花見

安宅

花見

 アア花見だ、花見だ。桜が咲いたと言うならば、花を愛でる他に道はないぞ。この街はアスファルトの野原にコンクリートの林しかないから大変いけない。桜の樹の、一本すらも在りはしないのだから大変いけないのだ。そこいらの人々は花を愛でる気持ちを忘れてしまっているのではないかね。花見は花が無くても出来るのですよ。オホホホホ。アア……花見だ、花見が出来るぞ。アア……。


 時に君は、月見をするのに何故、団子を必要とするか考えた事があるかね。それは雲が多く満月が綺麗に見えない夜に、月見の団子の丸さに満月を重ねて想う為に用意されているのだよ。折角の満月が見えない寂しさを、月見の団子に見出だして紛らわす為にかじり付いてみる。アア、ナント、想いを重ねてしまった団子すらも欠けてしまった。明日には空の満月も、この団子のように欠けてしまっているのだろう。ほら見たまえ。ナントモ堪らなくなってくるだろう。切なくなってくるだろう。詩の一つも吟じてみれば胸のつかえが取れるかもしれないな。ホラ、どうだ。月など見えなくても月を愛でる事は出来るし、真に楽しんでいるのは月を見る行為ではなく、愛でると言う行為の方なのだよ。


 ここまで言えばもう分かったかね。……そうだよ。花見も同じだ。桜が無くても花を愛でる事は出来ると思わんかね。ハハハハ、三色団子を食べていては花より団子の言葉の通りだと言うのかね。アハハハハ、これは可笑しな事を言う。花を見るだけで何も想わない花見よりも、花に想いを寄せて食べる団子の方がよっぽど花を愛でてはいないかね。アア、私も三色団子を買って来なければならないのだ。串の一等上にある団子の色に桜を見なければならないのだ。桜餅も用意すべきだ、そうしよう。アア……花見だ、花見が出来るぞ。アア……。

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花見 安宅 @ShiroAutumn

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