第69話 映画「バービー」を観に行ってきた

 世界中で大ブームを巻き起こしている映画「バービー」、日本では明日公開なようですね。


 興行収入が10億ドル(約1420億円)を超えたとか、ピンクの染料の在庫が尽きたとか、スケールの大きなニュースで賑わっていますが、主演の「マーゴット ロビー」「ライアン ゴズリング」などをGoogleで検索すると、検索ページがピンク色に変わります。Googleさん、芸が細かい! (コレ、日本でやってもなるんでしょうか)


 バービー人形の日本での立ち位置を良く知らないのですが、英語圏におけるバービー人形は、かなり複雑なアイテムです。


 1959年に発売開始されたバービー人形は、当時から爆発的に売れ、それから60年以上経った今も不動の人気を誇っています。バービー人形と遊んだことのない女性は一人もいない、と言っても過言ではありません。


 その一方で、「女児に与えてはならない」と思われがちな玩具ナンバーワンでもあります。


 バービー人形のあり得ないプロポーションが、歪んだボディ・イメージを与えてしまうという懸念や、「色白、金髪、碧眼、スリムな八頭身」という人種差別的な女性美のステレオタイプを植え付けてしまうという批判が代表的な理由です。


「まるでバービーみたい」という表現は、「現実にありえないくらい完璧な容姿をしている」という褒め言葉として使われたりする一方で、「見た目がかわいいだけで、中身のないお人形さん」だという皮肉だったりもします。


 実は、最近のバービー人形は実に多種多様で、黒人やラテンアメリカ系のバービーはもちろん、大坂なおみさんがモデルのバービー人形や、ダウン症のバービー人形もいるそうです。


 また、宇宙飛行士や映画監督など、バービーの職業も多岐にわたっていて、キャリア面でも大成功してたりします。バービー人形を作ったルース・ハンドラーさんご本人も、その当時は珍しい女性実業家で「中身のないお人形さん」とは程遠かったのです。


 にもかかわらず、バービー人形は資本主義と男社会のシンボルとして捉えられることも多く、多くの女性にとって、憧れの対象でありつつ、嫌悪・侮蔑の対象でもあるアイテムなのです。


 そんな「バービー」を、社会派インディーズ映画の製作に定評のある、女性のグレタ・ガーウィグ監督が撮ったということで、資本主義や男社会に対する風刺もあるコメディなのかな〜と予想してました。


 ここから先、ネタバレしてないつもりですが、ネタバレと感じる読者様もいらっしゃるかもしれません。前知識なしで映画を楽しみたい方は飛ばしてください。


 映画を実際に観て、「資本主義と男社会に対する風刺もあるコメディ」だという予想は、まあ当たったと思いましたが、むしろ、「男社会への痛烈な風刺」が私の予想以上に目いっぱい入った映画で、ちょっとびっくりしました。


 八歳の息子と夫も一緒だったのですが、コレ、男性が観てもおもしろいんかな、と映画を観てる間じゅう疑問でした。


 ライアン・ゴズリング演じるケンが最っ高に笑えて、おバカなダンスシーンも満載だったので、息子もそれなりに楽しめていたようですし、夫も、ジョークの切れ味とか、コメディのクオリティに満足だった模様。


 でも、映画館で一番声を上げて爆笑してたのは二十代以上の女性たちでした。女の生きづらさに触れるシーンでは、胸を打たれてウルッときたり、女性の共感度の高い映画だったと思います。


 一方、男性のステレオタイプがひどく、男性に対する皮肉が一方的かつ過剰な気がして、「なんだかな」とモヤモヤしたものが残りました。夫はそこはあんまり気にならなかったと言っていましたが。


 こういう映画は、保守的な男性からのバッシングがひどいのでは、と思っていたら、私のまわりで一番「バービー」をバッシングしてたのは、意外にも自他共に認めるフェミニストの女性で、バリキャリのナンシーさん(仮名)でした。


 ナンシーさん、弁護士事務所の社長さんで四人の子どもがいるシングルマザー。頭脳明晰で体力もあり、人柄もすばらしいので、学校の保護者から放課後のサッカーチームまで、みんな頼りにしています。


 仕事で人並み以上に成功しながら、四人の子どもたちを女手一つで育てつつ、学校行事のボランティアまでこなしている超人です。


 そんな超人ナンシーさんに「バービー、観たよ〜」と話したら、「私も観たよ」と言うので、「どう思った?」と感想を聞きました。すると、「最悪だった。あんまり酷くてショックだったわ。なんであんなに人気なのか、まるでわからない」と言うではありませんか。


 ナンシーさん的に、「バービー」はフェミニズム的に間違いまくってる映画だそうな。フェミニズムは「女性の権利ばかり主張する運動」と思われがちですが、本来はあらゆる性差別からの解放を目的としているので、どんな性別の人間も(もちろん男性も)平等に尊重されるべき、という理念があります。


 そこからいくと、男性を笑い者にしたり、女性が男性を敵対視することで笑いを取るのは、「フェミニストとして許せない」そうな。


「あの映画を観て、息子たち(ナンシーさんの四人の子どものうち、三人は男の子)が『男って女性からあんなふうに思われてるんだ』と勘違いして欲しくない。っていうか、映画の世界観が古過ぎる。もう二十一世紀なのに、あんな男達いるはずないでしょ」と非難轟々です。


 なるほど〜。いやー、なんかモヤモヤしたのはそれだったのか。私はナンシーさんみたいにちゃんとした知識がないので、「なんだかな」と思う部分はありつつ、涙が出るまで爆笑しました(笑)。


 個人的には、スタイリッシュで笑えるだけでなく、考えさせられる作品で、いろいろ間違ってるのを差し引いても、観る価値のある作品だと思いました。さて、日本ではどう評価されるのか。もし観に行かれたら感想をぜひお聞きしたいです。


 

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