エイプリルフール・カムフラージュ

平 遊

4月1日には・・・・

”あたし、好きな人ができた”


朝一発目の沙也加からの電話。


「そっか。実は、俺も」


少しの沈黙の後。


”じゃ、別れよっか”

「だな」


そしてまた、暫しの沈黙。


”今日、映画観に行こうかな~。別に観たくはないけど”

「あ、そ。好きにすりゃいいんじゃね?俺は行かねぇし」

”10時20分からの回のチケットなんて、予約してないんだけどさ”

「ふうん」

”じゃ、ね。さよなら”

「おう」


通話を終えると、いつの間にか隣にいた妹の明奈が、微妙な顔で俺を見ていた。


「お兄ちゃんたち、毎年よく続くね」

「まぁな」


そう。

毎年4月1日になると、沙也加は必ず朝一発目に電話をしてくる。

そういや、沙也加が俺に告白をしてきたのも、4月1日の朝一発目の電話だった。


「沙也加さんがお兄ちゃんに告白したのも、4月1日だったんだってね」


大きな目をクリッとさせて、明奈が下から俺の顔を覗き込む。

ドキッとした。


それ、今正に俺が思ってたことっ!

以心伝心とは、このことか?

まぁ、我が妹ながら、明奈は俺と違って勘がいい奴だからな。

こんなことは、しょっちゅうある。

明奈曰く、【お兄ちゃんは人並み外れて分かりやすい】んだそうだ。

・・・・あまり褒められている気はしないんだが。


「お兄ちゃん、知ってる?」

「なにが?」

「何で沙也加さんが4月1日にお兄ちゃんに告白したのか」

「さぁ?年度初めでキリが良かったから、とか?」

「・・・・良かったねぇ、お兄ちゃん。彼女が沙也加さんで」


明奈は心の底から呆れたように肩を竦める。

だが俺にはさっぱり、呆れられる理由が分からない。

そんな俺の気持ちはやっぱり顔に出ていたのだろうか。

溜め息交じりに、明奈が言った。


「4月1日なら、もし告白してお兄ちゃんに断られたとしても、エイプリルフールのせいにして冗談にできるでしょ。告白を断るのって、ものすごく気まずいから、お兄ちゃんにそんな思いをさせたくないっていう、沙也加さんの優しさだよ、きっと」


沙也加は、どちらかというとサバサバした性格で、姉御肌。

俺みたいな、自分で言うのも悔しいが、ちょっと・・・・どころかかなり抜けてる奴なんて眼中に無いだろうと思っていた。

ただ、世話好きが高じて、俺の面倒を見てくれているだけなんだと。

だから、告白された時には、正直驚いたもんだ。

でも、俺は沙也加が好きだったから、すぐに告白を受け入れたんだ。なんなら食い気味に。

沙也加の気持ちが変わらない内にと思って。

なのに。

沙也加の奴、そんなことにまで気を使って告白していたなんて・・・・


「なーんちゃって」


隣を見れば、明奈が小さく舌など出している。

我が妹ながら、なかなかに可愛い。

などと言っている場合ではなく。


「えっ?」


訳が分からずボケッとする俺をその場に残し、明奈は自室へと向かう。


「ちょっ、明奈?明奈ちゃんっ?!なんだ今のはっ?!」

「さぁ?なんでしょう?」


再びチロリと小さく舌を出して笑うと、明奈はそのまま部屋へ入ってしまった。


え?

もしかして、明奈の話もウソなのか?

いや、どこが?

どこからどこまでがウソなんだ?!


俺も自分の部屋に戻り、出掛ける仕度を始める。

10時20分の回の映画なら、それほど時間に余裕がある訳ではないし。


でも確かに・・・・と思った。

断るかもしれない相手への配慮。

沙也加なら、そこまで考えていてもおかしくはない。

なんせ、俺みたいな、自分で言うのも悔しいが、ちょっと・・・・ほんのちょっとだけ残念な奴と、付き合ってくれているのだから。


エイプリルフールという奴は、使いようによっちゃ、ものすごく便利なものなのかもしれない。


今更ながらにそう気づいて、俺は思った。


沙也加へのプロポーズは、4月1日にすることにしよう。

なんなら、入籍も結婚式も、4月1日がいいな。

仮に。

仮にだ。

万が一。

もし、なにかがあったとしても。


全てはエイプリルフールのせいにすればいいのだから。


【終】

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エイプリルフール・カムフラージュ 平 遊 @taira_yuu

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