第1話-2

誰かが俺にささやいてくる。以前にどこかで聞いたことがあるような懐かしく優しい声だった。「ようやく…物語…始まろうとして…、君はこの世界を…」

いったい何を言ってくるのだろうと思いながらまた俺は眠りについた。


私は海を見た。とても広くとても青くきれいだ。私は以前にこの光景を見たことがある。そして私は誰かの手を握っており、とても温かくそして冷たく感じる。あなたは誰…。そこで意識は途切れた。


最初に起きたのは男であった。とても温かく気持ちがいいと思っているとそれは誰かの膝であり、男は膝枕というものをされていたのだ。さらに見ると女の顔が瞳に映り首を振っている。つまり彼女も寝ているのだった。男は女の顔を見るとどこか優しい気持ちになったが、この気持ちが何かはまだ男は知らない。

暖かい気分になっていたがまだ冬だったなと考えながら女を見上げ続けると、女が意識を取り戻す。とても綺麗な瞳だなと男は感じた。


「うわあ」と声を上げながら女は膝を落として男を離す。男は少し痛がったがあの時の痛さに比べればましだった。

「起きてたんですか。それなら見ず知らずの私をほっといて帰ればいいのに。もしかして倒れたのも私の何か目当ての演技ですか。警察を呼びますよ」

女が早口で話すと男は頭がおかしくなった。この人何を言っているんだ、第一膝枕をしたのはそっちではないのかと思いながら

「いやあなたの顔がつい目に入ってしまって…その…見続けてしまって…すみません」男は弁解が下手であった。

「そんな…、こんな場所に倒れてて怪しいし、警察を呼びます。電話がないので大人しく付いてきて下さい」と女は赤面をしながら男の手を掴む。意外と強かった。そのようなはずではなかったのに自分は警察行きなのかと、抵抗も考えていたがこれは運命であり仕方がなかったのだと男は受け入れる。彼は今までの人生全てを運命に従っていたのであった。しかし、男はどこか大切なところが抜けていると気づく。


「とりあえず、あなたの名前と住所を教えてください。そして何でこの場所にいたのですが。」抵抗されるのかと思ったがすんなりとついてきてくれる。とりあえず何かあった時のために聞いておこうと女は質問した。すると、男は少し動揺して

「えっと、名前は八十島海人…それ以外は覚えていないです」

と、男もとい八十島海人は悲しい声で答えた。

「いや、住んでるところとか神社にいた理由は」と女は突っ込むと海人は自信がない声で

「記憶がごっそり抜けています」とまた回答する。さらに低い声だった。

彼は自分を守るために嘘をついたのかと女は疑ったが、彼の表情を見るに本当に記憶喪失らしい。女は演技かどうかの判断がすぐにできるので直感で本物だと悟った。

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アメノミコ~現代日本神話~ 草二仁 @kusaga2hitoga2

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