第2話 隔絶

「入社おめでとうございます。社会人は学生と違い……」

 思えば、約1年前のこの日から歯車が少しずつ狂っていったんだろう。

 社会人としての自覚なんてないまま、暦の月が変わり出社した。

 当然だ。実際に働いてはいないのだから。

 しかし、頑張ろうという気概はあった。

 大学で学んだこととは違う分野だけど、心機一転、一から学んで人の役に立ちたいと思っていた。

 向上心がまだ息をしていた頃だ。

 最初は同期とも仲が良かった。

 入社前から飲みにも行ったし、入社後はお昼も一緒に食べた。

 だけど、入社後1ヶ月目くらいから徐々に距離が生じていた。

 お昼は別々に食べ、飲みにも行かず、ラインも業務連絡のみ。


 僕だけだった。


 お昼をみんなと食べないのも、飲みに行かないのも、ラインをしないのも。

 最初は気付かなかったけど、聞こえてくる会話の節々からその事実は容易に察せられた。

 絶望した。僕は彼らに何かをした覚えはない。ひどい。

 せいぜい、緩やかに連絡が絶えていくこともあるかも、くらいに思っていた。

 しかし現実は違う。

 冷静に原因を考えてみると、幾つか思い当たる節がある。

 僕はコミュニケーション能力が高くないし、単純に馴染めていなかったのかもしれない。

 あと、同期は僕を含め5人。

 4人になった方が何をするにもキリが良い。

 

「キリの良さに負けるか…」

 1人絶望感を噛み締める。


 ハブられた人間が、仲間に入れてと自分から要求するのは難しい。更なる失敗体験を増やしたくないからだ。

 エレファントシンドロームって言うんだっけ?とにかく、挫折は癖になる。

 そういう訳で、仲間外れを自覚した日から僕は意識的に同期と距離を置いた。

 まあ、距離を置かれていた側なので、この言い方は強がりだ。

 結果的に、僕は会社でも浮いた。

 上司や先輩で気軽に世間話を出来る相手はいない。

 業務中に社外の友人に話しかける訳にもいかず、完全に孤立していた。

 それでも、成長したいという思いがあり、勉強を続けた。

 

 結果は良くなかった。

 人と切磋琢磨し、教え合うことで学べるものは存外多い。

 情報共有は効率を格段に上昇させる。

 僕の個としての限界はいとも容易く訪れ、上司や先輩には多大な迷惑をかけた。

「どうして1人で解決しようとするの…?」

 上司は優しく聞いてくれた。

 いっそ叱りつけてくれれば、僕もムキになって

「好き好んで孤独を選んだ訳ではない!」

と言えたかもしれない。

 しかし現実に出てきた言葉は

「すみません…」

という謝罪だけ。

 日本の雇用体制では、社員を簡単には辞めさせられない。

 僕みたいな落ちこぼれがいても、例えそれが経済的でなくても、である。

 いっそ辞めてしまった方が会社の為かもしれない。生活が掛かっていなければ間違いなく辞めている。

 そんなことを思いながら孤独を耐え忍び、見知らぬ環境に1年身を置いた。

 あっという間に精神は摩耗した。

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