注文がめんどい飲食店
蛾次郎
第1話注文がめんどい飲食店
男は店に入るなり、テーブル席に腰掛けメニューをじっくりと見ていた。
「おーい、ちょっと」
店の奥で注文を待つウェイターを呼ぶと、ウェイターは、そそくさとやって来た。
「はい!お待たせいたしました!ご注文お決まりですか?」
「うん。えーとOGビーフステーキのセット1つ」
「えーとOGビーフのステーキセットがお1つで?」
「うん」
「えーとサイドメニューはいかがいたしますか?」
「ライスとサラダで」
「ライス&サラダで。ライスの方、ラージ、レギュラー、スモールとございますが?」
「レギュラーで」
「かしこまりました。ではOGビーフステーキセット、レギュラーライス&サラダの方、あちらの券売機で購入してください」
「早く言えよ!このやり取り何だったんだよ?」
「メニューの再確認という事で」
「只の無駄な時間だろ。そんで券売機どこにあんだよ?」
「あちらの奥のトイレの中にございます」 「中!?何でトイレなんだよ。使用中だったらどうすんだよ?」
「安心してください。内側からはカギが掛からないシステムになってますので」
「……最悪じゃねーか!誰かが使用中だったら地獄絵図だろ」
「今、誰も入っておりませんので」
「ったく」
男は券売機が設置されたトイレへと向かったが、すぐに戻り仏頂面でウェイターを呼んだ。
「おい!店員さんよ!」
「はい、いかがいたしましたか?」
「ジジイが入ってたぞ!」
「あ、それは失礼致しました!」
「失礼で済むかよ!しかもあの券売機、千円札が両替出来ねえじゃねえかよ!」
「あ、紙幣の両替はですね、店を出まして左にあるイサバ銀行の方でしてください」
「何で銀行行くんだよ!店で両替出来ねえのかよ?」
「それよりお客様、OGビーフのステーキセットお待たせ致しました!」
「どういう段取りなんだよ!まだ食券買ってねえぞ?」
「食券は後払いで結構でーす」
「でーすじゃねえよ!何だよ食券後払いって」
「レジでお会計すれば大丈夫ですので」
「じゃあ券売機要らねえじゃねえか」
「ささ!冷めないうちにどうぞ!!」
「うるせーよ!…まあ食うけどよお」
男はステーキを一口大に切り頬張った。
続け様にライスとサラダを食す。
「……美味いわ」
「ありがとうございます!」
「いつまで居んだよ。食ってるとこ見んなよ。あっちいけや」
「お味の方はいかがですか?」
「味は美味いよ」
「安心いたしました!それでは、ごゆっくりどうぞ」
ウェイターが持ち場に戻ろうとした所を男が呼び止める。
「おい、ちょっと!」
「はい、いかが致しましたか?」
「なんか胸詰まって来たから、お冷持って来てくれる?」
「あ、お冷出すの忘れてました。申し訳ありません」
「うん、早く持って来てよ」
「お冷はセルフサービスになってまして」
「いちいちめんどくせえな。どこだ?水置いてる場所は?」
「イサバ銀行の方にございます」
「何でお冷まで銀行なんだよ!もうこの店と銀行をワンフロアにしろよ!」
「そちらは単品なんですよ」
「うるせーよ!誰なんだこの店の施工考えたやつ。ったく!胸詰まってしょうがねえから、取りに行って来るわ!ボケが!」
男は胸を叩きながらお冷を取りに店を出た。 その時ウェイターも一緒に店を出て男を呼び止めた。
「あ、お客さんちょっと待ってください」
ウェイターは男の手首を掴み、店内に引き戻した。
男は険しい顔でウェイターに話しかける。
「何だよ?」
「代金のお支払いをせずに店を出たんで無銭飲食になります」
「頭おかしいんか!じゃあどうすりゃいいんだよ!もう我慢出来ねえ!店長呼べ!店長!」
「かしこまりました。そう来るならば、こちらは警察を呼びます」
「何、対抗してんだよ!」
「お客様、度が過ぎますよ」
「お前だよ!この店がヤバいんだよ!警察来たら100パーお前ら不利だぞ?」
「それは、どうでしょうか?」
「あ?」
「お客様、百もご承知でしょうが、このお店立ち食い蕎麦屋ですよ?」
「…あ?」
「あなたの舎弟達が常々みかじめ料を要求し、店に無いメニューを頼む。周りからは黒い噂が広まり、客足が遠のき今ではこの店、閑古鳥が鳴いております」
「…ほう、にいちゃん随分なご挨拶じゃねえか。そう来るならこっちも今まで以上の圧力をかけるしかねえな」
「いや、もう無理ですよ」
「あ?」
「あなたギャングチーム怒迷鬼の方ですよね?」
「それがどうした?」
店員は男の左手に彫られた「鬼」の字体をチラと見た。
「いつもの連中と墨の色が違う。あんたんとこの若い衆に聞いた事がある。幹部は、「鬼」が赤い字で書体が筆記体だと」
男の目付きが座り始めた。
「…ふん。ちょっとにいちゃん、ツラ貸せや」
男はウェイターの襟首を掴み、再び店の外に出そうと自動ドアの前に立った。
しかしドアは一向に開かない。
「ん?…開かねえな」
嫌な予感がした直後、凄いスピードで店の自動シャッターが閉まっていく。
「……おい。どういう事だ?」
男が動揺していると、奥の厨房から包丁を持った調理師達がゾロゾロと出て来た。
ウェイターは不敵な笑みを浮かべ指を鳴らすと、トイレに入っていた店長が出て来て、店員達に指示を出した。
「やっと諸悪の根源を閉じ込めた。さあ、それでは今からOG(おっかないギャング)ビーフの仕込みに入ろうか」
(おわり)
注文がめんどい飲食店 蛾次郎 @daisuke-m
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