一人の召喚士と四人の魔王
魔王達、そしてこの世界に生きる全ての者と共に戦い、ついにこの世界の魔王であるトータナスに勝利したアギ―。
彼女達は今、資源力の国を訪れていた。
今ここに世界中の住民たちが集まり宴を楽しんでいた。
「さあどうぞ!焔の英雄様!我が国で作った酒です」
「お前グラドのとこの酒場の店主か、この酒は一番濃くて好きなんだよな。つーか英雄ってのやめろって。ほら、もっともっとギリギリまで注いでくれ」
フラマーラはさっそく大きな樽型のジョッキに酒を注いで貰っていた。
それをグイッと飲み干す。
「ひゃー、なんて豪快な」
その場にいた他の者は彼女の飲みっぷりに驚く。
「なんだ、こんなもんじゃねぇぞ、宴は始まったばかりだからな!テメェらもたらふく飲め!いいな!」
「フラマーラ様!」
するとティターノが声をかけてきた。
彼の部下達もいる。
「おう、門を閉じるのを手伝ってくれたみたいだな。よくやったな」
「いやぁ、あれくらいしか出来る事はありませんでしたから」
ティターノがそういうとフラマーラは同じ大きさのジョッキを用意しティターノに渡した。
「ほら、お前も。あとお前らもか、店主、こいつらにも酒追加で」
どんどんどんっと兵士たちの前に酒が並ぶ。
「ああ、これはどうも、いやぁこれが酒ですか」
「なんだ、お前酒飲んだことねぇのか?」
「ええ全く、うおっ匂いだけで喉元が熱くなりますな」
ティターノがそう言うと兵士たちも恐る恐る酒が満杯まで入ったジョッキを手に取とった。
「ここのはとびっきり強いから気を付けろよー。ま、何かあってもアイツが治してくれんだろ。つーわけで乾杯!」
フラマーラと共に酒を口に含むティターノ達。
ティターノは顔を赤くしながら飲み込んだ。
彼の部下には噴き出す者、なんとか飲み込む者、それぞれの反応をしめした。
「うおおお!!!ん、なんと喉が焼けるようだ!だが良いですな!」
「がっはっは!!いける口か!よーし!おかわり!」
そんな会話をする彼女らを遠目から見るグレイシモンドとグラド。
「全く、早々に酒をあおるとはな」
「まあいいではないか。ほら、これも美味しいぞ」
二人は互いに選んだ料理を食べさせ合っていた。
「まさかあのグラド様と冰の魔王様がこんな熱々だったなんてな」
そんな二人をみて驚く蛇の獣人。
「自分も話は聞いていましたが、これほどとは。あんなに嬉しそうにされているグラド様が謁見できるなんて……」
ヒアー含めグラドの部下は涙をその目に浮べていた。
「え、そんな喜ぶ」
軽く引く蛇の獣人。
「ん、おっとそろそろ行かねぇと」
「準備が出来たか、すまんなグラドよ、少し席を外すぞ」
フラマーラとグレイシモンドはそういってその場を離れた。
「グゴゴゴッ!!控エー控エー!」
少しすると会場を震わす程の声が轟く。
「ご、ゴーレムさん!そこまでしなくて良いですから!というか、本当に私でいいのですか……このような」
「今更何言ってるの?アギ―ちゃん以外だれがいるっていうのよ!私が選んだドレスもバッチリ似合ってるし、自信を持って!縮こまってないで、お胸はってほら!」
アウレンデントに背中をぐっと押されるアギ―。
彼女は普段の服とは違い、グリーンのドレスを着ていた。
ドレスには所々に金の装飾が施されている。
アギ―の首元には赤、青、黄色、紫の宝石に囲まれその中心に緑の宝石が埋め込まれたネックレスが輝いていた。
「へぇーお前もそういうの着ると決まるじゃねぇか」
フラマーラが焔と共に現れる。
「ほう、その首飾り、中々良い物ではないか。似合っているぞ」
グレイシモンドもその場に現れてそう言った。
「お前以上に適任はいない。そもそも俺たちはアギ―に召喚された存在だしな」
アウレンデントの後ろからテネバイサスがそう話す。
「うう、そうなんでしょうか」
するとアギ―の足元にヒスイが現れすりよる。
「ええ、ヒスイもですか」
「そうだそうだ、まあお前はビビりで、力を人助けにしか使えねぇような甘ちゃんだけどよ。結構よくやった方なんじゃねぇの、だからシャキッとしろ」
「アギ―、お前は誰よりもその命を賭けこの世界の為に動いた。多少人々から称賛されても問題なかろう」
フラマーラとグレイシモンドがそう伝える。
彼女らなりの賛辞なのだろう。
「わ、分かりました。それでは」
ゴーレムの肩から手のひらに移るアギ―達。
肩膝をついてゴーレムは両手をゆっくりと上げた。
皆はその光景を静かにみていた。
アギ―はゆっくりと息をすって話始めた。
「今日まで色々な事がありました。沢山苦しんだ人もいるでしょう、大切な人を失った人も……いるでしょう。でも今日から、今日から変えていきましょう!苦しんだ人が報われるように、犠牲になった人が残したものを守れるように!」
アギ―の脳内には様々な光景が広がっていた。
自分が生まれ育った城、火山のようなティターノの城、極寒の地にある経済力の国、緑豊かな資源力の国、機械しかない灰色の技術力の国、そして最後に魔王達の祠。
「いまではこんな、偉そうに皆様のまえで話している私ですが、少し前までは何もできませんでした。戦いになって血をみたらすぐに頭がクラクラして気を失っちゃいますし、ずっと怯えてて、怖かったです」
この旅はどれも初めての事ばかりで、身がすくみそうになる程怖い事も沢山あった。
「でも今日ここに立てているのは皆さんに助けられたからです。私の両親は教えてくれました、一人で出来ることなんて大したほどはない。だから助け合う仲間が必要なのだと」
彼女は手をかざす。
すると緑の光と共に四獣たちが空に現れる。
「ここから始めましょう!みなさんと共に!」
アギ―の手から放たれた魔力は世界中に広がり、死の力によって灰色となった土地に再び命を吹き込んでいく。
「ではまず、そのための準備、ご飯食べて元気を補充です!」
観衆から歓声があがる。
「酒もあるぞーー!!」
アギ―の後ろにいたフラマーラがいつの間にか両手にもっていたジョッキを掲げる。
再度歓声があがり、宴は再び賑やかになる。
「ふふふ、みなさん嬉しそうで何よりです」
アギ―はそれを見て嬉しそうに微笑んだ。
「で、これから皆様はどうするのですか?」
グラドが食事を楽しむ魔王達に尋ねる。
「どうするとは?」
アギ―が首をかしげる。
「いえ、アギ―殿はこのままかと思われますが、魔王様がたはこの世界の魔王を討伐するためにアギ―殿に召喚されたのでしょう?つまり契約はもう終わったのですよね?」
「た、確かに、ど、どうなっちゃうんですか?」
アギ―が魔王達にきく。
「お前もしらねぇのかよ」
フラマーラがつっこむ。
「どうもなにも、このままだが」
「ああ、もし俺たちが元の世界に戻るならとっくに戻ってるしな」
グレイシモンドとテネバイサスがそう言う。
「えーっとつまり?」
「つまり、これからもアギ―ちゃんと一緒って事よ!」
アギ―の後ろからアウレンデントが抱き着く。
「ほ、本当ですか!!」
「まぁ、元の世界も悪くはねぇけど。もう征服しちまった世界ってのも退屈だしな。それならこっちにいた方がまだ色々と楽しめそうだし」
フラマーラも抱き着いてる二人に肩をくむように腕を回す。
「そう言う事だ、これからトータナスがめちゃくちゃにした世界を再建し、住む者たちが円滑に生活できるようにせねばな。久しぶりに完全統治までの過程を楽しめる訳だ」
グレイシモンドがそう言う。
「それは頼もしいね、君たち以上に心強いものもいない。そうだ!」
グラドは執事に何かを持ってこさせる。
「昔、ある商人から貰ったものなんだが、精巧な絵を瞬時に描くという代物でね。記念に一枚どうかな」
それは箱型の機械で、正面には大きな丸いレンズがついている。それを首から下げて執事が構える。
アギ―を中心にアウレンデントとテネバイサスが挟むように並び、その外側にグレイシモンドとフラマーラが左右に並んでいた。
「皆様もう少しよって頂けますか」
「ダーリン、そっちはお願いね。ほらグレイシー!」
「我はグレイシモンドだ、ってうお!何をする!」
「分かった。おいフラマーラこっちだ」
「ちょ、やめろ!」
アウレンデントがグレイシモンドを抱き寄せ、テネバイサスも同様にフラマーラを引き寄せた。
「では行きますよー」
機械からピカッと光りが放たれた。
「さあ、こちらです」
そういって執事が差し出した絵。
皆はこれを覗き込む。
アギ―を中心にしてみんなでハグをしているような絵になっていた。
「これ良いですね!飾りましょう!」
「こ、こんなに寄る必要はなかったのではないか?」
「そ、そうだ、も、もう一度位置をしっかり調整してだな……」
グレイシモンドとフラマーラがその写真をみて恥ずかしそうにしていると、執事が隣からアギ―に声をかける。
「こちらの絵拡大する事も可能でございます、アギ―様」
「ではそれお願いします!」
「いいね、うちの城にも飾ろうかな」
「おお!なんですかそれは、良い絵ですなぁ!ぜひ我らが城にも」
グラドとティターノがそう言って絵をみていた。
後ろから二人を止めようとするフラマーラとグレイシモンド。
「おいやめろお前ら!」
「グラド、流石にそれは……!」
「本当に、みなさんと会えて幸せです!」
振り返り、二人にそう言ってほほ笑むアギ―。
「ぐっ、く……!」
「止められぬのか、我には……」
「ふっ、娘一人に振り回される魔王とはな。なんとも格好がつかんな」
「これが私達らしくていいじゃない♥」
こうして最初は気弱だった一人の召喚士は、四人の魔王達と共に世界を旅をし、成長し、そして最後には世界を救いましたとさ。
きっとこの先も、この素晴らしい仲間達と助け合いながら世界をより良くするため、日々を生きていくことでしょう。
おしまい
英雄様をお招きしたら、魔王様が増えちゃいました。 きゅりおす @Qrious
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