第21話─Lost Soul

「悪いけど、これ以上はさせないよ。襲撃者サン」

 

 口調こそいつもと同じであるが、その声色からは普段と違うものを感じた。

 

「っ! なぜあなたがここに……」

 

「何言ってるの? 私は何処にだって居る。何処にだって現れるのよ」

 

 しばらく両者の間には、牽制の沈黙が続いていた。最初に動き出したのは、鳳花の方だった。


「はぁっ!」


 叫びと同時にカウボーイが、神草へ牽制の弾丸を放つと同時に一気に間を詰めた。対して神草は弾丸を次々避けていき、詰め寄ったカウボーイの動きに合わせて回し蹴りを放つ。


「はっ!」


 見事蹴りは鳩尾に入り、体躯の違うカウボーイを軽く吹き飛ばす。が何を思ったのか、同じく神草も後方へ飛び下がった。


「えっ?」


 私が疑問を抱き始めてコンマ一秒、突然目の前で爆発が起こった。そこは先ほどまで神草たちが戦っていた場所だった。


「ふぅ、危ない危ない」


 目の前で超人敵な戦いが繰り広げられ、怪我の事など意に介さないほど私は見入っていた。


 本当に神草は何者なのだろう。尤も、神草本人は発言とは先程裏腹に涼しい顔をしていた。


「戦い初めてから言うのもなんだけど、私あまり戦いたくないんだよね」


「……何を言っている」


 鳳花が険しい表情で言葉を零す。神草は気だるそうな口調でこう話した。


「だって私今動きづらい服だし。そっちは使役だけでリスク少ないし。何より服汚れるからね」


「ならさっさとここから立ち去って下さい。今なら命だけは助けますよ」


「いや〜それだけはないかな、親友の命かかっているし。まああとは……」


 何だか歯切れの悪い言葉を放つ神草。そのとき一瞬左腕を見るような仕草をしたようにも見えた。


「君はどう足掻いても私には勝てない」


「何だ、今更強が……り……」


 突如カウボーイが膝を付いてその場に縮こまった。それに応じて鳳花も胸を抑えて苦しみ始めた。


「い、一体何を……」


「簡単なことさ、毒だよ。君が楓にしたように、私もあの蹴りで彼に毒を注入した。まあ、私はあなたと違って死ぬような毒ではないけど」


 楓は私に小瓶を投げつけた。ラベルには解毒剤としか書かれてないが、迷わず私は中身を飲み干した。


「……」


「どんなに攻撃を仕掛けても当たらない君と、一発で沈めた私、どっちが優勢か言うまでもないよね」


「……」


 圧倒的な力の差による格付け。明らかに鳳花の戦意は削がれていた。


「さて、そろそろ終わらせないとね。流石にリミットが近くなってきた」


 神草が再び臨戦態勢となる。一歩、また一歩と踏み込んで、一気に距離を縮めようとしたときだった。

 

「……分が悪い!」

 

 彼女は身の周りを爆発させた。流石の神草も、これには動きを止めざるを得なかった。


「……逃げたか」


爆発による煙に乗じて、彼女は姿を消した。臨戦態勢の草は警戒を解き、そのまま直ぐこちらに駆け寄って来た。

 

「楓! ねえ生きてるよね!?」

 

 必死に体をさすってくるが、私の体は線が切れたように、動かすのもままならなくなっていた。友人に会えた安心感からか、自然と涙が零れる。

 

「神草、ごめ……ん……」

 

「何言ってるの楓、今助けるから」

 

 神草は私の体を担いで、何処かへ走り出した。薄れゆく視界と感覚の中で、私は最後に覚悟を決めた。

 

「ねえ……神草の背中……あったかいね……」

 

「? もう少しだから頑張ってね」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ねえ、神草」

 

「……どうした?」

 

「もし……私が死んだら」

 

「……待って楓」

 

「妹を……」

 

「……やめてよ」

 

「椛を……」


「……やめて!」


「どうか……よろ……し……く」

 

 この言葉を最後に、私の意識は途切れた。

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依リキ依リバナ神ノソノ ~Substitution Archiver~ 瑕疵宮 @cashemere_W

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