No.39 みんなさんと一緒に!
トータナスによって胴体に致命傷を負ったはずのアギ―。
しかし彼女はその傷を治し、立ち上がっていた。
「この戦いを終わらせます」
「一体なにが起きている……!?死から逃れることなどできぬというのに!」
トータナスは大量の怨念をアギ―に向けて放つ。
しかしアギ―に怨念は通用しなかった。
「なぜだ!なぜ倒れん!なぜ死なぬのだ!」
今まで経験した事のない光景に狼狽えるトータナス。
そんな彼に対してアギ―はある事を思い出していた。
(この人に私は一度殺された、それは覚えてます。その後に見えたあの二人は……)
「アギー、アギ―」
「アギ―よ、目を覚ましておくれ」
何よりも優しい声がアギ―を呼ぶ。
温かい木漏れ日の中で彼女は目を覚ます。
彼女の前にいたのはアギ―の両親であった。
「ッ!お父様っお母様っ!!!」
アギ―は両親だと気づくと目に涙を浮かべながら、すぐに抱き着いた。
「おー、よしよし。本当によくぞここまで戦って来たな。逃げずに勇気と知恵を持ち、素敵な仲間と共に」
父はそう言って彼女の頭を撫でる。
「アギ―、あなたは生まれた時からずっと私達の最高の宝物だわ。そんな子がここまで立派になって私達には勿体ないくらいの子よ」
母はアギ―に腕をまわしぎゅっと抱きしめた。
「お父様、お母様、私、怖かった、怖かったです!でも……でも皆さんが私をここまで連れて来てくれました。私ひとりじゃ何にも……」
泣きじゃくりながらそう話すアギ―。
彼女は魔王達とトータナスが対峙している場所に現れた時にもう気付いていた。
そしてその気付きはアギ―から両親が持っていた斧を渡された時に確信へと変わってしまったのだ。
だが嘆き悲しんでいる場合ではない、彼女はそう思いなんとかここまでやってきたのだ。その押しとどめていた感情を塞き止めていた物が壊れあふれ出す。
「そうだ、一人で出来ることなんてそう多くはない。それはアギ―に限った話ではない、私達だってそうだ、きっとあの魔王様たちだってそうさ」
「そうなんですか?魔王様は皆さんとってもお強いのに?」
アギ―が父を見上げる。
「そうとも、あの方々だって誰かの助けが欲しい時があるさ、そしてアギ―、お前はいつだって人々を助けようと一生懸命やってきた。そして生まれたんだ、召喚士と召喚された者というだけの関係ではない、より強固なつながりが」
「今もそうよ、魔王様たちがあなたに魔力を送っている、あなたが生き返るように。みんなあなたを必要としているのよ」
「え?魔王さま達が?」
アギ―がそういうと二人は頷く。
「さあ、これを持って、我が一族に伝わる大事な祭具、今のあなたならきっとそれを使いこなせる」
トータナスの前に迫ったアギ―の手には、先ほどまであった二振りの手斧ではない、一本の斧があった。
アギ―の頭の中に両親の言葉が残っていた。
「この世界を助けてあげて、みんなと一緒に」
「死に抗えるものだといるはずがない!それは万物の真理に反する行為、存在してはならぬものだ!!貴様はそのものだ!貴様は……この世にいてはならぬものなんだァァッ!」
トータナスが怨念を纏い襲い掛かる。
アギ―は斧を静かに振った。
すると斧から何かが放たれる。
次の瞬間、トータナスの身体の右半分の殆どが消し飛んでいた。
「な……んだと?こんな力が一体どこからッ!?」
彼は身体を元に戻すも、かなり驚いた様子をみせる。
アギ―の斧から現れたそれは、空をぐるっと回りアギ―の目の前へと戻ってくる。
ゆっくりと彼女の前で止まるとそれは徐々に形を成していく。
そうして現れたのは鹿の身体に龍の頭と尻尾を持ち、虎のような爪と縞模様をした獣だった。
「あなたが、そう私のお手伝いさんなんだね」
その獣はアギ―の側に歩み寄り、まるで王に謁見した者のように頭を下げた。
よくみると角は樹木で出来ており、背中の部分は亀の甲羅のようになっていた。
頭部から尻尾にかけてたてがみが生えており、そのたてがみからは花が咲いていた。
実に神秘的な獣であった。
「貴女のお名前は?え、私がつけるんですか?うーん、ヒスイはどうかな?」
そう言ってヒスイが下げた頭を優しくなでるアギ―。
「なんだそれは、貴様の使い魔か?!」
「いえ、私の大切な仲間です」
そう言ってアギ―が斧をかざす。
するとヒスイの周りに焔の翼を持つブラッディピーク、冰の甲羅持つフローズンブルーム、光の牙を持つエターナルレイ、そして紫煙を纏うシャドウダイバーが現れた。
「ははは、こいつはすげぇや」
「流石に壮観としかいう他ないな」
「一か八かと思ったそれ以上だ」
「流石はアギ―ちゃんねー♥」
アギ―が召喚したそのもの達はトータナスに攻撃をしかける。
「なぜだ!こいつらは魔王共の使い魔のはず!?なぜ防げぬッ!!」
なすすべなく攻撃を受けるトータナス。
「許せん、許せん!貴様の存在がなによりも許せんッ!!」
トータナスは怨念を剣へと変え、アギ―に斬りかかる。
アギ―は斧でこの一撃を受け、空高く飛んだ。
「何をもってしてもッ!貴様だけは確実にここで終わらせる、それが我が使命なのだッ!!死ねい!」
空中にいるアギ―を目掛け、自身の肉体すらも損壊する量の怨念をその身から放つ。
「みなさん!一緒に!」
アギ―が斧を振り上げると、地上にいた四獣は瞬時に彼女の側に現れ、怨念目掛け突撃していく。
獣たちが怨念を散らし作った道、そこを通りアギ―はトータナスの元へ。
「召喚士ィィィィィッ!!」
接近して来たアギ―目掛け怨念の剣を振るうトータナス。
「参りますよ!!」
斧が振るわれると同時にヒスイが出現。
トータナスが振るった刃を砕き、彼に全身全霊の一撃を叩き込んだ。
「一体何が……」
その頃資源力の国ではヒアー達が空を呆然と眺めていた。
「先ほどまであれほどいた怨念が、死の力が消えていく」
「シュールルル!何がって決まってるだろ!アギ―様達がやってくれたんだ!」
後ろから蛇の獣人が笑いながら話しかける。
「おお!死の門が消えていく!やったぞゴーレム殿!!」
「なんと、ついにやったのか!」
「サスガ、ワガ、ゴシュジン!」
ティターノ、グレイシモンド、そしてゴーレムさんが抑えていた死の門も消滅し始めていた。
これはつまり元凶、トータナスの敗北を意味していた。
魔王達を蝕んでいた死の力も消え、皆はアギ―の元に駆け寄る。
「アギ―!よくやったな……」
しかし、アギ―の側に来たところで皆は立ち止まった。
座り込むアギ―の腕の中にはトータナスがいたのだ。
もう体の殆どが崩れ去り、首から上しかない状態だった。
頭も目元から上がない。
「生きている者の感覚、さては召喚士、貴様か」
「……」
アギ―はただ黙ってトータナスを大事そうに抱えていた。
「貴様は最後まで訳の分からぬことばかりだ。気に食わん、なぜ怨敵である我にこのような事をする?捨ておけば良いものを、案じずとも我はもう戻る事はできぬ。それともその手で我にしっかりとトドメをさしたいのか、親の仇をとりたいのか?」
「……」
アギ―は何も答えない。
「違うな。逐一癪に障るが貴様はそんな考えをしない。いっその事それぐらいの怨みを持ってくれた方が我としても納得がいくというのに」
トータナスはため息をつく。
「我の敗因は貴様の力を見誤った事だ、ただ【生という始まり】を与えるものだと思っていた。しかし違う、貴様は【生命】そのものを司る能力だ、つまり生だけでなく死をも内包している」
黙っているアギ―に対してトータナスは話を続けた。
「我の死の力を受けても立ち向かってこられたのは、一度死して生き返ったからであろう?死を超越した訳ではない、一度終わらせてまた始めたのだ、単純なことだった。我が死の力すらも貴様にとっては能力の一部にすぎんとは、全くもって隅から隅まで気に食わん奴だ。全てを支配する存在が他にもいたとは」
「私は……そんな凄い存在じゃないですよ」
アギ―はようやく口を開いた。
「ようやく我の言葉に返して来たと思えばそれか。そういう所も腹立たしい、もっと傲慢で自身の力を振りかざすような者であれば、我にも勝機があったというのに」
「あなたは、このまま終わって良いんですか。そうだ、これから一緒に……」
アギ―が何か提案しようとする。
「やめろ、それ以上口にするな。我は【終わりである死】そのものだ。それを愚弄するような真似は断じて許さん、例え勝者である貴様であってもな」
「ごめんなさい……」
謝る彼女に対してトータナスは再びため息をついた。
「はぁ、なぜそこで謝罪の言葉が出るのだ。まあ良い、ようやく我にも終わりがやって来た。腹立たしい貴様の存在も死をもって忘却する事が出来る。ああ、やはり死とは良いものだ」
そういうとトータナスは首から崩壊し始める。
「さようなら、トータナス」
「温厚な命……いやな響きだ、やはり冷酷な死が良い……」
トータナスの声はどこか安らかだった。
「さらばだ、憎き召喚士アギ―よ。死ぬその時まで、もがいて生きてみろ」
この言葉を最後にトータナスの残りの部分が崩れ去り、消えた。
「お父様、お母様……そしてみなさん。終わりましたよ……」
そよ風の中でアギ―は空に向かってそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます