最終話 湊の日常
湊の日常は続く。
夜になると今日も今日とて、「ザルクシックス」で丈と春奈にワインとコーヒーをお出しする毎日だ。
「ほら、特製ザルクコーヒー」
「あ、ありがとうございます」
春奈のテーブルの上にコーヒーを置く。
彼女はペンを置いて、湊を見上げる。テーブルの上に広がった原稿用紙にはびっしりと文字とメモが書かれている。
「だいぶん進んでいるようだね」
「ええ、この間の事でいろいろインスピレーションをもらって」
あれから、春奈は吹っ切れたように小説を書いている。ほぼ開店時間から閉店まで店にいて、ひたすら執筆の毎日だ。
そんな日が報われるといいと、ひそかに湊は願っていた。
「へぇ、どんな小説を書いているんだい?」
「昔書いたやつのリメイクに近いんですけど、商店街に現れた悪人を、女装した男たちがみんなに笑われながら痛快に倒すっていう……」
「ちょっと待って⁉ せっかく娘と仲直りしたのに、それを発表されるとまた喧嘩になる可能性があるからやめて⁉」
完全に自分たちがモデルじゃないか。
止めようと慌てる湊を春奈はきょとんと見上げる。
「でも、もう書いちゃってますし」
テヘッと舌を突き出す春奈。
その笑顔を見たら、もう何も言えず許してしまう。
「そうか、頑張れよ」
「はい!」
いい返事だ。
湊はカウンターの中に戻る。
「最近、夏美ちゃんとはどうなんだ? 丈」
「…………」
椅子に座ってワインを揺らす男、丈に尋ねる。
あれから、夏美とは話せているのだろうか?
「どうもこうもいつも通りだよ。ただ、少しは話せるようになったかな」
「そうか、それならよかった」
「まぁ、本音を言えば、もう少し俺を頼って欲しいんだけどな。警察だから、あいつらの手伝いにもなれるだろうし」
そう寂しそうにつぶやく丈。
「そう言うな、もう昼間は活動しないと決めただろう? 真冬たちの仕事は盗らないと」
「わかってる」
「え? 昼間は?」
こっそりと聞いていた春奈が執筆の手を止めて顔を上げる。
「あの……」
ピリリリリリ!
「湊、丈のおっさんたち!」
春奈が二人に尋ねようとした時、春奈の携帯が鳴るのと、「ザルクシックス」の扉が開くのは同時だった。
「ネオ君? どうしたんだい?」
扉を開けて中に入ってきたのはネオだった。
「ラファエロの怪人が出た、これを!」
そして、ネオの口に咥えたフェアリージュエルが二人に投げられ、キャッチする。
一方、春奈は電話の相手と何か話していて、ネオが来たことに気が付いていない様子。
「行くぞ、丈!」
「ああ!」
全くためらうことなく頷き、外に出る。
「悪い、春奈ちゃん、店番よろしく!」
「え? あ、どこに行くんですか?」
電話を終え、扉から顔を出して春奈が尋ねる。
「街を守りに! 夜のね」
現在は午前二時、湊と丈、そしてネオは夜の街をかける。
「全く、あれだけの事があったってのに、本当に懲りねぇな」
「嘘は言ってない。昼は変身しない。僕たちはあくまで夜勤専門。そう……」
丈へ向けて手を伸ばす。
「夜の魔法少女だ」
丈は「へッ」と笑って、その手を握り締める。
「「プリティ、プリティ、オンステージ‼」」
湊と丈が、魔法少女マジカル・ロットンへと姿を変えていく。
「さあ、夜の魔法少女、今日も華麗に出動だ‼」
「おう!」
妖精の力で高く、夜の空を跳躍していく。
月明かりに照らされる彼らの姿は輝いていた。
「少女ちゃうやんけ……」
地上でネオがげんなりとつぶやいた。
魔法少女のオヤジ ~娘を守るためと言いつつ、本当は自分が変身したかっただけでした~ あおき りゅうま @hardness10
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