パーカッション in 乳母車 🤹♀️
上月くるを
パーカッション in 乳母車 🤹♀️
よく晴れた5月の朝、ぴよぴよ保育園の園児はみんなでお散歩に出かけました。
もっとも小さい子はゼロ歳児で、上は年長さんまで、それぞれのクラスごとに。
ですが、散歩コースを半分ほど進んだところで、エリ先生は困ってしまいました。
受け持ちの未満児クラスが、いっせいにごきげん斜めになってしまったからです。
大きな箱型の乳母車のなかに入っている赤ちゃんは0~2歳の子ばかり総勢6人。
つかまり立ちの子から、走れるようになった子まで、月齢によっていろいろです。
そのなかで、ひときわ小柄な女の子がシクシク泣き出すと(こんなにも幼いのに、この子は大声で泣きません💦)、ほかの子たちもいっせいに「わ~ん」の大合唱。
行列の前を歩いていた年長、年中、年少さん担当の先生たちもみんなで駆けつけてくれましたが、ひとたび泣きスイッチが入った赤ちゃんたちはギャン泣きで。(笑)
🍃
こういうとき、新卒2年目のエリ先生は途方に暮れながら一所懸命にあやします。
でも、どうしても泣きやんでくれないと、自分も半泣きになりながら思うのです。
――この子たちをこんなにまで悲しくさせるもの。
それはなにか途方もなく大きな力なのでは?
お腹がすいた、オムツが濡れた、暑い……そんな直接的な理由ではなくて、自分という、ちっぽけな心身を守ってくれるかどうか分からないものへの、本能的な恐怖。
うまく表現できませんが、それが幼い胸を波打たせているような気がするのです。
だけど、無理もないわよね、わたしたち大人だって、ときどき怖くなるんだから。
👾👻😈👽
とそのとき、乳母車組ではもっとも月齢が上の男の子が、ふいに泣きやみました。
ほかの子らも笑顔になり、乳母車の縁につかまってぴょんぴょん跳ね始めました。
いま鳴いたカラスがもう笑うた。🐦
まさにそんな感じなんですよ~。🤗
箱型乳母車の赤ちゃんたちの漠然とした不安を、そうっとやわらげてくれたもの。
それはたぶん、はるか遠くから聞こえて来た朗らかで軽快な音楽だったのでは?
市民の森公園で開催される恒例のフリーマーケットの準備が始まったのでしょう。
明るくて陽気な南国風のパーカッションのリズムを、みどりの風が運んで来ます。
いろいろな月齢の赤ちゃんたちが、それぞれの方法で踊りたくなるのも当然かも。
ホッと笑顔にもどった先生たちも、南国のリズムに合わせて手を打ち始めました。
🍭
とそのとき、年中さんのだれかさんが大きな声で叫びました。
(この子、最初に泣き出した赤ちゃんのお兄ちゃんです(笑))
――あっ、先生、見てみて~。🥳
スズメさんたちも、ほら。🐤
見上げると、電線の上で、スズメがいっせいに尾を振っているではありませんか。
エリ先生はすっかり楽しくなり、乳母車の赤ちゃん組をギュッと抱きしめました。
そして、どうかこの子たちみんなの、いいえ、子どももおとなも、動物も植物も、生きとし生けるものみんなの生命が小さなよろこびに輝きますようにと祈りました。
パーカッション in 乳母車 🤹♀️ 上月くるを @kurutan
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