第95話 大目に見る(?)

   ◆葉月side◆



 あの後雪宮に丈や詳細な部分をチェックしてもらい、特に衣装に修正は必要なかったみたいで、当日もそのまま着ることになった。当然胸パット付きで。

 あれつけて、当日は人前に出るのか……恥ずか死しそうだなぁ……。



「おい葉月、ぼーっとしてねーで手を動かせよ」

「……ん? あ、悪い」



 白峰高校文化祭──白峰祭まで、残り2日。

 各クラスは、文化祭準備に向けて動き出していた。

 当然うちのクラスも、教室の飾り付けやメニュー表の作成など、自分たちでできるところは自作している。これも文化祭ならではの楽しみだ。

 周りを見渡すと、みんな楽しそうな顔で準備を進めている。うんうん、文化祭ってのはこうでなくちゃ。

 俺の横で、教室を飾り付ける造花を作っている淳也の顔も、緩み切っていた。



「いやぁ、女子との文化祭準備……たまりませんなぁ」

「きっしょ」

「傷ついた」



 お前がそんなタマかよ。



「おい葉月、よく考えてみろ? 高校に入学して3年間、女の子と触れ合うどころか話すらできない環境に絶望していたのに……今となっては仲良く文化祭準備までしている。これはもう、リア充と言っていいのではないだろうかッ」

「きっしょ」

「しまいにゃ泣くぞ!?」



 ごめん、素が出てしまった。

 淳也の言いたい事もわからなくもない。俺も、ここまで雪宮と濃い関係を築いていなかったら、似たようなことを考えていただろう。それくらい、男子高校生にとって女子とのイベントというのは別格のものなのだ。

 俺も俺で教室の飾りを作っていると、淳也がニヤニヤ顔を向けて来た。



「なんだよ」

「いやいや、別に。昨日帰った後、メイド服着てみたんだろ? どうだったのかなーと思ってよ。俺の予想としては、かなり似合ったと思うんだ。お前かなり中性的な顔だからさ」

「……普通だ、普通」



 メイク後に、雪宮には似合っているって言われた。

 でも男の俺としては、女装が似合うなんて言われても嬉しくない。同じ似合うにしても、どうせなら「キャーイケメーン」とかもてはやされたい。……あいつが俺に対して、そんな感情を持つなんて天と地が逆さになってもあり得ないけどな。



「写真とかねーの?」

「あるわけねーだろ」

「なんでぇ。俺は他の奴と自撮り撮ったぞ。ほら」



 見せて来たスマホには、ギャルピースをしていたり決め顔を決めている女装野郎共の写真が映っていた。

 さすが選抜メンバーだけあり、メイド服とウィックを着けてたら女性にしか見えない。特に淳也は、完全にイケメン風メイドだった。



「ノリノリだなぁ、お前ら」

「あたぼうよ。ノリが悪いと空気がぶち壊れるからなっ」



 それは暗に、俺に空気をぶち壊すなって言ってます?



「……まあ、明後日には俺の女装も見れるんだし、焦んなよ」

「へいへい。楽しみにしてるぜ、葉月ちゃん♡」



 殴っていいか? 顔を。






 どれだけ嫌がっても、どれだけ自分のじゃんけんの弱さを恨んでも、時間と言うのは一定のスピードで流れていくもので、あっという間に文化祭当日となった。

 楽しみと億劫が入り混じった足取りで学校に向かう。

 校門には『白』『峰』『祭』という大きな文字と装飾で作られたアーチが、来校者を出迎える。

 校舎に続く道には、各クラスの屋台が並んでいた。

 焼きそば、たこ焼き、フランクフルトという定番のものから、韓国のホットク、マレーシアのナシゴレン、スペインのチョリソ……なんと、本格窯を用意したピザまである。

 個性豊かというか、国際色豊かというか……まさか、ここまでになるとは思ってもみなかった。さすが、お嬢様学校はスケールが違うぜ。

 靴を履き替えて自身のクラスに向かう間、他クラスの装飾も見ていく。

 喫茶店、縁日、休憩所、キッズスペース……あ、お化け屋敷もある。後で誰かと来るか。



「あら? 八ツ橋くん、早いわね」

「お、はづきち。おっは~」



 いろんなクラスを覗いていると、前から雪宮と黒月がやって来た。



「おはよ。お前らも早いな」

「ぬへへ。ウチらはちょっと見回りにね」

「文化祭マジック、だったかしら。準備で盛り上がった男女が、朝早くに変なことをしていないか確認しているのよ」



 めっちゃ真面目だな。さすが白峰高校生徒会長殿。



「いいじゃないか、文化祭くらい大目に見てやれば」

「そうもいかないわ。ここは神聖な学び舎。それ以上のことは看過できないもの」

「ふーん。……で、いたの?」

「いたわ。三組ほど」

「誰だそいつぶっ殺してやるッ……!!」

「あなた数秒前の記憶が飛んだ?」



 うるせぇ! 実際にいるとなったら話は別だ! これに乗じて3人の男が女の子といちゃいちゃしてたなんて……許せん!!



「大丈夫だよ、はづきち。みんな女の子だったから」

「あ、なんだ。じゃあ大丈夫か」

「はづきちの沸点どうなってるの?」

「別に、カップルがいちゃつくのは許せるんだ。ただ、男女のカップルがいちゃつくのは許せないだけ」

「それ大半のカップルがそうじゃないかな!?」



 そうかも。いやでも許せないものは許せない。男心ってやつだ。

 ……だから2人してドン引きした顔しないで。



「まあ、あなたが変なのは今に始まったことではないわね……それじゃあ、私たちは行くわ」

「またね、はづきち。ウチらのお店にも来てね」

「おう。こっちにも来てくれよ。サービスするからさ」



 2人が廊下の向こうに去っていくのを見送り、俺も自分の教室に向かう。

 文化祭マジック……本当にあるんだなぁ。

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【第2巻発売中】ツンな女神様と、誰にも言えない秘密の関係。 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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