第7話 防具を新調しようっ!

 クリストフはレオとの決闘後、ギルドでこっぴどくニーナに怒られた。


 (なんでオレだけが怒られなきゃいけないんだっ。これも全部レオのせいだ。オレは悪くないっ! )


 まったく反省していないクリストフを見てニーナがため息をついた。


 「あんたね、帝都の学校じゃあ、おだてられて調子に乗っているみたいだけど、そのノリを冒険者にまで持ち込んでいると死ぬわよ。」


 「ニーナさんは心配性だな~、オレたちもうDランクになったんすよ。これからもガンガン攻めます。まあこっちの田舎には夏休みの間しかいられないから、後1ヶ月しかサンタルークにいませんけどねっ」


 ニーナは呆れる。怒る気持ち失せてしまった。近いうちにこの子は絶対に痛い目に合うだろうなと思う。言ってもわからないなら、自分で痛い目にあってもらうしかない。


 「そうっ。頑張ってね。期待してるわ。もう行っていいわよ。」


 クリストフがギルド長室を出ていく。態度を見る限り、反省していないのだろう。


 「こりゃまた問題が起きそうね。」ニーナはクリストフが出ていった扉を見つめながら呟いた。



 「それにしてもムカつくな。レオのやつ。」


 クリストフはギルド長室を出た後背伸びをしながら呟いた。


 数日前までダンジョンでなにもできなかったくせに、調子に乗りやがって。剣さえ使っていれば、スキル戦士で一撃だっただろうな。


 次はレオの泣き顔を見れるな。クリストフはくっくっくと笑る。


 クリストフは先程まで説教されていたことを忘れて、泊まっている宿に向かう足は軽かった。




 ―――同時刻、鍛冶屋にて。


 マリーナとレオはサンタルークの鍛冶屋に向かった。マリーナの行きつけの鍛冶屋みたいだ。道中、マリーナから話を聞くと、商人の町ということもあり、鍛冶屋の数も数十件あるらしいが、どうも、質の悪いボッタクリ店も多いらしい。


 「ボッタクリ店でもつぶれないんですね。利用者がいるということなのでしょうか。」


 「まぁそうね。初級の冒険者が引っかかりやすいのよ。ボッタクリ店の店員は愛想良いから騙される人も絶えないみたいね。」


 あくびをしながらマリーナさんが答える。

 なるほどたしかに、今の僕には装備の良し悪しを判断することはできない。マリーナさんがいてくれて本当に良かった。


 「レオ着いたわ。変わった人だけど驚かないようにねっ。」


 マリーナが鍛冶屋の扉を開ける。


 「こっこのお店ですかっ。」


 正直…お世辞にも奇麗とは言えない鍛冶屋だった。自分一人で鍛冶屋で装備を買うとなると絶対にこの店は選ばないだろう。


 奥ではドワーフが剣を熱しながら叩いていて、ガンガンと音が響いている。


 「ノームさん! 」


 大きい声がドワーフのノームさんをマリーナが呼ぶが、作業に集中していて聞こえていないみたいだ。


 「あの状態だと、10分は何も聞こえないわ。店内の装備でも見てましょう。」


 レオは職人さんを見るのが初めてだった。ずっと作業を見ていられる。


 「マリーナさん、オレ作業見ていてもいいですか?」


 マリーナは、好きになさいと言い、展示されているを持ち素振りをしたり手にとってポーズを取ったりしている。


 数十分は経っただろうか。マリーナさんは飽きて机に肘を突いて突っ伏している。


 作業が終わったみたいだ、ドワーフが立ち上がる。全身から湯気が出ているようなエネルギーを感じた。ドワーフの職人はレオに近づきぶっきらぼうにこう言った。


 「おう。ぼうぞ。見世物じゃねえ。さっさとかえんな。」


 「勝手に見ていてごめんなさい。マリーナさんがこちらの鍛冶屋で装備は整えなさいって言われたので盾を新調しにきました。」


 そういうとドワーフはそうかと気のない返事をする。


 (ドワーフの職人さんにはオレはあまり好かれていないみたいだ。)


 ドワーフは奥でダルそうにしているマリーナを見つけ駆け寄った。


 「おーマリーナじゃねえか。久しぶりだなっ。なんだ今日も飲みに来たのかっ! 」


 ドワーフの声はとても大きい。

 

 「ううん。その子が前言ってた子で、今回は盾を見繕ってもらおうと思って。」


 「ほう。この坊主が。ううむ。なかなか良い目をしてるなっ。」


 全身をジロジロと観察される。ありがとうございます。と返事をするが、正直気まずい。


 「レオ、この方はノーマさんサンタルーク一の鍛冶屋さんよっ。」


 「何いってんだマリーナ。オレは帝国一だぜっ! 」


 ガッハッハと笑う姿は豪快そのものだ。


 「それでレオって言ったか、おまえはどんな防具がほしいんだ。」


 「はい。避けることは得意なので、どちらかというと軽くて緊急時に防御できるような盾がほしいです。」


 なるほどと言い、ノーマが顎に蓄えたひげを触る。


 「よしわかった。ちょっと待ってろ。裏からとってきてやる。」


 そそくさとノーマはバックヤードに出ていったと思えば、すぐに盾を持って現れた。


 「これどうだ。ちょっと着けてみろ。」


 ノーマから渡された盾を受け取る。動かすと、重さといい何かしっくり来るのを感じた。


 「すごくいい感じです。何より手に吸い付く感じがいいです。ノーマさんこれ何なんですかっ。」


 「それはなリザードマンの素材を元にした盾だ。鉄製だとまだおまえには重いだろうしな。おまえにちょうどいいだろう。」


 「ありがとうございます。お代はいくらですか。」


 「そうだな。マリーナからもらってもいいが、おまえさんのことは気に入った。なにか素材は持っているか。」


 レオはカバンから、ビッグベアの魔石と革を机に並べる。


 「ほう。ビッグベアの革じゃねえか。こいつと盾の交換でいいだろう。もちろん、普通にギルドで売るよりかはだいぶ得していると思うぜ。」


 「あっありがとうございます。大事にします。」


 レオは頭を下げた。


 「おう。防具はいつか壊れる。防具を大事にして命落とすことなんてないようにな。マリーナの弟子なら心配することもないとは思うが。」


 「ノーマさんありがとう。私も今度杖買い直しにくるわっ。」


 「おう! その時はまた飲もうやっ! 」


 お礼を言ってマリーナと鍛冶屋を出る。


 「レオあんた、ノーマさんに気に入られたみたいよ。」


 「そうなんですか。むしろ嫌われているかと思いました。」


 村で育ったレオには知らない大人と話をしたことはほとんどない。ムッとしている人はどうしても怒っているように見えてしまう。


 「そんなことはないわよっ。ギルドでビッグベアの革を売っても1000PYNくらいにしかならないわ。その盾は恐らく5000。いや10000PYNでも買おうとする人もいるかもしれないわね。」


 「えっそんなサービスしてくれたんですね。改めてお礼を言わないといけませんね。」


 マリーナが頷く。


 「マリーナさんにもお礼を言わせてください。マリーナさんがいなければこの盾にも出会えなかったと思います。」


 「あらっ今日は素直じゃない。クリストフにも実質勝ったようなものだし今日はお姉さんが美味しいご飯ご馳走してあげるわっ。」


 これがマリーナさんが作ると言えば落ち込んでいたが、美味しいご飯なら楽しみだっ!


 「はい。行きましょうっ! ちょうどお腹も空いてきました。」


 

 冒険者行きつけの食事処でマリーナとご飯を食べる。田舎者のレオには食べたことのないモノのオンパレードだった。すべて美味しくて、ついつい食べ過ぎた。


 マリーナと帰路につく。酔っ払っていてまっすぐ歩けていないようだ。レオは肩を貸す。


 ずっと疑問に思っていたことを思い切って聞いてみよう。マリーナさんはお酒も呑んでいるし答えてくれるかもしれない。


 「そういえば、マリーナさんってなんで帝国騎士辞めたんですかっ。」


 マリーナさんはレオの目を見つめて言った。


 「本当に聞きたい? 」


 レオが頷く。


 「そうね。誤魔化してもいつかばれるものね。一言で言えば、色々とあったのよ。」


 それじゃあ分かりませんよと言う。


 「ん~。説明が難しいのよ。人間関係に疲れたし…おt…」


 人間関係までは聞こえたが最後はボソボソっと言ったのは聞き取れなかった。こんなに悲しい目をしたマリーナさんを見るのは初めてだった。


 それ以上、オレには聞けなかった。



 宿はギルド登録した後に予約していたので、受付で鍵を受け取り部屋に向かう。部屋に入ると一つしかベッドがない。大きいからまだ二人で寝られるのだが、レオは少し恥ずかしい気持ちになる。


 「マリーナさん着きましたよ。起きて下さい。」


 マリーナをベッドに下ろす。ウニャウニャ言っているが何も聞き取れない。


 とにかくマリーナさんはそのまま寝かせて、先にシャワーを浴びよう。クリストフともやりあって汗もかいている。何日ぶりのシャワーだろうか。


 汚れとともに疲れまでも流れた気分だ。体をタオルで拭いて部屋に戻ると…マリーナさんは暑かったのだろう。服を脱ぎ散らかして裸のまま眠っている。


 レオは見ないようにしてベッドの空いている空間に入り込み、眠りにつくのであった。

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