第61話 帰るべき場所になれ
事件から10日ほどが経ち・・・
国王、コータ・オウギは悩んでいた。
いや、やるべきことははっきりしている。わかりすぎるほどわかっていたが、今1つ踏ん切りがつかない。
立場上動き難いのだ。
あのイナゴによる王都襲撃の日、自分より頭1つ分以上小さい、少年に殴られた傷も癒えていない。
王宮の医師に診察してもらったが、
「骨が折れていますね」と、笑いをかみ殺されただけだった。
普段なら怒る。
なんと失礼な奴と憤るのに、今回はグウの音も出ない。
殴られて、地面に転がる自分を、誰1人助けようとはしなかった。
不誠実だった、責任から逃避していた日々が、誰からも信頼されない男を生み出している。
王宮の信頼は地に落ちている。
誰でもない、それは自身の責任だった。
今は国王より、あの魔法使い兄弟の方が人気が上だ。
と言うより、国王には絶対的に人気がない、ただそれだけ。
「このままでは王政の危機です!!」と叫ぶ貴族もいたが、だからと言って何か策があるわけでもない。
あっても策を講じれば講じるほど、嫌われ、馬鹿にされるのは目に見えている。
そして、大体が抵抗する気力も失せていたし、反論する資格など無いであろうことはわかっていた。
謝らなければいけない。
ウダウダと思い悩むある日、
「お父様」と、懐かしい声が響く。
あまりに治らない、痛ましい姿に、この数年は部屋を訪れることもなくなっていた、娘のヨシノだった。
彼女は怪我以来成長が止まっていて、17歳なのに10歳の見かけだったが、けれどしっかり歩いてきた。
「えっ、なんで?」
呆然とする耳に、
「もういいよって、昨日魔法使いが来ました」と、事情を説明してくれた。
なんと、王宮の一部を破壊したあの日、魔法使い達はヨシノを癒してくれていたのだ。
慌てて王宮の医師に診せると、
「悪いところはありません」と、太鼓判を押された。
完璧とまではいかないまでも、これから少しは成長も出来るだろう、と。
知れば知るほど居心地が悪くなる。
全力で王都を守ってくれた、その恩人に兵をけしかけた自分に、彼らは何をしてくれた?
返しつくせぬほどの恩義を感じ、なのに今モダモダと悩む自分は?
「彼らにお礼を言いたいのですが」と娘に言われ、
「それが・・・」と、白状した。
王都を守り切ってくれた魔法使い達。それに弓を射るような真似をした自分。
娘を治してくれた恩人。なのに横柄に要求するだけだった自分。
すまな過ぎて謝罪にも行けない。
国民からも蔑まれ、取り返せない過ちに動けなくなっている自分を。
救いようのない体たらくに、
「何を言っているのです、お父様!!」と、娘は怒った。
「間違えていたのなら、素直に認めて謝って下さい!!失敗したのならその倍以上頑張って、信頼を取り戻して下さい!!
やるべきことはいっぱいあるでしょうが!!」
そう怒られるまで動けなかった、更に自分を恥じることとなる。
直接言葉を交わした時感じた、あの気性ではこんなものは喜ばないとわかっていたが・・・
報奨金と爵位を用意、その日のうちに娘も連れて、馬車を仕立てて魔法使いの家に向かったのだが、
「お父様・・・」
「・・・遅かったか。」
家はもぬけの殻だった。
人の気配を感じさせない、家のドアには貼り紙がある。
『蝗害にあった、西の方の街が心配なので行ってきます。家の管理はアイとキューでよろしく。
ここがわたし達の家なので、絶対ここに帰ってきます。
街のみんな、行ってきます。
あと、めめしい王様、グズグズしてるとわたし達が全部手柄をとっちゃうよ。
もたもたせずにやる事はやれ。
王様なんだから。
じゃ、またね。
文章リン(代筆アリア)・リク・サン・サリア・リオ・ワンコのタロ』
あいつらぁ。
何もかも事実で言い逃れできない。
苛立つにも苛立つ資格がない、モダモダを抱えた国王に、
「お父様!!すぐに西の街に支援を!!」と、娘。
「グズグズしている暇はないでしょ!?何もかもあの方たちにやらせる気ですか!?」
怒鳴られるまで気付けない、本当にどうしようもない父親だと思う。
「わかった、すぐ手配しよう。」
「貧民街の救済に、やるべきことはたくさんあります!!帰ってきた時、少しでもまともな国になっていなければ、今度は本気で殺されますよ!!」
「それは怖いなぁ」と、苦笑い。
言いながら娘も気付いている。
彼らはそう言う気性ではない。
もし駄目なら呆れ返ったため息の後、自分達が動くのだ。
それをさせたら絶対駄目だ。
国王も決意する。
地に落ちた信頼を回復し、少しずつでも前に進めるように。
この国が楽しいおうちでありますように。
⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂
一応ここで第1部(完)となります。お付き合い下さりありがとうございました。
しばらく間を置きますが、また続きは書く所存です。
重ねて、ありがとうございました。
おうちに帰ろう @ju-n-ko
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