第2話
私が生まれる以前、もしくは記憶にも残らない程遠い昔、私たち家族は父の実家で慎ましやかで穏やかな日々を送っていたと云います。ですが私が小学校へ入学すると同時に、青森の浪岡にあるアパート、小さな部屋にやってきたのでした。おそらくそのあたりでしょう。父と「まきさん」が関わったのは、、、。
父は臆病者で、他人からの頼みを断ることが出来ない性分の人間でした。そこにまきさんは漬け込んだのです。彼女は正常な脳では思いつきもしないようなさまざまな嘘で父を洗脳し、金をむしり取るようになったのです。その金は父からのみ出ていたのではありません。彼女は父を通し、母からも金をとっていたのです。一方的な搾取とは正にこのことで、母も次第に生きる気力を無くし、虚ろな目をしておりました。
ある日、ついに母は壊れてしまいました。いえ、これ以上耐えることなどできなかったのでしょう。
母は私を連れ車に乗り、山へと向かいました。スピードはとてつもなく、百を優に超えていたと思います。なんだか恐ろしくなった私は、「どうしたの?」と聞きましたが、母はしばらく黙り込んだまま、車を走らせるのみでした。車内の中には何かが窒息しそうな程充満していました。
「、、ママと、一緒に、、死んでくれる?」という静かで重い母の声が聞こえ、私は数秒、母が何を言っているのか分からず、呆気に取られてしまいました。ミラー越しの母の目を見た瞬間、その意味を、決意を、理解しました。「死にたくない怖い助けて」体の至るところから恐怖が噴き出て、その恐怖に体が押しつぶされるようでした。「ママ、死にたくない!っ生きたい!やめて!!」嗚咽が混じり、上手く叫ぶことができませんでしたが、私は必死で母を止め、私たちは明日に命を繋ぐことができました。
今思えば、母が私と共に死のうとしてくれたのは、母がいなくなったあの家で私がどのような惨い扱いを受けるか、想像に難くなかったからでしょう。
怪物 ねだりちゃん @nedarichan
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