第32話 孤島
「生きて、いる」
俺は記憶をたどりながら、外の様子をうかがう。
破損したAnDがスワローに組み付いている。確か実莉の機体だ。
意識が戻ってきて、ハッと息を呑む。
ティアラの妹だ。
俺は周辺索敵を終えると、地図データを呼び覚ます。
周辺にはいくつか島があるが、俺たちのたどり着いた島は無人島らしい。
AnDのエンジンを吹かしてみるが、ダメらしい。
となると泳いで渡るか。でも海流が激しい海域らしく、そうもいかない。
それなら友軍が来るまで無人島でしばらく待つか。
AnDの非常ボタンを押すと、人命救助用のアンテナが伸びる。
コクピット内に、一週間分の食糧と水がある。
だが、いつまでもコクピットというのも無理がある。
コクピットを開き、周囲を見渡す。
緑の多い湿地といった様子の島だ。
見たことのない植物が生えており、コロニーとの違いを如実に表していた。
海水から逃げるように、砂浜へと歩き出す。
さらさらとしてすぐに
ざくざくと音を立てて歩き出すと、カチャッと金属音が鳴る。
俺が振り返ると実莉が拳銃を構えていた。
とっさに回避行動をとり、茂みの中へ逃げ込む。
銃声が鳴り響き、俺は茂みの中を突っ切る。
何度か、鳴り響く銃声に怯えることもなく、回り込む。
俺の食糧を見つめている実莉が見えた。
気がそっちに散っている間を狙い、太ももにあるナイフを取り出し、実莉に襲いかかる。
これでもナイフ実技はトップクラスだった。千人の相手をさせられた時はヒヤッとしたが、それでも最後まで勝ち残った実績がある。
「や、やめて!」
実莉が声を上げると、俺は今の状況を確認する。
拳銃を蹴りで飛ばし、馬乗りになり、ナイフを突き立てている。
だがこいつはあのティアラの妹だ。それに捕虜にすれば色々と吐いてくれるかもしれない。
その思考が一瞬の隙を生んだ。
「わたし、殺さないで」
涙声で訴えかけてくる実莉。
自然と手が止まった。
その代わりに、ヒモで足と手を縛った。
「内藤くん、君は本当にティアラに何も感じていないの?」
「感じてはいるさ。俺はあの中には戻れない」
歯ぎしりをする実莉。
「嘘よ! あんなに大事にされてきて、でも内藤くんは未だに政府軍の犬じゃない。どうして……」
泣きべそを掻きながら話し出す実莉。
俺だってティアラの死を受け入れているわけじゃない。あの頃に戻り、Xシステムを取り除けたら……と何度思ったことか。
それでも政府を裏切れないのは、それが正しいと思うからだ。
「どんな理由があろうとテロはよくない。それで解決できることなどない」
「あるよ! みんながちゃんと向き合い、そして話し合えば物事は解決する!」
そう信じている目をしている。ここまでかたくなに思うのはまぶしくすら感じる。
「わかり合える訳がない」
俺は首を振り、否定する。
「なんで! なんでそう決めつけるの! わたしたち、同じ人間なんだよ!」
「……俺にはティアラの気持ちが分からなかった」
そう。俺にはティアラがどうして欲しかったのかが分からない。
いつも俺を助けてくれて、いつもそばにいてくれた。
でも、だからこそ。彼女の気持ちが分からなかった。
だからわかり合えるなんて思えない。
わかり合える日がくるとは思えない。
「……本気で言っているの? お姉ちゃんは内藤くんを好きだった! 愛していた!」
「そう、かもしれない。でも、分からないんだ。どうして俺を? と」
言葉に詰まり、嗚咽を漏らす実莉。
「こんなのあんまりだよ。お姉ちゃんの気持ち、報われないよ」
涙を美しいと思ったのは初めてだった。
きっとこの悲しみは実莉だけのものかもしれない。
実莉だけが分かる悲しみかもしれない。
俺には理解できないのだから。
俺には何か欠けているんだ。
宇宙戦闘機AnD ~ブレイク・ザ・ワールド~ 夕日ゆうや @PT03wing
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