オークション

荒川馳夫

出品者権限により、今回のオークションは……

「ご参加ありがとうございます。今回出品されるのは、物ではありません。ある権利です!さぁ、間もなくオークション開始となります」


主催者と思われる者が、オークションの参加者を煽り立てている。

ここはオークション会場。多くの参加者がある権利を求めてやってきた。


「どのくらいの値段がつくかね?」


「うーん、初の試みですから。どうなるかは分かりません」


「このような権利を競り合わせるのには賛同しかねますが……。まあ、様子を見ることとしましょう」


オークション会場の裏で、何やらヒソヒソと話し合いがなされていた。

出品者団体の構成員たちだ。各々が神々しい雰囲気を漂わせている。

参加者たちをつぶさに観察しているようだ。


「ここまでです。スゴイ!数十億円を提示してまで、権利を手に入れたいとは。いやはや、驚きです」


どうやら、落札者が決まったようである。落札できなかった者たちがバーブーと文句を垂れているが、もうどうしようもない。


「落札されたあなたには、生まれる家庭を選ぶ権利が与えられます。落札代金は生誕後に神々への貢ぎ物でお支払いを。では、オークションはここまで」


すると、参加者たちが主催者に大挙して詰め寄った。皆が金持ちの家庭に生まれたかったらしく、もっと出品するように求めてきた。


「落ち着いてください。皆さん、落ち着いて。どうすれば……」



「ほれみろ、言わんこっちゃない!このような権利をヒトに選ばせるべきではないのだ」


「まあ、予想はしていたが……。これじゃ、地上で生きるヒトが増えないぞ。ヒトは強欲なのだから、金持ちの子として生まれたいと思うのは当然だろ」


「これでは、我々を崇拝してくれるヒトの数が減ってしまう。やはり、選ぶ権利はヒトに与えない方が良い。ランダム形式のままでいこう」


「参加者は激怒するだろうが……。オークションは無しにしよう。なーに、我々の力の前にヒトは抗えない。決定を受け入れるだろうよ」


「おい、アダム!我々の意思を伝えるんだ」


出品者たちはオークション主催者に決定を伝えるように指示した。


(神々のやつら……、だったらこんな行事を思いつくなよ。まったく)


「出品者から提案が出されました。今回のオークションは無効。これまで通り、生まれる場所、家庭は完全ランダムという形で続けていくとのことです。異議申し立ては神々へお願いします」


参加者たちは沈黙し、地上に生れ落ちるのを待つことしかできなかった。

魂を滅ぼされたくはなかったからである。










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オークション 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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