女装男子は報われたい

@ruka-0823

第1話 新天地

 鏡に映る自分の姿に瞠目する。

 傷んだ短髪も、艶やかな黒髪となり、胸元まで届こうという長さになっている。

 目元に施されたメイクは寝不足のクマを完全に消し、ラメによってより立体感を増す。

 あれ、僕こんなに鼻高かったっけ…

 シャドウとハイライト?

 全然知らなかった。

 口元は普段と見違えるほど血色が良く、ぷっくらとハリを保っている。


「結城さん、どうでしょうか?」


 メイクさんが笑顔で尋ねる。


「あ…はい、その、自分じゃないみたいです」


 本心からそう思う。

 20代前半だと言うのに、周りと比較して一段とやつれて見えていた数時間前の自分とは見違える。

 元々童顔ということもあり、小動物のような愛らしさのある風貌に変化した。

 正直、可愛い。

 街で見かけたら間違いなく目で追ってしまうだろう。声は掛けられないけど。

「とっても、とっても可愛いです!向いてますよ、女装!」

 褒められて悪い気はしない。

 しかし、生涯で経験したことのない賛辞に気恥ずかしさを覚え、苦笑する。

 鏡の中では女性の姿をした自分が笑う。

 あ、笑い方は変わらない。表情が固く、ムスっとした笑い方。

 もっと口角を上げてみたらどうか。

 うん、多少はマシになったかな。

 これで行こう。でももっと訓練が必要かも。

もっと色々試してみよう。


 時間を忘れる。

 メイクさんが柔らかに目を細める。

 春の日差しが心地よい季節。

 僕は新しい自分との邂逅を果たした。






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