参
まったく、世話の焼けるヒトの子らだった。
あいつらが、俺のいる樹……八重桜の樹から立ち去り、幾らか経ったあとに。俺は盛大にため息を吐いた。
「……やっとか」
俺はもう一度寝るために、樹の上に飛び乗り……枝の上で横になった。咎める奴は特にいない。神としても大したことのない俺だが……誓約を担う程度の縁結びの力はある。
あいつらを……とこしえに結ぶ程度には。
「まーったく、舞手と楽者が結ばれるのが定番になったからって」
こうも……何世代も続くとは。
しかも、今回は姫側が男の身分を気にする感じだった。
舞手としても……女としても。
さっさとくっつけ! と思っても、元服と裳着を済ます年頃になっても……その兆しがなくて。ようやく今日となったが。
「まさか……咲夜がなあ?」
奉納の舞手としては、これまでの舞手の中でも最高だが……基本的におとなしい性格だ。けど、何でもかんでも頷く性格でもない。だから、身分差を気にして鷹明の前から逃げ出したのだろう。結構、行動的だなと思った。
それでも……想うことは、鷹明と変わりなかった。だから……俺は、神らしく背中を押してやったのだ。ついでとばかりに、縁結びは繋げてやったぞ?
お互い唯一人……って、今の貴族達じゃ受け入れられない風習だが。神の前で誓ったんだ……それくらいは融通しないとなあ?
「……またひとり。舞手と楽者が減る、か」
ヒトの子の寿命は儚い。
神である俺と比べれば……瞬く間だ。
だからこそ、愛しい。
あいつらの行く先を……困難がないとは言わない。
しかし、神であれ願わずはいられなかった。
幸せを……あの者達に分け与えたいと。
そう思えるくらいの愛しさは、俺の胸にあった。
「……久しぶりに、舞うか?」
寝るのをやめて、地面に降り立つ。
夜空は、
奉納の舞は、俺が気晴らしに適当に舞って居たものを……ヒトの子が見物して真似たいと言ってきたのがきっかけだった。
それが……今の世に続くまで、舞手と楽者に分かれてまで続くとは。
手を、足を……運んで、向けて、空へ。
流しっぱなしの金の髪が時々面倒だが……神の証だから仕様がない。
あいつらへの手向けとなるように……しばらく、俺は舞い続けた。
八重に重なる桜の樹。
花はほころび、花弁が空へと舞う。
その美しさは……何千年生きる神の俺ですら、いつまでも美しいと思うのだった。
八重桜の巫女 櫛田こころ @kushida
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます