第8話 クリストフの挫折
―――翌日、クリストフたちはサンタルークの街の横にあるダンジョンに挑んでいた。
サンタルークのダンジョンは40階層までしかなく、かつドロップ率も良いダンジョンらしい。冒険者や商人で一階は賑わっている。
「雑魚どもが邪魔だなっ。さくっととクリアしようぜっ。」
クリストフがメンバーに声をかける。Dランクになったクリストフたちに怖いものはなかった。
サンタルークのダンジョンの最上階は骸骨ロードが出現する。Cランクに該当する魔獣だ。ギルドからはクリストフたちはDランクだからまだ早いと止められたが無理やりクエストを受けた。
マリアンネがクリストフに賛同する。
「それにしても、クリストフ。あんた昨日レオとやりあったんでしょ? ギルドで噂になってたわよ。」
(チッもう、うわさになってんのか。裏でこっそりボコせばよかった。)
冒険者たちは娯楽に飢えている。クリストフとレオの確執は格好の的だった。
「まっまあな、腹に一発入れてやって、謝ったから許してやったぜ。」
クリストフは咄嗟に嘘をついた。
「そう? 噂だとドローだったって聞いたけど、まあ噂だしクリストフ、あんたの言うことを信じるわ。今日も頼むわねリーダー。」
「おうっ俺に任せろ!さっさと駆け上がるぞっ!行くぞっ! 」
「「「おうっ! 」」」
盗賊のアイーダを先頭にどんどん進む。ボス級の敵もいたが、戦士のスキル持ちのクリストフを中心に苦戦することはなく40階手前まで来た。
最上階の骸骨ロードとの戦闘の前に休憩を入れる。
「なんだよっ拍子抜けだな。これだから田舎のダンジョンは困るぜっ。」
「たしかに。早く帰りたいわね。帝都と違って田舎なんて最悪よ。もう、ラインラントには1年は帰らなくていいわ。なんにもないし。召使いもいないしね。」
クリストフたちは夏休みにラインラントに帰ってきたのだが、田舎ではすることも特になく、すぐに近くの大きな商人の街サンタルークに移動したのだ。
クリストフたちは帝国の学校に通っている。教会のバックアップもあり田舎町の出身とは思えないくらい召使い付きの貴族のような生活を送っていた。
「まぁ教会の手伝いもあるからな。今日戻ったら帝都にすぐ戻すように言ってっみるか。」
皆が頷く。
「さてっ、サクッと行きますか。」
◇
「嘘だろっこんなに強いなんて聞いてないぞっ。」
クリストフが膝を付き、つぶやく。
ケヴィンは傷だらけになり。弓も折られた。マリアンネに至っては骸骨ロードの剣撃をくらい致命傷ではないがもう戦えそうにない。アイーダも肩で息をしている。
アイーダが叫ぶ。
「クリストフっ! 逃げようっ!こいつ強すぎる。」
「ざけんじゃねえ。オレたちがCランク相手に負けるわけがねえ。」
ウォォォォ
クリストフが駆け出す。
最大火力のスキル<乱れ突き>を繰り出すが、骸骨ロードは手が4本あり、全て難なく弾かれる。
「クソがっ」
クリストフは連撃を止めない。
アイーダは扉の前までマリアンネを引きずって後退の準備を進めていた。
「クリストフ、皆もう撤退できるっ! 一旦引くよっ! 」
「うるせえ。逃げたきゃ逃げてろっ。」
「クリストフの分からずやっ! 」
クリストフは骸骨ロード相手に粘っていたが、どうしても押される。 一度に4発も別々の方角から斬られるのだ。すべてを防ぐことはできない。
骸骨ロードが剣を振る。
クリストフは盾で防ごうとする。
咄嗟の防御も虚しく、下から剣撃を食らい、盾ごと宙に舞う。
(しまった…)
受け身が取れず頭から地面に叩きつけられる。
クリストフは気を失った。
◇
クリストフは目をさますと、そこは先程休んでいた39階だった。
体を動かそうとすると鉛のように重い。体力も底をつきかけているようだ。
「みんな無事かっ? 」
周囲を見渡すと回復をし終わった仲間たちがうつむいている。
「無事かっじゃないわよクリストフ。」
マリアンネがクリストフを問い詰める。
「あんたのせいで死にかけたじゃない。すぐに撤退しましょうって言っても聞かないから。それにね、ここまでアイーダが捨て身であんたのこと引きずってここまで連れ戻したのよ。」
「そっそうか。助かった。」
どうやら、アイーダが助けてくれたみたいだ。
装備を確認すると剣と盾はどうやら40階に置いていったみたいだ。
「チッ初めてのクエスト失敗だなっ。装備もなくなっちまった。」
クリストフが起きながらつぶやく。また教会により強い武器を支給してもらえばいい。
「さすがにCランクは強かったです。今私たちが誰も死んでいないのは奇跡と言っても良いかもしれません。多分、また骸骨ロードと戦っても同じ目にあるでしょう。」
アイーダが冷静に先程の戦闘をふり返る。
「クリストフ、あんたがCランクのクエスト受けようって言ったんだからね。あんたがちゃんと教会に謝りに行きなさいよ。」
クリストフたちは教会からのバックアップがあり豪華な生活を送っていた。見返りとして、教会の手伝いをすること。また、評判を落とさないように、くれぐれもクエストを失敗しないようにと言われていた。もし失敗したら分かってるねと念も押されていたのだ。
「俺だけのせいじゃねえだろっ。マリアンネおまえだって最初に骸骨ロードの攻撃くらいやがって。そこから陣形が崩れたんじゃねえか。」
「わっ私のせいにするの。もとを辿ればクリストフが前衛で踏ん張れなかったからでしょ。」
「言い合う気持ちも分かるけど、まずは撤退してギルドと教会に報告しましょ。ここにいてもなんにもならないわっ。」アイーダが仲裁に入る。
元々育った村が同じというだけで組んでいるパーティだ。仲が良いわけではない。
「そうだな。全員の責任だっ。全員で報告しに行こう。」
◇
ギルドで失敗を報告するとほら言ったじゃないですか、と皮肉を言われたが罰金を払うだけで良かった。
問題は教会に報告したときに起こった。
神父が4人に厳しい口調で言う。
「お前たちは教会が言ったことだけしていればいいんだ。そしたら勇者にもなれるのに無駄なことをしよって。」
「すっすみません。もう次はミスしませんので。」
「いいや。お前たちは分かっていない。いいかお前たち4人は教会の所有物なんだ。勝手な真似をするなら寮も召使いも取り上げないとなっ。」
「ま…待ってくれ。この通り謝る。それだけは辞めてくれ。」
プライドが高いクリストフが頭を下げる。
一度甘い汁をすすったからにはもう以前の生活には戻れない。
「ふむっ。分かってくれたらならいいだろう。今回のことは不問にするっ。ただしギルドのクエストとは別に教会の依頼もこなしてもらうぞっ。」
神父はそう言うと笑った。
(上機嫌そうでよかった。教会の依頼は褒美もらえんだろうな。)
クリストフは神父の機嫌を伺いながら、帝都に戻りたいという旨を伝えた。
「そうか。帝都に戻りたいかっ。わかった。いいだろう。明日サンタルークから馬車で出る。その代わり…ある荷物を運んでもらうぞ。」
「ある荷物ってなんでしょうか。」
「お前たちはしらんでも良い。今日はもう下がれ、明日12時に教会に集合だっ。」
クリストフはホッと安心して教会を出ようとしたところを神父が呼び止めた。
「教皇から連絡がきてな、お前たちのパーティ名が決まった『聖なる刃』だ。ギルドには教会からパーティ名登録の連絡はしておいたっ。」
次は失敗するんじゃないぞと言い、手を払い、早く出ろと促される。
クリストフたちは教会を出て、宿に向かう。同チュ、アイーダが話しかける。
「ねえ、クリストフ、なんか教会怪しいと思わない。」
「怪しいってなにがだよ。許してくれたし良いじゃないか。」
「私の勘違いだったらいいの。なんか私たちをコントロールして利用している気がして…」
クリストフは顎に手を当てて考える。
たしかに、荷を運ぶだけだったらオレたちが手伝う必要はない。違和感は感じるが、言うことを聞いていれば豪華な生活ができるのだ。ここで神父を問い詰めて環境が悪くなっても困る。
「大丈夫だろっ。アイーダは心配性だなっ。ほら帰って飯でも食おうぜ。」
クリストフは違和感を感じていたがそれを飲み込んだ。もう戻れないところまで来ているとはその時は思ってもいなかった。
始めは処女の如く。終りは脱兎の如し。スキル兎<うさぎ>は最弱スキル?追放され殺されかけたパーティは眼中にありません。 神谷みこと @mikochin
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