存在しない二人

@shienwatanabe

第1話 エピローグ

1台のパトカーがサイレンの音を響かせながら、一般車両を次々に追い抜いて行く。


やがて、貧民街にある一軒の家の前に止まると、中から二人の刑事が出てきた。

二人は野次馬の集団をかき分け、黄色いテープのはられた家の中に入っていく。




「お前、殺人現場は初めてだったな」


それまで無言だった中年の刑事が口を開く、その一言でその一言で思わず体が硬直する。


「はい…」


俺は、声にもならないような小さな声で、そうつぶやくのが精一杯だった。


 中に入ると、すでに鑑識作業が行われていた。

ほんの数時間前に、人が殺されたとは思えないほど片付いた、殺風景な部屋、その片隅で何かを隠すように置かれたブルーのシートだけが、隠しきれないほどの存在感を放っている。


実際に目にするのは初めてだったが、それが何なのか、直感的に悟り、より大きな緊張感に襲われる。

中年の刑事について行き、ブルーシートの前に立つ。

中年の刑事は両手を合わせ、しばらくたったあと

シートに手をかけた、自分も慌てて手を合わせ、

シートをめくる手に注目する。


小さな音を立てながら、中から、“それ"があらわになる。瞬間、強烈な吐き気に襲われ思わず手で口を塞ぐ。

判別できないほど、"グシャグシャ"に切り刻まれたそれは、顔の場所を認識するのにも数秒かかった。


「ひどいな…」


中年の刑事が、そうつぶやく。俺は自分の顔から血の気が引いていくのを感じながら、吐き気を抑えるのに必死で、ただの一言さえも、言葉を発することができなかった。

見かねた中年の刑事が声をかける


「仕方ねぇな、出てていいぞ。右の扉から…」


「すみません!」


若い刑事はそう言うと、中年の刑事が喋り終わるのも待たずに裏にある溝まで走り出していた――





 「あいつ、少し妙だな…」

若い刑事を木の陰から観察していた"男"がそうつぶやく

    *


 この男が感じた"違和感"の正体を知るものはまだいない――

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