第68話 今年の芥川賞受賞作「ハンチバック」を読んで

 市川沙央さん著、第169回芥川賞受賞作「ハンチバック」を読みました。


 というのも、カクヨムの藤光さんのエッセイで、市川沙央さんのことを紹介していらっしゃったのがとても興味深かったからです。


 20年ワナビとしてエンタメ小説に応募し続けていた市川さんが、純文学で文學界新人賞を受賞され作家デビュー。しかも同著が芥川賞受賞。


 これは気になる! と思ってさっそくKindle版をポチりました。昔はKindle版なんてなかったので、海外にいてもすぐに読めるというのはありがたいです。


「ハンチバック」は感想を言うのが難しいな、と感じて、エッセイで感想を書く予定はなかったのですが、カクヨムのこころさんが「感想書いてね♡」とコメントをくださったので(ありがとうございます〜)、忘備録のつもりで書いとこうかと思います。


 ネタバレオッケーな方は、藤光さんの感想エッセイがすばらしいのででおすすめです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330654109512222/episodes/16817330660952000343


 私が「ハンチバック」を読むきっかけになった、著者の市川沙央さんについてのエッセイもおもしろいですよ。

https://kakuyomu.jp/works/16817330654109512222/episodes/16817330658452458881


 おしまい。









 ごめんなさい。うそです。


 抽象的な感想になりますが、私は、芥川賞の使命みたいなものを考えました。


 芥川賞は直木賞と対になる賞で、直木賞はエンタメ、芥川賞は純文学に贈られる賞……くらいの認識はあったのですが、芥川賞って若手・新進作家さんに贈られる賞でもあったんですね。今回ネット検索して初めて知りました(恥)。


 対して直木賞は、プロとして経験を積んだ作家さんが受賞することが多いとありました。確かに、直木賞は超売れっ子作家さんが取ってるイメージがあります。


 私はエンタメ小説が好きなので、芥川賞派か直木賞派かと聞かれたら、即答で直木賞派です。芥川賞は「難しそう」「退屈そう」と思ってあまり興味がありませんでした。芥川賞受賞作を読んだのは、三十歳超えてからです。


 村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を読んで、なんておもしろいんだ! とびっくりした思い出があります。それから、カクトモさんにお勧めされて読んだ、宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」もむちゃくちゃおもしろかったです。


 芥川賞受賞作は文章が難解なイメージがあったんですけど、「コンビニ人間」「推し、燃ゆ」「ハンチバック」はどれも文章が読みやすく、気がつけば一気読みしている感じでした。


 なので、芥川賞だから、ひいては純文学だから、必ずしも読みにくいということはないのかなと思います。


 三つの作品に共通しているのは、読後に私の脳みそがボカンと小爆発を起こしたことです。 


 市川さんご自身が「ハンチバック」のことを「見えている世界がひっくり返るくらいの、めちゃくちゃ刺激的」な本だと表現されているのですが、本当に世界がひっくり返りました。


 自分の常識の根本が覆され、ノックアウトされて立ち上がれないボクサーのように、敗北感でしばらく動けない感じでした。


 芥川賞の選考委員の方々は、そういう作品を望んでいらっしゃるのかなと思います。常識をぶっ壊して、しばらく立ち上がれないくらいのパンチをお見舞いするような、新しくて挑戦的な作品を。該当作がないときもあるのも納得です。


「ハンチバック」は、主人公が筋疾患先天性ミオパチーという難病を抱えた重度の障害者なのですが、体が違うと世界というものはこんなにも違うのか、ということを強烈に意識させられました。作者の市川さん自身も同じ障害を抱えていらっしゃるので、ご自身の経験を作品に生かされているのだと思います。


「ハンチバック」の主人公が生きる世界は、私からすれば異世界のようで、自分に見えている世界と、他人が見ている世界が同じだと勘違いしていた自分が恥ずかしくなりました。


 自分たちが「ふつう」だと思っていることに疑問を投げかける。常識をひっくり返す。そうすることで、読後は世界が違って見える。芥川賞受賞作というのは、そういう力を持っている作品であり、そうする使命があるのかな、と思います。(←芥川賞受賞作を三冊しか読んでません。w)


 もちろん、エンタメ小説でもそのような作品はたくさんあると思うのですが、「読者を楽しませる」ことを第一にしないからこそ表現できるものもあると思います。


 エンタメ小説だったら、読み手に忖度して丸くしなければいけないような、作品の角やトゲが、純文学では個性として求められているのかな〜と。


「大衆にウケるか」ではない尺度で小説を評価する仕組みは、文学的・哲学的・歴史的な価値のある「新しい」作品を、継続して生み残していくための土壌として欠かせないのではないでしょうか。


 普段はエンタメしか読まない私が、「ハンチバック」を手に取ったのも、芥川賞のブランド力があってからこそですからね〜。私のようなミーハーな読者もけっこういるんじゃないかな、と思います。


蛇足:「本屋大賞受賞作のほうが、直木賞や芥川賞受賞作よりもおもしろい」という意見もあるようですね。


 ご存じの方も多いと思いますが、本屋大賞は書店員の投票で決まります。

 投票形式は、往々にして「流行っているもの」「わかりやすいもの」ばかり評価されてしまい、それ以外は埋れてしまうという弱点があると思います。


 本屋大賞の優れているところは、投票する人を「書店員」にしたところかなと思います。「おもしろい本って何だろう」ということを、一般人よりもずっと真剣に考えている人たちですからね。そりゃおもしろい本が選ばれるわな、と思います。


 みなさんは、賞って気にされます? 「別に気にしない」「私は〇〇賞派」「どの受賞作もチェックしてる」などなど、よかったら教えてください。

 

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