第20話─怨嗟とは爆発、爆発とは連なるもの
「今すぐ離れろ!」
突然電話越しに冬夜の叱咤が飛んで来るが、イマイチ言葉の理解が追いついてない。
「えっ!? どういうこと!」
「説明は後だ、とにかく危ない!」
「う、うん」
──今はとにかく離れないと!
電話を切った私は、急いで千花の手を取った。
「どうかされました?」
「詳しい話は後で。友達からここは危ないって離れないと! こっちに来て!」
──何が起こるか分からない。
──逃げなきゃ!
──逃げな……
──逃げ……
……えっ?
駆け出そうと踏み出した一歩から、全く先に進めない。否、鳳花自身がその場から石のように動かない。微動だにしないのだ。
恐る恐る振り返って見ると、彼女の顔にはうっすら笑みが浮かんでいた。
「捕まえた☆」
その言葉の後、彼女は私に謎の薬を飲ませてきた。少し苦い
「かぁ……はっ」
体に力が入らなくなり、足元がおぼつかなくなる。何とか近くの木に体を預けると、声を絞り出して彼女に問いかけた。
「あなた……一体……」
苦しむ私とは対象的に、彼女は口角を上げてどこか愉悦な表情を浮かべていた。
「ふふっ、あなたは本当に何も知らないのね。それもある意味愛おしいわ」
彼女は懐から小さな小瓶を取り出した。私に飲ませたものと同じと思われる、透明な液体が中には入っていた。
「まあいいわ、教えてあげる。この薬は即効性の神経毒よ。即効性と言っても、少しずつ持続的に体を蝕む長期的なものだけどね」
この発言で、私は全てを察した。なぜ冬夜が私に離れろと言ったのか。なぜ椛が唐突に襲われたのか。
「そう……か。鳳花さん……あなたが……」
目の前に立つ能登鳳花こそが、椛を襲った張本人。そして今、姉の私の命も狙っているのだろう。
「そうね。彼女は私達の計画の邪魔になる存在。そしてそれは、あなたも同じよ」
「なんで……」
「なんでって言われましても、あなたって本当に
彼女の目つきが、冷やかなものに変わった。人が変わったようなその姿から、彼女は思いもよらない言葉を言い放った。
「……彼女は、私の家族を殺しました。それも、彼女の都合によって無慈悲にも」
「……えっ」
椛が? 人殺し?
確かに椛は普段から多くを語らないけど、椛がそんな事をするはずが……
「そ……んな……事」
思うように話す事が出来ないほどまで、既に毒は回っていた。今私の体を支えているのは、寄りかかっている1本の木のみ。
「だから私は、彼女に復讐を行いました。残念ながら、彼女にとどめを差すことは出来ませんでしたが……」
次の瞬間、彼女の胸から幾千の朱光が解き放たれ、封筒を媒体にもう一度強く光を放った。刹那の後に光は収束し、私の前に深いカウボーイハットを被った男を創り上げた。不気味な笑みと隠れた目元から見える紅色の瞳は、燃え盛るように私の姿を捉えていた。
「手の届かない所で家族を殺されるなら、死んだほうがましでしょう!」
そう言い放つと彼女は、握り締めていた拳を一気に開いた。すると次々と周りの木々が爆発し、轟々と燃え始めた。彼女を中心とした爆発の波は、やがて私の寄り木を飲み込み、遂には私の体を吹き飛ばした。
「ぐぅ……」
勢い良く地面に叩き付けられ、耳元に届いた鈍い音が頭の中で反響していた。満身創痍な体では目の前で起こった怪異すら驚くこともできず、所々で上がる火の手をただ茫然と眺めていた。
「姉妹揃って運がいいこと。でもこれであなたは終いよ」
遠くからサイレンが聞こえてくる中、視界の隅に見えた彼女は、手を銃の形にしてこちらに向けていた。明らかな殺意を以て。
「さようなら。次はもっといい星の下に生まれてくることね」
次いで一つの爆発が起こり、一つの人影が宙を舞った。しかし、
これは
この爆発で目の前の男が吹き飛ばされ、何故か彼女が怪我を追っていた。
「ぐぅ……」
腕を抑え、彼女は軽く呻いていた。先ほどの爆発で辺りの炎は消え去り、代わりに砂埃に包まれた。
「誰だ! そこにいるのは」
突然彼女が砂埃に向かって叫んだ。すると一つの人影が鋭く動き、彼女へ襲いかかった。
しばらく目で追えない応酬が続き、謎の人物はやがて私の目の前へ立ちふさがる
「! まさかあなた……」
その姿を見た瞬間、私は驚愕した。
一度見たら忘れない髪の色、緑と黄のオッドアイ、いつも身につけている鼓草のピアス。
私の前に立っていたのは、神出鬼没で自由きままで、私の一番の友人である神草だった。
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