G、S
ヤヤヤ
G、S
目の前に嗤っているやつがいる。そいつは土砂降りの雨の日に、一人ポツンと突っ立っていて、激しい雷雨を楽しんでいる。
そいつを見ながら、昔飼っていた犬のことを思い出した。父がその犬を海沿いの街に捨てた日も、こんな雨の日だった。
そいつは友達から適当にもらって、適当に育てて、適当に捨てた犬だった。犬の名前はジーナと言った。
ジーナは雑種で、とても小柄で汚らしい犬だった。ジーナはよく吠えた。そしていつも深い悲しみを全身に纏っていた。なぜ自分なんだ、そう言いたげな瞳を毎日こちらに投げかけていた。
本当はわかっていた。なぜジーナが吠え続けるのか。なぜいつも悲しそうなのか。なぜ、闇のように暗い瞳をこちらに向けるのか。しかし、僕は残酷なまでに無邪気で幼くて、無知だった。
ジーナは突然いなくなった。本当に突然いなくなったのだ。けれども、そんな日が来ることはある意味で確定的であり、家族の皆がわかっていたことだった。
父はなにも言わなかった。だが、彼が海の街を選び、ジーナをそこに連れて行ったことは明白だった。なぜなら、ジーナは海が好きだったから。
今、目の前に嗤っているやつがいる。激しい雨に打たれながらも、その顔に微かな笑みを浮かべている。
「よお」と、僕は言った。「海は嫌いだからさ、どこか違う場所にしてくれよな」
G、S ヤヤヤ @kojjji
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