第3話 日常
終業時間が待ち遠しい。
16時頃になると時計とにらめっこする時間が長くなる。
定時は18時だが、僕の働いている業界では残業は珍しく無い。
学生の頃は定時になれば即刻帰れるものだと思っていたが、そうも社会は単純じゃない。
平均残業時間が短い会社を選んだつもりだが、あくまで平均。
100と0の平均は50なのだ。
「1日最低8時間も働くなんて、絶対にどうかしてる」
こうして仕事終わりに友人と飲みに行き、愚痴をこぼす時間が僕の救いの一つだ。
消耗した精神が、少しずつ癒されていく。
「税金で暮らしたい…全国民に養われたい」
友人の慶太とは話が合う。
彼とは小学校からの付き合いで、彼にならどんな事も話せると思っている。
いつも通り益体のない話をしているが、仕事を忘れさせてくれるこんな時間が、僕の人生には必要だ。
仕事で人と話さない分、こうしてプライベートで寂しさの埋め合わせをしなければならない。
慶太には世話をかける。まあ世話をかけられることも多いからおあいこだ。
「ところでさ、今度合コンやるんだけど遥も来ない?たまにはいいだろ?」
慶太はコミュ力オバケで、顔も広くたくさんの人に慕われている。尊敬する。
「ごめん、今はいいかな…」
僕はいつもと同じような返しをする。
恋人が欲しくない訳ではないが、自分に自信がないせいか一歩前に出れない。
「なんだよまーた来ないのか。彼女欲しくねーのかよ。まあいいや、来たくなったら言えよ」
そんな返答に救われる。毎回断っているのに、根気よく誘ってくれる慶太には頭が上がらない。かといって次は行くとも言えないけど。
慶太と別れ、帰路につく。
一人暮らしは気楽でいいが、面倒事も多い。
働きながら家事をすることの難しさを実感している。母は偉大だった。
とはいえ、今日は外で食べてきた。後は軽く掃除をしてお風呂に入り、寝るだけだ。
金曜は尊い。こんなに体が軽くなる日は他にない。
今日は夜更かしが出来る日だ。羽を伸ばそう。
SNSを眺める。主にTwitterだ。インスタはついぞ見なくなった。
中学、高校、大学の友人の充実した日々の投稿に嫉妬したくない。
きっと彼らは彼らの苦悩を抱えている。それでも、羨ましく映るのだ。
その点、Twitterは心地いい。自分を飾らないでいいし、悩みを共有出来る。
自分と同じように悩んでいる人がいるんだなってわかるだけで、少し救われる。
「小さい男だな…」
自虐の独り言が漏れる。僕はどうしようもない人間だ。
30分ほど見てたかな、と時計を見ると、針は午前3時を指している。4時間は見ていたようだ。
「Twitterやめよ…」
ボケっと眺めるだけで就業時間の半分の時間を溶かした。この魔法が仕事中にも使えたら、僕は喜び勇んで働きに出る。
さて、もう寝よう。起きてから有意義な時間を過ごそう。なんたって土曜だ。24時間自分為に使える。なんでも出来るさ。
電気を消し、布団に入る。
今日こそは、Twitterを、やらない。この世で最も不安定な決意と共に目を閉じる。
女装男子は報われたい @ruka-0823
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