第1話-1
「もう目を背けたくない」
「影から逃れたい」
もう誰から見向きもされなくなった場所でそれは死にかけていた。
「何もかも無くなった。自分はこのまま死ぬのか」
手が何かに挟まれ動けない、呼吸ができない。命の火は消えかけていた。
生きる道を失ったそれはこのままこの世界からいなくなるだろう。
だけど誰かの声が聞こえる。君の声だ。君が俺のことを助けようとしている。
君の声で再び私は生きていく。
寒さが厳しい無人の神社の拝殿で男は死にかけていた。先日の傷と空腹が体を回っている。冷たさが肌に突き刺さる。
「このまま死ぬのか。最悪な人生だった」自分に諦めがついた。
すると優しい声が聞こえてきた。これは歌だ。女の優しい声が暖かさとなり、自分の体を回って来るのを感じる。
自分の体が軽くなり、傷が塞がっていくではないか。
この歌声は何だ。この歌声に僕はお礼がしたい。そう考えるといつの間にか体が動きだした。
暗闇から外に出るといつの間にか桜が舞って寒さがなくなっている。今は冬のはずだったが。それに合わせて誰かが歌い踊っている。すると昨日まで神社にいた悪いものたちが綺麗になっていく。よく見ると女が楽しそうに歌っている。彼女の顔を見ると僕の中の何かがささやき出した。
「この物語を始めよう。お前はただ歌い、演じればよい」すると頭に歌詞が浮かび流れるように声が出てくる。
この歌で彼、彼女たちの物語は動き出す。
今日、私は帰国してから初めての舞台に立つ。女優に寝不足は天敵なのに予定より早く起きてしまった。
どうすればこの興奮を抑えることができるのかと思っているとこの神社に辿りついた。なぜだか誰も人がいない、それならばとここを練習場所にしてダンスと歌をしていた。自分でも驚くぐらいの好調なので自分の世界に入る。すると自分の歌に合わせた声が聞こえ私は世界に出された。この声私より上手いではないか。
私が恐る恐る振り返るとぼろぼろの服を纏い、いかにもホームレスのような男が立っているのが目に映る。ここに人が住んでいたのか、廃神社だからかと思い動揺すると男は私の歌を最後まで歌い突然倒れた。
この場合はどうすれば良いのか。救急車を呼ぶべきか。手元のカバンから携帯を出そうとすると感触がない。カバンをもう一度見ても携帯がない。財布もないので公衆電話も使えない。盗まれたか。
無視をして逃げるべきか、だけど・・・さっきの歌は何だったのか。
男に恐る恐る近寄ると、男は汚れてはいたが思っていたより若い顔をしていた。男は安らかな寝息を立てて眠っている。時間はまだあるしこの人が起きるまで待とう。その時に事情を聴けばいいや。
私は男をよく見る。いや見てしまう。寝顔は整っており学校にいれば女子の人気を独り占めしそうな雰囲気が漂っている。スタイルを整えればアイドルになりそうだ。だけど私は彼の顔にそれ以外のものを感じ惹かれてしまう。
彼の顔を見ながら考えていると私の視界はぼやけ暗くなった。
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