告白

六葉九日

「これではテストを始めます」

 一人の女性は白い箱を持ち、私の反対側の椅子に腰をかける。四角い部屋、二脚の椅子と一台の机は、全て真っ白だ。ここにいる私と女性の肌色が余計に目立ってしまう。私はいつもの笑顔で彼女の話を待つ。彼女に至っては無表情で、笑顔で返すべきではないか? 全く失礼な人だ。

「まず説明します。この箱前後にちょうど手が通れる穴があります。私がよいと言えば貴方は手を中に入れて、触れたものを言葉で表現・・してください」

 机に置いた箱はちょうど女性の胴体を隠すが、顔はまだ見れるのだ。私が頷くと彼女の視線が下に落としてすぐまた私を見つめる。やはり無表情で失礼な人だ。こそこそと箱の中に音を立て、その音が止むと彼女は言う。

「手を入れてください」

 言われた通りにした。私は左手を箱に入れる。中が全く見えない仕様になっている。箱の中で少し探し回ってみると、指先のあるものの感触がする。平面で滑らかだ。

「紺色……ブルーベリー五つ」

「出してください」

 私の手が離れると彼女はまた箱の中でこそこそと何をする様子だ。

「もう一度手を入れてください。何がありますか?」

 机の感触と違い滑らかな表面に触ってみると私は答える。

「……ふむ。白色、うさぎ一羽」

「次、これは?」

「灰色、雲」

「次」

「緑色、樹木」

 指にある平面が語っている。私に映像を伝えてくれる。女性は無表情のままであるが、私には分かる。彼女の心が動揺しているのだ。それでも私は笑顔を止めない。


 生命の宿らない物体は生きていない。それは間違いである。時間が経っていればそのものにも変化がある。重なる・・・。私はそれに敏感な方で、目を瞑っても紙に描いてある絵や文章を触るだけで感じられる。実物を触るだけで短期間その“記憶”が見れる。

 ああ、なんて素晴らしい感覚だ。私以外には感じられないのはなんて惜しいことなのだろう。神よ救いを。だから。

 私は命を手のひらに乗せたその時に、一人の女が大勢の人を率いて私の家に侵入してきた。彼女は私を見ると私の足元に視線を落とした。そして動揺した気持ちを無表情の隠して彼女に続いて入室した同僚達に言う。

「もう手遅れです」

「あの、何か?」

 とくんとくんと弱くてもまだ生きているこの命を、一刻も早く私のコレクションにしまわなければならないのに、邪魔者が入ってしまった。足元に転がっている躯体・・、拾わなければならないのに。

「貴様、何も思わないのか」

「何も、とは?」

「たくさんの人を殺してッ……」

「やめなさい!」

 私には目の前の混沌カオスに目を見張る。手の中の命が弱っていく。止まる瞬間にこの命は永遠に私と共に生き続ける。これは私なりの救いだ。この人はすぐ死ぬのだ……、だから私は手を伸ばした。

 なのに、何故分かってくれない?

「貴方を見つけるのに苦労しました。逃げようなんて考えないことです。我々はもうこの家を包囲しました」

 侵入者に、笑顔で迎えるのはどうかと思う。私は女を睨んで、女は私を睨む。

「被害者の共通点が分かっても貴方の居場所を絞れません。上手いことに貴方は重い病気を罹った被害者たちを十三日ごとに一人ずつ離れた場所で殺害します。そしてその」

 女は私の後ろを指差す。棚に並んでいる私のコレクションだ。

戦利品しんぞうがなければ、貴方にたどり着くことはないでしょう。切り口が……美しすぎます。それに貴方は『救い』と思うきっかけ――それは、触る物体の、次の次元を見れるでしょう」

 そう、それが私の能力。鳥の絵を触ると鳥の映像が頭に流れる。ドアノブを握ると少し前までの記憶、このドアノブを握った人間の映像が浮かぶ。そして私はずっと大病院を通っていた。

「お見事」

 私は捕まった。しかし、救うことをやめてはいけない。この能力ギフトは、私がいなくなっても私のような、素晴らしい人に出会えるように。

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告白 六葉九日 @huuhubuki

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