すれ違い。めぐり逢い。

すれ違い。めぐり逢い。

小説。　すれ違い、めぐり逢い。

作、木田りも

この街にも春がきた。街を歩くと多くの人とすれ違う。制服に袖を通したばかりの高校生。スーツに慣れていない新社会人。そんな人たちが歩き、すれ違っている街の中。僕も歩いている。今を生きている人たちが今、ここを歩いていて、不安や緊張の中、雪が溶けた街を踏みしめて歩いている。

陽も長くなり、明るい時間が増えている。僕たちの気分も高揚する。また1年が始まってゆく街が姿を現した。

思えば、長い冬だった。陽も短く、暗い中。雪が降る街を歩いていた日々。寒くてくじけそうになり、それでも助けてくれる人はいない。みんながみんな自分のことで手一杯なのだ。そんな人たちを助けたくて動いていた余裕のない自分を今はやっとバカ！って思うくらいには元気に、冷静になってきている。

風が強い。暖かい風が吹いている。案外向かい風だから、自転車を漕ぐスピードが落ちる。風はいつも味方なわけでもない。なんなら基本的には敵だろう。たまに協力してくれる気まぐれなやつだ。そんな奴は今まではただ嫌いだった。嫌いは嫌いという自分の正直な考えだろうから特に悪いこととは思わなかったけれど。ここ最近になって色々ときごついたことがある。案外、悪くない。拒絶よりかは、寛容の方が良い。閉鎖よりは開放すべきだ。そう思えてからは、僕は生き生きとしていると思う。

笑いたいから笑う人間になりたい。笑うべき時に笑える人間になりたいし、笑ってはいけない時に笑わない人間になりたい。笑いが必要な時に笑える…………やめた。

つらい時につらいって言いたい。つらいから人に甘えたいし、つらくない時に人を助けたいし、つらい時は休みたい。

良い時と悪い時がある。

きっともっと力を抜いて。考えなくていい。思ったより人生が長いのか短いのかもわからない途中だから、自分だけを見る。余裕があれば周りを見る。面白くなくても、笑えなくても、つらくてもいいのだろう。全て含めて自分なのだから。自分は自分でこの街を歩いているし、このまま生きてゆく。

今日はなんだか調子が良い。

お休みの日に、自転車を漕いで、街に繰り出した。お芝居を見て、ゲームセンターに行って、チロルチョコを600円で60個取った。なんてしあわせなんだろう。自転車を駐輪禁止のところに停めて、出かける。帰りは大丈夫かな？知らない！

街を歩く。中学生とお母さんかな？新社会人かな？頑張れ、と心で応援しながら街を歩く。知り合いがいたかもな。誰かに見られたかもな。どれもいい。どれでも良い。なんだか前よりも自分が好きだ。自分のことが好きだ。欠点も多いけど、そんな欠点も愛せるような気がしてきた。情けない不器用な自分がどこか愛せる。そんなこと考えてる自分はキモいけど、キモくていい。カッコ悪くて情けないからいい。かっこいいやつは絶対に出来ない方法で幸せを掴む。これまでもきっと自分じゃなきゃ知れなかったしあわせをいくつもみてきた。悲しくて泣いて、つらくて泣いて、もうどうしようもなくて泣いて、でも、しあわせだから泣けたこともあった。そんな涙たちが僕の血液になり、いまもこの身体を動かしている。

街を少し強気で歩けるようになったのはこの頃からだ。そして、また人生が少しだけいいもんだなって思い始めたのもこの頃だし、長い冬が終わって春が来たのもこの頃だ。なんでかわからないけど、楽しくて仕方ない。

この街にも春が来た。

春の匂いがして、振り返る。今日も多くの人とすれ違っていろんな場所で人々がめぐり逢っている。想いも、人も。

良い匂い。

というコメントと共に写真をインスタに載せて、今日も僕は歩を進める。春の街へと。

あとがき

小説をしばらく書けなかった。書こうと思っても体力がもたなかった。今考えると言い訳だったんだけど、気力がなかった。仕事だけは手を抜かないように必死で生きて、ほんとは仕事もしたくないくらい元気がなかった。これからずっとこんなんだったら嫌だなって思いながら暮らしていた。

その時から大きな環境の変化があったわけでもないし、ただ時間が経っただけかもしれない。しかし、時間が経つと、辛いことも嫌なこともそれなりに忘れてくれる。人間は都合の良い生き物だなぁとつくづく思った。

だけど、都合良く生きてみるのも悪くないなって思えてからなんだか前よりも元気が出た。今回はそんな自分の感情を全部出してみた。雪が溶けて自転車に乗れるようになった。なんか楽しい。やばい。いろんなことがあったけど、なんだかんだ元気でいるからまあとりあえずそれで良いんだと思う。

カッコ悪くて無駄に気を遣って空回りする人間だから全部ここに書いている。全部正直で、隠し事できなくて、変なやつっていうのはきっと一生付き合うことになるから。でもそんな自分、良くね？って思えた。すごい！

読んでくれた皆様。ありがとうございます。

また、歩き出します。