まったく、世話の焼けるヒトの子らだった。


 あいつらが、俺のいる樹……八重桜の樹から立ち去り、幾らか経ったあとに。俺は盛大にため息を吐いた。



「……やっとか」



 俺はもう一度寝るために、樹の上に飛び乗り……枝の上で横になった。咎める奴は特にいない。神としても大したことのない俺だが……誓約を担う程度の縁結びの力はある。


 あいつらを……とこしえに結ぶ程度には。



「まーったく、舞手と楽者が結ばれるのが定番になったからって」



 こうも……何世代も続くとは。


 しかも、今回は姫側が男の身分を気にする感じだった。鷹明たかあきらは……ずっと……ずーっと、俺んとこに来てはいかに、姫……呼び名は咲夜さくやだが。あの姫をいたく褒めちぎっていた。


 舞手としても……女としても。


 さっさとくっつけ! と思っても、元服と裳着を済ます年頃になっても……その兆しがなくて。ようやく今日となったが。



「まさか……咲夜がなあ?」



 奉納の舞手としては、これまでの舞手の中でも最高だが……基本的におとなしい性格だ。けど、何でもかんでも頷く性格でもない。だから、身分差を気にして鷹明の前から逃げ出したのだろう。結構、行動的だなと思った。


 それでも……想うことは、鷹明と変わりなかった。だから……俺は、神らしく背中を押してやったのだ。ついでとばかりに、縁結びは繋げてやったぞ?


 夫婦めおとの縁もだが……子宝の方もな?


 お互い唯一人……って、今の貴族達じゃ受け入れられない風習だが。神の前で誓ったんだ……それくらいは融通しないとなあ?



「……またひとり。舞手と楽者が減る、か」



 ヒトの子の寿命は儚い。


 神である俺と比べれば……瞬く間だ。


 だからこそ、愛しい。


 あいつらの行く先を……困難がないとは言わない。


 しかし、神であれ願わずはいられなかった。


 幸せを……あの者達に分け与えたいと。


 そう思えるくらいの愛しさは、俺の胸にあった。



「……久しぶりに、舞うか?」



 寝るのをやめて、地面に降り立つ。


 夜空は、望月もちづき。絶好の舞日和。


 奉納の舞は、俺が気晴らしに適当に舞って居たものを……ヒトの子が見物して真似たいと言ってきたのがきっかけだった。


 それが……今の世に続くまで、舞手と楽者に分かれてまで続くとは。


 手を、足を……運んで、向けて、空へ。


 流しっぱなしの金の髪が時々面倒だが……神の証だから仕様がない。


 あいつらへの手向けとなるように……しばらく、俺は舞い続けた。


 八重に重なる桜の樹。


 花はほころび、花弁が空へと舞う。


 その美しさは……何千年生きる神の俺ですら、いつまでも美しいと思うのだった。

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八重桜の巫女 櫛田こころ @kushida

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