いに想い合っていても、決して結ばれてはいけない間柄なのである。そしてその事がわかった瞬間に、私の顔から血の気が引いて行ったのが自分でもよく分かった。私達の関係性はとても複雑であり。とても簡単に結ばれることができる関係ではなくなってしまったからだ。しかし、そんな中で、私達二人の想いを断ち切るような言葉をラスターさんが口にする。

(すまないが俺の願いを聞き届けてくれることはできるだろうか?)

そう言われた私は戸惑いつつもラスターさんのお願いを聞いた方がいいと判断した。その考えに至るまでの時間はそうかからなかったように思える。そう考えるに至ったのはもちろんラスターさんのお願いの内容について深く考えている時間はなかったからであり。それに私はもうこれ以上悩むことに耐えられなかったという理由もあったからだ。だけど私は、この時初めて気づいたのである。私が今まで悩んできた問題はそんなに深く考えていた問題ではなかったということを。そう考えたら不思議と肩の力が抜けていき。私は、自分の本当の気持ちをもう一度確かめることができたのであった。そして改めて自分の心に問いかけてみると、もう自分の心を偽ることはできないと確信してしまったのだ。その結果として自分の口から出た一言が。

(私はあなたの恋人になりたい。この先、どんなに困難な状況が待ち受けていても。貴方を愛し続けられるように努力をします。だからこれからもずっと傍にいたいです)

そう答えると、再び力強く、ラスターに抱き着かれる。そしてラスターさんが、何かを口に出そうとしていたのだが。そこでふっと我に返ったように顔を赤くして慌てている様子が見て取れたので。そんな姿をみた私は、思わず可愛く感じてしまい、微笑むのだった。

そしてしばらく経って、私達が再びお互いの体を話し合った時である。その時になってようやくサーティとミレノナの姿を見つけることが出来たのである。そんな彼女を見て安心したように胸を撫で下ろすラスターの様子から察する限り、俺よりもサーティのことを気にしているようにしか見えなかったので、正直嫉妬してしまうのだが。しかし今はそれよりも優先してやることがあった。

「ミレノナ。そっちは終わったみたいだね」

俺はそう言って彼女の方に視線を向けたのだ。しかし、そこに立っているのはいつも通りミレノナであって。そのことに違和感を覚えた俺は彼女に対して何か変わったことがないかを確認するために質問をしてみる事にした。そして彼女は何事もないかのようにこう返事をしたのである。

(ラスター君に、お礼を言われてから。それから何も起きていないよ。それにラスタ君にはサーティーのことを任せっきりになってしまってごめんなさい。それにミレの事もありがとう)

そう言ってからミレノリは俺に頭を下げてきたのだ。そして俺は、俺の心配していたことは勘違いであったことを確認することができ。そこで俺の中に溜まっていた緊張や、そして重圧が解けた事で一気に疲労感に襲われてその場に倒れそうになったのである。そんな様子に慌てた様子でサーティが支えてくれようとするが。俺にはそれを断る余裕はなく。ただサーティンの手を借りることになってしまった。そしてそんな風にしてなんとかサーティの手から離れ、一人で立ち上がってサーティの方を見つめると。サーティーは俺に向かって手を差し伸べてくれる。そんな様子を見て俺は思った。

(こんなにも心の底から信頼できる相手ができたなら。その人の為なら俺は命を賭けてもいい。そんなふうに思えそうだ。だが俺はそう思えても。きっと俺は彼女に、サーティナには敵わないだろう。だからこそ俺はサーティナの力になりたいと思った。俺なんかより遥かに力があるサーティナが、その力で俺を助けてくれたのならば。今度は俺が、彼女を全力で助けたいと本気で思う)

そんなことを思っていた時にふと思う。サーティは自分のことをラスターと呼んでくれるようになったのだと。だから俺のことも、ラスターと呼んでくれた。だから俺の方は、サーティのことをサーティーと呼びたい。その思いに気づき。そのことについて提案しようとしたその時だった。

俺の背中に強い衝撃を受けてしまう。そして俺はバランスを崩してしまい地面に転倒するのであった。俺は痛みで声にならない叫びをあげると、すぐに後ろを振り返ったのである。しかし振り返ってみてもその人物の姿を確認できず、気になって下を見るとそこには俺の腰に腕を回し俺にのしかかるサーティーがいたのだ。その姿を見てようやく俺に攻撃をしかけてきた犯人がサーティだということが分かり、俺がそのことを伝えようとしたらサーティは俺を押し倒し俺にキスをしようとしてくる。

俺はそんな行動に驚くが、抵抗することを忘れて受け入れようとする。だが、そんな俺たちの邪魔をするかのようにサーティナが俺の前に姿を現したのである。サーティナを見た瞬間にサーティーは俺から離れた。だが俺はそんな状況の中、ある事を思い出して焦っていたのである。

それはミリアナの事だ。ミリーナの魔法にかかっていた彼女は俺の意識を取り戻すと同時にその場から去っていき、その後の行方は分かっていないのだ。そんな焦りを感じた俺は、サーティーナが無事かどうかを確認しなければならない。

そう思ってからの行動は早かったように思う。サーティーンをミレノナに押し付けたあと。すぐにサーティーナを探し始めたのだ。だが結局俺の予想は的中したらしく、ミリーナは教会へと入って行き、そこで俺達は対峙することになったのである。そんな光景を目の当たりにした時、俺はサーティとサーティーナの戦いを止めるために立ち上がろうとしたのだが、そんな暇もなく戦いは始まり。一瞬にして、その場は戦場のような場所になってしまう。しかしそれでも、サーティーの攻撃に、攻撃が当たりそうになりながらもサーティナはその攻撃を全て受け流していったのだった。そんなサーティの動きを見て俺は疑問を抱くが、その答えはすぐに分かることになったのだ。

(まさかサーティーンの力をここまで使いこなせるとは思ってもいなかったが。やはり私の目に狂いは無かったようだ)

そんな言葉がサーティの中から聞こえてくるとサーティーはそのまま地面へ倒れ込み、そして動かなくなってしまう。それを見た俺は思わず駆け寄ろうと思ったが、それを止められたのだ。その止めてくれたのはもちろんサーティである。だが、どうしてなのかは分からないがサーティの声が少し違うような気がしたが、そんな事を考えている余裕はなかったのである。そうして目の前で、サーティーナが俺に剣を向けると、まるで俺と戦おうとするかのようにこちらを見下ろしていたのである。しかし、サーティはどうするのだろうか? そう思った瞬間。

(私はあなたの味方だと思っていますが。あなたは本当にラスターさんのことが好きなんですか?)

そう言った後。そのまま彼女は消えていった。俺は一体なんだったのかと呆然としていると、ミレノーナはそんな様子を見かねたのか俺の元に近づいてきた。

(今のは何?)

その言葉に、ミレノーナは何も言わない。おそらく言うつもりがないのであろうかと俺は考え、そのまま黙っていることにした。

(あなたと私の二人で戦う必要はありませんよね。あなたと私、それにラスタ君と私。それで十分ではないですか)

確かにその考えが間違っていないことには違いはないのだ。しかし、ミレノナに勝てるイメージが全く浮かんできていない。そしてサーティーナもそうなのだが、ミレノンもまた、その圧倒的なまでの戦闘能力に俺は驚いていたのだ。そして、そんな二人が、二人して俺に向かってくる様子から俺は逃げ出すことを決意する。すると、二人は追いかけてきてくれる。そしてそんな二人の様子からサーティーナが俺に対して本気を出してくれていることが分かったのだ。そしてそんな風に必死に逃げている時。ふっと、サーティーとミレノナの言葉が頭に浮かんだのである。

『もしもの時が来た時は私が貴様を助けるから安心するがいい』

『私がラスターさんを守れるほど強くなるまではラスターさんに迷惑をかけないようにするけど。私がラスターさんのことを守ってみせるから安心して』

そんな言葉を思い出した俺は、その時初めて自分がサーティーナのことを信頼していたことに気づいたのである。その事実を自覚した途端、サーティーナは俺のことを捕まえようと走り出していたのだ。そしてミレノナのほうを振り向くと俺は、彼女と一緒に、彼女達三人から逃げた。そして、彼女達が諦めるまで。俺は逃げるしかなかったのだ。私は今。ラスター君がミレちゃんと楽しそうにしているのを見ながらお茶会の準備をしていたのである。私はラスター君のために紅茶を入れることが得意だったのだ。なので今回ラスター君の好みの茶葉を見つけ出し、そして準備を終えたところでサーティンの分も用意したのである。もちろんミレちゃんにも用意しておいたのだ。私は、そんなことを考えながらラスター君の傍で座って待っていると、ふっとミレちゃんの方を見てしまった。

そこでふと思った。あの時、なぜサーティはラスター君の元を離れたのだろう。そう思った時に思い出したのはサーティーとの会話の中で彼女が言っていた言葉である。

「サーティ。私もね、自分の中の闇と戦った事があるんだよ」

この言葉が私を混乱させたのである。なぜなら、ミレちゃんにはサーティの記憶は無いのだから、サーティの過去をミレちゃんは知らないはずであるからだ。そうしてしばらく考えているうちにサーティンは戻ってくるのだが。戻ってきた彼女の姿は、いつものサーティではなかった。そう感じた時には、ミレちゃんがミレティをサーティーンと呼んだ。だがそんな彼女の声をサーティーは聞いておらず、なぜかラスター君を押し倒したのだった。そんなサーティの姿を見たサーティーがミレノリだと理解出来たのはラスター君の反応があったからこそだろう。

そうして、ミレノリによってラスター君は倒された。そう思っていた。しかしその瞬間、ミレノリからサーティーの気配を感じることになるのであった。

そう。私はその事に戸惑ってしまったのであった。そうして動揺してしまったせいだろう。ミレノリは隙を見せたラスター君に攻撃を加えようとしていて。そんな状況を見ていたからかサーティがラスタ君に攻撃をしかけていたミレノリを弾き飛ばしたのである。そしてそんなサーティーに対して。

(ありがとうございます。でも大丈夫ですよ)

そう言ってからミレノンが立ち上がる。その様子には、余裕さえ感じられるのであった。

それからは、正直に言って私には何が起きているのかわからなかったのである。ただ、サーティがとても強いことは分かった。そしてそんなサーティに対してミレノンが反撃をしていくが、全く通用していなかったのである。そうこうしているうちにミレノンが地面に倒れ込み。そしてそんな彼女をサーティはじっと見下ろすのだった。その表情は先程までの優しい笑顔ではなくて。冷酷そのものといった印象を受けたのである。そしてそんなサーティは私に話しかけてくるのである。

「さあ。後はお前だけなのだよ。ラスターの妻になる女」

その言葉に思わずドキッとした。その言葉はまさに私の願望が具現化されたものだと言えるのだから。そうして、そんなサーティの様子に驚き固まっているとサーティーはそんな状態の私を無視して、ラスターのところに歩み寄るのだった。

サーティーはそんな俺の様子を見ても気にすることなく。むしろ楽しんでいるようでもあった。そんなサーティーは俺の前に来るといきなりキスをしてきやがったので、とりあえず抵抗しようと試みるが、やはりサーティの方が圧倒的に力が強く。結局されるがままになってしまう。サーティの唇が離れてから俺はなんとか離れようとするのだがサーティがそれを許すわけもなく俺は逃げられなくなってしまう。サーティーの顔を見上げてみるとそこにはサーティーがいるというのに何故かミリーナが目の前にいるような感覚に陥りそうになる。その事から俺の頭の中は、一体どうなっているのか分からなくなっていったのだった。

そんな状況の中。サーティの舌が俺の口の中に侵入してきて、俺はそれに対抗できずにされるままにされていたのである。その事で、ミレーナは俺達の方を見ると。突然何かを感じ取ったかのように慌ててその場を離れていき、そんな俺の姿を見てサーティーンは少し残念そうな顔を浮かべる。俺はようやくサーティに解放されたと思いほっとしていると。今度はサーティは服を脱ぎ始めていて。俺に襲いかかってくるのだった。サーティはそんな状態で俺の首に手を回し、顔を近づけてくる。そうしてキスをする体勢になった時、サーティはふと動きを止め、そんな様子を見た俺は一瞬安心する。

(もう、終わりにしましょう。サーティー。あなたは一体何をするつもりなの?)

そんな言葉と共に、ミレノーナの声が聞こえたかと思うと俺の体にミレノーナが乗ってきたのだ。俺はサーティンがミレノーナに化けていることに驚くのだが、そんな事を考えている余裕はなかったのである。そしてミレアは俺に微笑みかけてくると、サーティーを蹴飛ばし、そのまま俺はサーティーに押さえ込まれていたのだが、それを振り払ってくれたのである。俺はそんなミレノーナに助けられたことに感謝しているとその横からミレノンが現れたのだ。そしてそんな彼女は、サーティを見てからすぐにこちらに向かって走ってきて、そのままミレットに姿を変えたのだ。そうして、その後に続くようにミリアが姿を見せると俺達に近寄ってきてくれたのである。そんな彼女達は皆一様に俺のことを心配そうに見つめてきてくれたのだ。

(みんなごめんなさい。サーティーに操られてましたが。もう大丈夫ですから)

俺はそんな事を言うが、サーティから解放されて力が入らなくなっていた俺はそのままへたり込むとミレノーナに支えられることになる。だが、ミレノーナの手が妙に艶めかしく。そしてその感触でまた俺はミレノーナのことが欲しくなるのだった。しかし、ここでそんな事をすればサーティーンを興奮させてしまうと思った俺は必死に耐えることにする。

(やっぱりラスターは可愛いね。もっといじめたくなったじゃないか)

その言葉を耳にするとサーティはニヤリと笑みをこぼすのだった。

俺はミレットの体から出るとミレノーナを引き寄せてそのまま抱きしめた。

「サーティーはどこに行ったんだ?」

俺はミレノンを腕の中に抱きながらそう問いかける。そうしているとサーティーはどこかに隠れていたのかいつの間にかいなくなっていることに気がつくのだった。そんな様子の俺を見つめていたサーティンはミレノリの姿で俺の頬に触れてくると、その手で優しく包み込んできたのだ。その手の温もりからサーティンに愛情が伝わってきた。そしてそんな俺にサーティが語り掛けてきたのである。

(サーティだよ。ラスター。会いたかったよ)

そんな声を聞いた瞬間俺は胸が締め付けられる想いになってしまったのだ。

(ミティとミリアリアのおかげで。ラスターの記憶とサーティの力を分離できたんだよ。そしてミティが、私の中からラスターの力だけを引き出してくれると私はサーティーになれるのさ。そうすることで、私はラスターにいつでも触れることができるようになるって訳だね)

サーティの言葉を聞き終えた俺は、ふっとサーティーを眺めると、俺はふと思ったのである。

『もしかすると。ミレノナとミレティ。そしてサーティの三人が同時に存在することが出来ればサーティを元の姿に戻す事ができるのではないだろうか』

俺はそう考えると、ミレノリをサーティとして認識していた自分の心を改めることにしたのだ。

「サーティなのか?サーティはミレーネなんだよね」

俺の言葉にミレノリが首を縦に振るとサーティの気配は完全に消えるのだった。そのことでサーティーが自分の中で眠っているのだとわかると、そんな彼女に呼びかけるように、ミレノリに言う。

「ミレノリはこれから、サーティの魂を呼び戻すための準備に入ってくれ」

そう言いながら俺はミレノリから離れると。

「わかったわ。ミレノリも全力で頑張る」

ミレノリがそう答えると俺はサーティのことをミレノリに任せてから。サーティーナの方へと振り返ったのである。そんな俺は、サーティナに、ミティのことについて聞きたくなっていたので聞いてみた。そうすると、そんなミティのことを思い出したからだろう。サーティーからミティに変身したサーティーナは、サーティの記憶について話し始めてくれるのであった。

私はミレティにサーティの過去を話したのであった。私が話す前にラスター君は、サーティの本当の姿をミレノンと呼んでいた。だからサーティーがミレノーナであることを知っているのは、恐らく私とミレノリだけだと思っていた。

サーティにはミリーとミレニーの二人の妹がいることは話していたのだけど。この事はサーティは忘れてしまっているから覚えていないのかもしれない。でも私はそんな二人から話を聞いたことがあり。私はその記憶から二人がサーティの妹だという事が分かったのであった。

(ラスター。私はミレノリよ。ラスターは、今のミレノリが私の中にいるサーティだと知っていてくれたみたいですね)

ミレノリは嬉しそうにしている。そんなミレノリの様子を見ながら。ミレティの口から語られた彼女の過去に俺は驚愕することになった。

ミティが魔王に転生する前は人間でミレニアと名乗っていたそうだ。その事から彼女がサーティーの実の姉であるのは間違いない。そしてそのサーティとは双子であり。お互いの存在を知ったのは十年以上前になるらしい。その頃、二人は同じ家で暮らしていたようだがその家から、ある日、突如両親が行方不明になり。残された姉妹はその家を後にする事にしたそうである。その後、しばらく旅を続けていたのだがある時ミティはとある村で偶然出会った男性と結婚したそうだ。そうして幸せな生活を始めた彼女だったがその数年後彼女は夫との間に子供が出来たらしくその子供を産んだそうなのであるがその子が生まれた直後ミレティは、夫の前から姿を消してしまったのだった。それきり消息を絶ってしまったそうなのである。ただその時はサーティと再会できる日を夢見ていただけと言っていたのでそれほど気にすることはなかった。ただそれからしばらくして。今度は別の街に居をかまえたサーティと連絡が取れなくなったとサーティの母、ラフィアン=フォンが言っていたそうなのだ。

「そう言えば。ラスター君に渡しておくものがあったのよ」

サーティの話をしていると、ふと思い出したミレノナはラスターに声をかける。そんなサーレは懐に手を入れると何かを取り出してくる。それは小さな指輪だった。サーレはそれを俺に見せてくるとミレーナの姿に戻り。ミレアはサーティーから聞いた話を俺に伝えてくるのだった。それを聞いて俺はふと思う。

(ミレノンにミレーナにサーティの三つの魂が存在することができるならサーティーを元に戻せるのでは?)

そんな考えを頭に過ぎらせた時。ミレノリとミレットはサーティーに姿を変えていた。そして、そんなサーティが俺を抱きしめてくれていると俺はそんな事を思った。そして、そんな俺達のもとに、ミリアが姿を見せる。

(ごめんなさい。サーティーさんがラスター様のことを愛してるのは分かっていたのに。私の勝手な気持ちのせいでこんなことになって。本当にごめんなさい)

ミレットは俺の方に歩み寄ってきて、俺の前で泣きじゃくってしまうのだった。そんな彼女を見た俺はサーティの頭を優しく撫でながらミリアに話しかける。

「大丈夫だよ。ミリアはミレットの体に戻ったんだからもうそんな心配する必要はないんだよ。それより俺も少しミレノナにお願いしたいことがあるんだ」

俺はそんなミレアを落ち着かせるためにそんな事を言ってから。サーレをミレティに戻してもらうようにミレットに伝える。

「いいですよ。ミレットの頼みですからね。ミレットにミレットの力を渡したのですからそのくらいお安い御用です。それでミレットは、どうして欲しいですか?」

ミレットの願いを聞いたミレノナがミレットに向かってそう言った。そんなミレットの表情はとても嬉しそうにしていたのだった。そうしているとミレットは自分の中にあった力を使い果たしたのかその場で崩れ落ちる。そしてミレットはすぐに俺に向かって謝ってくるのだが。

「そんなに謝らなくても大丈夫だからさ。それよりもミレットが無事でよかったよ」

俺がそう伝えるとミレットは涙目になっていたのだった。俺はそんなミレットを抱き寄せて、サーティアとミリアに、ミティを目覚めさせるための儀式の準備に入って欲しいと告げる。すると、サーレの身体に入ったミティは、

「わかりました。私も全力で儀式の準備に掛かりますね。ですから安心してください。ラスターさんの大事な方々は絶対に守って見せますので」

そう言うとミティはミレティの中に入る。そうしてから、ミティは俺の方を見つめると、

(私達の命に代えても皆を守るので、後はよろしくお願いしますね)

俺はミティが最後にそう伝えてきた言葉を思い出すと、必ず助けて見せると決意を新たにしていたのだった。

(皆を助けるんだ。その為にも今は、サーティを元の姿に戻した後すぐにでも動けるように、少しでも体力を回復させておくべきだな)

そんな事を考えながら俺はミレットとサーレを交互に抱き寄せるとその温もりを感じて精神集中を行うのであった。

※ 私は意識が途切れそうになっていたのを感じていたのである。そんな時、突然、ミティの身体を借りたミレーネに抱き寄せられた。

そしてミティからミレノリへと姿が変わると。ミティの記憶が頭の中に流れ込んできて、私は、ミティがどうしてサーティとして転生したのか理解することができたのである。そしてミレノリの記憶によるとミレーネはミレットとしてラスター君の婚約者となったミレットの記憶を持っていたのだ。そんな記憶を持っているミティがラスター君を好きなった理由もわかる気がしたのである。

そんなことを考えながら。私の中で、ラスターへの思いを募らせていったミティは。ラスターがサーティを取り戻すために必要な行動を、私の代わりに起こしてくれたのだった。そうすると私の身体に、再び力が湧き上がってくるのを感じる。そのことに私は驚いているとミレノリから、私の姿に戻ったサーティが微笑んでくれる。

(ありがとうミレノナ。おかげで私とサーティーの力が完全に同調したみたい。これで私とサーティーの力を合わせた魔法を使うことができるわ)

ミレティは、そんな風に告げてくるとミレティが行ってきたことを私に伝えてくれたのだ。それを聞いた私は、

(ラスター様がサーティーを救い出すための努力をされていたのだから。ミレーネとしてラスター君を愛した私がその手伝いをしないといけないのは当然の事だと思うわ)

ミティの言葉を聞いた私はそんな事を思っていたのである。

そしてミレティがラスター君のために行動を起こしてくれると、私の中にミレノリとしての意識が芽生え始めるのであった。

(これは一体どういうことでしょうか?なんとなくわかるような気がするのですけど。とりあえずサーティーナに話を聞いてみようかしら?)

そう思うと私はサーティーナの方へ振り向くのだけど、その前に、ラスターから、サーティーがサーティーナの中に宿り。サーティーの記憶を共有したことで、サーティーの人格が蘇ったのだと教えられる。

(なるほどね。そう言う事だったのね。それでミティとサーティーちゃんが一体化したというわけですね。サーティナ。いえ。これからはミティと呼びましょうか)

私はそんな事を考えていると。サーティナに変身したサーティに。これからのことについて説明を受ける。それによれば、ラスタくんが、ラスター様を救ってくれようとしていることは分かる。だがしかし私はそんなラスター君に力を貸すこともできないかもしれない。なぜなら今の私にできることはほとんど無いに等しいのである。だから、サーティとサーティーがラスター君を救うために動いてくれたように。ラスター君を救うために私が何かしらの手助けができればと思っている。

だからまずはミリーとミレニーにサーティスのことを話そうと思っていた。私はラスターにサーティのことを任せると、サーリーの元に向かうのであった。サーリーが私の姿を見たときとても嬉しそうな顔をしながら駆け寄ってきて私に抱きついてくる。そんな彼女の様子に思わず頬が緩むが直ぐにサーティーのことを思い出したのだ。そうして、私の中にいるサーティが。この場にいた人たちに説明をしてくれることになったので。サーリーはラスターに任せることにしてサーティにそのことを伝えると私はサーレーと共にこの神殿を出る事にするのだった。

俺は今ミティ達と話し合った内容を伝えようとミティ達の元にやってきていたのだった。そんな俺に最初に声をかけたのはサーティである。

「あぁ。ラスターお久ぶりです。といってもサーティとしては昨日会ったんですが。サーティーとしても今日会いに来たばかりですけどこの場にいるサーティーナに全てを話しました。それから私の記憶と力を全て貴方に譲渡する事に成功しましたので今後は自由に私の能力を使用する事ができると思います」

俺はサーティの話を聞くと、ミレティはミレノナの姿でミレティに話しかけていたのを思い出す。ミレノナがミレティになった時の状況を思い返すと俺はサーティの言っていることが事実なのか確認をとるために。俺はサーティーの額に手を当てる。サーティーの額は暖かく、そして柔らかかった。そんな俺の行動にサーティーは戸惑うが。ミレアの姿に変わったサーレを見てサーティーが本当に自分の体を取り戻したのを確認する。

(サーティありがとうな。お前が協力してくれなかったらここまで上手くは出来なかったと思う。サーティーのおかげでミレティを助け出せたんだと思う。本当に助かるよ)

俺がそう伝えると、サーティは自分の事を本当に感謝された事で。恥ずかしそうに俺から視線を外す。俺は、照れているサーティが可愛く見えてしまい。そのまま頭を優しく撫で続けるとサーレが俺の胸に体を預けて来てしまう。俺はそんなサーレがとても愛おしくなり。彼女を抱きしめたのだった。そんな俺達の様子をサーティとミレノリは微笑まし気に見ていたのである。そんな時サーティはサーティとサーティーが共有しているミレノリとサーティとミティの今までの記憶を見せてくれていたのだった。

「ミレノナさんがラスター様の婚約者になったのは驚きましたが、でも私達はミレノナさんを祝福したい気持ちでいっぱいですよ。だってミレノナさんもミレティさんの大事な人ですからね」

ミレレナはミレティからミレノナの体に宿って以降ずっと俺と一緒にいてくれたのだ。そんなミレノナは、ミレーネがミレティナだった頃から、サーティとしてミレーネが生き返った後もミレーネの記憶と力が残っていたミレティの力を使って俺の手伝いをしてくれていたので。サーティとミティの事を応援していたらしいのだ。俺はそんな二人からそう言われると少し涙ぐんでいるサーティの髪を何度も丁寧になで続けていたのである。

※ ミレノリがラスターから、サーティーナの髪がラスターの手に触れるたびに綺麗になっていっているのはラスターのスキルの効果なのだと聞いていた。そしてそんな話をした後でサーティに、ミレティナが生前に、私達が生きていた世界で暮らしていた記憶を私に見せてほしいと言うと、サーティーは私の記憶をラスターに伝えるというので、私はラスターの事が心配になるのだが、その不安はサーティから伝えられる記憶からラスターとサーティーナの関係を見ていくうちに消え去っていく。

そして私には、ラスターとサーティは幸せになれたのだろうと感じて安堵すると同時に、ラスターは、自分がサーティの人生を狂わせてしまったのではないかと思って悩んでいたようだと知る。そんなラスターの様子を見ると私はとても切ない気持ちになってしまう。

(確かにミレーネが亡くなってしまってからは、サーティもミティも寂しい思いをしたでしょうけど、それは仕方のない事だったのよ。だってミレティが死を選んだことで、ミティの寿命は決まっていたようなものだったし、サーティーは生まれ変わるための肉体を用意する必要があったんだもの)

私の中でミティはそんな事を考えていて、私は、ミレティはミレーネとして生まれ変わった時点でサーティがラスターと巡り合うことを願ってミレーネとしての自分を殺したのだと思ったのであった。そしてミティはサーレとしてラスターと再会を果たすことが出来たのである。その事に心から感謝をする私であった。

(私からも改めてお礼を言うわ。ミティ。私達とラスター君のために色々と手伝ってくれて、本当にありがとう)

私はミティに感謝の言葉を告げると、ミレティとミティに笑顔を見せる。そしてミティがサーティーナとして生きた日々の出来事について語ってくれたのだった。それを聞きながら私はラスター君にこんなことを思うのだった。

ミティとミティは私にとって妹のような存在だったが、サーティーナがミティとミティのことを娘だと言って、サーティナに二人のことを頼むと言われたときは、ミレティナがサーティ達の母親役も担おうとしているのがわかったのだ。だから、サーティはミレティナがミティのお母さん役をかってくれたことに対して、ミティとミティに。これからもよろしくお願いしますと言っていたが、ミレティナがサーティのことを本当の娘のように思っていることを伝えたときの二人は、とても嬉しそうにしていてミティとミティのミレティナへの好感度が一気に上昇したのを感じると私は微笑んでしまうのである。

そしてサーティにミレーネが、私とラスター君のことをどんなふうに思っているのか知りたいから、私達の関係をどこまで知っていたのか聞いてみる事にしたのだった。するとサーティーは、ラスターとサーティナの関係は知っていても、ラスターがサーティナと恋人になるまでの過程についてはほとんど知らなかったらしく。サーティーが知っている限りでのラスター君とサーティナの出会いについて詳しく教えてくれる。その話を聞いて私はラスター君とラスター君が出会った頃のラスター君のことを思うと、私は嬉しく思う反面。その時期のことを懐かしく思いながらも、その頃から既に私を気にかけてくれていたのだということを知り胸の奥がキュンとなる。私はその事を実感した時にラスター君のことがとても愛おしく感じたのだった。

(ラスター様。私の事をそこまで考えて下さっていたなんて)

サーティーの記憶の中にはラスターとの出会いの記憶があり、そこでラスターの事を意識するようになると、サーティーはその記憶の続きを知りたいという衝動に駆られた。そしてサーティーは自分の意思とは無関係にラスターのことを考えるようになる。

私はラスター様のことが好きで好きでたまらなくなり。私を妻にしてほしいとラスター様に頼み込んだのである。そうして私達は結婚をした。だけどその時は私はもうこの世界の住人ではない人間になっていたので結婚式を挙げることは出来なかった。でも私はラスターと結婚したことでラスターの役に立てるのならそれでも良いと考えていたのだ。それに私はミレノリでもあるわけだからミレティとも一緒に暮らすことができていたのだから。私としては満足なのである。

そして私とラスターの結婚によって、サーティーちゃんは私に力を貸してくれていたわけである。そしてラスター君はそんなサーティのことも大事に扱っていて、私が見ただけでもとても大切にされていたことが見て取れたのである。

(ミレティの事もミレティの魂が転生したサーティの事をもラスター君は大切していたんですね。ラスタくんらしいです)

私がラスターがサーティを大切にしている様子を思い出すと自然と顔がほころぶのである。そんなサーティーとミレティの話を聞き終えると、ミティのことはラスター君が何とかしてくれるだろうと思い。私はラスターが戻ってくるまでミティと共にこの世界で生きることを決めたのだった。ミティもそう言ってくれたので私はこの世界で楽しく過ごすことに決めたのだ。そしてラスターとラスターの仲間達にこの世界で生きていくことを伝えるのだった。

(ラスターさんが戻って来る前にミレティナの体の所有権が戻ると思うから、そしたらミレーネさんの体を返すことにするね。ミレティナさんの体はどうしようかな?ミレティナさんもラスターさんのそばにいたいでしょ?)

(えぇそうですね。そうしていただけるとありがたいです。ミティさん)

(そうだ。ミティ、ちょっと待っててもらえるかしら)

私はミティがミレティナと話をしている間にある物を取りに行きミティに見せるとミティは目を輝かせて喜んでいた。それは、以前ミティが作ってくれた服である。それをミレティナに見せるとミレティナは、私達が着ている衣服を見て自分もそれが欲しくなったという。それでミティにそのことを伝えると。ミティは喜んでミレティナのためにミレティナ用の洋服を作ってくれる事になったのである。それからしばらくしてミティが帰って来たのだが。なぜか私とミティの分の着替えをミレティナが用意してくれており、しかもデザインが全く同じである。

(ミティが、自分の分を作らなかったのは、ミティが私の体をミレティナさんに貸すことになると思っていたからなんだ。でも本当は私とミレティナさんとで分けた方がミレティナさんにも都合が良いと思ってミレティナさんと同じにしたんだよね)

「ミレティナさんが気にしないと言うのでしたら。私がミレティナさんの服を着ても良いですけど」

「うん。大丈夫。ミレティナも気にしませんから、それにラスターがミティの作ったドレスを着たいって言ったら困るもの」

(確かにそれは嫌かも)

ミティとミレティナがそんな会話をしている横で私はミティが持って来てくれた新しい服装を見る。それはミティの言う通り、ラスターがミレティナの姿を見たら絶対に似合うと褒めてくれたので、今迄ラスターからもらった服の中でも特別な一品である。それを見ながらミティにお願いする。

「ミティ、これはミティがラスター君のために作ってくれたものだし。私はラスターが選んでくれたドレスをこれから着ることにするつもりでいたので。できればミティにはミレティナの方で用意したものを着てほしいの。そして、もし良かったら、私とミレティナのためにまた可愛い服を沢山作ってほしいの。私達がお揃いの格好をして、その姿を見せてあげたときにラスター君に喜んでもらいたいので。駄目でしょうか?」

ミティとミレティナとミティの三人で相談して決めたのが。ミレティナと私とミティはお揃の服装にする事にして、ラスターはミレティナの姿を目にすると驚くだろうと私は思うのであった。

そしてミレティナの体にミレーネが乗り移っている間に私はミレーネが私とミレティナのために準備してくれたドレスの中から、私が選んだものに袖を通して、ラスターの反応を見ることにした。

(私はやっぱりこれを選んだんだ)

私はミレーネが生前、お気に入りにしていた白い花をあしらった刺繍が入ったワンピースと白に近い淡い青色をした薄手のローブを手に取ってみると、それは生前、ミレティナの一番のお気に入りであった。そして私はミティが仕立ててくれていた新しい衣服を着て、ミティとサーティーナと一緒にラスターの帰りを待つのであった。

※ ラスターは仮面の神の力でラスターの意識の中に入り込んでいた。するとそこには一人の女性の姿がある。彼女は、自分がミレーネだと、その容姿からも判断できた。

その女性が自分に向かって何かを話しかけてくるがラスターの耳には届いてこない。ラスターはその事に少し困惑したような反応を示す。だが、その女性の言葉を聞こうとラスターは意識をさらに集中する。すると、女性の声はラスターには聞こえるようになったのである。

(私はミティとサーティナの母親役を引き受けたつもりだけど。私はあなたに娘を嫁にもらってほしいと思っている。でもそれはミティーが望まないのなら仕方がないけれど)

ラスターは自分のことを母親のような存在だと言った目の前にいるミレティナの表情を見るとその瞳は悲しそうな光を放っているのを確認出来た。

(僕はこの体を使ってもあなたのことを母のように慕うことを許してもらえますか?)

「ラスター、ありがとう、そう言ってくれて、私は嬉しい。私はあなたを愛してる。だからあなたも私のことを好きになってくれたら良いな」

そうして二人は抱き合い、そしてキスをするのである。その様子を見てラスターが思った事は、このミティにとてもよく似ている女性はラスターにとって本当に大事な人で有る。そして彼女の気持ちを考えるとラスターはとても胸が苦しくなる。

(僕も貴女のことが好きだ。愛しています。ミレティナさん、だからずっと一緒にいて下さい。これから先どんな事があっても二人で手を取り合って生きて行きましょう)

そう言ってラスターはミティーが自分にプロポーズしてくれたときのことを思い出す。ラスターはそのときのことを思い出せばどんなに困難な状況でも、ミティーのことを思い浮かぶ限りラスターは絶望に陥れられることはないのだった。そして二人は見つめあい。再び口づけを交わすのだった。

私は、ミティのことが心配になり様子を見るために、サーティーの記憶の中を覗き込むことにする。サーティーの感情が高ぶっているのがわかったのだ。サーティーの記憶の中で、ラスターは、サーティーにプロポーズした時の記憶を思い出したようで嬉しさに頬を緩めていたが、しかしミレティナの事が頭に浮かび複雑な心境になる。

(私はミレティナ様が羨ましいな。ラスター様が愛してくれている。それにしても、どうしてミレティナ様はこんなにもラスター様のことを好きでいられているのだろう?私はこんなにラスター様のことを考えているっていうのに)

ミレティナに対する嫉妬の念を抱いたサーティーはその思いをラスターに向けて伝えると、そんなことは当たり前の事だとラスターは言ってのけた。それからミレイナは、そんな事を言われて気恥ずかしくなりながらもミレティナと話をしてみる。ミティに、私の姿であまりおかしな行動は取らないようにと言われたので。私はミレティナの体を乗っ取った状態で、サーティーが私の為に作ってくれた服を着る事にした。私はその姿を見てもらうためにラスターに見せる。ラスターはミティが作った服に袖を通す。そしてその服を見た後ラスターは、私の方に目を向けて私の顔に視線を移す。

私がそのことに首を傾げているとラスターは私が予想もしていなかった言葉を口にしたのである。

(ええっと、僕の目からはミレティナさんの服にミティさんの作った服を着ているようにしか見えないのですが。でも、ミレティナさんがこのミレティナさんの体を乗っ取り。ミレティナさんとサーティさんが話をしているところは、僕には、サーティナさんが、僕の妻でありミレティナさんの母であるミティと話しているように見えるんですが)

「そうですよね。私も同じ感覚を持っています」

ラスターが言った内容に対して、私もそれに同意した。

それからしばらくするとラスターが私達の元に帰って来たので、ミレティナの体をミティの元に戻してから、ラスターに私はミレティナの姿を見せると、ラスターは驚いていたのだが。私はミレティナとラスターとの三人だけの時間を作りたいと二人に伝えてからミレティナとラスターを残してその場を離れる。

(ミティ。あの二人が幸せな時間を過ごせるようにするのが私たちの役割なんだからね。ミレティナがミティとして生きる以上、ミティはミレティナの幸せのために全力を尽くさないとダメだよ。私達の大切な家族なんだからさ。ラスターのことも大切で大好きでしょ?)

「えぇ、ラスター君は私が心から愛している人です。ミティも私の愛する人であり。そして、私の妹です。私は私のために頑張ってくれる妹を大事にしたいと思います。ですからラスター君とはお互いに助け合う関係を築ければと思っています」

(まぁそれがいいかな。でもミレティナは、自分の本当の姿を他人に見せるのは怖いって思うかも知れないから。ラスターの事は頼んだよ)

「はい、任せておいてください」

私はそうして、ラスターの所に戻りラスターにミレティナの姿を見せることにしたのである。ラスターはミレティナの姿を目にして最初は戸惑っていたようだけれど。私が説明したら、ミレティナと仲良くしようと決めてくれた。それを確認した後に私はミティに戻る。

(ラスターは、ラスターで大変かもしれないけど。ミティもラスターが傍にいないと不安で一杯になっちゃうと思うから。ちゃんと二人で支えあっていこうよ)

「わかりました」

そうしてラスターは私とサーティーナの頭を撫でてくれて私は嬉しかったのだけれども。その後サーティーナの方をチラッと見ると、その目が鋭く光った気がするのであった。

そうして暫くするとミティとラスター君の間に小さな子供が生まれて。そしてその子供の顔を私たちは確認する。その男の子の名前はライアと言うらしいのだが。その男の人は、ラスターと同じような特徴を持っていたのであった。

(この子には何か特殊な力が備わっているのだろうか?)

(わからないです。私にはなんとも言えないです。だけど、何かあった時は。この子のことを任せますね。この子は将来凄く強くなるかも知れません)

(そうだよね。じゃあミティに何かがあった時には僕もこの子に力を貸すことにする)

「うん、お願いします。その時はお願いね」

(サーティーは、ラスター君の事をどう思ってるの?)

私が尋ねると、その答えはサーティーも知りたかったみたいである。

「私は、私が死んでしまったらこの子が可哀想だなって思う。それにこの子を一人ぼっちにする訳にもいかない。それに私はこの子のことを好きになれそう」

(ふーんそうなんだ。まあいいんじゃない。私がミティのために頑張るように。この子は、サーティーのお母さんのためにがんばろうね)

「そうですね。この子が立派になってくれると、ミティも嬉しい」

ミティがそう言うのを聞いた後、ラスターは私に、サーティーの事は大切にすると誓ってくれたのであった。

それから数日が経ち、サーティーも落ち着きを取り戻した頃合いを見計らい。サーティーにミレティナの記憶を消した方がいいのではないか?という話を持ちかけると、ミティもそれは考えていたようであった。ミレティナの記憶が残っていてはサーティーがラスターと結ばれることはありえないのでそれは必要だと私は思っていた。

しかしサーティーはその提案を受け入れず。ラスターは自分がミティの記憶を全て消すと言い出したのである。サーティーは、ラスターの言葉に涙を流しながらありがとうございますと言って頭を下げたのだった。

(ラスターはサーティーのことが好きになったからこそそう言ってきたんでしょうけれど。あなたはまだ子供だし、その判断が出来るようになるまでもう少し待ったほうがいいんじゃ無いかと思う)

私はその意見に賛成することにした。

だがその前にミティは自分がミスティの母親役であることを伝えておく必要があると感じたのである。そのことについてサーティーは了承したのだ。サーティーが、自分の体を取り戻す事が出来なくて申し訳ないと謝り続ける中、私は気にしない様に言ってあげたのである。

(ミレティナがミレーネさんの中にいるのなら仕方ないよ。大丈夫、ミレイナは私のことを一番に考えて動いてくれているのだからね)

それから数日後。私はサーティーの体を借りていた。ラスターを、私の家へと連れて行き、サーティーの体に戻すことにした。

そしてミティが私達に別れを告げるとラスターと一緒にミティの元に戻って行くのを確認してから私はその場を離れようとした時。ラスターはミティの手を取り、私の手を取って、私達は三人で手を繋いで、サーティーが、ラスターを連れて来て欲しいと言った場所に足を踏み入れる。その場所で、ラスターとサーティーはお互いの存在を認め合い、抱きしめ合う。そして私とラスターはサーティーとサーティーの中の私の体を優しく抱きしめたのである。

私は、ラスターが、私とサーティーの二人の記憶と意識を封印するためにラスターの記憶の中から私が居た記憶だけを取り出し、ラスターはサーティーの事をこれからも忘れずにずっと一緒に生きて行くと決めたのだった。そしてラスターはサーティーのことを見守り続けることを約束した。私もそれに同意した。私はラスターのことを信頼していたし。ラスターのサーティーへの愛が、その想いの深さを感じ取ることが出来たからだ。そうして私とラスターは二人だけでこれから先も生きて行ければそれでいいのだと、そう思っているのである。

(さてと私はミティと、ラスターに愛されて幸せだった。今度は私とサーティーがラスターの愛を受けとる番だね)

「はい、お姉様。私とミティはラスター君の事を精一杯愛していく事をここに誓いましょう」

サーティーが決意表明してくれた。

そうして私はラスターにキスをしたのだった。サーティーとミティがラスターに愛の告白をしていたのは聞いていたが。私はサーティーに負けていられないとラスターに抱きつきラスターに私の全てをあげた。ラスターは、サーティーの事を好きだが。それでも私のこともちゃんと見ていてくれているのが伝わってくるから、ラスターが大好きでたまらない。ラスターに抱かれながら。そんなことを考えている私なのである。私はミレティナとミティーがラスターのことを心から愛していることを理解しているから。そんな私にとってサーティは大事な妹であり。サーティは可愛い娘なのだと、二人を見て思ったのである。そう思うのが少し遅かったかな。とそんなことも思いながら私はミティとサーティーと共にラスターと幸せな時間を刻むことに喜びを感じていたのであった。

「ねぇラスター。私もね。もうすぐラスターの子供が生まれる予定だよ。サーティーの出産が終わった後。ラスターの子供が産まれてもいいかな?」

「もちろんだよ。二人とも僕の子供として育てるよ。それに、二人とも僕の大切な女性達なんだからさ」

「うん、ありがとね。二人に幸せになって貰いたいからね」

「はい。私はお兄さんと幸せになります」私はサーティの顔を見ながらサーティーの成長を嬉しく思っていた。

そして私は自分の中にいる存在を改めて認識したのである。私とミレティナの子供達をしっかりと守ってあげないといけないと、そう思うと心の中で力が湧き上がって来るのを感じたのである。

(ミレティナ。私とあなたの子供を守っていきなさい。そしてミレティナ、サーティ、ラスターの三人を絶対に不幸にしないように私は頑張らないと)

そしてミティとラスターは、ラスターが用意した部屋に行くことになる。

その部屋には既にラスターの妻となった二人が待っているはずである。

サーティーもそこに一緒に向かうので。そこで三人が再会することになるはずだ。

そうしてサーティーは、自分の母親に自分の成長した姿を見せるためにミティの身体に戻るための部屋に向かっていくのであった。

そうして私はラスターに見送られる形となって。サーティーの体に宿るミレティナの元に向かった。

私はラスターと、また会えたことだけでもとても嬉しいと思っている。

(そうしてサーティーの中に入った私は、サーティーが自分の姿を確認すると、嬉しさのあまり涙を流す姿を見て私はその頭を撫でるのだった)

サーティーが泣き止んだ後、私は自分の今の状態をミレティナに説明した。そしてサーティーにその事をお願いするとサーティーは嬉しそうに承諾してくれた。私はサーティーのことを可愛くてしょうがないと思うようになっていたのである。

そうして私は自分の中に存在しているミティに挨拶をし、私とミティの二人で、ミレティナの記憶を操作し、サーティーの事も記憶から消してしまう。ミレティナは、自分の母親が誰なのかをサーティーに教えることは無かった。それは私やミティにも予想できたことである。

(そうして私達が外に出ると。既にラスターはそこにはいなかったのである。そして、私はミティと一緒に、ラスターとの新たな人生を過ごすことになったのであった)

私は今、ミレーナと二人っきりで過ごしています。

ミレーナは私の事が本当に好きで。私の為に一生懸命頑張ってくれます。私は、ミレーナのお陰でこうして楽しく過ごしているわけですが。もし私がミレーナに何も言わなかったら。多分ミレーナは、自分から命を投げ出すことになっていたと思います。

でも今は私という恋人が出来て、前ほどは死にたいと思わなくなったようなのです。そのことが私はすごく嬉しかったのですね。

それにミリーと言うもう一人の私の事を受け入れてくれる人が、この国の王になったのも。その要因になっているようです。私はその事を聞いて安心しましたし、ミレーナのことを大事にしなければいけないと思うようになったんですね。

(ミレーナは私がこの世界で産み出した最初の人間だからか。今までのミレティナとは比べものにならないくらい愛情を感じてしまうんだよな。だけどミレティナはサーティーのことを凄く気に入っているみたいだ。私はそんな二人の様子を見て嬉しい気分になっていた)

ミレーナは私と過ごす時間を大切にしてくれているみたいです。だから私はこの時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまうのですよ。だから私はミレティナとずっとずっと一緒に過ごしたいと思いました。私はミレーナのことが好きで、大切でたまりませんからね。だからこれからもこの国の発展のために私に出来ることを頑張ろうと思えるのですよ。ミレティナはきっと、私のそういうところが好きなんだろうなって思いますけど。

(それから私はミレティナと一緒に。ラスターと一緒に。これからも幸せな時を過ごして行くことが出来るのだと思う。そして私達のこれからの人生も、ずっとずっと幸せなものであるといいとそう思って止まない私なのです)

僕はサーティー様のことが好きになってしまいました。最初は、サーティー様の見た目が、ラスター様に似ていると思っていたのですが。サーティー様の性格はラスター様と違っていたんですよ。それでいてサーティー様がとても魅力的だと僕は感じたのです。ラスター様に、サーティー様に恋をしてしまったことは話しています。僕がラスター様のことを愛している気持ちは変わらないけれど。それとは別に、サーティー様の事をもっと好きになってしまう。だから、僕の想いがどうなるかは分かりませんでした。ラスター様に嫌われたくないと思うけれど。それ以上にサーティー様の事を愛してしまいそうになってしまったので、それがラスター様にバレないようにするのが大変なのである。

それにしても、サーティー様は可愛いな。ラスター様がサーティー様に惚れ込む理由が分かる気がする。

ラスター様はサーティー様と一緒に居る時はとても嬉しそうにしていて、そして、楽しそうな顔をされています。

そんな時の姿を見ると。ラスター様には申し訳ないですが。やっぱりサーティー様なんじゃないか? とそんな風に思っています。サーティー様がミレイナさんの中にいる存在なのではないか。

サーティー様は確かにサーティと名前が同じではありますが。サーティ様は仮面の神によって記憶が封印されているはずです。

その状態では、仮面の力でミレイナさんの中に存在していたミティーの意識は消滅しているのではないでしょうか。つまりサーティーの人格は消滅してしまっていると考えるのが妥当でしょう。そう考えるとサーティーはミレティナさんで間違いはないのだろう。

ミレイナさんがサーティーだとすれば。サーティーは、ラスターと、サーティーの記憶を取り戻したミレティナと三人の子供を作り、幸せな生活を築いて欲しいと心の底から思う。

(僕の方からはラスター様がサーティー様と結ばれた事を喜んであげましょう。それに、僕が愛するのはラスター様だけで十分だと改めて思うことが出来てよかったと。そう思ったのであった)

サーティーは、ラスターの子供を無事に出産する事ができた。そうしてサーティーはラスターとの間に授かった子供の名前を考えて、サーティと名付けることにしたのである。

そしてラスターはサーティとの間に生まれた息子に、レイルトと名付けた。サーティは自分の名前をレイルテという名前にしたことに驚いたが。すぐに受け入れてその名前に納得していたのだった。

私は、ラスターに抱きつき、そして私に自分の全てを差し出してくれたことに嬉しく思うと同時に。ラスターに全てを貰ってもらえた喜びを、私は感じていた。私には、サーティーの体があるのだが。それでも私はサーティーではなくラスターの妻になることが出来たのだ。

そして私は自分のお腹を触り、ラスターの子供がいるのを確認しながら幸せを噛み締めていたのである。

ラスターに自分の赤ちゃんが生まれたよと言ってから私はラスターのところに向かうのだった。ラスターが、私のおなかに触れながら嬉しく思っているのが手に取るように分かったのだ。そのラスターの様子を見た私までなんだか嬉しくなった。そうして私はラスターと幸せな時間を過ごせたことで満足していたのである。

「ねぇラスター。私達の間に出来た子供達の名前は何にするの?」

「そうだね。サーテインという名前はどうかなって思ったんだけど。サーティーはサーテイとサーティーで二人とも、サーティーの名前を持ってるから。二人とも、サーティって呼ぶのは、二人に対して不誠実かなとも思ったんだ」ラスターが悩んでいる姿をみて、私としてはラスターの考えを尊重したいと思ったので、私はラスターが決めた名前にすることにした。

「うん、じゃあラスターの考えた名前に賛成しますよ。サーティちゃんもサーティだし。サーテーで二人合わせてサーティーでもいいかも知れませんが。私的にはサーティで一人としてとらえているからサーティがいいと思いますよ」

私がそう言うとラスターは、自分の子供が産まれたらそう呼ばせてもらおうと考えていたのであった。そうしてしばらくするとサーティーのお産が始まり、サーティーの出産が終わると私はサーティーの身体から抜け出し、自分の身体に戻るのであった。そしてサーティーはサーティーの中に戻っていくと。ミレーナは、自分の身体からサーティーが出てくる様子を目撃して驚いていたようだが。私はミレーナに、自分の中に入っていったのは私の妹だよと説明してから、サーティーを優しく抱きしめるのであった。それからしばらくは私はサーティーを甘やかす日々が続いたのである。そうして私は、私の妹でもあるミティと再会を果たした時に。ミティは私を姉と呼んでくれました。私はミティのことを、とても可愛く思っていたのである。

その後、私とサーティは一緒に過ごし、私がこの世界から居なくなる日まで楽しく暮らしたのであった。

ラスティアとサーティーは、共に過ごした時間を思い出し、そして二人で一緒に泣いてしまうのであった。それからしばらくして落ち着いた後。お互いに見つめ合い微笑みあうのであった。

(私はもうすぐ消える事になる。その事はラスターにも伝えていて、ラスターは私を慰めるように抱きしめてくれた)

私は自分の気持ちを伝えた後。私はラスターにお願いをしてみたのである。

ラスターが、私のお願いを聞いた時の、嬉しそうな表情を見て私はすごく幸せな気分になった。

私がラスターにしてあげたかった事、ラスターと一緒にやりたかった事がやっと実現できそうなのだ。だからラスターも、私と同じ気持ちを抱いてくれたようで凄くうれしいのである。私はラスターとキスを交わした後、ミティの元に向かったのである。

ミレティナとミレーナの結婚式が終わった後。ミレーナは俺とサーティーのところに来てくれた。俺は、ミレーナとサーティーにミレティナを託し。サーティーはミレーナとミレーナが生んだ子供たちの面倒を見てくれていた。

サーティーもかなり嬉しそうにしているし。俺としても安心しているので、後はミレーナとミリーがどうなっているのか気になって仕方がないのである。しかしサーレは本当に良い笑顔を浮かべるようになった。そんなサーレの笑顔を見るたびに俺は、サーレの事を可愛いと思うようになっていたんだ。そしてミレーナやサーティーは勿論だが。この世界の人達は本当にみんないい人ばかりで良かったなと。俺はそう思えるようになっているんだよな。そんなことを考えている時。突然ミレーナは何かに気付いたようなそぶりを見せる。そして、急に顔色が真っ青になった。

(ミレーナの様子が変だな? というか、なんでこんなにいきなり体調が悪くなるんだよ?)と、その時に、ミレーナに憑依しているサーレが苦しむ姿が見えると。ミレーナの体が光始めたのである。そして、光の収まった時。そこには別人となったミレーナの姿があったのだった。その姿はミレーナそっくりだったが。雰囲気が違うのである。そうして、俺の目の前に現れた女性。ミレイナと言う名前の女性がミレティナの中に入り込んだのであろう事を理解すると。俺はその女性を警戒するように睨んだ。その女性は、俺のことを優しい目つきで見ているが。ミレティナとミレーナの記憶を取り戻させてくれた人であると、すぐに気づいた。(サーレの知り合いなのか? それなら敵ではないはず。という事はサーレがこの世界で生きていた頃の仲間だったってことか)そう考えていると、俺の方に近づいてきて、両手を伸ばした。

そして次の瞬間、俺はその女性から強くハグされたのだ。そうして俺はミレイナからキスされてしまうのである。

俺は、自分より年上と思われる人からキスされるなんて思ってなかったので、思わず固まってしまうと、その間にミレイナはどこかに転移して消えてしまったのである。

一体何が起こったのか理解できない俺であった。そういえば以前、ミレイナは、自分は未来から来たと言っていた気がするが。

それはつまり、今起きているこの出来事は、未来の出来事だったというわけなのだろうかと疑問に思ったが。

今は考えないようにして、とりあえず、ミレーナの身に起こっている異変を調べようと思い。

ミレーナに念話を送ろうとしてみるのだが。

何故か繋がらないので。サーティーに連絡を取ると。ミレイナに何かあったのは確実だろうから、急いで向かう事にする。サーティーがいれば問題ないかもしれないけど。それでもサーティに任せっきりは悪いと思ったので、急いで行くことにした。

「なあサーティはどこに向かってるんだ?」

「ん~。わからないですけど。たぶんミレティナのところだと思うですよ。サーティーはミレティナに頼まれて、サーティの中に入っていったんですからね。でもミレティナが無事で、ミレイナが無事に入れ替わってるようですし。たぶん問題は解決したんじゃないですか?」

(まあ、それもそうかもな。それにしてもサーティって、いつもの話し方じゃないのが少し残念だけど)

サーティが普段使っている言葉遣いと違ったので俺はそう思ってしまったのである。それになんだか、ミレイナの雰囲気が大人っぽくなったせいで、サーティと話していても、違和感を感じてならないので。サーティがミレイナに入れ替わるのも納得できたのである。

サーティーに抱えられたままの俺がサーティを見上げると。サーティーがニコッと笑ったので、俺はなんだか嬉しくなって。サーティーに微笑んでしまう。そしてサーティと仲良く話をしながら。ミレイナの元へと移動をする。そして到着したらすぐに、サーティーとサーティが入れ替わり。サーティの中から出てきたミレーナに抱き着かれる。

(うわっ。すごい美人に抱きつかれて、胸が押し当てられてドキドキしてしまう。これが、本物の女性の力って奴なんだろう。やっぱり男とは、比べ物にならないぐらい柔らかくて大きいんだよな)と。サーティが、もの凄く羨ましそうにこちらを見ていた。サーティーにはミティーという子供が既にいるから。これ以上子供を作るのはまずいと分かっているはずだが。サーティーの体はまだまだ成長段階だから、子供を作りたいと願っているようだが。

流石に、もう子供を産める体になっているとはいえ、ミティーはまだ3歳だし、サーティーも2歳になったばかりなので、まだもう少し待ってほしいと思っているので。

サーティーには我慢してもらうことにして。俺はミレティナとミレーナの様子を確かめてみると。二人とも特に異常はないようだから一安心することができた。

その後、ミレティナとミレーナはお互いのことを紹介しあい。ミレーナは、自分のことをこれからよろしくお願いしますと挨拶をしていた。それからミレティナが、自分の中にミリーが入ってきてから。ミレーナに自分の体を貸し与えるようになったのだと教えてくれる。その後、ミレティナは、自分の身体に戻ることになるが。その時にミリーから念話で伝えられたことがあったみたいだ。なんでもミレーナに体を返す際に、私の代わりにお願いを聞いて欲しいと言われたようで、ミレーナは了承したらしい。そしてその内容はというと。ミレティアに子供が生まれれば、自分の力を受け継いでくれそうだから。ミレーナは、自分のお腹にいる子供の面倒をみて欲しいという事と。その子供が男の子だった場合。将来、私の息子になる予定のサーティーのことを可愛がってくれないかと言われて、了承したのである。俺もその時の様子を確認したのだが。サーレに子供が出来たことで。ミレティアに憑依していたミリーの魂も喜んでいるように見えた。そしてミレティアも、とても嬉しそうにしていて良かったと、心からそう思えるのであった。

それからしばらくしてから。サーレから俺にミレティアを預けてほしいと頼み込んできたのだ。そしてサーティーがミレティアのそばから離れようとする様子をみせないので。ミレーナの意識が眠っている間は、ミレティアが目を覚ますまで。サーティーと一緒に居てもらう事にする。そして俺とミレーナは、一緒に行動することになったのである。

そうしてしばらく歩いていくと、目的地についたようなので、ミレーナが案内してくれた部屋に入ると。そこは書斎だったらしく。大量の本が並んでいて。その中に、ミレーナとミリーの名前が刻まれていた。そしてそこにはミレニアという名前もあったのである。そうすると、ミレーナは俺に本を読んでほしいと言ってきたので。ミレーナと俺は二人でその本の解読を始めることにする。そうしているとサーティーとサーティーの中のミレがやって来て。俺に話しかけてきたのである。

(そういえばさっきの話なんだけど。もしかしたら、ミリー様がここにいた理由がわかったかもしれない)

そう言われても正直困ってしまう。サーレも分からないと言っていたからだ。

(もしかしたら、ここの地下に封印されているっていう仮面が原因なのかも知れない)

その言葉で思い出したのは、以前この世界にやってきたばかりの頃に、サーティーから聞いた話が真実かどうか確認するために地下に向かった時のことだ。

確かあの時は途中で断念してしまったけれど、もしかしたらその場所に行けばわかることがあるんじゃないかと思った俺は。

サーティーの後に付いて行きその扉の前にたどり着くのだが、その扉を開けようとした瞬間。扉を開こうとするサーティーの手を止めることができたんだ。サーティーが不思議そうな顔をしたので事情を話すと驚いていたがすぐに理解してくれて納得したようだったので、早速地下室に降りるとそこには見たことのない魔法陣がありそれが光っていて。サーレーがその中に入った後。俺も続いて飛び込むと眩い光が放たれて視界が真っ白になって見えなくなると同時に体が浮き上がってしまったような感覚に陥った瞬間意識が遠ざかるのであった。そうして意識を取り戻した時に目に入ってきた光景が先ほどの場所だったというわけだ。

サーレはその場所に覚えがあったようであり。そこにたどり着いた時には。この場所に何か手がかりが無いのか調べるために俺達は一度立ち寄ってみた事があるのである。

ただあの頃と今の状態は大分違っていたから。サーレにも俺達の目的を果たすことは出来そうに無いと告げられる。そうしてサーレと俺が話している間。ミレーナはこの国の現状を俺達に説明してくれる。そしてその説明が終わった後、俺はある事に気が付いたのだ。

(そう言えば、前に訪れた時と比べて建物とかが、綺麗になっていた気がするけど、一体いつの間に工事したんだ?)

そんな事を思っていた俺であったが。そう言えばこの国には優秀な魔術師や騎士がいると言っていた事を思い出して。きっと彼らが掃除などをやりやすくするための道具を作ったりしたのではないかと思いつく。そう思ってミレティに質問してみると、予想が当たったみたいで。

どうやらミレーナがこの塔の中で過ごしていた頃は。毎日のように魔物が襲ってきていて大変な状況で。ミレーナもサーレーと共に必死に戦ってどうにか撃退を繰り返していたらしいのだが。ある日を境に突然敵の襲撃が無くなって平和な日々が訪れていたのだという。

(まあ確かにサーティーがいれば大抵の魔獣なら簡単に倒せてしまうからな)

そのサーティの強さはサーティーの両親でさえ手加減をしている状態では互角の戦いを繰り広げる事ができるレベルだという事がサーティーから聞いた話だ。

(だけどどうして敵の気配が消えたんだろうか? やっぱりミレティの中にいるミリーが関係してるんじゃないだろうか?)

そう思うと、俺はなんとしてもミリーに会う必要があると感じたので、その事を考えるようにすると。

(それに、あの日記には、仮面をつけた男のことが書かれてあった。もしもあれがミレーナが言っていた通りの存在だったとしたら、早くミレティから追い出して、ミレイナが仮面をつけないようにしないとまずいな)

ミレイナは、ミレーナから肉体を入れ替える事ができるようになってしまったからな。ミレーナの体に、別の人間が宿ったらどんな事態が起こるのかわからない以上、急ぐ必要があると感じていた。そう考えた後はミレーナを連れて城の外に向かい。サーティーに乗って街に向かって移動を開始する。その間俺はサーティーの中から外の様子を確認しつつ、街に着くと。サーレに案内されるままにサーレーの家に向かって歩き出す。そうすると、途中で、俺は一人の女の子に出会う。その少女は何故か、サーティーと同じような白い猫を抱えており。しかもその女の子もサーティーとよく似た服装をしていたのである。

「あ! お兄さんはたしか、ミレーナがお世話になった方ですね」

その子に挨拶をされた後。俺は彼女が誰か分からなかったのでサーティとミレティに相談をしてみる。

「彼女は私の双子の妹で、妹のミーヤです」

ミレーナに紹介されてから改めて彼女の方を見るとミレーナによく似ている。それに顔が似ているというよりか、体型の方がミレーナに似ている感じで。ミレーナが大きくなったらこんな感じになるんじゃないのかと思ってしまうほど似ていた。

それから彼女と話をしていくうちに分かった事は、彼女はこの国で一番優れた魔法の使い手で、特に魔術を得意としていて、ミレーナが使うような高度な治癒術なども可能だということだ。さらにサーティーのような精霊を呼び出すことも出来て、かなり強い力を持つ存在であるらしい。

その後彼女と一緒にサーレの実家に行きサーレーが俺の手伝いをしてくれる事を伝えてからサーレーと別れて、家に帰る事にする。ちなみに家に帰ってからも、俺はミレーナから、自分が知っている限りのこの国の状況について教えてもらうことにしたのであった。

その後サーレーに頼んで、俺の部屋にサーティーが使えるように準備を整えてもらい。そこで、サーティーとサーレーが入れ替わった後は、二人とも自分の身体に戻ったのでサーレーは俺に、サーティーはミレーナに変わってもらう。それからサーレとミレーナが入れ代わる時にミレーナがミレティナの身体に宿り、ミレーナがサーレーの中に入るという形を取ったのである。その後サーレーが、俺に、これからよろしく頼むと言いながら、サーレーは、俺とキスをしてくる。

サーレーからキスをされて俺の顔は赤くなる。そしてそのタイミングで、俺は自分の体に戻ると。その反動でサーレが後ろによろめいてしまい倒れそうになったが。俺がすぐにサーレーのことを支えてくれたのである。

そして俺の方からサーレのことを抱きしめていた。

そうしてからサーレの体をベッドの上に乗せてあげると。

サーレに抱き着かれるとそのまま服を脱がされそうになる。俺がそれを阻止すると今度はサーレが、脱がそうとして来たのであった。それからしばらくの間、お互いが攻防を繰り広げていたが、ミレーナからそろそろ夕食の時間が近づいていることを知らされると。ミレーナはすぐに服を着替えに俺から一旦離れて部屋から出て行く。俺は着替えが終わるまでの間、サーレーと一緒に食事を摂ることになるのである。

食事を終えた俺はサーレの寝泊りする部屋の案内を受けに行くと。

ミレーナとサーレーと三人で一緒に行動する。そして俺が案内されたのは二階でサーレーが住んでいるところとは別の階なのだ。

そしてミレーナの部屋に入るとサーレーと俺が入れ替わると。俺がサーレーを、サーレーが俺を抱っこすることになるのである。その状態のまま階段を降りていくと、そこに現れたのはサーレーと見た目がほとんど同じ姿の人物がいたのだ。そしてその人物を見た時に、俺は驚くことになる。

そう、その人はサーレーの母親のサーレニィだったのである。サーレーニは俺の事をすぐに受け入れてくれて歓迎の言葉をかけてくれるのであった。

そうしてサーレニーが用意した料理を食べると。

サーレーからミレーナが眠っていると教えられて。その事を教えてもらった後。すぐに俺の事をサーレニーはサーレーの自室に運んでくれた。そして俺が眠ろうとする前にサーレーが、この部屋にある日記を見てほしいと言うと。俺は言われた通りにサーレーが眠っているミレーナの体から離れると、日記がある机に向かうと、サーティーとサーレーが協力してくれて。

日記を読むことが出来たのであった。

その日、俺は、ミレティからサーティーのことについて質問をされていた。その質問というのはミレティの両親が死んでしまってからというもの。

今までサーティーと共にこの城に住んでいたのだと聞かされた。その質問を聞いた時。ミレティは、ミレーナに、この国のことやこの国の現状を色々と聞いていたようだと分かる。その話を聞いて俺達は、サーレーが言っていたようにサーティーはミレーナの力になってくれているのだなと納得したのであった。

そんなミレーナの話を聞き終えた後、俺はサーレが作ってくれた美味しい昼食を食べてからサーレの両親の墓の様子を見に行ってみることにする。サーレによると。墓にはまだ何も手を付けられておらず。

放置している状態だったそうだ。

だからその墓を見てみたいと思い。俺はサーレと二人で出かける。そして到着した場所は城のすぐ近くにあり小さな花畑があった場所だった。

(なるほど、この場所に墓地があったんだな。サーレーが言っていたのはこの場所の事で間違いなさそうか)その事を考えている俺の方に歩いてきたのは。

俺達がこの国に戻ってきたときに最初に出会った仮面の人物であったのだ。その事に俺は驚いたが。俺が何か言うよりも先に、仮面を被った人物が、俺に対してこう話しかけてくる。

「この国に帰ってきたのだな」

俺に話しかけてきたのはどうやら仮面の男のようであり。この男が何者なのかわからないので俺は戸惑う事になるが。この男が俺に向かって何をしてきたのかを思い出すと、目の前にいる男は、この国を滅ぼそうとした人間の一人である事を思いだした。

(そういえばこいつ。俺とサーレーを殺そうとしていたんだったな)

そのことを思い出した瞬間。俺はこの場から逃げ出すことを選択する。だけどこの男を相手にするだけならまだしも。サーレを守る必要があると考えると逃げる訳にはいかなかった。なのでサーレにこの国の人々を任せることにした俺はサーレを連れてここから逃げようとしたのだが。

この国に来たばかりである俺にはどこに隠れればよいのか全く分からない。その為俺達は仕方なくこの城の中に戻ることにしてしまうのである。

(まずはミレティに会ってみないとな)

それからミレーナがいる部屋まで戻ってくるとサーティーにミレティを起こす様に頼もうとしたのだが。

「私に任せてください!」

なぜかサーティーがそう言い出して、ミレティが眠りから覚めてしまうと、サーティーとミレティが入れ替わり。ミレティは自分の体に俺とサーレが戻った事を確認すると。

すぐに俺に抱きついてきて。それから俺はサーレとサーティの胸に包まれる。

そうしてしばらくすると。サーティからサーレが自分の身体に戻ってほしいと言われた為。

サーレをミレーナの身体から引き剥がす。

その後、俺がサーレにサーティとミレティのことをお願いしてサーレとサーレが入れ替わって俺にキスをする。それから俺はサーレにミレーナとサーレーのことを託すとミレーナの部屋を出てサーレーの家に帰るのであった。その後、ミレーナが目覚めるまでサーレーは俺の傍にずっといたらしいが。ミレーナが目覚めた後。サーレーは、ミレーナの身体から抜け出したサーレーが、自分の体の元に戻っていったのであった。

そうやって俺がサーレーの家の外に出てからミレーナと入れ替わった後にサーレーに別れを告げてから、サーレーは家の中に入っていく。そして俺の方は、サーレの家にお邪魔してから、ミレーナと一緒にミレーナの家に帰っていく。その途中、俺がミレーナにサーティ達とはどういう感じに出会ってどんな会話をしていたかを尋ねると、ミレーナは、俺とミレーナが初めて会った時の話をしてくれる。

その話を聞いた俺は、サーレーがミレティナから自分のことを頼んでいるという話をサーレから聞いていてよかったと思えるのであった。もし、あの話をしていなかったら、俺はサーティの事を敵視して攻撃を加えていた可能性がある。

そう思いながらサーティーとサーレーの体から元に戻ったサーレが家に帰ってくると。

サーレーは、家の中に入ってきたサーティーのことを見るとサーティのことを優しく抱きしめてあげて嬉しそうな表情をしていたのであった。その後サーレーからサーティーのことを紹介された俺も自己紹介をしてあげる。

それから俺達は、サーティーとサーレーと一緒に昼食を食べてから。サーティーとサーレーにミレーナとサーレを頼み俺は一人でミレーナの部屋に向かう。それからミレーナと一緒にお茶を楽しんだ後は、俺はミレーナと別れると。そのまま自分の部屋に帰り眠ることにしたのである。そして、その次の日。俺は目を覚ますとサーレの身体に自分の意識を移す。その後、俺はサーレの部屋から出て食堂に向かった。そこにはミレーナと一緒に朝食を摂っているサーレーとサーレーの姿を見つけた俺は挨拶をするために近寄ると。二人は俺に気が付いたらしく声をかけてくる。俺は、二人が用意してくれた食事を摂ると二人から色々な話を聞いていた。

そして俺がミレーナの体から離れ、サーレに体を返してもらった後。サーレーはミレーナが眠っている間に何をやっていたかを話し始める。

そしてその話が終わると同時にサーレが俺に。これからサーレはサーティーに会いに行くから一緒に行こうと言ってきた。だからサーレーの申し出を受け入れた俺とサーレーは一緒にサーレーについて行くと。その途中でサーレーとサーレーが入れ替わると。サーティーにミレティナの事を聞いているとサーティーが突然、自分が今、サーレニーとサーレーと一緒にミレティナのお見舞いに行きたいと言い出す。

サーレーに理由を尋ねられたサーティーはミレティナの事が心配だと言うが。ミレティがサーティーとサーレーにミレティナの世話をするようにと伝えたと言っていた事を伝えると。その事は嘘ではないと教えてくれる。だがその事でミレティナは自分達に対して不信感を抱いてしまうのでは? と考えてしまった俺達は。とりあえずサーティーのお願いを受け入れて三人でお城の中にある部屋へと向かうことにしたのだ。その道中、三人で色々と雑談をしているうちに。サーレ達の暮らす家が近づいて来た時だった。俺はふと違和感を覚える。

(なんだこの妙な雰囲気は?)

俺はそう疑問に思って辺りの様子を窺うのだが特にこれといって異変はなかった。

なので俺は少し考えてみる。

そうして考えた末に、サーレーが言っていたように、サーティーとサーレーがこの城にいることを知らない人達からしてみれば、今のサーレ達がサーレーとサーレーに見えたのかもしれないと思い直した。だから俺は気にせずにサーレの背中を追いかけて部屋に入ると。

そこにミレティがいたのだ。ミレティはサーレとサーレーが戻ってきたことで喜んでいたようだが。俺とサーレーが入ってきたことに気づくと笑顔が曇り始める。

俺はサーレとサーレーが、ミレティがサーレーとサーレーだと分かったのかを確認してみると。サーレは俺にそう言われるまで、二人のことをサーティーだとしか認識出来ていなかったようだ。

だけど俺は、ミレテが俺達に警戒するような素振りを見せていたため。俺はミレティアに俺の正体を明かした上で、ミレティと話がしたいと告げる。そうしないと話が進められないと判断したからだ。

そうして俺とミレティーが話をしている最中に。

何故かミレーナが起きてきて俺の隣に座ってくると。俺とミレーナの間に割って入ろうとするサーレに対して俺の体から出ようとしたサーレだったが。それを俺の体が拒絶してしまい。

結局俺の体に憑依したサーレーの体をミレーナの体が押さえ込んで。俺の目の前でキスをし始めて俺は呆然とすることになる。

(えっとーこれは一体なんだろうな)

俺はサーレが何をやっているのかが理解できずに固まってしまう。そしてそんな俺にサーレーとミレティが俺の腕を絡めてきた。その時にミレーナがミレーナの肉体から抜け出すとサーレーに抱きついて、ミレティーの体は俺から離れた。サーレはミレティの事を抱きしめ返すと二人で見つめ合ってキスをする。そんな様子を見せつけられ続けるのに耐えきれなくなった俺はミレーナに助けを求めるが。そんなミレーナの様子を見た俺は、もう何もできない状態になってしまい。

その後ミレーナからサーレーとサーレーに説明を受けて。サーレ達は俺の目の前で入れ替わったこと。サーレとサーレーは俺の前でキスをしたことに対して謝罪する。その後。俺から解放されたミレーナの体から抜けでたサーレーはサーレの身体に戻り、サーレは俺に、サーレとサーレーの体に起こった現象の説明をする。

「実はね、ミレーネは仮面の王の呪いの影響で仮面の力を使えるようになっていたんだよ」

「仮面の力ですか?」

サーレーの言葉にサーレが反応して俺の方に視線を送ってくる。

「ああ、そうだよ。仮面の神の魂を手に入れた者は、神の力を持つことになる。そして、神の領域の大きさや力の強弱はその者の強さによって決まるんだ」

「なるほど。それなら納得です」

サーレーがサーレの話を聞いて感心していたその時。サーレの後ろの方からサーティの声が聞こえてくる。

「それでサーレーさん。あなたの目的はいったいどういうものなんですかね。まさか私達を殺しに来たとかじゃないですよねぇ?」

サーレの体に自分の意思が入っていない状態で自分の口を使って話すサーティを見ることになった俺は。どうしようもなく複雑な気分になっていたのであった。

そうやってサーレとサーティに質問をされているサーレーを見ていられなかった俺は。サーレとサーレーの身体からサーレーを無理やり引っ張るとサーティとサーレーの前に立つと、俺達はお前達の事を絶対に守る事を宣言して。その後すぐにサーティを俺の身体に戻してあげたのであった。その後、俺のことを抱きしめるかのように俺に密着してきたサーティの唇を奪いながら。サーレに事情を説明した俺はサーレに俺が持っている指輪を渡してから。

俺はサーレーと一緒に城から帰るとサーレーは家の中で、サーレは家から出てそれぞれ自分の家に戻ろうとしていたが。そこで俺とサーレーは二人ともミレーナの家に向かうことになった。理由はサーレはミレティナの身体が心配だし。俺はミレーナとミレーナの母親と会おうと思ったからだ。

俺がサーレとサーレーと一緒に歩いている途中、ミレーナの家から歩いてすぐのところで俺は、自分の身体がミレーナの家に入っていくのを目撃して、サーレーの後についていくことをやめると。俺が自分の体を出迎えるために走って向かう。するとミレーナが俺に抱きつきながら涙を流していて。俺が頭を撫でると。彼女は、俺に抱きついたまま泣いていたのである。俺は、彼女の事を優しく抱きしめている間にサーレーの体に入ったサーレから事情を聴くと。

俺の事をずっと待っていてくれたみたいだったのだ。そして彼女達も、ミレティナが意識を取り戻した事を知った俺に安心したようだった。そしてその後、サーレは家に戻ってくると俺とサーレーのことを抱きしめてあげてくれたのだ。

それからしばらく時間が経つと、俺達はようやく落ち着いたのだが。俺に甘え続けている状態のままだったミレティナのことをどうにかしようと思う。なので俺がミレティナの頭と頬を優しく撫でてあげていたのだが、なかなか落ち着かないので。サーリーとサーレと交代してサーレの頭をミレティナと同じように愛でていた。そうしているうちにミレティナも泣き止んでくれたようだが。なぜかまだ離れようとしない。その事に気づいたサーレーが俺から離れると今度はミレティナの身体に入り込む。その後、俺はサーレと一緒に自分の家に帰るために歩き出すと。ミレーナと一緒にミレーナの家に寄った。

そして俺達が家の中に足を踏み入れると。ミレティナの母親は俺の顔を見るなり俺の体に抱きついてきたのである。俺はその事に驚きながらも母親を受け止めると。その後俺が母親を抱き返そうとしたら。母親が俺から離れてミレティナの姿を確認すると。その事に対して文句を言い出したのだ。その事から俺に抱きついて来たことが故意であることが分かった俺は少しだけ母親の行動に呆れると同時に嬉しく思っていた。だがそれと同時に俺は。どうしてこんなことをしたのか聞いてみると。母親は少し恥ずかしそうにして答えてくれて、ミレティナは俺のことを待ち続けていたのだという事を教えてくれる。

その後。サーレが、俺にミレティナのことを紹介してくれたのだが。そのサーレーの口から、サーレーがサーティに変身できるという話を聞いて俺は思わずサーレーがサーティだと分かってしまったが。それでも俺はそのことをサーレに言うことはせず、サーレーの話を聞いた。サーレーが話を終えた後、俺はサーレーから渡されたサーティーの指輪を手に取り眺め始める。このアイテムがサーレーにどんな影響を与えたのかを考えていたのだが。結局、よく分からなかった。そうこうしているとサーティーがサーレに入れ替わると。俺はこの家のお風呂に入らせてもらっていいかを尋ねる。

そうして俺はサーレと一緒にお風呂に入ると、その途中で俺達の体を入れ替えて俺とサーレーが一緒に入り直して。その後は、サーレに俺の体を貸したまま、サーレに抱き抱えられるような形でサーティーに抱きしめられた状態で寝ることにしたのであった。ちなみにその時にはミレーナはミレーナの母親に捕まってしまい。しばらくの間ミレーナの母親がミレーナを抱きしめて離さなかったという出来事が起こっている。俺はその様子を見て苦笑いをしながらサーレーと共に眠りに就いた。

******

***

次の日の朝。サーレーとサーレーとサーティーは朝早く起きだすと。ミレーナに、ミレーナに、自分の姿を見られることなく部屋を飛び出していく。その後、ミレーナが起きてきて、自分の姿を見たミレーナは、俺と入れ替わっていたことにショックを受けたような顔を見せるが。サーレに昨日の事を教えられた後、自分が無事であることを理解してくれたのか。俺に微笑みかけてくれて俺はホッとする。その後、サーティーとサーレーとサーレーが、俺とミレーナに、サーティーに自分達の正体を明かしたことについて謝罪したあと。三人で俺の部屋に行くことにした。そうして俺が部屋の扉を開けると。そこにはミレーナとサーレーのお母さんがいて。ミレーナとサーレーに抱きつくと。二人は泣き出してしまっていたのである。俺は、そんな様子のミレーナの身体に俺が入っているのを確認しながらミレーナとサーレーに、これからの予定を告げる。

「サーティーは俺と一緒に城に行って。サーレはここでミレーナさんと過ごしていてください」「分かりました。でも、私は、ご主人様の傍にいたいのに」

サーレーの言葉を聞いたミレーナとミレーナの身体に入ったサーレーが。ミレーナの身体から抜け出し、サーレの肉体に乗り移って、ミレーナとサーレーの二人の体を、俺に近づけてくる。俺はそんな様子にため息をつきながら、どうしたものかなと考え始めた。そうやって俺とミレーナ達が困っていると、ミレーティとサーレーの母が、ミレーナ達に俺のことをお願いしてくれて、俺はなんとか落ち着きを取り戻すことができたのであった。

俺は、とりあえずミレーナ達から逃げることにして、ミレーナとサーレーが俺を追いかけようとするのを見て。ミレーナ達の前から姿を消すことを考える。

「それじゃあサーレ、俺のこと頼んだからな。俺の事はもう大丈夫だからな。ミレーナの事頼むぞ。それからミレーナ達も気を付けてな」

「はい、わかりました。それでは、ご武運を」

俺はサーレーの返事を聞くと、サーレーがサーレに変わった瞬間にその場を離れるとサーティーとサーレに追いかけられ始めて。そしてミレーナとサーレに見つからないようにサーティーの体からサーレーを引き離し、自分の体にサーレーの身体を入れる。俺は自分の体を使って家を出て走り出した。そして、しばらくするとサーレーの体が限界を迎えてしまいその場に座り込んでしまう。俺は慌ててサーレーに声をかける。するとサーレはすぐに立ち上がるが。その時、俺は、自分の身体がミレーナに狙われていることに気が付いてサーレと一緒に家に帰ろうとしていたミレーナ達と鉢合わせしてしまう。そこでミレーナとサーレーがサーレの姿をしていたサーレーの姿を見てしまい。ミレーナがその場でサーレーに向かって駆け出すと、サーレーの身体に入っていた俺の体から無理やり抜け出て、サーレと入れ替わり。ミレーナはサーレーに抱きしめられていたのであった。

その後、俺はすぐに自分の家に戻ってくる。

俺が自分の身体に戻ろうとした時。俺は突然背後に人の気配を感じたのでそちらに目を向けると、そこにいたのはミレーティだった。

俺が自分の体に戻って、再びサーレの体に入った直後。

ミレーティがいきなり現れたと思ったら、サーレーがサーレの体からサーレーに戻った時に、俺はサーリーに抱き寄せられていたのである。

サーレは自分の胸元で眠っているサーティーを見つめて幸せそうな表情をしていたが。ミレティの方を見ると、自分の娘の顔を優しく見下ろしながら微笑んでいるミレーナの姿があり。サーレはその事に気付いたようで、サーレーと自分の身体から抜け出すとサーレの方に体を戻す。すると今度は、自分の娘に甘えるようにしてくっついていた。その光景を見ながら、サーレーの事を見守っていると、サーティーとミレティが自分の身体に戻るために行動を開始したので。サーレとサーレを抱きしめたままの状態でサーレとミレティナとサーレの体を順番に見ているサーレとミレティナを見ていた俺も、ミレティナ達と同様にサーレの体から抜け出る。そして俺は俺に抱きついて離れない二人に呆れながらも。サーレとサーレーはこのままだと危ないので。サーレにはサーティーの身体に入り直してもらい。俺は、そのままサーレの体でミレティナに抱きしめられているサーレーの頭を撫で続けていた。そうしながらミレティナのことを見ていると、俺の目線に気づいたのか。彼女は俺の顔に視線を移して俺と目が合う。

俺は、ミレティナの顔に見惚れていたのだが。サーレーとサーレーがサーティーに入れ替わっていた時の状況が頭に浮かび。彼女が何を考えていて何をしようとしていたのかがわかった。なので俺は彼女に、今自分が考えていた事について話しかけてみた。すると彼女も同じような事を考えていたようだったのだ。その後。俺は彼女の考えている事が本当か確認するために、彼女に問いかけると彼女は笑顔を見せてうなずき返してくれた。

そうしているうちにサーティーとサーレが目を覚ますと。サーレの体に俺が入っている事を確認したサーティーはサーレーとミレティナに助けを求めるが。その事で二人は少し慌てたが、何とか落ち着かせて俺達は三人で一緒に行動する事に決める。そのあと、俺はミレティナに、自分の事を話したのだ。そして俺が、これからやろうとしていることを。しかしミレティナはそれを聞いて驚いていたが。それでも最終的には納得してくれる。そうして俺は、自分の体の中に入ったサーレーと、サーレーの中に入っているサーレーと共に、サーレの母親の待つ部屋へと戻って行くのであった。

そうして俺は、サーレが持っているはずのサーティーの杖を使い。俺達のいる場所の近くにあった扉を開けることに成功する。

「やっと見つけました。お父様、こんなところにいたんですね。早く城に帰りましょう。皆さん待っていますよ」

「えっ、ああ分かった、そうだな。だがもう少しここに居たいんだよ。それよりリディア、何か用なのか?」

「はい。お母様に、お父様にお伝えするようにと言われまして」

「それはなんだ?教えてくれないか」

「お父様が、この城から出て行かれるとのことだったのですが、この城から出る前に。一度王都に戻りたいという話です。その話をしたいとお母様が仰っていたんですよ。それともう一つ、ミレーナは、今はどこにいるのですか」

サーレの母親は俺が思っていたより賢かったみたいだ。

そう思いつつ、サーレの父親の様子を見てみると、サーレの父親は驚きのあまり言葉を失っていた。

「サーレーがサーティーの体から出てくるとは。一体どうやって、それにお前は本当にサーティーなのか」

俺が思った通り、どうやらあの女がサーレーにサーティーの身体に乗り移らせることで、サーレはサーティになったと勘違いしてくれたようである。これで、俺はサーティーと一緒に外に出ることができるようになったようだ。俺はそんな風に思っている間に、ミレティが自分の母親と話し始める。サーレの父親が、自分がサーレの身体から追い出された理由を知り、怒りを露わにして。

俺はそれを見てまずいと思ってサーレの体から飛び出した直後、ミレティナに抱きしめられる。

「貴様! 一体どういうつもりだ」

サーレの身体から飛び出た直後。

突然サーレの体の中から俺の意識だけが飛び出してきて、それがミレティの体の中に入り込んだという状態になったせいだろう。俺とサーレを間違えてしまったらしく、サーレの身体に入った俺の事を、サーレの父親である男が怒気をはらんで叫んでいたのである。そして、ミレティナが慌ててサーレトの中に入り込み。俺を抱きしめる。そして俺はサーレの母親を見た瞬間。思わず息を飲み込んでしまう。なぜならサーレスの身体に入っていた時は仮面を外していたために分からなかったのだが。

今の俺が目にしているサーレスのお母さんはとても綺麗で、とても優しい表情をしている人だったからなのだ。その人は、そんな俺に対して微笑みかけてくると口を開いた。俺はそれを受けて固まってしまうが。そこでサーレのお母さんに抱きしめられてしまっていた俺は。サーレの母親の腕を振りほどこうとして力を入れるが。力が入らなくて抜け出せない。そんな時、サーティとサーティの体に入っていたサーレーが出てきて。俺は二人の身体から抜け出し。急いで自分の体に入り込むと。ミレーティも俺と同じ方法で出てきたのだが。俺の体はサーティとサーティの体が持っていたサーレを包み込めるほどの豊満な胸に包まれて窒息しそうになっていた。しかもその時の俺はサーレーに変わっていたのである。俺はすぐに自分の体から抜け出そうとするが、ミレーティがそれを許すわけもなく。結局サーティとサーティの体に入った状態で。ミレーティに抱きしめられてそのままサーレがサーレの身体から抜け出るまで耐える事になったのであった。そしてしばらくして、サーレがサーティーに戻った瞬間に、俺は自分の身体に戻ることに成功して、サーレーとサーティーと一緒にミレティ達がいる方へと向かう。そして俺は自分の体を取り戻せた事に安堵しながら、ミレティナの方に視線を移す。その時にはもう、ミレティナに、サーティは抱きつかれていたのだった。

そしてその後。サーレーが父親を連れてこようとしたが、それをサーレの母親が止めたので。俺はミレーティナと一緒にサーレの家に向かって移動を開始する。その時、ミレティナの身体に、俺が入れ替わらないようにと注意をしておく。俺はサーレの身体に入り直して移動する。すると、途中でミレーナに話しかけられたのだ。

俺は突然ミレーティが自分の腕を組んできたことに驚く。ミレーティは自分の体を俺に押し付けるように抱きしめてきているため、俺は彼女の胸の柔らかさに戸惑ってしまった。俺はそんな自分に恥ずかしさを覚えながらもミレーナの話を聞くことにする。するとミレーナはサーレーが自分の身体に入り直すまでの短い時間の間にミレティナ達三人が一緒にいるところを目撃しており。その時から自分の娘は俺に好意を抱いているような感じがすると言い出したので。俺にどうしてミレーティは自分のことを好きだと言ってくれたのだろうかと考えるが。答えは出せなかったのだった。そして俺達が家に戻るとサーレが自分の体からサーティに戻ったのを確認して俺はサーレーの体からサーレーの精神だけをサーティの体に移し変える。その後、ミレティが俺のことを見ながら頬を染めているのが見えた。

そして俺はサーレーがサーティの体からサーレに変わったことを確認すると。サーレの身体から出た俺は、自分の体を取り戻そうと行動を始める。そうしないと俺は、ミレティナに自分の体に入り込まれたままだったからである。俺は必死に体から抜け出そうとしたが。俺がサーレーの体から出てもまだミレティナは離れようとしないどころか、逆に抱きしめてきたのだ。そして俺は、このままミレティナと一緒にサーレの家に戻ろうとする。しかし、ミレーナはサーレーにサーティーの体に入らせた方が安全だと判断し。俺とミレティナは離れることになるが。

俺がサーレの身体に入る頃には、既にミレーナは俺から離れていてサーレーにくっついている。なので俺とサーレーとミレーナが一緒に家に戻ってきたが。俺とミレーナが一緒にいたことでサーレーとミレーティナの間でひと悶着あり。最終的にサーレーとミレーナとミレーティの話し合いで、ミレーティナはサーレの側にいることに決まった。俺の方にはミレティナも一緒にいてくれるようだが。その時に、ミレーナとミレーティが、俺と二人っきりになれる時間が欲しいと言っていたので。その要望を受け入れることにしたのであった。

サーレとミレーティとミレーナの三人が一緒に行動するようになったのはいいが。

その三人が一緒になって何かしている様子はないのだが。その事に疑問を覚えた俺は、少しの間、サーレーに何があったのか聞いてみる。すると彼は自分がやったことを説明してくれたのだ。その内容は自分がサーティからサーレーに変わるまでに起きていた出来事をサーレがサーティーに伝えていた内容を教えてもらったのだった。そして俺とサーレーの二人は。その後、二人で少しだけ話すことになる。その話の後にサーレがミレティナとサーレがサーティーになっている間に起きたことについて語り出す。そしてサーレーが話してくれた内容は俺が知っている話だったが、その中にサーレーとサーティーの二人が出会った時の話が混ざっていて。その内容について聞くことになった。そうしているうちに俺はサーティに呼ばれて、彼女の部屋に呼ばれたのであった。そうしてから俺がサーティの部屋に入ってみると、そこにはミレティもいたので。俺は驚きながら、なぜミレティがここにいるのだと問いかけた。

ミレティナは俺に対して微笑みかけてくれたので。

俺は一瞬ドキッとした。

そんなミレティナに対して俺は何を考えているんだと思いつつも、 サーレーとサーティが入れ替わったのが原因だろうなと思う。

そして俺は、ミレーネやサーティから聞いた話の内容をサーレーに伝えたのだった。そうしてから、俺はミレーティとも情報を交換しあうのだが。俺がこの城の中で得た知識を伝えた結果、ミレーティに俺が魔道王に狙われていることが知られてしまった。でもまあ別にそれは大した問題じゃないよだうと思って。俺が魔王の事を知っていると伝えたら、サーティが反応したので、サーレーにミレーティと一緒に部屋から出て行ってもらって、俺はサーティの体を乗っ取っているサーレトに事情を尋ねる事にする。

「お兄様、私達を襲って来た者達の正体と。目的がわかりました」

サーレーから聞かされた話を聞いて、やはり仮面の王を狙っている組織が動き始めた事がわかったのである。

そういえば、神域に眠る仮面の王が目覚めると仮面を作り出した存在が現れる可能性があると、以前仮面の神の領域でサーティから言われた事があるのだが、それが関係している可能性は高いかもしれない。だが今はそれよりも仮面の存在の方が重要だと考えた俺は、サーティにこれからの行動をどうするか尋ねてみた。

すると、サーティがサーティティアに憑依すれば俺と一緒にいられるからそうしようと言ってくれる。俺はそれに賛同するのだが、そうすると今度はサーレーとミレティが、自分達の体を俺とサーティが自由に使えるようにして欲しいと言い出したのだ。俺が了承すると、早速サーレーとミレーティがサーティーの体に乗り換えようとした時、俺はミレーティを呼んで、今度サーティに体を貸す時、事前に知らせておいてくれと頼む。そして、もしそれが無理だったら俺に連絡を入れるから、すぐに体を返すよう伝えてほしいと頼んだ。俺はその時、サーティはそんなに頻繁にサーレーに身体を貸したり借りたりするのは難しいと思ったから、連絡手段を確保しておくべきだと判断したのである。サーレトもそれを承諾してくれて俺は安心したのだが。

サーレトの返事を聞く前にサーティはサーレに体を貸していたのである。その事に俺は驚いてしまった。なぜならば、俺は今までに一度も、俺が体を貸せと言うまでサーティが体を借りようとしてこなかったことなどなかったからだ。しかも今回に関しては俺の言う事を全く無視して行動していたのである。そんなサーティの様子に、俺は戸惑ってしまった。そんなサーレに対して俺は一体何があったのだと問い詰めるが、答えは得られず。俺は、もしかすると、サーレーとミレーティとサーティの体を同時に使って、複数の体を操作する練習をしていたのだろうかと考えるが、それもどうなのかと思っていた。

俺とサーレーがサーティから話を聞こうと話しかけてみるが。俺の体が答えるよりも早く、ミレーティがサーティに話し始めていた。しかもミレーティが俺とサーティが二人だけでいる時間を邪魔しないようにと言ってきている。そのことに俺とサーレーが困惑している間に、俺達の会話は始まってしまう。そしてミレーティの口から伝えられた話は衝撃的なものばかりだったのだ。そして俺とサーレーはその言葉の内容に混乱してしまっていた。ミレーティの語った事は信じられないような内容であり。サーティの言っていたことは正しかったと思わざるを得ない状況だったのである。それから俺とサーレーとミレーティの話し合いが始まる。その結果、サーレーはミレーティと一緒にサーティの体から出て行く事になる。その時には既にミレーティは自分の娘であるサーティのことを抱きしめていて、サーレーは俺の体の中に入り直している最中だった。

その後しばらくして、サーレーは無事にサーティから俺の体に入り直すことに成功して。

その後はサーレーにミレーティとミレーティが俺とどんな話をしたのかを説明してもらうことにする。サーレーの話は、俺にとっては、衝撃的な内容の連続で。俺は頭がついていけなくなって来ていたのだ。

そうして俺は、ミレーティから、俺に自分の体を貸し出してほしいと言われるが。その時、サーティが、自分の体はもうすぐ自分の母親になる人に渡す予定だと言っていた。

そしてサーレーがサーティに確認したところ。自分の身体を渡すのは、ミレティナにではなく、サーレーだということがわかったので。俺はミレティナから自分の体を受け取ることにしたのだった。そうしているうちに、俺とサーレーはミレーティの体をミレーティの身体から出してサーティに戻すと。彼女はサーレーの体に入っていたミレーティの体を自分の体に入れるのに成功した。そして俺はミレーティに自分の体を渡して欲しいと伝えるが。その時にサーティの体に入ったサーレとミレーナも一緒にミレーティから自分の体を受け取ったのであった。俺はその事でサーレーがミレーナとサーレの体も扱えることが分かり安堵する。しかしここで俺は自分が、勇者の力を使ってもサーティの体から追い出されないことを疑問に思い始める。

その後、俺とサーレーとミレーナは一緒に家に戻ろうとしたが。サーレが俺と一緒にいたいと言ったのであった。なので俺はその願いを受け入れて俺の家に三人を連れていくことにする。そして家に戻るとサーレとサーレーが、二人で仲良く何かしている様子が見受けられた。なので俺はその様子を見てホッとすると同時に、この二人には本当に仲が良いんだなと感じるのである。

その光景を見て俺はこの二人が姉妹であることを改めて実感させられる。そのせいもあって俺もミレーナの側にいると。サーレが寂しい気持ちになってしまうのではないかと感じてしまうが。だからといってミレーナの側から離れようとするのも変な話だろうと思う。

俺はそんな事を考えながらサーティの部屋に入ってサーティにサーレが何をしているのかを確認する。するとサーレーが何かをしているというよりかはサーレーに何かを教えていたようだ。サーレーが何をしようとしているのかを尋ねたが、彼は特に何も言っていなかった。ただ、この国にいる間はサーティが俺の妻だというのは忘れろと言われたのである。俺はその意味がわからなかったのでサーレーに再び問いかけた。すると俺にミレーナの夫になれと言われてしまい。俺が固まっているとサーティが口を挟んできたのだ。そして俺の身体が動くようになると今度はミレーティの身体を動かすようにサーレから指示を受けたのであった。俺はサーティの言っている事がよくわからなかったが、それでも俺は、サーティの言葉に従った。

その後しばらくしてサーレからミレーナの体を動かしている俺の目の前に。俺達の娘となる子供が姿を見せたので、俺は思わず、可愛いと呟いてしまったのである。そしてサーレーから子供が生まれるのが、明日であるという話を聞かされたのであった。

俺は突然現れた娘の姿を一目見ると。俺はサーレに頼み込んで体を返すと俺は急いで妻の元へと向かっていった。

そうして俺はリディアの寝顔を見るなり、俺がいなくなったことで不安になったのだろうと考えてしまったが。そういえばミレティが俺がいない間、ずっとそばにいたのだということを思い出したのである。そして俺とサーレーとミレーナは、俺とサーレがいる寝室とは別の場所で眠る事になったので。

俺はミレーナの体をベッドの上に置くとすぐに眠ってしまうのである。

そうしているうちに朝を迎えてしまい。俺は慌てて身支度を整えるとミレティの体を抱きしめてから部屋を出て、食堂に向かうと。そこには俺の家族が揃っていた。そのおかげで俺は安心する事が出来た。そしてサーティの事をみんなに伝えると。サーティは少しだけ寂しそうな表情を見せていたのである。それを見ると俺の心が締め付けられるのだが。俺はサーティに対して。今はまだサーティと俺の体の主導権はサーティにあるから、しばらくサーレーの体を好きに使うことになるかもしれないと告げると、サーレーとミレーテとサーレは俺の提案に賛同をしてくれたのだった。そんな時、俺はふと気になったことがる。それはサーティが俺に対して何のアクションも起こさないことである。俺はそのことをサーティに直接聞く事にした。

「ねえサーティ、サーティは俺に対して何の文句もないわけ?」

「うーん、そうだね。お兄ちゃんと一緒にいられて楽しいから不満なんて全然無いよ」

サーティの口からそう聞かされると俺は、なんだか嬉しくてたまらないのだが。それと同時に俺に体を貸してくれたサーレの事も考えなくてはならないと思い始めたので。俺はこれからの事を相談するためサーティ達に俺の考えを伝えて、サーレに体を返してもらい。その後俺達は王城に戻ることになった。その途中でサーティとサーレーにサーレーは一体いつまで俺の中に入り続けているつもりなのかを尋ねてみる。サーティは、サーレトから許可を得るまでだと言っていたのである。

そうしているうちに俺たちは家に戻り着いてから、サーレトの元に向かいサーレトに俺の中に入っている時間に制限は無いかを確認してみた。しかし、特に問題なく好きな時間に出ていられるという答えを聞くことが出来た。ただしサーレトからサーレーがサーティの中で眠っている場合は、俺と体を交代できないとも告げられる。その事に俺は、そんな状態ではサーレは俺と入れ替わる事が出来ないじゃないかと心配になり、大丈夫だろうかと思ってしまう。

その事を考えている間に俺はサーレから体の支配権を取り戻していたのである。俺はすぐにミレアネに俺の体を貸していた間の出来事を話し。その後サーティから話を聞こうとしたが、その時に、サーティは、まだ体を使い慣れていないと言っていたので。サーティの事はとりあえず後にすることにする。俺はまずサーレの方へ体を返してもらうと。サーレーに俺に体を使わせてくれている事に感謝を告げると、サーレから体を使うのに問題はないという返事が帰ってきたのだった。

それからサーレーとサーティに、しばらくの間俺が体を貸すということを話すと二人は賛成してくれた。

そして俺は、ミレーナとサーレとサーティとサーレーと一緒に昼食を食べるために食堂へと向かうことにした。そうしながらミレーナは、自分の娘であるサーティが、サーレのことを気にしていたので。サーレのことをサーティに任せることにした。しかし、そうは言うものの。ミレーナは、やっぱり俺がサーティとミレーティとサーレとサーレーの面倒を見るのは大変すぎるんじゃないかと考えてもいたようである。

それからしばらくして、サーティがサーレーの体を俺の体に戻してくると俺は、サーレーとサーティーのことを二人きりにするために、二人のことを食堂に残し。そして俺達は、家に戻ると俺とミレティはサーティの部屋へ向かい。ミレティは俺に服を脱ぐように指示を出してきた。そしてその指示通りに俺が裸になるとミレティが俺に覆いかぶさってきて。俺の胸の突起物と、俺の魔道具に、ミレティが吸い付いてきた。その後、ミレティは俺の股間を弄り始めていき、俺は快感によって頭が真っ白になってしまいそうになるのであった。

そうしているうちに俺はミレティに、自分の中にある、サーティの体への愛情を感じ取ってもらえるように意識して、サーティの事を愛しむと、次第に俺の体に力が入らなくなってくるのを感じる。俺はミレティが自分の中にサーティの存在を刻み込んでくれると理解すると俺は心の底から安堵することができたのである。その後はミレティは、サーレの体を自分の娘として受け入れて欲しいと言ってきていたので俺は、その言葉を受け入れた。そして俺も早くミレーティの子供が欲しくなって来る。しかしそんな時に限ってなかなか出来なくて。その事にミレーナは焦っていたが。そんな彼女を見て可愛いと思うと共に俺は彼女に謝るとミレーナは優しい笑顔を見せてくれるのであった。その後サーロ達との合流を果たした後、俺はミレティにサーレの身体の主導権を譲るのであった。サーティの身体はやはりまだ俺が動かすには力不足であったからである それから数日が経過した頃。俺はミレティに俺とサーティとサーレー以外の家族が欲しいと伝えてからサーティに身体の主導権を握ってもらう。

俺はその時にサーレーのことも考えて。自分の身体を使って子供を生んでくれても良いと言ったのだが。俺がサーレの体の事を考えていた時。突然サーティが口づけをしてきたのだ。そのせいもあって俺は動揺してしまい。思わず固まってしまう。しかしその事で俺の体は動き出し。俺の頭の中には、サーレーとサーティとサーレーの声が響き渡り。俺の意思とは無関係に俺はサーレの体を操作して。俺の体からミレティナを出すことに成功する。その事に俺は戸惑ってしまうが。しかし俺の目の前に姿を現した俺の体を見てみると、そこにはなんとサーレーの顔があり。どうやら俺はミレティに体を支配されていたサーレーに唇を奪われていたらしい。そんな事実に俺の心臓は高鳴る。そのせいか顔も熱いのを感じた。

俺はサーレに口づけされたという事実に俺も、ミレティに俺の体からサーティを出してもらわなくてはならないという気持ちにさせられる。俺は慌ててミレティの元に行こうとするが。そこで俺はサーロー達から俺達夫婦の間に産まれたのは女の子だったという知らせを受け。サーレーとサーティを呼び寄せてからサーレーの体の中にいたサーレーにも協力してもらう。

そして三人の体を借りた俺が同時に動くと、そこにはミレティアの身体が姿を現すのである。その後俺がミレティアの体の事を確認する前にサーレー達が俺の中から出てきたのであった。俺はその時サーレ達の事をもう少し待っていてほしいと言いたかったのだがそんな暇も無くなってしまったのである。

何故ならミレーナが、サーレの身体を使って出産をするのだから手伝いなさいと言ってきたからだ。そんな事を言われて俺の体の方は、サーティに操られ。サーレーの体を強制的に動かせるようにしてから俺は、ミレーナとサーレの手を借りて、ミレーナのお腹にサーレーの体から出された卵を植え付けさせていく。そのおかげで俺はサーレーとサーティの体で妊娠させることができ。その後サーティから体を返してもらって。俺はミレティの所に行きたいからしばらく俺に体を貸して欲しいと言うと。サーレーが少しだけ寂しそうな顔をした気がするが俺はそれを無視したのである。そして俺達は俺の家にサーレトとサーティーを残して王城に向かうことにする。ちなみに俺は、ミレーナの体を宿してから、サーティの体を操っていたサーレーの事をしばらく放置していたが。それはサーティをサーレーと二人きりにしてやりたいという配慮からでもあった。

その日の夜は俺とサーレトが、サーティーとサーレーの体を交互に借りて夜を過ごした。

「ねえ、リディア姉様とサーレはいつ子供が生まれるの?」

「うーん、多分もうすぐだと思うけど。でもね、生まれる時はきっとお婆ちゃんになっているからサーティーはまだ見れないかな」

「えーそんなーお母さまずるいー。わたしも見たーい」

「うん、私も赤ちゃんを見たいな」

「そうだよねーサーレーもそう思うでしょ?」

「うん、ぼくも見たい」

「そう?じゃあみんなに見せるためにも頑張らないとね」

俺はサーレの体で、ベッドの中で、サーティとサーレーとサーレーとサーレとサーレーとサーレーの会話を聞いていてそう言ったのだった。そうしていると俺は自分の体の中にミレティナを感じられるようになり。ミレティが俺との子を産み始めたのがわかった。それから程なくしてサーティが、サーレーがミレティの体に入り始める。俺はそんなサーティー達に俺に力をくれた礼を告げるとサーティが、これからの事を話し始めた。サーティーの話によると魔王はまた動き出すらしく。その為に今は、その事を警戒する時期であり。ミレティとサーレーには、この先しばらくの間。子供達を守る役目を与えてくれたようである。そして俺とサーレー達は、その事に了承した後。俺は、ミレーナのことを気にしていたので、サーティーに頼み。俺と入れ替わってもらい。そしてミレーナの元に向かいミレティのことを託すと。俺は急いで家へと戻るのであった。

そして俺はサーティと一緒にサーティの部屋に戻ってくる。サーティが、ミレーナが産気づき。今まさに産まれようとしていると言っていたからだ。そのせいで俺は急ぐ必要があった。

それからほどなくして、俺はミレーネが産声を上げる瞬間に立ち会うことができたのだった。そして生まれた赤子は、元気に泣いており。その事を確認し終えた俺は。ほっとしたのであった。

その後、俺とサーティが、自分達の子供を抱きながら、ミレーナが休んでいる寝室に足を踏み入れるとそこには、俺とサーティのことを出迎えるミレーナの姿が見えた。俺はミレーナと抱き合ってから。お互いのことを労った。

それから俺は、俺の体から生まれてきたサーティの体を使っているミレーティのことを抱きしめるとミレーナは微笑んだ後、俺の体から離れ。サーレーの体を俺の方に向けると。そのサーレとミレーティの体を俺に預けて。俺は二人のことを受け取り優しく頭を撫でてから俺はその場を離れることにしたのだ。なぜなら、サーレの身体がかなり汗ばんで居たので着替えさせてあげたかったのもある。それともう一つはサーレーはサーティの体を使い続けていたためサーレの体は疲労困ぱいしていたためだ。その事も考えて俺は、二人のことを一旦部屋において行くことにしたのだ。

そうして俺はサーレーの身体に入っているミレティと共に俺の家に戻ると、ミレーナが俺のことを呼びに来た。俺はそれに答えてミレーティを連れて俺達夫婦の寝室へと向かうとそこにはサーレーとミレーテが、サーレーに抱かれているサーティとミレーティがいた。

その事から俺はサーレの体の方をサーレーとミレーティに返すとサーティの体にはミレーレが。サーレーの体の中にはサーレーが入ることになったのである。俺は、ミレーレの体の中にいるミレーティがサーレーとミレーレの体と体を入れ替えている様子を見つめた後。サーティとサーレーの体を俺が使っているサーレとミレーティの体と入れ替えた。そしてその作業が終わると、俺はサーティが、サーレの身体を使うことになる。そのせいもあってかサーティは、自分の体を見ている間にサーレーの顔が浮かんできて少し複雑な気分になる。

しかしサーレーが、サーティが、俺達の為に子供を生んでくれて嬉しかったとも話してくれたのである。その言葉を聞いた俺も、自分のせいでミレーレに負担をかけてしまったと反省をしたのだが。

ミレーティが自分の体を取り戻せるのが嬉しいのか。サーティは俺に対して文句を言うことはなく俺達はサーレの身体とサーレーの身体を使って一緒に寝たのであった。ちなみに俺が、サーティとサーレーの体の中に入ってしまった理由は俺の中に居るミレティナの影響であるのは間違いなかった。俺はミレーティが出産をしたあと。疲れ果ててそのまま眠りにつこうとしているサーティを見ながらもサーティにキスをしてサーティのことを抱きしめたのだった。

「ねえ、お母さま。ちょっと聞きたいんだけど。いいかな?」

俺がサーティを抱いている時、サーティはそう言って俺のことを見ていた。その表情を見てサーティの言っている事に何か不安な要素があったような気がした俺は。俺は何が知りたいのかを尋ねた。すると サーティは

『お母さまが、サーレを孕ませた理由って、なんだったの?』

と質問してきたのである。

そんなサーティの言葉に俺が戸惑っていると、サーレーも口を挟んできて。

「うんうん、それ僕も聞きたい。僕もサーティーも、リディアがミレーネにサーレーを仕込むなんて予想もしていなかったからね。どうしてあの時にいきなりサーレを孕ませるなんて事になったのか教えてほしいよ」

その事を言われても、俺はそのことについてあまり詳しくなかったので、どうしたものなのかと考えていると、サーティとサーレーが

「やっぱりあれですか、ミレティさんを妊娠させるのに使ったのがまずかったのでしょうか?」

と、ミレーティが言ったが。俺はミレティナが俺の体の中に入って、俺にサーレの妊娠について話をしたときには。すでに俺とミレティナの肉体関係は切れていたので、サーレが産まれるわけがないと思っていたし。仮にできたとしても、俺がミレーティを抱いた時にはもう既に、サーレはサーティと、俺の子を身籠もっていたはずであるから。それは有り得ない事であった。

「うん、多分違うと思うな」

と、サーレーが言うと、 サーティーもその事を否定せずむしろ肯定していた。そして俺は、なぜサーティが、俺がミレーティにサーレを仕込んだ理由を知りたがっていたのかという理由について。その理由が、ミレティにあるのではと考えた。そこで俺が、サーレーとミレーティとサーティが、ミレティが妊娠できる体に変化した事で、三人は、自分の子供が欲しいと思い始めたのではないかと思ったのだ。

しかしそれを聞いてしまった俺が、そんなことはないと言ってしまえば、サーレーとサーティとミレーティの三人はショックを受けてしまうのではないだろうかと心配になった。なので俺は三人に俺がミレティと、その体を使った時の状況を説明することにした。

「実はその件については。サーティと、ミレーティにも責任はあるかもしれないんだよ」と俺は三人に対してそう言ったのであった。そう、サーティとサーレーも。俺とミレティの関係が、サーレーが生まれた頃には既に終わっていた事に、俺とミレティとの関係を知らなかったからとはいえその関係を続けさせてしまっていたからである。

その事を考えると、俺とミレティの行為が終わった後すぐに、ミレティの身体が変化したこと。そして、サーティが生まれてきたことで。俺達の関係性が変わってしまったことは、仕方がないことだったのではないかと思えるようになっていたので。俺としては二人を責める気は毛頭ないのであるが。そのことを説明した上で俺は、三人の子供達が、俺の子供を望んでいるのであれば俺の体の中で産むことを許可する。

その事はミレティが、ミレーティと、ミレーティーを産んだときに俺が、俺自身の手で、自分の体内に入った子供達を出産させてやろうと思っているからだ。もちろん産んだ後にサーティーの体が回復して、普通に動けるようになるまではサーティに、サーレーのことを頼まないといけないが、それが終われば俺がサーレー達を抱いてあげることも可能となるだろう。

そんな考えを伝えてみると。

「ありがとうございます。私達のような者を受け入れていただけて本当に感謝しかありません。もしよろしければこれからもよろしくお願いしますね。これからのこともありますから私達は一度家に戻らなければいけないと思いますが。必ずまた来ますので、その時はサーティとサーレーのことを、どうか大切に育ててくださいね」

そう言ったサーティのことを抱きしめるとサーレーはサーティーの頭を撫でた。そしてミレーティは自分の体に戻って行く。そして、サーレーとサーティは。

『じゃあ、僕は、一旦戻るけど。僕達はまた来るから』

と、サーティーの体で話すと、

『そうだよね、お母さまがサーレとサーレーの面倒を見てくれるという事なら安心して帰れるよ』

と言ったサーティに サーティも同意した。

俺は、俺の中に戻ってきた二人の事をサーティとサーレーと抱き締めながら二人の成長と無事な姿を確認できてよかったと思っていると、俺の背中に抱きついてくるものがあった。その感覚で振り返ると、そこには、

『ねえリディ姉ちゃん、今度はあたしの身体も使ってほしいかな?それともまたサーティに赤ちゃん作らせてくれない?それとさぁー。この子って女の子?男の子?早く名前つけてあげないとだね。それにしても可愛い顔してんねぇ。お父様のことも、リディア姉のことパパと呼べたらいいんだけど。あたしもパパに甘えたいなぁー。いいでしょぉ?』

と、俺に対してそう言った。俺は、その声を聞き。一瞬でミレティナの声だということがわかってしまいため息を吐きながらも。サーティに俺の娘達を頼むと言って俺は、その場を離れようとした。だがそれをサーティが呼び止めて。サーティの体の中に入っていたサーレがサーティーに俺のことを呼ぶように伝える。それから俺の体は、サーティーの方に向かって行き、 サーレーがサーティの体に入り直したので俺はサーティに、 《どうしましたかサーティ》 と話しかける。

「お母さまが、私の身体の中に入ってくれている間、ずっと、私の事をサーレーが見ていてくれたんだけど。サーレーと二人でお話しをしていた時に、私は、まだ子供を産むつもりはなかったし。そもそもお母さまとも結婚する前から体を重ねていないから、お母さまとの性行為をしたのは、その一度だけしかない。だから私が、自分のお腹の中に新しい命が宿ったことを知ったとき凄く不安になったんだけど。

それにサーレーの話では、あの時は、リディの身体の中にはミレーティが入っていて。その状態でも子供を作れる状態に変化していたという。それで私は考えた。もしもあの時の性行為で、お母さまの体に子供を宿すことができれば、お母さまとの間にできた子が私に力を貸してくれて、もしかしたらサーレーの時のように魔王を倒せるような強い力を身に着ける事ができるようになるのではないかと考えたんだよ。

その事も踏まえた上で、もう一度言うよ。私の中にいるサーレーがサーティの身体を操り。サーレーにサーティのお腹の中にいる子を身籠もらせるのに協力して、お願い」

そう言った。俺はそんな彼女のことを再び抱擁して 俺は、サーティがそう望むのならば、 と返事を返すのだった。

「サーティがそう望むのであれば協力することはやぶさかではありませんが。あなたをサーレーの体を、サーレーの身体の中に入れるのはまだ無理でしょう。そう考えると。その方法は危険を伴いすぎるのではないですか?」

そう俺は、サーティが俺のことをサーレとして、サーティーをサーレーの体の中から出すと言う提案を受け入れることに反対だったのだ。なぜならば。もしサーティをサーレーの体に入れた場合。そのサーティーと、サーレーはサーティーのことをサーティの体から追い出そうとするサーレーと喧嘩をして大暴れをするようなことになるのではと予想したからだ。

俺がそういう風に、二人に伝えると サーティーは

「そっか。やっぱりお母さまにはバレちゃうか。だけどこのままだと。せっかくのサーレとサーレーの子供も。その子の成長を見届けることができずに死んでしまうと思うの」

そう言われても俺の気持ちは変わらずに。二人共俺の子を、出産する前に殺すようなことはしないでほしい。

と説得を試みることにしたのだ。そんな俺にミレティは『うぅん。そんなことしなくても大丈夫ですよ。サーレーだって、もう既に妊娠していますし。それに今すぐには産めませんが。もう少し時間が経つと自然にサーティさんの身体から出ていくと思いますし。だからリディーちゃんも、そんな怖い顔をしないで下さいね』

という事を言うと。サーティはその言葉を鵜呑みにしたらしく。ミレティの言葉を信じてしまい、俺の意見を肯定するように俺の体から出ると言い始めた。俺としても、それを止めることはできないので仕方なく、二人を俺の子の産み落としに協力させることにする。そして俺の体からは、サーレーの意識が入り、そして、

「えへっ、久々だよリディ。僕達の体を使わせて貰ってごめんね。これからはサーティに体を譲ろうと思っているんだ」とサーレーが言うと、サーティの体からも

「これからもよろしく。リディア姉ちゃん」

というサーレーの肉体に憑依したサーティが言うのであった。俺は、サーティのことをサーレの体に返したのだが。サーテーの身体は、なぜか動こうとしなかったのだ。そんな俺達を見て、不思議に思ったのか。俺のことを見つめてくる。俺はそんな彼女に

『その件についてはまたあとで詳しく説明いたします。まずは私達についてきたサーティの体の中のものを吐き出して、楽にしてください。その後ゆっくりとサーレとサーレーが休める場所まで戻りましょう』

そう言ったのだ。サーティーは素直に俺の言う事を聞いてくれて、それからサーティーの体から出た。

すると。サーティは俺の身体を使ってサーティから出てきたものを見た。

『わわわぁ!なんか変なもんが出て来た』

とサーティが言う。そして俺が 《それは俺が、ミレティナの中に出したものだ。それを使えばきっと強くなれるはずだ。だから早く吐き出してくれないか?俺はその事を伝えたのだがサーティはそれを拒絶して。サーレが体の中で、サーレーの意識と争っていると突然サーレーの体が大きく揺れたと思ったらサーレの姿が現れた。そのサーレは、

「サーレーの体を借りることに成功しましたよリディアさん。サーレーの体を使うことに成功したのは良いのですが。僕がサーレーと入れ替わっていた時に。サーレーはどうなっていたんですか?」

と言って、俺に対して説明を求めるのである。そんなサーレーに対し。

『あぁ、サーティが俺と子作りをするときにサーレーに、サーティの体にいてもらって、その間に俺の体内で出産させてしまおうと考えて。その時に俺が、サーティのことをサーレーの身体に入れてあげることになったんだけど。俺の体内に入っている間ずっと、サーレとサーレーの間で争っていたみたいで。

そのせいでサーティが、苦しむことになってしまったのは申し訳なかった。そのことでサーティが怒っていたら謝らないといけなかったし、もしもそれで機嫌を損ねて。俺の事を嫌いになるんじゃないかと考えていたら不安になって、サーレーからサーティに乗り替える事ができないで居たんだけど』

と俺の口から、サーレーに対して説明する言葉を聞いたサーティーが俺に対して怒って文句を言い始める。

「サーレー、どうして。そんな大切な事を隠したりするんだよ」

と言って怒り始め。そして俺も、俺が隠したわけではないと説明して。

「俺が悪いというのなら。その責任を取るために、俺は何をしたら良いだろうか? 俺にできる事なら何でもするぞ」

と、言って俺が何かサーティーに償いをしようとすると、サーティがそれを止め。

『お母さまは、何の責任もないよ。私を思ってやったことだし。私は、お母さまのこと大好きだから気にしないでよ。それにお父様と、サーレー達が一緒にいるところを見ていたからさ。それにしてもお母さま。その事で私に対して気負う必要はないですからね。

それに私達は、お母さまの体から生まれ落ちたわけじゃないし。だから私の方からお母さまを恨んだりする事はないですから安心してね』

と、言うのだった。俺はそのことに対して嬉しさを感じ。サーティに対して抱きついて頭を撫でると、俺は

「俺は、本当に幸せ者だな」

と言った。

俺の言葉を聞き、サーティーも

「うん。私もだよ」

と言ってくれたのだった。

そんな俺たちの様子に、

『まったく。相変わらずですね。それで。僕はどうなったんですか?』

と、言うサーレーに対して。俺は、「とりあえず、お前も俺の身体に入ってくると良い。サーティに体を返してもらう必要があるだろうが」と言う。サーレーはそのことに少し悩んだ後。

「確かに、そうしないといけなさそうですけど。でも、まだこの体の使い慣れていないんですよね」

と言うのであった。そこで俺は

『だったら。俺の体を使いながらでいいから、サーティーと一緒にいるといい。そのほうがサーレーも、サーティも気が紛れるし』

そう伝えるとサーティーは喜んで

「私も嬉しいし。それに、私も。私の体を使って、お母さまに甘えることができるんだし。その方がずっとずっと嬉しいかな」

と言うので俺は、二人の為に自分の部屋に戻り、二人のために自分の部屋の掃除をしておいたのでそこに、サーティの体を戻してから。サーティーの部屋に戻るとそこには、ミレティナの体に憑依したサーティーが、サーレーの体を自分の身体に入れようとしていた。だがサーレーの方はサーティが自分の身体に入ってこないように、

『やめろー!』

と叫び声を上げるのであった。そんなサーレーと、サーティの姿を見て俺は、慌てて二人を引き離すと

『一体何をしているのですか』

と二人に尋ねたのだ。そんな俺の質問に答えたのはサーレーだった。サーレーは自分のことを睨んでいる、ミレティナに向かって話しかけたのだ。

「僕が聞きたいよ。サーティはいきなり僕の中に、入って来たとおもったら、そのまま出て行って。今度はミレティナの体を使って、また僕の中に入ろうとしてきたんだよ。だけどサーティにはサーレーが乗り移っているのに、ミレティナの体では何もできずにいた。だから、今こうして、ミレティナがサーティを追い出そうする為に暴れている最中なんだよね。僕としては、早くここから出して貰いたいな」

と言うので、俺は「そうなんだ。わかった。それじゃすぐに出してやるよ」と言って。俺はサーティーの体を元に戻した。サーティーの体に戻ったサーレーは

「助かったよ。お母さま。僕の体を好き勝手使わせてしまったけど。お腹の中の子供にも何も影響がなくてよかった。ところでリディ、サーティに体を貸したときに。僕達の赤ちゃんは無事なのかい?」

と聞くと、俺は「ああ大丈夫だ。二人共ちゃんと無事に産まれてきているはずだし。今は眠っているだけだ。それに俺とサーティーの子だし、きっと元気に生まれてくるはず。だからサーレーも、安心して、これからはサーティと一緒に過ごしてくれ。それが一番、お互いにとっていい事だと俺は思うから」と言うのであった。そんな風に、俺が言うと、サーティーは俺の方に近づき。

『うん。そうだね。私もサーレーと同じ意見だからさ。もうこれ以上リディアの体の中に入っていたくないからさ』

そう言うので、俺はミレティナに「ミレティナ、もうしばらくだけサーティーのことを借りていても大丈夫かい? その間。俺もサーレーとサーティに会っておきたいんだけど」とお願いすると、ミレティナが

「別に私は構わないわよ。だって。あなた達親子って、いつも仲が良いんだもんね。だからそのくらいは許してあげるわ。だけどあんまり長い時間は駄目よ」

そう言って、ミレティナはサーティを自分の元へ帰らせるのである。

《すまないリディア。我としたことがつい取り乱してしまった》 《僕も悪ふざけが過ぎたかもしれないよ》 二人が謝罪してくる。俺はそれに対して、

『気にしないでくれ。それよりそっちはどうなってるんだ? サーレーはどうしたんだ?』

と聞く。その言葉に二人は顔を見合わせると、 《サーレーのことは、どうでもいいが。そのことについてだけは伝えておくべきでしょうね。まずは、勇者としての力を手に入れたのは事実です。ただそれだけでしかないというのが本音ではありますがね。

しかし。あのアイテムが無ければ。私達は魔族の領域に入ることさえできなかったかもしれません。そして、その力を手にした以上。私達にはまだやらなければならないことがあります。まずはこの世界から魔王を倒すことです。そうすることで。サーレーが手に入れた力は消え去るのです。ですからまずはそのことから始めなければいけません。

サーティについては、私が力を解放させたのでその体はもう必要ありません。だからこのままの状態で、封印をさせておいてもらうことにしました。だからサーレーとサーティは、今まで通りに仲良く暮らしてあげてください》 《まぁ。リディアの頼み事ならば断ることはできないし。そもそもリディアに迷惑をかけた時点で、サーレーを元の世界に帰らせてあげられなかったことが間違いだと思うんだけどなぁ》 《サーレーは、余計な事を言わなくてもいいのです。サーレーにだって事情はありましたし、仕方がないことなんですからね。それに。そのおかげで。リディアに体を戻す方法も分かったんですからね》

『えっと。サーレー、それにサーティは。その体の使い慣れているから良いけど。もしサーレーの体が、使いにくくて大変だったらいつでも俺の所にきていいんだからな』

俺はそう言う。そんな俺に対してサーティーが

「う~ん。そのことなら。私の方からリディーに提案しても良い?」

『俺が頼んでもサーレーが聞いてくれないんだよな。俺はそんなつもりがないっていうんだけどさ。どうせサーレが言い出すことだからろくなことではないのだろうけれど』

と、サーレーが言うので、サーティーは「そんな事はないんだけど。ちょっと、私に任せてくれる」

と言うのであった。

それから俺の体の中に入っているサーレーの話をサーティを通して聞きつつサーティが

『それで、これからの予定は?』

と言うので。俺は

『まずはサーティーが俺と合体したことで得たスキルを使ってみることにするか。それでどんな事ができるのかを確かめておかないと、今後の作戦を立てられないからね』

と言うとサーレーもサーティも納得してくれた。

「そうですね。僕としても、今の自分がどの程度の能力があるのかは把握していないと困りますしね」

と言う。

「それじゃ。試し撃ちをしましょうか。でもお父様。一体何処に撃とうと考えているんですか?」

『それは勿論この城の外に出てからにしよう』

と俺は言ったのだ。そこでミレティナが慌てる

「ちょっ! 外は魔物がうろついているんですよ。いくら何でも城の中で使うのはまずいですって!」

『いや。それに関しては、問題ないと思うんだよな』

というとサーレーが、サーティと一緒に魔法を使うための詠唱を始める。そんな二人の姿を見ながら俺が考えているのはこの国の周辺の地理だ。この国には二つの街道が存在している。その一つの街道を進むと大きな森がありそこを抜ければ小さな村があるのだが、そこは今は、人間とゴブリンやオーガなどのモンスター達が争いを繰り広げていて、とてもではないが近づくこともできないのだ。

もう一つの道の先にも山が存在するのだが、そこまで行くには馬車を使って二日かかる。そこでサーティと俺とで考えた結果一つの案を考えておいたのだ。それを今から実行しようと考えていたのだ。

「お母さまもサーティーの身体を使ってみては如何ですか? 僕がサーティに乗り移られた時と同じようにお母さまもサーティの身体に入れると思いますから」

「わかったわ」

と言って、ミレティナはサーティーの体に憑依する。それを見た俺は、「ミレティナもサーティーのように上手く操れるようになって欲しいからね」

と言うのだった。そして、二人の魔法の威力を確認した俺は、二人が魔法を放った先にある物を目にするのだった。

《やはり。これは面白いことになりそうだぞリディア》 《ああ、確かにそうだねリディ》 二人はそう呟いた。何故なら、彼らが放った魔力によって生じた爆発により、その場所にあった城は跡形もなく吹き飛ばされてしまうのだった。

「やっぱり、やり過ぎちゃったかな?」

と俺が言うと、

『まあ、やってしまったことは仕方がないだろう。しかしこれで私達は。自由にこの大陸の空を飛ぶことが出来るようになったということだ。

《ああ、それにリディアも自分の体を取り戻したのだから。私も、この体を使いこなすことが出来ればいいのだがな。そうすればリディアと二人で世界を旅することも容易になるはずだからね》 と言うので、俺が「その事についてなんでだけどさ。俺の予想が正しければ俺がサーティーに融合したことで使えるスキルがあれば俺の方にもその能力を得る方法があるはずなんだけどさ。それが何なのかが、今一わからないんだよね」

そう言うとサーレーが「僕にできる事があるなら協力するよ。僕の方は別に問題ないんだけどね。お母さまのことが気になっているんだよ」

『お母さまのことは大丈夫だよサーティちゃん。だってお母さまの中には僕がいるんだよ。僕の意識の一部だけでも、お母さまの中に留まることが出来たらお母さまの事を護ることも出来るんだしさ。だから、僕のことなんて心配せずにお母さまはお母さまのことを優先してよ』

と言ってくれた。なので俺はサーレーにお礼を言うと。俺は

「俺の方も特に問題はないし、後は。魔導王から託された、アイテムと、魔族の秘宝を探し出してからの話になりそうだし。その辺りを手分けして探してみるしかないかもな」

と俺達はそれぞれの役割を決めて行動を開始したのであった。

それから数日後のこと。

『魔導王の奴は本当に役に立たなかったのだろうか? あいつの力を使えば、すぐにでも俺達の目的は達成できたかもしれないと言うのに、そのチャンスすら与えずに消え去ってくれるとはな』

俺は独り言をいうのであった。

そんな感じで数日の間過ごしていたある日のこと。突然に俺は、俺達の目の前に現れたのである。一人の人物を護衛している兵士に

『おい。そいつはお前らの上官じゃないのか?』

そう俺が話しかけると兵士が敬礼をしてから答えてくれた。

「は、はい、我が隊の責任者です。貴方様は何者なのでしょうか」

『ああ、すまない。私はリディアの夫であり勇者でもあるリディアの夫だよ』

と答えると兵士は驚きながらも

「えっと、あの、もしかするとリディアさんの旦那様なのでしょうか」

そう尋ねてきたので俺はうなずいてから答える。

『まぁそういうことだな。で、そっちのおっさんに聞きたいんだがあんたが連れているその女性って、もしかして。勇者の末裔とかそう言う人じゃないのか?』

「え? どうしてそれを、それに勇者の血族であるということまで分かるのですか? も、もしかして貴方は神のお導きでここに?」そう言われたが。俺はその質問に対して首を横に振ってから、

『いや違う。俺はサーレーの力を取り込んだ時にサーレーの中に眠る魔王の記憶が頭の中に入ってきたから。もしかしたら、魔族が俺を狙ってくるかもしれないと思ってさ。それで護衛を付けさせてもらっただけなんだよ。俺がここに来た理由はそんなところなんだが、俺達の護衛対象はそちらの彼女だけで良かったか?』

と聞くと兵士が俺の前に出てきて、俺に対して深く頭を下げてくると

「そうですか。それならば我々もこの方の護衛をお引き受けします。それと私の名前はカドラスです」と言うともう一人の兵士も俺に名乗ってくれたので俺が

『俺の名はライナ。リディアに呼ばれてこの地へとやってきた者だが、とりあえず、俺のことは気にしないでいいから、俺の仲間も一緒に来てもらうことにしたから。宜しく頼む』

と挨拶をするのであった。

「わかりました。リディア殿にはいつも大変お世話になっております。私も、あの方には助けられてばかりで、お恥ずかしながらお名前さえ知らなかったんですよ」とカドラスが言って、もう一人の男の方がうなずくと俺は二人に仲間が来ることを伝えてしばらく待っているように伝えておいてから、その場を離れてからリディアに念話を送り、リディアが、今どこにいるのかを確認してみる。

(リディア聞こえるか?)

《はい、どうかしましたか?》 リディアが俺にそう聞いてきたのである。俺はまず、サーレーが、ミレティナに乗り移ったことをリディアに伝えると。リディアは少しばかり残念そうな顔をしたが、 《まぁ仕方がありませんね。それよりも私達は私達にできることをやりましょう。それよりサーレー。いえサーティーが、リディーがミレティナに乗り移っていることはサーレーも知っているんでしたっけ?》 リディアが、サーレーではなくて、リディーと呼んできているのはサーレーの魂が抜けてしまった影響が出ているからだろうと思いつつも俺はサーレーに念話で事情を説明しておくと。サーレーは、

『ああそうか。それでお母さまの身体は大丈夫だったの? 僕はてっきり僕がサーティに身体を貸していたからお母さまの体に負担が掛かっているのかと思っていたけれどさ』

という。俺はサーレーの勘違いしている部分に気がついたので俺はサーレーに説明することにした。

「サーティー。俺はサーティの身体に融合したことによって。今までにはなかったスキルを手に入れることに成功したんだ。それは、憑依と言ってサーティーが使うことのできるスキルの一つで、サーティと合体することでサーティが使うことができる魔法や特技などを使用する事ができるようになっているみたいなんだよ」

『へぇ。じゃあお父さま。僕の魔法がお父さまの使えるスキルになっているのはそのためだったんだね』

そう言い出すサーレー。それからリディアにも、今の俺の状態を説明する。そしてリディアには、リディア自身が乗り移りたいという意思を持って憑依すれば、俺と合体してなくてもミレティナにサーレーが入り込むことが可能になるということを話すと、リディアは喜んで俺が憑依していないミレティナに自らの意思をのり移ることに成功する。そこで俺がミレティナの体の調子を尋ねると特に問題ないと言われてから、リディアは俺にサーレーと一緒にこれからどうするかを尋ねた。俺は俺で考えていたことがあるというので俺は、今考えていることを皆に伝えていく。

俺達がこれから目指すべき場所というのは俺とサーレーの予想だと、ここから北にある小さな村だと思われる。その村が襲われている可能性を考えたからこそ、ミレティナを村まで移動させたのだ。

その理由として考えられるのは二つほどあった。その一つは村を襲うための襲撃部隊がたまたま村にやってこようとしていた場合だ。その場合ならば村人は皆殺しにされる。そしてもう一つの理由がその村にいる村人を全員奴隷にして売るために連れて行ったのだとしたら。それなら、この村の人達は無事でいられる可能性がある。そして、もう一つ、襲撃部隊よりも強い勢力を持った者達が存在する可能性について考えてみたのだ。

それを確かめるために俺は、サーレーに念話で話し掛けた。

《サーレー聞こえたか?》 《うん、聞こえるよ。でもお父さま。サーティーの体をあまり無理させないであげて欲しいんだよ。お母さまに聞いたんだけど、お母さまの体はもう限界近くまで来てるみたいだし、サーティに僕も入り込んでしまっているからね。その状態でお母さまの体に入り込んだりしたらお母さまの体が崩壊してしまう恐れがあるんだよ》 とサーレーが教えてくれると。

「ああ分かった。じゃあ俺は俺で行動することにするよ。リディ。もしも俺が動けなくなってしまった場合は、その時はその体に入ってくれるか?」

そう尋ねてみるとリディアが、

「分かりました。ライナ。くれぐれも無理だけはしないで下さいね」と言うと、俺達は行動を開始したのである。

それからしばらくしてから、サーレーの体が急に苦しみ始めると。リディアの体がその場に崩れ落ちそうになるが。リディアが地面にぶつかる寸前でなんとか持ち直すことができた。しかしサーレーの意識が消えかけているのは間違いなかったので、

『サーティー大丈夫か。お前がいなくなってしまえば俺はリディアのことを守ってやれないんだぞ』

そう叫ぶと。俺はサーレーに憑依していたスキルを使い自分の意識を移す。しかし、サーレーの意識は完全に消えることはなく俺の中に戻ってくる。しかし俺はそれを無視して、意識をリディアに切り替えて、サーレーの肉体と意識を完全に切り離した後。俺はサーリーアと入れ替わる。

「おとうさん大丈夫」

『まぁ大丈夫だが。それにしてもやっぱりお前の身体ってのは凄いな。お前がサーティーを乗っ取り支配することなんかできっこなかったもんな』

俺は、俺の中に戻ってきたサーレーに言うと、

「そうだよ。でも、お姉ちゃんの身体にはもう慣れてるけどさ、でもまさか自分がこんな風に自由に動き回れる日が来るとは思ってなかったから、嬉しいんだよ」

と答える。その気持ちはなんとなくわかる。

だってサーティーもリディアも俺の中で眠っていて起きているのは俺だけだったんだからな。だからこそこうして外に出るのは楽しいと感じている。だから俺の身体はサーレーに任せることにしている。

『そうだな。だけど油断はするな。いつどんな奴が現れるのかわからないんだからな』

俺の言葉を聞いたサーレーが真剣な表情をしてうなずいた。

それからしばらくの間。俺はリディアの身体を借りてリリアーナの身体の中へと入った後、リディーの身体を借りたリディアの身体へと移っていく。

そうして俺とサーレーとリディアは三人の身体を共有しながら旅を続けていったのであった。そうこうしながら進んでいくと。

ようやく目的としている場所にたどり着くことができた。そして、その目的の場所はやはり、村ではなく街でその入り口に立っている兵士もかなりの実力者のようだったが。そんな兵士達に守られながら馬車に乗った一人の老人とその従者らしき男達がいるのを見つけた俺はその集団に近づいて行く。すると俺が近づくのを見た兵士の1人が

「お、おい待て。何者なのか分からぬが貴様がどのような理由でここに来たかはわからぬが。それ以上近づけば攻撃せざるを得なくなる。それでもいいのか?」

と剣を抜いて俺に対して言ってきたのである。なので俺はサーレーに頼んで俺の代わりに話をするように伝える。サーレーは俺に何かを頼みたかったようだが。そんなことをしていて、万が一サーレーに何かが起きた時の方が困ってしまうと思ったからである。そうしてサーレーにお願いをした俺がリディアに乗り移ったリディアが

「あの貴方方の目的は何ですか?」

と聞くと、護衛の一人の女性が

「それは言えないんです。ただ私はこの国に使える騎士であります。そして私が仕える主は王城に住む姫であります。それゆえに、貴方方のような方々と接触するのはまずいのです」と答えてきたのであった。

その答えは、当然の反応と言えるだろうなと思いながらも俺は、どうしてサールーテ達が襲われる可能性があったのかが気になったので、 《なぁサーレー。確か前に俺がサーティに言った話だと魔族の襲撃は、勇者の力を持つものがこの地に訪れた時に起きるはずだったんだよな?》 と念話で話しかけるとサーレーは 《えっとそれはね。魔族側の作戦が上手く行ってたら、お父さまがこの地を訪れること無くて、お母さまも殺されずにすんでいたはずなんだよね》 と答える。そう考えるとサーレーの言っていたことが本当だった場合だと俺達は魔王と戦うことになるかもしれないということだ。そしてもしそれが本当のことなのだとしたら。サーレーに聞いておかなければならない事があるのだ。

(それで、俺の聞きたいことというのをサーレーは分かってるんだよな?)

俺がそう問いかけてみるとサーレーが 《もちろんだよ。僕の推測が正しいのであればこの先には、リディアお母さまの故郷のお屋敷があって。そこにはリディーとお母さまがいたはずだよ。そしてこの国の王様も、いる可能性が高いんじゃないかなって思うんだよね。だから僕達の目的地もそのお城でしょ?》 と言ってきたので俺はうなずく。

「それは良かったです。ではまだしばらくここに滞在するという事でしょうか? それと私の方からも一つ質問があるのですがよろしいでしょうか?」

と俺の代わりをしてくれていたリディアが尋ねると兵士がこちらを見据えたまま

「な、なんだ?」と尋ねる。そしてそれを見て俺は。リディアに合図を送ると、

『はい。それでは少しだけ、時間を貰います』と言い出したのである。

それからすぐに。

《よしそれじゃあ今のうちに確認しておきたいんだけど。俺の記憶にあるリディアはもう既に、この世界で生きていたリディアではないんだよな》と俺が言うと。サーレーが俺に説明してくれる。

『そうだよ。今のリディアお母さまの体は元々、この世界のリディアお母さまのものだったんだけれど。僕たちの戦いに巻き込まれてしまったせいで、僕達が倒した敵と一体化してしまい魂を半分持っていかれちゃって、その残った半分はお母さまの精神と混ざり合って今の状態になっているんだ。でも、完全に融合したわけではなく、そのおかげというのもあると思うのだけれど。サーティーも僕の体の中に入っていて。リディーの体にもサーティの人格が入っている。そして僕たちはお互いに力を貸し合うことができているんだよ。僕達がサーティーの体を操ってる時はサーティーの力が使えなかったからね』

俺は、そのサーレーの話を聞いて、 《そっか。そういう事情があったんだ。でもさ。なんでサーレー達はその記憶とか持っているんだ?》 俺の言葉に、サーレーが答える。

『うん、実は僕達の場合はちょっと特殊みたいでさ。サーティーとリディーのお母さまは、元々別の人間で、この世界を救おうとして命を落とした存在なんだよね。だから本来、リディーのお婆ちゃんは生きていて。リディーはリディーとして生まれる運命になるはずだった。だけどリディーお母さまは、勇者の力でリディアお母さまに命を与えることで生き延びさせることができたんだけど。そのお陰でリディアお母さまは死ななくて済むことになったんだけど。その代わりとしてリディアお母さまが、勇者の力を使い果たしたことで、お母さまも死ぬことになっていたんだけど。僕たちのお父さんのライナお兄ちゃんは。サーティとサーレーに自分達が死んだ後に生まれてくるであろうサーレーの妹を見守ってくれって。その言葉通りにサーレーとサーティーに妹のリディを守ってやってくれって。頼まれたんだよ。だから僕とサーティーはサーティーの身体にリディを取り込んだあと。僕とサーティーとサーティーの肉体に入り込んだリディお姉ちゃんはサーティの体を使って行動するようになったんだよ』

『へぇーそうなんだな』

と俺がサーレーの話しを聞いて返事をしている間に。

リディアとリディーが入れ替わったようでリディアの意識に変わっていたのである。それを見たサーレーが。

《さてと、それじゃあ行こうか》と言うのであった。そして俺は 《あぁ分かった》と答えたのである。

それからしばらくして、リディアに意識を移したリディアが、馬車の中の人に話しかける。

「それで貴方方が私に尋ねたいこととは何なのでしょうか? 一応この村で暮らしている人たちには許可を取ってきましたが」

そうして俺が憑依しているサーレーの体がリディアの身体を勝手に使いながら、リディーに乗り移りその隣に座ったサーティの身体に憑依していたサーティの体にサーティーが憑依する。ちなみに俺とサーレーとサーティとサーティーはお互いの事をちゃんと呼び分けるために俺は、自分の名前を一人称に使う。

「わたくしの名はサーティティナ=エルスフォードといいます。それで、貴女はなぜこのような村にわざわざ訪れたのですか?」

そう言ってリディアは女性をにらみつけた。

そうすると女性が慌てて答えたのである。

「申し訳ありません。しかし我々としては貴方様方を、この村に連れて行かなければならかったんです。そうでなければ、貴方様方や貴方方の御主人様に危害が加えられる可能性があると判断しまして」

「どういう意味かしら?」とサーディアは言い。そしてリデアの方を見ながらサーディアに目線を向ける。するとサーレーが、俺に向かって言う。

《お姉様、その前にこの人達の素性の確認をしておいた方が良いんじゃない? お父様はもうすぐそこまで迫ってきているから時間がないんだよ。それにサーティお姉さまは、もう眠そうにしているからさ。とりあえず話を聞いてみることにしようよ。僕はこっちの子の事が心配でならないんだよ。だってサーティーの事はサーティティアーテが面倒見るっていう約束をしてるのだから》 俺は、俺の中にいる二人の少女の声を聞くことができるのだが、サーティアのことは、二人とも名前で呼ぶようにしており俺もサーレー達と同じ呼び方で呼んでいる。それはサーレーとサーティが姉妹なのだからだ。俺は、サーレーが何を気にしてそんなことを言ったのかよく分からないままに「それもそうね」と言い、俺達が泊まっていた宿屋の女将さんに声をかけ、部屋の鍵を受け取る。

そうしてから俺達を宿まで案内した男性に鍵を渡すと俺達は二階の部屋に入る。そうして俺達は部屋の扉をしっかりと閉める。その後。俺は、リディアの体の中から出ていき、そして入れ替わるようにしてリリィが俺の中へと入ってくる。

「えっ! どうしてサーレーの体の中に入っていたんですか?」

そうして俺達は、先ほどサーレー達に聞いた話をリディアとリディアに乗り移ったサーレーとサーティに伝えて。これからのことについての話し合いをする。リディアに乗り移ったリディーは。この村の村長のところに行くことにしたようだ。サーティに乗り移ったサーティーはどうもリディーと話がしたいらしい。リディーはリティーの頼みならばと引き受けていた。

そういえば、サーティはいつの間にリディーと仲良くなったんだろうか。リディアのこともリディアお母さまと普通に呼び捨てで呼んでいたしな。俺は、サーティのリディーに対する態度に疑問を感じていたがリディアの言うとおり。サーレーはサーティンと二人でサーティーンとリディという名前を考えてくれたんだろうと思い。俺は納得したのである。そして、俺達はリディア達が向かった先に行くための準備をするために動き出す。そうすると、サーティが俺の腕に抱きついて来て。そしてリディーがそれを引き離そうとしてくる。それをリリアが引き離し。サーレーが俺を抱き寄せてきて。俺達は四人一緒に行動する。

「それで、なんで私はこの人のそばから離れちゃダメなのかしら?」

リディアはそう言うと俺をじっと見つめてきた。それに対してサーティが答えて、

『えっと。お父さまはリディアお母さまにとって大切な存在なんだから、守ってあげないと駄目なの』

「それは確かに、そうだけれど。その人が私にとって本当にお母さまの旦那様なの?」

とリディアが尋ねてくる。

『えっとね。まずはその人はね、リディアお母さまが命をかけて愛した人で。私達の母さんの旦那様だよ。それと私の大好きなお母さんが、その人のことを愛してるって言ってて。リディアお母さまも同じように、リディアママの事を好きだよって言ってくれたんだよね。でも私の記憶だとね。その男の人も。リディアお母さまのことがすごく好きだったみたいだから。きっとリディアお母さまの事も大好きだよ。そして、リディアお母さまは。リディアママの事が好き。でもリディアお母さまがリディアマにぃのことを忘れても、私は忘れていないんだ。それで、サーティお姉さまと、サーティーお姉さまが教えてくれたんだ。リディアお母さまと、リディアマにぃの間には血の繋がりは無いんだって。でもそれでも。リディーもサーティもリディーもリディお母さまも、お母さまなんだ。でもお母さまにはお母さまって呼ばれるよりも、ママって呼ばれたいんだって言ってるよ。だからリディアお母さまはリディアママの事を、お姉ちゃんとかママと呼ばないといけないんだ。お姉ちゃんはちょっと難しいから。リディアお姉ちゃんなら良いんじゃないかな?』

「そう。リディアは今度からリディアの事をリディアママと呼ぶことにすればいいのかしら?それじゃあ早速、その、リディアパパの所に向かいましょうか」

そうしてリディアが歩き出した。俺とサーティは、リディーの手を引いて。それから俺達の後ろにサーティが続く。リディアは俺達を連れて行くと言っておきながら道が分かるはずがないのだが、なぜか迷うことなく道を歩いていたのだった。そうしている間に俺達の前には。この国の騎士団らしき人物が現れる。

「お前たちは何者だ!」

そうして剣を向けられたが。俺達は平然としていて。そして俺の前に出たサーティが

『貴方は確か。リディーが助けた人たちの一人です。貴方の名前は?』と尋ねた。

サーティーがそう尋ねると騎士の男性は戸惑っていたが。自分の名前を名乗り。サーティに「俺はアルクというものだ」と答える。

そうするとサーティーは「そう。貴方はこの国の国王の命に従って私達に攻撃を仕掛けようとしたんですね?」と言う。

そのサーティの指摘を受けて、俺の身体に乗り移っているサーティが俺に話しかけてくる。

《やっぱりリディアはリディアお母様と似ていますね。リティア姉さんのように頭が良いようですよ》と俺は言われてしまい。そうなるとこの国の王様の娘の身体を借りているリディアが俺の代わりにサーティと会話をして問題を解決してくれるだろうと期待をしたのだ。だがそれは大きな間違いであった。

俺とサーティーの会話を聞き取ったリディアが俺の方を振り向き微笑む。

「大丈夫。私が何とかするわ」

そう言った後。リディアがサーティに向かって話す。

「あなたは私達のことを襲ってきたのね?」

するとリディアが質問をされた騎士ではなく俺を見て、そう言って来る。

『はい』

リディアはリデアに意識を交代させて答えていた。その後、サーティアに意識を移し替えたリディアの身体はまたリディアに戻ってくる。その間。俺とサーティーに意識を移したサーティは、サーティがリディアに憑依した時の記憶を、俺とサーテイにも見せてくれることになった。そうすると、リディアとサーティンとリディアの三姉妹の絆が見えてきた。

そうして三人の人格を入れ替える事によって。俺達は、俺とリディに乗り移った二人のサーティンは。俺のサーティとリディーのリディアを連れて。王城へと向かう。

俺達が歩いている途中。

「なっ! なぜ貴様らここに居る! まさか魔王軍の仕業なのか?」と叫ぶ声が聞こえる。その声で振り返り確認してみると。この国で見慣れない甲冑を着た兵士がいる事に気づく。そして、その兵士が俺たちの方に向かって走ってきていることに気がついた。

《あれ? なんだろう。あの人。サーティー達を狙ってない?》 サーティーが呟くとサーティは、俺の方を向いて言う。

『ごめんなさい。貴方達は少しの間。ここで待っていてくれるかしら』

サーティはそう言い残すと、俺の前から姿を消した。

俺はサーティンとリディアと共に宿屋に戻ってきたのだが。俺が宿屋の中に足を踏み入れた瞬間。「きゃー!!!」とサーティラの声が聞こえてきた。俺は慌てて宿の中に入って行くとそこには裸のまま。俺に襲いかかろうとしてきたサーティがいたのである。そして俺はその光景を目にした直後。

サーティの頭を拳骨で思いっきり殴ってしまった。そしてその後、俺はリディアに謝っていた。リディアは自分のせいでもあるからと言ってくれていたが。それでも、もう少し早く戻るべきであったのは俺であり。俺は申し訳ないことをしてしまったと思いつつ、とりあえずサーティとリティーに服を着せるために。リディーの体を操り、リディアから出ていく。リディーの身体から出た後に。俺はリディアの胸のあたりを見る。そしてすぐに視線を外すと、俺はサーティとサーティに乗り移ったリディーに着替えさせる。その後、サーティの髪を綺麗にしてポニーテールにし、そしてサーティを抱きしめてから俺達は再びサーティーの体に乗り移り直す。サーティは俺の事をリディアママと呼んだ。それにサーティーのこともサーティお姉さまと呼んでいたなと、思った時に、

『あっ! そういえば、僕も。サーティお姉ちゃんの事はサーティって呼びたいんだけど良いかな?』

とサーティの口を借りてサーティーがサーティに対して言った。

「もちろん構わないけど。サーティお姉ちゃんもサーティって呼んでも良いんだよ」

サーティはそう言うがサーティーはそれを否定するように言う。

『違うよサーティお姉さまは僕のことをサーティって呼ぶんだもん』

「でも私の方がお姉さんなんだから、サーティって呼ばれて当然じゃないの?」

そう言うサーティに、

『えぇ〜でも僕はサーティって呼ばれる方が嬉しいから。だからサーティお姉さまは、サーティお姉さまのままでいてね』

サーティがそう言うので俺はサーティに聞く。

「サーティがそれを望むなら、俺はそうしよう」

『やったぁ〜』と言い嬉しそうな表情をするサーティー。それを聞いてから、俺は、サーティーの髪の毛が邪魔にならない様にまとめてあげようと髪に触れようとすると。「キャッ!」と悲鳴を上げてから。顔を赤くしながら言う。

「リディアママも、私の髪を結ぼうとしないでください。恥ずかしいですから」

「悪い。ただあまりにも長く伸ばし過ぎてると思っただけだから気にしなくて良いよ」

「わかりました。ありがとうございます」

そう言ってからサーティーンの身体に入ったサーティは、部屋の中にある鏡台の前に行き椅子に座っていた。そして、リディが「私は何をしたら良いのでしょうか?お兄ちゃん?」と言った時、リディーも一緒に部屋に入ってくる。

「そうだな。リディアは今のうちに。風呂でも入ってきた方が良いんじゃないか? 昨日入ってなかったろ」

俺の言葉を聞いたサーティは、

「えっ!? ちょっと待ててください。今はまだ心の準備が整っていないので。リディアママ。私と一緒に入りませんか?」とリディアに尋ねて、リディアにお願いをしていた。

「私は別に構いませんけれど。その前に私のお腹がすいてしまったの。だから何か買ってきてもらってもいいですか。お財布は机の上に出してありますので」

「わかったわリディアママ。それじゃあ行って来ますね」

リディアの言葉を合図に、リディアの身体がサーティーの身体へと入れ替わる。そしてサーティーは部屋を出て行ってしまう。リディアの体に乗り込んだリディーが、

「私も一緒に行こうと思ってたのに」

リディアの身体に乗り移ったサーティーは、サーティーに乗り移ったリディアの事をママと呼び、ママと呼ばれることを望んでいるらしい。

リディーに乗り移ったリディアは、自分の身体を見つめる。それから俺に話しかけてきたのだ。

「私にリディアママと呼ばれても大丈夫ですか?」

「ああ。リディアさえ良ければ俺は一向に構わないぞ」

俺がそう言うとリディアは笑顔になり俺に近づいてきて、そして抱きついてくる。

「うぅん」と俺に頬ずりするリディアに、俺は苦笑いを浮かべてしまう。

そんなリディアを見てサーティが羨ましがっていたので、俺はサーティの方を向いてリディーに話しかけていたサーティをリディアに戻すとサーティーが俺に飛びかかって来た。俺はそのサーティを受け止めるとそのままリディアにサーティを任せたのだ。

サーティの身体に入り込んでいるリディアがサーティの頭に手を置きながら言う。

「お姉様、これからは私があなたの身体の面倒を見させてもらいますね」

サーティが「えっ! うん、わかったわ。おねがいします。お姉さま」と言うと、リディアがサーティの頭から手を離す。するとサーティがリディアのお腹に向かってダイブして抱きついたのだ。

「私にもリディアお母様が憑依してくれたのですよね。お礼を言うべきなのでしょうけど。それよりも先に聞きたいことがあるのでよろしいですか?」

サーティがそう言い、俺は「構わないよ」と答え。

リディアに乗り移っているリディーは俺とサーティの会話を聞いていたのだろう。リディアは「サーティ、私達は友達だもの。普通に話してくれていいわ。むしろ今まで通りに喋ってほしいわ。それが一番楽だから。いいかしら?」

そうリディアに言われたサーティが、少しだけ悩んだ後。リディアの方を向いて、「そうね。そうするわ。だってそっちの方が楽しいわ。私に憑依しているリディアもよろしくね。それで、まず一つ目なのだけど。どうして私がサーティに乗り移ったことがわかったの。まさか私が、サーティンに乗り移っていた時に見ていた光景もリディーは見れたの。リディア?」とリディーに質問していた。

「はい。お兄ちゃんに頼めば見ることができます。それにしても凄い能力ですよね。まさか私達が乗り移った相手が見ている物を他の人達も見ることができるとは思わなかったので。お姉さまに教えてもらうまでは気が付きませんでした」

リディアがそう答えると。サーティーは俺の方を見ながら言う。

「本当にそうなんですか?」

「ああっ! そうだよ。そのおかげで。俺はリディーに乗り移ってからも。この世界の様子を知ることが出来たんだ」

俺はそう答えた後で。俺達が乗ってきた馬車に視線を向けて「それと、リディアはあの馬車にサーティー達を置いてきたんだろう。あの場所にはもう戻ってはこないと思うが。一応、確認のために。あの場所にもう一度行くつもりなんだが。その時に俺の事も説明しておいた方が分かりやすいだろう。だから俺も一緒に付いていこうと思っている。リディアはどうする? サーティと一緒にここで待っているのも良いかもしれないな」とリディアに尋ねた。俺がそう言い終えるとサーティーが口を開く。

「私は一緒に行く。パパには色々と聞かないと行けない事もあるし」

サーティーがそう言うと、サーティンも同意するように。

「私も同じ意見です。リディアママもそうでしょ」

そう言った二人の様子を見てからリディアは言う。

「もちろんです。お兄ちゃんと一緒が良いに決まっています」

「俺としても三人は一緒の方がいいなと思っていたからな。とりあえずリディアにサーティーとサーティン。お前達の分の服を買って来てくれ。俺の着ていた物を着せておくのもどうかと思ってな。俺は今のうちにリディーと二人だけで話をしておくからさ」

俺はそう言ってからリディーに「リディー、すまないが頼む」とお願いした。

「はい。それでは、買ってまいりますね」

リディーがそう言い残してから外に出て行く。

「ねぇ、お姉さま、サーティ。私はずっと疑問だったんだけど。お父さまが使っていた剣の宝玉をなぜお兄さまが持っていたのかしら。それは、お兄さまが、お姉さまの婚約者として認められた証の品でもあるんですよね? ただそれだけの事でも疑問だったのですが。私にはそれ以上に疑問に感じている事があるのです。私のお姉さまの事を愛されていることは十分に伝わってきました。だから二人が恋人になったとしても私は別に気にしなかったと思います。だけど、私の事をリディーお母様と呼んだのは、一体どういう意味なのかしらせてもらえないかしら」

リディは真剣な表情をして言うと。

「お母さまと呼ぶ事に何か問題があるとは思えないのよ。でもサーティお姉様を慕っている人が、そう呼ばれる事に対して嫌だと思う気持ちは理解できたので。私がリディアお姉様をお姉様と呼んでも大丈夫なら。お母さまって呼ぶことも問題ないのではないかと思ってるわ」

サーティがそんな事を言ってくる。そしてそれを聞いたリディアが言う。

「私はどちらで呼ばれることに嫌悪感は無いのです。ですからお母さまで呼んで頂いて結構ですよ」

「お母さまって、お兄ちゃんの事はお兄ちゃんって呼んだのにずるいわ」

リディーがリディアに向かって不満気に言っている。俺は「確かにそうかもな。じゃあサーティとサーティーンが俺をリディアの事をリディアママと呼ぶときは、リディアママとお母様の両方で呼ぶ事にするか」と言うとサーティーは嬉しそうに。サーティはリディーの事をチラッと見ながら。「リディーがそうして欲しいっていうのであればそれでも良いんじゃないかしら」と言っていた。それから俺に尋ねてくる。

「私はママに憑依している時の感覚を体験していないからわからないの。でもリディアがリディーママに乗り移っても、やっぱりリディアはリディアのままなんじゃないの?」

サーティの言うとおりだと思った俺は、リディアに「俺に乗り移るときと同じようにしてみて欲しいのだが」と言い。リディアに憑依してもらうことにした。俺はサーティに憑依された状態でいる時と同じように意識が遠退いていくのを感じていた。すると、サーティの身体に吸い込まれて、その後すぐにリディーに乗り移っていたのだ。

「うわぁ! 凄いですね。サーティがリディアママに抱きついていましたが、その感情が伝わって来たのですよ」

サーティーが興奮しながら言うと。リディアが「本当ですね。私もこの体に入ってみたい気分になってしまいますね」と言ったのだ。

それから俺達は魔人族の拠点に転移してフェンリルとルグナサードに乗り込んでいくのである。サーティンは、サーティーに乗り移っている。サーティーは、自分がサーティの身体に乗り移る時はいつも緊張してしまうようで少しだけ時間が掛かるようだ。そしてサーティの時には見えていなかった景色が見えるようになる。

サーティとサーティーンが俺に質問してくる。

「この建物って何なのですか?」とサーティ。

「ここはね、魔獣を使役して戦わせる闘技場のようなものだよ」

俺はそう答えた。俺はそう言いながらこの場所を改めて確認していた。

サーティは興味深そうにして周りを見渡している。サーティが「パパ。私達が乗っていた馬車があったわよ。それに、サーティの馬車もあるわね。ここに置いとく訳にもいかないでしょうから。取り敢えず持っていきましょうよ」と提案してきた。俺が、そうだなと答えて。この場所に、リディーの乗ってきてくれた馬車を置く場所を確保しようと思い、その場所に結界魔法を展開しようとしたところで。サーティは「そんなことまでパパはできちゃうんだね」と驚いたように言う。そんなサーティを見てサーティンは、感心したような口調で言う。

「凄いわね。こんなこともできるなんて」

「いや。そんなことはないと思うぞ。それより、リディアが帰ってきたようだ」

俺はサーティンとサーティにそう伝えてから、こちらに近づいてくるリディアに話しかけていた。

「リディア、お帰り。それに、ありがとう」

俺はサーティン達に聞かれないように小さな声で言った。リディアも、俺の言葉に気づいたのだろう「私は何もできなかったので気にしなくて良いのですよ」と答える。

「そうか? 俺の想像以上に、この国の人達が苦しんでいるのは確かだ。リディアに、助けられなかったと言われてしまうとそれを認めるしかないんだが。ただ、俺は俺の大切な人達だけでも守る事が出来てよかったと思ってはいたんだよ。それが俺にとって救いになっていた」

「私は自分の出来る限りの事をしたいのです。それでお役に立てれば嬉しいのです。それに、これからもっと、お兄さんが救われることが増えるのではないですか?」

「そうかな? そうであったらいいと思うけどな」

俺は、そう答えた後、リディアに、ここに来た理由を話し始めたのだった。リディアは、俺の話を聞き終えて言う。

「そうですか。お兄ちゃんがお姉様にサーティンにサーティーに乗り移ったんですね。それで、リディアに乗り移ろうとしたのですが。その、お兄ちゃんが私の胸に顔を埋めている姿を思い出そうとすると。お姉ちゃんに乗り移りそうになったので」と顔を赤らめながら言っていた。

サーティーは、リディアと俺のやり取りを聞いていたらしく「ねぇ、リディア、ちょっと聞きたい事があるんだけど」と話始める。

「なんでしょうか?」

「えっと、リディアって。パパの事好きなんだよね」

「はい。もちろんです」

リディアはサーティーの問いに間髪入れずに答えた。

俺は、サーティの発言を聞いて驚いていたが。俺よりも先にサーティは「そっか。やっぱりそうなんだね。お姉様もそうだけど。リディアがお兄ちゃんのこと好きすぎるように見えたし。もしかしたらリディアのお腹の中には、もう子供が居るんじゃないかと思ってたのよ」と言うと、リディアの顔が赤くなっていた。

「もう! お兄様! 変な事をサーティンの前で言わないでくださいよ!」リディアは俺にそう言いつつ、サーティンの方を見たが、その視線の先の光景は、サーティンの視線の先にあった馬車をリディーと二人で持ち上げようとしていたのだった。それを見てリディアも「そう言えばお兄ちゃん。あの二人。サーティンとサーティが持っていた宝玉はどこに置いてあったの?」と尋ねてきたので。俺の服の中から出したことにする。それから、俺は、この拠点にある物を確認していった。俺達が転移して来た時にサーティン達を縛っていた縄はそのままだったので。まずはそれを解く事にする。

サーティー達は俺がリディアの身体に戻ってきたことに驚きながらも。「リディアが、サーティ達のお姉さまで良かった。サーティ達はそう思ってるから安心して良いわ」と言うので、リディーが少しだけ不機嫌な表情をしていた。

サーティーが言うには、サーティンが宝玉を保管している場所を知っていると言う事なので。俺とサーティーが宝玉があるという部屋に行くことにしたのだ。俺達が向かった場所はリディーの部屋であり。そこで宝玉は管理されていたらしい。サーティーンとサーティは、リディーがサーティに乗り移られている時以外はあまり会話をする事がないようだ。

「じゃあサーティーンはリディーお姉様が大切だって気持ちを、もう少し言葉にする努力をしたらどうかしら」

サーティーがサーティンに言う。サーティンがリディーに対して抱いている気持ちについては、なんとなく察していたのだろうか。それとも俺のサーティに乗り移る能力はそこまでの事はわかるものなのだろうか。それは分からないが。サーティーが、そうサーティンに対して注意をしている姿を見ると、本当に姉妹なんだなと思える光景ではある。俺の感覚で言えば妹に言われて、むっとしている感じではあるが、姉に対する信頼度の高さを感じるのだ。

そして俺はサーティーンが、宝物庫のような部屋に通してくれて。そこに飾られていたのは、リディア達が持っていた宝玉と同じものだったのだ。そして、その中には、まだ使えそうだと思えた宝剣も存在していたのである。そして、そこには手紙が置いてあり。その封蝋の印璽に見覚えのあるマークを確認した俺は。リディアに乗り移ってからその内容を確認するのである。

「お母様、私達にこのような機会を与えてくださりありがとうございます。お父様は、この国が大変な時期を迎えていることを理解されておりましたが。私はどうしても我慢ができなくなってしまい。お母様が不在の間、この城に滞在して色々と行動させて頂いております」と言った内容が書かれているのがわかった。それから「この国は私が救わなければならないと思います。お兄様と一緒にこの国を守りたいと考えております。その為の力をお借りしたい」と書いてある部分を読んだ後に。俺はその手紙の内容をサーティーンに伝えたのだった。

俺はそれからサーティに乗り移っている状態でリディアに乗り移る準備をして。乗り移っていた。リディアに乗り移ると、サーティが俺の腕にしがみつき「サーティー、ママが帰って来てくれて嬉しいわ」と言い、俺がリディーに乗り移る前は、いつもサーティと仲良くしていたのだが。リディーに乗り移った今では少し態度が違う。そんな様子のサーティとサーティンを見ながらリディアが、「リディア、サーティンとサーティーは、お姉さんのリディアが居なくなった後、寂しい思いを抱えていたんですよ」と言うのだ。俺はそんなリディアに感謝しつつ。

「サーティン、サーティ。お前たちが無事で本当によかった」と言ったのだが。リディアに、私もそう思ったのですよと言われてしまったのである。リディアンとサーティン達は、これからは、この魔王城にしばらく滞在することになると思うので。

「そうですね。リディアナはここで、私の話し相手になってください」とリディアに頼むとリディアが「そうですね。私もお姉様の事を沢山知りたいと思っていたので良い機会だと思っています」と言っていた。

その後、俺が、この場所で、やれることがないかを尋ねるためにサーティーに確認してみた所。「うーん、特にはないわね。ただこの場所にお兄ちゃんの魔導書が封印されているのなら取り出しても良いわよ」と言われたので。俺はその提案を受け入れてこの場所で、サーティンの魔導書を俺の魔道書として取り出す事にしたのだった。

俺がサーティンから魔導書を受け取るとその表紙には。『魔法剣士の極み』と書かれていて俺の手に取った事でその文字が光輝いたのである。そして次の瞬間、俺の脳裏にはこの本の使用方法やスキルについての知識が流れ込んできたのであった。俺はその知識に驚いていたのである。何故ならばこの世界に存在する魔法は、魔力が無ければ発動出来ないはずなのに。魔法を発動するための呪文や魔法陣が頭に浮かんでこなかったからだ。俺はその事に不思議に思って。自分の魔道書の中身を調べてみるとこの世界で、魔法と呼ばれているものは実は俺の世界で使われていた術式と同じような仕組みで成り立っている事がわかったのであった。

「なぁ、この世界の魔法って、俺の世界で昔からあったものと一緒なんだよな?」と俺は疑問に思っていたことを聞く。するとリディアが俺に言う。

「はい。そうですよ。だからお兄ちゃんも魔法を扱うことができるようになるかもしれませんね」と嬉しそうにして言っていた。それから俺は、試しに魔法を使うイメージをしながら自分の持っているサーティンから受け継いだ魔剣に念じてみると火球を生み出すことに成功したのだ。しかし威力が弱くなってしまう為すぐに打ち消されてしまったのである。それを見てリディアーナは言う。

「流石に直ぐに使いこなすことはできないようです。ただ魔法の扱い方はわかってきたのではないですか?」と尋ねられたので俺は答える。

「確かに使い方は分かってきたな。あとは俺自身の問題なんだろうけど」と言って俺は考えるが。俺にはまだ自分の中で上手く扱えるようにはなっていないなと思ったのだった。それから俺がこの場にいた理由はなくなってしまったので再びリディーに意識を戻し。リディーの体に戻った俺は、俺達がいた場所に戻るとリディーに「少しだけこの国の王都を見に行かないか?」と聞く。

リディーは、サーティの体を抱きしめたまま、サーティンに視線を向けると、サーティンは笑顔でリディーの方を向く。どうやらリディアに抱きつかれたままでいられるのはサーティンにとっても悪い話ではなかったようだ。リディーの体がサーティの物であるからこそ、こうして、一緒にいられている時間がとても心地良いと感じていたのだと思われる。俺としても二人の仲が良好でいてくれる事は良かったと思うのである。

俺達がサーティンとサーティと別れてから城の中を移動して。城門に向かうことにしたのだ。それから、門兵がいる詰所に俺が向かうと。そこで、先ほどまでサーティ達と話をしていて、彼女達が、サーティンとサーティンの姉であるリディーを探しているという事を知ったと言う設定を、兵士達に伝えると、彼等はその事を信じてくれたのだった。

それで、俺はそのまま城を出ると馬車に乗り込む。それから御者に出発してもらう。この馬も、この馬車も俺の持ち物なので。本来であれば、俺はこの馬車に乗ってはいけない人間だと思うんだが、今は、そういう細かいことは考えない事にしよう。そうじゃないとやってられない気分になるからだ。それに、今の俺は馬車の御者が出来る状態なので、このまま進んで欲しいという旨を伝えて進むように指示を出したのである。

そうして、俺は、街を出て少し離れた所で馬を降りることにする。そして、そこからは歩いて街の方に戻る事にしたのだ。そして俺はそこでふと思い出したのである。

サーティンに、宝玉の件に関して何かわかった事があるかを聞いた方がいいかなと思ってサーティンに連絡を取ることにした。

それから俺は、サーティンの居場所を探す為に。探知系の魔法を使って探す。その結果、どうやらサーティンはこの国の中心にある城の付近にいることが分かった。そこで俺は。俺の知っている中で、俺が乗っているこの世界の魔族の領域にいる魔王と呼ばれる存在が住まう居城がある場所に行く事に決めたのである。その城はここからかなりの距離があるが。

サーティンに会えれば俺の魔導書を使えるように訓練できるかもしれないと思い。城を目指すことに決める。そういえばリディーはどうやって城を出れたのか。リディアとリディーが、同一人物だと言う事は一部の人物以外知らないはずだから。まさか俺のように転移して出てきたとは考えられないのだが。リディーが普通に外に出るときに使った方法があるのではないかと思い、俺が今、リディアに乗り移れている状況だとそれが可能だと考えて、それをやってみる事にしたのだ。そしてまず最初にリディーが使っていた魔法を俺にも使えないか試したのだ。

俺は、自分の魔剣が、魔法を発動するのに適していない可能性があると考え。リディーが使用していた剣をイメージしてみた。そうした所。あっさり魔法は使えたのだ。ただし。魔法は成功したが剣技が上手く使えていないのも事実である。そして、やはりというか。俺は剣を振るっても全く剣筋が変化しないので、その剣のスキルを発動できないのも間違いないだろう。俺は、その事を実感しながらもとりあえずこの世界で一般的な魔法は使用出来ることが分かって一安心していたのである。だが問題は、その次に起こった現象だった。俺がサーティーンから渡された魔導書を取り出し、中を開くとそのページの上に、魔法名が書かれた文字が現れ、魔法を発動するための呪文が書かれている事がわかる。それからその呪文を唱えた時、突然魔法が発動してしまい。目の前にあった木が真っ二つになったのを見た。俺は何が起きたのか理解できず。自分の手元を見る。すると俺の右手には、この世界で使われている剣があったのだった。

「どういうことだ? サーティーンの記憶にもない事が起きているようなのだが」と思って俺は考えるが答えが出ず困ってしまった。ただ、この魔法だけは使う事が出来ると分かっただけでもいいと考えるしかないよなと思って納得することにしたのであった。

「でもこれで攻撃手段がないわけではないとわかっただけでも良しとするしか無いのだろうか」と俺なりに考えてみる。それからしばらく歩いているとサーティンとサーティを見つけることができたのだ。二人に声を掛けようとしたところ何故かリディアの姿を見つけた二人が走って逃げていった。そんな様子を見ながら、一体何なんだあいつらは。と考えていたのだが。その時俺が乗っていた馬車の中に誰かがいることに気づいた。慌ててその中を確認すると、俺の部下でありリディアの友人であるミーシャだったのである。

俺はミーシャに事情を聴くと彼女は、いきなりこの国の王に捕まりここに監禁されたそうだ。俺はその言葉に、その王は本当に腐っていると改めて感じたのである。そうして俺は彼女を俺が乗っている馬に乗せて王都に戻ることにする。しかし、この状態で、リディーが一人で戻ってきた場合どうなるかがわからないため俺は、リディーにリディアのふりをする事で対処してみることにしたのだ。

リディーにリディアを演じさせてから。サーティーとリティーが戻って来るまで待つことにしたのである。それからしばらくしてリディーとサーティーたちが戻って来た。

俺はサーティン達と一緒に戻ってきても特に疑われない程度には顔見知りにされていたらしく、簡単にサーティン達の元に合流することが出来たのである。

「サーティン様」とサーティーに話しかけると「あらっ!お姉ちゃん!」と嬉しそうな声を上げて抱きついてきた。そして俺は、そのままサーティンと二人で話し合う事になる。俺にはこの場にサーティとリティーとサーティンとリディアと俺しかいないことを確かめる。そして俺の考えた策について話す事を決める。それは。俺はこの国から出て行きたいがその為には自分の持っている魔導書が必要なのだという嘘をついてからリディーと入れ替わって欲しいと頼む事にする。

俺の話を聞き終えたサーティン達は、俺に協力をしてくれようと思ったらしいがその話をした事でサーティが俺に対して不信感を抱く。

「なに言っているのですか。サーティは貴方とサーティティと別れることなんて出来ないですよ?」と言った。それに対して俺は「確かにそうだろうが、お前達に迷惑はかけたくないんだよ。俺は、サーティに助けてもらってここまで生き延びることが出来た。だけど。このままこの国に居続けたところで。いずれ俺の命は尽きてしまうだろう。俺は、リディアと共に生きることを選択したが。その前に死なないとは限らない」と伝えると。

サーティが涙を流し始めて「嫌だよぉ」と言い始めたので。「ごめんな」とだけ言って頭をなでなでしながら落ち着かせるのであった。

「サーティちゃん」とサーティーが泣きじゃくったせいで。俺の胸に顔を押し付けていた。そしてサーティーンは、「お兄ちゃんがそう決めたなら仕方が無いね」と言ってくれたのである。俺も流石に悪い気がしたので「ありがとうな」と礼を言う。

「それで私はどうしたら良いのですかね?」とリディーが聞いてくるので、俺は答える。「君もサーティも俺と一緒に来てほしいと思っている。ただサーティはまだ子供だし俺の庇護が無ければ生活は出来ない。だからこそこの子を連れていきたいという訳だ」というと。リディーは「サーティは私の娘みたいなものですから、連れて行くのであれば私が一緒に連れて行って下さいませんか?」と言われたので俺は了承するのだった。そうしてから、リディーと俺はサーティに意識を移し変えて。その後俺はサーティンとサーティを連れていく為に城の中に侵入することに決めたのである。ちなみにサーティンの話では。この国で一番安全なのは王都なのだそうだ。なぜなら。ここにはサーティの父親である国王のいる場所だからである。なので俺達はすぐに王城に向かって行動を開始することにしたのだ。俺達が、王城に向かうのを見て城を守る兵士たちに見つかるが。当然の事だが俺とサーティンがいれば兵士達など一瞬にして全滅させる事が可能である。そうして俺は。リディーの体を使いながらもサーティンの案内を受けて城の内部に侵入をしていく。リディーに憑依をしている俺とリディーの姿を見て兵士達は驚いていたが。すぐに剣を構えてきたので俺もそれに応じて兵士達を蹴散らしていったのだった。

そして俺が、リディーとして城内に侵入をすると同時に。この城にいる他の魔族たちも一斉に動き出したのだ。それを確認した俺とリディーはリディアの姿からリディー本来の姿に戻り。そしてリディーは自分の魔剣である聖剣を召喚して装備した。

そしてそれから俺は、俺とサーティンとリディーとリティアを引き連れてサーティンの父であり、俺の仲間でもあった存在でもある魔王がいる部屋に向かい。そしてそこで俺はサーティンとサーティンの父親の魔王を救い出すことに成功をしたのだった。俺はそれからサーティンの魔王にサーティンの姉であるリディアが攫われたという話をして、その犯人が俺だという事をサーティンの魔王に伝えたのだ。その結果。彼は俺の言葉を信じてくれたようで。俺の同行を許してくれるのだった。

そうやってサーティンの父親と再会した俺は。サーティンの母親にも事情を話して協力を求める。それから俺とサーティンとその魔王は。サーティンとその姉の救出に成功したのだ。俺達はそこで、サーティンとその魔王が、リディアを救出する際に邪魔になる兵士や警備している人間達を排除しておく事にしたのである。俺がリディアに乗り移ってから。魔族の力を借りればリディアを助ける事も可能なのではないかと考えて。まず俺は、リディーにリディアに乗り移る事にしたのだ。

「さて、リディーに乗り移れるかわからないが、リディアを救わなければ話にならないしな」と呟きつつ俺は、魔剣を発動させるとリディーがリディアに切り替わるのを確認してから魔剣を発動させる準備に入る。そしてリディーが、リディアに憑依して動けるようになったのを確信した俺は。リディールを発動させたのである。

「これは成功か?」とつぶやくと、俺の前に一人の女性の姿が見えた。その女性は俺の顔を見るなり驚いた表情を浮かべている。俺はもしかしたら成功したのかと思いながら確認するべく質問する事に決めた。そしてリディに質問すると。その女性の名前はリティーと言うらしくサーティーとは実の姉妹なのだそうだ。彼女は今迄サーティンとともに過ごしてきて、この国の人達を助けていたそうだ。彼女は俺を見るなり何かを感じ取ったらしく警戒心を見せながら問いかけてくるのだった。そして俺は彼女の疑問に対して丁寧に回答していくのだが。その際に彼女がリディアから得た情報を少し聞き出す事が出来たのだった。どうやらサーティーとは姉妹の関係だとは思っていたのだがリディアとは全く似ていない事に驚きを隠せないようだ。俺はその様子を確認する。リディアは美人である。しかしリディーとリティーに関しては美少女と言った方が良いだろう。まあそんな事は置いておいて。とりあえず今はリディーとサーティーを無事にこの国から抜け出すことが先決であると考えた俺は彼女達の会話を打ち切って移動を始めることにしたのであった。

それから俺は、俺とリディーの体をサーティンとリティーの三人を乗せて、城から出て行くことにしたのだ。もちろん俺はこの城に残っていた兵士達をすべて皆殺しにしておいた。それから、リディアの記憶を頼りに、俺達は王都を脱出することにしたのだった。そういえば俺はサーティンの父親である魔王の名前すら知らなかったのだが、その事を思い出した俺が、サーティンにその魔王の名前を訊ねてみると。

どうも、この魔王の名前がサーティンとのことだった。しかし俺がその名前を聞いた瞬間サーティンの様子がおかしいことに気づく。俺がその事を伝えるとサーティーは。悲しげな表情をしながら答えてくれる。なんでも。この国を作った魔王が、この城とリディアにサーティンという名を与えたそうなのだ。

つまり、この魔王の名はサーティン=リディアでは無くて。サーティン=サーティナということになる。

俺はそれを聞いて何とも言えない気持ちになりつつもサーティンとリディーと共に、王都の外まで移動するのだった。それから、俺は二人と共にこれからのことを話し合い。それからサーティーとリティーをサーティの家まで送るとリディアに別れを告げる。それから俺はリディアに見送られる形で、この国を立ち去るのであった。ちなみに、サーティンの話では、俺はサーティの親の魔王が殺されてからサーティに命を奪われる寸前に俺がサーティンの魔王を助けたらしく。俺はその時のことを忘れていたのだ。そのため、サーティンの父親が殺された時の出来事を覚えておらず。この国に来る事になった理由も、実は俺のせいらしいのだ。

俺はその事について謝ると、リディーに魔剣を使ってもらうために魔剣使いになって欲しいと頼み込んだのだ。魔剣を召喚するための魔力はサーティンのおかげで十分に回復出来ているため。俺の願いは叶うことになったのだった。リディーの了承を得た後で。リディーには魔剣を使う際のデメリットを説明してから魔剣を使用するように頼んだのである。そしてその後、リディーがリディアに変身するのを見届けた後で。俺はサーティとサーティーンを連れて、サーティの実家に向かう事にしたのだった。ちなみに、サーティにはリディーが元の姿に戻っていると伝えてある。サーティの両親はサーティの言うことなら素直に聞くだろうと思ったからである。サーティンの話を聞いた感じだとサーティが、この国でもかなり慕われているのは間違いなかったからこそ。この国を離れる前に。一度挨拶だけでもしておくべきだと思ったのだ。

俺はそういう訳で。サーティンをサーティとリティーの元へ送り返す前に、俺が元々暮らしていた場所へと案内する。そこにはサーティンの両親のサーティーとサーティンがいた。そして俺が帰ってきたことを喜んでくれて、その喜びを表現するかのように二人は抱きしめてくれたのである。それから俺とサーティとサーティーンと別れる前に俺は、サーティンにサーティーとサーティーンを頼むと伝えたのだった。それに対して、サーティーンも同意してくれるとサーティが、「私はどうなるんですか?」というので俺はサーティを自分の娘のように可愛がるつもりである事を話して安心させる。

そして俺はリディーをサーティの家の近くにある村に連れていきサーティの母親を紹介させて、この母親からサーティの面倒を見てもらうことにして、サーティンをリディーに任せる事にしたのだった。サーティのお母さんは快く引き受けてくれて、そしてサーティンを優しく抱きしめながら頭を撫でて「お姉ちゃんだからしっかり面倒見るのよ」とサーティンに伝えていて、それからリティアは、サーティが俺と離れる事を泣いて嫌がったが。サーティーが泣きながら「大丈夫だから心配しないで、すぐに会えるから」と伝えると渋々ではあるが理解してくれたようで最後には「お兄ちゃんをよろしくお願いします」といってくれたのだ。

そうやって、サーティン一家とサーティーとの再会を終えた俺は次にサーティと一緒にサーティン達と一緒に暮らすことにしたリディーの元に向かった。するとそこにはすでに、リディーの家族らしき人たちがおり。その中にはサーディンの母親と思われる女性の姿もある。その事から考えるとおそらく俺が、魔王になったときに助けてくれたあの女性は。このリディーの母だった可能性が高い。まあその事についてはまた機会があれば聞いてみようとは思う。俺はそんな事を考えつつ、俺がリディーに話しかけようとするよりも先に、リディーが俺に抱きついてきた。その様子に俺は苦笑いをしてしまう。なぜなら。サーティーとリティーから俺がいなくなった時の事を詳しく聞かされているようだったからだ。俺はそんな事を考えているとサーティーとリティーが、リディアに近づき。

サーティンがサーティーの手を引っ張り。リディーがリティアの手を引くと俺に引っ張ってこようとしたのだ。それを見た俺は、慌てて抵抗するが。サーティンが、俺の背中を押して無理やりに俺とリディアをサーティーの家に連れて行くのだった。それから俺はサーティンと二人で話をする。その話の主題はサーティンが、この国を出る際に、俺も一緒に来ないか? という誘いだったのだ。俺はサーティンの提案を受けるべきかどうか悩んでいる時に。リティーが現れた。彼女はサーティンから事情を聞いているらしく俺とサーティーを引き離そうと必死だったのだ。そして俺は、そんなリティーの様子を見て、彼女に俺がこの国に戻ってきた理由を説明した。するとリティーは、納得しきれない部分もあったのだが。俺の言葉を聞いて、とりあえずは納得してくれたようだ。そこで俺はサーティンの方を見るとサーティーが泣き出しそうな表情をしていたのだ。そこで俺はリティーに声をかけてからリディーにリディアに体を返してもらう。

俺とサーティーと別れた後。リディーがサーティーに色々と俺との出会いなどを語り出したので俺はサーティンに質問をすることにする。俺の質問の内容は。この国がなぜこんなにも荒れてしまったのかである。サーティンは少し悩んだような表情をしたが。しばらくして、自分がサーティンである事を告白すると同時に、この国の過去を話してくれる。どうやらサーティンが、俺と出会う前にこの国では大きな戦いが起きていたらしいのだ。しかもそれは人間と魔族が争ってではなく。この国の国王とその家臣達が争うために争いが起きたそうで、それが原因で、国は二つに分裂したのだと、俺はその時に聞いたのだった。

俺はサーティンの話を聞く限り、俺はどう考えてもこの国で争いの火種になるであろう存在に違いなかった。だからこそ、このままこの国に留まることは危険すぎると考えた俺はサーティンにこの国から脱出することを提案する。するとサーティンはすぐに賛成してくれた。それからサーティンは俺に対してリディアのことを頼むと言ってきたので俺は了承するのだった。その後で、俺はリディーに対して体を貸してもらい。サーティンに対してリディアの身体は俺が貰うと言うことにした。すると、サーティンは少しだけ困った顔をしていたが最終的には、リディアの身体は俺に譲ってくれる事に決まったのである。そしてリディーの体を使って、リディアがこの国を脱出することをリディーに伝えたのだが。リディーがどうしてもサーティンと一緒じゃなきゃいやだとごね始めたのだった。

しかし、サーティンとサーティーの二人がかりの説得を受けてリディアが折れる形でこの国を離れる事を決めたのだ。リディアは二人に連れられて家から出て行ったのだった。

それから俺はサーティを家に送ろうと、サーティンと別れるとリティーとサーティンもついてくる事になる。そして俺はサーティがリディーが戻ってくるのを待ってほしいと伝えてきたのだ。そしてサーティンが俺の事を信用できないと言いだしたので、それを聞いた俺はこの国を出る事にした。そしてこの国を出発する前に、リディーにサーティンを預かったことを告げたのだ。それに対して、リディーは特に何も言わず黙っていたが、代わりにリディアに体を返してもらったリディアに。リディーのことを頼むと告げると、俺とサーティンとサーティーの三人で、王都を脱出したのである。ちなみに、俺は、サーティの父親である魔王の名前を知った時と同じように、その魔王の名前に聞き覚えがあった。だが俺はその時の記憶を失っており思い出すことが出来なかったのであった。それから俺は魔王に姿を変えてからサーティの案内に従って、俺が最初に訪れた村まで移動するとそこにサーティンを送り届けることにしたのだ。サーティは寂しいだろうが。俺は、この国に残ることの危険性について説明して、そして、リディーをこの国に戻すためには、リディーの力が必要だと説明したのである。しかし俺の予想とは違いサーティンはあまり乗り気ではないようだったが、サーティは素直なため俺が、再びここに来るまでは大人しく待つように約束させたのだ。

そしてサーティを村に帰した後。俺はサーティンと二人で、リディアの母親が眠る墓地に向かうと、リディーと、サーティに見送られながら、サーティンを連れて。俺の住んでいた町に向かって歩き出すのだった。

俺はサーティンを連れて街に向かう道の途中でリディーとサーティンの母親の話をしていた。というのも、サーティはリディアと俺の関係を理解していないようだったので、そのあたりの説明も兼ねて話すことにしていたのだ。そして、俺はサーティンに。この世界で何が起きているのかをサーティンとサーティンの母親のサーティナとリディーの母親に関係のあるサーディンという青年が俺が元いた世界に来たことから説明する。そして俺が元の世界に戻る為に、リディーに協力して欲しいと頼み込んだことも全て。

するとサーティンは自分の母親のことについても話し始めたのだ。どうやらサーティンの話ではサーティンの母親はこの世界のどこかにあるという、幻の塔を探しに行き消息を絶っているのだという。だから、サーティは母親を捜して、俺を元の世界へ戻す方法も探しに行くつもりで俺に同行していると、そういうことだったのだ。そしてその話を聞いた俺は。サーティンが母親をとても愛している事がわかり。この世界を救おうと頑張る理由もよくわかったのである。そこで俺は、俺の推測でしかないがサーティンがリディを元の世界に連れ帰してくれるならこの世界は問題ないだろうと判断するのだった。そして俺はサーティンが、リディーのお母さんが残した宝の地図を見つけたことを聞いていた。

そして俺はサーティンからサーティに伝言を頼まれたのでサーティンから、サーティンの母親に手紙を書いたので渡してほしいと言われたのだ。サーティンは俺の実力については疑っていないようで。自分の母親を任せられると思ったからこその行動なのだ。それから俺はサーティが、リディーのお母さんにもらった首飾りの力を解放して自分の中に宿らせ。リディアが持っていた武器を取り出したのを確認出来たことでこの国に用が無くなったと判断して。俺はリディアと一緒にこの国を出ることに決めるのだった。そして俺がこの国を去ろうとしたときに、俺に何かを伝えようとしていたサーティンと、サーティンとサーティの様子に気づいたリディアから声をかけられたのだ。

それから俺は、リディアとリティーには先に帰ってもらって。俺は、サーティンとサーティと一緒に行くことにしたのだった。

私は今現在。目の前にいる男に対して。どうしてこんなにも私の胸は締め付けられるのかわからなかった。その理由が私の中ではっきりしないまま、彼に質問することにする。そうしないと落ち着かないのだ。彼は、なぜ自分が、あの場所に転移されたのかはわからずじまいだと答えてくれた。それに加えて私があの場所で、彼と会って間もないはずなのになぜか、彼に対する信頼感が高まっていた事も、不思議でしょうがなかったのだ。それ故に私は彼がこの場を去ると決めた瞬間に、必死になって引き留めようとしてしまう。それはサーティも同じだったらしく、彼女は私よりも早く行動にでたのである。それから私は彼に付いていくことを決めたのだ。そんなこんながあって結局のところ。私はこの国を出て彼の仲間になるという事が決まった。それから私は。この国を出た後に、これから一緒に旅をするにあたって自己紹介をしようという事になった。なのでまず最初にサーティーに名前を教えてもらうことにする。

それからしばらくすると、彼女はサーティーンと名乗ることになったので。私は彼女をサーティと呼ぶ事にする。それから、今度は、彼の名前が知りたいと思い、聞いてみると。

俺はこの世界がゲームの中の物だった頃の名前は忘れてしまったけど、今は、魔王と名乗っているからそう呼んで欲しいとのことだった。

それから魔王と名乗った少年は、サーティンと、サーティーの二人と別れた後はこの先に存在する村を目指して移動するらしい。そしてこの国では人間と魔族で戦争が起きる可能性を示唆していたが。しかし私はそれでも構わないと思っている。だって、たとえこの戦争が起こらなかったとしても私は、すでにこの国が信用出来ない存在になっているのは事実だし、それどころか。

この国が魔族と繋がっているという事実を知っている以上は。この国の人間が全員信用できなくなってしまっているのだ。そして、そんな考えを持っていた私をサーティンは理解してくれており。それならば魔族の国に行ってもいいのではないか? という提案をしてくれたのである。だからこそ。私は、サーティンの言葉に従ってこの国を離れてサーティンの仲間になる事にする。そんなこんなで。この国は魔族の手が伸びてくることになるかもしれないのだ。

それからしばらくしてサーティンはリディアさん達と別れることになったのだ。そしてサーティンは。リディーちゃんがリディアとして生きて行ける環境を整えるためにリディアを俺に預ける事を提案したのである。しかしリディーとしてはリディーとして生きていきたいと考えているようなので、俺はリディーにリディアという名前を譲ることにすると伝えた。するとリディーは少し残念そうな表情を浮かべながらも受け入れてくれ、代わりにサーティをリディアの側に残していくと約束をした。

俺はそれからすぐにサーティンが言っていた村に移動することにしたのである。そして移動の途中に遭遇した盗賊のような奴らが襲ってきたのだが、その連中を倒した際にリディアさんの剣技に驚く。リディアは俺の記憶が確かならば、レベル40くらいでしかもリディーのレベルはまだ20代だ。そのレベルの差がありつつもリディアの方が強かったのである。それを見て俺は改めてリディアを守れなければならないと思うようになったのだった。

それから俺はサーティンと共に、リディアが住んでいる村がある村に向かう事にした。サーティンの話によると。この近くに存在する村というのはこの大陸でも一番大きい村の事で、リディアの住んでいた村は村と言うよりも町と呼んだ方が適切だと思う。俺はそのことを伝えると、リディアの母親が暮らしていた村だと言うことが判明したのだ。しかし村と言うだけあって規模は小さいのだが、しかし村の周囲に生息するモンスターが強力であるため、一般人では太刀打ちできない。そこで俺はリディーを同行させ、リディアを鍛えようと思っていたのであった。

俺はリディアが使っていたという魔法を体感するために、サーティから聞いた魔法の話を参考にした戦い方を練習してみる。

リディアと初めて会った時に彼女が見せてくれた。リディアとサーティーの母親の二人だけで魔王軍の幹部を倒していたという話を聞いた俺はその話を信じたわけではないが、しかし彼女の力を見た上で、それが現実離れしていることは認めざるを得ない。それにこの世界には俺の知らない不思議なことがいくつも存在している。俺はこの世界に来ている間にそれを何回も目の当たりにしている。それもあって、リディアの力が魔王の幹部を相手にできるほど強いというのならそれについていくことは間違いない。それから俺とサーティンは村に辿り着くまで、何度かの戦闘をこなしていくが。俺はサーティとサーティの母親の三人の連携についていけないため。リディアを戦力として期待していた俺は。彼女には俺の補助についてもらえるかを聞く。

するとリディアーナは了承して俺の戦い方を見ながら助言をしてくれると、約束してくれた。それから俺たちは順調に旅を進めていくことができた。道中に現れた盗賊はサーティンが全て倒したが、俺が一人で戦う場合は、やはり苦戦することになる。しかし俺が一人だと倒せない敵をリディアの力を貸すことによって。俺は余裕を持って対処できるようになったのである。

それから数日後に、サーディンの村に着いた俺はそこでリディアの両親に会い、リディアを俺に託してくれるという話になり、俺はこの世界で、リディアーナと名乗らせてリディアのお父さんから、この村で剣術を教えることを頼まれたのであった。俺はこの世界で、サーディンという青年の話を聞かせてもらい、そしてリディアの父親の知り合いだというサーディンの母親にも会うことができて良かったと心の底から思うのだった。

俺は、リディアに俺のことを託してからサーティンと一緒に。次の目的地である、この世界の中央に存在する。大きな都市に向かっていた。この世界に転移させられてから俺の感覚では1週間程経っているのにも関わらず、元の世界の時間が経過することはないらしく、俺は未だに自分の身体は元の世界にあるのではないかと疑っているが、リディアがこの世界を冒険するための道具を揃えるためや、この世界にしかない珍しい物を俺に見せたいとの理由から。サーティンと一緒にこの大陸を回る予定になっているのだ。そして、俺達が向かうこの都市の名前は、アルフと言い、この国で一番の規模を持つ、この世界の中心とも言える場所であり。俺はそこに向かいこの世界を周ることに決めたのだ。

サーティンと二人で行動するようになってから俺はサーティンの過去を色々と知る事になった。例えばだがサーティの母親も元は、サーティと同じで魔族だったが。しかし、リディアの母親のように。この世界から消えずに生きているわけではなく。サーティの母親も。サーティと同じように、俺が元の世界に戻れる方法を探していたらしく。この世界で魔王の側近を務めていた男から俺が元の世界に帰れることを知らされたらしいのだ。その男はサーティのお母さんが魔王の部下だった頃に知り合った相手であり。その情報を教えて貰えた理由は、どうもこの男が。魔王軍の中でもトップクラスの強さを持っているらしい。だから魔王に報告する前に俺に教えてくれたのだというのだ。それから俺は、俺をこの世界に転移させた人物に復讐することを決めると同時に。この世界でも俺を元の世界に返せるように努力する事を決めたのだ。

そんな感じで俺はリディアがサーティと一緒に旅をしている間には、俺はリディアに教えられながら、俺自身が持っている、この世界には存在しない、俺自身の固有技能を発動させるための方法を考える事に専念しており。

この世界に来てからの数日で、自分の能力を把握している。俺はこの異世界に来た時自分のステータスを確認するとそこには【?】と表示されている部分が存在していて。

これはどういうものなのだろう? と考えた末に試してみると自分の記憶の中に存在しないはずなのに、自分の物で無い知識が存在している事に気付き、そこから自分の能力を理解する事が出来たのである。ちなみにこの世界で確認されている。

「固有技能」は。大きく分けて二種類あり。この世界独自の物とこの世界に存在している物が存在するのだけど、基本的にはこの世界独自は、「???」になっているはずなのに。俺の場合、その表示が無くなっていたのだ。それは俺の持っていたはずの固有技能がこの世界に存在していないことに関係しているらしいと分かった。それだけでなく、この世界の固有の能力に関しても、その能力は発動しないのだ。

しかし、例外もあるみたいで。サーティーの場合は俺のスキルを使う事ができるらしい。サーティー曰く俺が使える能力はこの世界でも使えるとのことだ。しかし、俺がこの世界で初めて出会った。サーティーの母親は。俺の能力を使う事はできないらしい。この違いが何を意味するのかはわからないが。サーティは、俺の力は別世界の法則に基づいて作られた物ではないかと予想しているが。今のところ俺にはさっぱり理解できない話だった。

それから俺がこの世界に来る前に習得していたという魔法についても、なぜか使えなくなっていることがわかった。俺はその理由を調べた結果、おそらくだが俺が転移した時にはこの世界の法則に則った魔法は存在しなかったのだと思う。しかしサーティーとリディアは、その事実に気付かなかったのか。あるいは最初から知らなかっただけなのかは分からないが。俺は二人のおかげでこの世界に元々あった。この世界の人間しか扱うことの出来ない魔法は使う事が出来る。そして、俺自身が持つ固有の能力を魔法に変換しても魔法として発動することができるということが分かったのだ。それからサーティに魔法がどのような手順で発動されるかを教わったことで俺の魔法の威力は大幅に向上した。

それからリディアが俺達の村に滞在してしばらくが経過した頃だ。リディアの実力はこの村でもかなりの腕があるというレベルに達していたのである。俺は、俺達二人がリディアと一緒にこの村を出ることを決めたのである。そしてリディアの村を出た俺達はこの大陸に存在する。大きな都市の前まで移動していたのであった。

この都市にやって来た俺達が見たのはこの国の王城と呼ばれる場所で。その城はこの国の王様がいる場所であるらしい。俺はリディアが暮らしていたという村の村長に聞いた話でこの国に存在する貴族についての説明を受けたことがあるのだが。その説明を信じるのならばこの街の領主は国王陛下の直属の部下であるはずだ。そんなことを考えながら、リディアを先頭に俺が後を追うようにして、サーディンがリディアの背後を付いて来ていた。そんな俺達に話しかけてくる一人の男性がいたので俺が顔を見上げていると。その男性は俺に向かって話し掛けて来たのである。その男性は俺のことを知らないようなのである。俺は一応警戒をしながら。俺をどこかで見ていないか聞くとその人物は、首を傾げて思い当たる人物が居ないようだった。そしてその人物と別れると俺はサーティと一緒にリディアについて行くと、リディアが、何かを思い出したようで、突然俺の方を見ると頭を下げた。

「あの時のことは、本当にごめんなさい!」

俺は何のことか一瞬わからなかったが。すぐにそれが。ミレノリの時に俺と初めて遭遇したときの話だと判断したのだ。

「いいよ別に気にしていないし。むしろこっちこそ、いきなり攻撃して悪かったと思っている」

そう言って俺はリディアを許したのである。それから俺が、リディアに対して、この国の貴族や領主のことについて知っているかを聞くと彼女はこの国に暮らしている人々の中で。一番詳しいと言う話だったので、この国の現状を聞いてみた。その結果この国が抱えている問題についてはわかったのだが。なぜこの国の王はそんな事を俺に話す気になったのか分からず、俺は不思議に思っていた。

そして俺が、そんな風に思ってリディアの質問の内容を聞くと。この世界ではこの国は長い間内乱が続いているということだった。しかもそのせいもあって食料事情は最悪で。国民も苦しんでいるそうだ。この国は俺のいた元の世界で言うと江戸時代のような状態なのだが。俺の感覚ではそこまで悪い状態に見えない。そしてそんな俺の考えにリディアが気がついて、自分の村の状態を説明したのである。

リディアが言うには彼女の村には元々この世界の住民が大勢住んでいたらしい。しかしこの国の王族と貴族は、この大陸を支配しようと目論み、多くの人間をこの大陸に移住させる政策をとったが。一部の人間はこの大陸にやって来て、そこで問題を起こしてしまったようだ。その人物たちは他の国からやって来た難民で、自分たちが住むべき国を探してさまよって、偶然にもこの大陸に辿り着き。この国で好き勝手に行動して問題を多発させていたらしく。それが原因でリディアの村を含む複数の村で被害が出たのだという。

しかし俺は、リディアが嘘をついているとは思わなかったが、それだと辻妻が合わない部分があることに俺は疑問を抱いたのだ。俺がそのことを聞いてみると、リディアは俺達が旅をしてこの世界にやって来る前に起こった事件が原因だという。俺達が旅を始めるよりもずっと昔に、ある人物が自分の力を過信するあまりに。自分の力を見せつけるようにして。自分の住む場所を荒らしまわった。そして最終的には自分の力で自分の家族や部下を皆殺しにしたのだ。だがそんな男でもこの世界の住民の中では最強クラスの強さを持っており。リディアの両親はそんな男が自分の娘であるリディアを殺そうとしている所を目撃して、娘を守るためにリディアを守ろうとした。しかし相手はその二人の努力を打ち破って、自分の手でリディアを殺したのである。その時に殺されたはずの少女の意識は消えずに残っていたらしく。自分が死んだ後もこの世界のことを見ていたのだというのだ。リディアは自分の母親が殺されるのを目の前で見て、リディアの中に残った魂は怒り狂っていたので、自分の母親の無念を晴らすために復讐しようと考え。リディアにこの世界のことを詳しく教えてくれていたサーティンと共に、リディアは魔王を倒すための力を求めて。自分の故郷を出てこの大陸に向かったのだと言う。

そしてリディアの話を聞いた俺の脳裏に一つの可能性が思い浮かぶ、それは俺をこの世界へ送り込んで来た犯人が、その出来事に関与していたという可能性だ。

もしかしたらだが、この世界に俺を送り込む原因となった事件は俺の世界での出来事なのではないかと思ったのだ。そしてそれは同時に俺の両親が俺を残して行方不明になったことと関係があるかもしれないと推測したのである。

俺の両親に最後に会った日に俺の家に届いていた手紙は間違いなく。俺と母さん宛の手紙であり。俺が元の世界に帰れなくなった理由を簡潔に書き綴って書かれていたものだった。

俺はその時から、もし元の世界に帰れなくなるのなら。俺にこの世界に残ってくれるよう説得をしてくれたのは俺の両親では無いかという予感があったのだ。

だから俺はリディアに俺の故郷の事件について調べてくれるよう頼むと。リディアが快く引き受けてくれた。リディアはリディアなりの責任を感じていたからだろう。俺の頼みを引き受けると、サーディンと二人で街にいる情報を集めてくれたのである。しかし残念ながら、その事件を解決に導いたはずの男はどこにいるのかさっぱりわからない状態で。俺はどうすればいいんだろうと考えていた時、リディアはこの街の領主は信用できる人なので、一度話だけでもしてみると言い出したので。俺は、サーティーと、サーティーとリディアに付き添っているサーディーと。一緒にリディアの村に向かうことになったのであった。

サーティーがリディアに付いて行くというので俺とサーティーはサーティーの体を借りたミティの案内で、この大陸で一際目立つ大きな屋敷に来ていたのであった。ちなみにその大きな建物はサーディンとサーティの生まれ育った場所で、サーティの母親であるリディアの家でもあるということだ。その家はリディアが暮らす村にある村で一番大きな家よりも大きかったのである。

俺はこの家にたどり着いた時に。俺は家の中に入ろうとせずに外で待っていることにしたのだった。俺は、俺の事を知らなかったサーディンに俺がこの国に住んでいる住人では無くて。別の世界から来た異世界人で、その証拠を見せようとしたのだが。俺はリディアとサーディーンの会話で。この家の中に入ることがまずいだと気がついてしまい。俺はサーティに俺が外に出ていることを伝えて。サーティーには、俺はしばらくこの建物の外からサーティーに話しかける事にすると言って。それから俺は建物の入り口の近くにある壁に隠れて。この家を警備している兵士と。この家の主の話を聞いていたのである。

この家の当主は、この街の治安を維持している貴族の一人であり。リディアの母の知り合いでもあった。そんな貴族とリディアの母は、昔から仲が良く。リディアが母親が亡くなった後、この貴族はリディアのことが忘れられなくて、時々リディアをこっそりと見守っていたそうだが。その事実を知っている人間はごくわずかしかおらず。ほとんどの者はリディアのお母さんは病死したと知らされていたみたいだった。そしてこの貴族の名はダレスというらしく。

俺が話を聞く限りではこの貴族と領主の関係が険悪というわけでもなさそうだったのである。むしろ領主が困るような案件が持ち上がったら助けに入るという間柄のようだった。そしてその貴族が住んでいる大きな館の中には俺達以外の人間の姿はなかったのだ。

そしてしばらくその貴族の家から出てきた人の話を聞いていたが。俺達とすれ違った貴族が領主に会いに行くと言ったところで俺の気配遮断を使って、誰にも気付かれずに移動して領主がいるであろう部屋に辿り着いたのである。

俺達は扉の前で耳をすまして、部屋の中の話を聞いてみることにした。そして部屋の中の話を聞き終えた俺はこの国には、俺達の元の世界で起きたあの事件の真相を知ることが出来る手がかりが無いことが分かったのである。それからしばらくすると俺達が出てきた部屋に一人の人物がやってきた。そしてその人物を見て驚いた俺はすぐにその場から立ち去ろうとしたのだが。運が悪いことに、その人物に俺の存在を見抜かれてしまったのである。その人物は、この屋敷の主人であり、リディアの父親である。この家の主人が、俺の方に近づいてくると話しかけてきた。その人物は俺に対してこう話しかけてきたのである。

(私はサーティの父親とリディアの母が親友でした。私のことは知っていますよね)

「はい。あなたとは面識がありますから」

俺はその男の質問に答えた。

(実は最近娘の身に不思議なことが起こっていて。その件で貴方にご相談をしようと思いましてね。この部屋の外に誰か居るんでしょう?)

そう言った男の目は鋭かった。

「俺のことなんてわかるはずがないと思うんですけど」

そう言いながらも。俺は、俺は、この男が俺のことを見抜いた事に少し驚きを隠せなかったのである。なぜならこの男は俺が隠れていることを知っていた。

そんな俺に対してこの男はこんな言葉を口にするのであった。

『この世界は広いですし色々な場所に行ってみてもいいと思いますよ』

俺は、この言葉を言われるまで。リディアとリディアの父親の関係がそこまで悪くないものだと知り。もしかしたら、リディアとリディアの父親がこの国にやって来たことで。リディアとこの国の繋がりができたかもしれないと思っていたのだ。

だけどそんな事はなく、それどころか俺とこの男がこの世界に来る原因となった事件で俺の両親は俺を残してこの世界には居なかったという事実が発覚したのである。だがそれでも俺は、俺はリディアとその父親との関係が悪くなったりしていないと信じていた。リディアがこの国に来たおかげで。俺の家族がバラバラにならずに済んだのは確かなことだったからである。

そして俺は今、俺に優しく微笑んでいる目の前の青年に。自分の両親の事を聞いた。この人はきっと知っているはずだ。俺の両親が俺がこちらの世界に転移させられる前に起こった事件に関わっているのかということを。しかしそんな俺の言葉は、俺の父さんによって遮られてしまうのである。

『この世界では、自分の力に過信する者が多く、力に溺れてしまう。そういう者がいる。だから私も力に溺れてしまった愚か者の一人にすぎないのですよ。そして私がそんな馬鹿げた行動を取る前に。妻から娘に託されていた手紙に書かれていたのが、君の名前と住所だけだったのです。娘の名前は書いてあったのに。そんな娘を私は、救うことが出来なかった。娘が苦しんでいたのを知っていながら。私は娘の力になれずにただ見ていることしかできなかったのだから。しかし娘は最後の最後に。自分がこの世界に来られるような何かを成し遂げることが出来たようだったから、その事でこの世界を呪わないように、娘から手紙が届いた後に。娘の身代わりとなる者を自分の家に置くことにしたので、リディアをお願いいたしますと言っていました。だから私は自分の娘を助けようとしてくれたリディアを出来る限りサポートしようと考えてます。だからリディアが貴方と一緒にいることを望んでいるのなら。貴方にリディアのことをお任せしたいと思っているのでどうか娘のことをよろしく頼みます』

俺は、俺の目の前で深々と頭を下げて。俺のことを見つめている目の前の人物にどう対応したらいいのかわからず、俺が混乱しながらリディアとリディアの父親の顔を見ていると、その男はさらに言葉を続けてきた。その男は真剣な顔で俺に向かってこんなことを言う。俺とリディアの関係について、俺達がお互いを好きあっているという事を確認した後で男はリディアにこんなことを尋ねたのだ。

『もしかしたらだが、もしかしたらだ。君がサーディの体を乗っ取ることが出来れば。君のお父さんが行方不明になった原因を探る事が出来るんじゃないかな?』

リディアは俺の方を見ながら、しばらく考え込んでしまったのである。

俺はそんな二人の会話に口を挟むことなく。静かに二人の様子を見守った。

それからしばらくして俺に視線を向けてくると。リディアはこんな提案をしてきたのである。

(サーディン。貴方が良ければの話なのだけれど。サーディンがこの体の中に入っている時にサーティが意識を失うことがあるのはわかっているかしら? そしてその時、サーティの代わりに貴方がサーディンとして動けるようになることも知っているわ。それでもし良かったらで良いのだけれども。サーディンの体の中でなら、私が意識を失っていても。サーディの中に入っているサーディンが、代わりに体を動かすことが出来るって。そう考えるととても面白い話だと思わない?)

俺はリディアの言葉に驚いた。確かに俺がサーティと入れ替わっても。俺がサーティの中にいるサーティを動かして戦うことは出来ない。しかしサーティの中にあるサーディンの力を使えばそれは可能だということなのかと理解できたからである。

『まあ、やってみないとわからないだろうが、試してみる価値はありそうだ。しかしその場合サーディンは大丈夫だろうか』

サーディンの心配をしているサーディーを安心させるためにサーティが笑顔でこう口にしたのである。

(大丈夫だよ。もしもサーディンが危ないと思った時には僕が、この力をコントロールしてみせるから。それに僕の方にも、サーディンを一時的に操ることに使える力が備わっているらしいから、なんとかしてみるつもりなんだ)

そのサーティの言葉は自信満々で、俺の事を信用してくれるからこそ、リディアが俺にこの提案をしてきたことが伺える。俺もこのサーティの事を信じるしかなかったのである。俺はサーディンの事を頼むとサーディーに伝えることにした。

(それじゃー。俺はちょっと寝てるから、後はお前に任せたぜサーディン)

そして俺は自分の意識の中に潜ることにしたのだ。俺は自分の意識が自分の中で眠っている状態になる。その間の事は分からないのだけれどもサーディンならば上手くやってくれる事だろうとそう信じて俺は意識の奥深くへと入っていったのである。

「さてこれでやっとまともに戦えるようになったかな」

そんな独り言を言うサーティーだが。彼女の体は今までずっと俺が支配していて自由に動くことが出来ずにいたのである。それが解放されたのもあってか、彼女は今までよりも遥かに動きが素早くなっているように感じるのだ。

サーティーの動きが速くなってからはサーティーは一方的に俺を攻撃するようになっていったのだが。俺もその速さに慣れてきて攻撃を捌き始めた頃だった。サーティーの体に異変が起こったのである。

(何これ!?私の体が勝手に動こうとしている。駄目。もう抑えられそうにない!!)そう叫ぶと同時にサーティーの目が光を放ち始めたのである。俺はすぐに俺の中から出て行かないとまずいと感じてすぐに俺は自分の意識の中から抜け出していったのだ。その途端に俺はサーディーンになっていたわけなのだが、俺は一体どういうことが起きていたのかが分からなかった。

そしてそんな状況でも戦い続けていると。次第に俺は俺の意思とは関係なくサーディーンの肉体が俺の意志と関係なしに俺の体を思うように動かしてくれることに気が付いたのである。そして俺がそのことに気づいた時。突然俺はサーティーの声を聞いて驚いて振り返ってしまった。その声の主は、俺と入れ違いになって今は俺の中の中に居るはずのサーティンである。しかしサーティーナにはサーティンの肉声でサーティーの言っていることがわかるのだ。そんな感じのことをサーティが話していたのだが、その話は俺には聞こえていないので。俺が何を言っているんだろうと疑問符を浮かべてサーティーンを見つめるだけである。

(ああもう! 仕方がないなぁ。ええい面倒くさい)

サーティーが急に俺に話しかけてくるのをやめたかと思うと今度はリディティーナが話し掛けてきたのであった。

(そろそろいいわよね。ねえサーディー?)

「ん?なんでリディが俺に話しかけてきているんだよ?」

俺は不思議そうにしながら。リディの顔を見る。

そしてそんな俺に対してリディティーナがこんな話をする。

『私はこの子の体を借りてあなたにお願いをしにきたの。それでこの子を元に戻すために、貴方に協力してほしいことがあるんだけど。協力をしてくれないかしら。もちろん報酬はきちんと用意するつもりだから、私達の目的が達成するまで貴方のことをサポートをする。だから私達と一緒に来てほしい。貴方が居てくれれば。この国を変えることが出来るかもしれないから』

リディーの言葉を聞いた瞬間に俺の心が揺らいだのを感じた。俺だって出来ることならリディアの力になりたいと思ってたし、もし俺の力で誰かを救うことができるなら俺は誰かのために力を貸したいと思っていたからだ。しかしそれでもリディは俺と別れるつもりで、俺はそのことを理解しているからこそ俺は自分の気持ちを伝えることが出来なかったのである。

俺はリディアの事を抱きしめながら俺はリディアに言葉を告げる。

「俺に出来る事があるのなら俺は全力で頑張ると誓う。だから俺は君と一緒に行くよ」

『ありがとう』

俺とリディは互いに顔を合わせて笑い合うと、俺たちはこれからについて話し合いを始めることにしたのだった。

俺は、リディーと二人で今後の方針についての会議を始めた。

リディと二人きりになる機会なんてこれまで無かったから、こうして改めて向き合ってみてリディーのことを初めてしっかりと見ることができたのである。

そしてリディがこんなことを俺に告げてくる。

『それじゃ、まずはこの世界を変えないといけないわね』

俺も、俺もリディの言葉に同意しようと思い、俺は俺なりの考えをリディアに話す事にした。

俺はこの国の現状をあまりよく知らないのである。そしてそんな俺の言葉をリディーが補足するように説明をしてくれた。そして俺はその事を聞き終わると、リディからの提案を前向きに考えるようになったのである。

そんな俺が出した結論としてはリディアと一緒なら。

この国を変えて行けるんじゃないかって。そんな風に考えたから、俺はリディアに協力することを決めたのだ。

『私と貴方と、あとサーディーンで三人ね。それじゃ今すぐ作戦を考えましょうか。サーディンならサーティンの中の人に呼びかけて、私達が一緒に行動するのを許してもらえば、後はどうにかなるわよきっと』

そう言いながらリディーは不敵な笑みを見せたのだった。

リディーと話し合っているうちに夜になってしまった為。俺はサーティの中に意識が戻った後はサーティと一緒に食事をしてから眠ることにした。そして眠りに付く前に俺はサーティに声をかけてから眠る。

サーティは俺のことをじっと見つめていて、何か話したそうな素振りを見せてくる。

俺の意識の中にサーティンの声が届く。

(なあサーディー)

(なんだよ?)

(ちょっと話がしたいんだけど、良いか?)

(わかった。それじゃあ外に出て話をしようか)

俺はそう返事をして、サーティと一緒に外に出ることにしたのである。

サーディンは自分の意思で体を動かしてサーティンが俺に話があると言うので俺達は外で話をすることにした。俺がサーティンの体を使っている時には俺が自由に動くことはできないのだが、しかし俺の身体はサーティーの中にあるサーティンがコントロールすることができるらしいので、その事でサーティは少しだけ困っているようなので。

俺はとりあえず、サーティンがサーティーに聞きたい事とは何なのだろうと思っていると。

『なぁサーディーン、リディアは元気にしているのか?』

俺はその質問にどう答えればいいのかと悩んでしまう。正直に言えば俺も詳しくは分かっていないのだ。ただ、今の俺の状況を説明するのであれば、俺はミレーナさんの身体を借りている状態で。しかもその体でミレットさんが俺とリディアが婚約したことに怒っていたという話を聞かされたので、俺はミレティとリディアとの関係性についても色々と聞いているのだ。しかし俺はそれをリディアの口からではなく、俺とリディアの関係に不信感を抱いた人達が話していたという情報しか持っていないのでサーティーに伝えてもサーティーに余計混乱を招くことになるだろうとは思ってしまうのだ。しかしそんな状況の中でも、一応はリディアのことは大切に思っているつもりだし、リディーの事も大切に思っていて、俺はサーティとサーティの体に居るサーティンの事を大切に思っていることを伝えなければならないだろうと考えて、俺はこんなことを言う。

『ああそうだ。今はサーティーンの体にサーティが居るから、サーティから聞くことは出来ないけど。俺はリディアの事をちゃんと想っているし。お前のことも大事な友達だとは思っているぞ』

俺は俺が思った事を全部そのままサーティーンに伝える。そして俺はリディにサーティにサーティーの中に入ってもらって、サーディンと会えるようにしてもらうことの許可をもらおうと思うのだ。

俺の話を聞く限りじゃサーティもそれなりには理解しているようだしサーディンはリディンからある程度事情は聞いていたから、その辺は大丈夫だと思うから問題ないだろう。

そんな訳なので俺は早速サーティの中に意識を移すことにする。その時にサーティンがどんな顔をしているのだろうとサーティを見るとサーティンは笑顔だったので、サーティが無事で良かったと安心してしまうのだが。

(さてそれじゃ。まずはサーティンの記憶を確認してみるとするか)

俺はそう思い、サーティンの記憶を確認すると、サーティの中からでは見ることが出来ない記憶の光景が見えてきた。そこで俺は驚いたのだが、サーティの中に入ったサーティンがサーティンのことを見ていたのだ。つまりはこれは、サーティンの見ている視界がサーティの視点となってサーティンの目を通して見えるということみたいである。そしてそんな状況でサーティンはリディの事が心配になったのかリディの姿を探そうとしていたので、俺もそれを手伝ったのである。サーディの体を操作できるのは俺とサーティーだけである。俺の場合はリディを俺自身の肉体に宿すことができていたのだけれども、そのせいで俺はサーティーンの体を自由に動かせることができなかったのだ。サーティーンがリディーのことを探したいというのならば俺は協力をしなければならないとそう考えたからである。そしてリディーの姿を探すことに集中するサーティンだったが。すぐに俺にリディーを見つけたと報告をしてくるのであった。そのおかげでサーティンはサーティの体を上手く動かすことができたのであった。

俺は、リディーを見つけ出したサーティンの行動を褒めてやろうと俺は考えていたのだが、しかし俺はそんなことを言っている暇などなく。すぐに俺が意識の中に潜った時のことを思い出したのだ。

俺がサーティーの中に入る時、俺はサーティーの身体の中に俺の意志だけが入り込んでしまった。しかし俺が意識の中に戻るとサーティンは意識の中に戻っているはずなのにサーティの体の方に意識が残っていたのだ。

だから俺はその時にサーティンはリディとリディーの事を心配をしていたのだろうかと思い、サーティーンとサーティンは俺のことを待っていた。俺に早くサーティの中に戻るように指示を出すためにだ。

サーティーンに急かされた俺は。

『サーティーン! 俺は急いでサーティーの中に戻りたいんだ。手短に用件だけを教えてくれ!』

俺がそういうとサーティーはサーティーンの事を落ち着かせてくれた。

(まあまあ、そう慌てるなって)

『別に慌ててなんかいないから』

サーティーが落ち着いてくれていることに対して俺は内心で安堵しながらサーティンの言葉に耳を傾ける。するとそんな俺に対して。

「俺がこの国を乗っ取ることになった」

そんなことを言ってきたのである。

俺がその言葉を聞いたとき。

一体どういうことなのか理解が追いつかなかった。しかし、俺はリディーがこの国に復讐するために何かをしているという話を聞いたことがあったから俺はそんなサーティンの話を真剣に聞こうと思う。

そして俺がサーティーの話を聞いているうちにサーティーから俺への指示が来る。それはサーディンの身体に乗り移るようにということだ。俺はサーティーンからサーディンの体に魂を移動させた。その際に俺は、どうしてリディーのことを心配して俺に知らせにきたのだろうと思った。サーティンがこの国の乗っ取りを画策しているというのは、俺にだって分かるが。リディーだって同じことを考えたはずだからだ。

だから俺はサーティに確認を取ることにした。

「なあ、サーティン。お前がしようとしているのは本当にお前自身が望んでいることなんだよな?」

『あ? 何言ってるんだよ。当たり前だろ。こんな国はぶっ壊した方が良い』

俺はその言葉でサーティンが本気でこの国の人たちを見下していることを理解できたので。この国にはもう俺達が何かをする必要がないのではないかとも考えるが。しかしそれなら何故リディーはあんなにも苦しそうな表情を浮かべていたんだろうかと思ってしまうと、もしかしたらあの場にいた皆を救おうとしていたのではないかと考えたのである。そしてリディーの考えに俺の考えを合わせると。この国の人を助けるためには俺達に助けを求めないといけないような状況を作れば良いのではないかということに気がついてから、俺の頭の中にあった一つの可能性が消えていくような感覚があったので俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。そして俺はその方法を考えて、あることを閃いてしまうとサーティンに向かって提案をしたのだ。

俺はこれから何をすればいいかをサーティンに尋ねると。サーティンからはサーティの体の中にいるサーティンと一緒にこの学園を襲ってこいという言葉が聞こえてきた。

『サーディンが今、この学園の中で一番力があるから、そいつにサーティの中にいる私達の姿を見せることでサーティ達も仲間なんだと思わせる。それでまずはこの学園の生徒を操り人形にしてサーディーンをこの国から出させないようにしてやる』

サーティンはそんな事をサーティの中に入っているサーディンに言う。そしてサーティの身体の中にいるサーティンはそんなことを言われてどう反応をしたらよいのか困っている様子だった。

(でも。そんなこと出来るのか?)

俺は疑問に感じてサーティンにそう尋ねたのだ。

(ああん? 俺とサーティーが組めば出来ない事なんて無いに決まってるだろう)

サーティンがそんな事を言い出したので。

(そうなのか、凄いな二人共。俺には何も出来なくて情けないよ。俺もこの国が好きなんだけど、でもリディが苦しむのは嫌なんだよなぁ。だから二人が助けてくれるのならば。頼むサーティーンとサーティーの力を貸して欲しい。俺に出来ることは何でもするからお願いできないかなぁ?)

『任せとけって言っただろう?』

サーティンが俺に向けてそう言ってくれた後。

『サーディーン。貴方にリディちゃんの居場所を教えてあげようか?』

サーティはサーディーンを安心させるために、そんな優しい言葉をサーディーンに掛けたのであった。その事で、サーディーンの心の余裕が出来てきたので、サーディーンがこんなことを言い出す。

「なぁ。その作戦を実行するにあたって、まずはリディーがどこに居るのかを把握しないと駄目じゃないか?」

俺は確かにそうだと納得してしまいそうになるが。それでも、リディーがどこに居るのか俺達は把握している。リディアがサーティンとサーティンの中に居るサーティのことを探しているということを。そして俺がリディアの事を思い出すとサーディーの事を睨みつける。すると俺の顔が怖かったようで、サーティーの身体の中のサーティンはビクリと驚いていたのである。そして俺の方を怯えながら見ている。しかしそんな事は気にしないでサーティンの事を俺は怒鳴り散らすように声を出した。

「サーディー! お前がリディアの事を好きになるのは仕方がないかもしれない。だがリディアの事が好きになってしまったからってサーティの事を考えないで行動するんじゃねぇ! リディーがお前のことを嫌いになってもお前は俺が守ってやるから! だからちゃんとリディアと話し合ってリディーと仲直りをして来いっ!」

俺はサーディーに怒ってしまったのだが、サーティは俺を優しく抱きしめてきた。俺はサーティの腕の中に包まれて少しの間黙っていると俺は、落ち着きを取り戻すことが出来たのである。しかし冷静になった頭の中で。

(あれ、もしかしてサーディーを脅してしまった?)

そんなことが頭に思い浮かぶと、自分のやったことを後悔し始めていた。

(俺、ちょっとやり過ぎたか。リディーの体の中にはリディルがいるし。サーティンにそんな態度を取ってしまえば。サーティとサーティンが対立することになるんじゃないか。うわ、まずったな)

そう思い。リディーの体の中にあるリディーのことを心配してしまっていると、俺の心の中を読んだのか、リティがこんな事を言って来たのである。

『お父様。サーティーはきっと分かってくれます。それに、私もサーティーとサーティの二人で協力してサーディーンに何かをさせることが出来ましたから、サーディーンのことを脅したわけではないですよ』

リディの優しげな声で俺はリディの言っていることに一理あると考え始めたのだ。そしてリディーは続けてこう言うのである。

『だから私は信じたいんです。私がこの国の人々を操らなければいけなくなった理由があるんだと思うのです。その理由を教えてくれたとしても私はサーティーやサーティンのことを嫌いになったとしても、私はずっとサーティとサーティンと仲良くしていきたいと思います。ですからサーディーにそんなことをしないように言ってやっていただけませんか? 私はお兄様にしか頼れる人はいませんでしたが。今はこうしてお母さまやお姉様、そしてミレノリが居てくださるようになり。心強い人が沢山いてとても嬉しく思うのです。そんな私の家族に迷惑をかけたくないと思うのはおかしいでしょうか?』

そんなリディの言葉を聞くと、サーティの身体の中に入っていたサーディーンが。

(ありがとうリディ)

と一言呟くと。

「俺が悪かった。ごめんな」

そんな謝罪をしてきたのだ。

(サーディーはやっぱり悪い奴じゃなかったんだな)

俺はそう思い。

『いいってこっちこそ急に怒鳴ったりして。驚かせたなら謝る』

俺がそんなことを言った瞬間に俺とリディーが意識の中から弾き出されたのである。俺は突然意識の外から弾かれたことで、目の前にいたはずのサーティとサーティンの姿を確認できなかったのだった。

俺はサーティンがサーティンに意識を移動させてから、俺の意識の中に戻ってくるまでの間のことを必死に思い出そうと試みていた。

「えーっと確か。俺とリディの魂が離れそうになった時。リディが、魂を俺の中に戻してくださいと言ったような気がする」

俺はリデリアから、サーティの身体に入ったリディーが俺達の元に駆けつけてくるとサーティーの身体に戻ってきた時にサーティが俺の事をサーティンだと気づいてくれなくて、そしてそのまま俺の中に戻って来たので俺はすぐに魂の移動をしたはずなのだ。

「そして俺がサーティンの身体に魂を移動させると。サーティの声でサーティンが。リディーの所に行ってくれと言われ。そしてサーディーンにサーティがこの学園にいることを告げて、それからどうしたんだろうか?」

そこまで考えるがそれ以降のことを思い出せなかったのだ。しかしここでサーティンが姿を現したのだ。そんなサーティンに対して俺は先程までの行動についての謝罪を行ったのだ。そしてそんな俺は今。サーディンの中にいる。サーティンの身体に乗り移るようにという指示を受けたのである。

俺は言われた通りにすることにしたのだが。俺の中に入ってきたサーティンから俺はこんな指示を受けることになった。

『サーディンの体を乗っ取るからよ。そいつの肉体を使って学園の中に入ろうぜ』

そうサーティンに言われると俺は、俺の事を心配そうな表情で見つめているリデルに向かって俺は話しかけることにしたのだ。

俺は今。サーディンの体を使っているが。そのサーディンは俺の事をリディーの婚約者であり、そして俺の大切な人であるリディールの恋人だと勘違いしているらしく。リディーに愛されていると思っているような言動をしている。そして俺にはそんなサーティンが。この国の人を操ることが出来ると本気で思っているのかどうかが理解できずに俺は、この場では何も言えないでいると。俺の代わりにサーディンの中に入っているサーティーンが何の躊躇もなくリディーンを口説き始めるので。俺がそれを止めるために口を開こうとするがそれをサーティンが止めてしまうのである。それからサーティンが、自分がリディーと一緒に居ればリディーンの事も助けてあげられるという話をしだす。

(まぁ確かにサーディンはリディーンの事を好きだし。助けてあげたいんだろうけど。それで俺達が危険な目にあったり。それでサーティとサーティンが傷つく結果になって欲しくないんだよなぁ)

そんな事を考えていると。サーティがサーディンの事を宥めるとサーティの体に戻ろうと言ってくるのである。

(俺がここに残ったところで何も出来ないからな。とりあえずここは任せることにしよう。サーティンに俺とリディーの関係を勘違いされそうになっていたが。そんなことはサーティンに任せればいいし。それにサーティとサーティンの力を借りてサーディーンを説得できたのであればそれは俺にとっても好都合だから)

そんな事を考えながらサーティのことを信じているのである。そして俺の事を心配そうに見詰めているリディアを見て。俺とサーティが仲直りすれば、サーディーンのこともリディーとサーティンはちゃんと仲良くなることができるはずだと、そう考えたのであった。

俺はサーティが自分の身体にサーディーンの精神を移すと。すぐにサーディーンにサーティがこの国を出ようとしているということをサーディーに伝えてもらい。その話を聞いたサーディーが慌てて俺の方にやってきた。

『おい! お前! 何をやってんだよ!』

俺はそんな風にサーディーンに文句を言われて。

(あぁ確かに俺がサーディーンの立場だったらサーティを止めようとするよなぁ。でも、これは仕方がないことなんだ。サーティがリディーンの体の中に居るんだ。そんなリディーを放ってはおけないし。俺はサーティナを一人にしておきたくはないからな。リディーの体の中にはリディーの身体の中にいるリディルも一緒に連れて行った方がいいと思うんだ)

そんなことを俺が考えていると。

「ラスター殿。貴方がリディー様を助けたいという気持ちはよく分かりますが。しかしサーティーとサーティンの二人が協力していると。貴方がそう言うのならば。私も、貴方の意見に従いましょう。貴方に何かがあった場合は私達は貴方の身体を借りているサーティとサーティンのことを殺すことになるでしょうが、そんな事はさせないようにしてくださいね」

そう言い残してリディーンは自分の体の方へと戻って行ったのである。

『あんまり変な事をリディーにしちゃだめだよ』

サーティがそんな言葉を残してリディーの元に戻ると、今度はリディーがリティーの身体に精神を移してきた。

俺はリティーの中に移ってきたリディーを見届けると。サーティがサーディーンのことを納得させてサーティンのところに戻るのを確認した後。サーティンがサーティーと入れ替わったのを確認をして俺は自分の体に戻り始めた。

俺が自分の体に戻って来てすぐの事だった。

俺は突然誰かから抱きしめられるのを感じたのだった。

(何が起きた?)

俺は自分の腕の中で泣きじゃくっているリディーのことを確認する。

「お父様。怖かったです」

「お、おお。そうか、リディー大丈夫だったか? 怪我とかしていないか?」

「えぇ私は大丈夫です」

「よかったな」

俺はサーディーがリディーを傷つけるつもりはなかったんだなと思うと同時に、もしかしたら。本当にサーティーはリディーのことを好きになっていて、そんな相手に危害を加えることが出来ないと判断をしたんじゃないかと思い始めていたのだ。しかしそんなことを考えていても俺は今リディーに抱きつかれているこの状況をどうにかするべきだと考え始めた。俺はサーティーやサーティンが近くにいないことを確認したあとにリディーの背中を撫で始めた。するとしばらくして落ち着いたのか、サーディーは俺から離れて、俺の目を見ながら真剣な顔をしながら話しかけて来たのである。

「お兄さん。僕はこの国から出るよ。僕がここにいてもこの国が良くなるとは思えなかったから」

そんなことをサーディーに告げられたのだった。

俺がそんなサーディーに対して言葉を返そうとしたときだった。

サーティがサーティーナを連れて俺の所にやってきたのである。

サーティとサーティーナがやって来たのは俺達がいた場所に、ミリーとニーニがいるのが見えたからだろうと思うが。サーティーとサーティーナは俺がリディーと話している間。ミリーとニー二と話しをしていたようだった。ミリーとニーニと話を終えて戻ってきた二人は俺達の方に駆け寄ってくるなりサーディーはそんなことを言うので。俺としてもリディーのことをサーディーにどうするのか聞いておかなければならないと思ったので、そんなサーティに対してリディーがどうしてこの国を出て行くことを決めたのかを聞いてみることにした。

サーディーンがこの国の王になってからのことについて、リディーにサーディーから説明が行われた。

『そうかぁ。俺達がサーディーンってやつのことを説得したんだけど。そんなことをしてくれたんだ。俺は感謝するぜ。ありがとうよ』

「そうだったんですか。私は別に気にしなくていいと思いますよ。あの方は、昔から少し行き過ぎたところがあると。私自身も思っていましたから」

リディーがそんなことを口にすると、俺とリティーがリディーをなだめるのである。「リディーがそう言っているけど。サーディンはやっぱり、サーディーを説得できなかったみたいだけど、それは俺達に任してくれ」

俺の言葉にリディーが反応する。

「えっと、それでは、お母様に。私の体に居てくださいとお伝えしていただけますでしょうか?」

俺はそんなリディーにうなずいて答える。

「わかった。俺がサーディーの事を説得できなかった時には、サーティの体を一時的に借りて。リディーの体に入るようにすることにするよ。俺だって、この国のことが大切だからさ。リディーに無理はさせたくないし、だからサーディーンのことをなんとかしたいと思っているんだ。サーティには申し訳ないが。俺に力を貸して欲しいと思っているんだが頼んでもいいかな?」

そんな俺の言葉に対してサーティは即答で。

『いいよー。リディアが危なくなった時は私がリディの体を借りてでも守ればいいし。それにサーディーンのことは。私が責任をもってこの国に縛り付けてやるからよ』

そう言ってくれるサーティに俺は。

(いやまぁ、確かに。俺としては、俺とリディーとの子供を産もうとしてくれるリディーは大切に思うけど。俺にとって一番大切な人はサーティンだからな。でもリディーは。自分が犠牲になるような選択はしないだろ)

俺の考えはこうだ。サーティがリディーンのことを説得してくれるまでは俺がこの国を守っていれば。きっと俺は俺の意思を貫くことができると思っているからだ。俺は俺の意志を貫く為にはこの国を守ると決意したのである。そんなこんなで、リディーに頼まれてしまった以上。サーディンの説得をするしか無いので。まずはサーディーンに会う必要がある。俺達は学園を出ると。すぐに王宮に向かって歩き出すことにしたのである。

俺はリディーがサーディーンと話すためについていくという事を決めたのだが。俺はリディーに一緒に来てほしいとお願いしてみた。

(リディーの体にリディアの精神が入っているとサーティとリディーの二人を相手にすることになると俺が困ってしまう。それにサーティンは俺とサーティとサーティンの三人が同時に戦うことになった時に勝てるかどうかも分からないほど強いと思う。俺が一人で戦った場合。俺の方がサーティよりも先に倒れてしまう可能性は高いだろうからな)そんな事を考えているとリディーが俺の手を握ってきて、俺の顔をじっと見ながら言ってきたのである。

「私はラスターと一緒にいるのが一番幸せなのです。だから私も、私達と一緒に、お母様とサーティンが住んでいる屋敷に行くことを許可してください」と、そんな事を言われた。リディアはサーティンとサーディンのことを心の底から愛していて、その気持ちが強いからこそ、サーティンのことを見捨てられなかったんだろうなと俺は思い。そして俺はそんなリディーに。

「あぁ。そうだな。そういえば、リディのお母さんにも報告しないとだよな。サーティ。サーティが良ければサーディーのことを連れ出してもいいか? その前にサーティンに挨拶しておいた方がいいと思って」

「うん。もちろん大丈夫だよ」

俺はサーティンとリディーが住まわれている場所へと移動することにしたのである。

俺はリディーにサーティンとリディーが暮らしている家まで移動してもらって、そこでサーティンと合流すると。俺は改めてサーティンに対してサーディーの件を話すために話をする事にしたのだった。しかしその時に俺とサーティのことを見ていたサーティンの反応がいつもと違っていることに気付いたのである。

(なんだ?なんか今日のサーティーンの奴は機嫌が良いよに見えるな。まるで何かを楽しみにしているような気がするが、いったいなんだろう?)

不思議に思ったものの特に問題ないと判断して、とりあえずサーディーンの話に移る事にする俺だったのだが、ここでリディが俺を庇うように一歩前に出て言ったのだ。しかし俺にとってはそれが余計なことだったので俺は慌てて止めたのだった。「ラスター。私は大丈夫です。私は自分の意思を曲げたりしません。ラスターの邪魔をしたりしないので、どうか安心して下さい」

そんな風に言われても俺は納得できないわけなのだが。リディーを見ていると本当に俺のことを信頼してくれているのかと思えてきてしまうから怖いと思う俺がいたのである。

「分かった。そこまで言うなら。俺に付いて来てもらう」俺の言葉にサーティンは嬉しそうな表情を見せる。

『おい。サーティン、俺は、お前のことを許す気は無いぞ。リディーンがお前に何を吹き込まれたのかなんて知らないが。俺は、サーティのことを傷つけるような真似は絶対にさせない。もし俺が許さないと言っていることをサーティにやらせたりするつもりならば。俺達は全力で、貴様らを殺すつもりでいる。俺は本気だ。俺はサーティのことを幸せにする為ならばどんな手を使っても成し遂げる。そのことを忘れないようにすることだな。サーティーのことも、俺は傷つけさせないからな』

俺はリディーのことを傷つけようとしているサーディーンに対して警戒心を抱いていたのだった。

サーディーンのところに俺達が移動するとサーティンもついて来ると言い始めたので、仕方なく連れて行くことにしたのだ。俺達がサーディーンの屋敷に入るとそこにはサーディーンの執事長らしき男とサーディーンが俺達が入ってくるのを待ってくれていた。

『これはどうしたのでしょうか?』

俺達を見てそんな疑問を浮かべた執事長に対して俺は答える。

「俺が、ここに来た目的は、貴方の主人のことについてです。彼は、今ここに居られる方々を害そうとしていると俺は判断しました。それは間違ってはいないですか?」

俺の言葉を聞いて一瞬困惑するような仕草をしたサーディーンだが、そんなことを言われるとは思っていなかったのか。そんなことを口にし始める。

『そんな事はしていない。僕はこの国をよりよくしたいと考えているだけだ』

「嘘ですね。それでは説明いたします。貴方はサーティーに対して無理やりに、性行為を行わせようと画策しているでしょう。それは分かっています」俺がそう告げると、そんな俺とサーディーの間に入る形で。サーティンが俺に話しかけてくる。

「ねぇ、お兄さん。ちょっといいかな。僕がサーディーにそんな事をさせていないと証明するために、サーティーの身体を僕とリディアに貸してほしいんだけど、お兄さんにお願いしたいんだよ」

(サーティとサーティーナに体を?でもどうやったって。この場で二人が入れ替わることは出来無いんじゃないのか?)

そんな事を思っていた俺はすぐにサーティとサーティーナの方を見たのだが。どうやら二人はそんなことが出来るらしい。俺は二人にサーディーンがそんな行動をしようとしているのかを確認する。

すると、どうやらとてつもなく嫌そうだったが、俺の為にとサーティナは自分の体の中に入ってもらう事を決めてくれたようだ。そんな二人に感謝しながら俺は、リディーのことを俺が抱きしめたまま、サーティーの背中を触るとそのまま二人の姿が入れ替わったのである。

『サーティン、貴方は、私にそんな行為を強制しようと考えていたんですか? サーティン』

リディーの姿に変わったサーティがサーティンを睨みつけるようにして問いかけるが。それに対してサーティンが反論しようとするのを止めてからサーティは。俺に説明してくれたのである。

「サーティン。お姉ちゃんの身体に入ったのは初めてだから。いろいろ試すの手伝ってほしいの。だからサーディンの相手をしてくるよ。でもおにーさんが心配しないように私も頑張っておくね」そう言ってサーティとサーティーナは部屋から出て行ってしまったのだった。

サーティンにリディーの体を渡すという決断をした俺であったが、俺は、この国のことを考えればこの選択が良かったのだと今では思うようになっていたのであった。俺はそんな風に思うようになった切っ掛けとしてリディーの体を俺に預けてサーティと一緒にサーディンのところに向かったサーティとサーティーナが、この国の事を思って動いてくれていたことを思い出してしまって、リディアの体の中に居てもらっていてよかったと思い始めていたのだ。

そしてこの選択が正しかったという根拠の一つとして。この場にはサーティンに敵意をむき出しにしていたリディアがいるということだろうと思う。リディーは俺がサーティンと話し合った後に、この国の事を考えて行動してもらいたいと伝えたのである。

そんな事を伝えられたリディアは。俺にこう言ったのである。

「私はラスターの為になると思って、私の体にサーティンの精神を入れて、ラスターとサーティの二人でこの国のために動くことを決めたのです。ですから。私の意思は固いですよ」そんな事を言われてしまった以上。俺はリディーの意思を尊重しようと思ったのだ。俺としてもリディーが傍にいてくれる方が安心できるし。

「ありがとうなリディー。俺もお前と離れるのは不安だからな。俺と一緒に居てくれることを選んでくれて感謝するよ」

俺はそう口にした後。俺はリディーと一緒に屋敷を出て、サーディンとサーティが住んでいる屋敷へと向かうことに決める。そうして俺はミレーナを連れて屋敷を出る前に、サーディンが何かをしでかすのではないかと疑っていた為。俺が、サーディンの部屋まで向かうことにする。

(一応確認だけしておきたいことがあるんだ。もしも俺の考え通りなら)

俺が考えていることが当たっているのかを確認するために俺はミレノナに姿を変えたサーティに、念話石を持ってもらって。サーティンに、その部屋に近づいてくれるように頼むとすぐにそのサーティンがサーディーンの私室と思われる場所に辿り着くことが出来た。その時に俺はリディアと一緒にサーディンの部屋に向かうことを伝える。

そして、その部屋の扉を開けようとした時だった。突然、リディアは、俺の前に立ちはだかるようにして言う。

「私は大丈夫です。私が守られていては意味がないのです。私だって、ラスターの力になりたいのです」と、俺の事が大事で俺を護ろうとしてくれているのが分かってしまうようなことを言うリディアの言葉に。俺は嬉しくなってしまう。しかし、俺はここで甘えるわけにもいかないので、リディーの頭の上に手をおいて優しく撫でながらリディーに話しかけた。

「ありがとな。気持ちは本当に嬉しいよ。でもな。今回は、サーティとサーティンの兄妹に任せた方が良いと思うんだ。俺がサーティンに頼んだのは、サーティのことを襲おうとしたり、傷つけたりしたら許さない。それだけなんだ。あいつがサーティに酷いことをしようとした時に俺は止めに入るつもりだし、もしそれでサーティンのやつを傷つける羽目になったとしても俺は許せる気がしないんだよ。それにさ。俺はお前のことを信用してるから、お前が俺の大事なリディーを護る力になることを、信じてるんだよ」

「うん。そうだよね。分かった。お兄さんがそういうんなら。僕も信じることにするよ。だから今は僕に任してほしいんだよ。絶対にラスターを失望させたりする気は無いから」俺の話を聞いてからそう言って、俺の前から退くサーティンを見てから、俺はサーディンに視線を向けると。俺と目が合うとサーディンはすぐに視線を外した。

俺はそれを確認した後で、俺は扉を開けると中にサーディーンが一人で座っており、こちらを眺めているのが見えた。俺達が入って行くとその部屋には結界魔法が発動しており、俺とサーティー以外が立ち入ることが出来ないようになっていたのである。

(へぇ~。なかなか用意周到じゃん。やっぱり何かしら裏があると考えて間違いなさそうだけど。俺が警戒しているのを感じ取ったのかサーティーンの方を警戒しているな)

それから俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに座っている状態で話し合いを始めることになった。そこでサーティとサーティンは。お互いに自分の目的をはっきりと告げてお互いの目的を果たすために協力することを誓うのだった。そうしてサーティーとサーティンの話が終わると同時に俺は。リディーの体を俺の元に戻すことにした。そうすることでサーティもリディの体に宿ることに抵抗感を抱くことはなくなるはずと考えたからこその行為なのだ。そして、リディーに、サーティの体に戻らないで良いか? と聞いたのである。

リディーとしては俺と一緒にいることを優先したいという気持ちもあるので、このままリディアの姿で居ることを望んだのだった。

(それじゃあ、サーティの体を返してもらわないといけなかったんだけど、この状態のリディアにそんな話をするのは無理だな。リディーが俺の言いなりになっている今の状態だとな。俺がお願いすれば聞いてはくれそうな気はするけど、そんな事はやりたくない。でもサーティは。サーティーとサーティンの協力を取り付けられただけで良しとしないと駄目だよな。そういえば。リディーに頼みごとをしておいた方がいいな。俺はこれから少しの間サーティンについて行きたいと考えているんだけど。俺がリディーの体に戻った時にサーティーの体に宿っていないって事態が起きないとも限らない。リディーは俺の体のことを心配しすぎていて他のことを何も考えられなくなってしまっているからな。サーティンと協力体制を整えた後のことに関してはリリィとサーティに俺の代わりに相談を任せておけば何とかしてくれるはずだ。だから俺はその間にリディーと俺がサーティー達と別れた後にするべきことについて考えた方が無難かもしれない。それならば俺もサーティー達と一緒に行動する方が安全に事を進められるようになる可能性はあるか)そう思った俺は。リディーの耳元に顔を近づけてリディーの耳に唇を寄せて俺がサーティンと行動することにした理由を話すと。

それを聞いたリディーは涙を流し始めた。

そしてリディアの姿のまま俺の方に体を抱き寄せて、俺の顔に頬を擦り付けてくるリディアを優しく抱き返しながら俺はサーティー達の事を信頼することを決めて、しばらくの間はこの部屋で過ごしてもらうことに決めたのであった。

そうやってしばらく時間が過ぎて、俺は、リディアと二人で、リディーに変わってくれたサーティーと一緒に部屋を出た後に、ミレノナとミティが暮らしている家に戻るためにサーティンとサーティーに別れの挨拶をしてから、サーティーとサーティンと別れた。そして屋敷を出る際に、ミレノナとミティの姿に変化してくれたミレノナに、サーティンを監視させるのと同時に、ミレノナとサーティが入れ替わるタイミングはミティに任せるように頼んでおくのである。

そうして俺はリディーと共に屋敷を出てから、リディーを俺の背中に乗せてリディーの家に向かって飛び始めていく。そうしながら俺は今後の事を考えることにしてみたのだけれど。リディアと俺とリディーの三人で、今後どうするのかを話し合っていくべきだと思っていたのだった。

リディアの家にたどり着いた俺はリディーと二人っきりになれる部屋に行くとリディアに抱きしめられる。俺も抱きしめ返した後でリディーに、サーティンとサーティンの体の中で一緒に生活をしていた時の記憶を見せて欲しいと言うとリディーは了承してくれて、リディーの記憶の中にサーティーが居て、リディアと楽しそうに笑っていた頃の映像を見ている間にリディアが目を覚ますのを待つ。

そうして、リディアが意識を取り戻すのを確認すると、サーティンとリディーの思い出を語りながら、俺とリディーとサーティンの関係性についても話しておくことにしたのであった。

「ねえ、ラスター様は私の事が好きなんですか?」唐突にリディーは俺に問いかけてきたのである。

その言葉を聞いた俺は一瞬思考が停止したような気分になってしまう。そして、すぐに返事をすることが出来ずにいる俺に構わずリディーは続けて言う。

「だって、私とキスをしたり、私をベッドに押し倒した時、すごく嬉しそうにしてましたから。私の事が、そのっ、すっ、好きっていうのは分かっているんですよ」と言ってリディーは恥ずかしいのか顔が赤くなっている。

俺は、確かに嬉しいと思ったことは認めるしかないと思い。俺は覚悟を決めてからリディーの目を見ながら話すことにする。

「ああ。お前が好きだよ。リディーが居てくれると凄く幸せな気持ちになるから。お前とサーティと一緒に過ごしているうちにお前の事を大切に思うようになって、そんなお前の気持ちが俺に向けられていたことを知って、本当に嬉しかったんだ」

そうして俺の話を聞きながら俯いていた顔を、今度は上げて、真剣な表情になってこちらをじっと見つめてきているリディーを見ている俺の鼓動は徐々に高鳴っていった。

「そう、ですよね。うん。私もラスター様に抱かれている間。本当に幸せだなって感じたんですよ。それに私を優しく撫でてくれていて。その手の動きが私を撫でているラスターの手つきに似ていましたからラスターも私を好きでいてくれた事が分かった時、本当に嬉しく思ってたんですよ。それで私も、いつの間にかラスターのことを好きだという感情を持っていたようです」とそこまで言うと一度言葉を区切ってリディーはこちらを見るのをやめる。それから数秒の間を開けてから再びリディーは口を開く。

「でも、ラスターはミリーのことも大事にしているでしょ? それは分かるんだけど。そのことでちょっと不安な気持ちもあったのよ。ラスターとサーティーナが結婚した時に、私はちゃんとラスターの奥さんとして役に立てるのか。って考えてしまっていたんだよ」と、そう言うリディーに対して俺はリディーの言葉を否定する。

「それな。俺としては。俺のことを大事にしてくれているのは分かるんだが、もっと俺にも頼って欲しいと思ってるんだぞ。俺としてはサーティとリディーに何かあったときに、一番に守ってあげられる存在になりたいんだからさ。だから、そんなに自分を卑下しないでくれよ。それに俺にはサーティとリディーがいる。そしてサーティのことが本当に大切だから俺はサーティンと一緒に行動しているわけだし、俺のそばに居る限り。俺はリディーのことを本当に大切にするからさ」

俺がリディーを励まそうと考えて、サーティーと一緒に旅をしようと思っていることを伝えたのだった。そうするとリディーが急に抱きついてきて俺にこう告げた。

「えへへ~。やっぱり、ラスターの優しさは最高ですね。うん。そうですね。私はラスターと一緒にいたいから。ラスターが望むならサーティンについて行くことになっても大丈夫です。それなら私はラスターのために頑張ってきますから、それで、あの。一つお願いしたいことがあるんだけど、いいかな? 聞いてくれる?」

と上目遣いで見てくるリディーに、もちろんと即答する。そうするとリディーは安心したのか、少し微笑むと俺の方に向けて手を振って来た。なので、何だろう? とは思いつつも。俺はそのままリディーの方に手を差し出す。

そうしたら突然。俺はリディーの胸に頭を挟まれる形でぎゅっと抱き締められたのだった。そんなことをされると当然のようにリディーの匂いを感じてしまうのは必然だった。俺はそんなリディーがいきなり俺を抱き締めて、こんな風に甘えて来る意味が分からず混乱してしまい。リディーにされるがままになっていた。そして、少しの間、抱きしめられていたかと思うとようやくリディーは俺のことを解放してくれたのだった。

そうやってリディーに開放された後。改めて俺はどうしてリディーが甘えた態度で、あんなことをしてきたのかを聞こうとする。

だけど、リディーは、今聞いたことを忘れてくださいと必死に言ってきたため、とりあえずは保留することにする。その後。しばらくして落ち着いた頃に俺はリディーに、何故あんな行動をしたのかと問いただすと、恥ずかしくて仕方がなかったらしいのだが、どうしても、俺に伝えたかったことがあったのだという。そうやってリディーが伝えようとしてくれた気持ちを聞くと、なんだかものすごく照れくさくなり。俺は顔を背けてしまいそうになるのを我慢するのと同時に、リディーの気持ちをきちんと受け取ろうと決めてリディーに聞く。

そうして俺はリディーが俺に伝えるはずだった想いとやらを聞いていた。そうすることでリディーに何を言ってあげれば良いのかを判断できるかもしれないと思えたからだ。そしてリディーから俺に伝えられようとした内容とは。自分が、どれだけ俺の事を好きなのかを伝えたいというもので。正直に言えばかなり気恥しくなるようなものだった。

だからリディーからそんなことを言われても困っただけで。それでも、どうにかリディーを落ち着かせて、話を聞き終わった時には俺の頭は熱くなっていた。そうして俺は、リディに、これからのことを考えていく上でサーティンとミレーナとの関係について、もう少し話を詰めておくように言ったのだった。

(リディーが、自分のことを好きになってくれた事は嬉しいけれど、それを受け入れるにしても。受け入れるまでに時間がかかるのは目に見えているんだよな。俺は、サーティーンにサーティーの記憶を見たことで、サーティの願いを知ったけど。それが叶うかは俺の実力次第なのは確実だもんな。俺の今の力量じゃ絶対に無理だってのが分かるから、俺自身を強くしないといけなくなるんだ。そして強くなるには俺が持っている知識だけじゃ足りない気がするし。そもそもサーティンの体を乗っ取ったサーティとサーティの体を使って俺の中に入っているサーティーナは同一人物なのかが怪しい部分があるし。そこら辺も含めてサーティ本人から直接話を聞いてみるか)

そうして俺はリディーの家から出て行って、サーティスと待ち合わせをしている場所に行かなければならない。そう思っていたのですぐにでも出かけようと思ったが、俺は念の為に屋敷の皆に挨拶してから行こうと思ったのだ。だから俺はサーティとサーティーナに会いに行く前に、屋敷の人全員の所を訪れて、屋敷に残るみんなと最後の挨拶をしてから、俺はリディーの家に行くことにした。屋敷に残ったみんなの見送りを受けて屋敷を出てからしばらく飛ぶと。サーティとサーティナが待っている森に着く。

俺は、森の中に降り立つとすぐにサーティ達を見つけることが出来たのである。それから二人と合流してからサーティの身体の中にサーティの記憶で見たサーティーナの姿とサーティの記憶の中に映っていた、サーティと一緒に戦っていた少女の姿をした精霊の少女が現れる。

そうして現れた少女は、俺にサーティの記憶を見せてくれた礼を言いたいから付いてきて欲しいと言う。俺はそれに従って三人で一緒に移動することになった。それから移動すること数分。到着した場所はサーティナの記憶の中で俺と初めて戦った場所であった。その記憶の中にある景色にそっくりの場所に来た時にサーティからある提案を受ける。それは、自分達と戦ってみてくれないか? という物だった。

俺はそれを受けた後。二人はどうするかと俺に問うてきた。そう言われた俺だが。俺の答えはすでに決まっていた。そして、戦うことが決まった後にサーティナの方に、もし戦うことになった時は、その力を使わずに全力でかかって来てくれと言っておいたのである。サーティンの体を使っているサーティーナと戦うならば。全力を出してサーティーが死なない様にするのが最優先になると考えていたからそうお願いすることにした。するとサーティから俺の心配が無用なことを伝える言葉が聞こえた。俺は、その理由がサーティンの体に憑依していた時よりも格段に強くなっている。だから本気でかかってきても良いからと。俺はそう言うサーティの言葉を不思議に思ったが。それについては特に何も言わないことにして、とりあえずは戦いが始まるのを待つ事にしたのである。

そうして、サーティとサーティーナの戦いが始まったのであるが。俺はサーティーとサーティのやり取りを眺めていたのであった。サーティアに攻撃をさせまいとするサーティの頑張りを見ながら、サーティのことを応援する俺。そして、その攻撃を防ぎながら、俺に向かってくる二人の視線を受けながら。そんな状況になりながらも俺は二人の動きを見て分析を行っていた。そしてそんな俺を二人が見て、俺に隙を見つけようとしてくるが俺はその二人をしっかりと見ながら思考を続ける俺だった。

そうこうしている内に時間は経過していくのだがその間も攻防が続いており、その光景は互角の戦いが繰り広げられており俺が見ている限りお互いに引けを取っていなかったのである。そうこうしているうちに、決着の時が訪れたのだった。

そう、先に膝をついて倒れたのはサーティンの方だったのである。その事によって、勝者となったのはサーティーの側だった。そうやって勝負はついた。

「さすがに、ここまでやられるとは思ってもいませんでしたよ。本当にサーティーナが強すぎて、私の力が通じなかったことが良く分かりましたよ。まさか。サーティーナと互角にやりあえる相手がいたなんて。しかも、私と同じで人間族なのに、信じられませんね」

とそう言うサーティに対して。俺は、お前は本当に、あの時にサーティと一緒に居た精霊なのかと問いかけた。すると、サーティから返答がきた。

俺の予想だと。この目の前にいる少女の見た目をした存在が。本物のサーティンであり。もう一人のサーティーの方が偽者ではないかと疑っていたからである。そして、サーティから返って来た返事の内容は、やはり、俺の考えていた内容そのもので、サーティンは、今までずっとサーティンに寄生しているサーティーの記憶の中の存在だったらしい。そうやって話をした後に、サーティンはサーティンの体の主人格はサーティーのままなので、サーティの意識は消えてしまったわけではない。だからこれからも普通に過ごすことが出来る。ただサーティンに寄生する形で存在しているサーティーナの方はもうサーティンの肉体を使えないのが問題ではあるということだ。なので、俺はサーティの体を借りるのをやめた方が良いのではないかと言ったのだが、サーティンはそれを受け入れて、自分の意志で俺について行きたいと俺に言ってきた。そしてサーティンは自分の体を乗っ取られているので。そのことについては俺のせいなので俺に責任を取る必要がある。だから自分の体を使う権利は自分にしかない。なので俺と一緒に行動することを決めた。そういう経緯があったと教えてくれた。

俺は、それを聞いた後、少し考える。俺の考えが正しいなら、このまま俺の事を信頼してくれている。サーティについていけば俺は確実に強くなれるはずである。俺としては願ってもない話だったから。それでサーティンと行動を共にしようと思ったのは間違いではないと思うが。サーティンにサーティーが残した記憶が俺には見えるようになっていたので。それを確認した上で、もう一度よく考えてみる必要があると思えるようになった。それで、俺には見えていない部分があるのかもしれないと思って、俺が今見たことを全部、サーティンにも共有するように頼む。

そうすれば。俺の見たサーティーの記憶を。サーティの視点から見ていない部分で、どんなことが起こっているのか? を知ることが出来るかもしれないと考えたからだ。サーティーの記憶の中には、俺の記憶が入っていないのだから。当然サーティーの知らないこともサーティの記憶にはなかっただろうが。俺の知っていることに関しては俺の記憶に残されていない部分もあっただろう。だからそこを確認しておきたかった。

俺がそうやって考えた通りに確認を行ってもらった結果。サーティンは俺に自分の体を使っていた頃の記憶を見せてもらっていて。俺の視点でサーティがどのような体験をしていたのかを見ていたことは確かだったという結論に達した。そして、それとは別にサーティが俺と一緒に行動したいと言っていたのは俺がサーティの事を好きだと思っているからだという事が分かってしまい。なんとも言えない気分になってしまう俺であった。

そう言った理由で、俺は、俺の事が好きで一緒にいたいと想ってくれているらしいサーティと共に行動することを決めたのだが。サーティーンの身体にサーティーナが入っている状態になっている今の状況をどうにかする必要があると俺は思うのだ。なぜならサーティーナと、サーティと俺の関係がバレたら色々と大変なことになるからだ。そうならないためにも。どうにかしなければと思っていたら。

そこで、サーティとサーティーナが。俺にサーティンとサーティのことを話してくれた時の話を教えてくれた。それによると。サーティーンの体が使えるようになるまでのしばらくの間はミティとラスターに任せる事にしたそうだ。サーティンが表に出る時には記憶が封印されてサーティの記憶がなくなり。その状態で俺の前に現れることになる。サーティとしての記憶は封じられているのでサーティンの人格は失われてしまう事になるが。それでもミレティナの記憶を持っているサーティは、サーティとしての力を使うことができるようになり、サーティンの記憶が戻った後も俺達に協力して欲しいと言ってきてくれた。それに、サーテイの記憶を見たことで、サーティの記憶の中にあった神の領域とかいう能力を手に入れる事が出来るようになっている可能性があるということだったので、それを俺に試してもらえないだろうかと頼んできたのである。

俺はサーティのその頼みを聞くことにした。そうする事によって、サーティンの力を完全に手に入れる事が出来なくても。何かしら新しい力を得られる可能性はあるだろうと俺は考えたからである。しかしそれは。かなりの運の要素もあるから、必ずしも得られる保証はないと言うと。それでもいいから、俺にやってみて欲しいと言われたので俺はそれを受け入れた。それから、そうする為には、サーティンの身体から出なければいけなくなったが。その時はどうするつもりなのかをサーティンに尋ねると。サーティンがサーティの体に宿りなおせば。サーティンの精神を一時的にサーティーの中に移して。その後サーティンが自分の体にサーティの体に戻る。という方法になるはずだから安心してほしいと。サーティが説明をしてくれる。それから最後に、もしそうなっても大丈夫な様にしておきますから。とサーティが言ってくる。俺は、そのサーティの言葉を信じて、サーティンとサーティとで協力して。俺の体に、新たな力を発現させることにしたのである。

そしてサーティーの記憶の中にある知識と、精霊達が俺のために集めてくれた情報を元に。俺はサーティとサーティンと協力して、新しい力を身に着けることになったのである。それから数時間後、無事に。新たな力が、俺の体の中に発現することが成功してからしばらく経った。俺が新しく得た力を確認する為。一度俺の体の中から出て貰い、今度はサーティンがサーティの体に入れ替わる形で俺の体に入ってもらい。再びサーティとサーティンが入れ替わった時。俺達は俺とサーティの記憶の融合を行った。その結果俺はサーティの記憶をある程度は認識することが出来るようになっていた。

俺がそうして。サーティとサーティの知識を取り込み。それによって得た力で何が出来るようになったのだろうかと思い、俺はまずは精霊魔法を使えるかどうかを確認してみると。どうやら使うことは出来なくなっているみたいだが、サーティンの使っていた能力は使えるようだとわかったので俺はサーティとサーティの持っている記憶を使って、色々な精霊と契約を結ぶことが出来た。さらに、俺は俺の体内に存在する精霊達の加護も手にいれることができたようで、俺の強化に拍車がかかるのが分かったのであった。

サーティーが言うにはまだ他にもあるみたいなのだが。これ以上の能力が手に入る事は多分ないと思うから、この能力だけで戦えるようになっておくように言われた。そう言ってサーティが言うには。この力はサーティーとサーティンの両方が使えて初めて真価を発揮するものだそうだ。つまり、どちらかが使えるだけでも十分に効果を発揮できる。そう言うものなんだそうだ。だから、俺も俺なりに頑張っておくべきだと思うのである。そう思って、俺は俺にできることをすることにしたのである。

そうしている内にサーティとサーティンとの融合の時間が終わったようだった。俺が融合したサーティンの事を意識的に見ると。どうやらとっくに、体の持ち主が戻ってきていたようで。俺がサーティーの方を見てサーティと話をしたそうにしているので。サーティの方を向いて話しかけると、俺の頭の中に声が聞こえてきた。

そうして、これからサーティンが、今までのように俺のサポートをするからこれからもよろしくねと言われてしまい。サーティンは精霊の長という事で、今までの俺が精霊の民の里に行くまではサーティンと一緒にいたサーティーナはサーティと俺と一緒に行動をすることになるのだという事も伝えられた。そして俺に自分の体を使っている時にも。俺は俺で俺にサーティの体を預けることが出来るから安心して欲しいというサーティンからの伝言が伝えられて、それで俺はようやく。今までのサーティは。サーティンが憑依している間だけ現れて消えていくだけの幻のようだったのだということを理解して、俺は思わず苦笑してしまった。なぜなら。今まで一緒にいたはずの、サーティの姿で、俺に笑いかけてくれる少女の姿をしているのはサーティンだ。そう理解していたからである。サーティンの言っていることに偽りがないとすればの話だが。俺もそこまで楽観的な考え方をしているわけでもない。しかし、サーティがずっと俺を好きになってくれているということは本当だとは思うので。とりあえずは信じているといった方がいいのかもしれない。そんな感じのことを考えながらサーティの方を見ると。

俺はそこで自分がサーティンの方を見つめ過ぎていて。しかも見とれているかのように見えたらしく。ミティとラスターからサーティが少し困っているように見えたので、俺は、俺がミレーナの体を借りる前に考えていた通り。サーティとサーティンの体を元に戻した後はサーティとサーティンが二人共外に出て、サーティの身体の中にサーティンが入る。と言う形にするようにミレイナに伝えたのである。それを聞いてサーティは。俺と離れることに寂しさを感じているような表情をしていたものの。俺とサーティーが一緒にいるためにはそれが一番だというのは納得してくれていたので。ミレティナ達に事情を説明するのと。サーティとサーティンの二人が外に出るまでの間の二人の事を頼んだのであった。そうして、ミスティに俺とミティの事を頼んでおいて、俺とサーティは、サーティーの体に俺とミティナが入り込むことにした。そうする事で。サーティがミティとラスターの事を頼んでいたことをやりやすいようにするためである。

そうして俺はサーティーの体に入ると、俺は、ミティーの体に入っている時と同様に、精霊魔法が使えなくなっていたのだけれど。その事を確認した上で、ミレティナが言っていた精霊達と契約したことによって手に入れた力と。サーティンの力を使う事に成功したのだ。それを使って、まず最初に俺は、精霊使いの素質を覚醒させた後に精霊魔法の使い方を覚えていけばいいのかと考えたのだが。そこで俺がサーティから教えられたことなのだが。精霊の力を使えるようになる為には。精霊の民が使っているという精霊魔法を覚えた方が効率がいいという話だったので。精霊の力が扱えるようになった俺だったが。すぐに精霊達と契約を交わすことになったのである。それから俺は。

俺がサーティーンから得た知識の中にあった知識を利用して。サーティの身体に俺が入っていて。その間の俺の状態について色々と教えてもらった後、精霊の力を操って俺自身の身体を強化してからサーティの身体に入る事にしたのである。そして俺はサーティンと俺の力を使うことができるようになった。それだけでなくて。精霊魔法も使えるようになったので、サーティとサーティンが一緒に俺の中で行動することが出来るようになり、それから、俺とサーティーとで精霊魔法を使えるようになったことで、精霊との契約を行えるようになったのは嬉しい出来事だと思う。それから俺はミティの体を借りて。俺自身がミティの体に入り込んだ状態の時は、サーティンの力を使うことができる事を知った俺は、ミティの記憶の中に入っていた時の俺と同じように、サーティンと二人で話し合うことにした。

俺とサーティンが、話し合いの結果お互いに協力する事を決めた。その事がわかったのか。俺とサーティが入れ替わっても俺とミティの中に入れるようになるというサーティンの提案を俺達は受け入れたのであった。それから、俺達が話し合っていると、サーティとサーティンとが入れ替わったので俺は、改めて俺とサーティの体の中に入ったサーティンと話し合ってみることにする。そうして俺とサーティの身体の中から出たサーティンは俺とサーティの身体の中の様子を見てみたかったらしく。

サーティンは、自分の目で見て確認したかったらしい。なので俺とサーティは協力してサーティンの身体の中に入ることにして。そして俺は。サーティンと入れ替わるような形で、サーティとサーティンの身体の中に入り込むことにしたのであった。それからしばらくして、俺とサーティの身体の中から出て来ると。そこにはもうサーティはいなかったのである。サーティの事を見ていたサーティンによると。サーティーはどうやら、サーティとサーティンがお互いのことを話して決めた結果。サーティが俺とミティの身体の中に入り込むことになったみたいなのだが。その時にはすでに俺達の事を待っていたみたいだった。それから、俺とサーティンが入れ替わっていた間に起きていたことを話したのだが。その時、俺達が話し合った結果が、今度行われる事になる。

サーティーの体にサーティンが乗り移る事に決まったというと。サーティはとても喜んでいた。その言葉を聞いて俺は嬉しく思い。これからサーティと俺が一緒にいてもいいのだという安心感を得られたのであった。サーティには、俺と一緒に居たいという気持ちが、俺が想像していたよりも遥かに強くあるということを知ったからである。それから俺は、これから先サーティの事を大事にしたいと思ったし。絶対に幸せにするのだという想いを胸に抱きながら。俺はサーティーの頭を撫でる。

サーティも嬉しかったようで。サーティも自分の頭を差し出して来てくれた。そうすると俺が優しくサーティの頭を撫でることが出来たので俺は、これからはサーティが俺の事を大切にしてくれるのならばもっと色々な事が出来るかもしれないなと考えるようになっていったのであった。そしてその後しばらく話をしてから。俺とサーティーはそれぞれの体に戻る事になった。そうすることで俺達は、新しい力を手に入れることが出来て。俺はサーティーとサーティンが一緒に居る時なら。二人同時に体を預けることもできるようになったのだが。サーティンはサーティと一緒にいたいとい言う事で。

俺がサーティンと融合しても俺とサーティーが分離することはないということが確定したのであった。しかし、俺の体内からサーティンが離れるのはサーティンの体が元に戻ってからだそうだ。俺はそのことについて疑問を抱いたので質問してみた。そうするとサーティンの体はどうなっているかわからないから今は俺の体内から離れるのは危険なのだという。だからまずは俺の体内から出て、サーティの体内に再び入るということをしなければ危険だという。

サーティンの体には俺もサーテイが宿っているので、サーティとサーティはお互いに同じ空間にいても問題はない。しかしサーティの体内に入っている時に、俺にサーティンの力を使う事は出来るけど、逆に、サーティが俺にサーティンの能力を使うことはできないようになっているので、そのあたりは注意が必要だった。まぁサーティとサーティンは別々に存在していて。お互いがお互いの存在を認知することはできるみたいなので。それでいいと思う。

それから、俺がサーティンと融合して。俺とミティとラスターの三人に俺の身体の中に入ってもらいたい時に、俺の体の中から出てもらう時以外は、俺は、ミティーの体から出ることはなく。ミティーの中に俺が入っている間。サーティンはサーティの中にいてサーティンの体を動かしてミティとミレティナとラスターと一緒に行動するという形になっているので俺は安心したのであった。

そして俺は、これからどうなるのかはわからないが。まずはサーティとミティーが二人とも精霊と会話が出来るようになってくれればと思っている。そうして、これから先のことを考える前に。サーティンはサーティを抱きしめてからキスをしようとした。俺はその様子を黙って見ている事にしたのだった。しかしそこでサーティンは。俺の方を見てくる。

「ミティは、私がミティの唇を奪おうとするところを見ないのですか?」

「うん。だってそれはミティとサーティの問題でしょ? 私は口出しをするような立場にはないと思ってるよ」

サーティンは、俺の言葉を聞いて微笑んでくれた。俺はそんなサーティンに対してお礼を言ったのである。そうすると俺はミティーの身体の中にいるサーティに声をかけたのだ。

『俺とミティとミティとラスターはお前達二人の味方だ。何かあったら相談して欲しい。俺はミティーが幸せな生活を送って欲しいと願っているからな』

それを聞いたミティーが涙目になっていたのを見て、俺が慰めようとしたのだが。

「ごめんね。私、本当にうれしくて。ラスターさん。サーティンさんと二人きりになりたいんだけどいいかな? サーティンさんと私の二人だけで」

俺はミティーとサーティンが二人っきりになるのに文句があるわけでもなかったので快く了承することにした。それを確認したミティーとサーティンは、サーティンの部屋へと移動したのであった。そうして俺はラスターとミレティナの元に行く。そしてラスターの頭を軽く叩いてみると。ラスターはいきなり殴られたと思い悲鳴を上げそうになっていた。その事に気がついたラスターが謝ってきたのだ。俺はそれに対して気にしていないと言ったのである。それからミレティナの頭に手を置くと。

彼女は俺の方に顔を向けてきたので俺の顔をまじめに見つめてきている。なので俺とミレティナはしばらく見つめ合ってしまった。そこでミレティナの頬が赤くなっていく。その事に気付いた俺は。自分が今ミレティナの事を異性として意識しているという事を自覚して恥ずかしくなった。

(なんだろう? 凄いドキドキする)

俺とミレーナとミーナが入れ替わっている状態だと。なぜか俺は、サーティーのことを異様に可愛らしく思えてしまい。俺は彼女を見ると抱きしめたくてたまらなくなってしまう。それどころか。抱きしめてあげなければ死んでしまうのではないかというぐらい。俺の中では焦燥感のようなものが湧き出て来るようになっていた。そしてそのせいなのか。いつもの自分と今の自分の違いがとても大きく感じられてしまった。なので俺はサーティーを可愛い女の子のようにしか思えない自分の心に困惑していたのである。

(どうしてサーティのことを見たらこんな気分になってるんだろう?)

それからしばらくして、俺は、サーティンと話し合う事にして。二人で話すことにした。そうする事によって。俺は自分自身の心が変化している事について理解することが出来たのだった。それから、サーティーとミレティナが部屋を出て行くときに、俺のことを見てきてから部屋を出るまでが少し長いように思ったが。きっと、それだけ大事なことを二人で話しているのだと思い。俺は何も言わないことにした。

俺はサーティンにサーティーの体を返すとサーティンとサーティにミレティのことを頼んでおく。サーティンとサーティには、俺とサーティとサーティンはサーティの体の中で一緒にいることに決まり。

俺の体の中に入るのはサーティンとサーティの役目になった。しかし俺は。これから先に俺達の体がどうなっているのかは分からない。もしこの世界が終わりを迎えそうになった時の為に。その時が来るまでは今までと同じように俺達が分かれて別々の身体でいた方がいいのではと考えたのである。そのことに納得してくれたサーティンが、 俺がサーティの中にいる時はサーティンがミレティの中に入っている時よりも強い力を出す事が出来るようになると言っていた。そうすることによって。もしもの場合に備えておいたほうがいいいかもしれないと思った。そして俺はミレティナと一緒に寝る事にして。俺がミティの体から出てくるまでの間はミティーの身体に、サーティンとサーティンが俺の体内に戻るまではサーティの体にサーティンの魂が入り込むことに決まったのであった。

そうして話し合いが終わる頃にちょうど夜になり、夕食を食べて眠りについた。俺達が眠りについた頃は、サーティとサーティンも眠りにつき始めた。サーティンの体を俺の体に入れることによって、体力を使いすぎたのだと思う。サーティンとミティーがサーティンとサーティンがサーティの身体に戻ってくるまでは、サーティンはミティーの体を動けないようにしておきたいから。サーティンとミティはサーティの身体で眠っていることになるので。

俺とサーティはミティ達の事を考えてから。俺は目を閉じていく。それから俺はミティ達の事を考えているうちに、サーティに抱き枕にされてしまい、そのままサーティと一緒に朝を迎える事になる。その時にサーティにキスをされたのだが。その時、サーティンの声を聞くことが出来た。どうやら、もう俺の体から離れていられるみたいだった。

俺はミティの体から出てサーティンに会いに行った。サーティンは俺の体から出てこられたことが嬉しかったのか、涙を流しながら抱きついてくる。俺も、久しぶりに会う事が出来た親友に抱きつくと、サーティンは俺を優しく抱きしめてくれた。その温もりが心地よくて俺もサーティンの背中に腕を回す。

しばらく抱き合ったあとで。俺達はミティーの部屋に向かいミティとミティがミレティナとラスターを連れてくるのを待つ事にしたのである。それからすぐにサーティーが俺の身体から出てきて、俺達の元へとやってきたのであった。俺はそんなサーティンの頭を撫でてから抱きしめる。するとミティとミレティナとサーティが俺の事を見てきていたので、サーティとサーティにもキスをしたのであった。

そうしてサーティとの会話が終わった時に、俺達に話しかけてきた人がいたので。俺は、ミティにサーティと一緒にミティとミティがいる部屋に行くように指示を出した。それから俺とミレティナも一緒に、ミレティナの部屋に移動する。その途中でサーティとラスターとも合流したので、俺とミティとミレティナは四人でミティの部屋に移動した。

そうしてから、俺はミティにサーティンの事を説明する。そうすれば、俺とサーティンが離れ離れになることがなくなるからだ。その説明を聞いたミティは、俺の話にうなずいてくれる。それから俺と一緒にサーティとサーティンとも話し合うことになった。そのおかげで俺もミティも、お互いがサーティの身体の中にいて離れ離れになっている状態で、お互いに相手の身体の中に入っていた場合、相手の姿を認識できる事を知ったのである。だからサーティは、ミティとミレティナがお互いの中にいてもお互いを認識することが出来て、会話ができるということを説明したのだ。

サーティンがミティとミレティナとサーティの会話が出来るように、ミティとミレティナに念話を送る方法を教えたのである。これでサーティとサーティンとは、会話だけではなく意思の疎通が行えるようになって、サーティとサーティンの二人を仲間にすることが出来たのであった。そして俺とミティとミレティナはこれから先どうなるのかを考える事にしたのだった。

「ミティ。それにミレティナさんにラスターさん。三人共サーティちゃんはどう思いますか?」

「そうですね。サーティのことは信用できそうだと思っていますし。これから先何が起きるのかはわかりませんが、これからのことを考えると私とサーティーとサーティンの三人が力を合わせなければこれからの戦いを生き残っていくことは出来ないと思います」

ミティの言葉を聞いた俺は同意する意味でミティーの質問に答える。

「そうかもしれませんね。確かにサーティーとサーティンの力があればこの国を救う事は出来ると思います。でも、それではこの国は、いずれ滅びの道を歩む事になってしまうのではないか? と私は思っていまして」

俺とミティーとミレティナとラスターとサーティンは、ミティの意見に全員が賛成してうなずくと。サーティーの力が強大過ぎてこの国に危険をもたらす可能性が出てくると言う事に対して、サーティーとサーティンが、

「ミレティナさんの言っていることには一理あるけど。サーティーの力を制御できるようになれば、ミレティナさんが思っている危険性はかなり低くなると思うのよ」

「私もそれに関してはサーティに同意ですよ。私達が今一番考えなければいけないことは、自分達の身をどうやって守っていけるか。という事でしょう。私達の実力はまだまだ未熟だと言えるのは確かだと思われているのですから。その事にサーティンはどう思うのですか?」

俺もサーティンとサーティンの考えに同意することにしたのだ。

「私とミティとサーティとミレティナは、まだ若い上に戦い方を知っているとは言えない状態。そしてラスターはまだ自分の魔法を完全には扱えないでしょ。サーティーとサーティンも私と同じように。ラスターが持っている魔法を使うには。少し経験が必要になりそうなのよね。サーティとサーティンが言うように、これから先はどうなっていくのかわからないのだけど。今のままじゃ私達が危険な目にあいやすい状態が続くだけ。それなら今の状況を変えなければいけないでしょ? だからこそ。今ここでみんなと話し合っておかなければならないと。私は思うんだけど。ミティーはどう考えるのかな? サーティーはどう思ているの? ラスターは何か意見はあるかしら?」

ミレティナが真剣な表情をしながら、今の状態を変えるためには俺達が強くなるしかないと言っていた。それを聞いて、俺はサーティとサーティンとミレティナとサーティとサーティンと話し合うべきだと思っていたのだが。サーティとサーティンが先に話を始めた事で俺が話す必要は無くなった。

ミティの答えは、まず、サーティの力があまりにも強力すぎる事と、サーティの魔力と力を制御するために訓練する必要性があるという事から、俺達の強化とサーティンとサーティがもっと強くなって、それから今後のことを相談するという結論に至った。俺としては今の現状でサーティが力を使えば大変な事になるかもしれないが、それでもサーティとサーティに力を使ってもらう必要があると考えているが。そのことについてサーティーに聞こうとしてみたが。

その時には、すでにサーティとサーティンによって話し合いが終わっていた。

俺とミティが話し合いを終えた後に、ミティとミレティナとサーティがサーティンから俺とミティの肉体から出れるようになったことと。サーティはこれからどうするつもりなのかと聞かれて、俺がこれから先にどうするかを話す事になった。

俺は、サーティンが言った通りに、俺達の戦力を上げるための手段を考えたが、俺一人が強くても意味がない。むしろ俺が一人で突っ走ってしまえば俺がやられてしまうかもしれないから。サーティンとサーティにはサーティに協力してもらって二人でサーティの事をサポートしてほしいと思ったからこそ。俺は二人にそう伝える。

そうすれば、ミレティナも、サーティが力を使った時のことを考慮してサーティンとミレティナとサーティーの三人に、俺と一緒に戦ってほしいと言っていた。そうして話し合いが終わった頃にちょうどサーティーが戻ってきた。

そして、サーティーからの報告を受けてから。俺達はこれからの事を考えていく事にしたのである。

それからしばらくして。俺とサーティンは。他の人がいる前ではミティのことをサーティーと呼んでも問題ないようにした。その事をサーティとサーティンに伝えるとサーティンが納得してくれたようで。それから、サーティーはミレティナのことをサーティナと呼ぶことにしたようだ。

そして、サーティンは、ラスターのことをこれからラスターと呼び。ミティの事を、ミレティナではなくミティと呼ぶことにしたのである。そうするとサーティもミレティナのことをミレティナ姉さんと呼ぶことにしたらしい。俺とサーティンはお互いにお互いの事を呼ぶ時以外は普通に接するようにしようと決めたのであった。

それからサーティンからの提案もあって。俺が今まで通り、ミレーティやサーティやサーティンのことを呼んだ方がいいんじゃないかと考えたのだが。ミスティとミーティアやミティとサーティンは俺の呼び方を変えた方が良いのではないかと、俺の事を名前で呼ぶことに決めたようなので、俺はミレティナとサーティン以外の人を名前で呼び捨てで呼ぼうと決めて、それ以外の人は、基本的に全員苗字で呼んでいる。

それからミレティナ達と一緒にサーティーにこれから何をしたいのか聞くことになった。

「私もまだこの国のことが詳しくないですし。そもそも私達三姉妹は、ずっとこの国の中で育ってきたわけではありませんから。サーティと一緒にこの国について学ぶ事ができればと思っております。それに、この国がこれからどのような未来を歩むことになるのか、この国の王女である私が知らないでどうすると、そう思いまして。これから、ミレティナお母様とお会いできたことは、私にとって嬉しい出来事なのですが。そのせいでサーレ様にご迷惑をかける結果となってしまって。本当に申し訳なく思っています。だからせめて、私が出来る事だけはやっていこうと思っているんですよ。だから私はこれからはミレティナとミレティナとミレティナと一緒に、サーレに色々と教えてもらうつもりでいるの」

サーティーがそう言ったので俺は、サーティーはこれからサーティーとサーティンにミティーと一緒にミティと一緒に勉強して、これから先のためにこの国のために何かしていきたいと思っているみたいだから。俺もその考えに賛成することにしたのであった。その時にミティがミレティナとサーレの会話が、途中からは俺とミティが入れ替わった状態で話をしていたと、その時にミティとサーティーが言っていた事を思い出したので、サーティーにその時にミティとサーティーとサーティンは、ミティが俺の中にいて、その隣にサーティーが居たのかと聞いてみたのである。

俺の問いにサーティーがミティはミティの中に入っていると答えたのだ。

それでミティが俺の体の中に入っていたのに、どうして、サーティとミティとサーティンの三人が会話をすることが出来たのかという理由がわかった。俺達が会話している途中でサーティンが念話で話しかけてきていたのだ。それで俺はミティが俺の体にいない時は、サーティとミティは念話を使う事ができるのだとその時に初めて気がついたのであった。そうでなければ俺とミティとの会話の内容を知ることは出来ないのである。そう思った俺はサーティンにどうやって、ミティの体の中から俺の体を覗いていたのかを聞いてみると。ミティが自分の体の外を見ているのと同じように自分の体が見えない範囲を見つめるように意識を集中していたと、サーティンは答えるのだった。それで俺はなんとなだがミティがサーティーの言っていることを理解出来ていないように見えた理由はこれだったんだなと思った。

ミティは自分の中の状況を、自分で見ようと思って、ミティの中の状態を見ることが出来なかったのだろうと推測できる。そうしなければ、ミティとサーティは自分がどこに居るかを確認する事はできない。サーティはミティに指示して俺が眠っている間に起きた事を聞いたり、俺が今何を行っているかを確かめたり、後は俺が見ている景色とかを見ていたり。そういった事をしていたらしい。

サーティンとミティがミレティナとサーティンに話を聞いている最中。ミレティナとサーレとサーティンは、自分達がどう動けばいいのかを考えていたらしく。その結果。まずはサーティーはミレティナに、ラスターとミティがどんな人間になっているのか。それと自分達が今後どう行動していけばよいのかなどを教えてもらいたいと言っていた。そしてミレティナも、サーティの事をミティに頼んでミティと一緒に俺とサーレーとサーティと一緒にこの国の事を勉強する事に決まったのであった。

そして俺達はその後。サーティンがサーティーに俺達のことを簡単に説明した後、これから先のことをサーティから聞いた後。ミティの案内でミレティナの家に向かって行った。

サーティンの案内で村の中心部から少し離れたところに建っている。ミレティナとサーティンの住んでいる家にたどり着いたのだが。ミレティナの家にたどり着くまでの道のりと、それから到着した時の周りの様子から考えると、どうやらこの村は。サーティンとサーティが住んでいた街とは違った雰囲気を持っていたので、その事を不思議に思っていると、サーティンが言うにはサーティの力が漏れ出さないように結界が張ってあったのだと、俺が考えていた疑問に対してサーティンが言うのであった。そう言われてみれば確かにサーティンとサーティが住んでいる場所は、周りが森の中に囲まれて、家の周りには特に大きな木が立ち並んでいる場所に建てられており。この場所はどう見ても人の手が加えられておらず自然が生かされている場所でしかなかったので。

俺はここの人達の誰かがサーティンとサーティの力を隠そうとしてここに建てたのではないかと考えた。

「ああ、そうだね。僕が君たちと出会う前からここには人を寄せ付けないための特別な仕掛けが施されていたよ。それが誰の仕業でどういう仕組みなのかまでは僕は知らないけど。僕の師匠が、この国を作った初代の女王様に仕えていた人物に。そういう事が出来る人が居たという話をしてくれました。それもあって私は、この場所に移り住んだんです」

サーティンはそんな事を言って、それからサーティはサーティンにこれからはここで暮らす事と、これからは定期的に自分の力を抑える訓練を行っていく事を伝える。

そして、サーティから話を聞いたミティは。

これからはミティもこの家で生活を共にしていくことになるとサーティから教えられるとミティは喜んでサーティのことをこれからミティ姉さんと呼ぶことに決めるのであった。

そう言えば俺が今までサーティのことをミティと呼んでいたから。今まで通りに呼んでいたサーティンはミティのことミレティナと呼んでもいいとサーティに許可をもらったらしい。

それからサーティとサーティンとサーティーがミレティナの家で食事をするために。サーティの空間魔法を使って収納して持ってきた料理とお菓子を取り出すと、俺とサーティンは、ミティとサーティに食べさせてもらう事にするのである。

「うーん。なんだかすっごく美味しいよサーティ。やっぱりミティが作った料理はとても美味しいよねサーティン」

「えぇ。ミティさんの作ってくれる料理はどれも絶品ですよ。でもこうしてサーティン様とサーティー様と、そして、サーレと一緒に食事をする機会が来るだなんて夢にも思ってませんでした。それにサーティと一緒にサーレにご飯を食べさせるのは初めてなのですごくドキドキしています。それにしても、ミレティナお母様も、ラスターの事をラスターと呼び捨てにしてくれるようになって。それに、これからはサーティのことをミーティアちゃんって呼びなさいと言われてもまだ慣れないのだけど。まぁ、そのうち慣れてくるかな。そう言えば、ミレティナお母様にお願いしてサーティが着れるサイズの洋服を貸してもらえることになったのは良かったわ。それから私達のお古の服も用意してもらうことにしたからミティに貸す事が出来て嬉しい」

俺の口元についたクリームを拭いてくれたミティは、サーティンにそう言われると嬉しそうにそう答えていて。ミティはそう言うと、自分の作ったケーキを一口食べた後に俺の口の横についているクリームを指でとった。

俺とサーティンのやり取りを見ながらも俺達と一緒にテーブルについて、俺達と同じメニューの食事をとっているサーティとサーティンの二人の方を見ると、サーティーは、とても美味しそうに俺が出したチョコレート菓子を食べると。

「ミティ姉様、これ。凄くおいしいですね。それから私の分まで用意してもらった上に私達にこんなご馳走を作ってくれありがとうございます」

「いえ、いいんですよサーティー。だって私達はこれから家族になるのですから当然ですし。それにミレティナもミティもこれから毎日食べる事になるんだから、ミレティナお母様のおっしゃられる通り。ミティが私のために作る料理に慣れておくことは大事な事だからね。だからこれからミティは私と一緒に料理を作ることになってもらうの。そうやって、一緒に料理をする時間が私達にとっての大切な思い出の時間になれば嬉しいなって、ミティと一緒の時はそう考えているんだよ」

サーティーはミティが自分のために用意した食べ物を食べ終わると。ミティに向かって、感謝の気持ちを伝えてから。サーティーがミティにこれからの事を聞く。サーティンがミレティナの言葉を聞いて俺が思うよりもサーティが、ミレティナとサーティのことを大事にしている事がわかる言葉を聞いて、サーティンとサーティの関係がよくわかり俺は微笑ましいなと思いながらも。サーティーが、サーティーとサーティンとミティがこれから過ごす事になった、ミティとサーティとミティの体の中にいる子供達の世話をしながらミティと共に、ミティとミティとサーティーの三人で楽しく過ごして欲しいなと思うのだった。

ただその前に、俺の方は俺の方で、魔王が動き出している事をミティに伝えておかなければならないと俺は思ったのだ。その事で、俺はまだ、俺に宿っていてくれる三人の女神であるサーティ、サーティン、ミティの三人の女性に俺の話を聞いてもらえるよう頼んでみた。

サーティが三人の中に入ってもらって、俺が話した事に対する返事や質問があればサーティとサーティンとサーティーの誰かに念話で話して欲しいと言って俺はサーティンにミティへの説明を任せる事にしたのであった。

そして俺はミティをサーティとサーティンとミティとで四人で仲良く話をしている最中に。サーティに、魔王達が行動を起こすまで、どのぐらい時間がかかるかを聞いたのである。そうすると、俺が、サーティに聞くのを待っていましたというようにサーティはすぐにサーティンとミティとの話し合いを終わらせると、俺がサーティに聞きたかった事に関してサーティが答えるのであった。

「それは私が今、この体を借りている間に調べた情報によると、もう既に動き出していたようですよ。その証拠に、あの後すぐにサーティンさんに念話で確認しましたが、すでにあの街は襲われて壊滅したと報告が入ってきています」

「そうですか、分かりました。それなら私とミティとサーティでこれから直ぐにでも街に行きましょう。そこで、街に残っている人達を助けなければなりませんから。それでいいわねサーティ?」

「はい。問題ありません」

俺に念話を入れてきたという事は、その時の状況はミレティナにも伝わっていたという事で。彼女は俺に対して、この国の事を勉強する時間をもう少し後日にしてほしいと言い出してそれから、俺達と一緒にこの街に来てくれた人達を集めてから行動を開始してもいいのかを確認する。

サーティはそれに対して了承の意を伝えると。俺もミレティナの考えに賛成をして。それからすぐにサーティと一緒にサーティンとサーティーの住んでいた街の近くにある森に向かうことにするのであった。

「ねぇ、ラスターはどうしてミティのことをミティって呼ぶようになったの?それにサーティン様のことサーティンお兄様って言う呼び方は変わらないのにサーティのことはミティって呼んでいるよね。それにサーティの事を、ミティの事を、サーティちゃんって呼んだりもしていて。それからなんでサーティン様やサーティンと呼ばずにミレティナの事をお母さんって呼ぼうとしているのよ。私としては。ラスターにはもっとミティのことを、私のことと同じように、名前で呼んで欲しいと思っているんだけど、でもその前に、サーティンさんとサーティンの事を、お母様って呼ぶって決めてるみたいなのよ。私にはお母様なんて恥ずかしくて言えないわよ。そう言えば、サーティは。さっきはサーティが自分で。私に抱っこされなくても大丈夫だよと言っていたけど。本当にそうなの? ミティと二人で話し合っている時の様子を見ていたら。私に遠慮をしているだけなのかと思っていたんだけど。サーティン様にはどうすれば抱いて貰えるのか相談をしたとかも言っていたじゃない」

とサーティがサーティンと一緒に家に戻るとミティが俺とサーティンのことを気にかけながらそんなことをサーティに聞いて。それを受けたサーティンとサーティーも興味深々に俺のことを見つめてくる。

サーティンはそんなサーティを見て少し笑みを浮かべるとサーティに向かってミティのことを頼んだと伝える。それからサーティンはミティに俺のことを頼んだよと笑顔で言うとサーティに話しかけた。

そしてサーティも。

「ええ。私に任せてください」

と元気に言うとミティは嬉しそうにサーティのことを抱きしめていて。それからサーティンは俺の方を向いて。

「サーティン。貴方は私達と一緒に来てくださらないのでしょうか?」

と真剣な表情でそう言うと。

「僕とサーティーの師匠である。先代女王様に、僕はこの国を作った方に仕える事にしています。だから、今のこの国にいる限り。この国を滅ぼそうとする魔王の側につく事は出来ないんです」

とサーティンが申し訳なさそうに言う。サーティンがミレティナにそう言うとミレティナは残念ですが仕方がないわね。と言い。それから。サーティに何かを話し始めたのだが、サーティンとサーティーの二人から俺を守るのに必死になっているミティにはサーティがミティに話したことは伝わらず。ただミティが、サーティに抱きつき。

「やっぱりサーティとサーティンは。私のお友達です」

と言って喜んでいた。それから俺はミティにサーティの体を貸してもらう事になってから。サーティーの体を借りてからはミティのことをサーティと呼んでいた。そしてサーティンに対しては、まだ、ミレティナとミティのことをお姉ちゃんと呼んでいる事を話すと。サーティーの体を使っているミティも納得してくれたようなのだ。

ただ俺は、ミティとサーティとミティの三人でサーティンの体を治すのに協力してくれないかと頼んでから。ミティがミティの身体に入っている時に。俺に、ミレティナの体に、サーティンを憑依させて欲しいと言った時、ミレティナとサーティンは驚いていたが。サーティンはサーティを説得するためにも。自分の意志はミティに託すとサーティンに伝えてから。サーティンは渋々だが、サーティに自分の体の治療をさせるのだった。

そしてサーティンは。俺に対して、

「ラスターさん。貴方は僕の師匠である、リリス王女のご息女と、サーティンが惚れ込んだ女性とミティが認めた男性です。だからこそ。ミティやサーティだけでなく。貴方がサーティンと呼ぶように。彼女達三人のことをどうか、幸せにしてあげて欲しいとお願いいたします」

と言って俺に頭を下げて頼んできたので。俺もミティやサーティの三人が大好きだから。その言葉に俺は、力強くうなずき返したのであった。

ただ俺はミティが。ミティの身体の中に入ったまま、サーティンの傷を癒すことに集中してしまい俺のことが目に入っていないのが不安ではあった。

俺は、今。サーティーをミティの体の中に入れた状態で。俺達と一緒に、サーティンとミーティーが住んでいたという場所に向かおうとしていた。

その途中でサーティに俺は念話で話しかけ。サーティがサーティとサーティンに確認を取ってくれてから。サーティンからサーティンとサーティーはサーティの中に入ってもらい、俺と一緒にサーティンの生まれ育った町に行って欲しいと言われる。俺としては。ミレティナの身体の中からサーティンが出てくるのは予想外で驚きだったが。それでもサーティンとサーティが俺に力を貸してくれることになったのはとても嬉しいことだった。

そしてサーティンが、サーティに念話で、ミティと俺にサーティンの体を乗っ取られないように指示を出した後。俺は俺とミティとサーティの三人で一緒に歩いていくのであった。そうするとしばらくしてからサーティが。俺が念話でサーティ達に質問をしていた事に対する答えを言うのであった。

「私はママに憑いている時に感じたので確信しました。私の体と私の意識は完全にシンクロし始めています。それはもう。完全に、この体は、私の身体として機能できる状態になっていると思います。それとですね。私がサーティンに乗り移って、街の中で、この国の人を助けるために行動すると言うのを、私の中に宿っている人達に伝えたんですよ。そしたら、皆んなはサーティンに自分達がこの国の民であることを伝えるって言っていました。それからこの国の人達がどうなったのかを詳しく聞いたのです。そうすると街の人たちの大半は逃げられたけど。生き残った人は、街の広場に集まっているようです。そうするとサーティンにミティが念話をしていたみたいなんです。そうして私達はサーティンが言っていた場所に急いで向かっていました。でもその時に。ミレティナが、サーティのことを抱きしめていました。それはミティがサーティンとミティのお母様が心配だと泣き出してしまい。それにサーティンとサーティの二人が。お父様の所に戻ってもいいかミティに尋ねていたのを見て、お母様なら、お兄様とお姉様が戻って来るのを待ち望んでいるだろうから。私がお母様のことを伝えて。お兄様達のことも迎えに来てもらえるようにしてから行こうと提案するけど。お兄様とミティのお姉様は私に念話を送って来たサーティンとサーティの話を聞こうとしなくて、ミティがサーティを抱きしめたまま泣いてしまい。それにサーティン達が困惑しているみたいで。それでお兄様は、私のことを助けてくれたミレティナなら私の言葉を聞いてくれるはずだからって私達を助けてくれって言うんです。

それでサーティンとサーティーはミレティナの元に向かいました。それで私はお二人の言葉をサーティに伝えてから。ミティはサーティンとサーティーの二人を抱き寄せました。サーティンとサーティーはお二人とミティのことを。ミレティナのことを。ミティのことを大事に思うあまり、お兄様の言う通りにする事ができない。お兄様とお姉様もミティと同じような事を考えていると思う。私も同じ。だって家族って、大切な人なんだもの。お二人は。そう言ってくれて、私もそうだなって思っています。

そして私とミティとミレティナの三人でサーティンとサーティーのお母さんが生きている事を祈りながら走って移動していた。そうしているうちにお母様の所にたどり着いたの。

お母様は無事な様子で安心はできたけど。

それからサーティンが、ミティにお母様を抱かせてほしいと頼んでミティは、サーティンにお母様を抱かせる。サーティンはミティの腕の中で寝ている赤ちゃんを愛おしそうに見つめてから、

「お母さんは眠っているんだね」

とサーティンがミティに言うとミティは涙を流し始める。その光景を見ていたサーティとサーティンの二人でミティのことを見守りながらミティが落ち着いて話ができるようになるまで待つのだった。

「ミティ、ごめんね。辛い思いをさせてしまったね。でもね。この子の名前を考えたいから。少しだけ時間をくれないかな? 」

サーティンはミティの体を借りていたせいもあって、自分がどれだけ酷いことをしていたのかを思い知ったのかもしれない。

そして、俺に、ミレティナが妊娠して出産したことを話す。俺とサーティンの話が終わった後。サーティとサーティンの三人は、ミレティナにサーティンを憑依させてサーティンの体を回復させてから。俺にサーティとサーティンの体を使って。サーティンとサーティーが生きていた時に住んでいた町に案内してくれる。そうしてから俺はミレティナとサーレの体をミティに預かる。その後。俺はサーティン達と別れる。そして俺はミティとミティの体にサーティとサーティンを憑依させた状態のミティを連れて王都に向かって歩き出す。そして俺は、ミティに俺から離れている時は俺の体に絶対に入らないように注意をしてから。俺は、ミレティナが産み落とした子供達を迎えに行くことにした。ただその前に、俺は。この大陸に来た理由の二つのうちのもう一つの用事も果たす為に。俺達と一緒にこの世界に転生された仲間である、ラフィーネとアリアが向かった先に向かうことにする。

俺は、ラヴィーナに念話でラヴィーナに連絡を取ってみるが、応答はなかった。なので俺はラビーナのことを心配しつつ、ミレーナとリリアの身体の中に入っている。そしてミレティナの体をサーティンの肉体の中に戻そうとするのだが。

その時にミレティナに念話が届いたらしく。ミティとミレティナはお互いの体に自分の体を憑依させる方法を考え始めた。

俺はその間にミレーナ達を探しに行く準備を整える事にする。俺はミレティナに念話で。もし俺とミティがミレティナから離れる時がきたら俺の体に入って俺の身体で動くことができるようになる魔法をかけさせてもらうからと伝えると。

「ありがとうございます! 」

とミティに念話が届く。そのミティの身体の中にはミティとサーティンが一緒に入っている状態でサーティンとサーティーが。

《ママ。私はこの人の体に入って。ラミーちゃんの所に向かえばいいんですね》

「うん、ミティ、あなたならできるよ。それと、ラミーちゃんの所には。サーティはラミーちゃんと一緒にいたサーティが、ラミーに頼まれたからって言ってサーティとサーティンを預けてくれたんだよ」

と言ってラミーちゃんとは誰のことかとミティに伝えると。ミティはラミンの所にいるサースティとサーティンのことをミティが知っている事を知る。その時にミティとサーティにサーティンの体の回復と、ラミールの体の治療をするように伝えておく。

「わかりましたママ。じゃあ行ってくる」

と言ってミレティは俺の身体に入ってくる。

そして俺が、リゼリー達のところに行こうとした瞬間。ミティは俺の身体から出て行ってから。俺の目の前に現れる。それからミティはミティが持っていたバッグの中から、リザリーヌが作っていた服を何着か出して俺に差し出してくる。

俺にリゼットやサーティーからもらったドレスや普段使いできるような可愛い洋服を出してきて、俺に手渡してくれたのだ。

ミレティナはミティの行動に驚いていたが。すぐに俺にお礼を言い、俺のことを優しく抱き寄せる。俺はその行為で嬉しくなって。ミティに念話でお腹の調子がどうなっているのか聞いてみた。するとミチは俺の問いかけにすぐ反応したから、俺はおなかの具合を確認をしてみた。そうすると、どうやらお腹痛はもうないらしい。それならミチにもサーティンの体の中にある。サーティンとサーティーンの記憶を見せてあげたいと俺は思うのであった。だから俺は、まず最初に、リジー達のところに向かい、サーティにサーティンの中に入るように指示を出す。そうすると。俺はサーティンの身体を治すために。リリィの身体に入り。ミティはミレティナに憑依してもらう。それからミィに、ミイとメイを呼んできてもらって。三人の女の子達もサーティンの身体を治療するための協力をして欲しいと頼んだのだった。

その事でミティは、

「わかった。ママ。私、頑張って、サーティンとサーティーの二人に私達がどんな思いをしながら生まれてきたのか教える」

と言ってくれたのである。俺は、そんなミティを見ていてとても嬉しい気持ちになったのである。

俺が、サーティンの体の中の魔力を回復させてサーティンのことを回復させると。俺は、サーティとサーティンと、サーティのお母様がいる町に向かう。そこで俺は、お腹を壊さないように。ミレティナから借りているミレティナの体内に宿している。サーティーの卵をサーティンの体に戻して。サーティンとサーティンの体を休ませてあげるのと同時に。サーティンの体にサーティンのお母様を戻す。そうすれば、サーティンとサーティンのお母様も元気になってくれて。サーティンも喜ぶだろうと思ったからだ。そして、俺はサーティンの体内から。サーティンが大切に育ててくれたお花を取り。それをサーティとサーティンとサーティンのお母様に届けることにしたのだった。

俺はそれからリリィが俺のことを待っているであろう場所に急ぐのだった。そしてリリイにミチが、サーティーにリリアに、ミティとミィが、それぞれ協力して俺のために用意してもらった服と、その服を着るためのアクセサリーを渡してくれる。俺はミコにお願いをした。そして俺が用意した物を身につけてもらい、俺はみんなを連れてサーレが待つ。俺とサーレトがこの世界に戻ってきた際に、最初に訪れた。ミレーティ達が隠れている。町の近くの洞窟に向かうことにした。

そしてサーレーにサーティーを憑依させたミティは俺と一緒に移動しながら、ミティにミティ達と一緒に旅をしているサーティとサーティンに記憶を見せている事を告げたら。

《お姉様とサーティンの意識に、サーティのお母さんが映りました》 とサーティはミティに伝えた。サーティンはサーティの言葉を聞くなり、涙を流し始める。その涙が頬を流れていく光景を見ていると、俺も泣いてしまいそうになってしまう。俺の頭の中に映像が送られてくる。

《サーティ。あなたのお母様は無事だよ。私の娘のサーティーの赤ちゃんを産んだ後。疲れきったのか眠っちゃったんだ。でも、今から会いに行くよ」と言うとその場面を、そのサーティンの記憶を見ていたラフィーネとアリアとラミーは見守る事にしたようだ。ただ俺は、この事は今は言わないようにしようと思ってしまうくらいに、俺は泣きそうな気持ちになる。だってこの世界に来てから。リディアさんは本当に良くしてくれたから、それに、サーレが無事に出産できて、しかも元気な姿を見る事ができる事がわかっているから尚更だと思うから。そうしてしばらく進むとミティの体に入ったミティとサーティの二人は、

『ママ。あれがサーティのお母さん』

とサーティはミティに言うと。

ミレティナの身体の中にいるサーレーがミティに話しかけてきて。

「ねえミレティナ。僕が、ラヴィーナからもらった魔道王の情報を教えるから、その情報を基に。ミレティナがラミールに伝えて欲しい」

「え? それは良いけど。なんでラヴィーナが魔族なのに人間を殺せる薬の事を知っているの?」

「ミレティナは気づいていないかもしれないけど。この世界の魔族達は、他の世界で転生してきた存在だと言われているんだよ。つまり、元いた世界で、人間を虐殺する種族だったんだよ。そして、魔族は魔王の命令に逆らえないように、この世界を侵略しようとしたんだよ。だけどその作戦がうまく行かなくて。この世界の神様からその世界に存在していた。人間の勇者によって滅ぼされそうになったんだよ。ただ、その事を知ったこの世界を作った神々の一人。魔族の神でもある。アルディナが魔族達にこの世界に転生する時に、その記憶を全て消し去って。自分達の世界のことは、忘れるように言ったんだけど。一部覚えていて、それが今回の事件を引き起こしたんだと思う。

その記憶をラヴィーナが持っていてくれていたから、この世界でラヴィーナから教えてもらえば、ラミール達を救うことができるかも知れなかったんだ。ただ、今の段階ではラヴィーナの力だけでは、ラミール達の身体を完全には治せないって言っていた」

「そっか、ラヴィーナがラミールと、ラミールの仲間達の身体の治療方法を知っていたのはそういうことなんだね。確かに私達が知っている。エルフは自然を愛する一族だからね。ラミールも、きっとそうだったはずよ。ならラヴィーナは。その情報をラミーとミーシャちゃんに教えてあげれば。あの子達は大丈夫そうだから。ミレティナはラミーとミーシャちゃんのことを任せるから」

とミレティナがいうと、サーレはミレイティに伝えるために、自分の知識と経験を伝えてあげたのである。

「わかったミレイティ。私がラミールに伝えるから、ミティはサーティンに、リミはリザリーヌに、ミーヤはミィに。それぞれの場所に連れて行ってくれるかな? それでリレミーのところに行くのが。一番危険が少ないと思うから」

「ううん、違うよ。ママ。ミィはミイとミウと一緒に行くのが一番安全だと私は思うの。ママはミィ達を守ってくれるって言ってくれたよね。だから私はママと一緒にミミー達のところに行ってもいいと思っているの」

というミティに対して。俺は少し考える。なぜならミレーティに念話でミリーが。リリの体の中で眠っていると伝えようと思ったら。サーレは、

「ママ。ママがリリィと一緒に行動してくれるなら安心だから任せて。だからリリィにはサーティちゃんがついているから」

と言ってくれたのだ。なので、

「リジーちゃん、ごめん。俺、ミレティナに呼ばれているからさ。ミレティナと一緒にミリィのところに行こうと思っていたんだけど。ミティに言われたとおりにすることにしたから。俺は、俺とサーレーにミィにメイ。それからリジーの身体にいる。ラヴィーナと。それから、サーレも一緒に行かないか。その方が、サーレにも色々と説明ができるだろうし。それにミィの身体に何かあったときでも、俺とサーレーが対処することができるようになるしな」

と俺がミティに向かって言うと、ミティは、

「それならリジーの体に入っているリヴィの体の中に。リリィがいてくれないと困るかも。じゃあ。サーティンの身体の中に。サーティがいて。リヴァイアがいればリミとミイはリミ達の方に行けます」

ということになった。俺は、 《ラミール、ミイの身体にサーティを入れてあるから、その体を使ってリヴァイアにサーティーとミイ達についてもらう。だからサーレとサーティも、ラヴィーナに協力してやって欲しい》

「わかりましたサーレー。ミイの体の中のリリィに念話を送るのですね。そうしないと。私達が入れ替わったときにミライ達を守れなくなりますものね」

と言ってくれた。そこで、

「ミスティ。ミレティナのことを頼めるかな」

と言うと。

《私に任せて。ミチと一緒にミレティナさんを守ります》 と言ってくれたので俺はミレーティの方を向いたのである。そして俺がミレーティに話しかけようとすると。そこにサーレーの身体にサーティが入ったミティと。サーティがサーティのお母様を連れて戻ってきたのであった。そうしてサーティがサーティのお母様の体と精神体を分離させることに成功した。

それから俺は、ミコから借りた服を着ているサーレのお母様に、サーティンとサーティの二人のことを、この二人がどういう思いを持ってこの世界にやってきたのかを説明したのである。その話を聞いたミレティナとミミーは、ミレティナとリミとリリとリミの身体の中に入っていた。ミリーとサーレーとサーティーの五人で。サーレのお母さんに着いていくことにして、ミレティナとミミーにミチの三人は俺とミリィのところに向かうことにした。

ただ、ミィの体を乗っ取っているラフィーネに。俺がお願いした事をラフィーネが伝える前に。サーティがラミーとミィの身体の中にいるミゥを連れて俺の元にやってきてくれて。そしてサーレがサーティーを連れてきてくれたのである。

《お姉さま。サーティ達がこの体からいなくなることで、私の中に溜まっているサーティーの力の一部だけを残してあげる。お姉さまの体にその力を戻すね。これでサーティンとサーティがお姉さまと合体したときには。もう暴走は起きないと思うから安心して。でも、お姉様の力が足りないときは、私の方からも魔力をあげるようにするね》 とサーティが俺の頭の中に語りかけてきてくれる。サーティンとサーティは、俺の意識を入れ替えることで俺の意識の中に入り込み、そこでサーティの体の中から出た。サーティンとサーティはサーレの母であるミティが抱えているサーティのお袋さんのところに、それぞれ向かってくれるのだった。ちなみにラフィーネはサーミーを。サーティーはサーレをそれぞれ抱えている。

そして俺はミィが俺に近づいてくるなり抱きついてきた。どうしたんだろうと思えば、俺はそのことに驚いてしまった。ミティがミミを。ミミーがリミを抱えていて。二人を抱えているのだから、サーレが抱いているミーリアは。ラヴィーナに託されたことになるからだ。ただサーレの母親は、

「あらあら。あなた達。ミィーちゃんと、ミィちゃんがそんなことになっていたなんて。この世界に来る時に記憶を全て無くして。他の世界では、人間の味方をする神様の使い魔になるのね。それにしても、あの神様の加護を受けた勇者は、他の世界でも悪い事を繰り返しているのねぇ。ミイちゃんとミウちゃんがこの世界にやって来た理由は分かったけど。この世界に転生している。元いた世界で魔族の神の使い魔になったミミーちゃんはどうしてなの?」

「それは、ミミーが元々人間だったからです。その神様から人間を守る役目をもらって、神様がこの世界にミミーの魂を連れ去ったからなんです」

とサーティがいうと、サーティの身体を乗っているラフィーナも、ラミーとミイの身体を使っているリミもラヴィーナの方を見てからうなずいていたのである。するとラヴィーナが、

「私がこの世界の管理者になって初めて出会ったのが、その神様の使徒達よ。だから私が使徒達の事を助けていたの。そして使徒の一人。つまりミィは。その勇者によって滅ぼされそうになった世界を救う為に、自分の記憶を犠牲にしてこの世界に転生してくれたの。その時に、私が助けた。ラミーが、この世界に来てくれた。私はその時に思ったの。ラミーの運命を捻じ曲げた。勇者をどうにかしなければならないと」

と言うとサーティーがサーミーを見上げて言う。

「ママ、ミミーは、自分が犠牲になればよかったって思ってるの? だってこの世界で、パパに助けられて幸せになれたんだよね。なのにどうして、自分は勇者に復讐しなかったんだよ。ラミール達が、元の世界で魔王になっていたら、もっと酷いことになってるよ。ラミール達が元の世界に戻っても大丈夫だと思うの」

とラヴィーナに聞くと、ラヴィーナは、サーミーにラミール達のところまで案内するように言ったのだった。

俺達は今。ラヴィーナに連れられて移動をしている。ミレティナが俺に近寄ってくると、

「マスターは。やっぱり強いのですね。あの、神と同じような事ができるのですね」

「えっとさ。それなんだが。実はその力の事は秘密なんだ。だから俺の口からは言えない。でも俺はラヴィーナが、サーティの体に入っている間にサーティの記憶を共有していただろ。それで、サーティンとサーティのことも知っているから。だからラビーの体に入ったときに。サーティン達の記憶を見たからわかるんだけど。その力は。本当は使っちゃダメなんだ」

と話すとラヴィーナが真剣な顔で言う。

「でも私は知りたいのです。なぜこの世界に。ラミールさんたちがこの世界に連れてこられた理由が分かるかもしれないのだから」

「わかった。だけど絶対に約束してくれ。俺の能力は、人前で使わないと。あとで、ミィとミウの身体の中にサーティを入れる。そしたら俺達で話し合いをするんだ」

と俺がラヴィーナに伝えるとラヴィーナもラフィーナもリミもリリィもミゥもリレミーも、それからミレティナもリミの体にいるリミとリリもサーティーもサーレも納得してくれる。

「それともう一つ教えてくれ。ラヴィーナはこの世界の管理者になってからどのくらい経つ。それからこの世界の人間は、俺達の世界と、ここ以外にいくつの世界があると思っている。俺は、ラヴィーナをこの世界に呼んですぐに。ラミールが殺されたことを知っていた。それからラミールが俺とサーティがこの世界を去ってしばらくしてから、この世界にきたのも分かっていた。でもそれから一年経って。ラヴィーナが俺の前に現れてから。俺は気が付いたことがある。ラヴィーナが俺に会いに来た時は、ラミーがラヴィーナと一緒に行動していたから。俺には分からなかったんだけど。でも今はミミーがラミーと行動を共にしているからラミーにはわからなかっただろう。でも俺は気が付いた事があるんだ」そう言うとラヴィーナが立ち止まってしまうので、俺もラヴィーナの側に行く。すると彼女は少しだけ俯く。その事に不安を覚えたが。俺はラヴィーナに聞いた。

「ラヴィーナ、何か思い当たることはあるか。もしかしたら、俺達が元居た世界で。この世界の誰かが関与していて、この世界に来ていない可能性がある。例えば俺の知り合いとか。サーティが言うには、俺達がいた世界からこの世界に移動するのはかなり危険を伴うらしい。ラヴィーナの話では。俺達がいた世界にも神様が存在するということだ。だとすれば。この世界にきて。その神様の力で何かしたんじゃないかと考えている。俺はその神様を知らない。そしてその神様なら、他の世界に移動させることが簡単に出来るとも思えるからな」

と俺がいうと。俺が言いたかったことが分かったのか。顔を真っ青にしている。そしてミミーの身体を乗っ取っているサーレーと。サーティが入っているサーティンの頭を撫でている。それからサーレがラミーの顔を見てうなずくと、ラミーは、ラヴィーナに向かってこう告げたのだ。

《ごめんなさい。ラミーは、この事を黙っていました。確かに私とサーティがこの世界にくる時に、この世界の管理神様の力をお借りしました。ラミールが、その管理者様に力を貸して貰えたお陰で、私やサーティーは助かったんです》

「やはりそうなのね。ラミーが私と初めてあった時から、ラミーは自分の力で生きようと必死だったわ。私は、ラミーが生きていた事が嬉しかったのに。まさかこんな事情を抱えていたなんて。私は、ラミーの事を助けてあげられなかったのね。それに、ミィとミゥちゃんも、私の事を信じて待っていてくれたのに。それなのに、私は何もできなくて。私に力がないと知っていながら、それでもこの世界の為に頑張ってくれるミィに何も言えなかった。本当に、私の事を許さないと思うけど。私を許してください」

というと、ミイの体を使っているミゥが慌てて言う。

《何を言っているのですかお母さま!!》 《そうだぜ。ラヴィーナ姉さまは。ミィ姉さまが元居た世界にいってしまった。そしてそこで辛い目にあってしまった。そんなラヴィーナ姉さまを助ける為、俺とミティはラミールとミーアの体を借りることにしたのだから。だからミイが俺達に力をくれると言った時。俺とサーティはラヴィーナ姉さまを助けたいと思った。ラヴィーナ姉さまの力になりたくてこの世界に転生する事を決めた。でも、ラヴィーナ姉さまは何も悪くはないんだ》 と二人が話すと。ミィとサーティーの体を使っていたラミーとミィとミウの身体を使っているミウーが二人に寄り添うように立っていたのである。そのことに俺は驚くのだが。

《ママに一つだけお願いがあるんだ。それは、ミミーを、この世界に呼んだ時に、私が一緒にミミーに力を分け与えたから。ラミールが死ぬことになったのを、私が責任を感じたんだ。それに、ミーアちゃんとラミールちゃんが殺されてしまうって分かったから、助けようとした。その結果、ミミーを死なせてしまったけど。ミーヤちゃんを守れたから良かったと思ってるよ。だけどミミーを。この世界に転生させなければミーミは。この世界でもミーアを救ってくれていたから、その事も謝るよ》 とラミーとミミーはお互いに抱きしめ合い。涙をこぼしながらラミーは言った。

「いいの。あなた達が、私の娘であることに変わりないのだから」

そしてミィーとミウがラミーとミィーを抱き締めているのを見て、俺達は移動を始める。だが俺は移動を始めようとして、足を止めていたのである。そのことに気づいたラヴィーナが話しかけてくる。

「あらどうしたの? 移動しなくても大丈夫?」

「えっと、ラヴィーナの管理者の権限っていうのは、どのくらいまで扱えるのかな?」俺はラヴィーナにそう聞いてみたのである。その言葉に俺は、管理者権限を持つ者が俺とサーティーとリリィ以外いるのではないかと考えたからだ。

「私が持っている管理者としての能力は二つあるの。その一つが管理者のスキルが使える事よ。そのスキルが使えればこの世界をある程度自由自在にできるわ。でもこの世界が平和で安定した世界であればそれほど大きな力は使えないはずなの。あとは転移能力と時間を操る能力がつかえるの。これは私が望んだわけではないのよ。でもそのおかげで、ラミールが元居た世界で死んだとしても、元の世界の時間を早めたり遅くしたりして。元の世界に戻った後に、元の時間でラミールを蘇らせることが出来るのよ」

「それじゃぁ、ラヴィーナが管理している。管理者の力が俺に宿っていると考えてもいいのだろうか? ラヴィーナと俺の魂は繋がっているんだよな」

「その可能性は十分に考えられると思う。ラミールが持っていた管理者の力があなたの中に眠っているかもしれないもの。でもどうしてそんな質問をするの? もしかして私達の知らないところで、その力を使って、ラミールを殺した犯人を探そうとしたのかしら? だとしたら駄目なんだよラミール。あなたが死んだらこの世界に来れる人は限られるのだから」

と、その瞬間。ラヴィーナの体の周りに魔法陣が現れる。そのことに俺とラヴィーナは驚きながら警戒をする。

《ふむ、なかなか面白いことになっているではないか。私はお前達のことが大好きな存在だ。お前達の味方だよ》

「えっとさ、君の名前を教えて欲しいんだけど。それから俺と話をする気があるのなら姿を見せて欲しいんだけどな」

《そう急かすなって》と言うと俺達の前に光が集まり人の形を形成していく。そしてその人の形をした光が輝きを放つと、そこには、銀髪の髪を腰まであるストレートに流している、見た目20代前半に見える女性が姿を現したのであった。その姿を見て俺は言う。

「もしかしてだけど。君の本体じゃないよね」

その言葉を聞いた女性は笑顔を浮かべて、

「おぉー、よく分かったな。私の体ではない。しかし私の意識の分身でもあるのだから、私の体を、お前さんが乗っ取ろうが別に構わんぞ。むしろ望むところなんだが、この世界でお前さんがやることに興味があるからこうして現れたのに、なんもしないで去るのはつまらんからな。私は神なのだ。この世界の管理者ではないがな。そして、この世界に存在している。神々の管理を行っているものだ」

と言ってきた。その姿を見ると確かに、この世界を管理する女神とは思えなかったのだ。なぜなら彼女は。自分の事を神と名乗ったのだ。なのでその事をラヴィーナに伝えたが。

「私達管理者はこの世界に来れないはずだわ。ラミールはどうやってこの世界にこれたの」

と、不思議そうな顔をしながらラヴィーナが言うと。ラヴィーナの言葉に反応した彼女は言う。

「あぁ、この世界で、管理をしている者達が動けなくなっているだろう。それはなぜかと言えば、私はこいつらを縛るために力を制限させているからだ。私の本気を出したなら一瞬で全てを破壊することができるから。私は今、管理者権限を剥奪しているのと同じ状態にしている。私に逆らえばすぐにこの世界に来れなくすることができるから安心してくれていいから。しかし私が来た理由は他にあるんだ。実は私の世界から勇者が誕生したらしい。私はそれを知りたくてここにやってきた。そろそろ復活する時期でもあったんでな。私は勇者をこの目で見ておきたいんだ。私は全ての世界の勇者と、その仲間となる者達の戦いを見るのが好きだったんだが、今は見ることが出来なくなってしまっているのだ。それで見に来たというわけなんだよ。ラミールよ、それにラヴィーナとラミールと、そこに居る、お前の娘の身体を借りているサーティーとサーティンの肉体を借りていてこの世界に転生してきたミウにも伝えておくが、これから現れるのは、私や管理人達の敵ではなく、私の友人のようなものだと思って欲しい。だから私に対して敵意を出さないでもらいたいというのが。一番伝えたかった事なんだ。それからラミール、管理者である私は、その権限を失ってしまったので。この世界で何が起こっても干渉できないのである。この世界の住人を強制的に移動させることなど出来ないんだ。もしそれを行おうすれば私は力を完全に失い消滅することになるだろう。それにラミールに管理者の権限が戻ってくれば問題ないことも知っている。それに私がこの世界に訪れる時はラミールに私の体の一部を預けることになる。その時に私の力の一部は戻るので、心配する必要もないのだがな。では、私は、もう帰ることにしよう。まだ私にはやるべきことがあるのだからな」

と言うと。俺達に近づいてきて、頬を優しく撫でてくれた後。消えていったのだった。

「一体、あの人は、何を考えているの? ラヴィーナ様は知っていましたか?」

俺がラヴィーナに向かって聞くと、ラヴィーナが答える。

「分からないけど、私達の事を見守りたいというのは嘘ではなかった気がします。私達が、あの方の正体を知ったことを黙っていろって言うことでしょうね」

ラヴィーナの話を聞き俺も納得したのである。

「そう言えばラミール。ミミールが言ってた。私達は、神様から加護を受けられないと、思うんだ。ラミールはどう思ってる?」

「俺は、そう思っていたよ。サーティとサーレーはどうなのか聞いてみたが、サーティとサーレーはそんなことはないみたいに言っていた。俺はてっきり俺とリリィにだけ加護を与えるために二人ともこの世界に来たのかと思っていたが」

「そうよね。その可能性は高いかも。だってリリィちゃんがこの世界にきてしまったから、私がこの世界にこれたのだと思うのよ」

ラヴィーナの言葉に俺は驚いたが、リディアも驚いていたようで俺と一緒に、ラヴィーナのことを見ていると。ラミーとミィが近寄ってきて話しかけてくる。

《ねぇママ。ママが前に、話してくれたこと覚えてる? 私たちが、初めてこの世界にやってきた時に。私がママの魂を取り込んだんだよね。でもその時に、私の力の一部が流れ出した。それがこの世界に存在する。魔族と魔物達を進化させる力として流れ出たんだ。そしてママがこの世界に来てくれた時に、ママは一度死んだでしょ? それでママは私の力で復活してこの世界にやって来てる。ママとラミールとミーヤちゃんの三人がこの世界で暮らしやすいように。この世界に存在していた魔王は。私達がこの世界にやって来た時には既にいなくなっていたんだけど。ラミールは知らない? 》 そう言われたラミールは思い出したような表情をすると俺の顔を見ながら答えた。

「えっと、その、確か。この世界に召喚されてしばらくした後の事でした。ラヴィーナと二人でこの世界を回っている時です。その時にリリアナと、出会ったんです。その当時、私は。自分の体の異変に悩んでいる最中だったのですが、そんな時に現れたのが、リリアナとサーレーと名乗る双子の姉妹だったのです。そしてその双子に、私がこの世界の王になるはずだったと聞かされたのですよ。私は、最初は冗談だと思いましたが。二人の話を詳しく聞くと、私が居なくなった後もこの世界を存続させるため。私の後継者として育てられてきたのだと知り。その話に乗ったのです。その当時の事は正直なところ忘れていました。ラヴィーナの記憶が戻ったときに思いだすまでは」

それを聞いて俺も、リヴィに説明したことを思い出したのである。俺はそのことを話すとラミールも同じように記憶を取り戻していたことを話し始めたのであった。

そう、あれは。ラヴィーナの体を取り戻す旅を終えた後の出来事である。この世界にラヴィーナが再びやってくるまでの間、俺も一人でこの世界に残ることになり、俺はこの世界で生きて行くことになったのだ。その日は、リリアナに呼ばれていた。俺はいつものように、部屋に入って行くと、そこにはベッドの上で体を起こしながら、微笑みを浮かべている、リリアナの姿があった。その姿を見ると俺も自然と笑顔になったのだ。そんな俺を見て、

「ふふふっ。あなたが私の元に戻ってくるなんて嬉しいわ」

と言い。俺の手を取ってくるので。

「それはこっちのセリフだよ。君のおかげで。こんな幸せを手に入れることができたんだからな」

と、俺が返すとリリィは顔を真っ赤にして俺の胸に抱きついてきてくれて。俺の体にその身を預けてきて、俺の耳元で「あなたのことが大好きよ」とつぶやくとキスをしてきてくれる。そのあとに俺は。リディアのことを紹介しようと、リディーを呼び出し、この部屋に呼ぶことにするのであった。

「あーん、ラミールさんったら。なんで私の事を呼ばなかったのよ」

そう言って入ってきたのが、サーレーだった。そしてその後に入ってくるのが、妹のミウであった。そして俺は二人に紹介することにした。まず俺の妻のサーディアルの生まれ変わりであり、俺を好いてくれている女性であると。そしてリリアナのことを紹介すると二人は驚きの表情を隠せないようだったが。俺達の説明が終わると。二人とも嬉しそうな顔を浮かべると、二人から、俺達も結婚して欲しいと言われてしまうのだった。その事を受けて、

「それについては俺からお願いがあるんだけど。いいかな? この国を、君達に統治してもらうっていうことで、どうかな?」

と提案すると、リディアが少し考え込んでいたがすぐに、その言葉を受け入れたのである。それを聞いたミィーナは喜んで、俺に対して飛びついてくると、そのまま抱きしめられたのだった。そしてミーニャは、サーディが死んでしまった事を知って泣き出してしまい。ラミールも涙を流してミニャアのことを見ていた。そしてミゥはというと。リディアに抱っこされているミゥの事を羨ましそうな顔をしながら見つめていたのである。そして、ミリィはと言うと。俺がこの世界に来てから一緒に過ごしてきた仲間である、サァスとサーレがこの世界からいなくなってしまった事にショックを受けていたのだ。そして、その二人を作り出したのが自分であることに申し訳なさを感じて。悲しんで泣いているのである。そこで俺達は、サアーレスの事を気にしているミィの頭を撫でてから、リディアの胸の中で、声を上げて泣くミィを慰めるのだった。

その後、落ち着いたミウが、ミィに話しかけるが、

「ミィお姉ちゃんのことは嫌いじゃないけど。ミイには他に好きな人がいるから無理」

そう言い放つので、それなら仕方がないねと、諦めようとすると、ミウの事を好きになっていた、サァスが現れて。

「ミウ様。僕は貴方が望むならなんでもいたします。なので僕のことを好きだと言って下さい。そしてミウ様、僕が愛する相手というのはミウ様なのですよ」と伝えると。ミリィは、「そんな、ずるいわよ! 私のことも好きでいなさいよ」と怒るのだが、その光景を見ているサーディとサーレーは笑い出すのである。サーレーとサーディーは、ミウルに体を乗っ取られてしまい。その命はもうすでに尽きてしまっていた。そんな二人が笑っているのを、ミィも見て。自分も笑顔になって。その笑顔を見た俺とリディアは安心したのだが。リヴァイアサンは「その、ミウル殿を倒せる者が現れるまで待つしかあるまい。それがいつになるかはわからぬ。だが、その時が来てしまえば、我々も力を貸す事になるだろう」

と言うと、

「そう言えば、ラミーがさっき、俺達に用事があるって言ってたんで呼んできます」

俺はそう言って部屋を出るのであった。

俺とサーティが二人でミィの体に入っている、サーティンとサーレーに会いに行くと二人共、ミィの体を借りたままでいたので俺はびっくりしたのだが、「これからは俺達を、ラヴィーナの護衛として側に置いといて欲しいんだ」と言われたのである。そしてその日からというもの。ラミールの護衛兼世話係として常に俺と一緒に居るようになり。そして、この家では一番の実力者になったのだ。

しかしそれから数年経つと、サーティーにサーレーも成長し大人になり始めていたが、サーティンだけはまだ子供のままだったので俺は疑問を持ったが。それは、ある日突然分かったのだった。それは俺とリリアナの体が成長しない原因を調べる為にリリアナがリヴァイスを使ったときのことである。そういえばリディアと、リディアの娘達の体も成長しないのでおかしいとは思っていたが。俺はリリアナから話を聞いてみるとリリアナも同じことを考えていたらしく、どうしたら、俺とリディア達がこの世界でずっと暮らせるかと考えていたらしい。その答えの一つがこれだそうだ。

「ラミーさんとカドラスは。この世界と元の世界を行き来することが出来るようなのよ。ただラミーさんとカドラスが同時に移動することはできないようなんだけど。でももし二人をどうにかすれば私達をこの世界にとどめておくことができるかもしれない」

それを聞いて俺は、ラミールとラヴィーナを連れてサーティに頼んで、カドラスとラミーを俺の家に転移させてもらうことにした。

そしてリヴィーとミーヤに頼み込んでリヴィーに、俺とリリアナが住んでいる家をカドーラごと空間の中に収納してもらい。リリアナとリリアナに抱きついていたサーティは、俺の家に戻るのだった。

そうして俺が家に帰ってくると、ラミールはラヴィーナの体から出るなり、俺の方に飛んできてキスをしたのだ。そして、

「ラヴィーナとのキスがこんなに気持ち良いものだなんて思わなかったわ。あなたもそうでしょ? ねぇラビー」

そう言うので、俺は「確かにな。でもお前がいなかったら、リリアナともこういう関係になれていなかったから。俺がこうしていられるのは、全てラミールと、ラヴィーのおかげなんだよ」と言うと、リヴィーと、リヴィーが抱きついているリヴィーの体の中のリヴィーが俺の唇を奪うと。その瞬間、二人の魂が俺の体に入ってきたのだ。その事で俺は一瞬混乱するが、二人はリヴィーの肉体とリヴィーの精神を宿しているようだと気付く。そこでリヴィーがリヴィーと入れ替わった。

そして、サーディーとサーレーの体も変化し始める。

「なんかこの身体もそろそろ終わりっぽいね」

そう言い出したのは、サーティーンだったのだ。

そう言ったサーティーンの言葉に、俺は嫌なものを感じてしまったのだ。俺はリヴィーをその場に残し、ラヴィーにリヴァイアさんを呼んできてもらって、その話を詳しく聞くことにする。そうするとやはり。このままだとこの世界に存在する事ができなくなると聞かされたのだ。だからと言って俺の力で何とかできるものでもないと言われてしまうので、その日はこの場で解散することにした。そして次の日になると、サーティーンは姿を消していて、ミレーナは意識を失った状態で俺の元にやってくるのだった。

その後リヴアイと、サーディも同じように姿を消したので俺とサーディが、ミゥのところに転移させてあげようと思いリヴィアーナに連絡を入れると。「ラミール様の体に憑依しました」と報告してきたので。「リヴァイアサンがリヴィーさんとサーディーさんがこの世界の外に出ることを許可したよ」

と言うと。

「えーっと。ラミールさんとカドラーさんには申し訳ありませんが。私はお断りいたします。その前に一つ質問があるのですが。この体はもうダメですか?」

そう聞かれたので俺はそのことについて考えてみた。するとリリアナに、サーティン達と同じ事を言ってくれるのか聞いてみると。

「ラミールとカドラスに私の体を好きに使わせるわけにはいかないでしょ。それにラヴィーの事も守らないといけないでしょ」

と言われた。

「そうですね。分かりました。私は自分の意志に従いたいと思います。でももしも私の願いを聞き届けて下さるというのであれば。リリアナさんの体を頂きとうございます」

そう言われると、俺もリリィに俺のことを愛して欲しいと言われて了承してしまったので、俺はリリィに対して許可を出し。リディアはサーディンの事を、リリィに任せることにした。そうすると。リディがサーディを抱き上げるのだった。その光景を見た俺は、

「あ、あの、その。僕、その、リリィちゃんのことが好きだったんですけど。サーディンは、その、リリィちゃんのことが好きで、でもサーディンが好きな人はサーディなので、リディア様にリリィ様のことを託したいと思うんですよ」

といきなり告白されてしまったのである。そしてリディーの方を見ると。サーディーンがリディーに抱きついた後。

「実は僕もリリィちゃんのことが好きで、サーディンの事は、友達だと思っていたからサーディーンに幸せになって欲しいからサーディーにあげたんだけど。リリィちゃんに、リリアナの旦那になるって言っちゃった手前。やっぱり無理だよ。だからお願い。僕のことを受け入れてくれないかな?」と懇願してくるので。俺はそれを受け入れることにしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

魔眼の勇者は復讐を遂げる~異世界で復讐に生きる、たった一つの冴えたやり方~ あずま悠紀 @berute00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ