バブみ道日丿宮組

お題:箱の中の時雨 制限時間:15分

 最近子犬をよく見かける。しかも死にかけ。ダンボールの中でわんわんと鳴く姿はとても愛くるしい。たまにクラスメイトが餌をあげたり、撫でたりとしてるけれど次の日にはダンボールごといなくなってる。

 僕は毎日遅刻5分前に学校につくように登校してるから、ゴミ収集車とよくすれ違う。たまにそれで目撃する。動かなくなったイヌが袋に入れられてゴミ収集車の中に放り込まれてくのを。

 そのことをクラスメイトたちは知らない。

 だから、毎日のように『どこに行ったんだろうね』と日常会話を続ける。『誰かが拾ってくれたんだよ』と知らない真実を笑い合う。

 そして飽きて忘れてく。その繰り返しだ。

 所詮その程度の存在でしか箱の中の彼らにはない。

 箱の中でいくら泣いても、その雨は回収されない。

 雨は流れてくだけで、集めることはダンボールにはできない。ただ濡れて腐り、異臭を放つ。

「……」

 今日も雨が降ってる。

 きっと今日もあそこに新しく捨てられただろうイヌは泣いてるのだろう。時雨時は寒さで余計に苦しみの声をあげる。

 けれど、誰も救いの手は差し伸ばさない。

 誰もがイヌを飼える環境ではないし、既に飼っていたりと事情がある。

 クラスメイトは悪くない。僕も悪くない。

 どうしようもない現実。

 飼えなくなった飼い主が全て悪い。

 この世界では生まれる場所は選べない。進む道も決められないものたちもいる。最初から存在できないものもいる。

 雨のように流れ、全てがなかったことにされる。

 そんな世界が現実。

「……」

 僕も家に帰れば、親の鬱憤を晴らす道具になるだけで泣ける状況じゃない。生きる権利だけを与えられた箱の中。

 ダンボールの中か、家の中なのか。

 たったそれだけの違いだ。

 いっそのこと全てを誰かに打ち明けてしまおうか、そんなことも考えなかったわけじゃない。

 でも、結局僕はなにもしないことを選んだ。

 親は親で泣いてるのだ。

 僕という箱を拾ってしまったがためにーー。


 箱の外にはいったい何があるのだろうか。

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バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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